【課題】テーパー形状を有するポアを表面に有するナノ構造体作製用ドラム状型体のたわみの抑制等の経時保存安定性、該型体からナノ構造体を製造するときの安定した連続生産性を実現し、点欠陥、膜厚ムラ等を改良する方法を提供する。
【解決手段】表面に存在するテーパー形状を有する型体1であって、アルミニウム素管体22の表面に対して、陽極酸化皮膜形成と陽極酸化皮膜のエッチングを繰り返し行なって、特定のテーパー形状を有するポアが形成された型体1であって、該アルミニウム素管体22は、最も外側に厚さ1mm以上のアルミニウム材料パイプA22aが存在し、内側に金属材料パイプB22bが存在する2層構造を有しており、パイプAを構成するアルミニウム材料aの純度が99.1質量%以上であり、金属材料bのビッカース硬さ(Hv)の方が、アルミニウム材料aのそれより大きいものであるナノ構造体作製用ドラム状型体1。
上記アルミニウム材料aが、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有するものである請求項1ないし請求項2の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体。
上記金属材料bが、上記アルミニウム材料パイプAを構成するアルミニウム材料aよりアルミニウム純度の低いアルミニウム材料bである請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体。
上記金属材料bが、ステンレス、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン及びチタン合金よりなる群から選ばれる金属材料である請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体を製造する製造方法であって、外側の上記アルミニウム材料パイプAの内側に、上記金属材料パイプBを挿嵌するクラッド加工をする工程を含むことを特徴とするナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体を製造する製造方法であって、外側の上記アルミニウム材料パイプAの内側に、上記金属材料パイプBを、焼きバメ及び冷やしバメから選ばれる少なくともひとつの工程を用いて嵌め込む工程を含むことを特徴とするナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体を製造する製造方法であって、上記アルミニウム材料パイプAを、上記アルミニウム材料aからなるアルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することによって作製する請求項7又は請求項8に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離することを特徴とするナノ構造体の製造方法。
請求項7ないし請求項9の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を用いてナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、得られたナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離することを特徴とするナノ構造体の製造方法。
請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載のナノ構造体作製用ドラム状型体にナノ構造体形成材料を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体から連続的に剥離してなるものであることを特徴とするナノ構造体。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0033】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体は、表面に存在するテーパー形状を有するポアに、ナノ構造体形成材料を埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料又は該ナノ構造体形成材料が硬化した材料を剥離することによって、ナノ構造体を連続的に作製するためのものであって、
アルミニウム素管体の表面を陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行うことによって、表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でテーパー形状を有するポアが形成されたものであって、
該アルミニウム素管体は、最も外側に厚さ1mm以上のアルミニウム材料パイプAが存在し、該アルミニウム材料パイプAの内側に金属材料パイプBが存在する少なくとも2層構造を有しており、該アルミニウム材料パイプAを構成するアルミニウム材料aのアルミニウム純度が99.1質量%以上であり、かつ、該金属材料パイプBを構成する金属材料bのビッカース硬さ(Hv)の方が、該アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)より大きいものであることを特徴とする。
【0034】
<ナノ構造体作製用ドラム状型体の態様>
本発明におけるナノ構造体作製用ドラム状型体の最表面は、アルミニウム素管体の表面に陽極酸化皮膜が形成されたものであり、該陽極酸化皮膜は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でポアを有している。
図2に、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(100000倍)を示した。
【0035】
ナノ構造体作製用ドラム状型体は、その最表面の形状を転写させて、ナノ構造体を作製するためのものであるので、本発明におけるナノ構造体作製用ドラム状型体の表面は、そこから得られるナノ構造体の表面と同様な上記形状を有している。
該型体は、ナノ構造体を製造する際の鋳型となるものであるから、その表面形状は、上記したナノ構造体の表面形状(凸部又は凹部の平均高さ又は平均深さと、その凸部又は凹部の、少なくともある一の方向に対しての平均周期)と一致する。型体の好ましい表面形態は、ナノ構造体の好ましい表面形態と同様である。
【0036】
本発明の型体の好ましい形態は、その表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でテーパー形状を有するポアが形成されたものである。
ポアは、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよいが、本発明のように、アルミニウム素管体の表面を処理して該表面にテーパー形状を有するポアを形成した型体では、通常は、ポアはランダムに形成(配置)される。
【0037】
また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
平均周期は、好ましくは、100nm〜250nmであり、特に好ましくは、150nm〜200nmである。
【0038】
ポアの深さについては、平均深さで、100nm以上1000nm以下が好ましい。平均深さが小さすぎると、可視光の反射防止性の向上等の良好な光学特性が発現されない場合があり、一方、大きすぎると、可視光の反射防止としてそれ以上の向上が見られなかったり、型体やナノ構造体の製造が困難になったりする場合がある。
平均深さは、好ましくは、150nm〜600nmであり、特に好ましくは、200nm〜500nmである。
【0039】
上記した「少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下でテーパー形状を有するポア」は、アルミニウム素管体の表面に対して、陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行うことによって形成されたものである。以下、このふたつの工程を総称して、「ポア形成工程」ということがある。
上記ふたつの工程を繰り返し行うことによって(ポア形成工程によって)、アルミニウム素管体の表面に、酸化アルミニウムよりなる「テーパー形状を有するポア」が形成されて、その最表面にテーパー形状を有するポアが形成されたナノ構造体作製用ドラム状型体となる。ポア形成工程の前に、後述する中間工程を有していてもよく、該中間工程を有していることが好ましい。
【0040】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体は、最も外側に厚さ1mm以上のアルミニウム材料パイプAが存在し、その内側に金属材料パイプBが存在する、少なくとも2層構造を有するアルミニウム素管体の表面に対して、上記ふたつの工程を繰り返し行うことによって、「テーパー形状を有するポア」が形成されたものである。
ここで、「アルミニウム素管体の表面」とは、パイプ状の円周側の表面をいう。パイプ状の円周側の全面に「テーパー形状を有するポア」が形成されていても、円周側の一部の面に「テーパー形状を有するポア」が形成されていてもよい。
