【解決手段】下層触媒層と、下層触媒層よりも上層に配置される上層触媒層と、を有する触媒と、吸蔵還元型NOx触媒と、選択還元型NOx触媒と、を内燃機関の排気通路に備え、リッチ空燃比での運転から、リーン目標空燃比での運転へ切り換えるときに、排気の空燃比を一時的にリーン空燃比とする第一運転と、第一運転の後に実施し排気の空燃比をリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に複数回変化させる第二運転と、を経てリーン目標空燃比へ切り換え、第二運転時における吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているNOx量が多いほど、第二運転におけるリッチ空燃比のときの目標空燃比を低くする。
内燃機関の排気通路に設けられ、酸素吸蔵剤及び貴金属を含んだ触媒層である下層触媒層と、酸素吸蔵剤及び貴金属を含んだ触媒層であって前記下層触媒層よりも上層に配置される上層触媒層と、を有する前段触媒と、
前記前段触媒よりも下流の排気通路に設けられる吸蔵還元型NOx触媒と、
前記吸蔵還元型NOx触媒よりも下流の排気通路に設けられる選択還元型NOx触媒と、
を備えた内燃機関の制御システムにおいて、
理論空燃比よりも低い空燃比での運転から、理論空燃比よりも高い空燃比であるリーン目標空燃比での運転へ切り換えるときに、
前記前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも一時的に高くする第一運転と、
前記第一運転の後に実施し、前記前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも低い状態と理論空燃比よりも高い状態とに交互に複数回変化させる第二運転と、
を経て前記リーン目標空燃比での運転へ切り換える制御装置を備え、
前記第二運転時における前記吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているNOx量が多いほど、または、前記第二運転時における前記選択還元型NOx触媒が吸着しているアンモニア量が少ないほど、または、前記第二運転時における前記選択還元型NOx触媒の温度に依存する浄化能力が低いほど、
前記第二運転において、空燃比を低くするときの目標空燃比であるリッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くする
内燃機関の制御システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記したような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、触媒のHC被毒を早期に回復することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するために本発明は、
内燃機関の排気通路に設けられ、酸素吸蔵剤及び貴金属を含んだ触媒層である下層触媒層と、酸素吸蔵剤及び貴金属を含んだ触媒層であって前記下層触媒層よりも上層に配置される上層触媒層と、を有する前段触媒と、
前記前段触媒よりも下流の排気通路に設けられる吸蔵還元型NOx触媒と、
前記吸蔵還元型NOx触媒よりも下流の排気通路に設けられる選択還元型NOx触媒と
、
を備えた内燃機関の制御システムにおいて、
理論空燃比よりも低い空燃比での運転から、理論空燃比よりも高い空燃比であるリーン目標空燃比での運転へ切り換えるときに、
前記前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも一時的に高くする第一運転と、
前記第一運転の後に実施し、前記前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも低い状態と理論空燃比よりも高い状態とに交互に複数回変化させる第二運転と、
を経て前記リーン目標空燃比での運転へ切り換える制御装置を備え、
前記第二運転時における前記吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているNOx量が多いほど、または、前記第二運転時における前記選択還元型NOx触媒が吸着しているアンモニア量が少ないほど、または、前記第二運転時における前記選択還元型NOx触媒の温度に依存する浄化能力が低いほど、
前記第二運転において、空燃比を低くするときの目標空燃比であるリッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くする。
【0008】
リーン目標空燃比は、リッチ空燃比からリーン空燃比へ切り換える際の内燃機関の最終的な目標空燃比である。制御装置は、リーン目標空燃比で運転する前に第一運転及び第二運転を実施する。リッチ空燃比から、リーン目標空燃比へ切り換えるときには、触媒においてHC被毒が生じている場合がある。ここで、リッチ空燃比から、最終的にリーン目標空燃比に至るまでに、第一運転を実施すると、触媒へ多くの酸素を供給することができる。このときには、まずは上層触媒層のHC被毒が回復されるものと考えられる。上層触媒層では、十分な酸素が存在するために、酸素吸蔵剤と貴金属とに同時期に酸素を供給することができる。しかし、上層触媒層において酸素吸蔵剤に酸素が吸蔵されたりHCの酸化に酸素が用いられたりしている間は、下層触媒層へ酸素が届き難い。すなわち、上層触媒層のHC被毒が回復された後に、下層触媒層へ酸素が到達するものと考えられる。このため、上層触媒層を通り抜けて下層触媒層へ酸素が到達するまでには時間を要する。また、下層触媒層へ酸素が到達しても、その量が少ないために、まずは酸素との反応性の高い酸素吸蔵剤に酸素が吸蔵されると考えられる。第一運転を継続した場合には、下層触媒層の酸素吸蔵剤に多くの酸素が吸蔵された後に、下層触媒層の貴金属に付着したHCと酸素とが反応する。そうすると、仮に、第一運転によるリーン空燃比を維持した場合には、下層触媒層の酸素吸蔵剤に多くの酸素が吸蔵された後に、下層触媒層のHC被毒が回復されるために、下層触媒層のHC被毒が回復するまでに時間を要する。
【0009】
そこで、第一運転において一時的にリーン空燃比で運転した後に、第二運転を実施すると、第二運転におけるリーン空燃比のときには下層触媒層の酸素吸蔵剤に酸素が吸蔵されるが、第二運転におけるリッチ空燃比のときには、下層触媒層の酸素吸蔵剤から酸素が放出される。この下層触媒層の酸素吸蔵剤から放出される酸素は、下層触媒層の貴金属に付着しているHCと反応し易い。したがって、リーン空燃比とリッチ空燃比とを交互に変化させることにより、下層触媒層の貴金属に付着しているHCを効率的に除去することができる。この場合、下層触媒層の酸素吸蔵剤に多くの酸素が吸蔵されるのを待つ必要がない。
【0010】
