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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-195419(P2015-195419A)
(43)【公開日】2015年11月5日
(54)【発明の名称】電気音響変換装置
(51)【国際特許分類】
   H04R 9/00 20060101AFI20151009BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20151009BHJP
【FI】
   H04R9/00 C
   H04R3/00 310
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-181215(P2012-181215)
(22)【出願日】2012年8月17日
(71)【出願人】
【識別番号】599084980
【氏名又は名称】株式会社プロトロ
(71)【出願人】
【識別番号】593001901
【氏名又は名称】ミカサ商事株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102934
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100164415
【弁理士】
【氏名又は名称】斉藤 翼
(72)【発明者】
【氏名】奥田 正直
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正
【テーマコード(参考)】
5D012
5D220
【Fターム(参考)】
5D012AA02
5D012BA03
5D012BA05
5D012BB03
5D220AA37
(57)【要約】
【課題】薄型化が可能な電気音響変換装置、たとえばスピーカーにおいて、複数の磁気回路をフレキシブルに利用できるスピーカーを提供する。
【解決手段】スピーカー10は、多極磁化された着磁面33を含む磁石板31および32と、着磁面33と緩衝材41および42を挟んで対峙するように配置された振動膜50とを有する。振動膜50は、異なる電気信号が印加される独立した複数の配線61a〜61cを含む配線パターン60を含み、配線パターン60は、多極磁化された着磁面の着磁境界36に沿って延びた配列パターンであって、着磁境界を中心とした対称な配列パターン65を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多極磁化された着磁面を含む磁石板と、
前記着磁面と緩衝材を挟んで対峙するように配置された振動膜とを有し、
前記振動膜は、異なる電気信号が印加される独立した複数の配線を含む配線パターンを含み、
前記配線パターンは、前記多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延びた配列パターンであって、前記着磁境界を中心とした対称な配列パターンを含む、電気音響変換装置。
【請求項2】
請求項1において、隣接する前記着磁境界に沿った前記配列パターンに含まれる前記複数の配線の並び順が逆転している、電気音響変換装置。
【請求項3】
請求項1または2において、前記振動膜は両面に前記配線パターンを含む、電気音響変換装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかにおいて、前記着磁面はストライプ状に多極磁化されている、電気音響変換装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、さらに、前記振動膜と一体化した接続片を有し、
前記接続片は、前記複数の配線のそれぞれと外部配線とを電気的に接続する複数の接続端を含む、電気音響変換装置。
【請求項6】
請求項5において、さらに、前記複数の接続端を介して前記複数の配線のそれぞれに対し入力または出力される電気信号をクロック単位で切り替える接続ユニットを有する、電気音響変換装置。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかにおいて、さらに、前記振動膜と一体化した基板と、
前記基板に搭載された処理ユニットであって、前記複数の配線のそれぞれにデジタル音響信号を供給する処理ユニットとを有する、電気音響変換装置。
【請求項8】
請求項7において、前記振動膜と前記処理ユニットが実装された基板との境界に沿って設けられたスリットを有する、電気音響変換装置。
