【課題】高速印刷における印刷乾燥性、ベタ部の画像均一性及び細線の画像再現性、印刷物の表面光沢性、耐擦性、並びに、高速印刷適性、間欠吐出性、プリンター部材適性、及びメンテナンス性を備えたインクジェット記録用油性インク組成物を提供する。
前記溶剤として、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含有し、該ラクトン系溶剤と該アミド系溶剤の合計量が全溶剤中に10〜40質量%であり、かつ、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有することを特徴とする、インクジェット記録用油性インク組成物である。
前記ラクトン系溶剤と前記アミド系溶剤の合計量が、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル溶剤1質量部に対して、2.0質量部超過、且つ6.0質量部以下の割合で含有することを特徴とする、請求項1に記載のインクジェット記録用油性インク組成物。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物、及びインクジェット記録方法について順に説明する。
【0015】
1.インクジェット記録用油性インク組成物
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物は、色材、溶剤及びバインダー樹脂を含有する油性インク組成物であって、
前記溶剤として、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含有し、該ラクトン系溶剤と該アミド系溶剤の合計量が全溶剤中に10〜40質量%であり、かつ、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有することを特徴とする。
【0016】
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物は、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含有し、該ラクトン系溶剤と該アミド系溶剤の合計量が全溶剤中に10〜40質量%であり、かつ、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有することにより、高速印刷における印刷乾燥性、ベタ部の画像均一性及び細線の画像再現性、印刷物の表面光沢性、耐擦性、並びに、高速印刷適性、間欠吐出性、プリンター部材適性、及びメンテナンス性に優れたインクジェット記録用油性インク組成物とすることができる。
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物において、上記効果が得られる作用は、未解明の部分はあるが、以下のように考えられる。
ラクトン系溶剤およびアミド系溶剤は、印刷面が主として塩化ビニル系重合体からなる基材に対して浸透性が特に高いため、印刷面の乾燥性と耐擦性を向上する。一方で、ラクトン系溶剤およびアミド系溶剤は、比較的沸点が高めの溶剤であり、インクの流動性を保ちやすく、吐出応答性や間欠吐出安定性に寄与する。また、インク中にバインダーとして用いられる樹脂に対して、高い溶解性を示すため、印刷時やアイドリング時に、インキの乾燥によるノズル詰まりを解消する効果がある。
しかし、ラクトン系溶剤およびアミド系溶剤は、塩化ビニル系重合体からなる基材に対して浸透性が高く、細線の画像をよりシャープにする効果が高い一方で、添加量を多くすると、塩化ビニル系重合体からなる基材に対して浸透性が強くなりすぎることがあり、また、ムラが発生しやすく、ベタ部の画像均一性を高くすることが困難になることがあった。また、ラクトン系溶剤およびアミド系溶剤の含有量を多くすると、上記基材に対する溶解力が強いことから、印刷物の表面の光沢性を損ない易かったり、また、ヘッドに使われる接着剤(エポキシ樹脂)やプラスチック等のプリンター部材適性が悪化することがあった。特に、上述のような水性インクジェットインク用ヘッドを流用したプリンターで問題が発生し易かった。
【0017】
それに対して、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を特定量含有し、かつ、特定の沸点を有するポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを特定量含有することにより、速い乾燥性、優れた耐擦性、間欠吐出性を保持したまま、インクの濡れ広がりが良くなり、白抜け(埋まり不良)が発生し難く、且つベタ部の画像均一性が向上してムラが防止される効果が得られる。更には、プリンター部材適性、メンテナンス性、印刷物の表面光沢性が向上する。上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは揮発が比較的遅く、且つ塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が比較的悪いため、基材上に残りやすいことからインクの濡れ広がり性が向上し、上述のようなベタ部の画像均一性が得られ、更に印刷物の表面光沢性が良好になると推定される。また、上記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、特定の沸点を選択して用いることから、速い乾燥性、優れた耐擦性を有しながら、印刷物の光沢性に優れ、さらに細線の再現性とベタ部の均一性のいずれにも優れたものとなる。また、間欠吐出性を保持することができ、且つ、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)も向上すると推定される。また、上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを特定量で組み合わせることにより、ヘッド表面のインクの揮発性が適切になり、特に、高速印刷時で発生しやすいインクの飛び散りを低減させる効果があると推定される。
【0018】
本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物は、色材、溶剤及びバインダー樹脂を含有する油性インク組成物であって、必要に応じて他の成分を含有していても良いものである。
以下、構成成分について順に説明する。
【0019】
<溶剤>
本発明のインク組成物に用いられる溶剤は、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含有し、該ラクトン系溶剤と該アミド系溶剤の合計量が全溶剤中に10〜40質量%であり、かつ、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有することを特徴とする。
(ラクトン系溶剤)
本発明のラクトン系溶剤とは、環状エステル化合物であり、同分子内のヒドロキシル基とカルボキシル基が脱水縮合し環状構造を成したものをいう。好ましくは5〜11員環状構造を持つ化合物であり、5員環構造のγ−ラクトンや6員環構造のδ−ラクトン、7員環構造のε−ラクトン等が挙げられる。ラクトン系溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−ヘキサラクトン、γ−ヘプタラクトン、γ−オクタラクトン、γ−ノナラクトン、γ−デカラクトン、γ−ウンデカラクトン、δ−バレロラクトン、δ−ヘキサラクトン、δ−ヘプタラクトン、δ−オクタラクトン、δ−ノナラクトン、δ−デカラクトン、δ−ウンデカラクトン等が挙げられる。
【0020】
ラクトン系溶剤は、主として塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が特に高い溶剤であり、印刷乾燥性、細線の画像再現性、及び耐擦性を向上する。また、ラクトン系溶剤は、比較的乾燥性が遅く、揮発し難い性質を有し、インクの流動性や吐出応答性、間欠吐出安定性を向上するというメリットもある。
ラクトン系溶剤は、沸点が160℃以上であることが好ましく、更に180℃以上であることが好ましく、特に200℃以上であることが好ましく、また、280℃以下であることが好ましい。印刷乾燥性、細線の画像再現性、及び耐擦性の向上や、吐出応答性、間欠吐出安定性の向上などの点で優れるからである。
【0021】
(アミド系溶剤)
本発明のアミド系溶剤とは、分子構造中に1つのカルボン酸アミド構造を含み、直鎖アルキル構造中にエーテル結合を有する化合物である。本発明では下記一般式(1)で表されるアミド系溶剤が好適に用いられる。
【0022】
【化1】
(式中、R
1は炭素数1〜8のアルキル基であり、R
2及びR
3はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、又は、炭素数1〜6のアルコキシアルキル基である。)
【0023】
R
1は、炭素数1〜8の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。R
1としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、n−ヘキシル基、i−ヘキシル基、sec−ヘキシル基、t−ヘキシル基、n−へプチル基、i−へプチル基、sec−へプチル基、t−へプチル基、n−オクチル基、i−オクチル基、sec−オクチル基、t−オクチル基等が挙げられるが、中でも炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基が好ましく、メチル基又は各種ブチル基が好適に用いられる。R
2及びR
3のアルキル基もそれぞれ直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、R
1の例示のうち炭素数1〜6のアルキル基を用いることができる。R
2及びR
3の炭素数1〜6のアルコキシアルキル基としては、上記アルキル基のうち、炭素数1〜6の直鎖状又は分岐状のアルキル基中にエーテル結合を含む構造を有しているものが使用でき、例えば、メトキシメチル基、エトキシメチル基等が挙げられる。R
2及びR
3としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が好ましく、更に、メチル基又はエチル基が好適に用いられる。
中でも前記一般式(1)で表されるアミド系溶剤において、R
1がメチル基、R
2及びR
3がメチル基である組み合わせ、R
1がn−ブチル基、R
2及びR
3がメチル基である組み合わせが好適に用いられる。これらの溶剤は、主として塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が高く、乾燥性、耐擦性が良好である。さらにヘッド表面での揮発が遅いため、インクの流動性や吐出応答性、間欠吐出安定性を向上できる。
前記一般式(1)で表されるアミド系溶剤は、例えば、国際公開第2008/102615号パンフレットに記載の方法を参考にして製造することができる。また、前記一般式(1)で表されるアミド系溶剤の市販品としては、エクアミド(商標、品番M100、B100、出光興産株式会社)等が挙げられる。
【0024】
アミド系溶剤も、主として塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が高く、乾燥性、及び耐擦性を向上する。一方、アミド系溶剤は、ヘッド表面では揮発し難く、インクの流動性や吐出応答性、間欠吐出安定性を向上するというメリットもある。
アミド系溶剤は、沸点が160℃以上であることが好ましく、更に180℃以上であることが好ましく、特に200℃以上であることが好ましく、また、280℃以下であることが好ましい。印刷乾燥性、細線の画像再現性、及び耐擦性の向上や、吐出応答性、間欠吐出安定性の向上などの点で優れるからである。
【0025】
(ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル)
本発明のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有するように用いる。
上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、末端に水酸基を有し、揮発が比較的遅く、且つ塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が比較的悪いため、基材上に残りやすい。そのため、上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、塩化ビニル系重合体からなる印刷面への浸透性が高いラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種と組み合わせて用いると、浸透性の高いインクの濡れ広がり性を向上させ、上述のような細線の画像再現性に加えて、白抜け(埋まり不良)が発生し難く、ベタ部の画像均一性が向上して印刷ムラが防止され、且つ、印刷物の表面光沢性を向上する。上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを特定量で組み合わせると、ヘッド表面のインクの揮発性が適切になり、特に、高速印刷時で発生しやすいインクの飛び散りを低減させる効果がある。
【0026】
沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、中でも、沸点が220℃以上であることが好ましく、また、300℃以下であることが好ましく、更に280℃以下であることが好ましい。沸点が下限以上であることにより、送液チューブからインクが揮発し難くなり、インクの流動性を保ち、クリーニングシステムにおけるインク送液チューブへの悪影響や、間欠吐出性への悪影響を与えることなく、ベタ部の画像均一性や印刷物の表面光沢性を向上することができる。一方、沸点が上限以下であることにより、細線の画像再現性、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)、乾燥性、及び耐擦性を悪化させることがなく、ベタ部の画像均一性を向上することができる。沸点が下限値未満であると、送液チューブから揮発する溶剤分が増え、インクのゲル化や固化が生じやすくなるため、クリーニングの頻度が増えたり、クリーニングシステムの不具合が発生しやすくなったりする。また、沸点が上限値を超える場合は、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの親水性が強くなる傾向があり、ヘッドキャップ用吸収体(PVA)を膨潤させやすくなる。また、印刷乾燥性、耐擦性を悪化させやすくなる。
【0027】
上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、プリンター部材、例えば、インクジェットヘッドに使用されている接着剤(エポキシ樹脂等)やプラスチック部材、ヘッドキャップ用吸収体(PVA等)に対して劣化や変形をさせ難く、特に、溶剤の影響を受けやすい水性インクジェット用プリンタヘッドを流用したプリンター部材であっても劣化や変形をさせ難い。中でも、上記ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤や、ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテルはインクジェットヘッドに使用されている接着剤(エポキシ樹脂)やプラスチック部材に対して悪影響を与える恐れがあるが、上記特定の沸点のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを組み合わせると、インクジェットヘッドに使用されている接着剤(エポキシ樹脂)やプラスチック部材に対して影響を与え難くなる。また、クリーニングシステムにおけるインク送液チューブ(エラストマー)に対しては、浸透し、揮発する性質が低いため、インクの流動性低下やインクの固化が起こりにくく、メンテナンス性能が向上する。
【0028】
沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、具体的に例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコール モノ2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルなどが挙げられる。なかでも、ベタ部の画像均一性、印刷物の表面光沢性、及びプリンター部材適性に優れる点から、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、及びトリエチレングリコールモノブチルエーテルよりなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0029】
本発明においては、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有する。
含有量が下限以上であることにより、クリーニングシステムにおけるインク送液チューブ適性や間欠吐出性を向上し、基材上で濡れ広がる効果が高くなり、ベタ部の画像均一性や印刷物の表面光沢性を向上することができる。また、ヘッドに使用されている接着剤に対して溶解性がないため、インクによる接着剤への影響を緩和する効果がある。一方、含有量が上限以下であることにより、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)、乾燥性、耐擦性、及び細線の画像再現性を悪化させることがなく、ベタ部の画像均一性や印刷物の表面光沢性を向上することができる。
ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルは、中でも、全溶剤中に3〜10質量%含有することが好ましい。上記範囲内であれば、吐出応答性、乾燥性、メンテナンス性に優れるとともに、プリンター部材適性(ヘッド用接着剤及びプラスチック部材、並びに、ヘッドキャップ用吸収体)やベタ部の画像均一性の点から好ましいからである。
【0030】
本発明の油性インク組成物は、ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含有し、該ラクトン系溶剤と該アミド系溶剤の合計量が全溶剤中に10〜40質量%であり、かつ、沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを全溶剤中に3〜20質量%含有する。ラクトン系溶剤とアミド系溶剤の合計含有量は、中でも、全溶剤中に10〜30質量%であることが好ましい。前記ラクトン系溶剤とアミド系溶剤の合計含有量が多すぎると、印刷面を溶剤が溶解し過ぎるため光沢の低下やべたつき、プリンター部材適性の低下が起こる恐れがあり、一方、少なすぎると印刷乾燥性、細線の画像再現性、耐擦性、間欠吐出性及びメンテナンス性等に劣る恐れがある。ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種に組み合わせる場合に、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの含有量が多すぎると、溶剤が原反に浸透しにくくなるため、印刷乾燥性、細線の画像再現性が劣る恐れや、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)が劣る恐れがあり、一方、少なすぎると、ベタ部の画像均一性、光沢、間欠吐出性、プリンター部材適性(ヘッド接着剤)及びメンテナンス性等に劣る恐れがある。
【0031】
本発明の油性インク組成物においては、前記ラクトン系溶剤と前記アミド系溶剤の合計量が、前記ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル溶剤1質量部に対して、2.0質量部超過、且つ6.0質量部以下の割合で含有することが、ベタ部の画像均一性と印刷物の表面光沢性が特に優れるようになり、細線の画像再現性とベタ部の画像均一性とを両立する点、乾燥性、耐擦性と印刷物の表面光沢性とを両立する点から好ましい。
【0032】
(その他の溶剤)
ラクトン系溶剤、アミド系溶剤、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル以外の溶剤(以下、本願ではその他の溶剤ということがある)としては、従来からインクジェット記録用油性インク組成物に使用されているものを主体として適宜選択して用いることができる。その他の溶剤も、2種以上組み合わせて用いても良い。
中でも、インクの吐出安定性の点から、沸点が140℃以上のものを使用するのが好ましい。一方、インクの乾燥性の点からは沸点が310℃以下のものが好ましい。
その他の溶剤としては、吐出安定性の点から、ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類、グリコールアルキルエーテルアセテート類、グリコール類等が好ましく、中でも吐出安定性の点から、ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類が好適に用いられる。
【0033】
ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類としては、下記一般式(2)で表されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテルと、下記一般式(3)で表されるポリオキシプロピレングリコールジアルキルエーテルが好適に用いられる。
一般式(2)
R
4−O−(C
2H
4−O)
n−R
5
(式中、R
4及びR
5はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、nは1〜4の整数である。)
一般式(3)
R
6−O−(C
3H
6−O)
m−R
7
(式中、R
6及びR
7はそれぞれ独立に炭素数1〜4のアルキル基であり、mは1〜3の整数である。)
【0034】
前記一般式(2)で示されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテルにおけるR
4及びR
5、並びに、前記一般式(3)で示されるポリオキシプロピレングリコールジアルキルエーテルにおけるR
6及びR
7は、それぞれ独立に、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状のアルキル基である。R
4及びR
5、並びに、R
6及びR
7としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基が挙げられる。
【0035】
前記一般式(2)で示されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテルとしては、例えば、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルプロピルエーテル、ジエチレングリコールエチルブチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールプロピルブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエチルエーテル、トリエチレングリコールメチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールエチルプロピルエーテル、トリエチレングリコールエチルブチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
また、前記一般式(3)で示されるポリオキシプロピレングリコールジアルキルエーテルとしては、例えば、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールエチルメチルエーテル、ジプロピレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0036】
前記一般式(2)で示されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテル、及び、前記一般式(3)で示されるポリオキシプロピレングリコールジアルキルエーテルとしては、インクの吐出安定性の点から、沸点が140℃以上のものを使用するのが好ましい。一方、インクの乾燥性の点からは沸点が310℃以下のものが好ましい。中でも、上記特定量のラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種、及び上記特定量の沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと組み合わせる場合のインクの吐出安定性の点から、沸点が170℃以上のものを使用するのが好ましく、インクの乾燥性の点から、沸点が230℃以下のものを使用するのが好ましい。
【0037】
前記一般式(2)で示されるポリオキシエチレングリコールジアルキルエーテルとしては、中でもジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、及びジエチレングリコールメチルイソプロピルエーテルよりなる群から選択される1種以上が好適に用いられる。
【0038】
ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類以外のその他の溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール類、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールアルキルエーテルアセテート類、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸ブチル、酢酸ヘキシル、酢酸オクチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル等のエステル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ジオキサン、シクロヘキサン、β−ラクタム、プロピレンカーボネート等が挙げられる。中でも、上記特定量のラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種、及び上記特定量の沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルと組み合わせる場合のインクの吐出安定性の点から、沸点が170℃以上のものを使用するのが好ましく、インクの乾燥性の点から、沸点が230℃以下のものを使用するのが好ましい。
上記、その他の溶剤としては、全溶剤中に40〜87質量%の範囲で含有することが好ましく、中でも全溶剤中に50〜75質量%であることが好ましい。
【0039】
本発明の油性インク組成物において用いられる混合溶剤は、全体として、20℃での粘度が1〜8mPa・s、好ましくは3〜6mPa・sに調整されることが好ましい。なお本発明において粘度は、落球式粘度計(例えば、アントンパール社製「AMVn」粘度計)により測定したものである。
また、ヘッド表面からのインクの乾燥を考慮すると、それらの20℃での蒸気圧が、1hPa以下であることが好ましく、更に0.7hPa以下であることが好ましい。
このような混合溶剤を用いることにより、吐出応答性とメンテナンス性が向上し、また、局所的排気設備または排ガス処理設備を設ける負担が軽減され、作業環境の向上が可能となり、また周辺環境への環境負荷も軽減することが可能となる。
【0040】
<色材>
色材としては、従来の油性インク組成物に通常用いられている無機顔料又は有機顔料等の顔料、染料の単独、または混合して用いることができる。顔料としてはカーボンブラック、カドミウムレッド、モリブデンレッド、クロムイエロー、カドミウムイエロー、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、ウルトラマリンブルー、プルシアンブルー、コバルトブルー、ジケトピロロピロール、アンスラキノン、ベンズイミダゾロン、アンスラピリミジン、アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、チオインジゴ系顔料、キノフタロン系顔料、酸化チタン又は金属錯体顔料等を用いることができる。染料としては、例えばアゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンチン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン粟料、フタロシアニン染料、又は金属フタロシアニン染料を用いることができ、特に油溶性染料が好ましい。これらの顔料又は染料を単独で用いるか、あるいはそれらの2種又はそれ以上の組み合わせで使用することもできるが、耐候性の観点からは顔料が好ましい。顔料一次粒子の体積平均粒径は、10〜500nm、好ましくは15〜300nmである。
【0041】
上記の顔料の具体例としては、例えば、有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214;C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、146、149、168、177、179、180、184、192、202、206、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、272;C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、 71;C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50;C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64;C.I.ピグメントグリーン7、36、58;C.I.ピグメントブラウン23、25、26;C.I.ピグメントホワイト6等が挙げられる。
【0042】
<バインダー樹脂>
バインダー樹脂としては、特に限定はなく、例えば、アクリル樹脂、塩化ビニル系重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ロジン変性樹脂、フエノール樹脂、テルペン系樹脂、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、ビニルトルエン−α−メチルスチレン共重合体等の単独、またはそれらの混合物を用いることができる。
本発明においては、高速印刷時の吐出応答性を向上する点からは、バインダー樹脂としてはアクリル樹脂を用いることが好ましい。一方、印刷面の光沢や耐擦性や耐アルコール性が向上する点からは、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を含有することが好ましい。また、ラクトン系溶剤を含むことでインク液滴が粒状になりやすい点から、塩ビ基材に濡れ広がりやすい塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を含有することが好ましい。高速印刷時の吐出応答性を有するとともに印刷面の光沢や耐擦性や耐アルコール性を優れたものとする点からは、バインダー樹脂として、アクリル樹脂と塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体とを併用することが好ましい。
【0043】
(アクリル樹脂)
本発明で用いられるアクリル樹脂は、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体から選ばれる少なくとも一つを単量体として用いた重合体を包含する高分子化合物をいう。アクリル樹脂には、アクリル酸、メタクリル酸およびこれらの誘導体と重合可能なエチレン性二重結合を有する化合物由来の構成単位が、更に含まれていても良い。
本発明においては、上記混合溶剤に、バインダー樹脂としてアクリル樹脂を組み合わせることにより、上述のように、揮発時の粘度の上昇が起こり難く、インクジェットヘッドのノズル部の詰まりが抑制され、ヘッドの表面および周辺の洗浄時にインクを拭き取りやすく、且つ、高速印刷時の高い吐出応答性を実現でき、且つ、吐出後の液滴形状が良好になり、インクの飛び散りや着弾位置のずれが生じ難くなる。
また、バインダー樹脂としてアクリル樹脂を用いることにより、印刷後の粘着性が抑制され、巻き取り乾燥後の裏移りや張り付きを防止することができる。
【0044】
本発明で用いられるアクリル樹脂は、中でも、前記混合溶剤と良好な相溶性を有し、前記混合溶剤のアクリル樹脂溶液を容易に調製できる点から、ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させたアクリル樹脂を用いることが好ましい。
ポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させたアクリル樹脂を用いると、該アクリル樹脂は溶剤が末端に結合した反応生成物を有するものとなるため、前記混合溶剤に易溶になり、該アクリル樹脂の添加量を増やすことができ、印刷乾燥性が向上したり、再溶解性が向上する。
【0045】
アクリル樹脂は、好適には、メタクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アラルキルエステル、メタクリル酸アルコキシアルキルエステル、メタクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、メタクリル酸、及びメタクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステルよりなる群から選ばれたラジカル重合性モノマーから得ることができる。ラジカル重合可能なエチレン性二重結合を分子中に少なくとも一個有し、好ましくはラジカル重合可能なエチレン性二重結合を分子中に一個有し、後述する溶媒中においてラジカル重合開始剤の共存下で重合可能なラジカル重合性モノマーであれば更に各種のモノマーを用いることができる。例えば、ラジカル重合性モノマーとしてビニル化合物やマレイミド類を含んでいても良い。
アクリル樹脂は、1種のラジカル重合性モノマーの単独重合体であっても良いし、ラジカル重合性モノマーを2種以上選択して用いた共重合体のいずれであっても良い。
【0046】