【0041】
「2層構造を有する」とは、パイプAとパイプBからなる丁度2層構造をしていても、少なくともパイプAとパイプBとの2層構造を有していれば、アルミニウム素管体としては3層構造以上をしていてもよい。
具体的には、例えば、パイプBの更に内側に、3層目の層を有していてもよく、更にその内側に4層目以上の層を有していてもよく、パイプAとパイプBとの間に、別の1層以上の層を有していてもよい。ただし、パイプAの円周側の表面は、アルミニウム素管体の最表面であり、パイプAの円周側の表面の更に外側には別の層はない。
【0042】
上記構造は、アルミニウム素管体の最表面に対して、要すれば中間工程及び必須のポア形成工程を施して形成され、その結果、ナノ構造体作製用ドラム状型体となるものであるから、上記構造は、ナノ構造体作製用ドラム状型体に対してもいえることである。
【0043】
アルミニウム素管体の外径、又は、ナノ構造体作製用ドラム状型体の外径は、特に限定はないが、10mm以上500mm以下が好ましく30mm以上350mm以下がより好ましく、70mm以上250mm以下が特に好ましい。
上限が上記以下であることにより、型体に不必要にコストをかけることがなく、型体が重くなりすぎず、取り扱いが容易になり、たわみも更に少なくなる。また、下限が上記以上であることにより、高速度で連続的にナノ構造体を作製できる、型体の寿命が延びる等の効果がある。
【0044】
パイプAの厚さは、1mm以上であることが必須である。1mm以上であることによって、本発明からは、アルミニウム材料パイプAが蒸着又はメッキによって製造されたものは除かれる。パイプAの厚さは、1mm以上であることが必須であるが、2mm以上50mm以下であることが好ましく、3mm以上30mm以下であることが特に好ましい。上限が上記以下であると、軽くなるため、たわみ難く、コストもかからない。
下限が上記以上であると、リペア回数が多くできること、素管体自身の強度が上がる等の特長がある。なお、「リペア」とは、アルミニウム素管体に前記ポア作製工程を行って型体とし、ナノ構造体作製用の型体として使用した後、表面の凹凸を切削して平滑化し、再びポア作製工程を行って、型体を再生することをいう。
【0045】
パイプBの厚さは、1mm以上50mm以下であることが好ましく、2mm以上40mm以下であることがより好ましく、3mm以上30mm以下であることが特に好ましい。
上限が上記以下であると、それ以上厚くても「たわみ」がそれ以上抑制できないので無駄がなくコスト的に有利であり、型体自身の重さも軽くなる。下限が上記以上であると、型体の「たわみ」の発生が抑制できる等の効果を奏する。
【0046】
アルミニウム素管体の厚さは、3mm以上50mm以下であることが好ましく、4mm以上40mm以下であることがより好ましく、5mm以上30mm以下であることが特に好ましい。上限が上記以下であると、それ以上厚くても「たわみ」がそれ以上抑制できないので無駄がなくコスト的に有利であり、型体自身の重さも軽くなる。下限が上記以上であると、型体の「たわみ」の発生が抑制できる等の効果を奏する。
【0047】
前記アルミニウム材料パイプAを構成するアルミニウム材料aのアルミウム純度が99.1質量%以上であり、かつ、前記金属材料パイプBを構成する金属材料bのビッカース硬さ(Hv)の方が、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)より大きいものであることが必須である。
ビッカース硬さ(Hv)は、日本工業規格、JIS B7225,Z2244によって測定され、算出されたものとして定義される。単位は付けないが、「kgf/mm
2」であるように算出する。
【0048】
アルミニウム材料aのアルミウム純度が99.1質量%以上であり、かつ、金属材料bのビッカース硬さ(Hv)の方が、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)より大きいと、型体やナノ構造体における「点欠陥」の発生を抑制することと、型体の「たわみ」の発生を回避することとの両立が可能となる。
「点欠陥」の発生抑制は、最表面であるアルミニウム材料パイプAを構成するアルミニウム材料aに依存し、「たわみ」の抑制は、金属材料パイプBを構成する金属材料Bに依存する。
【0049】
「点欠陥」とは、「ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面又はナノ構造体の表面に存在する目視できる点状等の欠陥」をいう。
図4に、ナノ構造体作製用ドラム状型体の表面の代表的「欠陥」の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示し、
図5に、ナノ構造体の表面の代表的「欠陥」の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。
「欠陥」の大きさは、目視できれば限定はないが、平均の差渡し長さとして約30μm〜約1000μmである。また、形状は、点状に限らず、
図4及び
図5に示したように種々ある。
【0050】
型体の表面に発生する「点欠陥」は、成形後のパイプAの側面の表面には現れない場合がある。
しかしながら、該アルミニウム素管体の円周側の表面に対し、すなわち、パイプAの円周側の表面に対し、陽極酸化処理とエッチング処理とを繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成するポア形成工程を行なった後の型体の表面では目視できるようになる。
このため、「点欠陥」の存在には気付き難く、最終的な型体の表面又はナノ構造体の表面で初めて目視できる(存在に気付く)。従って、「点欠陥」の原因が、ポア形成工程より前のパイプAの表面にあることは極めて推定し難い。
【0051】
<<アルミニウム材料パイプAの材質>>
具体的には、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)は、10〜35が好ましく、12〜30がより好ましく、15〜25が特に好ましい。
ビッカース硬さ(Hv)の上限が上記以下であると、アルミニウム材料aのアルミニウム純度が高い場合であっても作製することができ、また、不必要にアルミニウム材料のアルミニウム純度を上げることが避けられコスト的に有利である。一方、ビッカース硬さ(Hv)の下限が上記以上であると、アルミニウムパイプを容易に作ることができたり、ドラム状型体の強度を高め、圧力や自重で変形し難くすることができたり、傷つき難くなる。
一般に、アルミニウム材料では、アルミニウムの純度が高くなると、ビッカース硬さ(Hv)が小さくなり、押し出しや引き抜きの加工応力の作用によって大きくなる傾向がある。
【0052】
アルミニウム材料aは、主成分がアルミニウム(Al)であるものをいい、いわゆる純アルミニウム(例えば、1000系)、アルミニウム合金の何れでもよい。ここで、「主成分」とは80質量%以上で含有されている金属成分をいう。
純アルミニウム(1000系)以外のアルミニウム材料、すなわちアルミニウム合金であっても「点欠陥」を生じさせない場合は、アルミニウム合金も用いられ得る。特に、後述するように、鉄、ケイ素及び銅以外の金属は、含有量が多くても比較的「点欠陥」の原因にはなり難いので、そのようなアルミニウム合金は好適に用いられ得る。
【0053】
「純アルミニウム」とは、純度99.0質量%以上のアルミニウムをいい、本発明で使用可能な「純アルミニウム」としては、アルミニウム純度99.1質量%以上であり、好ましくは純度99.5質量%以上、より好ましくは純度99.85質量%以上、特に好ましくは純度99.95質量%以上、更に好ましくは純度99.97質量%以上、最も好ましくは純度99.99質量%以上である。純度が低いと、不純物金属の種類にもよるが、「点欠陥」が生じる原因になる場合がある。
【0054】
「アルミニウム合金」は特に限定はないが、例えば、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mn系合金(3000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)等が挙げられる。アルミニウム合金は、「点欠陥」が生じない範囲で用いられる。特に、マグネシウム(Mg)が多いものは、「点欠陥」が生じ易い場合がある。
これらの中でも、「点欠陥」が生じ難い点から、前述した、アルミニウム純度99.1質量%以上の「純アルミニウム」が好ましい。
【0055】
本発明において、アルミニウム材料aの鉄(Fe)の含有量は、100質量ppm以下であることが好ましい。
従って、中間工程において取り付けられた印刷機用の軸等の付帯物を除いた本体の型体部分も、鉄成分を100質量ppm以下で含有するものであることが好ましい。
ここで、「質量ppm」とは、単位を質量として算出した「ppm」をいう。以下、「質量ppm」を単に「ppm」と略記する場合がある。
【0056】
アルミニウム材料a、「印刷機用の軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体の最外層」の部分の何れにおいても、鉄(Fe)は、100質量ppm以下であることが好ましく、60ppm以下がより好ましく、25ppm以下が特に好ましく、10ppm以下が更に好ましく、5ppm以下が最も好ましい。