【請求項9】
請求項7または8において、前記処理ユニットは、前記複数の配線のそれぞれに供給されるデジタル音響信号をクロック単位で切り替える接続機能を含む、電気音響変換装置。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかに記載の電気音響変換装置と、
前記電気音響変換装置を収納したハウジングとを有するスピーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スピーカーおよびマイクロフォンを含む電気音響変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ΔΣ変調器とミスマッチシェーピングフィルター回路により複数のデジタル信号を出力する回路と、複数のデジタル信号により駆動される複数のスピーカーによりアナログ音声を直接変換するデジタルスピーカー装置に最適なデジタル音響システムを提案している。特許文献1には、ΔΣ変調器と、後置フィルターと、s個の駆動回路と、ΔΣ変調器、後置フィルター及びs個の駆動素子に電源を供給する電源回路とから構成され,s個の駆動回路はs個のデジタル信号端子に対応していることを特徴とするデジタルスピーカー駆動装置が記載されている。
【0003】
特許文献2には、小型平面テレビ等に内蔵され得る薄型化を実現しつつ、フルレンジ型の音響変換能力を有する高密度パターンで、前面形状設計の自由度の高い駆動方式を持つ薄型全面駆動スピーカを提供することが記載されている。特許文献2に記載されているスピーカは、それぞれ、フレームをなすヨーク板のほぼ全面に高密度で配置した最大多数の円形の磁気ギャップを形成する磁気回路の同一構成でなる第1と第2の磁気回路群を、互いに磁気回路の各々が同極面で間隔を置いて対向する様に振動板の両側に配置し、振動板が担持するボイスコイルは対向する2群の各磁気回路の円形磁気ギャップの全てを一筆書でたどる最大有効線長の連続パターンで形成されて対向磁気回路間の中性面に円形磁気ギャップについてラジアル状に形成されるメイン磁束ループ内に磁束方向と直交して配置される。ヨーク板は、振動板の振動による広い振幅領域の音圧を外側に放射する貫通孔を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−28785号公報
【特許文献2】特開2011−250063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薄型化が可能な電気音響変換装置、たとえばスピーカーにおいて、複数の磁気回路をフレキシブルに利用できる電気音響変換装置が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、多極磁化された着磁面を含む磁石板と、着磁面と緩衝材を挟んで対峙するように配置された振動膜とを有する電気音響変換装置である。振動膜は、異なる電気信号が印加される独立した複数の配線を含む配線パターンを含み、配線パターンは、多極磁化された着磁面の着磁境界に沿って延びた配列パターンであって、着磁境界を中心とした対称な配列パターンを含む。
【0007】
この電気音響変換装置は、磁石板と振動膜とが対峙して配置される面タイプの電気音響変換装置であり、異なる電気信号が印加される独立した複数の配線のそれぞれにより複数の磁気回路を構成できる。さらに、配線パターンに、着磁境界に沿い、着磁境界を中心とした対称な配列パターンを含めることにより、複数の磁気回路が構成されたときの振動膜に平行な力の成分により振動を効率よくキャンセルできる。
【0008】
したがって、この電気音響変換装置においては、複数の配線のそれぞれにより構成される複数の磁気回路の機能をフレキシブルに選択または再構成できる。たとえば、配線パターンに含まれる複数の配線のそれぞれに異なる駆動信号を供給することにより複数のスピーカーとしての機能を1つの面タイプ(フラットタイプ、平板タイプ)の装置で実現することも可能である。また、配線パターンに含まれる複数の配線を適当な組み合わせで接続することにより1または複数の特性の異なるスピーカーとして機能させることが可能である。
【0009】
この電気音響変換装置においては、隣接する着磁境界に沿った配列パターンに含まれる複数の配線の並び順が逆転していることが望ましい。複数の配線のそれぞれに、パターンが偏った異なる電気信号が印加されるような場合であっても、振動膜に平行な力の成分により振動を効率よくキャンセルできる。したがって、振動膜を効率よく、振動膜の面に垂直な方向に振動させることができる。
