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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-194253(P2015-194253A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】歯付ベルト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/28 20060101AFI20151009BHJP
   F16G 1/08 20060101ALI20151009BHJP
   F16G 1/00 20060101ALI20151009BHJP
   B29D 29/08 20060101ALI20151009BHJP
【FI】
   F16G1/28 G
   F16G1/08 D
   F16G1/00 D
   F16G1/00 E
   B29D29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-49909(P2015-49909)
(22)【出願日】2015年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2014-70041(P2014-70041)
(32)【優先日】2014年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(72)【発明者】
【氏名】林 茂彦
(72)【発明者】
【氏名】上野 明宏
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA04
4F213AA24
4F213AA45
4F213AB22
4F213AD16
4F213AG17
4F213AR12
4F213WA41
4F213WA57
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】高い耐久性、特に耐摩耗性及び耐歯欠け性を有する歯付ベルト及びその製造方法を提供する。
【解決手段】歯付ベルト1は、歯付プーリと噛合可能な歯部2と、この歯部を被覆する歯布5とを備えており、前記歯布5が、シランカップリング剤などの加水分解縮合性基を有するシラン化合物で処理(含浸処理)されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯付プーリと噛合可能な歯部と、この歯部を被覆する歯布とを備えており、前記歯布が、加水分解縮合性基を有するシラン化合物で処理されている歯付ベルト。
【請求項2】
シラン化合物がシランカップリング剤であり、このシランカップリング剤が歯布に含浸され、かつ重縮合している請求項1記載の歯付ベルト。
【請求項3】
シラン化合物が、アミノ基を有するシランカップリング剤である請求項1又は2記載の歯付ベルト。
【請求項4】
歯布を形成する繊維が、セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維から選択された少なくとも一種を含む請求項1〜3のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項5】
歯布の織り組織が、平織、綾織、又は朱子織である請求項1〜4のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項6】
歯部を形成するゴム組成物のゴム成分が、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン及びアルキルクロロスルホン化ポリエチレンから選択された少なくとも一種を含む請求項1〜5のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項7】
歯布に対するシラン化合物の含浸量が、歯布の単位面積当たり1〜60mg/cmである請求項1〜6のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項8】
歯布に対するシラン化合物の含浸深さが100〜1000μmである請求項1〜7のいずれかに記載の歯付ベルト。
【請求項9】
歯付プーリと噛合可能な歯部を被覆する歯布に、加水分解縮合性基を有するシラン化合物を含浸させる工程を含む歯付ベルトの製造方法。
【請求項10】
シラン化合物を含浸させた後、歯布に付着したシラン化合物を除去する除去工程と、シラン化合物を反応させる工程を含む請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10記載の製造方法により得られた歯付ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動面(噛み合い伝動面)が繊維材料(歯布)で被覆された歯付ベルトに関し、前記繊維材料の摩擦抵抗を長期に亘り低減可能な歯付ベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト伝動システムにおいて、伝動ベルトとして、プーリと噛み合わせるための歯部を有する歯付ベルト(タイミングベルト)が使用されている。例えば、この歯付ベルトは、自動車用エンジンのカム軸、及びポンプ類(インジェクションポンプ、オイルポンプ、水ポンプなど)などの補機類を同時に駆動するために利用されている。このような歯付ベルト(タイミングベルト)には、エンジンの高出力化やエンジンルームのコンパクト化に伴って使用条件が一層厳しくなり、耐久性の更なる向上が要求されている。また、一般産業用機械に使用される歯付ベルトも同様であり、ベルトの取り替え周期の延長が要求されている。
【0003】
このような歯付ベルトの故障形態は、心線の疲労によるベルトの切断と、過負荷や歯布摩耗による歯欠けとに大別される。心線の疲労による切断に対しては、ベルト側の改良(アラミド心線や高強度ガラスの細径心線の使用、耐熱性に優れる水素化ニトリルゴム(H−NBR)配合物の使用)、エンジン側の改良(ベルト張力を始動時及び走行時共に一定に保つオートテンショナーの使用)などによる改良がなされ、切断故障の発生は減少している。
【0004】
また、過負荷や歯布摩耗による歯欠けに対しては、歯付ベルトのプーリ接触面である歯部を補強することで、耐摩耗性に起因して生じる歯欠けを抑制し、その結果耐久性を向上させる先行技術として以下のものがある。
【0005】
特開2000−240730号公報(特許文献1)には、歯部の表面を被覆する歯布に、歯部と同種のゴムにフッ素ゴムを混合したゴム組成物(ゴム糊)を含浸付着させて加硫した歯付ベルトが記載され、特開2013−108564号公報(特許文献2)には、水素添加ニトリルゴムとレゾルシノールとメラミン化合物などを含むゴム組成物を加硫成形して歯部を形成することが記載されている。特開2009−127173号公報(特許文献3)には、長さ方向にポリエチレンナフタレート繊維を含む歯布が配置された歯付きベルトが記載され、特開2010−210088号公報(特許文献4)には、歯部を帆布及びゴムシートの歯面保護層で覆うことが記載され、特開2001−32887号公報(特許文献5)には、歯布に、接着成分とゴム成分とフッ素樹脂粉末を含む粉末状減摩材とを含浸させ、歯布の摩擦係数を低減することが提案されている。
【0006】
これらの文献に記載の技術はそれぞれ効果的である。しかし、近年、要求される高い耐久性のレベルからすると、耐摩耗性が十分ではない。特に、過酷な条件下(高温高負荷などの条件下)での走行において、高い耐久性(高い耐摩耗性、耐歯欠け性など)を維持できない。
【0007】
一方、シラン化合物によりゴム表面を改質(耐摩耗性、接着性、撥水撥油性、耐溶剤性の向上)することも提案されている。例えば、特開平11−166060号公報(特許文献6)には、アルコキシシランを含有する補強剤液を加硫ゴムに塗工し、塗工面に、水及び触媒を含有する混合液を塗工し、加硫ゴムの表面層で、アルコキシシランの加水分解重縮合体を生成させ、ゴムの表面を改質することが記載され、国際公開2002/038655号(特許文献7)には、シランカップリング剤を含む溶液に廃棄加硫ゴムを浸漬してゴム表面の接着性を改良し、リサイクル材料として表面改質ゴムを得ることが記載され、特開2004−352742号公報(特許文献8)には、フッ素含有シランカップリング剤と、多官能性アルコキシシランと、シランカップリング剤と、溶剤とを含有する表面処理組成物でゴム表面を処理することが記載されている。特開平11−335493号公報(特許文献9)には、無機充填剤が分散した架橋ゴムを、アルコキシシランを含む補強剤液中に浸漬して膨潤させ、膨潤した架橋ゴムを触媒水中に浸漬してアルコキシシランの加水分解重縮合体を生成させることが記載されている。