すなわち、第一運転を実施することにより、主に上層触媒層のHC被毒を速やかに回復させることができる。その後に第二運転を実施することにより、主に下層触媒層のHC被毒を速やかに回復させることができる。
【0011】
なお、第一運転を実施する期間は、第二運転中において1回当たりのリーン空燃比となる期間と比較して、長くする。第一運転では、内燃機関においてリーン空燃比で燃焼を行うことにより、排気の空燃比をリーン空燃比としてもよいが、これに代えて、内燃機関に
おいてリッチ空燃比または理論空燃比で燃焼を行い且つ排気中に空気を導入してもよい。すなわち、触媒へ流入するまでに排気の空燃比がリーン空燃比となっていればよい。
【0012】
このように、リッチ空燃比からリーン目標空燃比へ切り換えるときに、単にリーン目標空燃比に切り換える場合には、下層触媒層の酸素吸蔵剤に酸素が十分に吸蔵されるまで下層触媒層におけるHC被毒を回復するのは困難であるが、一時的にリーン空燃比とした後に、リッチ空燃比とリーン空燃比とで交互に変化させることにより、下層触媒層の酸素吸蔵剤に多くの酸素が吸蔵される前であっても、下層触媒層におけるHC被毒を回復することができる。これにより、HC被毒を回復するのに要する時間を短縮することができる。
【0013】
なお、第一運転により下層触媒層のHC被毒を部分的に回復することもできるし、第二運転により上層触媒層のHC被毒を部分的に回復することもできるため、第一運転から第二運転に切り換える時期は、上層触媒層のHC被毒の回復が完了した時点に限らず、その前後にずれていてもよい。リッチ空燃比からリーン目標空燃比へ切り換える際に、第一運転及び第二運転を順に行えばよい。
【0014】
第二運転においてリッチ空燃比とするときに、空燃比が低すぎたり、リッチ空燃比とする期間が長すぎたりすると、新たなHC被毒が発生する虞がある。また、第二運転においてリーン空燃比とするときに、理論空燃比よりも高い空燃比ではあっても空燃比が低すぎたり、リーン空燃比とする期間が短すぎたりすると、下層触媒層の酸素吸蔵剤の酸素吸蔵量が少なくなり、続いてリッチ空燃比としたときに放出される酸素によってHC被毒を回復させることが困難となる。したがって、第二運転においてリッチ空燃比とするときの空燃比及びリッチ空燃比の継続時間は、新たなHC被毒が発生しない空燃比及び継続時間としてもよい。また、第二運転においてリーン空燃比とするときの空燃比及びリーン空燃比の継続時間は、続いてリッチ空燃比としたときに下層触媒層の酸素吸蔵剤から放出される酸素によってHC被毒を回復させることが可能となるように、下層触媒層の酸素吸蔵剤に酸素を吸蔵させることができる空燃比及び継続時間としてもよい。なお、第二運転においては、リッチ空燃比側の目標空燃比(リッチ目標空燃比)と、リーン側の目標空燃比とを、それぞれ設定し、空燃比を下降させているときにリッチ目標空燃比に達した場合には、空燃比を上昇させ、空燃比を上昇させているときにリーン側の目標空燃比に達した場合には、空燃比を下降させてよい。これにより、空燃比が周期的に変化する。
【0015】
ここで、第二運転を実施すると、排気の空燃比が理論空燃比またはリッチ空燃比となり得るため、吸蔵還元型NOx触媒(以下、NSR触媒ともいう。)からNOxが放出される。排気の空燃比が理論空燃比近傍であると、還元剤となるHC等が少ないため、NSR触媒においてNOxの還元が困難となり得る。しかし、選択還元型NOx触媒(以下、SCR触媒ともいう。)にアンモニアが吸着さていれば、NSR触媒から流出するNOxを、SCR触媒において浄化することができる。したがって、三元触媒7よりも下流に、NSR触媒及びSCR触媒を設けることにより、NOxの浄化率をより高めることができる。
【0016】
しかし、第一運転中にNSR触媒に吸蔵されるNOx量が多くなるほど、第二運転中にNSR触媒から流出するNOxも多くなる。第二運転中にNSR触媒から流出するNOx量に対して、SCR触媒に吸着しているアンモニア量が足りないと、SCR触媒におけるNOx浄化率が低下する。なお、「吸蔵」とは、一時的なNOxの吸着をも含む用語として使用している。
【0017】
これに対し、第二運転中にSCR触媒に流入するNOx量が多くなると推定される場合には、第二運転中にNSR触媒において生成されるアンモニア量を多くすれば、SCR触媒においてアンモニアが不足することによるNOx浄化率の低下を抑制することができる
。ここで、第二運転時にNSR触媒に吸蔵されているNOx量が多いほど、第二運転中にSCR触媒へ流入するNOx量が多くなる。
【0018】
また、第二運転中にSCR触媒においてアンモニアが不足すると推定される場合には、第二運転中にNSR触媒において生成されるアンモニア量を多くすれば、SCR触媒においてNOx浄化率が低下することを抑制できる。ここで、第二運転時におけるSCR触媒が吸着しているアンモニア量が少ない場合には、第二運転中にアンモニアが不足する虞がある。
【0019】
さらに、第二運転中のSCR触媒の浄化能力は、該SCR触媒の温度によって変化する。SCR触媒の温度に依存する浄化能力が低いほど、NOxを浄化するために、より多くのアンモニアを必要とする。
【0020】
ここで、第二運転において、空燃比を低くするときの目標空燃比であるリッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くすることにより、アンモニアの生成量を増加させることができる。一方、リッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くすると、HC被毒の回復に時間がかかってしまう。したがって、第二運転中に、むやみにリッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くすればよいというものでもない。
【0021】
これに対し、要求されるアンモニア生成量が多くなるほど、リッチ目標空燃比を低くする、または、理論空燃比よりも低い状態となっている時間を長くすることにより、HC被毒回復が長くなることを抑制しつつ、アンモニアの生成量を増加させることができる。理論空燃比よりも低い状態となっている時間は、前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも低い状態と理論空燃比よりも高い状態とに交互に複数回変化させるときの周期によって変化する。すなわち、この周期が長くなるなるほど、理論空燃比よりも低い状態となっている時間が長くなる。したがって、この周期を長くすることにより、アンモニアの生成量を増加させることができる。
【0022】
なお、前記制御装置は、前記第二運転において、前記前段触媒に流入する排気の空燃比が理論空燃比よりも高い場合には前記排気の空燃比を低くし、前記前段触媒に流入する排気の空燃比が理論空燃比よりも低い場合には前記排気の空燃比を高くすることで、前記前段触媒に流入する排気の空燃比を理論空燃比よりも低い状態と理論空燃比よりも高い状態とに交互に複数回変化させてもよい。
