【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例1における肺疾患判別プログラムをコンピュータに実行させるための環境1および肺疾患判別プログラムの機能ブロック20を示す。
図1で、符号10は被験者の肺疾患の判別を行うための本発明の肺疾患判別プログラムを実行するパーソナルコンピュータ等のコンピュータ、11はコンピュータ10のディスプレイ等の表示装置、12は放射性医薬品が投与された被験者の体内(肺)から放射性医薬品の分布を検出して画像化を行う肺シンチグラフィを行う際に用いられる撮像装置、13は撮像装置12により撮像された被験者の肺画像データを記録したディスク等の記録装置である。本明細書では肺画像データとして、放射性医薬品を投与してから一定時間経過後のSPECT画像(正面のみの静止画像であるプラナー)を例にとって説明する。しかし、本発明の肺疾患判別プログラム等は経時的な撮像で肺血流等の情報が得られる動態シンチグラフィに対しても適用可能である。
【0023】
図1の機能ブロック20に示されるように、符号21は肺血流シンチグラフィにより得られた被験者のプラナーを入力し、記録装置(記録部)13へ肺血流シンチグラム(原画像)14および処理に応じて2値化肺血流シンチグラム15として記録する肺画像データ入力部(肺画像データ入力手段)である。肺血流シンチグラム(原画像)14と2値化肺血流シンチグラム15との相違については後述する。
【0024】
図2は、肺画像データ入力部21により入力されたプラナーの例を示す。
図2に示されるように、符号40R、40Lは各々被験者の右肺画像データ、左肺画像データである。原画では肺血流が良い個所から悪い個所へかけて赤、黄、緑、青の各色で表示分けされているが、
図2では白黒で表示されており、肺血流が良い個所ほど明るく(例えば右肺画像データ40Rの中央部等のように)示されている。
【0025】
図1の機能ブロック20に示されるように、符号22は記録装置13に記録された肺血流シンチグラム14等を表示装置11に表示する肺血流シンチグラム表示部(肺血流シンチグラム表示手段)、23は肺血流シンチグラム表示部22により表示装置11に表示された肺血流シンチグラム14等に対して、左右の肺別および/または両肺に所定の形状のROI−R(関心領域)等を設定させるROI設定部(関心領域設定手段)である。
図3は、肺画像データ入力部21により記録装置13に記録された肺血流シンチグラム14を肺血流シンチグラム表示部22が表示した例を示す。
図3で、符号50R、50Lは各々被験者の右肺血流シンチグラム、左肺血流シンチグラムであり、符号ROI−Rは右肺血流シンチグラム50R上に設定された関心領域(Region of Interest :ROI)、ROI−Lは左肺血流シンチグラム50L上に設定されたROIである。
図4は、
図3に示された原画像データ(右肺血流シンチグラム50R、左肺血流シンチグラム50L)に対し所定の放射能濃度(所定の閾値)で2値化された2値化肺血流シンチグラム(2値化右肺血流シンチグラム50Rb、2値化左肺血流シンチグラム50Lb)を示す。
図4で符号ROI−Wは全肺野(2値化右肺血流シンチグラム50Rb、2値化左肺血流シンチグラム50Lb)を囲むROIを示す。肺疾患であるため、左右の肺が一緒に疾患を起こしている筈であり、従って肺血流の機能は全肺野で診断するべきである。しかし、片肺のみに疾患を起こしているという症例も存在する。このため、本発明の肺疾患判別プログラムではROIを
図4のROI−Wに示されるように全肺野と、
図3のROI−RおよびROI−Lに示されるように左右個別とに設定している。即ち、左右肺野の独立的因子を(ベイズ的に)採用した。但し、片肺のみに疾患が存在した場合であっても、肺疾患判別部26の判別結果は疾患であるものとしている。ROI−R、ROI−LおよびROI−W(以下で示されるすべてのROI)はROI設定部23により設定される。所定の形状としては、
図3および4に示されるように矩形とすることが好適である。肺疾患判別部26は、被験者の肺血流シンチグラム14および2値化肺血流シンチグラム15(以下、特に区別しない場合は「肺血流シンチグラム14等」と言う。)に基づき肺疾患を判別する際に、不均一性という概念を用いている。不均一性には、上述した肺血流シンチグラム14および2値化肺血流シンチグラム15に示される形状の不均一性と放射能カウント値の濃度の不均一性とがある。これらに応じて肺疾患判別部26は形状フラクタル処理部27と濃度フラクタル処理部28とを有している。
【0026】
形状フラクタル処理部27は、ROI設定部23により設定されたROIにおける被験者の肺血流シンチグラムの形状に対し、フラクタル解析におけるボックスカウント法を適用してボックスカウント次元(フラクタル次元)を求める。本明細書および図面では、「ボックスカウント」に替えて「ボックスカウンティング」と言うこともある。肺血流シンチグラムとしては上述した肺血流シンチグラム14および2値化肺血流シンチグラム15を用いる。ここで、ボックスカウント法について簡単に説明する(非特許文献5参照)。ボックスカウント法では、図形を一辺δの正方形(ボックス)のメッシュで覆い、図形の一部を内部に含むボックスの数N(δ)を数え上げる。δの値を変えて同様の作業を繰返し、logδを横軸に、logN(δ)を縦軸にして両対数グラフにプロットする。後述するように、勾配を求めることが目的であるため、対数の底は何であっても構わない。
図5はプロットされた両対数グラフ(非特許文献5の
図5.3)を示す。ボックスカウント次元をd
Bとすると、N(δ)=cδ
−dBの関係が成立していれば、logN(δ)=logc−d
Blogδであるから、
図5に示されるように両対数グラフ上で直線となる。従って、当該直線の絶対値勾配を測ればボックスカウント次元d
Bを求めることができる(以上、非特許文献5より引用)。形状フラクタル処理部27は肺血流シンチグラム14および2値化肺血流シンチグラム15に示される形状の不均一性を自己相似性の崩れとして捉え、そのためにボックスカウント次元d
Bを用いている。形状フラクタル処理部27は、求めた左右の片肺野および両肺野のボックスカウント次元を各々記録装置13のボックスカウント次元データべース(DB)16に適宜記録しておく。
【0027】
濃度フラクタル処理部28は、ROI設定部23により設定されたROIにおける被験者の肺血流シンチグラムの放射性同位元素のカウント値に対し、ピクセル毎に、最大のカウント値に対する当該ピクセルのカウント値(割合)である濃度を求め、濃度の変化と当該濃度以上のピクセル数との関係を求める。肺血流シンチグラムとしては上述した肺血流シンチグラム14を用いる。
図6は、横軸を濃度、縦軸をある濃度(閾値)以上の濃度を有するピクセル数(ln(ピクセル数))としてプロットした場合の濃度の変化と当該濃度以上のピクセル数との関係を示す片対数グラフである。
図6に示されるように、閾値となる濃度を増加させるに従って、当該閾値以上の濃度を有するピクセル数は減少していくことがわかる。つまり、両者の関係は
図6に示されるように片対数グラフ上で直線となる。そこで、当該直線の絶対値勾配をピクセルカウント次元と命名する。即ち、濃度フラクタル処理部28は濃度の変化と当該濃度以上のピクセル数との関係に対しボックスカウント法類似の方法(発明者によりピクセルカウント法と命名する。)を適用してボックスカウント次元類似のピクセルカウント次元を求める。ピクセルカウント法はボックスカウント法とは異なるものの、片対数グラフで直線化を行うなどボックスカウント法と類似する点がある。そこで、発明者はボックスカウント次元(=フラクタル次元)に類似させて、ピクセルカウント次元もフラクタル次元と命名した。濃度フラクタル処理部28は上述した肺血流シンチグラム14および2値化肺血流シンチグラム15に示される放射能カウント値の濃度の不均一性を捉えるために、ピクセルカウント次元を用いている。本明細書および図面では、「ピクセルカウント」に替えて「ピクセルカウンティング」と言うこともある。濃度フラクタル処理部28は、求めた左右の片肺野および両肺野のピクセルカウント次元を各々記録装置13のピクセルカウント次元DB17に適宜記録しておく。
【0028】
図1の機能ブロック20に示されるように、符号26は形状フラクタル処理部27により求められ記録装置13のボックスカウント次元DB16に記録された被験者のボックスカウント次元と、濃度フラクタル処理部28により求められ記録装置13のピクセルカウント次元DB17に記録された被験者のピクセルカウント次元とに基づき、被験者の肺疾患を判別する肺疾患判別部(肺疾患判別手段)、25は肺疾患判別部26により判別された判別結果を表示装置11に表示する判別結果表示部(判別結果表示手段)である。
【0029】
上述したボックスカウント法およびピクセルカウント法による不均一性の解析について、発明者は実際に被験者の肺血流シンチグラムを用いて検定した。対象とした肺血流シンチグラムは、CTEPが14例(片肺7例および両肺7例)、PPHが8例(片肺4例および両肺4例)、PVODが10例(片肺5例および両肺5例)、コントロール例N(臨床的に疾患と判断されなかった症例)12例(片肺6例および両肺6例)の総計44例である。
【0030】
図7は、検定に用いた44症例のデータ表を示す。44症例は上述したように左右片肺野および両肺野のデータを含む。
図7で、各行は上述した各症例CTEPからPVODを表し、データ数の列は各症例の数であり、以下、各症例についてのフラクタル次元(ボックスカウント次元)の平均値の列、同不偏分散の列、同標準偏差の列、同標準誤差の列となっている。例えば、CTEPのデータ数は14例、フラクタル次元(ボックスカウント次元)の平均値は1.335334.不偏分散は0.008094、標準偏差は0.089965、標準誤差は0.024044となっている。