【0008】
しかし、これらの文献には、シランカップリング剤と歯付ベルトとの関係については記載されていない。特に、歯付ベルトの歯部の歯欠けを抑制して、耐久性を向上させることについては記載されていない。また、これらの文献に記載の方法では、複数種の化合物を組み合わせて使用する必要があったり、工程が複雑であるため、簡便かつ高い生産性で歯付ベルトを製造することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−240730号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2013−108564号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2009−127173号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2010−210088号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2001−32887号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開平11−166060号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】国際公開2002/038655号(特許請求の範囲)
【特許文献8】特開2004−352742号公報(特許請求の範囲)
【特許文献9】特開平11−335493号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、高い耐久性、特に耐摩耗性及び耐歯欠け性を有する歯付ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、高温高負荷などの極めて過酷な条件下での走行であっても、高い耐摩耗性及び耐歯欠け性を維持できる歯付ベルト及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、前記のような優れた特性を有する歯付ベルトを簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、歯付ベルトのプーリ接触面である歯布をシラン化合物で含浸処理すると、歯布の摩擦係数を低減でき、耐摩耗性を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の歯付ベルトは、歯付プーリと噛合可能な歯部と、この歯部を被覆する歯布とを備えており、前記歯布が、加水分解縮合性基を有するシラン化合物で処理(含浸又は浸透処理)されている。
【0015】
シラン化合物は、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤などのシランカップリング剤であってもよい。このようなシランカップリング剤は少なくとも歯布の表面に含有されていてもよい。シランカップリング剤は歯布に含浸され、かつ重縮合していてもよい。シランカップリング剤は、歯布を構成する繊維やゴム組成物と相互作用する(又は反応可能な)有機官能基と、加水分解とそれに続く脱水又は脱アルコール縮合可能なアルコキシ基とを有している。そのため、シランカップリング剤を歯布に含浸させて、反応(例えば、加熱して反応)させることにより、歯布を構成する繊維同士、及び/又は繊維とゴム組成物との間に(ポリ)シロキサン又はシルセスキオキサン骨格を形成し、繊維同士及び/又は繊維とゴム組成物とを強固に結合するとともに、(ポリ)シロキサン結合で歯布表面を覆うことができると考えられる。すなわち、歯布の表面及び/又は歯布の構成繊維間をシランカップリング剤で処理すること(すなわち、シランカップリング剤の含浸及び縮合反応)により、歯布を補強できるとともに、繊維とゴム組成物とを強固に結合でき、摩擦係数を低減させることができる。従って、歯付ベルトの歯部の耐摩耗性を有効に向上でき、歯付ベルトの耐久性を大きく改善できる。
【0016】
歯布を形成する繊維は、例えば、セルロース系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維などから選択された少なくとも一種を含んでいてもよく、歯布の織り組織は、平織、綾織、又は朱子織であってもよい。さらに、歯部を形成するゴム組成物のゴム成分は、例えば、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、クロロプレンゴム(CR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)及びアルキルクロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)から選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。
【0017】
なお、歯布に対するシラン化合物の処理量(含浸量)は、歯布の単位面積当たり1〜60mg/cm程度であってもよい。また、歯布に対するシラン化合物の含浸深さは、100〜1000μm程度であってもよい。
【0018】
本発明は、歯付ベルトの歯布にシラン化合物を含浸させる含浸工程を含む前記歯付ベルトの製造方法も含む。例えば、歯付プーリと噛合可能な歯付ベルトの歯布の表面をシラン化合物と所定時間接触させ、歯布の表面又は歯布を構成する繊維間にシラン化合物又はその縮合反応物を含有させてもよい。
【0019】
本発明の製造方法は、シラン化合物を含浸させた後、歯布の表面に付着したシラン化合物(過剰のシラン化合物)を除去する除去工程を含んでいてもよく、シラン化合物を反応させる工程(又は縮合工程、熱処理又は加熱工程)を含んでいてもよい。本発明は、この製造方法により得られた歯付ベルトも包含する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、歯付ベルトの歯布にシラン化合物を含浸しているため、歯布の摩擦係数を低減でき、歯付ベルトの耐摩耗性を向上できる。そのため、歯付ベルトの耐久性(特に、耐摩耗性及び耐歯欠け性)を向上できる。特に、高温高負荷などの極めて過酷な条件下での走行であっても、高い耐久性を維持できる。さらに、この歯付ベルトは、歯布にシラン化合物を接触(含浸処理)させるという簡便な方法で製造できるため、生産性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は本発明に係る歯付ベルトの一例を示す断面斜視図である。
図2図2はシランカップリング剤で浸漬処理後の試験片の走査型電子顕微鏡写真である。
図3図3はシランカップリング剤で浸漬処理後の試験片のSiKα線像である。
図4図4は実施例1の歯付ベルトの走査型電子顕微鏡写真である。
図5図5は実施例1の歯付ベルトのSiKα線像である。
図6図6は走行試験装置を示す概略図である。