【0023】
また、前記制御装置は、前記第一運転を、前記上層触媒層のHC被毒が回復するまで実施し、前記第二運転を、前記下層触媒層のHC被毒が回復するまで実施してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、触媒のHC被毒を早期に回復することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0027】
(実施例)
図1は、本実施例に係る内燃機関1の概略構成を表す図である。なお、本実施例においては、内燃機関1を簡潔に表示するため、一部の構成要素の表示を省略している。内燃機関1は、4つの気筒2を有するガソリン機関である。
【0028】
内燃機関1のシリンダヘッド11には、吸気管31及び排気管41が接続されている。シリンダヘッド11には、吸気管31から気筒2内に通じる吸気ポート32、及び、排気管41から気筒2内に通じる排気ポート42が形成されている。吸気ポート32の気筒2側の端部には、吸気弁5が備わる。また、排気ポート42の気筒2側の端部には、排気弁6が備わる。なお、本実施例においては排気管41が、本発明における排気通路に相当する。
【0029】
そして、内燃機関1のクランクシャフト13にコネクティングロッド14を介して連結されたピストン15が、気筒2内で往復する。
【0030】
また、吸気管31には、該吸気管31を流れる吸気の量を調節するスロットル16が備えられている。このスロットル16よりも上流の吸気管31には、該吸気管31内を流れる空気の量に応じた信号を出力するエアフローメータ90が取り付けられている。このエ
アフローメータ90により内燃機関1の吸入空気量が検知される。
【0031】
排気管41の途中には、上流側から順に、三元触媒7、NSR触媒8、SCR触媒9が備えられている。
【0032】
三元触媒7は、触媒雰囲気が理論空燃比のときにNOx,HCおよびCOを最大効率で浄化する。また、三元触媒7は、酸素吸蔵能を有している。すなわち、流入する排気の空燃比がリーン空燃比であるときに過剰分の酸素を吸蔵し、流入する排気の空燃比がリッチ空燃比であるときに不足分の酸素を放出することにより、排気を浄化する。このような酸素吸蔵能の作用により、三元触媒7へ流入する排気の空燃比が理論空燃比以外であっても、三元触媒7がHC,COおよびNOxを浄化することができる。
【0033】
三元触媒7には、基材側に下層触媒層72が設けられ、該下層触媒層72の上に上層触媒層71が設けられている(
図3参照)。すなわち、基材側に下層触媒層72が設けられ、排気が流通している側に上層触媒層71が設けられている。上層触媒層71は、直接排気に晒されているとしてもよい。上層触媒層71及び下層触媒層72は、夫々、貴金属(Pd,Rh等)と酸素吸蔵剤(セリア等)とを含んでいる。なお、本実施例に係る三元触媒7は、上層触媒層71及び下層触媒層72の二層の触媒層を設けているが、三層以上の触媒層を設けていてもよい。なお、本実施例においては三元触媒7が、本発明における前段触媒に相当する。
【0034】
また、NSR触媒8は、流入する排気の酸素濃度が高いときは排気中のNOxを吸蔵し、流入する排気の酸素濃度が低下し且つ還元剤が存在するときは吸蔵していたNOxを還元する。NSR触媒8に供給する還元剤には、内燃機関1から排出される未燃燃料であるHCまたはCOを利用することができる。
【0035】
SCR触媒9は、還元剤を吸着しておき、NOxが通過するときに、吸着していた還元剤によりNOxを選択還元する。SCR触媒9へ供給する還元剤には、NSR触媒8にて生成されるアンモニア(NH
3)を利用することができる。なお、排気がNSR触媒8を通過するときに、排気中のNOxがHCまたはH
2と反応してアンモニアが生成されることもある。
【0036】
また、三元触媒7よりも上流の排気管41には、排気の空燃比を検知する第一空燃比センサ91と、排気中のNOxを検知する第一NOxセンサ92とが取り付けられている。また、三元触媒7よりも下流で且つNSR触媒8よりも上流の排気管41には、排気の空燃比を検知する第二空燃比センサ93と、排気中のNOxを検知する第二NOxセンサ94とが取り付けられている。なお、実施例においては第二NOxセンサ94が、本発明におけるNOxセンサに相当する。
【0037】
第一空燃比センサ91により、内燃機関1からの排気の空燃比、または、三元触媒7に流入する排気の空燃比を検知することができる。なお、内燃機関1からの排気の空燃比、または、三元触媒7に流入する排気の空燃比は、内燃機関1の吸入空気量及び燃料供給量に基づいて推定することもできる。また、第一NOxセンサ92により、内燃機関1からの排気中のNOx濃度、または、三元触媒7に流入する排気中のNOx濃度を検知することができる。
【0038】
また、第二空燃比センサ93により、三元触媒7から流出する排気の空燃比、または、NSR触媒8に流入する排気の空燃比を検知することができる。さらに、第二NOxセンサ94により、三元触媒7から流出する排気中のNOx濃度、または、NSR触媒8に流入する排気中のNOx濃度を検知することができる。なお、第一空燃比センサ91または
第二空燃比センサ93は、酸素濃度センサとしてもよい。
【0039】
また、NSR触媒8よりも下流で且つSCR触媒9よりも上流の排気管41には、排気の温度を検知する温度センサ95が取り付けられている。この温度センサ95により、SCR触媒9の温度を検知することができる。なお、SCR触媒9よりも下流に温度センサを設けても、SCR触媒9の温度を検知することができる。また、SCR触媒9の温度は、内燃機関1の運転状態に基づいて推定することもできる。
【0040】
また、スロットル16よりも下流の吸気管31には、燃料を吸気管31または吸気ポート32へ向けて噴射する通路内噴射弁81が取り付けられている。また、内燃機関1には、気筒2内へ燃料を噴射する筒内噴射弁82が取り付けられている。さらに、内燃機関1には、気筒2内に電気火花を発生させる点火プラグ83が取り付けられている。
【0041】
そして、内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御装置であるECU10が併設されている。このECU10は、CPUの他、各種のプログラム及びマップを記憶するROM、RAM等を備えており、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1を制御する。
【0042】
ここで、上記各種センサの他、アクセル開度センサ96およびクランクポジションセンサ97がECU10と電気的に接続されている。ECU10はアクセル開度センサ96からアクセル開度に応じた信号を受け取り、この信号に応じて内燃機関1に要求される機関負荷等を算出する。また、ECU10はクランクポジションセンサ97から内燃機関1のクランクシャフト13の回転角に応じた信号を受け取り、機関回転速度を算出する。