【0010】
振動膜は両面に配線パターンを含むことが望ましく、より多くの磁気回路を1つの振動膜に構成できる。典型的な着磁面はストライプ状に多極磁化されているものであり、振動膜に設けられる複数の配線パターンの典型的なものはストライプ状に配置(アレンジ)されたものである。典型的には、四角形の磁石板がいずれかの辺に平行な縞状に等ピッチで多極磁化されており、振動膜の配線パターンは、振動膜のいずれかの辺に平行で、磁石板の多極磁化のピッチと同ピッチで配置された配列パターンを含む。
【0011】
電気音響変換装置は、振動膜と一体化した接続片を有し、接続片は、複数の配線のそれぞれと外部配線とを電気的に接続する複数の接続端を含むことが望ましい。複数の配線の接続の組み合わせを複数の接続端を用いて制御でき、1または複数の特性の異なる電気音響変換装置として使用できる。
【0012】
電気音響変換装置は、複数の接続端を介して複数の配線のそれぞれに対し入力または出力される電気信号をクロック単位で切り替える接続ユニットを有することが望ましい。配線パターンに含まれる複数の配線のそれぞれは基本的な特性が共通するとしても、製造上の公差等により微細な音響特性が異なることが多い。したがって、複数の配線の割り当てをクロック単位で切り替えることにより、配線パターンに含まれる複数の配線の音響特性を平均化でき、いっそう音響特性の良好な電気音響変換装置を提供できる。
【0013】
また、電気音響変換装置は、振動膜と一体化した基板と、基板に搭載された処理ユニットであって、複数の配線のそれぞれにデジタル音響信号を供給する処理ユニットとを有することが望ましい。処理ユニットを搭載する基板と振動膜とを一体化することにより、処理ユニットと複数の配線とを端子を介さずに接続できる。このため、処理ユニットを含んだ、省スペースで軽量な電気音響変換装置を提供できる。
【0014】
電機音響変換装置においては、振動膜と基板との境界に沿ってスリットを設けることが有効である。振動膜の振動特性を制御しやすい。また、処理ユニットは、複数の配線パターンのそれぞれに供給されるデジタル音響信号をクロック単位で切り替える接続機能を含むことが望ましい。
【0015】
本発明の異なる形態の1つは、上記の電気音響変換装置と、電気音響変換装置を収納したハウジングとを有するスピーカーである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スピーカーの外観を示す図。
図2】スピーカーの構成を展開して示す図。
図3】振動膜の表裏の構成を示す図。
図4】配線の配置を示す断面図。
図5】ターミナルユニットのブロック図。
図6】振動膜を含むプリント配線板を示す図。
図7】デジタル化を説明する図。
図8】デジタル信号を各配線に分割する様子を示す図。
図9】各配線に供給される信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、本発明に係る電子音響変換装置の一例として平板型のスピーカーの外観を示している。図2に、平板型のスピーカー10の概略構成を展開図により示している。このスピーカー10は、板状のハウジング20と、ハウジング20の内部の上下(前後または左右)に配置された板状の磁石板31および32と、磁石板31および32に緩衝材(緩衝部材)41および42を介して挟まれるように配置された振動膜50と、振動膜50と外部配線とを接続するターミナルユニット70とを含む。
【0018】
ハウジング20は、金属製、プラスチック製または木製であり、その他の材料、たとえばセラミック、ガラスなどで構成されていてもよい。ハウジング20は上部ハウジング21と下部ハウジング22とを含み、それぞれに複数の開口23が設けられている。開口23の形状は円形に限定されず、多角形であっても、網状であっても、スリット状などであってもよい。また、ハウジング20は、スピーカー10を単独で構成するものであってもよく、テレビ、パーソナルコンピュータあるいはその他の電気製品または家具の一部であってもよい。さらに、ハウジング20は車両の内装または部屋の内装の一部であってもよく、ハウジング20はその他の動産または不動産の一部であってもよい。
【0019】
ハウジング20の内部に収納された磁石板31および32は、共通の構成の永久磁石板であり、着磁により表面および裏面の着磁面33に帯状のN極35nとS極35sとが平行縞状に交互に現れている。さらに、帯状のN極35nおよびS極35s(以降では極に関わらず着磁領域35と称することがある)の境界(着磁境界)36に沿って、複数の貫通孔34が設けられている。