【0031】
検定には一元配置の分散分析を用いた。
図8は、
図7に示されるデータに基づき作成した一元配置の分散分析表を示す。
図8に示されるように、全変動の偏差平方和(S
T)=0.255051、群間変動(水準間変動とも言う。S
A)=0.048105、誤差変動(水準内変動とも言う。S
E)=0.206947であり、平方和の分解によりS
T=S
A+S
Eとなっている。全変動の自由度は症例数−1=44−1=43であり、群間変動の自由度は群の数(水準数k=4)−1=4−1=3であり、誤差変動の自由度は症例数−群の数k=44−4=40である。群間変動の平均平方V
A=S
A/(k−1)=0.048105/(4−1)=0.016305であり、誤差変動の平均平方V
E=S
E/誤差変動の自由度=0.206947/40=0.005174である。F値=V
A/V
E=0.016035/0.005174=3.0099325である。F値に対応するP値=0.037373である。F(0.95)、つまり自由度3、40で棄却率5%のF値=F(3,40:0.05)=2.838745である。ここで、仮説H
0は「CTEP、N、PPH、PVOD間の母平均に差はない。」であるが、F値=3.0099325>F(0.95)=2.838745となったことより、仮説H
0は棄却されることになった。つまり、有意差ありとなったため、CTEP、N、PPH、PVOD間の母平均に差があるということになる。
【0032】
そこで、母平均に差があるのはどの群間(水準間)かを検定するために、多重比較検定を行う。2つの群のすべての組合せ(検定数)は群の数(水準数)k=4であるため、
4C
2=6通りとなる。組合わせは、(CTEP,N)、(CTEP,PPH)、(CTEP,PVOD)、(N,PPH)、(N,PVOD)、(PPH,PVOD)である。多重比較検定としてよく用いられるのは、以下のFisher’s PLSD(Protected Least Significant Difference)、Scheffe’s F、Bonferroni/Dunnがある。以下では、k個の正規母集団の母平均μ
1、μ
2、...、μ
kに対し、式1のような帰無仮説H
0を設ける。
【0033】
H
0:c
1μ
1+c
2μ
2+...+c
kμ
k=0、c
1+c
2+...+c
k=0 (1)
【0034】
式2のようにDを定義し、式3のようにγを定義する。ここで、群jのデータ数をn
jとする。
【0035】
【数1】
【0036】
群pと群qとを比較検定する場合、式2および3でc
p=1、c
q=−1、他のc
j=0とすればよい(式1の第2式が成立する)。つまり、2群pとqとを比較検定する場合、Dは群pの平均値−群qの平均値となり、γは(1/n
p)+(1/n
q)となる。
【0037】
Fisher’s PLSDは、分散分析で有意差ありと判定された後で、スチューデントのt検定を適用する方法である。式4に示されるように検定量を定義し(αは棄却率。以下同様)、2群pとqとの比較検定において式5が成り立つ場合、帰無仮説H
0を棄却する。つまり、2群pとqとの母平均に差があるということになる。
【0038】
【数2】
【0039】
Scheffe’s F は、式6に示されるように検定量を定義し、2群pとqとの比較検定において式7が成り立つ場合、帰無仮説H
0を棄却する。つまり、2群pとqとの母平均に差があるということになる。
【0040】
【数3】
【0041】
Bonferroni/Dunnは、式8に示されるように検定量を定義し、2群pとqとの比較検定において式9が成り立つ場合、帰無仮説H
0を棄却する。つまり、2群pとqとの母平均に差があるということになる。
【0042】
【数4】
【0043】
本明細書では、多重比較検定として上述したBonferroni/Dunnを用いる。Bonferroni/Dunnは多重比較検定としてほとんどの場合に使用でき、検定全体の棄却率αを検定数(上述のように6通り)で割った値を棄却率として用いる。まず、比較検定する2群pおよびqの母分散の差の検定を行って、等分散性を仮定できる場合はスチューデントのt検定における統計量tを用い、仮定できない場合はウェルチのt検定における統計量tを用いる。以下で、s
p、s
qは各々群p、qの標準偏差である。スチューデントのt検定における統計量tは式10および11で表され、帰無仮説H
0の範囲は式12で表される。この場合、自由度はn
p+n
q−2である。ウェルチのt検定における統計量tは式13で表され、自由度は式14のνとなる。帰無仮説H
0の範囲は式15で表される。従って、式8における自由度f
Eは、等分散性を仮定できる場合、n
p+n
q−2であり、仮定できない場合、式14のνとなる。
【0044】
【数5】
【0045】
【数6】
【0046】
図9は、検定に用いた44症例について、各疾患とボックスカウント次元との関係をグラフで示す。
図9で横軸(X軸)は各疾患、縦軸(Y軸)はボックスカウント次元であり、各疾患について黒丸は平均値、上下の横線は標準偏差を示す。
図10は、
図9に示されるデータについて、上述したBonferroni/Dunnの多重比較検定を行った結果を表で示す。
図10で、第1列は比較検定した2群を示し、第2列の「平均値の差」は当該2群の平均値の差を示し、第3列の「危険率5% 棄却値」は危険率(棄却率α=0.05)とした場合における式9の左辺で計算された値に対応する棄却値(P値)を示し、第4列の「危険率1% 棄却値」は危険率(棄却率α=0.01)とした場合における式9の左辺で計算された値に対応する棄却値(P値)を示す。例えば第1行の比較例に示されるように、比較検定した2群がCTEPとNとであった場合、CTEPの平均値−Nの平均値=−0.0144531であり、棄却率α=0.05の場合のP値=0.078547であり、棄却率α=0.01の場合のP値=0.09541となった。第3列の「危険率5% 棄却値」では、上述したように検定全体の棄却率αを検定数(=6)で割った値(=0.0083)を棄却率として用いる。CTEPとNとの比較検定では0.078547<0.0083であるため、帰無仮説H
0は棄却されず、CTEPの母平均とNの母平均との差はない。一方、CTEPとPPHとの比較検定では0.088491>0.0083であるため、帰無仮説H
0は棄却され、CTEPの母平均とPPHの母平均との差はあることになる。同様にして他の2群の比較検定については、CTEPの母平均とPVODの母平均との差はないが、Nの母平均とPPHの母平均との差、Nの母平均とPVODの母平均との差およびPPHの母平均とPVODの母平均との差はあることになる。第4列の「危険率1% 棄却値」では、上述したように検定全体の棄却率αを検定数(=6)で割った値(=0.0016)を棄却率として用いる。
図10に示されるように、6通りの比較検定のすべてについて帰無仮説H
0は棄却され、6通りのすべての比較に対して母平均の差はあることになる。
【0047】
図11は、検定に用いた44症例について、各疾患とピクセルカウント次元との関係をグラフで示す。
図11で横軸(X軸)は各疾患、縦軸(Y軸)はピクセルカウント次元であり、黒丸および上下の横線は
図9と同様に各々平均値および標準偏差を示す。
図12は、
図11に示されるデータについて、上述したBonferroni/Dunnの多重比較検定を行った結果を表で示す。
図12における各列および各行の意味は
図10と同様であるため、説明は省略する。なお、
図12ではCTEPとNとの比較検定は省略してある。
図12に示されるように、第3列の「危険率5% 棄却値」では5通りの比較検定のすべてについて帰無仮説H
0は棄却されず、6通りのすべての比較に対して母平均の差はないことになる。一方、第4列の「危険率1% 棄却値」では5通りの比較検定のすべてについて帰無仮説H
0は棄却され、5通りのすべての比較に対して母平均の差はあることになる。
【0048】
以上説明したボックスカウント法およびピクセルカウント法による不均一性の解析より、各肺疾患の母平均には差がある場合が多いということがわかった。そこで、発明者は各肺疾患の判別方法を熟慮検討した結果、肺疾患の判定を帰無仮説でデザインするのではなく、オッズで評価することに想到した。つまり、肺疾患の判別(予測)の成功(確率p)または失敗(1−p)は帰無仮説ではなく、ロジット関数logit(p)を用いたオッズ=p/(1−p)=logit(pi)=ax
i+bで決めるということを発明するに至った。具体的には肺疾患判別部26に、形状フラクタル処理部27により求められたボックスカウント次元および濃度フラクタル処理部28により求められたピクセルカウント次元に基づき、肺画像データ入力部21により記録装置13に記録された被験者の肺血流シンチグラムを階層的に判別処理することにより、被験者の肺疾患の種類(正常を含む。)を判別する階層的判別部(階層的判別手段)30を設けた。
【0049】
図13は、階層的判別部30の機能を階層的に示す。
図13で
図1と同じ符号を付した個所は同じ機能を示す。