アクリル樹脂に用いられるラジカル重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−iso−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−iso−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸−iso−ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2,3−ジヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシランなどの(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステル類;
(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジプロピルアミド、(メタ)アクリル酸N,N−ジ−iso−プロピルアミド、(メタ)アクリル酸ブチルアミド、(メタ)アクリル酸ステアリルアミド、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルアミド、(メタ)アクリル酸フェニルアミド、(メタ)アクリル酸ベンジルアミド、(メタ)アクリル酸アントラセニルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミド類;
スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、(メタ)アクリル酸アニリド、(メタ)アクリロイルニトリル、アクロレイン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、酢酸ビニルなどのビニル化合物類;
N−ベンジルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−ラウリンマレイミド、N−(4−ヒドキシフェニル)マレイミドなどのモノマレイミド類;N−(メタ)アクリロイルフタルイミドなどのフタルイミド類を挙げることができる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」および「メタクリル」の両者を意味するものである。
【0047】
特に好ましいアクリル樹脂は、メタクリル酸メチル単独の重合体、或いは、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、及びメタクリル酸ベンジルよりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物との共重合体である。該共重合体において、メタクリル酸メチル100質量部に対する、メタクリル酸メチルと、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エトキシエチル、及びメタクリル酸ベンジルよりなる群から選ばれる少なくとも1つ以上の化合物の合計量は、好ましくは0.01〜15質量部、更に好ましくは0.1〜15質量部、より更に好ましくは0.5〜12質量部である。このようなアクリル樹脂は、特にインク中の溶剤と良好な相溶性を示し、インクの保存安定性と画像再現性を有するインクジェット記録用油性インク組成物を提供することができる。
【0048】
本発明で用いられるアクリル樹脂は、質量平均分子量が5000〜100000であるものが好ましい。なお、本発明において質量平均分子量は、ポリスチレンを標準としたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)(例えば、東ソー(株)製の「HLC−8220GPC」)による測定値である。中でも、本発明で用いられるアクリル樹脂は、耐擦性及び印刷物を巻き取った後にインクの裏移りが抑制され易い点から、中でも質量平均分子量が10000以上であることが好ましく、12000以上であることがより好ましく、15000以上であることがより更に好ましい。一方、本発明で用いられるアクリル樹脂は、高速印刷時の高い吐出安定性の点から、50000以下であることが好ましく、更に35000以下であることが好ましく、より更に30000以下であることが好ましい。
【0049】
また、本発明で用いられるアクリル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上、110℃以下であるものが好ましい。本発明においてガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱熱量計(DSC)(例えば、島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」)による測定値である。ガラス転移温度が複数観測される場合があるが、本発明では、より吸熱量の大きい、主転移温度を採用するものとする。また、Tgが上記範囲内であることにより、良好な印刷乾燥性が得られるという効果が顕著になる。
【0050】
本発明で用いられるアクリル樹脂を製造する際に用いられるラジカル重合開始剤は、有機過酸化物が好ましく、ハイドロパーオキサイド系、ジアルキルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ジアシルパーオキサイド系、パーオキシカーボネート系、パーオキシケタール系、ケトンパーオキサイド系有機過酸化物が挙げられ、中でも、ジアルキルパーオキサイド系、パーオキシエステル系、ジアシルパーオキサイド系有機過酸化物が好ましい。前述の通り、溶剤が末端に結合した反応生成物を有するものとすることができるため、前記インクの溶剤に対するアクリル樹脂の相溶性を向上できるからである。好ましい具体例としては、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ヘキシルパーオキサイド等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0051】
また、市販の(メタ)アクリル樹脂としては、例えばロームアンドハース社の「パラロイドB99N」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg82℃、質量平均分子量15,000)、「パラロイドB60」(メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート共重合体)Tg75℃、質量平均分子量50,000)等が例示される。
【0052】
(塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体)
本発明の油性インク組成物においては、印刷乾燥性と、印刷面の光沢や耐擦性や耐アルコール性が向上する点からは、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を含有することが好ましい。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体は、塩化ビニル単位及び酢酸ビニル単位と共に、必要に応じてその他の構成単位を備えていても良く、例えばカルボン酸単位、ビニルアルコール単位、ヒドロキシアルキルアクリレート単位等を備えていても良い。塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体としては、吐出安定性、並びに、耐擦性及び耐アルコール性の点から、数平均分子量が10000〜50000であることが好ましく、更に15000〜35000であることが好ましく、より更に20000〜30000であることが好ましい。ここで数平均分子量は、GPCを用いて測定し、ポリスチレン換算した値である。
塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体としては、塩化ビニル単位を共重合体の70〜90質量%含有するものが、優れたメンテナンス性と良好な画像再現性の点から、好適に用いられる。塩化ビニル単位を共重合体の70%未満になると耐擦性が低下する恐れがある。また94質量%を超えると印刷面の光沢が低下する恐れがある。
【0053】
なお、高速印刷時の吐出応答性、及び印刷面の光沢や耐擦性や耐アルコール性が向上することを目的として、本発明の油性インク組成物におけるバインダー樹脂中に、アクリル樹脂と塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体とを両方含む場合において、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量が多すぎると、揮発時の粘度の上昇が起こり易くなる。また、粘度の上昇とヘッド表面での乾燥により吐出性に不具合が生じたり、長期での使用でノズル詰まりや送液チューブでの固化が生じる。そのため、この場合、塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の含有量は、アクリル樹脂1質量部に対して4質量部以下であることが好ましく、1.5質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがより更に好ましい。また、乾燥性の点から、0.1質量部以上であることが好ましい。