【0020】
磁石板31および32は、焼結磁石板、非焼結磁石板、フレキシブル磁石板またはソリッド構造の磁石板であってもよく、その他の公知の構造の磁石板のいずれかであってもよい。磁性を付加する材質は、フェライト磁石、希土類磁石、ネオジム−鉄−ホウ素系磁石などであってもよい。磁石板31の厚さや形状(正方形、長方形、円形、楕円形など)、構造(1枚の永久磁石板であるか、複数の永久磁石板を貼り合わせた構造であるかなど)は任意であり、設計上の問題で、特性やコスト、製造上の必要性、使用状態などに応じて適宜選択できる。また、磁極の大きさ(着磁の大きさ)、極ピッチなども任意であり、ハウジング20の大きさ、要求される音量などの要素に基づき選択できる。
【0021】
以下では、2枚の磁石板31および32に振動膜50が挟まれた構造のスピーカー10を例に説明するが、1枚の磁石板の一方(片面)のみに振動膜50を配置してもよく、1枚の磁石板の両側に振動膜50を配置してもよく、複数の磁石板および振動膜を積層した構成であってもよい。
【0022】
磁石板31および32と、振動膜50との間に配置される緩衝部材41および42は、軟質で、音波が自由に通る程度の通気性を有し、振動膜50とほぼ同じ大きさのシート状の部材である。緩衝部材41および42の一例は、薄いシート状の不織布を複数枚(2〜5枚程度)を重ねたものである。緩衝部材41および42を複数枚のシート状の部材を重ねて構成する場合は、それらを接着せずに、それぞれ別個に振動(変位)できるように重ねて配置することが望ましい。緩衝部材41および42は、動作時に振動膜50が磁石板31および32にぶつかって異音(正常振動音ではない雑音)を発することを防ぎ、振動膜50自身の分割振動の発生を防ぐ(びびり音の発生を防ぐ)など、音源に忠実な音波以外の発生を制御する作用を含む。
【0023】
振動膜50は、薄膜の樹脂フィルムであり、たとえば、ポリイミドフィルム(芳香族ポリイミドフィルム)、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどを用いることができ、厚みは10−50μm程度が好ましく、さらに20−40μm程度が好ましい。振動膜50は、複数枚のフィルムを積層したものであってもよい。本例の振動膜50は、方形(長方形)で一方の辺に小さな接続片58が設けられた樹脂フィルム(プリント配線板)59の方形の部分である。振動膜50には、複数の配線パターン60が両面51および52に形成されている。
【0024】
図3(a)および(b)に、振動膜50の両面(上面および下面、前面および後面、表面および裏面)51および52を示している。また、参考のために、対峙する磁石板30の着磁面33の着磁領域35nおよび35sの配置を示している。
【0025】
振動膜50の表面51には、3本の配線61a、61bおよび61cを含む配線パターン60が形成されている。振動膜50の裏面52には、3本の配線61d、61eおよび61fを含み、表面51の配線パターンと同じまたは対称な配置の配線パターン60が形成されている。また、振動膜50と一体化した接続片58には、それぞれの配線61a〜61cおよび61d〜61fの両端に繋がる接続端子62が設けられている。したがって、表裏6本の配線61a〜61fは電気的に独立しており、配線61a〜61fのそれぞれに対し接続端子62を介して異なる電気信号を印加することができる。これらの配線61a〜61fおよび接続端子62はプリント配線であり、振動膜50を含む樹脂フィルム59はフレキシブルタイプのプリント配線板となっている。これらの配線61a〜61fは、フレキシブル銅張プリントフィルムをフォトエッチングすることにより形成できる。表面51と裏面52との構成は共通するので、以降では表面51の配線パターン60を説明する。
【0026】
振動膜50は、異なる電気信号が印加される独立した複数の配線61a〜61cを含む配線パターン60を含む。配線パターン60は、多極磁化された着磁面33の着磁境界36に沿って延びた第1の配列パターン65と、振動膜50の縁側に配置され着磁境界36に対し直交する方向に延びた第2の配列パターン66とを含む。第1の配列パターン65は、着磁境界36を中心とした対称な位置に複数の配線61a〜61cが配置されている。すなわち、この第1の配列パターン65は、3つの配線61a〜61cを含むので、配線61bが着磁境界36に沿って配置され、配線61aおよび61cが配線61bに対し等しい間隔で平行に配置されている。