また、下限は特に限定はないが、必要以上に鉄の含有量が低いアルミニウム材料パイプAを作ろうとすると、製造コストが上昇するので、0.1ppm以上が好ましく、0.5ppm以上がより好ましく、1ppm以上が特に好ましい。
【0057】
アルミニウム材料a、「軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体の最外層」の何れにおいても、鉄(Fe)の含有量が上記範囲内であると、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)を前記した範囲にし易く、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)を、金属材料bのビッカース硬さ(Hv)より小さくし易い。
また、鉄(Fe)の含有量が上記範囲内であると、ナノ構造体作製用ドラム状型体に「点欠陥」がなくなる、又は、極めて少なくなる。従って、その型体から得られたナノ構造体にも、「点欠陥」がなくなる、又は、極めて少なくなる。
微小な点欠陥はヘイズを上昇させる要因となるため、鉄(Fe)の含有量が上記範囲内であると、型体の微小な点欠陥を抑制することができ、該型体から得られたナノ構造体のヘイズは小さくなり、可視光における透明性が良好となる。
鉄の含有量は、製造コスト等を考慮しなければ、低ければ低い程、型体やナノ構造体の「欠陥」は少なくなり、ナノ構造体のヘイズ(透明性)は良好となる。
【0058】
なお、鉄(Fe)の含有量の増大が、「点欠陥」やヘイズに及ぼす影響は、ナノ構造体作製用ドラム状型体であっても、該ドラム状型体に代えて平面型体で評価しても、傾向はほぼ同一である。従って、型体やナノ構造体の「点欠陥」やナノ構造体のヘイズについては、ドラム状型体に代えて平面型体で評価することも可能である。
【0059】
アルミニウム材料a中の鉄(Fe)以外の元素については、鉄(Fe)、ケイ素(Si)及び銅(Cu)の合計の含有量が300質量ppm以下であることが、型体やナノ構造体の「点欠陥」をなくす又は少なくするためや、ナノ構造体のヘイズを下げるために好ましい。
すなわち、上記アルミニウム材料a、及び/又は、上記「印刷機に取り付け用の軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体の最外層」に含有する異種金属成分(アルミニウム以外の成分)が、鉄(Fe)、ケイ素(Si)及び銅(Cu)の合計で300質量ppm以下含有するようなナノ構造体作製用ドラム状型体が好ましい。
【0060】
鉄、ケイ素及び銅の合計は、より好ましくは200質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下、更に好ましくは70質量ppm以下、最も好ましくは40質量ppm以下である。
鉄、ケイ素及び銅の合計を上記した範囲に含むときに、型体やナノ構造体の「点欠陥」が極めて少なくなり、またナノ構造体のヘイズをより下げるので特に好ましい。
【0061】
アルミニウム材料a、「軸等の付帯物を除いたナノ構造体作製用ドラム状型体の最外層」の何れにおいても、チタン(Ti)、マグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)等の「鉄、ケイ素及び銅以外の元素」についても、含有量が多すぎると「点欠陥」が発生する場合がある。
【0062】
「鉄、ケイ素及び銅以外の元素」の含有量は、型体やナノ構造体の「点欠陥」や、ナノ構造体のヘイズに対して、「鉄」の含有量や「鉄、ケイ素及び銅の合計」の含有量に比べれば影響は大きくない。しかしながら、何れの金属も、多く含有するとアルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)が増し、アルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)を、金属材料bのビッカース硬さ(Hv)より小さくし難くなる。
【0063】
具体的には、マグネシウム(Mg)は、5000ppm以下が好ましく、3000ppm以下がより好ましく、1000ppm以下が特に好ましい。また、チタン(Ti)については、500ppm以下が好ましく、300ppm以下がより好ましく、100ppm以下が特に好ましい。
【0064】
<<金属材料パイプBの材質>>
一方、金属材料パイプBを構成する金属材料bのビッカース硬さ(Hv)は、具体的には、30〜500が好ましく、40〜260がより好ましく、40〜150が特に好ましく、50〜100が更に好ましい。
ビッカース硬さ(Hv)の下限が上記以上であると、「たわみ」(型体の両末端を支持して保管した際の、長さ方向の略中央部が自重で下がる現象)が起き難く、型体を経時保管しても、その表面を転写して、問題なくナノ構造体を連続的に作製することができる、また、印刷時の印圧や、印刷基材の不慮の挟み込みによってドラム状型体が変形するようなトラブルを防ぎ易くなったり、型体の寿命を長くしたりするという優れた効果も奏する。
一方、ビッカース硬さ(Hv)の上限が上記以下であると、不必要に「たわみ」を過剰抑制することがなく、金属材料bとして用いられる材料の種類幅が広がり、コスト的に有利となる。
【0065】
アルミニウム素管体がアルミニウム材料a1で構成されるアルミニウム材料パイプA1と、金属材料b1で構成される金属材料パイプB1の2層からなる時のアルミニウム材料a1のビッカース硬さ(Hv)と金属材料b1のビッカース硬さ(Hv)との差は、1以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上が特に好ましく、20以上が更に好ましく、30以上が最も好ましい。上記ビッカース硬さ(Hv)の差は、470以下が好ましく、230以下がより好ましく、150以下が特に好ましく、120以下が更に好ましく、100以下が最も好ましい。
上記ビッカース硬さ(Hv)の差が上記下限値以上であれば、「たわみ」を抑制する効果があり、上記上限値以下であればアルミニウム素管体を作製することが容易となる。
【0066】
金属材料パイプBを構成する金属材料bとしては、そのビッカース硬さ(Hv)が、アルミニウム材料パイプAを構成するアルミニウム材料aのビッカース硬さ(Hv)より大きいものであれば、特に限定なく用いられるが、アルミニウム合金;ステンレス、鉄、銅、ニッケル、チタン、真鍮、マグネシウム等の金属;それら金属の合金;等が、ビッカース硬さ(Hv)を好適範囲に収め易い、型体に「たわみ」を生じさせ難い、コスト的に有利である、パイプBをパイプAに挿嵌させる加工、すなわちパイプAをパイプBに外嵌させる加工が容易である、焼きバメ及び冷やしバメから選択される少なくともひとつの工程を行い易い等から好ましい。
【0067】
金属材料bとしては、中でも、アルミニウム材料b、ステンレス、鉄、鉄合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、チタン及びチタン合金よりなる群から選ばれる金属材料が、上記効果を奏する点で、また、入手のし易さの点から特に好ましい。
ここで、金属材料bとして使用する「アルミニウム材料b」は、アルミニウム材料aよりもビッカース硬さ(Hv)が大きければよく、アルミニウム材料aよりアルミニウム純度の低いアルミニウム材料、アルミニウム合金が好ましく用いられる。アルミニウム合金としてはAl−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)が好ましい。硬度が高く、入手し易いからである。
そのため、金属材料bとしては、アルミニウム材料bが最も好ましい。
【0068】
上記アルミニウム材料bのビッカース硬さ(Hv)は30以上であることが好ましいが、より好ましくは40以上200以下であり、特に好ましくは50以上180以下である。ビッカース硬さ(Hv)の下限が上記以上であると、型体を経時保管しても、「たわみ」が生じ難く、印刷時に型体の変形が発生し難いので、安定に連続印刷ができたり、「たわみ」が原因のナノ構造体の膜厚ムラが発生し難く、好適にナノ構造体を作製することができる。
一方、ビッカース硬さ(Hv)の上限が上記以下であると、アルミニウム材料bとして用いられる材料の種類幅が広がり、コスト的に有利となる。
【0069】
アルミニウム材料bとしては、前記物性や純度の要件(アルミニウム材料bとの相対的な物性の関係)を満たせば特に限定はなく、JISの呼称で、1000系、2000系、3000系、4000系、5000系、6000系、7000系等が用いられるが、例えば、Al−Cu−Mg系合金(2000系)、Al−Mg系合金(5000系)、Al−Mg−Si系合金(6000系)等が好ましいものとして挙げられる。また、重複はあるが、ジュラルミン(銅、マグネシウム、マンガンとの合金)、超ジュラルミン(銅、マグネシウムとの合金)、超々ジュラルミン(亜鉛、マグネシウム、銅との合金)等も挙げられる。
【0070】