【0043】
一方、ECU10には、通路内噴射弁81、筒内噴射弁82、点火プラグ83が電気配線を介して接続されており、該ECU10によりこれらの機器が制御される。
【0044】
例えばECU10は、エアフローメータ90において検知される吸入空気量に応じた燃料を供給するように通路内噴射弁81及び筒内噴射弁82を制御する。このときに設定される目標空燃比は、内燃機関1の運転状態に応じて設定される空燃比である。なお、本実施例に係る内燃機関1では、理論空燃比よりも高い空燃比(以下、リーン空燃比という。)での運転であるリーンバーン運転が実施されている。リーンバーン運転時には、内燃機関1の運転状態に応じたリーン目標空燃比となるように、気筒2内の空燃比が調整される。ただし、高負荷運転時などにおいて、理論空燃比近傍または理論空燃比よりも低い空燃比(以下、リッチ空燃比という。)で内燃機関1が運転されることもある。また、NH
3を生成するため又はNOxを還元するためにリッチ空燃比で運転することもある。ECU10は、吸入空気量または燃料供給量を調整することにより、空燃比を調整する。吸入空気量は、例えばスロットル16の開度を変更することにより調整可能である。また、吸気弁5または排気弁6の開閉時期を変更することにより吸入空気量を調整することもできる。
【0045】
ここで、内燃機関1をリッチ空燃比で運転したときに、三元触媒7から酸素が放出される。三元触媒7から酸素が放出されている間は、該三元触媒7においてHCが浄化される。しかし、内燃機関1をリッチ空燃比で運転する期間が長くなり、三元触媒7に吸蔵されていた酸素がすべて消費されてしまうと、三元触媒7において未燃燃料(HC、CO等)を酸化することが困難となる。このため、三元触媒7にHCが蓄積されてHC被毒が生じる。例えば、NSR触媒8に流入する排気の空燃比をリッチ空燃比とすることで、NSR触媒8に対して還元剤を供給することができる。このときに、NSR触媒8よりも上流に備わる三元触媒7にもリッチ空燃比の排気が流通するので、三元触媒7においてHC被毒が起こることがある。三元触媒7にHC被毒が生じると、該三元触媒7における排気の浄
化性能が低下するため、HC被毒は早期に回復することが望ましい。
【0046】
HC被毒は、未燃物質であるHCが貴金属の表面を覆い、触媒の活性が低下している状態である。この貴金属の表面を覆っているHCを除去するために、触媒へ酸素を供給し、該酸素とHCとを反応させることで、貴金属の表面からHCを除去することが考えられる。三元触媒7へ酸素を供給する方法としては、内燃機関1をリーン空燃比で運転することが考えられる。なお、内燃機関1への燃料の供給を停止する燃料カットを実施したり、三元触媒7よりも上流に二次空気を供給したりすることにより、三元触媒7へ酸素を供給することもできる。
【0047】
しかし、上層触媒層71と下層触媒層72とを備えた三元触媒7では、上層触媒層71でのHC被毒の回復及び酸素の吸蔵が行われた後で、且つ、下層触媒層72に酸素が吸蔵された後に、下層触媒層72においてHCと酸素とが活発に反応すると考えられるため、下層触媒層72のHC被毒が回復されるまでには時間がかかる。そして、下層触媒層72のHC被毒が回復されるまでは、三元触媒7の全体としての浄化率が低くなる。
【0048】
ここで、
図2は、気筒2内の空燃比と三元触媒7から流出する排気中のHC濃度との推移を示したタイムチャートである。実線は理論空燃比で運転後にリーン空燃比で運転した場合を示し、破線はリッチ空燃比で運転後にリーン空燃比で運転した場合を示している。どちらの場合も、リーン空燃比のときの目標空燃比は同じである。
【0049】
内燃機関1を理論空燃比で運転していた場合には、理論空燃比で運転中に内燃機関1から排出されるHC量が少ない。すなわち、内燃機関1が理論空燃比で運転中には、三元触媒7に流入するHC量が少ない。さらに、内燃機関1が理論空燃比で運転中には、三元触媒7におけるHCの浄化能力も高いために、三元触媒7から流出するHCは比較的少ない。このため、その後にリーン空燃比で運転しても、排気中のHCをすぐに浄化することができるため、三元触媒7から流出するHC量は比較的少ない。
【0050】
一方、内燃機関1をリッチ空燃比で運転していた場合には、内燃機関1から排出されるHC量が多いため、三元触媒7においてHC被毒が起こる。さらに、三元触媒7においてHC被毒が発生しているために、三元触媒7におけるHCの浄化能力も低い。このため、三元触媒7から流出するHC量が比較的多くなる。その後にリーン空燃比で運転したとしても、HC被毒が回復するまでには、ある程度の時間を要する。そして、HC被毒が回復するまでの間はHCの浄化率が低くなる。このため、リーン空燃比での運転に移行した後であっても、三元触媒7からある程度のHCが流出してしまう。
【0051】
なお、内燃機関1からの排気の空燃比がリッチ空燃比からリーン空燃比へ変化した場合には、まず上層触媒層71のHC被毒が主に回復され、その後に、下層触媒層72のHC被毒が主に回復されると考えられる。そして、上層触媒層71のHC被毒の回復に要する時間に対して、下層触媒層72の回復に要する時間は長い。
【0052】
ここで、
図3Aから
図3Eは、三元触媒7に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比からリーン空燃比に変化するときの上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を所定時間ごとに推定した図である。
図3Aから
図3Eは、
図2における破線で示したように空燃比が変化した場合の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態の推移を示している。なお、三元触媒7においてどのように酸素が吸蔵・放出されるのか、さらには、どのようにHC被毒が回復されるのかは必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。
【0053】
図3Aは、リッチ空燃比のとき(
図2のT1Aのとき)の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。リッチ空燃比になると、上層触媒層71の酸素吸蔵剤7
1A及び下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに吸蔵さていた酸素がHCと反応する。このため、リッチ空燃比で運転される期間が長くなると、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71A及び下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに酸素が吸蔵されていない状態となる。さらにリッチ空燃比で運転されると、上層触媒層71の貴金属71B及び下層触媒層72の貴金属72BにHCが付着する。このような状態では、三元触媒7の浄化能力が低下する。