図13において、判別の対象となる肺疾患の種類は、正常(N)、原発性肺高血圧症(PPH)、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEP)および肺静脈閉塞性疾患(PVOD)である。まず、前処理階層27+28において上述した形状フラクタル処理部27および濃度フラクタル処理部28により両(W)フラクタル処理が行われる。次に、階層的判別部30は、ROI設定部23により設定されたROIについて、以下のように判別処理を行う機能を備えている。即ち、第一階層判別部(第一階層判別手段)31は、左右の肺に対するボックスカウント次元が共に1.325より大きく1.42より小さい(所定の範囲内にある)第一階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をN(正常)と判別する。発明者の実験によれば、正常と判別できる精度は100%であった。つまり、第一階層判別部31によりコントロールデータは100%除外することができた。次の階層から疾患を有する患者が対象となる。第二階層判別部(第二階層判別手段)32は、第一階層条件が成立しなかった場合、左右の肺に対するピクセルカウント次元が共に0.2(所定の値)以下である第二階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する。第一階層判別部31および第二階層判別部32で肺野独立的解析と命名した理由は、左右の肺を別々に解析するためである。
【0050】
上述した肺野独立的解析ではボックスカウント次元およびピクセルカウント次元の値により被験者の肺疾患の種類を判別した。発明者らの研究によれば、第二階層条件が成立しなかった場合、ボックスカウンティング次元およびピクセルカウント次元の値よりもピクセルカウント次元の比で判別した方がよいことがわかった。詳しくは、当該比が必ず1以上になるように左右の片肺のピクセルカウント次元の値の小さい方を分母とし、大きい方を分子とする。具体的には、右肺のピクセルカウント次元の値が左肺のピクセルカウント次元の値より小さい場合は(左肺のピクセルカウント次元の値/右肺のピクセルカウント次元の値)の比を求め、逆の場合は(右肺のピクセルカウント次元の値/左肺のピクセルカウント次元の値)の比を求める。
図1に示されるように、階層的判別部30は濃度フラクタル処理部28により求められた左右の片肺のピクセルカウント次元の比であって小さい方のピクセルカウント次元を分母とする比を算出するピクセルカウント次元左右比算出部(ピクセルカウント次元左右比算出手段)36をさらに備えている。上述したように、左右の片肺のピクセルカウント次元は記録装置13のピクセルカウント次元DB17に記録されており、ピクセルカウント次元比算出部36はピクセルカウント次元DB17から適宜左右の片肺のピクセルカウント次元を入力する。第三階層判別部(第三階層判別手段)33は、第二階層条件が成立しなかった場合、ピクセルカウント次元左右比算出部36により算出されたピクセルカウント次元左右比が第一閾値(所望の値で、例えば1.59)以上である第三階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する。第三階層判別部33で肺野潜在的解析と命名した理由は、
図13に示されるように肺疾患のパターンPPH2、3およびPVOD3、4(2、3等の数字は患者に連動した患者番号である。)が隠れているためである。第四階層判別部(第四階層判別手段)34は、第三階層条件が成立しなかった場合、ピクセルカウント次元左右比算出部36により算出されたピクセルカウント次元左右比が第二閾値(所望の値で、例えば1.1)以上である第四階層条件が成立する場合は被験者の肺疾患の種類をPPH(原発性肺高血圧症)と判別し、第四階層条件が成立しない場合は被験者の肺疾患の種類をPVOD(肺静脈閉塞性疾患)と判別する。
【0051】
図14は、本発明の実施例1における肺疾患判別プログラムの機能およびコンピュータが被験者の肺疾患の判別を実行する肺疾患判別方法の処理の流れをフローチャートで示す。
図14に示されるように、肺血流シンチグラフィにより得られた被験者の肺画像データを入力し、記録装置13に肺血流シンチグラム14等として記録する(肺画像データ入力ステップ。ステップS10)。次に、記録装置13に記録された肺血流シンチグラムを表示装置11に表示する(肺血流シンチグラム表示ステップ。ステップS12)。肺血流シンチグラム表示ステップ(ステップS12)で表示された肺血流シンチグラム14等に対して、左右の肺別および/または両肺に所定の形状のROIを設定させる(ROI設定ステップ。ステップS14)。ROI設定ステップ(ステップS14)で設定されたROIにおける被験者の肺血流シンチグラム14等の形状に対し、フラクタル解析におけるボックスカウント法を適用してボックスカウント次元(フラクタル次元)を求める(形状フラクタル処理ステップ。ステップS16)。ROI設定ステップ(ステップS14)で設定されたROIにおける被験者の肺血流シンチグラム14等の放射性同位元素のカウント値に対し、ピクセル毎に、最大のカウント値に対する当該ピクセルのカウント値(割合)である濃度を求め、濃度の変化と当該濃度以上のピクセル数との関係に対しボックスカウント法類似のピクセルカウント法を適用してボックスカウント次元類似のピクセルカウント次元を求める(濃度フラクタル処理ステップ。ステップS18)。形状フラクタル処理ステップ(ステップS16)で求められたボックスカウント次元と濃度フラクタル処理ステップ(ステップS18)で求められたピクセルカウント次元とに基づき、被験者の肺疾患を判別する(肺疾患判別ステップ。ステップS20)。肺疾患判別ステップ(ステップS20)で判別された判別結果を表示装置11に表示する(判別結果表示ステップ。ステップS22)。
【0052】
実施例1における肺疾患判別ステップ(ステップS20)は、形状フラクタル処理ステップ(ステップS16)で求められたボックスカウント次元と濃度フラクタル処理ステップ(ステップS18)で求められたピクセルカウント次元とに基づき、肺画像データ人力ステップ(ステップS10)で記録装置13に記録された被験者の肺血流シンチグラム14等を階層的に判別処理することにより、被験者の肺疾患の種類(正常を含む。)を判別する階層的判別ステップである。
図15は、上述した肺疾患判別(階層的判別)ステップ(ステップS20)の詳細な処理の流れをフローチャートで示す。
図15に示されるように、階層的判別ステップ(ステップS20)は、ROI設定部23により設定されたROIについて、左右の肺に対するボックスカウント次元が共に1.325より大きく1.42より小さい第一階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をN(正常)と判別する(第一階層判別ステップ。ステップS31、S32)。第一階層条件が成立しなかった場合、左右の肺に対するピクセルカウント次元が共に0.2以下である第二階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する(第二階層判別ステップ。ステップS33、S34)。第二階層条件が成立しなかった場合、ピクセルカウント次元左右比算出部36により算出されたピクセルカウント次元左右比が第一閾値(例えば1.59)以上である第三階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する(第三階層判別ステップ。ステップS35、S34)。第三階層条件が成立しなかった場合、上記ピクセルカウント次元左右比が第二閾値(例えば1.1)以上である第四階層条件が成立する場合は被験者の肺疾患の種類をPPH(原発性肺高血圧症)と判別し(ステップS37、S38)、第四階層条件が成立しない場合は被験者の肺疾患の種類をPVOD(肺静脈閉塞性疾患)と判別する(第四階層判別ステップ。ステップS37、S39)。
【0053】
ここで、第一階層判別部31(または第一階層判別ステップ(ステップS31))で用いる第一階層条件(左右の肺に対するボックスカウント次元が共に1.325より大きく1.42より小さい)について説明する。
図16は、
図7に示される検定に用いた44症例のデータの詳細を示す。
図16で、第1列はCTEPの14症例におけるボックスカウント次元、第2列はNの12症例におけるボックスカウント次元、第3列はPPHの8症例におけるボックスカウント次元、第4列はPVODの10症例におけるボックスカウント次元である。
図17は、
図16に示されるデータに基づく度数グラフおよび度数累積グラフであり、横軸はボックスカウント次元(フラクタル値)、左縦軸は
図16に示されるボックスカウント次元の度数である。
図17に示されるように、度数グラフ(棒グラフ)は1.1768、1.2465、1.3163、1.386、1.4558および1.5255を各々中心とする幅約0.0697ボックスカウント次元毎に度数をカウントしてある。
図17で右縦軸は最大度数を100とした場合の各度数の比率であり、度数累積グラフは折れ線グラフで示す。
図16に示されるNのボックスカウント次元と
図17に示される度数グラフとを合わせ見ると、Nのボックスカウント次元は1.386を中心とする±(0.0697)/2の範囲、即ち、約1.325〜1.42の範囲に収まっていることがわかる。従って、第一階層条件により、コントロールデータを除外できることがわかる。なお、±(0.0697)/2=±0.03485であるため、上記下限は約1.35115であるとも言えるが、
図16に示されるNの下位2つ(1.20719、1.2561)を除いた最小値(1.32546)に合せて約1.325とした。つまり、約1.325〜1.42の範囲には多少の変動の余地がある。
【0054】
次に、第二階層判別部32(または第二階層判別ステップ(ステップS32))で用いる第二階層条件(左右の肺に対するピクセルカウント次元が共に0.2以下)について説明する。元となるデータの詳細は省略するが、
図18は、44症例のデータに基づく度数グラフおよび度数累積グラフであり、横軸はピクセルカウント次元(フラクタル値)、左縦軸はピクセルカウント次元の度数である。