アルミニウム材料bのアルミニウム以外の金属等の含有量は、ビッカース硬さ(Hv)を高くすることができる点、コストの点等から、1質量%以上20質量%以下が好ましく、3質量%以上15質量%以下が特に好ましい。
【0071】
<ナノ構造体作製用ドラム状型体の製造>
図3に、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体1の製造方法の好ましい一例の概略を示す。限定はされないが、好ましい型体の製造方法は以下の通りである。
外側の上記アルミニウム材料パイプA22aの内側に、上記金属材料パイプB22bを挿嵌する(若しくは、内側の上記金属材料パイプB22bの外側に、上記アルミニウム材料パイプA22aを外嵌する)、若しくは、焼きバメ及び冷やしバメから選択される少なくともひとつの工程を用いて、アルミニウム材料パイプAと金属材料パイプBが隙間なく密着するように嵌めることによって作製する。
【0072】
こうして得られたアルミニウム素管体22は、必要に応じて中間工程を経て、ポア形成工程で、陽極酸化皮膜形成工程とエッチング工程を繰り返し行なわれることによって、アルミニウム素管体22の表面(アルミニウム材料パイプA22aの円周側の表面)に、所定のナノ構造を有するポアを形成され、ナノ構造体作製用ドラム状型体1が製造される。
【0073】
<<金属材料パイプBの作製>>
金属材料パイプBの作製方法は特に限定はないが、成形で作製することが好ましい。成形方法は、限定はされないが、金型成形、圧延成形、押出成形、引抜成形等の公知の方法が用いられる。
【0074】
<<アルミニウム材料パイプAの作製>>
アルミニウム材料パイプAの作製方法は特に限定はないが、成形で作製することが好ましい。
成形で作製する場合は、成形方法は、限定はされないが、金型成形、圧延成形、押出成形、引抜成形等の公知の方法が用いられる。中でも、押出成形、引抜成形等がより好ましく、押出成形ではマンドレル押出成形が特に好ましい。
【0075】
<<<アルミニウム材料パイプAの押出成形>>>
アルミニウム材料体21を用いて、アルミニウム材料パイプA22aを作製する。
「アルミニウム材料体21」は、アルミニウム材料でできており、これを用いて、押出成形をして、アルミニウム材料パイプA22aを作製する。
その際、特に好ましくはマンドレル押出成形をして、アルミニウム材料パイプA22aを作製する。
アルミニウム材料体21の形状は、押出成形できるような形状であれば特に限定はなく、一般には、押出成形に使用される装置からの要請で決められる。
【0076】
[マンドレル押出成形]
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体1の製造方法においては、アルミニウム材料パイプA22aを、アルミニウム材料体を用いてマンドレル押出成形することによって作製することが特に好ましい。
押出成形には、熱間押出、温間押出及び冷間押出があるが、押出圧力が低くても押出可能である点、寸法精度が出し易い点、偏肉が発生し難い点、反り難い点、温間押出及び冷間押出では押出時の発熱を冷却しなくてはならないが、冷却が不要である点、等から熱間押出がより好ましい。
【0077】
本願発明において、「マンドレル押出成形」とは、アルミニウム材料体にマンドレルを貫通させてセットし、これを押付けて成形する方法であり、マンドレルとダイスの空隙部の形状で管状に成形する成形方法をいう。
【0078】
マンドレル押出成形以外の成形方法、例えば、汎用されているポートホール押出成形であると、たとえ、パイプAを構成するアルミニウム材料aのアルミニウム純度が高い場合であっても、型体やナノ構造体に「点欠陥」が生じる場合がある。
更には、アルミニウム純度99.1質量%以上のアルミニウム材料aであっても、鉄を100ppm以下で含有するアルミニウム材料aであっても、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有するアルミニウム材料aであっても、型体に「点欠陥」が生じる場合がある。また、型体に「欠陥」が生じれば、ナノ構造体にも「点欠陥」が生じたり、ヘイズが上昇したりする場合がある。
【0079】
押出成形には、マンドレル押出成形、ポートホール押出成形等がある。
図6に、押出成形のダイス形状の概略横断面図を示す。
図6(a)はマンドレル押出成形のダイス形状であり、
図6(b)はポートホール押出成形のダイス形状である。
マンドレル押出成形では、ダイスの断面形状が
図6(a)のようになっているため、材料の融着部分がない。
一方、ポートホール押出成形では、ダイスの断面形状が
図6(b)のようになっているため、材料は押出時には板状になって分かれて出て来て、その後、押出加工熱によって融着されてドラム状になるため融着部分ができる。例えば、
図6(b)では6箇所の融着部分がある。
【0080】
ポートホール押出成形は、押出圧力が低くても押出可能である、製造コストがかからない、寸法精度が出せる等の点から、マンドレル押出成形より汎用的に用いられている。特に、柔らかい金属の場合、上記の点で優れる分だけ有利なポートホール押出成形が通常は使用される。
中でも、純度が高いアルミニウム材料は特に柔らかいので、通常はポートホール押出成形が用いられる。更に、鉄(Fe)を100質量ppm以下で含有するアルミニウム、及び、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有するアルミニウムは、何れも極めて柔らかいので、通常は当然にポートホール押出成形が用いられる。
【0081】
一方、柔らかいと、反り、偏肉等が出易く、寸法精度が出し難いので、また、特に偏肉は引き抜いても矯正し難いということもあり、柔らかい材料をマンドレル押出成形することは通常は考えられない。従って、極めて柔らかいアルミニウム材料体等を用いてわざわざマンドレル押出成形することは通常は考えられないが、本発明においては、マンドレル押出成形が「点欠陥」の発生を抑制するために好ましい。
【0082】
マンドレル押出成形以外の成形方法(例えば、ポートホール押出成形)であると、たとえ、鉄を100ppm以下で含有する場合であっても、更には、鉄を100ppm以下で含有し、かつ、鉄、ケイ素及び銅の合計を300質量ppm以下で含有する場合であっても、型体に「欠陥」が生じる場合がある。また、型体に「欠陥」が生じれば、ナノ構造体にも「欠陥」が生じたり、ヘイズが上昇したりする場合がある。例えば、ポートホール押出成形では前述のように分留部分があり、この部分で不純物を起因とする酸化物が作られる。ここで発生した酸化物は、陽極酸化とエッチングの繰り返しによって微細構造を作製する際に、目視できる点欠陥となり、これを型体としたナノ構造体にも目視できる点欠陥が発生し、ヘイズが高くなる場合がある。
【0083】
本発明において、マンドレル押出成形は熱間押出がより好ましいが、押出成形時の材料の温度は、具体的には、例えば、250〜700℃が好ましく、300〜600℃がより好ましく、350〜500℃が特に好ましい。
直接押出でも間接押出でもよく、液圧押出でも機械押出でもよい。また、押出圧力も適宜選択される。
【0084】
<2層化工程>
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体1の製造に用いられるアルミニウム素管体22の製造方法は、特定せず何れの方法でも製造することができるが、金属材料パイプB22bの外側に厚さ1mm以上のアルミニウム材料パイプA22aを外嵌させる、若しくは、焼きバメ、冷やしバメから選択される少なくともひとつの工程を用いて、アルミニウム材料パイプAと金属材料パイプBが隙間なく密着するようにする。
【0085】
<<パイプBのパイプAへの挿嵌、パイプAのパイプBへの外嵌>>
パイプAを成形で作製した場合、パイプBをパイプAに挿嵌する(パイプAをパイプBに外嵌する)こと、若しくは、焼きバメ、冷やしバメから選択される少なくともひとつの工程を用いて、アルミニウム材料パイプAと金属材料パイプBが隙間なく密着するようにすることによって、2層構造を形成させて、アルミニウム素管体22を作製する。
【0086】
挿嵌(外嵌)方法は特に限定はなく、例えば、パイプAとパイプBを共に等しい温度(好ましくは常温)で、要すれば圧力を加えて挿嵌(外嵌)する方法;パイプAを加熱して熱膨張させておいて、そこにパイプBを、要すれば圧力を加えて挿嵌し、その後に冷却する方法;パイプAにパイプBを挿嵌(外嵌)した後に、引き抜き加工を行う方法;等が挙げられる。上記方法は重複している場合も含む。
【0087】
中でも、金属材料パイプB22bを挿嵌するクラッド加工する方法が、強い圧力で挿入される場合が多く、その場合には、パイプAとパイプBの機械的な密着性が強く、極めて外れることがなく、圧力に対して変形し難い、温度変化に強い(外れ難い)、膨張係数に関係なく金属を選定できる等の点から特に好ましい。
上記クラッド加工は、パイプBをパイプAに圧入、又は、同時引抜加工を行なうことにより加工することが特に好ましい。
【0088】
焼きバメ、冷やしバメから選択される少なくともひとつの工程を用いる方法は、パイプAを加熱して膨張させ、及び/又はパイプBを冷却して、パイプAの外周とパイプBの内周に隙間をわずかに設けて、パイプAにパイプBを挿入してから、常温に戻しパイプAとパイプBを隙間なく密着するようにする方法を用いることができる。