【0054】
図3Bは、リッチ空燃比からリーン空燃比に切り換わった直後(
図2のT1Bのとき)の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。破線の矢印は、酸素の流れを示している。リッチ空燃比からリーン空燃比に切り換わると、上層触媒層71では酸素濃度が高くなるために、上層触媒層71の貴金属71Bに付着したHCと酸素とが反応して該HCが除去される。さらに、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aには、酸素が吸蔵される。このように、上層触媒層71では、十分な酸素が存在するため、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aへの酸素の吸蔵と、上層触媒層71の貴金属71Bに付着したHCの反応と、が同時に起こり得る。一方、上層触媒層71において酸素が消費されるため、リーン空燃比に切り換わった直後には、下層触媒層72へ供給される酸素は少ない。
【0055】
図3Cは、リーン空燃比のときに上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aにある程度の酸素が吸蔵された後(
図2のT1Cのとき)の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aにある程度の酸素が吸蔵されると、酸素が下層触媒層72に到達する。下層触媒層72に到達した酸素は、まず、反応性の高い酸素吸蔵剤72Aに吸蔵される。このときには、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCはほとんど酸化されない。
【0056】
図3Dは、リーン空燃比のときに下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにある程度の酸素が吸蔵された後(
図2のT1Dのとき)の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。また、
図3Eは、リーン空燃比のときに下層触媒層72の貴金属72Bに酸素が供給されたとき(
図2のT1Eのとき)の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにある程度の酸素が吸蔵された後に、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCと酸素とが反応する。このように、単にリッチ空燃比からリーン空燃比に切り換わったとしても、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCが酸素と反応するまでには時間を要するため、HC被毒が回復するまでに時間を要する。
【0057】
そこで本実施例では、内燃機関1がリッチ空燃比での運転から、最終的な目標となるリーン空燃比(リーン目標空燃比)での運転へ移行する際に、リッチ空燃比での運転から第一運転と第二運転とを経てリーン目標空燃比での運転へ移行する。
図4は、本実施例に係る第一運転及び第二運転を実施したときの空燃比の推移を示した図である。ここで、第一運転では、三元触媒7に流入する排気の空燃比を一時的にリーン空燃比にする。この第一運転では、たとえば内燃機関1の気筒2内の空燃比をリーン空燃比(
図4のAF1)として該内燃機関1を運転する。なお、第一運転中のリーン空燃比は、リーン目標空燃比と同じ空燃比であってもよいが、異なる空燃比であってもよい。第一運転では、主に上層触媒層71のHC被毒を回復させる。
【0058】
第二運転では、三元触媒7に流入する排気の空燃比をリッチ空燃比である第二運転リッチ目標空燃比AF3とリーン空燃比である第二運転リーン目標空燃比AF2とに交互に複数回変化させる。第二運転リッチ目標空燃比AF3は、第一運転が実施される前のリッチ空燃比よりも高い空燃比とし、第二運転リーン目標空燃比AF2は、第一運転におけるリーン空燃比及び第二運転が完了した後の目標空燃比であるリーン目標空燃比よりも低い空燃比とする。ただし、第二運転リッチ目標空燃比AF3は、第一運転が実施される前のリッチ空燃比と同じであってもよいし、第二運転リーン目標空燃比AF2は、第一運転にお
けるリーン空燃比またはリーン目標空燃比と同じであってもよい。第二運転では、主に下層触媒層72のHC被毒を回復させる。ここで、第二運転では、フィードバック制御を実施することにより、三元触媒7に流入する排気の空燃比をリッチ空燃比とリーン空燃比とに交互に複数回変化させる。このフィードバック制御では、第二運転リッチ目標空燃比AF3に到達すると、空燃比が上昇するように、燃料噴射量を減量させるか又は吸入空気量を増量させ、第二運転リーン目標空燃比AF2に到達すると、空燃比が下降するように、燃料噴射量を増量させるか又は吸入空気量を減量させる。このようなフィードバック制御を実施することにより、三元触媒7に流入する排気の空燃比が、結果的に、理論空燃比を境に、リッチ空燃比とリーン空燃比とで交互に変化する。なお、第二運転中に、三元触媒7に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比の場合には空燃比を上昇させ、三元触媒7に流入する排気の空燃比がリーン空燃比の場合には空燃比を下降させてもよい。この場合、第二運転リッチ目標空燃比AF3と、第二運転リーン目標空燃比AF2との間で空燃比が変動するように、ゲイン等を設定してもよい。このようにして、第二運転中には、空燃比が一定の周期(
図4のTA)で変化する。
【0059】
ここで、
図5Aから
図5Fは、三元触媒7に流入する排気の空燃比がリッチ空燃比から第一運転及び第二運転を経てリーン空燃比に変化するときの上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を所定時間ごとに推定した図である。なお、三元触媒7においてどのように酸素が吸蔵・放出されるのか、さらには、どのようにHC被毒が回復されるのかは必ずしも明らかではないが、以下のように考えることができる。また、仮に本願で説明の現象と異なる現象によってHC被毒が回復したとしても、本願発明の構成を含んでHC被毒が回復される限り、本願の権利範囲に属する。
【0060】
図5Aは、リッチ空燃比のときの上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。このときの状態は、
図3Aに示した状態と同じである。
【0061】
図5Bは、リッチ空燃比から第一運転のリーン空燃比(