図7図7は走行試験(走行時間:1500時間)後の実施例1の歯付ベルトの歯部の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図8図8は走行試験(走行時間:1500時間)後の実施例1の歯付ベルトの歯部断面の表面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図8(a)は歯部の前側(走行方向の前側)の走査型電子顕微鏡写真、図8(b)は歯部の後側(走行方向の後側)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図9図9は走行試験(走行時間:1500時間)後の実施例2の歯付ベルトの歯部の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図10図10は走行試験(走行時間:1500時間)後の実施例2の歯付ベルトの歯部断面の表面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図10(a)は歯部の前側(走行方向の前側)の走査型電子顕微鏡写真、図10(b)は歯部の後側(走行方向の後側)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図11図11は走行試験(走行時間:200時間)後の比較例の歯付ベルトの歯部の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図12図12は走行試験(走行時間:200時間)後の比較例の歯付ベルトの歯部断面の表面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図12(a)は歯部の前側(走行方向の前側)の走査型電子顕微鏡写真、図12(b)は歯部の後側(走行方向の後側)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図13図13は走行試験(走行時間:1500時間)後の比較例の歯付ベルトの歯部の断面の走査型電子顕微鏡写真を示す。
図14図14は走行試験(走行時間:1500時間)後の比較例の歯付ベルトの歯部断面の表面の走査型電子顕微鏡写真を示し、図14(a)は歯部の前側(走行方向の前側)の走査型電子顕微鏡写真、図14(b)は歯部の後側(走行方向の後側)の走査型電子顕微鏡写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は本発明に係る歯付ベルトの一例を示す断面斜視図であり、歯付ベルト1は、ベルトの長手方向(図中矢印)に沿って所定の間隔で形成された複数の歯部2と、ベルトの長手方向に沿って複数の心線3が埋設された背部4とを備えており、上記歯部2の表面には歯布5が貼着(被覆又は積層)されている。なお、歯部2は、縦断面形状が台形状に形成されている。さらに、歯布5は、ベルト1の長手方向に延びる複数の緯糸6と、ベルト1の横方向に延びる経糸7とで構成されている。
【0023】
なお、歯付ベルトの形状は、図1に示す構造に限定されず、ベルトの少なくとも一方の面に、ベルトの長手方向に所定の間隔をおいて形成され、かつ歯状プーリと噛合可能な複数の歯部又は凸部を有していればよい。歯部又は凸部の断面形状(ベルトの長手方向又は幅方向の断面形状)は、前記台形に限定されず、歯状プーリの形態などに応じて、例えば、半円形、半楕円形、多角形(三角形、四角形(矩形など)など)などであってもよい。また、長手方向に隣り合う歯部又は凸部の間隔は、歯状プーリの形態などに応じて、例えば、1〜10mm、好ましくは2〜8mm程度であってもよい。
【0024】
なお、以下の説明では、歯部と凸部とを同義に扱い、図1に示す構造の歯付ベルトの各要素について説明する。
【0025】
[歯部2及び背部4]
(ゴム組成物)
ベルト本体(歯部2及び背部4)はゴム組成物で形成され、このゴム組成物は、ゴム成分と必要に応じて含有される添加剤とを含んでいる。
【0026】
ゴム成分の種類は、特に制限されず、例えば、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴム、アクリル系ゴム、フッ素ゴム、シリコーン系ゴム、ウレタン系ゴム、エピクロロヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム[クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、アルキルクロロスルホン化ポリエチレン(ACSM)など]、オレフィン−ビニルエステル共重合体(例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EAM)など)などであってもよい。これらのゴム成分は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
ジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、イソブチレン−イソプレンゴム(ブチルゴム)(IIR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)などのジエン系単量体の重合体;アクリロニトリル−ブタジエンゴム(ニトリルゴム)(NBR)、アクリロニトリル−クロロプレンゴム(NCR)、アクリロニトリル−イソプレンゴム(NIR)、アクリロニトリル−イソプレン−ブタジエンゴム(NBIR)などのアクリロニトリル−ジエン共重合ゴム;スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−クロロプレンゴム(SCR)、スチレン−イソプレンゴム(SIR)などのスチレン−ジエン共重合ゴムなどが挙げられる。
【0028】
ジエン系ゴムは水添物であってもよい。水添物としては、例えば、水素化ニトリルゴム(H−NBR)などが挙げられる。さらに、H−NBRは、不飽和カルボン酸金属塩を含んでいてもよい。SBRなどのスチレン−ジエン共重合ゴムには、スチレンとジエン(ブタジエンなど)とのランダム共重合体、スチレンブロックとジエンブロック(ブタジエンブロックなど)とのブロック共重合体なども含まれる。これらのジエン系ゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0029】
オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン−α−オレフィンゴム、エチレン−α−オレフィン−ジエンゴムなどが挙げられる。α−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンなどの鎖状α−C3−12オレフィンなどが挙げられる。これらのα−オレフィンのうち、プロピレンなどのα−C3−4オレフィン(特にプロピレン)が好ましい。ジエンモノマーとしては、通常、非共役ジエン系単量体、例えば、ジシクロペンタジエン、メチレンノルボルネン、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエンなどが例示できる。これらのジエンモノマーのうち、エチリデンノルボルネン、1,4−ヘキサジエン(特に、エチリデンノルボルネン)が好ましい。
【0030】
代表的なオレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン−プロピレンゴム(EPR)、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDMなど)などが例示できる。これらのオレフィン系ゴムは、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0031】
さらに、これらのゴム成分は、カルボキシル基などの官能基又は反応性基が導入された変性ゴム(例えば、CR、NBR、NCR、SBR、SCR、H−NBRなど)であってもよい。
【0032】
これらのゴム成分のうち、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム(CSM、ACSMなど)、ジエン系ゴム(NBR、CR、H−NBRなど)、オレフィン系ゴム(EPDM、EPRなど)などを使用する場合が多い。ベルト本体(歯部2及び背部4)を形成するゴム成分は、使用条件などに応じて選択される。例えば、一般産業用機械に用いる歯付ベルトには、ジエン系ゴム[NR、IR、CR、NBR、SBR、H−NBRなど]、オレフィン系ゴム[EPDM、EPRなど]、フッ素ゴム、シリコーンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム[CSM、ACSMなど]などが利用できる。また、過酷な条件下で使用されるベルト(例えば、自動車エンジン用、各種エンジン用の歯付ベルト)では、耐熱性と耐油性とを備えたゴム成分、例えば、ジエン系ゴム[H−NBR、CRなど]、クロロスルホン化ポリエチレン系ゴム[CSM、ACSMなど]などが使用できる。
【0033】
(添加剤又は配合剤)
ベルト本体(歯部2及び背部4)を形成するゴム組成物は、必要に応じて、慣用の各種添加剤(又は配合剤)を含んでいてもよい。
【0034】