焼きバメ、冷やしバメによって嵌め込む方法は製造工程が簡易で、コストが安く、大掛かりな装置が不要な点で好ましい。
【0089】
<中間工程>
図3の工程図における「中間工程」は、上記「2層化工程」と、後述する「ポア形成工程」の間に行なう工程をいい、本発明においては特に限定はないが、作業性向上のための治具の設置、アルミニウム素管体22の表面の洗浄若しくは研摩、ナノ構造体形成材料11への連続転写のための装置に適合した軸24等の設置等が挙げられる。
具体的には特に限定はないが、例えば、治具設置、脱脂、洗浄、研摩、加熱・冷却、口打ち、引抜、整形、切断、軸付け等が挙げられる。これらは、不要ならば行なわなくてもよく、複数箇所(複数回)で行なってもよく、また、順番は上記に限定されない。
図3においては、「中間工程」後には、ナノ構造体形成材料11への連続転写のための装置に適合させるための軸24等が取り付けられている。
【0090】
<<精密研摩>>
中間工程の最終段階、すなわち、後述するポア形成工程の前段階では、ナノ構造体15のヘイズを向上させるため、「通常の研摩よりレベルの高い研摩」(以下、単に「精密研摩」と略記する)を行なうことが好ましい。
精密研摩を行った後のRaは、好ましくは0.1μm以下、より好ましくは0.03μm以下、特に好ましくは0.02μm以下である。また、Ryは、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下、特に好ましくは0.35μm以下である。ここで、Ra及びRyは、JIS B0601(1994)により求めた値であり、Raは「算術平均粗さ」であり、Ryは「最大高さ」である。
【0091】
前記アルミニウム素管体の表面は、陽極酸化皮膜の形成を行う前に精密研摩をすることが好ましい。前記アルミニウム素管体の表面を精密研摩する方法としては、機械研摩、化学研摩、電解研摩の何れか1つでもよく、又はこれらを任意に組み合わせてもよい。
例えば、電解研摩単独、機械研摩単独、電解研摩と化学研摩の組合せ、機械研摩と化学研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩の組合せ、電解研摩と機械研摩と化学研摩の組合せが好ましく、その中でも、電解研摩単独又は電解研摩を含んだ組合せがより好ましい。
その中でも、処理の容易な点で、機械研摩をした後に電解研摩する方法が特に好ましい。更にその中でも、ナノ構造体のヘイズを向上する点で、該機械研摩としてダイヤモンドバイトを用いた機械研摩をした後に電解研摩するのが好ましく、電解研摩後に、洗浄、酸化皮膜除去、脱脂工程を適宜行ってもよい。
アルミニウム素管体の表面を研摩することによって表面が均一になり、それをポア形成工程で加工して得られた型体1は、ヘイズが小さくて光の透過性能が著しく向上したナノ構造体15を作製できる。
【0092】
<ポア形成工程>
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法は、アルミニウム素管体22の表面に、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で、テーパー形状を有するポアを形成するように、該アルミニウム素管体22の表面を陽極酸化処理する陽極酸化皮膜形成工程と該陽極酸化皮膜をエッチング処理するエッチング工程のふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する工程を有する。
【0093】
[陽極酸化皮膜形成工程]
本発明における陽極酸化皮膜とは、酸溶液中で、アルミニウム材料を陽極として電流を流し、水が電気分解して発生する酸素とアルミニウムとが反応して形成される、表面にポアを有する酸化アルミニウムの皮膜である。
【0094】
[[ポア]]
本発明における陽極酸化皮膜は、その表面にポアを有している。本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法では、該ポアを、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在させるようにする。このようなポアを形成させるためには、後述するように、陽極酸化皮膜形成工程及びエッチング工程の条件を制御する。
【0095】
上記ポアの平均周期は、少なくとも、ある一の方向に対し50nm以上であるが、100nm以上が好ましい。また、400nm以下であるが、250nm以下が好ましい。
また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。平均周期は短すぎても長すぎても、それを鋳型として作製されるナノ構造体において反射防止効果が充分に得られない場合がある。
【0096】
[[テーパー形状を有するテーパー形状層、細孔形状部を有する細孔形状層]]
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法においては、上記ポアは、テーパー形状部のみを形成していてもよいが、特許文献8に記載のように、テーパー形状部とその下部にある細孔形状部を形成していてもよい。
【0097】
該テーパー形状部は、陽極酸化皮膜の表面では広く開口しており、深部に入るに従って徐々に細くなっていくテーパー形状となっており、該細孔形状部は、実質的に等しい径の細孔形状となっており、該テーパー形状部を有するテーパー形状層の下側に連続して細孔形状部を有する細孔形状層を形成する。
【0098】
上記ポアがテーパー形状部のみを形成している場合(細孔形状層を有さないナノ構造体作製用ドラム状型体の場合)、テーパー形状層の層厚は、100nm以上であることが好ましく、150nm以上であることがより好ましく、250nm以上であることが特に好ましい。また、1000nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。
テーパー形状層の層厚が薄すぎると、それを鋳型に形成されるナノ構造体15の反射率低減の効果が得られない場合があり、一方、厚すぎると、テーパー形状部の形状が作り難かったり、陽極酸化やエッチングの工程時間が長くなりすぎ、無駄になったりする以外に、型体としての耐久性が劣ったり、それを鋳型に形成されるナノ構造体15の機械的特性が劣ったりする場合がある。
【0099】
細孔形状層を有する型体1の場合は、アルミニウム素管体の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、テーパー形状部を有する陽極酸価皮膜を形成し、更に、陽極酸化を行って、該テーパー形状層の下部に、陽極酸化皮膜を形成させて細孔形状層を形成させる。
【0100】
このようなポアを有する型体1では、連続的又は断続的に繰り返しナノ構造体15を作製しても、該型体1に大きい又は細かい傷が付き難い、型体1が摩滅し難い、ナノ構造が破壊されない等、該型体1の機械的な強度、耐久性等が向上する。
【0101】
このような細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体1においては、テーパー形状層の層厚及び好ましい範囲は、上記した上記ポアがテーパー形状部のみを形成している場合(細孔形状層を有さないナノ構造体作製用ドラム状型体の場合)と同様である。
【0102】
上記細孔形状層の層厚は該テーパー形状層の層厚以上であることが好ましく、具体的には、600nm以上であることが好ましく、2000nm以上であることがより好ましく、4000nm以上であることが特に好ましい。一方、上限は50000nm以下であることが好ましく、10000nm以下であることがより好ましく、8000nm以下であることが特に好ましい。
細孔形状層の層厚が厚すぎると、クレーター状の欠陥が多く発生したり、表面が荒れてきて、該型体1で作製したナノ構造体15のヘイズが大きくなったりする場合がある。また、厚すぎると陽極酸化時間が長くなり、型体のコストが高くなる場合がある。
【0103】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体は、前記アルミニウム素管体の表面に、陽極酸化皮膜の形成と該陽極酸化皮膜のエッチングのふたつの工程を繰り返し行って、該表面にテーパー形状を有するポアを形成する。すなわち、該表面に、テーパー形状部を有するテーパー形状層を形成する。そして、要すれば、更に、陽極酸化処理を行って、該テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の下部に、細孔形状部を有する陽極酸化皮膜の形成を行なって細孔形状層を形成してもよい。
【0104】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法においては、上記工程を少なくとも有していればよく、途中若しくは後に、エッチング処理や陽極酸化処理を行ってもよく、そのような製造方法も本発明に含まれる。
【0105】
[[[陽極酸化皮膜形成工程]]]
本発明における陽極酸化の電解液としては、酸溶液であれば特に制限はなく、例えば、硫酸系、シュウ酸系、リン酸系又はクロム酸系等の何れでもよいが、所望のテーパー形状部4の寸法や形状が得られる点でシュウ酸系の電解液が好ましい。