【0027】
隣接する第1の配列パターン65は、第2の配列パターン66により接続され、第2の配列パターン66により配線61a〜61cの順番は逆転される。したがって、隣接する第1の配列パターン65では、配線61a〜61cの並び順が逆転している。
【0028】
図4に、スピーカー10において、振動膜50が上下の磁石板31および32により挟まれた状態を模式的に断面図により示している。なお、緩衝部材は省略している。磁石板31および32の表面(着磁面)33にはストライプ状に着磁された着磁領域35(35nおよび35s)が表れる。着磁領域35の垂直な磁界成分(絶対値)は、それぞれの着磁領域35nおよび35sの中心付近で最も大きく、着磁領域35n(N極)と35s(S極)の境界(着磁境界)36付近では最も小さくなる。これは着磁磁界の成分を垂直方向に見て定義しているためで、境界36付近では垂直成分の磁界が無いことから、この領域をニュートラルゾーンと呼ぶこともある。一方、これらの着磁領域35により形成される磁界37の水平成分(永久磁石板の表面に平行な成分)は、それぞれの着磁領域35nおよび35sの中心付近では最も小さく、着磁境界36付近で最も大きい。隣接する着磁領域35n(N極)から着磁領域35s(S極)へ円弧状に磁力線37が通るためである。
【0029】
振動膜50の配線61a〜61cに電流を通すと、フレミングの左手の法則にしたがい、磁界37の方向により振動膜50を動かす力が働く。磁界37の水平成分は振動膜50を厚み方向に振動させるのに寄与する成分であり、配線61a〜61cに信号(電流)を印加することにより振動膜50を厚み方向に振動させて音響に変換できる。このため、配線61a〜61cは、第1の配列パターン65により水平成分の最も大きな着磁境界36に沿って配置される。一方、この第1の配列パターン65は、複数の配線61a〜61cを含む。したがって、着磁境界36に垂直な方向にある程度の幅で複数の配線61a〜61cが配置される。このため、両側の配線61aおよび61cに電流が流れると、磁界37の水平成分だけではなく垂直成分と作用し、振動膜50を厚み方向(本図では上下方向)に動かすとともに、振動膜50を平行な方向(本図では水平方向)に動かす力が働く可能性がある。
【0030】
本例の振動膜50に設けられた第1の配列パターン65においては、両側の配線61aおよび61cは、着磁境界36に対して対称な位置に配置されている。したがって、両側の配線61aおよび61cに同位相の信号が供給された場合は、磁界37の垂直成分により両側の配線61aおよび61cでは振動膜50と平行な方向(水平な方向)で逆方向の力が発生する。このため、配線61aおよび61cにより発生する振動膜50を水平方向に動かす力はキャンセルされ、振動膜50を安定した状態で上下に振動させて音を発生させることができる。
【0031】
配線61a〜61cには異なる電気信号を独立して供給することができる。したがって、両側の配線61aおよび61cには同じ電気信号が同時に供給されるとは限らない。しかしながら、配線61a〜61cを音源として利用する場合、配線61a〜61cに供給される信号強度は時間平均するとほぼ等しくなることが多い。さらに、以下で説明するように、ターミナルユニット70に、配線61a〜61cをクロックの単位でランダムまたはサイクリックに選択して接続する機能を設けることにより、配線61a〜61cに供給される信号強度をさらに平均化できる。
【0032】
さらに、隣接する第1の配列パターン65においては、配線61a〜61cの順番が逆転している。また、隣接する第1の配列パターン65においては各配線61a〜61cに流れる電流の向きは逆転する。したがって、同一の配線、たとえば、配線61cにおいては、磁界37の垂直成分の方向は同じで、電流の向きが逆転する。このため、各配線61aおよび61cにより発生する振動膜50を水平方向に動かす力は、隣接する第1の配列パターン65の間でキャンセルされる。したがって、各配線61a〜61cに位相の異なる電気信号や極性の異なる電気信号が供給されるような場合であっても、振動膜50を安定した状態で上下に振動させて、電気信号を音響信号に変換して出力できる。
【0033】