図4のAF1)に切り換わった直後の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。破線の矢印は、酸素の流れを示している。リッチ空燃比からリーン空燃比に切り換わると、上層触媒層71では酸素濃度が高くなるために、上層触媒層71の貴金属71Bに付着したHCと酸素とが反応して該HCが除去される。さらに、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aには、酸素が吸蔵される。このように、上層触媒層71では、十分な酸素が存在するため、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aへの酸素の吸蔵と、上層触媒層71の貴金属71Bに付着したHCの反応と、が同時に起こり得る。一方、上層触媒層71において酸素が消費されるため、リーン空燃比に切り換わった直後には、下層触媒層72へ供給される酸素は少ない。
【0062】
図5Cは、第一運転のリーン空燃比(
図4のAF1)のときに上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aにある程度の酸素が吸蔵された後の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aにある程度の酸素が吸蔵されると、酸素が下層触媒層72に到達する。下層触媒層72に到達した酸素は、まず、反応性の高い酸素吸蔵剤72Aに吸蔵される。このときには、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCはほとんど酸化されない。
【0063】
このように、第一運転を実施すると、排気中の酸素濃度が高くなるため、上層触媒層71の貴金属71Bに付着したHCが酸素と反応する。さらに、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71Aにも酸素が速やかに吸蔵される(
図5C)。このため、第一運転を実施することにより、下層触媒層72へ酸素が到達し易くなる。さらに、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにも酸素が吸蔵される。
【0064】
図5Dは、第一運転から第二運転に切り換わった直後のリッチ空燃比(
図4のAF3)
のときの上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。第二運転では、
図4に示すAF2とAF3とに空燃比を複数回切り換える。第二運転に移行してリッチ空燃比(
図4のAF3)になると、リーン空燃比(
図4のAF1またはAF2)のときに下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに吸蔵されていた酸素が貴金属72Bを介して放出される。この酸素は、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCと反応して、該HCを除去する。
【0065】
このように、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに酸素が満たされる前であっても、リッチ空燃比のときに下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aから放出される酸素により、下層触媒層72の貴金属72Bに付着しているHCを除去することができる。仮に、リーン空燃比での運転を継続した場合、すなわち、
図2の破線で示したように空燃比が変化する場合には、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aの反応性が高いために、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aへ十分な量の酸素が吸蔵された後でなければ、下層触媒層72の貴金属72Bに付着しているHCと酸素とが反応し難い。
【0066】
また、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aからの酸素の放出が終了した後にもリッチ空燃比での運転を続けると、上層触媒層71の貴金属71B及び下層触媒層72の貴金属72BにHCが付着してしまう。これに対し、本願の第二運転のように、リッチ空燃比での運転と、リーン空燃比での運転と、を交互に繰り返すことにより、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aからの酸素の放出と、下層触媒層72への酸素の吸蔵と、を繰り返すことができる。この結果、後述する
図5E及び
図5Fに示すように、下層触媒層72のHC被毒を回復することができる。
【0067】
図5Eは、第二運転のリッチ空燃比(
図4のAF3)での運転からリーン空燃比(
図4のAF2)での運転に切り換わった直後の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。リーン空燃比で運転することにより、上層触媒層71の酸素吸蔵剤71A及び下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに酸素が吸蔵される。すなわち、
図5Dに示すように下層触媒層72のHC被毒の回復のためにリッチ空燃比のときに下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aから酸素が放出されたとしても、リーン空燃比のときに下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aに酸素を供給することができる。
【0068】
図5Fは、第二運転のリーン空燃比(
図4のAF2)での運転からリッチ空燃比(
図4のAF3)での運転に切り換わった直後の上層触媒層71及び下層触媒層72の状態を示した図である。このときの状態は、
図5Dに示した状態と同じである。このように、第二運転を実施しているときには、三元触媒7へ新たにHCが付着することを抑制しつつ、下層触媒層72の貴金属72BからHCを除去することができる。
【0069】
したがって、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aへ十分な量の酸素が吸蔵される前であっても、該下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにある程度溜まった酸素を放出させ、それを繰り返すことにより、下層触媒層72の貴金属72Bに付着したHCを除去することができる。これにより、三元触媒7のHC被毒を早期に回復することができる。
【0070】
なお、第一運転は、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにある程度の酸素が吸蔵されるまで実施してもよいし、下層触媒層72へ酸素が到達するまで実施してもよい。この期間の最適値は、予め実験またはシミュレーション等により求めてもよい。