図18に示されるように、度数グラフ(棒グラフ)は0.1673、0.1976、0.2279、0.2582、0.2885および0.3188を各々中心とする幅約0.0303ピクセルカウント次元毎に度数をカウントしてある。
図18で右縦軸は最大度数を100とした場合の各度数の比率であり、度数累積グラフは折れ線グラフで示す。元となるデータに示されるCTEPの値と
図18に示される度数グラフとから、CTEPのピクセルカウント次元は0.2以下の範囲に収まっていることがわかる。従って、第二階層条件により、CTEPを確定できることがわかる。
【0055】
次に、実際に本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果(判別結果表示部25による判別結果の表示例)について説明する。肺疾患判別プログラムは、形状フラクタル処理部27がボックスカウント次元を求める際のボックスのサイズとボックス数との関係を示すグラフと、濃度フラクタル処理部28がピクセルカウント次元を求める際の濃度とピクセル数との関係を示すグラフとを表示するグラフ表示部(グラフ表示手段)24をさらに備えている。
【0056】
図19は、CTEPH01(「01」は上述したように患者番号。以下同様)の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図19で上側は肺血流シンチグラム14に関する表示であり、下側は上述した2値化肺血流シンチグラム15に関する表示である。いずれも記録装置13に記録されており、肺疾患判別プログラムは当該記録されたデータに基づき各処理を行った。
図19上側で、符号60は肺血流シンチグラム、60R、60Lは各々被験者の右肺血流シンチグラム、左肺血流シンチグラム、60ROI−Rは右肺血流シンチグラム60R上に設定されたROI、60ROI−Lは左肺血流シンチグラム60L上に設定されたROIである。以上の画像は上述した肺血流シンチグラム表示部22により表示され、ROIはROI設定部23により表示される。符号61は、形状フラクタル処理部27によるボックスカウント次元等を求めた結果を示し、62は当該結果に基づきグラフ表示部24によりプロットされた両対数グラフを示す。ボックスカウント次元等を求めた結果61および両対数グラフ62は60ROI−Lまたは60ROI−Rを切り替えて左右肺野別に表示することができる。上述したように、両対数グラフ62において横軸はlogn(ボックスの大きさ)、縦軸はlogn(ボックス数)であり、両者の関係は直線となっている。
図19に示されるように、ボックスの大きさを増加させるに従って、内部に図形の一部を含むボックスの数は減少していくことがわかる。符号63は、形状フラクタル処理部27により当該直線の絶対値勾配から求められたボックスカウント次元(フラクタル次元。
図19では1.37432と示されている。)である。形状フラクタル処理部27は両対数グラフ62の直線性を示す他の評価基準も計算することができる。例えば、符号64は相関係数(=0.993247)、65は最小二乗平均誤差(=0.10107。形状フラクタル処理部27は最小二乗法により直線の傾きを求めており、その際の残差の二乗平均である。)、66は直線度(=0.993914。直線回帰における決定係数または寄与率。1に近い程、フラクタル性が高い。)である。符号67は肺血流シンチグラム60の種類を示す表示画像欄であり、原画像(上述した肺血流シンチグラム)、2値画像(上述した2値化肺血流シンチグラム)または検査画像のいずれかを選択させることができる。
図19では原画像のラジオボタンが選択されており、肺血流シンチグラム表示部22により表示された肺血流シンチグラム60は原画像である。
【0057】
続いて
図19上側で、符号71は、濃度フラクタル処理部28によるピクセルカウント次元等を求めた結果を示し、72は当該結果に基づきグラフ表示部24によりプロットされた片対数グラフを示す。ピクセルカウント次元等を求めた結果71および片対数グラフ72は60ROI−Lまたは60ROI−Rを切り替えて左右肺野別に表示することができる。上述したように、片対数グラフ72において横軸は濃度、縦軸はある濃度(閾値)以上の濃度を有するピクセル数(ln(ピクセル数))であり、両者の関係は直線となっている。横軸は
図19に示されるように、ある下限値からの閾値(濃度)の変化量と考えてもよい。
図19に示されるように、閾値となる濃度を増加させるに従って、当該閾値以上の濃度を有するピクセル数は減少していくことがわかる。符号73は、濃度フラクタル処理部28により当該直線の絶対値勾配から求められたピクセルカウント次元(フラクタル次元。0.179948)である。濃度フラクタル処理部28も形状フラクタル処理部27と同様に、片対数グラフ72の直線性を示す他の評価基準も計算することができる。符号64、65、66は上述したように各々、相関係数(=0.946986)、最小二乗平均誤差(=0.266303)、直線度(=0.993032)である。符号77は肺血流シンチグラム60の種類を示す表示画像欄であり、原画像または検査画像のいずれかを選択させることができる。濃度フラクタル処理部28が対象とする肺血流シンチグラムには2値画像データは含まれていない。
図19では原画像のラジオボタンが選択されており、肺血流シンチグラム表示部22により表示された肺血流シンチグラム60は原画像である。
【0058】
図19下側で、符号60bは2値化肺血流シンチグラム(2値画像)、60Rb、60Lbは各々被験者の2値化右肺血流シンチグラム、2値化左肺血流シンチグラム、60ROI−Rbは2値化右肺血流シンチグラム60Rb上に設定されたROI、60ROI−Lbは2値化左肺血流シンチグラム60Lb上に設定されたROIである。以上の2値画像は肺血流シンチグラム表示部22により表示され、ROIはROI設定部23により表示される。
【0059】
図19下側で、
図19上側と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図19下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.25564であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.143068である。
図19下側の表示画像欄67では2値画像のラジオボタンが選択されており、肺血流シンチグラム表示部22により表示された肺血流シンチグラム60は2値画像である。符号68は当該2値画像を2値化する際の所定の放射能濃度(所定の閾値)を示す閾値欄であり、
図19下側では25%と示されている。
図19上側と同様に、ボックスカウント次元等を求めた結果61および両対数グラフ62と、ピクセルカウント次元等を求めた結果71および片対数グラフ72とは、60ROI−Lbまたは60ROI−Rbを切り替えて左右肺野別に表示することができる。
【0060】
図20は、CTEPH02の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図20で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図20上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.32359であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.193103である。
図20下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.36409であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.190589である
【0061】
図21は、CTEPH03の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図21で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図21上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.29039であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.142204である。
図21下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.41461であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.234907である
【0062】
図22は、CTEPH04の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図22で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図22上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.31826であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.155439である。
図22下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.10704であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.164388である。
【0063】