振動膜50により出力された音響信号は、磁石板31および32に設けられた貫通孔(貫通部)34を通して外界に出力される。また、振動膜50および緩衝部材41および42の水平方向(面と平行な方向)の動きは、ハウジング20に適当なストッパとしての構成を設けて規制することも可能である。たとえば、ハウジング20の側壁で振動膜50などの動きを規制したり、ハウジング20のコーナーの形状を斜めにして振動膜50の動きを規制することができる。さらに、ピンなどの部材により振動膜50の水平方向の動きを規制することができる。なお、振動膜50の縁(周端)は、自由に振動できる状態でハウジング20に収納されていることが望ましい。振動膜50を自由端状態で振動させることができ、配線61a〜61fに供給される電気信号に応じた振動を振動膜50に励起することができる。
【0034】
図5に、振動膜50の表裏の配線61a〜61fを外部、たとえば、ホスト装置となるパーソナルコンピュータ(PC)と接続するためのターミナルユニット70の概略構成を示している。振動膜50は、表裏合計で6本の配線61a〜61fを含み、振動膜50と一体になった接続片58に表裏合計で12個の接続端子62が設けられており、6本の配線61a〜61fのそれぞれの両端と接続している。ターミナルユニット70は、12個の接続端子62と接続する12本の配線を含む第1の配線群76と、第1の配線群76と12本の配線を含む第2の配線群77とを任意に接続する第1の切替ユニット71と、第2の配線群77に含まれる12本の配線の組み合わせを切り替える第2の切替ユニット72と、第3の配線群78により第2の切替ユニット72に接続された汎用インタフェース、たとえば、USBインタフェース73とを含む。さらに、ターミナルユニット70は、第1の切替ユニット71を制御する第1のコントローラ74と、第2の切替ユニット72を制御する第2のコントローラ75とを含む。
【0035】
第1の切替ユニット71は、セレクターあるいはクロスバースイッチなどにより、振動膜50の配線61a〜61fと電気的に接続される出力側の第1の配線群76の配線と、入力側の第2の配線群77の配線とを接続し、第1のコントローラ74の制御により第1の配線群76と第2の配線群77との接続をランダムまたはサイクリックにクロック単位で切り替える。第1のコントローラ74は、ランダムまたはサイクリックに切り替える際、振動膜50の配線61a〜61fのそれぞれの配線の両端は常にペアーを組むようにして切り替える。したがって、入力側の第2の配線群77を使用する場合は、ランダムまたはサイクリックに切り替えられることを考慮せずに、配線61a〜61fのいずれかに相当する配線を選択するだけでよい。
【0036】
切り替えるタイミングは適当な周期(サイクル)であればよく、1クロック単位であってもよく、数クロック単位あるいは数10クロック単位であってもよい。振動膜50の配線61a〜61fにクロック単位のデジタルオーディオ信号が供給される場合は、クロック単位で切り替えるように第1の切替ユニット71を制御することにより、配線61a〜61fに供給される信号をデジタルオーディオ信号と同じ周期で切り替えることができる。
【0037】
振動膜50の表裏に形成されている6本の配線61a〜61fは、いずれも基本的には同じ配線長で、縦横方向の長さの組み合わせも同じになるように設計および形成(製造)される。しかしながら、プリント配線板を製造する際の製造公差や膜厚公差などが重なることにより、それぞれの配線61a〜61fの抵抗値や面積が微小に変動することがある。これらにより、同じ電流をそれぞれの配線61a〜61fに供給しても振動膜50の振幅や周波数が微小に変動する可能性があり、出力される音に微妙な違和感が発生する可能性がある。第1の切替ユニット71によりランダムに配線61a〜61fを選択し、それを交換する(切り替える)ことにより、振動膜50の出力を平均化でき、音質を向上できる。また、上述したように、各配線61a〜61fに供給される電気信号をある程度の時間の範囲内で平均化できるので、振動膜50を水平方向に動かす力をキャンセルでき、安定した状態で振動させることができる。第1の切替ユニット71は、短い時間単位でサイクリックに配線61a〜61fを選択(切替)してもよい。
【0038】
第2の切替ユニット72もセレクターやクロスバースイッチなどの接続を切替可能な適当な接続回路要素を含み、接続端子62を介して6本の配線61a〜61fの接続の組み合わせを変えることができる。たとえば、配線61a〜61fを直列に接続したり、部分的に直列に接続したり、直列と並列とを組み合わせて接続したりすることができる。たとえば、配線61a〜61fのそれぞれの抵抗が4Ωであれば、両端に4Vの電圧を加えると、スピーカー10の配線61a〜61fを、抵抗が4Ωで4Wの出力の6つのスピーカーとして使用できる。