添加剤としては、例えば、加硫剤又は架橋剤[例えば、オキシム類(キノンジオキシムなど)、グアニジン類(ジフェニルグアニジンなど)、金属酸化物(酸化マグネシウム、酸化亜鉛など)、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)など]、加硫助剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、補強剤(カーボンブラック、含水シリカなどの酸化ケイ素など)、金属酸化物(例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウムなど)、充填剤(クレー、炭酸カルシウム、タルク、マイカなど)、可塑剤、軟化剤(パラフィンオイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤又は加工助剤(ステアリン酸、ステアリン酸金属塩、ワックス、パラフィンなど)、老化防止剤(芳香族アミン系、ベンズイミダゾール系老化防止剤など)、接着性改善剤[レゾルシン−ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなどのメラミン樹脂、これらの共縮合物(レゾルシン−メラミン−ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、着色剤、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤など)、潤滑剤、難燃剤、帯電防止剤などが例示できる。ゴム組成物は、必要であれば、短繊維(綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)などの短繊維)を含んでいてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用でき、ゴム成分の種類や用途、性能などに応じて選択できる。
【0035】
添加剤の割合は、ゴム成分の種類などに応じて適宜選択できる。例えば、補強剤(カーボンブラックなど)の割合は、ゴム100質量部に対して、10質量部以上(例えば、20〜150質量部)、好ましくは25〜120質量部、さらに好ましくは35〜100質量部(例えば、35〜80質量部)程度であってもよい。
【0036】
なお、歯部2と背部4とを形成するゴム組成物は、歯部2と背部4との密着性が損なわれない限り、異なるゴム組成物であってもよく、同じゴム組成物であってもよい。通常、歯部2と背部4とは、同系列のゴム(例えば、ジエン系ゴムに属し、かつ種類の異なるゴムなど)又は同種のゴム成分(例えば、同種のジエン系ゴムなど)を含む場合が多い。
【0037】
(心線3)
ベルト本体には、走行の安定性及びベルト強度などの点から、ベルトの長手方向に沿って延びる心線(通常、複数の心線)が埋設されている。
【0038】
心線を形成する繊維としては、特に制限されず、例えば、ポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維、ポリパラフェニレンナフタレート)、ポリベンゾオキサゾール繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維(スチール繊維)などの無機繊維などが例示できる。これらの繊維は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。心線を形成する繊維としては、低伸度高強度の点から、例えば、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維などの合成繊維、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、一般に、ガラス心線及びアラミド心線が使用される。ガラス心線の組成は、特に制限されず、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)、Cガラスなどであってもよい。
【0039】
心線(抗張体)としては、通常、マルチフィラメント糸の撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど)を使用できる。フィラメントの太さ、フィラメントの収束本数及びストランド本数は特に制限されず、心線の平均線径(撚りコードの繊維径)は、例えば、0.5〜3mm、好ましくは0.6〜1mm、さらに好ましくは0.7〜0.8mm程度であってもよい。
【0040】
複数の心線は、ベルトの幅方向に所定の間隔(又はピッチ)をおいて(又は等間隔で)埋設されていてもよい。隣接する心線の間隔(スピニングピッチ)は、心線の径に応じて、例えば、0.5〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mm程度であってもよい。
【0041】
心線には、ゴム成分との接着性を改善するため、種々の接着処理剤(例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物など)による接着処理を施してもよく、サイジング剤、後述のRFL処理液、オーバーコート剤などで表面処理してもよい。保護剤(前記サイジング剤、RFL処理液、オーバーコート剤など)でガラス繊維などをコートし、屈曲に伴うガラス繊維の折れを抑制してもよい。
【0042】
(歯布5)
プーリ接触面である歯付ベルト1の歯部2には、歯布5が被覆又は積層され、歯布5は歯部2と一体化している。
【0043】
歯布5の緯糸6及び経糸7を形成する繊維としては、例えば、セルロース系繊維[セルロース繊維(綿などの植物、動物又はバクテリア由来のセルロース繊維)、レーヨンなどの再生セルロース繊維、セルロースエステル繊維など]、ポリオレフィン繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体の繊維、ビニロンなど)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維などの芳香族ポリアミド繊維)、ポリエステル系繊維[例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリプロピレンテレフタレート(PPT)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのC2−4アルキレンC6−14アリレート系繊維;ポリアリレート系繊維、液晶ポリエステル系繊維などの完全芳香族ポリエステル系繊維など]、ポリフェニレンエーテル系繊維、ポリエーテルエーテルケトン系繊維、ポリエーテルスルホン系繊維、ポリベンゾオキサゾール系繊維(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維など)、ポリウレタン系繊維、炭素繊維などの無機繊維などが例示できる。これらの繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0044】
これらの繊維のうち、綿やレーヨンなどのセルロース系繊維、ポリエステル系繊維(PET繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)、ポリベンゾオキサゾール系繊維などが汎用される。特に、過酷な条件で使用してもベルトの寿命を長くするため、少なくともポリアミド系繊維(ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維、アラミド繊維など)が好ましく使用される。
【0045】
繊維の形態は、特に制限されず、フィラメント糸又は紡績糸のいずれであってもよく、単独組成の繊維の撚糸又は混撚糸、混紡糸などであってもよい。
【0046】
歯布を構成する繊維(又は糸)の平均径は、シラン化合物が各繊維間に浸透又は含浸可能な太さであればよく、例えば、5〜100μm、好ましくは10〜50μm程度であってもよい。また、繊維で形成された糸(撚糸)の平均繊維径(太さ)は、例えば、緯糸では、100〜1000dtex(例えば、200〜800dtex)、好ましくは300〜700dtex(例えば、400〜600dtex)程度であってもよく、経糸では、50〜500dtex(例えば、75〜400dtex)、好ましくは100〜300dtex(例えば、100〜200dtex)程度であってもよい。
【0047】