図23は、CTEPH05の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図23で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図23上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.337492であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.142829である。
図23下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.42243であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.2272である。
【0064】
図24は、CTEPH06の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図24で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図24上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.45396であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.275074である。
図24下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.42196であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.18388である。
【0065】
図25は、CTEPH07の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図25で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図25上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.27719であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.136974である。
図25下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.29557であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.172077である。
【0066】
次に、正常な(N)被験者の結果について6例示す。
図26は、N01の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図26で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図26上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.37014であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.224である。
図26下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.4183であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.211292である。
【0067】
図27は、N02の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図27で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図27上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.38067であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.266388である。
図27下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.39903であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.236059である。
【0068】
図28は、N03の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図28で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図28上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.20719であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.153388である。
図28下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.2561であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.136128である。
【0069】
図29は、N04の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図29で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図29上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.33308であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.202185である。
図29下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.32546であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.19146である。
【0070】
図30は、N05の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図30で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図30上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.38856であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.221986である。
図30下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.33537であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.215972である。
【0071】
図31は、N06の被験者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図31で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図31上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.3787であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.250562である。
図31下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.40484であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.228841である。
【0072】
次に、PPHの患者の結果について4例示す。
図32は、PPH01の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図32で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図32上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.399であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.251942である。
図32下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.44675であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.223635である。
【0073】
図33は、PPH02の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図33で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図33上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.31944であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.206465である。
図33下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.32753であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.176037である。