【0039】
図5に破線で示しているように、2本の配線の組み合わせ、たとえば、配線61aおよび61d、配線61bおよび61eを直列に接続し、さらにこれらを並列に接続することにより、スピーカー10を、回路全体の抵抗が4Ωで出力が4Wの1つのスピーカーとして使用できる。形式的には6本の配線の内の4本を使用しているが、第1の切替ユニット71によりランダムまたはサイクリックに切り替えることにより、6本の配線61a〜61fを使用している。
【0040】
また、配線61a〜61fの内の2本を直列に接続することにより、スピーカー10を抵抗が8Ωで2Wの出力の3つのスピーカーとして利用できる。また、配線61a〜61fの内の4本を直列に接続することにより、スピーカー10を抵抗が16Ωで1Wの出力の1つのスピーカーとして利用できる。このため、スピーカー10は、第2の切替ユニット72の設定を変えるだけで、ホスト側の機器の仕様に合わせた抵抗および出力を備えたスピーカーに設定することができる。このため、スピーカー10は、スマートフォンの出力、オーディオ機器の出力などのさまざまな用途に手軽に使用でき、複数の用途に兼用することも容易である。
【0041】
図6に、振動膜50を備えた異なるタイプのプリント配線板80を示している。このプリント配線板80は、図2に示したプリント配線板(樹脂フィルム)59に代えてハウジング20に収納でき、上記の例と同様にスピーカー10を構成できる。
【0042】
プリント配線板80は、振動膜50と、振動膜50と一体化した基板部分81とを含む。基板部分81には、処理ユニット85が搭載(実装)されており、接続配線82により、振動膜50の表裏の配線61a〜61fに接続されている。また、振動膜50と基板部分81との間には、振動膜50と基板部分81との境界89に沿って複数のスリット83が設けられており、基板部分81を振動体としては振動膜50から分離されるようにしている。これにより、振動膜50の振動(音響)に関する性能を劣化させずに、振動膜50の配線パターン60と処理ユニット85とが共通のプリント配線板(回路基板)上に搭載された状態で配線パターン60と処理ユニット85とを電気的に接続できる。振動膜50の構成は上記と同様であり、説明は省略する。
【0043】
処理ユニット85はチップ(LSI、ASIC)として提供されてもよく、プリント配線板80に直に処理用の回路が形成されていてもよい。処理ユニット85はデジタルアンプ機能86を含み、振動膜50の配線61a〜61fのそれぞれに対し接続配線82を介してデジタル音響信号を供給する。
【0044】
図7にデジタルレコーディングの原理の一例としてCD方式のデジタル化を示している。横軸は時間(t)、縦軸は音声に対応する電気信号の電圧(v)を示す。この場合のデジタル化は、曲線98で示されている元の音声シグナルを時間軸でサンプリング周期(たとえば、22.7μsec)に分割し、その間の電圧値を折れ線99で示すようにデジタルデータ、たとえば16ビットの2進数)で表して記録する(量子化)。従来、デジタルデータを音響信号として再生するときは、デジタル信号をアナログコンバータ(D/Aコンバータ)でアナログ電圧に戻してスピーカーを駆動する。このとき、D/Aコンバータから直接出てくる電圧は、図に折れ線99で示した量子化されたような階段状(ギザギザ)の電圧で、これがこのままスピー力ーで再現されたら一般的には「ギザギザ」した聞きづらい音になる。
【0045】
スーパーオーディオCD(SACD)方式は、記録段階で高周波サンプリング(散布リンツ周期0.35μsec)を行ない、A/D変換の際にΔΣ変調(1bit、2.8224MHz)のデータをそのままスーパーオーディオCD盤上に記録する。音声信号の大小を1ビットのデジタルパルスの密度(濃淡)で表現する方式であり、ダイナミックレンジ120db、周波数特性100KHz以上という従来のCDとは桁違いの性能を有する。
【0046】
処理ユニット85のデジタルアンプ機能86は、デジタル論理回路でスピーカーを駆動する。すなわち、デジタル信号を受け取った後、アナログ変換を行わずに、直接、デジタル信号を振動膜(振動板)50の配線(回路)61a〜61fに独立に供給することにより音を再現する。たとえば、デジタルアンプ機能86は、24ビットのデジタル信号を受信すると、6つの配線(回路)61a〜61fに分解し、一定の時間内に1つの配線で4ビット分の情報を出力するように制御する。1つの配線あたりの時間当たりの分解能は4ビットに限定されることはなく、4ビット以上であればよい。