歯布の織成構成(織り組織)は、シラン化合物が浸透又は含浸可能であればよく、例えば、綾織(斜文織)、朱子織(繻子織、サテン)、平織などの組織であってもよい。このような織り組織は、シラン化合物を含浸させる上で有用である。なお、綾織及び朱子織組織は、平織組織よりも繊維(又は糸)の接点の数が少なく、シラン化合物の含浸性が高いようである。
【0048】
緯糸の密度(本/cm)は、例えば、5〜50(例えば、10〜40)、好ましくは15〜35(例えば、20〜30)程度であってもよく、経糸の密度(本/cm)は、例えば、10〜300(例えば、20〜250)、好ましくは25〜100(例えば、30〜70)程度であってもよい。
【0049】
歯布の厚みは、特に制限されず、例えば、0.3〜1.5mm(例えば、0.5〜1.3mm)、好ましくは0.6〜1.2mm程度であってもよい。
【0050】
ベルト本体(歯部2及び背部4)と歯布との接着性を高めるために、歯布には接着処理を施してもよい。接着処理としては、例えば、エポキシ化合物(又は樹脂)、イソシアネート化合物(又はポリイソシアネート)、シランカップリング剤などの反応性接着成分と有機溶媒(トルエン、キシレン、メチルエチルケトンなど)とを含む処理液に歯布を浸漬処理する方法;RFL処理液などの水系処理液に歯布を浸漬処理する方法;ゴム組成物を有機溶媒に溶かしてゴム糊とし、このゴム糊に歯布を浸漬処理して、歯布にゴム組成物を含浸、付着させる方法などが例示できる。これらの方法は、単独で又は組み合わせて行うこともでき、処理順序や処理回数は特に限定されない。また、接着処理した歯布とベルト本体のゴムとの接着性をより高めるために、歯布とゴム組成物とをカレンダロールに通して歯布にベルト本体のゴム組成物を刷り込む処理や、歯布のうち歯部との接着面側にゴム組成物を積層する処理を施してもよい。なお、歯布に含浸するゴム組成物(又は歯布に刷り込む又は歯部との接着面に積層するゴム組成物)としては、前記ベルト本体(歯部2及び背部4)を形成するゴム組成物と同種又は異種のゴム組成物が使用できる。ゴム組成物としては、前記ベルト本体(歯部2及び背部4)と同種のゴム組成物を用いる場合が多い。
【0051】
なお、RFL処理液は、レゾルシンとホルマリンとの初期縮合物をラテックスに混合した混合物であり、ラテックスは、特に制限されず、例えば、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、エピクロルヒドリンゴムなどであってもよい。
【0052】
(歯布のシラン処理)
(シラン化合物)
シラン化合物を含む含浸処理剤で歯布を処理すると、歯布とプーリとの摩擦抵抗を軽減するとともに、歯布を補強又は強化でき、歯付ベルトの耐摩耗性を向上できる。さらに、歯布と歯部との耐久性を向上でき、過酷な条件で走行させても、歯付ベルトの耐摩耗性及び耐歯欠け性を大きく改善できる。
【0053】
シラン化合物としては、歯布とプーリとの摩擦係数を低減するとともに、歯布を補強又は強化するため、加水分解縮合性基を有するシラン化合物が利用できる。
【0054】
シラン化合物の加水分解縮合性基としては、ヒドロキシル基(シラノール基);メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などの直鎖状又は分岐鎖状C1−4アルコキシ基(特に、C1−2アルコキシ基);塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子などが例示できる。加水分解縮合性基は、メトキシ基、エトキシ基である場合が多い。
【0055】
加水分解縮合性基を有するシラン化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどのテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシランなどのアルキルアルコキシシラン(及びこれらに対応するアルキルヒドロキシシランやアルキルハロシラン、例えば、メチルトリシラノール、ジメチルジシラノールなどのジ又はトリC1−4シラノール、メチルトリクロロシランなどのC1−4アルキルトリクロロシランなど);フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシランなどのアリールアルコキシシラン(及びこれらに対応するアリールヒドロキシシランやアリールハロシラン);トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、トリクロロプロピルトリメトキシシランなどのトリハロC1−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、パークロロオクチルエチルトリメトキシシランなどのパーハロアルキルC1−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシランなどのクロロC1―4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどであってもよい。好ましいシラン化合物は、歯布の繊維及び/又はゴム成分に対して相互作用する有機官能基(極性基)、特に反応可能な反応性官能基を有するシランカップリング剤である。
【0056】
シランカップリング剤には、ハロゲン含有シランカップリング剤、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、イソシアネート基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、カルボキシル基含有シランカップリング剤、エチレン性不飽和結合基含有シランカップリング剤などが含まれる。
【0057】
アミノ基含有シランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどのアミノC2−4アルキル−C1−4アルキルジC1−4アルコキシシラン、2−アミノエチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルメチルジメトキシシラン[又はN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン]などのアミノC2−4アルキルアミノ−C2−4アルキル−C1−4アルキルジC1−4アルコキシシラン、3−[N−(2−アミノエチル)アミノ]プロピルトリメトキシシラン[又はN−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン]などのアミノC2−4アルキルアミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのN−アリールアミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0058】
エポキシ基含有シランカップリング剤としては、例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどの脂環式エポキシ基を有するC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルメチルジエトキシシランなどのグリシジルオキシC2−4アルキル−C1−4アルキルジC1−4アルコキシシラン、2−グリシジルオキシエチルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシジルオキシC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、3−(2−グリシジルオキシエトキシ)プロピルトリメトキシシランなどの(グリシジルオキシC1−4アルコキシ)C2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0059】
イソシアネート基含有シランカップリング剤としては、例えば、3−イソシアネートプロピルトリメキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのイソシアネートC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0060】
ウレイド基含有シランカップリング剤としては、例えば、3−ウレイドイソプロピルトリメトキシシシラン、3−ウレイドイソプロピルトリエトキシシランなどのウレイドC2−4アルキルC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0061】