【0074】
図34は、PPH03の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図34で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図34上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.4121であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.279357である。
図34下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.44118であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.88907である。
【0075】
図35は、PPH04の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図35で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図35上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.32407であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.207653である。
図35下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.41171であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.226245である。
【0076】
次に、PVODの患者の結果について4例示す。
図36は、PVOD02の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。PVOD01の患者の肺血流シンチグラムについては省略する。
図36で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図36上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.44727であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.310104である。
図36下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.49469であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.283455である。
【0077】
図37は、PVOD03の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図37で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図37上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.43181であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.269301である。
図37下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.44777であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.269623である。
【0078】
図38は、PVOD04の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図38で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図38上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.30286であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.185182である。
図38下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.38147であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.18136である。
【0079】
図39は、PVOD05の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図39で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図39上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.31834であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.143706である。
図39下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.42794であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.242292である。
【0080】
図40は、PVOD06の患者の肺血流シンチグラムについて、本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図40で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図40上側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.4254であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.253036である。
図40下側に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.50558であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.29786である。
【0081】
以上、左右の肺血流シンチグラム60R、60Lの別々に60ROI−R、60ROI−Lを設定する例について説明した。上述したように、ROIは全肺野についても設定された。
図41は、CTEPH01の患者の肺血流シンチグラムについて、全肺野にROIを設定した場合における本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。上述したように、全肺野(両肺野)のボックスカウント次元およびピクセルカウント次元は各々記録装置13のボックスカウント次元DB16、ピクセルカウント次元DB17に記録されている。
図41で
図19と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図41に示されるように、肺血流シンチグラム80bは表示画像欄67で示されるように2値画像であり、ROIは全肺野に80ROIbで示されるように設定した。全肺野のROIを設定する場合、原画像は対象としない。閾値欄68に示されるように50%であり、この点、左右の肺野別々にROIを設定した場合における閾値25%とは異なるように設定した。
図41に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.2817であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.130047である。全肺野にROIを設定した例では他の7例(CTEP02〜07)についての説明は省略する。
【0082】
図42は、N01の被験者の肺血流シンチグラムについて、全肺野にROIを設定した場合における本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図42で
図19および41と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図42に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.30167であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.185383である。全肺野にROIを設定した例では他の6例(N02〜06)についての説明は省略する。
【0083】
図43は、PPH01の患者の肺血流シンチグラムについて、全肺野にROIを設定した場合における本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図43で
図19および41と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図43に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.3533であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.18763である。全肺野にROIを設定した例では他の3例(PPH02〜04)についての説明は省略する。
【0084】
図44は、PVOD02の患者の肺血流シンチグラムについて、全肺野にROIを設定した場合における本発明の肺疾患判別プログラムを実行させた結果を示す。
図44で