【0106】
陽極酸化の条件は、前記の形状の型体1ができる条件であれば特に限定はないが、電解液としてシュウ酸を用いる場合の条件は以下の通りである。
すなわち、濃度は0.01〜0.5Mが好ましく、0.02〜0.3Mがより好ましく、0.03〜0.1Mが特に好ましい。印加電圧は20〜120Vが好ましく、40〜110Vがより好ましく、60〜105Vが特に好ましく、70〜100Vが更に好ましい。
液温は、0〜50℃が好ましく、1〜30℃がより好ましく、2〜10℃が特に好ましい。
1回の処理時間は、5〜500秒が好ましく、10〜250秒がより好ましく、15〜200秒が特に好ましく、20〜100秒が更に好ましい。
【0107】
かかる範囲の条件で陽極酸化を行えば、下記のエッチング条件と組み合わせて、前記ナノ構造体作製用ドラム状型体1の表面に、陽極酸化皮膜によるテーパー形状層が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0108】
電圧が大きすぎる場合には、形成されるテーパー形状部の平均間隔が大きすぎるようになり、この型体1によって得られたナノ構造体15の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が大きくなりすぎる場合がある。
一方、電圧が小さすぎる場合には、形成されるテーパー形状部の平均間隔が小さすぎるようになり、この型体1によって得られたナノ構造体15の表面に形成された凸部又は凹部の平均周期が小さくなりすぎる場合がある。
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体1は、その表面に存在するポアが、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在することが必須であるので、電圧はこの範囲に入るように調整される。
【0109】
すなわち、上記テーパー形状を有するテーパー形状層の陽極酸化皮膜を、シュウ酸濃度0.01M以上0.5M以下の浴液を用い、印加電圧20V以上120V以下、かつ液温0℃以上50℃以下で形成する工程を少なくとも含む上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法が特に好ましい。
【0110】
[[[エッチング工程]]]
エッチングは主にポアのテーパー形状部の孔径拡大と所望の形状を得るために行われる。上記の陽極酸化とエッチングとを組み合わせることで、アルミニウム素管体の表面の陽極酸化皮膜に形成されたポアの、孔径、高さ、深さ、テーパー形状等を調整することができる。
【0111】
エッチングの方法は通常知られている方法であれば特に制限なく用いることができる。例えば、エッチング液としては、リン酸、硝酸、酢酸、硫酸、クロム酸等の酸溶液、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましくは、リン酸又は硝酸であり、必要な溶解速度が得られる点、より均一な面が得られる点で、特に好ましくはリン酸である。
また、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ溶液又はこれらの混合溶液を用いることもできる。
【0112】
エッチング液の濃度や浸漬時間、温度等は、所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、リン酸の場合の条件は以下の通りである。
すなわち、エッチング溶液の濃度は、1〜20質量%が好ましく、1.2〜10質量%がより好ましく、1.5〜2.5質量%が特に好ましい。
液温は、30〜90℃が好ましく、35〜80℃がより好ましく、40〜70℃が特に好ましい。
1回の処理時間(浸漬時間)は10秒〜60分が好ましく、30秒〜40分がより好ましく、45秒〜20分が特に好ましく、1分〜10分が更に好ましい。
【0113】
かかる範囲の条件でエッチングを行えば、上記の陽極酸化条件との組み合わせで、前記のポアが形成できテーパー形状層が製造できる。なお、他の酸でも上記とほぼ同じ条件が好ましい。
【0114】
[[[陽極酸化皮膜形成工程とエッチング工程の組み合わせ]]]
上記陽極酸化処理とエッチング処理は繰り返し行なって、所望のテーパー形状層、すなわち、テーパー形状を有するポアを得る。各処理の間には水洗をすることも好ましい。陽極酸化処理とエッチング処理の回数は所望の形状が得られるように適宜調節すればよいが、組み合わせの回数として、5〜20回が好ましく、7〜18回がより好ましく、10〜14回が特に好ましい。最後は、陽極酸化処理で終わっても、エッチング処理で終わってもよい。
【0115】
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法において、陽極酸化皮膜のテーパー形状層を得る場合、特に好ましい組み合わせは、シュウ酸水溶液で陽極酸化をし、リン酸水溶液でエッチングをすることである。全体の好ましい条件は上記の各好ましい条件の組み合わせである。
【0116】
[[[細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体]]]
細孔形状層を有するナノ構造体作製用ドラム状型体の場合、細孔形状層を形成するための陽極酸化の電解液や形成条件は、テーパー形状部を有する陽極酸化皮膜の項で記載した陽極酸化の電解液(種類、濃度等)や形成条件(液温、印加電圧等)が使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0117】
<ナノ構造体>
本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体(型体)は、ナノ構造を利用したナノ構造体を作製するためのものである。
本発明におけるナノ構造体は、表面に光の反射防止機能を有する光反射防止体(光反射防止膜等)、光の透過率が向上した高光透過率体(高光透過率膜等)等を包含する。また、本発明におけるナノ構造体の表面の凹凸形態としては、前記特許文献の何れかの文献に記載のものも挙げられる。
【0118】
ナノ構造体15は、例えば、表面にモスアイ(蛾の眼)構造と呼ばれる構造を有しており、一般には空気等の気体に接する最表面からナノ構造体の内部に入っていくに従って、徐々にナノ構造体の部分が多くなり、そのため屈折率がナノ構造体の内部に入っていくに従って、徐々に大きくすることで反射を防止する。なお、一般に、屈折率が急激に(不連続に)変化する表面があると、正反射率が大きくなる。
【0119】
図1に、本発明におけるナノ構造体の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真(100000倍)を示した。
【0120】
ナノ構造体の好ましい形態は、その表面に平均高さ100nm以上1000nm以下の凸部又は平均深さ100nm以上1000nm以下の凹部を有し、その凸部又は凹部が、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で存在しているものである。平均高さ又は平均深さが、小さすぎると、良好な光学特性が発現されない場合があり、大きすぎると、製造が困難になる等の場合がある。
凸部と凹部が連結して波打った構造を有している場合では、最高部(凸部の上)と最深部(凹部の下)の平均長さは、100nm以上1000nm以下であることが同様の理由から特に好ましい。
【0121】
ナノ構造体は、その表面に、上記凸部又は凹部が、少なくともある一の方向の平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されている。凸部又は凹部は、ランダムに配置されていてもよいし、規則性を持って配置されていてもよいが、本発明のように、アルミニウム材料の表面を処理して該表面にテーパー形状を有するポアを形成した型体を用いて得られたナノ構造体では、通常は、該凸部又は凹部はランダムに配置される。
また、何れの場合でも、該凸部又は凹部は、ナノ構造体の表面全体に実質的に均一に配置されていることが反射防止性や透過改良性の点で好ましい。また、少なくとも、ある一の方向について、平均周期が、50nm以上400nm以下となるように配置されていればよく、全ての方向に、その平均周期が50nm以上400nm以下となっている必要はない。
【0122】
<<ナノ構造体の構成・作製>>
本発明におけるナノ構造体15は、連続的に、ナノ構造体作製用ドラム状型体1に、ナノ構造体形成材料11を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料11又は該ナノ構造体形成材料11が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体1から連続的に剥離して得られる。該ナノ構造体15は、ナノ構造体作製用ドラム状型体1を用いて連続的に製造することができる。
ナノ構造体形成材料11を埋め込んだ後に、そのまま;又は;要すれば、光照射、電子線照射及び/又は加熱によってナノ構造体形成材料11を硬化させた後に該型体1から剥離して得られる。