メルカプト基含有シランカップリング剤としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプトC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0062】
カルボキシル基含有シランカップリング剤としては、例えば、2−カルボキシエチルトリメトキシシランなどのカルボキシC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0063】
エチレン性不飽和結合基含有シランカップリング剤としては、例えば、ビニル基又は(メタ)アクリロイル基を有する化合物、例えば、ビニルトリメトキシシランなどのビニルトリC1−4アルコキシシラン、2−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどの(メタ)アクリロキシC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリロキシC2−4アルキル−C1−4アルキルジC1−4アルコキシシランなどが挙げられる。
【0064】
これらのシラン化合物(又はシランカップリング剤)は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのシランカップリング剤のうち、歯布の繊維及びゴム成分との相互作用が強い官能基(例えば、繊維に対して反応性を有する官能基)を有するシランカップリング剤、例えば、アミノ基、エポキシ基、イソシアネート基、ウレイド基、メルカプト基、又はカルボキシル基を有するシランカップリング剤が好ましく、アミノC2−4アルキルC1−4アルコキシシランなどのアミノ基含有シランカップリング剤[例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノC2−4アルキルトリC1−4アルコキシシラン(特にアミノC2−4アルキルトリC1−2アルコキシシラン)]が特に好ましい。
【0065】
このようなシランカップリング剤は、歯布に含浸され、かつ重縮合している。すなわち、シランカップリング剤を歯布に含浸させて、反応(例えば、加熱して反応)させることにより、歯布の繊維同士、及び/又は繊維とゴム組成物とを、重縮合により生成する(ポリ)シロキサン又はシルセスキオキサン骨格を介して、強固に結合できるとともに、歯布表面を(ポリ)シロキサン結合で覆うことができる。より詳細には、シランカップリング剤を用いると、歯布の繊維(例えば、ポリアミド、ポリエステル、セルロースなどの繊維)及び/又はゴム成分(例えば、NBR、H−NBR、CRなどのゴム)に残存する極性基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子、シアノ基、ハロスルホニル基などの反応性基)とシランカップリング剤の反応性官能基とを反応させることができるとともに、加水分解縮合性基を利用して架橋又は硬化でき、歯布を有効に補強できる。また、加水分解縮合性基の加水分解及び縮合反応に伴って、シランカップリング剤が歯布の繊維及び/又はゴム成分と反応することもある。そのため、短時間の含浸とその後の処理で補強効果を発現できる。
【0066】
なお、エチレン性不飽和結合基含有シランカップリング剤を含む含浸処理剤に、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイドなど)などのラジカル重合開始剤を含有させると、歯布に含浸させて加熱して重合することにより、ベルト本体のゴム成分と共加硫することもできる。
【0067】
さらに、シラン化合物を含む含浸処理剤は、触媒と併用してもよい。例えば、加水分解縮合性基の縮合反応を促進するため、適量の水(例えば、3〜25質量%程度の水)や、触媒(塩酸などの無機酸、酢酸などの有機酸などの酸触媒)を含んでいてもよい。また、含浸処理剤は、前記歯布の繊維及び/又はゴム成分の極性基(反応性基)とシランカップリング剤の官能基との組合せに応じて、極性基(反応性基)と官能基との反応を促進するための触媒を含有していてもよい。
【0068】
室温で液状のシラン化合物は、そのまま、歯布の処理に用いてもよく、シラン化合物は、溶媒(水、有機溶剤など)で希釈して液状の希釈混合液の形態で使用してもよい。希釈混合液において、シラン化合物の濃度は、例えば、0.5質量%以上、好ましくは2質量%以上(例えば、5質量%以上)、さらに好ましくは10質量%以上(例えば、20質量%以上)である。希釈混合液のシラン化合物の濃度は、通常、30質量%以上(特に50質量%以上)である。なお、加水分解縮合性基を有するシラン化合物(特に、シランカップリング剤)は、必要であれば、溶媒中で予備的に縮合させた予備縮合体の形態で使用してもよい。
【0069】
(シラン化合物の含浸)
歯布に対してシラン化合物を接触(又は処理)させることにより、歯布にシラン化合物を含浸又は浸透させることができる。シラン化合物による接触又は処理方法(又は含浸方法)は、特に制限されず、歯布を液状のシラン化合物に浸漬する方法、スプレーや刷毛塗りなどで塗布又は噴霧する方法などであってもよい。簡便な方法は浸漬法である。浸漬法では、歯布の少なくとも一部の表面を浸漬してもよく、少なくとも表面全体、特に歯布全体を浸漬してもよい。なお、揮発性の高いシラン化合物を用いる場合は、シラン化合物が蒸発するのを抑制するため、接触又は含浸面をカバーなどで覆ってもよい。また、接触温度(又は含浸温度)は、特に制限されず、歯布の内部へのシラン化合物の浸透又は含浸を促進するため、歯布及び/又はシラン化合物を30〜70℃程度に加温又は加熱してもよいが、通常、室温である場合が多い。また、歯布に対するシラン化合物の接触(又は含浸)は、常圧、加圧下又は減圧下で行ってもよく、例えば、減圧下で歯布を収容する容器内にシラン化合物を導入してもよい。
【0070】
歯布とシラン化合物との接触時間(又は含浸時間)は、特に制限されず、例えば、1分〜6時間程度であってもよく、歯布の内部にシラン化合物を浸透させるためには、例えば、10分〜3時間、好ましくは30分〜2時間程度であってもよい。
【0071】
シラン化合物による歯布の処理は、ベルトの成形工程の任意の工程で行ってもよく、例えば、(a)予め歯布をシラン化合物で接触処理(含浸処理)してベルトの成形に供してもよく、(b)歯布を備えたベルト本体を加硫成形した加硫スリーブの歯布部をシラン化合物で接触処理してもよく、(c)この加硫スリーブを所定幅に切断して調製した歯付ベルトの歯布部をシラン化合物で接触処理してもよい。なお、前記(a)の方法において、予め歯布をシラン化合物で接触処理し、シラン化合物で処理した歯布を未加硫ベルト本体に積層して成形する場合、歯付ベルトにおいて歯布と歯部との接合面にシラン化合物が残存すると、シロキサン結合による低い表面自由エネルギーに起因して、前記接合面での接合が十分でない場合がある。そのような事態を回避するため、前記(b)及び(c)の方法のように、加硫スリーブ又はベルトを形成した後、歯布部をシラン化合物で接触処理して、歯布部にシラン化合物を含浸させるのが好ましい。
【0072】
シラン化合物は、歯布に含浸していればよく、歯布の少なくとも一部に含浸されていればよいが、歯布の面積全体の50%以上(好ましくは80%以上)の面積割合、特に略全面(100%)が含浸処理されているのが好ましい。
【0073】
歯付ベルトの歯布でのシラン化合物の含浸深さは、平均的に、歯布の表面から10μm以上、好ましくは100μm以上、さらに好ましくは300μm以上であり、上限は特になく、通常、1000μm程度である。シラン化合物の含浸深さは、歯布の耐久性を向上できる点から、例えば、60〜1000μm、好ましくは100〜1000μm、さらに好ましくは400〜1000μm(特に500〜1000μm)程度であってもよい。なお、シラン化合物の含浸深さは、走査型電子顕微鏡(SEM)に装着したエネルギー分散型X線分光装置(EDS)を用いて測定でき、シラン化合物を含まない部分に対してシラン化合物を含む部分をSiKα線像として表し、目視で識別することにより測定できる。
【0074】