図19および41と同じ符号を付した個所は同じ表示等を示すため、説明は省略する。
図44に示されるように、ボックスカウント法でのボックスカウント次元63は1.4172であり、ピクセルカウント法でのピクセルカウント次元73は0.244097である。全肺野にROIを設定した例では他の5例(PVOD01、03〜06)についての説明は省略する。
【0085】
以上より、本発明の実施例1によれば、肺画像データ入力部21は肺血流シンチグラフィにより得られた被験者の肺画像データを入力し、記録装置13に肺血流シンチグラム14等として記録する。肺血流シンチグラム表示部22は記録装置13に記録された肺血流シンチグラム14等を表示装置11に表示する。ROI設定部23は肺血流シンチグラム表示部22により表示装置11に表示された肺血流シンチグラム14等に対して、左右の肺別および/または両肺に所定の形状のROI−R等を設定させる。肺疾患判別部26は、形状フラクタル処理部27により求められ記録装置13のボックスカウント次元DB16に記録された被験者のボックスカウント次元と、濃度フラクタル処理部28により求められ記録装置13のピクセルカウント次元DB17に記録された被験者のピクセルカウント次元とに基づき、被験者の肺疾患を判別する。判別結果表示部25は、肺疾患判別部26により判別された判別結果を表示装置11に表示する。詳しくは、肺疾患判別部26の形状フラクタル処理部27は、肺血流シンチグラム14等の特徴である形状に対し、フラクタル解析におけるボックスカウント法を適用してボックスカウント次元(フラクタル次元)を求める。濃度フラクタル処理部28は肺血流シンチグラム14等の特徴である放射性同位元素のカウント値に対し、ピクセル毎に、最大のカウント値に対する当該ピクセルのカウント値(割合)である濃度を求め、濃度の変化と当該濃度以上のピクセル数との関係に対しボックスカウント法類似のピクセルカウント法を適用してボックスカウント次元類似のピクセルカウント次元を求める。階層的判別部30は形状フラクタル処理部27により求められたボックスカウント次元および濃度フラクタル処理部28により求められたピクセルカウント次元に基づき、肺画像データ人力部21により記録装置13に記録された被験者の肺血流シンチグラム14等を階層的に判別処理することにより、被験者の肺疾患の種類(正常を含む。)を判別する。階層的判別部30の第一階層判別部31は、ROI設定部23により設定されたROIについて、左右の肺に対するボックスカウント次元が共に1.325より大きく1.42より小さい第一階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をN(正常)と判別する。第二階層判別部32は第一階層条件が成立しなかった場合、左右の肺に対するピクセルカウント次元が共に0.2以下である第二階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する。第三階層判別部33は第二階層条件が成立しなかった場合、ピクセルカウント次元左右比算出部36により算出されたピクセルカウント次元左右比が第一閾値(所望の値で、例えば1.59)以上である第三階層条件が成立する場合、被験者の肺疾患の種類をCTEP(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)と判別する。第四階層判別部34は第三階層条件が成立しなかった場合、ピクセルカウント次元左右比算出部36により算出されたピクセルカウント次元左右比が第二閾値(所望の値で、例えば1.1)以上である第四階層条件が成立する場合は被験者の肺疾患の種類をPPH(原発性肺高血圧症)と判別し、第四階層条件が成立しない場合は被験者の肺疾患の種類をPVOD(肺静脈閉塞性疾患)と判別する。
【0086】
実際に検定に用いた44症例のデータについて、
図17に示されるように度数グラフ等を作成した結果、Nのボックスカウント次元は1.386を中心とする±(0.0697)/2の範囲、即ち、約1.325〜1.42の範囲に収まっていることがわかる。従って、第一階層条件により、コントロールデータを除外できることがわかる。
図18に示されるように度数グラフ等を作成した結果、CTEPのピクセルカウント次元は0.2以下の範囲に収まっていることがわかる。従って、第二階層条件により、CTEPを確定できることがわかる。以上のように、本発明の肺疾患判別プログラムによれば、患者の生前において、正常であるか、または呼吸不全をきたす難治性の疾患、特にCTEP、PPHもしくはPVODであるかを判別可能とすることができる。
【実施例4】
【0092】
図47は、本発明の実施例4における肺疾患判別プログラムをコンピュータに実行させるための環境4および肺疾患判別プログラムの機能ブロック20’を示す。
図47で
図1と同じ符号を付した個所は同じ要素を示すため、説明は省略する。
図47に示されるように、実施例4における肺疾患判別部26’は、形状フラクタル処理部27により求められたボックスカウント次元および濃度フラクタル処理部28により求められたピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトルを自己組織化マップ(Self-organizing Map : SOM)法における2次元格子配列上のニューロンに提示して当該肺血流シンチグラムにより示される肺疾患の種類を学習させる学習部(学習手段)90を備えている。上述したように、被験者のボックスカウント次元は形状フラクタル処理部27により記録装置13のボックスカウント次元DB16に記録されており、被験者のピクセルカウント次元は濃度フラクタル処理部28により記録装置13のピクセルカウント次元DB17に記録されている。
【0093】
ここで、SOMについて簡単に説明する。SOMはKohonen型ニューラルネットワーク法とも呼ばれ、教師無し学習型のニューラルネットワーク法である。SOMでは、入力パターン群をその類似度に応じて分類する能力を自律的に獲得していく。SOMは階層型ニューラルネットワーク法の1つであるが、学習則には競合学習が使われており、入力層からデータを入力すると、競合層でそのデータの特徴を最もよく捉えたある1つのニューロンが発火する。様々なパターンを繰返し入力することにより、似ているパターン同士は近い位置のニューロンが発火し、似ていないパターン同士は遠くに離れた位置のニューロンが発火するというように、結合荷重ωを変化させていく。十分に学習を行うと、結合荷重ωがある値に収束する。この時点での競合層上の入力パターン群の発火マッピングは、パターン同士の類似性を反映したものとなり、これが分類結果として用いられる。一般的には、n次元の入力データ群を2次元配列にマッピングする2次元SOMが用いられる。
【0094】
実施例4では、n次元の入力層はx(t)(tは0、1、2、...の時間を示し、各x(t)は時間tにおけるn個の入力データ、即ち肺血流シンチグラムの画像データを有する入力データベクトル)と表され、パターンAの入力データベクトル(肺血流シンチグラムの画像データベクトル)はx
A={x
A1,x
A2,...,x
An}等のように表される。2次元SOMはm×mの格子点上に配置されたニューロンu
i,j(i、j=1〜m)を持つものとする。入力データベクトルxはすべてのニューロンu
ijに提示され、2次元格子配列上の(i,j)に位置するニューロンu
ijは、その入力データベクトルxに対応した可変の結合荷重ベクトルω
i,j = (ω
ij,1, ω
ij,2,…, ω
ij,n) 、i、j=1〜mを持つ(重みω)。このω
i,jを参照ベクトルという。
【0095】
入力された肺画像データをSOM法における2次元格子配列上のニューロンに提示する入力データベクトルxとし、所定の回数学習させる。入力データベクトルx(t)の数をL、繰返し数をN(≧L)とし、t=0とする。参照ベクトルω
i,j (t)、t=0、i、j=1〜mの初期値をランダムに与える。t=1、2、...、Nに対して以下の操作を繰り返す。
【0096】
入力データベクトルx(t)と各参照ベクトルω
i,j (t−1)との間のユークリッド距離‖x(t)−ω
i,j (t−1)‖、i、j=1〜mを求める。求めたユークリッド距離(i、j=1〜m)を最小とするニューロンu
I,Jを求める。すなわち、入力データベクトルx(t)と各ニューロンu
i,jの参照ベクトルω
i,j (t−1)との間で最小とする測度は、ユークリッド距離である。参照ベクトルω
i,j (t)を式16により学習する。
【0097】
【数7】
【0098】
ここで、hは参照ベクトルω
i,j (t)の学習に用いられる近傍関数と呼ばれる関数であり、次の性質を持つ関数であり、t(学習回数)に関する単調減少関数で、1)tが無限大で近傍関数hは0に収束する。2)、格子点(i,j)と勝者ニューロンu
I,Jの位置する格子点(I,J)との間のユークリッド距離‖u
i,j−u
I,J‖に関して単調減少する。単調減少の程度はtが増加するほど大きくなる、という性質を有している。発火したニューロンu
I,Jは、次のサイクル上で同一の入力ベクトルx
Sに対する応答を改良するために重みω
i,j (t)の修正を行う。ニューロンu
I,Jの近傍におけるすべてのニューロンu
a,b等の重みω
a,b (t)は、 ニューロンu
I,Jとの間のユークリッド距離が増加するに従って減少する量によって修正する。つまり、発火したニューロンu
I,Jの近くにあるニューロンu
a,b等ほど、発火の影響を受けるように学習が行われる。以上の操作を繰り返す。
【0099】