また、印刷面の光沢において、インク組成物中にラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を含む場合は、インクの乾燥過程でドットが収縮しやすく粒状になりやすいため、ベタ部の画像の均一性を高くすることが困難である。本発明では、溶剤中にポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを含み、バインダー樹脂中にアクリル樹脂と塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体を使用することで、浸透性や乾燥性を向上させたラクトン系溶剤及びアミド系溶剤の少なくとも1種を使用したインク組成物においても、ベタ部の画像均一性が向上する効果が高くなる。特にポリ塩化ビニル基材においては、基材とバインダー樹脂中の塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体の親和性の高さから、よりその効果が得られるため、好適に用いられる。
【0054】
前記の塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、例えば、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/マレイン酸共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ヒドロキシアルキルアクリレート共重合体など、およびそれらの混合物が挙げられる。上記の塩化ビニル酢酸ビニル系共重合樹脂としては、日信化学工業(株)社から「ソルバインC(数平均分子量(Mn)、31000)、CL(Mn、25000)、CNL(Mn、12000)、CLL(Mn、18000)、C5R(Mn、27000)、TA2(Mn、33000)、TA3(Mn、24000)、A(Mn、30000)、AL(Mn、22000)、TA5R(Mn、28000)、M5(Mn、32000)等の商品名で入手して本発明で使用することができる。
【0055】
<その他の成分>
本発明によるインクジェット記録用油性インク組成物は、上記の必須成分に加えて、必要に応じて他の成分を含むことができる。必要に応じて含むことができる他の成分としては、例えば、分散剤、界面活性剤、その他各種添加剤を挙げることができる。
【0056】
(分散剤)
分散剤としては、インクジェット記録用油性インク組成物において用いられている任意の分散剤を用いることができる。分散剤としては、高分子分散剤を用いると良い。こうした分散剤としては、主鎖がポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプロラクトン系などからなり、側鎖としてアミノ基、カルボキシル基、スルホン基、ヒドロキシル基などの極性基を有するものである。ポリアクリル系分散剤では、例えば、Disperbyk−2000、2001、2008、2009、2010、2020、2020N、2022、2025、2050、2070、2095、2150、2151、2155、2163、2164、BYKJET−9130、9131,9132,9133,9151(ビック・ケミー社製)が用いられる。ポリカプロラクトン系分散剤では、例えば、アジスパーPB821、PB822、PB881(味の素ファインテクノ(株)製)が用いられる。好ましい分散剤としては、ポリエステル系分散剤であり、例えばヒノアクトKF−1000、T−6000、T−7000、T−8000、T−8000E、T−9050(川研ファインケミカル(株)製)、Solsperse20000、24000、32000、32500、32550、32600、33000、33500、34000、35200、36000、37500、39000、71000(ルーブリゾール社製)、フローレンDOPA−15BHFS、17HF、22、G−700、900、NC−500、GW−1500(共栄社化学(株)製)、Efka4310、4320、4330、4401、4402、4403N、4570、7411、7477、7700(BASF社製)の単独、またはそれらの混合物を用いることができる。
【0057】
(界面活性剤)
また、本発明のインクジェット記録用油性インク組成物においては、ノズル部やチューブ内等の機器内での油性インク組成物の揮発抑制、固化防止、また、固化した際の再溶解性を目的として、混合溶剤に加えて、室温、大気圧下で液状の非イオン性ポリオキシエチレン誘導体を添加してもよい。例えば、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類であるノニオンP−208、P−210、P−213、E−202S、E−205S、E−215、K−204、K−220、S−207、S−215、A−10R、A−13P、NC−203、NC−207(日本油脂(株)製)、エマルゲン106、108、707、709、A−90、A−60(花王(株)製)、フローレンG−70、D−90(共栄社化学(株)製)、ポエムJ−0081HV(理研ビタミン(株)製)、アデカトールNP−620、NP−650、NP−660、NP−675、NP−683、NP−686、アデカコールCS−141E、TS−230E((株)アデカ製)等、ソルゲン30V、40、TW−20、TW−80、ノイゲンCX−100(第一工業製薬(株)製)等が例示される。
また、下記式で表されるアセチレングリコール系界面活性剤が挙げられる。
【0058】
【化2】
(式中、0≦p+q≦50、R
11、R
12、R
13、R
14はそれぞれ独立にアルキル基、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基である。)
【0059】
具体的には、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が例示され、市販品としてはサーフィノール104、82、465、485、またはTG(いずれもAir Products and Chemicals.Inc.より入手可能) 、オルフィンE1004、E1010(日信化学工業(株)製)等が例示される。
界面活性剤としては、上記に限られずアニオン系、カチオン系、両性又は非イオン系のいずれの界面活性剤も用いることができ、添加目的に合わせて適宜選択されればよい。
これらの界面活性剤は単独、または混合して添加してよい。
【0060】
(その他の添加剤)
酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤等を添加してもよい。酸化防止剤としてはBHA(2,3−ブチル−4−オキシアニソール)、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)、多価カルボン酸、エポキシ化大豆油等が例示される。また、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、又はベンゾトリアゾール系化合物を用いることができる。
更に、その他の添加剤としては、表面調整剤、レベリング剤(アクリル系やシリコン系等)、消泡剤、pH調整剤、殺菌剤、防腐剤、防臭剤、電荷調整剤、湿潤剤等の公知の添加剤を任意成分として添加しても良い。
【0061】
<油性インク組成物の含有割合>
溶剤の含有量は、油性インク組成物中、通常50〜95質量%、好ましくは70〜95質量%、より好ましくは80〜90質量%である。
色材の含有量は、油性インク組成物中、通常0.5〜25質量%、好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜10質量%である。
バインダー樹脂の含有量は、油性インク組成物中、通常0.1〜10.0質量%、好ましくは1.0〜10.0質量%、より好ましくは3.0〜8.0質量%である。バインダー樹脂含有量の上限を超えた場合には、吐出応答性が低下したり、メンテナンス性が悪くなる恐れがある。また、上記バインダー樹脂の含有量の下限を超えた場合には、乾燥性が遅くなり、印刷面の耐擦性、耐アルコール性が低下する恐れがある。
その他任意成分として分散剤を含む場合、色材100質量部に対して、通常5〜200質量部であり、好ましくは30〜120質量部であり、分散すべき色材によって適宜選択されれば良い。