【0123】
通常、型体1がそのまま転写されるので、上記ナノ構造体15は、少なくともある一の方向に対し平均周期50nm以上400nm以下で凸部又は凹部が存在するという極めて微細な表面構造を有している。更に、一般に「モスアイ(蛾の眼)構造」と呼ばれる構造を有していることが、良好な反射防止性能を有している点で好ましい。
【0124】
上記ナノ構造体形成材料11としては、特に制限はなく、熱可塑性組成物、硬化性組成物の何れでも好適に使用し得る。上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、また、型となる陽極酸化皮膜からの剥離性等の点から硬化性組成物を用いることが好ましい。
【0125】
[熱可塑性組成物]
熱可塑性組成物としては、ガラス転移温度又は融点まで加熱することによって軟らかくなるものであれば特に制限はないが、例えば、アクリロニトリル−スチレン系重合体組成物、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン系重合体組成物、スチレン−(メタ)アクリレート系重合体組成物、ブダジエン−スチレン系重合体組成物等のスチレン系重合体組成物;塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−塩化ビニル系重合体組成物、エチレン−酢酸ビニル系重合体組成物、プロピレン系重合体組成物、プロピレン−塩化ビニル系重合体組成物、プロピレン−酢酸ビニル系重合体組成物、塩素化ポリエチレン系組成物、塩素化ポリプロピレン系組成物等のポリオレフィン系組成物;ケトン系重合体組成物;ポリアセタール系組成物;ポリエステル系組成物;ポリカーボネート系組成物;ポリ酢酸ビニル系組成物、ポリビニル系組成物、ポリブタジエン系組成物、ポリ(メタ)アクリレート系組成物等が挙げられる。
【0126】
[硬化性組成物]
硬化性組成物とは、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化する組成物である。中でも、光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物が、上記した点から好ましい。
【0127】
[[光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物]]
「光照射又は電子線照射により硬化する硬化性組成物」(以下、括弧内を単に「光硬化性組成物」と略記する)としては特に限定はなく、アクリル系重合性組成物又はメタクリル系重合性組成物(以下、「(メタ)アクリル系重合性組成物」と略記する)、光酸触媒で架橋し得る組成物等、何れも使用できるが、(メタ)アクリル系重合性組成物が、上記ナノ構造に適した機械的強度を与えるため、型体1からの剥離性、化合物群が豊富なため種々の物性のナノ構造体を調製できる等の点から好ましい。
【0128】
[[[熱硬化性組成物]]]
本発明における熱硬化性組成物とは、加熱すると重合を起こして高分子の網目構造を形成し、硬化して元に戻らなくなる組成物であれば特に制限はないが、例えば、フェノール系重合性組成物、キシレン系重合性組成物、エポキシ系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、グアナミン系重合性組成物、ジアリルフタレート系重合性組成物、尿素系重合性組成物(ユリア系重合性組成物)、不飽和ポリエステル系重合性組成物、アルキド系重合性組成物、ポリウレタン系重合性組成物、ポリイミド系重合性組成物、フラン系重合性組成物、ポリオキシベンゾイル系重合性組成物、マレイン酸系重合性組成物、メラミン系重合性組成物、(メタ)アクリル系重合性組成物等が挙げられる。フェノール系重合性組成物としては、例えば、レゾール型フェノール樹脂等である。エポキシ系重合性組成物としては、例えば、ビスフェノールA−エピクロロヒドリン樹脂、エポキシノボラック樹脂、脂環式エポキシ樹脂、臭素化エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、多官能性エポキシ等である。不飽和ポリエステル系重合性組成物としては、例えば、オルソフタル酸系、イソフタル酸系、アジピン酸系、ヘット酸系、ジアリルフタレート系等である。中でも、熱硬化性組成物としては、(メタ)アクリル系重合組成物が好ましい。
【0129】
また、上記ナノ構造体形成材料11には、更に、バインダーポリマー、微粒子、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、消泡剤、離型剤、潤滑剤、レベリング剤等を配合することもできる。これらは、従来公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0130】
<<ナノ構造体の製造方法>>
本発明の態様の一つである、「ナノ構造体の製造方法」は、上記のナノ構造体作製用ドラム状型体の製造方法を使用してナノ構造体作製用ドラム状型体1を製造し、得られたナノ構造体作製用ドラム状型体1にナノ構造体形成材料11を連続的に埋め込んだ後に、該ナノ構造体形成材料11又は該ナノ構造体形成材料11が硬化した材料を、該ナノ構造体作製用ドラム状型体1から連続的に剥離することを特徴とするものである。
【0131】
具体的には、以下に限定されるわけではないが、例えば、下記の製造方法が好ましい。
すなわち、上記ナノ構造体形成材料11を基材13上に採取、要すれば、バーコーター若しくはアプリケーター等の塗工機又はスペーサーを用いて、均一膜厚になるように塗布する。ここで、「基材」としては、ポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」と略記する)、トリアセチルセルロース(以下、「TAC」と略記する)、(メタ)アクリル系ポリマー(以下、「PAC」と略記する)等のフィルムが好適である。
【0132】
図7は、ナノ構造体作製用ドラム状型体1を用い連続的にナノ構造体15を製造する製造方法の一例を示す断面模式図であるが、本発明はこの模式図の示す範囲に限定されるものではない。
すなわち、ナノ構造体作製用ドラム状型体1にナノ構造体形成材料11を付着させ、ローラー14により力を加え、基材13をナノ構造体作製用ドラム状型体1に対して斜めの方向から貼り合せて、ナノ構造体作製用ドラム状型体1が有するテーパー形状部の構造をナノ構造体形成材料11に転写させる。これを、要すれば硬化装置16を用いて硬化させた後、ナノ構造体作製用ドラム状型体1から剥離することにより、ナノ構造体15を得る。支持ローラー17は、ナノ構造体15を上部に引き上げるように設置されている。
【0133】
貼り合わせる際、ローラー14を用いて、斜めから貼り合わせることによって、気泡が入らず欠陥のないナノ構造体15が得られる。また、ローラー14を用いれば線圧(ニップ圧)を加えることになるため圧力を大きくでき、そのため大面積のナノ構造体の製造が可能になり、また、圧力の調節も容易になる。また、基材13と一体となった均一な膜厚と、所定の光学物性を有するナノ構造体15の製造が可能になり、更に、連続的に製造できるため生産性に優れたものになる。
【0134】
ナノ構造体15は、熱可塑性樹脂で形成されていてもよいが、光照射、電子線照射及び/又は加熱によって硬化性樹脂が重合したものであることも好ましい。その場合、光照射の場合の光の波長については特に限定はない。可視光線及び/又は紫外線を含有する光であることが、要すれば光重合開始剤の存在下で良好に(メタ)アクリロイル基の炭素間二重結合を重合させる点で好ましい。特に好ましくは紫外線を含有する光である。光源は特に限定はなく、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、ハロゲンランプ、各種レーザー等公知のものが用いられ得る。電子線の照射の場合、電子線の強度や波長には特に限定はなく、公知の方法が用いられ得る。
【0135】
熱によって重合させる場合は、その温度は特に限定はないが、80℃以上が好ましく、100℃以上が特に好ましい。また、200℃以下が好ましく、180℃以下が特に好ましい。重合温度が低すぎる場合は重合が充分に進行しない場合があり、高すぎる場合は重合が不均一になったり、基材の劣化が起こったりする場合がある。加熱時間も特に限定はないが、5秒以上が好ましく、10秒以上が特に好ましい。また、10分以下が好ましく、2分以下が特に好ましく、30秒以下が更に好ましい。
【0136】
得られたナノ構造体は、光の反射防止用及び/又は光の透過改良用として好適に用いられる。
具体的には、液晶表示ディスプレイ(LCD)、プラズマディスプレイ(PDP)、有機ELディスプレイ(OELD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の反射防止膜(体);額、標本箱、鑑賞物用ケース、商品ケース、陳列棚、ショーウィンドー等の前面板若しくは該前面板に貼り付ける反射防止膜;等が挙げられる。
【実施例】
【0137】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。
【0138】
例1.