【0071】
ここで、内燃機関1をリーン空燃比で運転するときには、三元触媒7ではNOxの浄化は困難である。一方、リーン空燃比で運転するときには、NSR触媒8にNOxを吸蔵させることができる。NSR触媒8に吸蔵されたNOxは、第二運転を実施したときに該NSR触媒8から放出される。このNSR触媒8から放出されるNOxは、SCR触媒9に
おいて還元することができる。
【0072】
本実施例に係る第二運転を実施すると、NSR触媒8に流入する排気の空燃比が理論空燃比近傍で変化するため、NSR触媒8からNOxが放出される。SCR触媒9に予めアンモニアを吸着させておけば、NSR触媒8から流出するNOxを、SCR触媒9において浄化することができる。したがって、三元触媒7よりも下流に、NSR触媒8及びSCR触媒9を設けることにより、NOxの浄化率をより高めることができる。
【0073】
しかし、第一運転中にNSR触媒8に吸蔵されるNOx量が多くなるほど、第二運転中にNSR触媒8から流出するNOxも多くなる。第二運転中にNSR触媒8から流出するNOx量に対して、SCR触媒9に吸着しているアンモニア量が少ないと、SCR触媒9におけるNOxの還元が困難となる。
【0074】
そこで本実施例では、第二運転中にSCR触媒9においてNOxを還元できるように、第二運転中の空燃比を調整する。すなわち、SCR触媒9においてNOxの還元が困難となる虞がある場合には、第二運転中により多くのアンモニアが生成されるように、リッチ空燃比のときの目標空燃比をより低くする、または、リッチ空燃比とリーン空燃比とで変動させるときの変動周期をより長くすることでリッチ空燃比となる時間を長くする。
【0075】
図6は、第二運転リッチ目標空燃比AF3と、アンモニア生成量及びHC被毒回復速度と、の関係を示した図である。また、
図7は、リッチ空燃比とリーン空燃比とが交互に変化する周期(
図4のTA。以下、空燃比変動周期TAという。)と、アンモニア生成量及びHC被毒回復速度と、の関係を示した図である。実線は、アンモニア生成量を示し、破線は、HC被毒回復速度を示している。アンモニア生成量は、NSR触媒8における単位時間当たりのアンモニアの生成量である。HC被毒回復速度は、三元触媒7における単位時間当たりに除去されるHC量である。
【0076】
第二運転リッチ目標空燃比AF3が高くなるほど、第二運転中の空燃比変動周期TAが短くなる。このため、下層触媒層72の酸素吸蔵剤72Aにおいて酸素の吸蔵と放出との周期が短くなり、下層触媒層72の貴金属72Bに付着しているHCと酸素との反応を促進させることができる。
【0077】
すなわち、HC被毒回復速度は、第二運転リッチ目標空燃比AF3が理論空燃比に近づくほど、高くなる。したがって、第二運転リッチ目標空燃比AF3を高くするほど、すなわち、第二運転リッチ目標空燃比AF3を理論空燃比に近づけるほど、HC被毒回復速度が高くなり、HC被毒回復を促進させることができる。なお、第二運転リッチ目標空燃比AF3が高くなるほど、空燃比変動周期TAが短くなる。このため、第二運転中の空燃比変動周期TAを短くするほど、HC回復速度が高くなるともいえる。また、第二運転リッチ目標空燃比AF3が高くなるほど、リッチ空燃比となっている時間が短くなる。このため、リッチ空燃比となっている時間を短くするほど、HC回復速度が高くなるともいえる。
【0078】
一方、アンモニア生成量は、所定のリッチ空燃比のときに最大となる。なお、第二運転リッチ目標空燃比AF3は、アンモニアの生成量が最大となる所定のリッチ空燃比よりも高い空燃比に設定される。このため、第二運転リッチ目標空燃比AF3が低くなるほど、第二運転中のアンモニアの生成量が多くなる。
【0079】
また、第二運転リッチ目標空燃比AF3が低くなるほど、第二運転中の空燃比変動周期TAが長くなる。ここで、排気の空燃比がリッチ空燃比となっている時間が長くなるほど、NSR触媒8においてアンモニア生成量が増加する。したがって、第二運転リッチ目標
空燃比AF3が低くなるほど、または、空燃比変動周期TAが長くなるほど、アンモニアの生成量が増加する。
【0080】
したがって、HC被毒回復速度を高くすることを優先する場合には、第二運転リッチ目標空燃比AF3を高くし、アンモニアの生成量を多くすることを優先する場合には、第二運転リッチ目標空燃比AF3を低くすればよい。これは、HC被毒回復速度を高くすることを優先する場合には、第二運転中の空燃比変動周期TAを短くし、アンモニアの生成量を多くすることを優先する場合には、第二運転中の空燃比変動周期TAを長くすればよいともいえる。さらに、HC被毒回復速度を高くすることを優先する場合には、第二運転中のリッチ空燃比の継続時間を短くし、アンモニアの生成量を多くすることを優先する場合には、第二運転中のリッチ空燃比の継続時間を長くすればよいともいえる。
【0081】
図8は、第二運転中の目標空燃比を決定するためのフローチャートである。本フローは、第二運転時において所定の時間毎にECU10により実施される。なお、本フローは、第二運転開始時に1回だけECU10により実施されてもよい。
【0082】
ステップS101では、SCR触媒9で要求されるアンモニア量が算出される。SCR触媒9で要求されるアンモニア量(以下、要求アンモニア量という。)は、NOxを浄化するためにSCR触媒9へ供給するべきアンモニア量である。要求アンモニア量は、現時点においてSCR触媒9にすでに吸着されているアンモニア量、及び、現時点でのSCR触媒9の温度に基づいて決定される。
【0083】
ここで、要求アンモニア量は、SCR触媒9に吸着されているアンモニア量が少ないほど、多くなる。すなわち、SCR触媒9に吸着されているアンモニア量が少ないほど、第二運転中にSCR触媒9において早期にアンモニアが不足する虞がある。したがって、SCR触媒9における要求アンモニア量が多くなる。
【0084】
また、SCR触媒9においては、温度によって、SCR触媒9におけるアンモニアの吸着量やNOx浄化率が変化する。ここで、要求アンモニア量は、SCR触媒9におけるNOx浄化率が低くなるほど、多くなる。
【0085】
なお、要求アンモニア量は、NSR触媒8に吸蔵されているNOx量が多くなるほど、多くなる。すなわち、NSR触媒8に吸蔵されているNOx量が多くなるほど、第二運転中にSCR触媒9へ流入するNOx量が多くなる。したがって、SCR触媒9における要求アンモニア量が多くなる。
【0086】
要求アンモニア量と、SCR触媒9のアンモニア吸着量、SCR触媒9の温度、NSR触媒8のNOx吸蔵量と、の関係は、予め実験またはシミュレーション等により求めてECU10に記憶させておく。なお、SCR触媒9のアンモニア吸着量、及び、NSR触媒8のNOx吸蔵量は、周知の技術により算出することができる。
【0087】