その他任意成分として各種添加剤を含む場合、酸化防止剤は、通常、油性インク組成物中0.001〜3.0質量%である。また、紫外線吸収剤は、通常、油性インク組成物中0.01〜0.5質量%である。また、界面活性剤は、通常、油性インク組成物中0.5〜4.0質量%である。
【0062】
<油性インク組成物の調製方法>
本発明のインクジェット記録用油性インク組成物の調製方法において、各成分の配合順序および配合の仕方は任意であって、例えば製造工程の各段階における配合物の性状や製造上の容易さ等を考慮して定めることができる。例えば、各成分は、一種類ずつ独立して配合することもできるし、各成分の供給ならびに配合をまとめて行って各成分の配合物を一度に得ることも可能である。また、2種または3種以上の成分を予め配合した後に、残りの他の成分と配合することもできる。この際、2種または3種以上の成分を予め配合しておく場合には、予め配合する成分の量は各成分の全量であっても、各成分の所要量の一部分であってもよい。
【0063】
例えば、まず、前記混合溶剤に用いられる各溶剤の一部または全部を混合して油性インク組成物における溶媒とする。例えば分散剤を用いる場合、その溶媒の一部に、色材と分散剤を添加し、ボールミル、ビーズミル、超音波、又はジェットミル等で混合・分散させて色材分散液を調製する。得られた色材分散液に、上記で得た溶媒の残部とバインダー樹脂、その他の添加剤を攪拌下に添加することにより得られる。例えばポリオキシアルキレングリコールジアルキルエーテル類溶剤中でラジカル重合開始剤を用いて溶液重合させたアクリル樹脂を用いる場合、溶液重合させたアクリル樹脂溶液をそのまま用いることもできる。
【0064】
得られるインクジェット記録用油性インク組成物は、20℃での粘度が2〜15mPa・s、好ましくは3〜5mPa・sに調整されることが好ましい。
また、本発明の油性インク組成物における表面張力は、インクの濡れ広がり性と、インク滴の吐出性の点から、通常20〜50mN/m、好ましくは、20〜35mN/mである。表面張力は表面張力計(例えば、協和界面科学(株)製、「DY−300」)により測定したものである。
これらの物性は、上記に限定されることなく、インクジェットヘッドの特性に合わせて任意に調整できる。
【0065】
2.インクジェット記録方法
本発明に係るインクジェット記録方法は、前記本発明に係るインクジェット記録用油性インク組成物を、インクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法である。
本発明の油性インク組成物は、高速印刷に対応可能な印刷適性及び高い乾燥性を有するので、例えば、高速印刷モードを備えたインクジェット記録装置を用いて、インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に有利に用いることができる。ここでの高速印刷モードとは、例えば大型看板などに掲示するバナー広告を作成する際に常用され、インクジェットヘッドを双方向に駆動させながら、大液滴のインクを吐出させる印刷方式が挙げられる。
また、本発明の油性インク組成物は、高速印刷時においても高い吐出応答性および乾燥性を有し、優れた細線の画像再現性、ベタ部の画像均一性、及び耐擦性を有するので、高精細な印刷に適しており、例えば、インクジェットヘッドとして高密度ヘッドを備えたインクジェット記録装置を用いて、インクをインクジェット方法で吐出して記録媒体に記録を行うインクジェット記録方法に有利に用いることができる。ここでの高密度ヘッドとは、例えばノズル数が180dpiから360dpiと従来の2倍の数になっており、ヘッド表面の撥液処理により、真円に近いインクドットを形成し、着弾位置の精度と吐出速度が従来のヘッドよりも高く、高画質化が可能となったヘッドが挙げられる。
【0066】
本発明のインクジェット記録方法が適用される記録媒体としては、印刷面が主として樹脂からなるものが好適に用いられ、当該樹脂としては、ポリ塩化ビニル系重合体やアクリル、PET、ポリカーボネート、PE、PP等が用いられる。特に、印刷面が硬質または軟質ポリ塩化ビニル系重合体からなる記録媒体への記録に適している。印刷面がポリ塩化ビニル系重合体からなる記録媒体としては、ポリ塩化ビニル基材(フィルム又はシート)等が例示される。
本発明のインクジェット記録用油性インク組成物は、ポリ塩化ビニル基材における無処理表面への印刷を可能とするものであるが、インク受容性樹脂により表面処理された印刷面を有するポリ塩化ビニル基材、PETフィルムや紙等であっても良い。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。これらの記載により本発明を制限するものではない。
なお、質量平均分子量は、東ソー(株)製の「HLC−8220GPC」(カラム:Shodex LF−404(昭和電工(株))製、カラム温度、40℃、移動相:THF(テトラヒドロフラン)、移動相流量:0.35mL/min.、試料濃度0.2質量%溶液、試料注入量10μL、検出器:示差屈折計)にて、ポリスチレンを標準としたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)により測定を行った。
平均粒径(D50)とは、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での体積平均粒径を意味する。本発明においては日機装(株)製の粒度分析計マイクロトラックUPA150を使用して測定した。
また、粘度は、アントンパール社製「AMVn」粘度計を使用して測定した。また、表面張力は協和界面科学(株)製、「DY−300」を用いて測定した。
【0068】
(合成例1:アクリル樹脂1の合成)
100℃に保たれたジエチレングリコールジエチルエーテル300g中に、メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート6.3gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、無色透明のメタクリル酸メチルの重合体溶液(固形分39.5%)を得た。得られた重合体(アクリル樹脂1)のTgは105℃であった。GPC測定を行ったところ、質量平均分子量は18000であった。
【0069】
(合成例2:アクリル樹脂2の合成)
メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート12.6gとの混合物を使用し、アクリル樹脂1と同様の合成方法により、無色透明のメタクリル酸メチルの重合体溶液(固形分39.5%)を得た。得られた重合体(アクリル樹脂2)のTgは105℃、質量平均分子量は11000であった。
【0070】
(合成例3:アクリル樹脂3の合成)
メタクリル酸メチル200gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート2.0gとの混合物を使用し、アクリル樹脂1と同様の合成方法により、無色透明のメタクリル酸メチルの重合体溶液(固形分39.4%)を得た。得られた重合体(アクリル樹脂3)のTgは105℃、質量平均分子量は48000であった。
【0071】
(合成例4:アクリル樹脂4の合成)
メタクリル酸メチル180gとメタクリル酸n−ブチル20gとt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を使用し、アクリル樹脂1と同様の合成方法により、無色透明のメタクリル酸メチルとメタクリル酸n−ブチルとの共重合体溶液(固形分39.8%)を得た。得られた重合体(アクリル樹脂4)のTgは94℃、質量平均分子量は30000であった。
【0072】
[実施例1]
溶媒として下記の組成の混合溶剤を準備した。
アミド系溶剤:エクアミドM100(商品名、前記一般式(1)で表されるアミド系溶剤において、R
1がメチル基、R
2及びR
3がメチル基である、出光興産(株)製) 9.5質量部
ラクトン系溶剤:γ−ブチロラクトン 9.5質量部
沸点が200℃〜330℃のポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテル:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点 271.2℃):6.0質量部
その他の溶剤:ジエチレングリコールジエチルエーテル 63.8質量部