歯布に対するシラン化合物の含浸量(又は付着割合)は、歯布の単位面積に対して、0.6〜60mg/cm(例えば、1〜40mg/cm)、好ましくは2〜30mg/cm(例えば、2.5〜25mg/cm)、さらに好ましくは3〜20mg/cm(例えば、5〜15mg/cm)程度である。シラン化合物の含浸量は、歯布の耐久性を向上できる点から、例えば、1〜60mg/cm、好ましくは2〜60mg/cm、さらに好ましくは3〜60mg/cm(特に5〜60mg/cm)程度であってもよい。歯布に対するシラン化合物の含浸量が少なすぎると、耐摩耗性向上の効果が低下し、多すぎると、シラン化合物の反応物(ポリシロキサン又はシルセスキオキサン)が剥落する場合がある。なお、歯布に対するシラン化合物の含浸量(又は含浸割合)は、歯布の面積と、含浸前後の重量差から算出したシラン化合物の重量とに基づいて算出できる。
【0075】
シラン化合物は、歯布中で均一に分散していてもよいが、不均一に分散している場合が多く、通常、歯布表面に近づくにつれて濃度が高くなるように傾斜して分散されている。
【0076】
なお、シラン化合物は、少なくとも歯布に含有されていればよく、ベルトのプーリ接触面(歯布)以外の部位に含浸していてもよい。
【0077】
(除去工程)
シラン化合物による含浸工程に供した後、歯布の表面に過剰のシラン化合物が付着したまま後続の工程に供すると、シラン化合物の反応生成物であるシロキサンやシルセスキオキサンが付着残留し、歯部と歯布との密着性が低下したり、ベルト稼動時に剥落する場合がある。そのため、歯布に付着した過剰のシラン化合物は除去するのが好ましい。
【0078】
除去方法は、特に限定されず、例えば、織布や不織布などの繊維構造体を用いて拭き取る方法、アルコールなどの溶媒で濯ぐ方法、遠心分離法などであってもよい。簡便性の点からは、拭き取る方法が好ましい。
【0079】
シランカップリング剤を除去した後、風乾などの自然乾燥などにより乾燥させてもよい。なお、シラン化合物の反応は、通常、経時的に進行する。そのため、特に必要はないが、必要であれば、シラン化合物の反応を促進させるため、熱処理(例えば、30〜120℃、好ましくは50〜100℃程度で加熱処理)を施してもよい。
【0080】
(歯付ベルトの成形方法)
歯付ベルトは公知の方法で成形できる。例えば、歯付ベルトの歯部に対応する複数の凹条を有する円筒状モールドに、歯布を形成する帆布を巻き付ける工程、歯布が巻き付けられた円筒状モールドに心線を構成するコードを円筒状モールドの長手方向(周方向)に所定のピッチ(円筒状モールドの軸方向に対して所定のピッチ)で巻き付ける工程(螺旋状にスピニングする工程)、背部及び歯部を形成する未加硫ゴムシートを巻き付けて未加硫スリーブ(未加硫積層体)を形成する工程、前記未加硫スリーブが巻き付けられた円筒状モールドを加硫缶内に移し、加熱・加圧することにより、上記ゴムシートをモールド溝部(外型の溝部)に圧入させ、加硫とともに歯部を形成する工程(歯部を有する加硫積層体を形成する工程)、得られたスリーブ状の成形体を所定のカット幅に従って切断刃で切断する工程を経て、歯付ベルトを製造できる。なお、前記のように、歯布へのシラン化合物の含浸は、いずれかの工程で行えばよい。
【実施例】
【0081】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0082】
[使用原料]
H−NBR:日本ゼオン(株)製「Zetpole・2021」
酸化亜鉛:正同化学工業(株)製「酸化亜鉛3種」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストV」、平均粒子径55nm
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製「Nーシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミド」
【0083】
[歯布のシラン処理(シラン化合物の含浸処理)及びシラン化合物の確認]
歯布として、以下の構成の帆布(旭化成(株)製)を用いた。
【0084】
・組成 緯糸:66ナイロン+ウレタン糸、経糸:66ナイロン
・糸構成 緯糸:465dtex、経糸:155dtex
・密度 緯糸:80本/3cm、経糸:150本/3cm
・織り構成 綾織り
・厚み 0.85mm
表1に示す配合処方のゴム組成物を、メチルエチルケトンに溶解してゴム糊を調製し、このゴム糊に前記歯布を含浸させた。また、表1に示す配合処方のゴム組成物のゴムシート(シート厚み:2.0mm)を調製した。そして、前記ゴム糊を含浸した歯布と前記ゴムシートとを積層し、153℃で30分間プレス加硫することにより試験片(サイズ:50mm×50mm×2.5mm)を調製した。この試験片を表2に示すシランカップリング剤に常温、常圧で30分間浸漬した後、表面に付着した過剰の表2に示すシランカップリング剤を清浄なウェスで拭き取り、約1時間風乾した。
【0085】
シラン化合物の含浸量(割合)は、試験片から20mm×40mmの部位を採取し、その部位のシラン処理前後の重量差より算出した。結果を表2に示す。シラン化合物の含浸量(割合)は、歯布の単位面積当たり4.0〜15.0mg/cmであった。
【0086】
【表1】
【0087】
[動摩擦係数の測定]
浸漬処理前後の試験片の歯布面のステンレススチール板(SUS板)に対する動摩擦係数を表2に示す。なお、動摩擦係数は、歯布面を移動台側に向けて試験片を移動台上に載置し、試験片上に200gから700gの錘(荷重)を置き、移動台を10mm/sで移動させたときの摩擦力を、試験片に接続されたロードセルで測定して算出した。動摩擦係数は、F=μW(F:摩擦力、μ:動摩擦係数、W:荷重)の式より算出した。結果を表2に示す。
【0088】
なお、シランカップリング剤で処理する前の試験片の動摩擦係数は0.19であったが、シラン処理することにより動摩擦係数が小さくなることがわかる。
【0089】
【表2】
【0090】
[試験片の断面SEM観察]
シランカップリング剤として3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いた場合、浸漬処理後の試験片のゴムシートと歯布との界面を含む歯布付近の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日本電子(株)製「JSM5900LV」)で観察するとともに、各測定点からの特性X線であるSiKα線のカウント数をヒートマップ化した。走査型電子顕微鏡(SEM)を図2に示し、ヒートマップ化した画像(SiKα線像)を図3に示す。
【0091】
なお、図3のSiKα線像は、各測定点からの特性X線であるSiKα線のカウント数をヒートマップ化したものであり、カウント数の多い点から白→赤→緑→青→黒の順で表されている。そのため、このSiKα線像からケイ素Siの分布が判断できる。この図3から明らかなように、歯布(糸)付近にシラン化合物(Si)が存在している。特に、歯布の表面及び歯布を構成している繊維間にSiKα線(特に、白、赤)のカウント数が多く分布しているため、これらの部分に3−アミノプロピルトリエトキシシランが含浸していることがわかる。なお、シラン処理前の試験片はケイ素Siを含んでいないため、検出されたSiKα線は全て3−アミノプロピルトリエトキシシランに由来する。
【0092】
[歯付ベルトの作製]
[実施例1]
歯布として、[歯布のシラン処理]の項で使用した歯布を使用した。この歯布に、[歯布のシラン処理]の項と同様に、表1に示す配合処方のゴム組成物をメチルエチルケトンに溶解したゴム糊を含浸させ、前記ゴム糊を含浸した歯布と、表1に示す配合処方のゴム組成物のゴムシート(シート厚み:2.0mm)とを積層し、積層体を作製した。
【0093】
この積層体の歯布面がベルトの表面となるようモールドに巻き付け、前記積層体の上にガラス繊維コード(原糸:ECG150、ストランドの構成:3/11、心線径:1.20mm、処理:RFL及びゴムでコート)をスピニングした後、さらに表1のゴム組成物からなるゴムシート(シート厚み:3.0mm)を巻き付けた。前記モールドに巻き付けた巻回体を161℃で20分間加硫し、得られたスリーブを所定の幅に切断してベルトを得た。作製したベルトは、ベルト幅19.1mm、ベルト周長840mm、ベルト歯形HTD、歯数105歯、歯ピッチ8.000mmであり、通常、Y歯形と表示される。この作製した歯付ベルトを、3−アミノプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で30分間浸漬した。浸漬後、表面に付着した過剰の3−アミノプロピルトリエトキシシランを清浄なウェスで拭き取り約1時間風乾した。