ステップS102では、要求アンモニア量が0よりも多いか否か判定される。本ステップでは、SCR触媒9へアンモニアを供給する必要があるか否か判定している。ステップS102で肯定判定がなされた場合にはステップS103へ進み、一方、否定判定がなされた場合にはステップS104へ進む。
【0088】
ステップS103では、第二運転リッチ目標空燃比AF3を初期値よりも低くする。第二運転リッチ目標空燃比AF3の初期値は、予め実験またはシミュレーション等により求めておく。このときには、SCR触媒9にアンモニアを供給することで、SCR触媒9において還元剤量が増加するので、NOxの浄化率が高くなる。したがって、第二運転リッ
チ目標空燃比AF3を低下させることにより、NOxの浄化率を向上させる。このときの第二運転リッチ目標空燃比AF3の低下量または低下率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。なお、本ステップでは、空燃比変動周期TAを長くしてもよい。この場合の空燃比変動周期TAを長くする量または長くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。さらに、本ステップでは、リッチ空燃比の継続時間を長くしてもよい。リッチ空燃比の継続時間を長くする量または長くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。
【0089】
一方、ステップS104では、第二運転リッチ目標空燃比AF3を初期値よりも高くする。すなわち、第二運転リッチ目標空燃比AF3を理論空燃比へ近づける。このときには、SCR触媒9へアンモニアを供給する必要がないため、HC被毒の回復を優先させる空燃比とすることができる。すなわち、HC被毒回復速度が速くなるように、第二運転リッチ目標空燃比AF3が理論空燃比に近づくようにする。このときの第二運転リッチ目標空燃比AF3の上昇量または上昇率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。なお、本ステップでは、空燃比変動周期TAを短くしてもよい。この場合の空燃比変動周期TAを短くする量または短くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。さらに、本ステップでは、リッチ空燃比の継続時間を短くしてもよい。リッチ空燃比の継続時間を短くする量または短くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。
【0090】
次に、ステップS105では、要求アンモニア量が閾値以上であるか否か判定される。閾値は、アンモニアの生成を優先させる要求アンモニア量の下限値として予め実験またはシミュレーション等により求めておく。なお、アンモニアの生成と、HC被毒の回復と、のどちらをどれだけ優先させるのかは、NOx排出量やHC排出量などに係る法規に基づいて決定してもよい。
【0091】
ここで、アンモニアの生成を優先させることにより、第二運転中のNOxの浄化率を向上させることができる。一方、HC被毒の回復を優先させることにより、速やかにHC被毒を回復することができるので、三元触媒7におけるHCの浄化能力を速やかに回復させることができる。さらに、リーン目標空燃比へ移行するまでの期間を短縮することができるので、燃費を向上させることができる。
【0092】
ステップS105で肯定判定がなされた場合には、ステップS106へ進んで、第二運転リッチ目標空燃比AF3をさらに低くする。また、空燃比変動周期TAを長くしてもよい。このときの第二運転リッチ目標空燃比AF3の低下量若しくは低下率、または、空燃比変動周期TAを長くする量若しくは長くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。さらに、本ステップでは、リッチ空燃比の継続時間を長くしてもよい。リッチ空燃比の継続時間を長くする量または長くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。
【0093】
一方、ステップS105で否定判定がなされた場合には、ステップS107へ進んで、第二運転リッチ目標空燃比AF3を高くする。また、空燃比変動周期TAを短くしてもよい。このときの第二運転リッチ目標空燃比AF3の上昇量若しくは上昇率、または、空燃比変動周期TAを短くする量若しくは短くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。さらに、本ステップでは、リッチ空燃比の継続時間を短くしてもよい。リッチ空燃比の継続時間を短くする量または短くする率は、予め実験またはシミュレーション等により最適値を求めておく。なお、ステップS105では、第二運転リッチ目標空燃比AF3を初期値に戻してもよい。
【0094】
なお、本実施例では、ステップS102、ステップS103、ステップS104を省略
することもできる。
【0095】
また、ステップS105における判定は、以下のような判定に変更してもよい。すなわち、ステップS105において、SCR触媒9におけるアンモニア吸着量から、SCR触媒9へ流入するNOxを還元させるために必要となるアンモニア量を減算した値が、閾値以下であるか否か判定してもよい。このSCR触媒9へ流入するNOxに代えて、三元触媒7を通過するNOx、または、NSR触媒8を通過するNOxとしてもよい。この場合の閾値は、NOx浄化率が許容範囲よりも低下する虞のある値の下限値である。このようにすることで、NOxを浄化可能な量のアンモニアが吸着されている状態を維持することができる。これにより、NOx浄化率が低下することを抑制できる。
【0096】
なお、
図8に示したフローでは、ステップS105において要求アンモニア量が閾値以上であるか否か判定し、この結果によって、第二運転リッチ目標空燃比AF3を変化させているが、これに代えて、要求アンモニア量が多いほど、第二運転リッチ目標空燃比AF3を低くしてもよく、または、要求アンモニア量が多いほど、リッチ空燃比の継続時間を長くしてもよい。また、ステップS105において要求アンモニア量が閾値以上であるか否か判定した上で、ステップS106及びステップS107において、要求アンモニア量が多いほど、第二運転リッチ目標空燃比AF3を低くしてもよく、または、要求アンモニア量が多いほど、リッチ空燃比の継続時間を長くしてもよい。
【0097】
以上説明したように、本実施例によれば、リッチ空燃比での運転から第一運転及び第二運転を経てリーン目標空燃比での運転へ切り換わるため、HC被毒を早期に回復させることができる。さらに、第二運転中にアンモニアの生成を優先させつつHC被毒を回復させることができるため、第二運転中のNOx浄化率の低下を抑制できる。また、アンモニアの生成を優先させる必要のない場合には、三元触媒7のHC被毒回復を優先させることにより、HC被毒をより速やかに回復させることができる。