【0047】
デジタルアンプ機能(デジタルアンプユニット)86は、100MHz程度の処理能力を備えており、量子化されたサンプリング周期、たとえば、2.8MHzを時間方向に16分割する。したがって、デジタルアンプ機能86は、図8に模式的に示すように、入力された24ビットのデジタル信号91を6回路×16ビット(時間方向に16分割)の再生信号92、具体的には6つの信号92.1〜92.6に変換してそれぞれの配線61a〜61fに直に供給する。スピーカー10の振動膜50においては、配線61a〜61fに対し、それぞれ独立に供給されたデジタル信号(再生信号)92により上下に振動し、再生信号92による振動が合成された音が振動膜50より出力される。
【0048】
再生信号92は、時間方向に16ビットに分割されているので、図9(a)〜(p)に示すように、0−15の値を時間方向に分散して出力できる。図9(a)は値0を示し、図9(b)は値1を示し、図9(c)は値2を示し、図9(d)は値3を示し、図9(e)は値4を示し、図9(f)は値5を示し、図9(g)は値6を示し、図9(h)は値7を示し、図9(i)は値8を示し、図9(j)は値9を示し、図9(k)は値10を示し、図9(l)は値11を示し、図9(m)は値12を示し、図9(n)は値13を示し、図9(o)は値14を示し、図9(p)は値15を示す。
【0049】
したがって、デジタルアンプ機能86は、これらの出力から適当な4ビット分を選んで、振動膜50としてトータル24ビットの信号が再現されるように、再生信号92を振動膜50の各配線(回路)61a〜61fに供給する。
【0050】
上述したように、各配線61a〜61fは回路的には等価であるが、微小な機械的な性能の差がある可能性があり、さらに、配線61a〜61fの間で負荷分散を図ることが望ましい。このため、処理ユニット85は、配線61a〜61fに対し、ランダムに、または負荷分散を図るようにサイクリックに再生信号92を切り替えて供給する機能(供給ユニット)87を含む。
【0051】
このように、プリント配線板80を含むスピーカー10においては、デジタル信号があるという前提があれば、論理回路だけでスピーカー10を駆動できる。このため、デジタル/アナログ変換回路、アナログアンプ回路、およびアンプに必要な電源回路が不要であり、コンパクトで、省電力・大出力のスピーカーを提供できる。また、スピーカーを駆動する処理ユニット85は、デジタル駆動、すなわち、オン/オフだけのスイッチになるので、回路側での発熱がなく、ヒートシンクなどは不要である。さらに、電源電圧に近い電圧でスピーカーを駆動できるので、アナログ式に比べて低い電力で使用できるというメリットもある。
【0052】
なお、上記では、表裏のそれぞれに3配線(3回路)が形成された振動膜50を備えたスピーカー10を例に説明しているが、振動膜50に設けられる配線の数はこれに限定されず、2配線であってもよく、4配線以上であってもよく、いずれか一方の面だけに配線が設けられている振動膜50であってもよい。たとえば、配線パターン60が2配線の場合は、2つの配線は着磁境界36を中心に対称な位置に配置される。また、上記では、配線パターン60は振動膜50の長手方向(縦方向)に折り返しているが、振動膜50の幅方向(横方向)に折り返してもよい。配線パターン60が蛇行またはジグザグに曲がっている(ターンしている)数は3つに限定されない。振動膜50が小さいものであれば、配線パターン60はストレートであってもよい。配線パターン60には偶数個の第1の配列パターン65が含まれていることが望ましく、この場合は、配線パターン60のターン部分(第2の配線パターン66)は奇数であることが望ましい。
【0053】
また、磁石板31および32に設けられた貫通孔(通気孔)34の位置は任意であるが、振動膜50の変位が大きくなる着磁境界36に沿って配置することが望ましい。また、貫通孔34の配置は千鳥状であっても格子状であってもよく、円形であっても、長円形であっても、多角形であってもよい。
【0054】
また、上記では電気音響変換装置として音を出力するスピーカーを例に説明しているが、音を電気信号に変換するマイクロフォンであってもよく、この場合、特性をフレキシブルに設定したり、デジタル信号を出力するマイクロフォンを提供できる。
【符号の説明】
【0055】
10 スピーカー、 31、32 磁石板、 50 振動膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9