学習部90において、入力データベクトルと各ニューロンの参照ベクトルとの間で最小とする測度はユークリッド距離である。肺疾患判別部26’は、学習部90により学習させた後のSOM法におけるニューロンに、他の被験者の肺画像データについて、肺画像データ入力部21、肺血流シンチグラム表示部22、ROI設定部23、形状フラクタル処理部27および濃度フラクタル処理部28を実行させて求められたボックスカウント次元とピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトル(パターンA等)を提示して、当該他の被験者のボックスカウント次元およびピクセルカウント次元により示される他の被験者の肺疾患の種類を判別させる判別部(判別手段)91を備えている。他の被験者のボックスカウント次元も形状フラクタル処理部27により記録装置13のボックスカウント次元DB16の他の被験者用の記録領域(不図示)に記録されており、他の被験者のピクセルカウント次元も濃度フラクタル処理部28により記録装置13のピクセルカウント次元DB17他の被験者用の記録領域(不図示)に記録されている。判別結果表示部25’は、学習部90により学習された結果および判別部91により判別された結果を2次元SOMマップとして表示する。学習が終了すると、入力データベクトルx
Aと似たものは特定の肺疾患のグループに分類され、他の入力データベクトルx
B等と似たものは別の肺疾患のグループに分類される。つまり、上述した勝者ニューロンの位置を2次元にプロットすることにより2次元SOMマップとして分類することができる。
【0100】
図48は、判別結果表示部25’が表示装置11に表示した2次元SOMマップ100等を示す。
図48のSOMマップ100に示される大きい丸102等は、発火したニューロンであり、格子配列のサイズは10×10、即ちニューロンu
i,j(i、j=1〜m;m=10)である。
図48において、符号110は「ニューロンから見た最一致データ」表、112は「データから見た最一致ニューロン」表である。表110および112において、名前欄は入力データベクトル(パターン)、縦横欄は勝者ニューロンu
I,Jの位置する格子点(I,J)の座標(SOMマップ100上で左上を(0、0))、距離欄は入力データベクトルと当該格子点との間のユークリッド距離、cate欄はCategoly欄の略であり、本来所属する肺疾患のグループの数量化としての数値(例えば、PPHなら2.00、CTEPなら4.00等)である。「ニューロンから見た最一致データ」表110は、勝者ニューロンu
I,Jの位置する格子点(I,J)の座標順(I、J)=(0、0)、(0、1)...に入力データベクトルを並べた表であり、「データから見た最一致ニューロン」表120は入力データベクトル順に勝者ニューロンu
I,Jの位置する格子点(I,J)を並べた表である。
図48ではニューロン102等は白黒表示であるが、原画では肺疾患のグループ毎に色分け表示されており、学習の結果、各肺疾患のグループ毎に分類されていることがわかる。
【0101】
図48のSOMマップ100に示される小さい丸104等は、各ニューロンのベクトルの末点間の直線距離を示す。
図49および50は
図48の小さい丸104等を説明するための図である。
図49に示されるように、ニューロン102等は各々6角形のニューロンi、j、k等で表されており、小さい丸104等はベクトルik等を意味する。
図50に示されるように、ニューロンi、j、kまでの距離はベクトルU
i、U
j、U
kと表すことができ、ニューロンiのベクトルU
iの末点とニューロンkのベクトルU
kの末点との間の直線距離はベクトルikとして表すことができる。このニューロンの末点間のベクトルikが
図48および49におけるニューロン間の小さい丸104等として示されている。
【0102】
図51は、本発明の実施例4における肺疾患判別プログラムおよびコンピュータが被験者の肺疾患の判別を実行する肺疾患判別方法の処理の流れをフローチャートで示す。
図51に示されるように、まず、学習用の被験者の肺画像データに関し、実施例1(
図14)で説明したように肺画像データ入力ステップ(ステップS10)から濃度フラクタル処理ステップ(ステップS18)まで実行する(ステップS50)。次に、形状フラクタル処理ステップ(ステップS16)で求められたボックスカウント次元と濃度フラクタル処理ステップ(ステップS18)で求められたピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトルをSOM法における2次元格子配列上のニューロンに提示して当該肺血流シンチグラムにより示される肺疾患の種類を学習させる(学習ステップ。ステップS52)。ここで、当該入力データベクトルと各ニューロンの参照ベクトルとの間で最小とする測度はユークリッド距離である。学習ステップ(ステップS52)で学習させた後のSOM法におけるニューロンに、他の被験者の肺画像データについて、肺画像データ入力ステップ(ステップS10)から濃度フラクタル処理ステップ(ステップS18)まで実行させて求められたボックスカウント次元とピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトルを提示して、当該他の被験者のボックスカウント次元及びピクセルカウント次元により示される肺疾患の種類を判別させる(判別ステップ。ステップS54)。判別結果表示ステップ(ステップS40’)では、学習ステップ(ステップS52)で学習された結果および判別ステップ(ステップS54)で判別された結果を2次元SOMマップとして表示する。
【0103】
図52は、本発明の実施例4における肺疾患判別プログラム等が実行した学習結果(学習10回毎の学習状況表)を示す。
図52の学習状況表において、最左列は学習回数(繰返し数N)、中央列は学習結果、最右列は認識結果を示す。学習結果列中の最左列は学習誤差であり、中央列は学習率、最右列は正解数を示す。学習回数t回における学習率α(t)は式17で与えられる。式17で、α
min、α
maxは、各々学習率α(t)の中での最小値、最大値であり、t
allは予定した全学習回数である。式17中の関数fは式18で与えられる。関数fは、誤差逆伝播法におけるシグモイド関数にボルツマンマシンにおける擬似焼きなまし法の温度Tを導入した関数とした。
【0104】
【数8】
【0105】
学習誤差Eは、式19で与えられる。式19でTkはk回目の学習における温度、Okはk回目の学習におけるSOMの出力(判別部91により判別された結果)である。
【0106】
【数9】
【0107】
図52の認識結果列は、学習後のSOMに対して種々の肺疾患のパターンを入力させた場合の分類結果を示す。認識結果列中の最左列は認識誤差であり、中央列は認識率、最右列は正解数を示す。認識誤差は式19の出力Okを分類結果(cate)としたものであり、認識率は学習率と同様に与えられる。但し、t
allは全認識回数である。
【0108】
図53は、学習用の入力データベクトルの要素であるボックスカウント次元とピクセルカウント次元とを併記した別の学習状況表を示す。
図53の学習状況表において、第1列は肺血流シンチグラム名、第2列は学習率(1の場合○)、第3列は入力しボックスカウント次元DB16に記録されたボックスカウント次元、第4列は入力しピクセルカウント次元DB17に記録されたピクセルカウント次元、第5列および第6列は
図48のcate欄であって各々上記ボックスカウント次元、ピクセルカウント次元に対応するものである。
図53に示されるように、学習における正解率は100%となった。
【0109】
図54は、
図53に示される別の学習状況により学習させた後のSOMに対して種々の他の被験者の肺疾患のパターンを入力させた場合の分類結果を示す。
図54に示される表の各列の意味は
図53と同様であるため、説明は省略する。
図54に示されるように、認識における正解率は100%となった。
図53および54に示されるように、実施例4のSOMを用いた肺疾患判別プログラムは、精度良く肺疾患を判別することができる。
【0110】
以上より、本発明の実施例4によれば、肺疾患判別部26’は、形状フラクタル処理部27により求められたボックスカウント次元および濃度フラクタル処理部28により求められたピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトルを自己組織化マップ(SOM)法における2次元格子配列上のニューロンに提示して当該肺血流シンチグラムにより示される肺疾患の種類を学習させる学習部90と、学習部90により学習させた後のSOM法におけるニューロンに、他の被験者の肺画像データについて、肺画像データ入力部21、肺血流シンチグラム表示部22、ROI設定部23、形状フラクタル処理部27および濃度フラクタル処理部28を実行させて求められたボックスカウント次元とピクセルカウント次元とを要素とする入力データベクトル(パターンA等)を提示して、当該他の被験者の肺血流シンチグラムの画像データにより示される他の被験者の肺疾患の種類を判別させる判別部(判別手段)91とを備えている。判別結果表示部25’は、学習部90により学習された結果および判別部91により判別された結果を2次元SOMマップとして表示する。以上により、学習が終了すると、入力データベクトルx
Aと似たものは特定の肺疾患のグループに分類され、他の入力データベクトルx
B等と似たものは別の肺疾患のグループに分類される。つまり、上述した勝者ニューロンの位置を2次元にプロットすることにより2次元SOMマップとして分類することができる。この結果、本発明の実施例4における肺疾患判別プログラムによれば、患者の生前において、正常であるか、あるいは呼吸不全をきたす難治性の疾患、特にCTEP、PPHおよびPVODであるかを判別可能とすることができる。