【0094】
[実施例2]
作製した歯付ベルトを3−アミノプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で120分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0095】
[実施例3]
作製した歯付ベルトを3−アミノプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で480分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0096】
[実施例4]
作製した歯付ベルトを3−アミノプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で5分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0097】
[実施例5]
作製した歯付ベルトを3−アミノプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で1440分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0098】
[実施例6]
作製した歯付ベルトを3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランに、常温、常圧で30分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0099】
[実施例7]
作製した歯付ベルトを3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランに、常温、常圧で60分間浸漬すること以外は、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0100】
[比較例]
作製した歯付ベルトを3−アミノプロピルトリエトキシシランに浸漬することなく、実施例1と同様にして歯付ベルトを作製した。
【0101】
[歯付ベルトの断面SEM観察]
実施例1の歯付ベルトのゴムシートと歯布との界面を含む歯布表面付近の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察するとともに、各測定点からの特性X線であるSiKα線のカウント数をヒートマップ化した。走査型電子顕微鏡(SEM)を図4に示し、ヒートマップ化した画像(SiKα線像)を図5に示す。
【0102】
図5の矢印で示すように、ベルトの歯布部分にシラン化合物の含浸が確認できる。また、浸漬処理前後のベルト重量差よりシラン化合物の含浸量(割合)を算出した。本発明の実施例1では、浸漬処理前後のベルト重量差は1.11gであった。また、ベルトの歯布面積を算出したところ、210cmであった。そのため、実施例1のベルトのシラン化合物の含浸量(割合)は、歯布の単位面積当たり5.3mg/cmであった。同様にして、実施例2〜7で得られたベルトの3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランの含浸量(割合)も算出した。結果を表3に示す。
【0103】
なお、シラン化合物の含浸処理は、ベルト全体をシランカップリング剤に浸漬し行っているため、歯布以外の部分(ゴム部)への含浸も考えられる。しかし、歯布についてはシランカップリング剤が浸入又は浸透して付着可能な繊維間の隙間があるため、含浸速度が大きいのに対し、歯布以外の部分(ゴム部)にはシランカップリング剤が浸入する隙間が小さいため、含浸速度が小さい。そのため、ベルト全体を浸漬しても、歯布が優先的に含浸され、歯布に含浸しているシラン化合物の量に比べると、歯布以外の部分(ゴム部)に含浸しているシラン化合物の量は、重量的に無視できる程、ごく少量である。従って、浸漬処理前後のベルト重量の増加分は、歯布に含浸しているシラン化合物の重量であるとみなすことができる。
【0104】
また、実施例1〜7のヒートマップ化した画像(SiKα線像)から3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランの含浸深さを測定した。結果を表3に示す。
【0105】
[歯付ベルトの走行試験]
実施例及び比較例で得られた歯付ベルトを用いて走行試験を行った。走行試験装置として、図6に示すように、21歯の駆動プーリ(Dr)と、42歯の従動プーリ(Dn)とに歯付ベルトを架け渡し、背部(背面)に当接可能な直径52mmφのテンションプーリ(Ten)とを備えた試験装置を使用した。雰囲気温度120℃、負荷3.68kW、初張力147N、駆動側回転数7200rpmの条件下で、実施例1〜7については1500時間、比較例については200時間、1500時間の走行試験を行った。この走行試験後の歯付ベルトの歯布の状態を走査型電子顕微鏡で観察し、以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
【0106】
(判定基準)
◎:歯布の摩耗が少なく、かつ繊維の切断もない
○:歯布の摩耗がやや多く、かつ若干繊維の切断がある
△:歯布の摩耗が多く、かつ多くの繊維が切断
×:歯布の摩耗がかなり多く、かつ多くの繊維が切断され、さらにほつれている
【0107】
【表3】
【0108】
表3の結果から明らかなように、歯布に対するシラン化合物の含浸量が少なくなり、かつシラン化合物の含浸深さが小さくなると、耐摩耗性向上の効果が低下する。また、シラン化合物の含浸量が多すぎると、シラン化合物の反応物(ポリシロキサン又はシルセスキオキサン)が剥落する場合があり、剥落した部分においては耐摩耗性が向上しない虞があるとともに、耐摩耗性に寄与しない無駄なシラン化合物が多くなることとなり、処理に係るコストが高くなる。
【0109】
実施例1の走行試験(走行時間:1500時間)後の歯部の走査型電子顕微鏡写真を図7及び図8に示し、実施例2の走行試験(走行時間:1500時間)後の歯部の走査型電子顕微鏡写真を図9及び図10に示す。また、比較例の歯付ベルトの200時間の走行試験後の歯部の走査型電子顕微鏡写真を図11及び図12に示し、1500時間の走行試験後の歯部の走査型電子顕微鏡写真を図13及び図14に示す。なお、歯付ベルトの走行方向は、図中、右から左への方向である。
【0110】
図7図10から明らかなように、実施例1及び2の歯付ベルトは、1500時間走行試験後であっても、いずれも、歯部の前後部の歯布表面も含め、歯布の摩耗が少なく、歯布の構成繊維の切断もなかった。
【0111】
これに対して、図11図12から明らかなように、比較例の歯付ベルトは、200時間の走行試験で、実施例の歯付ベルトに比べて、歯部の前後部の歯布表面も含め、歯布の摩耗が大きくなるとともに、歯布の構成繊維の多くが切断されていた。さらに、実施例の歯付ベルトに比べて、1500時間の走行試験では、歯部の前後部の歯布表面を含め、歯布の摩耗(特に、走行方向においてベルトの歯部の上流側(図中、右側の傾斜側部)の歯布の摩耗)がさらに多く、構成繊維の切断が多いだけでなく、構成繊維がほつれていた。
【0112】
このように、シラン化合物で処理することにより、歯布部の耐摩耗性が向上する。そのため、歯付ベルトを作動させても、歯部の摩耗に対する耐久性が向上し、歯付ベルトの寿命を長くすることができる。また、より過酷な条件で使用しても長寿命化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の歯付ベルトは、歯付プーリと組み合わせて、入力と出力との同期性が求められる種々の分野、例えば、自動車やオートバイなどのエンジンの動力伝達、モータ、ポンプ類などの動力伝達、自動ドア、自動化機械などの機械類、複写機、印刷機などに利用できる。特に、自動車用エンジンの動力伝動ベルト(タイミングベルトやコグドベルト)などの周辺機器類(周辺部品類)として利用できる。
【符号の説明】
【0114】
1…歯付ベルト
2…歯部
3…心線
4…背部
5…歯布
6…緯糸
7…経糸
図1
図6
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14