[型体No.1の製造とナノ構造体No.1の製造]
<アルミニウム材料パイプA>
パイプAのアルミニウム材料aとして、アルミニウム純度99.85質量%のアルミニウムを用いて、マンドレル押出成形と引き抜き工程をして、厚さ3mmのアルミニウム材料パイプAを作製した。
このアルミニウムのFeの含有量は98.8質量ppm、FeとSiとCuと合計含有量は1512質量ppm、ビッカース硬さ(Hv)は27.4だった。
【0139】
<2層化工程>
パイプAの内側にパイプBを圧入加工して、クラッド加工を行って、パイプBをパイプAに挿嵌し、2層構造を有するアルミニウム素管体を作製した。パイプBの厚さは1mmであった。
【0140】
得られたアルミニウム素管体の外径は100mm、厚さは4mm、長さは1000mmだった。
【0141】
<中間工程>
得られたアルミニウム素管体の両末端に印刷機に適合した軸を取り付けた。
次いで、その2層構造を有するアルミニウム素管体の円周側の最表面を、ダイヤモンドバイトによる機械研磨を行った、その後、更に電解研磨を行なって鏡面を得た。
【0142】
<ポア形成工程>
次いで、以下に示す陽極酸化条件と、以下に示す形成された陽極酸化皮膜のエッチング処理との組合せにより、テーパー形状部を有するテーパー形状層を作製した。
下記条件で、陽極酸化処理とエッチング処理を、交互に10回ずつ繰り返し、最後は陽極酸化処理で終了して、ナノ構造体作製用ドラム状型体を製造した。
【0143】
[陽極酸化処理の条件]
電解液:0.05Mシュウ酸水溶液
電圧:80Vの直流電圧
電解液の温度:5.0℃
時間:30秒
【0144】
[エッチング処理の条件]
エッチング液:2質量%リン酸水溶液
エッチング液の温度:50.0℃
時間:2分
【0145】
<ナノ構造体の製造>
製造された型体を印刷機に搭載し、
図7に示したように、下記の光硬化性組成物を用いて、TACフィルムの上に、厚さ10μmで、ナノ構造体を作製した。
【0146】
<<光硬化性組成物>>
下記式(1)で示される化合物(1)11.8質量部、下記化合物(2)23.0質量部、テトラエチレングリコールジアクリレート45.2質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート20.0質量部、及び、光重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン2.0質量部を配合して光硬化性組成物を得た。
【0147】
上記化合物(1)は、下記の式(1)で示される化合物である。
【化1】
[式(1)中、Xは、ジペンタエリスリトール(6個の水酸基を有する)残基を示す。]
【0148】
上記化合物(2)は、
2HEA−−IPDI−−(アジピン酸と1,6−ヘキサンジオールとの重量平均分子量3500の末端水酸基のポリエステル)−−IPDI−−2HEA
で示される化合物である。ここで、「2HEA」は、2−ヒドロキシエチルアクリレートを示し、「IPDI」は、イソホロンジイソシアネートを示し、「−−」は、イソシアネート基と水酸基の通常の下記の反応による結合を示す。
−NCO + HO− → −NHCOO−
【0149】
例2.
[型体No.2〜10の製造とナノ構造体No.2〜10の製造]
型体No.1において、パイプA(アルミニウム材料a)の組成、厚さ、ビッカース硬さ(Hv)と、パイプB(金属材料b)の組成、厚さ、ビッカース硬さ(Hv)とを表1に記載のように代えた以外は、型体No.1と同様にナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、ナノ構造体を作製した。
【0150】
例3.
[型体No.11〜13の製造とナノ構造体No.11〜13の製造]
型体No.1において、パイプA(アルミニウム材料a)の組成、厚さ、ビッカース硬さ(Hv)と、パイプB(金属材料b)の組成、厚さ、ビッカース硬さ(Hv)、及び、2層構造の作り方を表1に記載のように代えた以外は、型体No.1と同様にナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、ナノ構造体を作製した。
【0151】
[[型体No.11、13の製造とナノ構造体No.11、13の2層構造の作り方]]
パイプAをオーブンで120℃に加温してから、その内側に、室温20℃のパイプBを挿入してから室温20℃に放置して「焼きバメ」を行った。
【0152】
[[型体No.12の製造とナノ構造体No.12の製造]]
パイプBをドライアイスで−50℃に冷却してから、その外側に、室温20℃のパイプAを挿入してから室温20℃に放置して「冷やしバメ」を行った。
【0153】
例4.
[型体No.14〜17の製造とナノ構造体No.14〜17の製造]
型体No.1において、アルミニウム材料aの組成、厚さ、ビッカース硬さ(Hv)を表1に記載のように代え、パイプBを挿嵌することをせずに、パイプAのみでアルミニウム素管体を作製し、型体No.1と同様にナノ構造体作製用ドラム状型体を製造し、ナノ構造体を作製した。
【0154】
[評価方法]
上記で得られた、ナノ構造体作製用ドラム状型体及びナノ構造体について、以下の方法で評価を行って、以下の判定基準で評価した。
評価結果を下記の表1にまとめて示す。
【0155】
<ビッカース硬さ(Hv)の測定>
ビッカース硬さ(Hv)は、日本工業規格、JIS B7225,Z2244に従って測定した。単位ないが、「kgf/mm
2」であるように算出した。
【0156】
<型体の「たわみ(μm)」(フレ精度の差)の測定>
型体の「たわみ(μm)」は、加温前後のフレ精度の差を測定することにより測定した。すなわち、下記(2)のフレ精度(μm)から、下記(1)のフレ精度(μm)を引いた値を「たわみ(μm)」とした。
(1)ベアリング付きの軸を取り付けた長さ1000mm、外径100mmの型体を両側の軸で支持し、回転させながら型体の長さ方向の中央で、ダイヤルゲージを用いてフレ精度(μm)を測定した。
(2)上記型体を両側の軸で水平に支持した状態で加温(50℃のオーブンに10日間保管)し、上記と同様にフレ精度(μm)を測定した。
【0157】
<型体の表面の「点欠陥」の評価方法>
点欠陥の測定評価は暗室にて行い、型体に蛍光灯を反射させて行なった。
評価距離は、視点部−型体間を50cm、型体−蛍光灯間を50cmとし、型体を起点とし、蛍光灯と視点部の角度を90°とし、目視評価を行ない、以下の判定基準で判定した。
【0158】
<型体の表面の「点欠陥」の判定基準>
◎ :目視で点欠陥が1個も確認できない状態
○ :目視で点欠陥が1〜50個の範囲で確認できる状態
△ :目視で点欠陥が51〜99個の範囲で確認できる状態
× :目視で点欠陥が100個以上確認できる状態
【0159】
<ナノ構造体の表面の「点欠陥」の評価方法>
検査は暗室にて行い、ナノ構造体フィルムを蛍光灯に透かして測定を行なった。
検査距離は、視点部−ナノ構造体フィルム間を25cm、ナノ構造体フィルム−蛍光灯間を25cmとし、視点部より30°上方に蛍光灯を設置した。ナノ構造体フィルム面上の照度は500ルクス(lx)とした。
この条件で金型を1周分のナノ構造体の点欠陥を観察し目視評価を行ない、以下の判定基準で判定した。
【0160】
<ナノ構造体の表面の「点欠陥」の判定基準>
◎ :目視で点欠陥が1個も確認できない状態
○ :目視で点欠陥が1〜5個の範囲で確認できる状態
△ :目視で点欠陥が6〜9個の範囲で確認できる状態
× :目視で点欠陥が10個以上確認できる状態
【0161】
<印刷評価>
前記たわみ試験後(たわみ測定後)のベアリング付きの軸が取り付けられたドラム状型体を印刷機に装着し、機材をPETフィルム、ライン速度5m/分でフィルム成型を行った。最初にセットしたPETフィルムの左右部分をゼロとして、基材が左右に何cm蛇行したかを測定して、印刷時蛇行性を判定した。
【0162】
<印刷時蛇行性の判定基準>
◎:左右の蛇行幅 1cm未満
○:左右の蛇行幅 1cm以上2cm未満
△:左右の蛇行幅 2cm以上3cm未満
×:左右の蛇行幅 3cm以上
【0163】
<ナノ構造体の膜厚ムラの評価>
前記たわみ試験後(たわみ測定後)のベアリング付きの軸が取り付けられたドラム状型体を印刷機に装着し、機材をPETフィルム、ライン速度5m/分でフィルム成型を行った。ドラム状型体1周分の成型フィルムを取り出し、面内の膜厚を9箇所測定した。その測定結果における最大と最小値の差を膜厚ムラとして評価した。
【0164】
<ナノ構造体の膜厚ムラの判定基準>
◎:1μm以下
○:1μm以上5μm未満
△:5μm以上10μm以下
×:10μm以上
【0165】
【表1】
【0166】
表1に示すように、本発明のナノ構造体作製用ドラム状型体及びそれを用いて製造したナノ構造体は、全ての評価項目において優れていた。