上記組成の溶媒の一部に、カーボンブラック((MA−8、三菱化学(株)製)4.0質量部と分散剤(ポリエステル系高分子化合物、ソルスパース32000、ルーブリゾール社製)2.0質量部とを添加し、ディゾルバーで3,000rpmにて1時間攪拌した後、ジルコニアビーズ(2mm)を充填したビーズミルで予備分散した。更に、ジルコニアビーズ(0.3mm)を充填したナノミルで本分散を行ない、色材分散液を得た。平均粒径は65.0nmであった。
得られた色材分散液を4,000rpmで攪拌しながら、上記合成例1のアクリル樹脂1を4.5質量部と塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体1(商品名ソルバインCLL(Mn 18000) 日信化学工業株式会社製)を0.5質量部と、上記で作製した混合溶剤の残部とを添加して本発明のインクジェット記録用油性インク組成物を調製した。粘度は4.2mPa・s(20℃)であった。表面張力は28.6mN/mであった。
【0073】
[実施例2〜30]
用いる混合溶剤、バインダー樹脂、及び色材、及びこれらの含有量を以下の表1−1及び表1−2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜30のインクジェット記録用油性インク組成物を調製した。各色剤の分散液の平均粒度は、シアンは110nm、マゼンタは155nm、イエローは135nmであった。各インクジェット記録用油性インク組成物の粘度、表面張力は表1に併せて示す。また、表1−1、表1−2、及び表2において、バインダー樹脂の配合量は固形分量で示している。
なお実施例1で使用したもの以外の溶剤、バインダー樹脂、分散剤、界面活性剤、色材の略号は以下のとおりである。
・エクアミドB100(商品名、前記一般式(1)で表されるアミド系溶剤において、R
1がn−ブチル基、R
2及びR
3がメチル基である、出光興産(株)製)
・塩酢ビ共重合体2(塩化ビニル及び酢酸ビニルを含む共重合体、商品名ソルバインCL(Mn 25000)、日信化学工業(株)製)
・分散剤2(ポリエステル系高分子化合物、ソルスパース33000、ルーブリゾール社製)
・界面活性剤1 (ノニオンE−202S、日本油脂(株)製)
・界面活性剤2 (ソルゲン30V、第一工業製薬(株)製)
・界面活性剤3 (フローレンD−90、共栄社化学(株)製)
・シアン(P.B.15:4)(シアニンブルーCP−1、大日精化工業(株)製)
・マゼンタ(P.R.122)(FASTGEN SUPER MAGENTA RG、DIC(株)製)
・イエロー(P.Y.155)(INK JET YELLOW 4GC VP 3854、クラリアント社製)
【0074】
[比較例1〜14]
用いる混合溶剤、バインダー樹脂、及び色材、及びこれらの含有量を以下の表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜14のインクジェット記録用油性インク組成物を調製した。各インクジェット記録用油性インク組成物の粘度、表面張力も表2に併せて示す。
【0075】
<評価>
評価基準において、評価AA、A、及びBは、従来のものより優れているか実用上問題のない範囲であり、評価Cは従来のものと比べて優位性が見られないか実用上問題があるものである。
なお、印刷を用いた評価は、ポリ塩化ビニルフィルム(IMAGin JT5829R:MACtac社製)に印刷して行った。
(1)印刷乾燥性
プリンター(商品名 VersaArt RE−640、ローランドDG(株)製)により、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、高品質印刷モード(1440x720dpi)でベタ部の印刷を行い、40℃で乾燥するまでの時間を計測した。
評価AA:3分未満で乾燥する。
評価A :3分以上5分未満で乾燥する。
評価B :5分以上7分未満で乾燥する。
評価C :7以上で乾燥する。
【0076】
(2)ベタ部の画像均一性
上記プリンターにより、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、双方向の高速印刷モード(540x360dpi)でベタ部の印刷を行い、目視により評価した。
評価A :ベタ部の埋まりが良好で、濃度のばらつきがみられない。
評価B :ベタ部の埋まりは良好であるが、面内に濃度のばらつきがある。
評価C :ベタ部の埋まりにムラがみられ、白抜けや濃度のばらつきがみられる。
【0077】
(3)細線の画像再現性
上記プリンターにより、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、双方向の高速印刷モード(540x360dpi)で細線の印刷を行い、目視により評価した。
評価A :細線が再現される。
評価B :ややにじみが生じるが、目視での意匠性は損なわない。
評価C :線が太り、画像が再現されていない。
【0078】
(4)表面光沢性
上記プリンターにより、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、高品質印刷モード(1440x720dpi)でベタ部の印刷を行い、目視により評価した。
評価A :表面に光沢がある
評価B :表面の光沢はやや劣るが、目視での意匠性は損なわない。
評価C :表面に光沢がなく、原反表面が侵食されている
【0079】
(5)耐擦性
上記プリンターにより、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、高品質印字モードでベタ部の印刷を行い、その後、40℃で0.5時間乾燥した。その後、印刷表面を学振型摩擦堅牢度試験機(テスター産業(株)製、製品名AB−301)にて荷重500g下、綿布にて100回擦った領域を目視で確認して評価した。
評価A :損傷が全くない。
評価B :印刷物表面に一部色落ちがみられる。
評価C :インクが剥離し、基材が見える部分がある。
【0080】
(6)プリンター部材適性(ヘッド用接着剤)
インクジェットヘッドの部材に使用されるエポキシ接着剤(2液硬化型エポキシ接着剤「1500」、セメダイン(株)製)を60℃1日乾燥させた硬化物、0.2gを、各インクジェット記録用油性インク組成物に浸漬して、60℃で1週間放置して、浸漬試験を行い、硬化物の重量変化を測定した。
評価A :重量変化率が2.5%未満。
評価B :重量変化率が2.5%以上5%未満。
評価C :重量変化率が5%以上。
【0081】
(7)プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)
インクジェットヘッドのヘッドキャップ部材に使用されるインク吸収体PVAスポンジ(「ベルイーター(A)」、冨士ケミカル(株)製)1cm×2cm×1mmを7日間、各インクジェット記録用油性インク組成物に浸漬して、乾燥後、吸収体の変形、劣化を確認した。
評価A :体積変化率が10%未満で、材質の劣化がない。
評価B :体積変化率が10%〜15%未満で材質の劣化がない。
評価C :体積変化率が15%以上もしくは、材質が劣化している。
【0082】
(8)高速印刷適性
上記プリンターにより、各インクジェット記録用油性インク組成物を用いて、双方向の高速印刷モード(360x360dpi)にて細線を印刷し、目視で確認して評価した。
評価A :細線が正しく再現できている。
評価C :着弾位置がずれ、曲がりがみられる。
【0083】
(9)間欠吐出性
上記プリンターに各インクジェット記録用油性インク組成物を充填して、長期間に亘り、常温下で、上記記録媒体に断続的な印刷を実施し、ドット抜け、飛行曲がり及びインクの飛び散りの有無を観察し、発生回数を計数し評価した。
評価A : 24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が10回未満であった。
評価B :24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が10回以上20回未満であった。
評価C : 24時間の試験期間内で、ドット抜け、飛行曲がり又はインクの飛び散りの発生が20回以上であった。
【0084】
(10)メンテナンス性(チューブ適性)
メンテナンス性の1つの評価として、送液チューブに用いられるエラストマー製チューブ内における乾燥性を評価した。具体的には、外径4mm×内径2mmのEPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)製チューブ11cm内に、各インクジェット記録用油性インク組成物を3mL入れて密栓し、40℃で1週間放置し、チューブ内のインク組成物の状態を評価した。
評価A:インクに流動性がありチューブ内で固化していない。
評価B:インクの流動性が低下し、ゲル状になっている。
評価C:インクが固化しており、チューブに詰まりが発生している。
【0085】
(11)メンテナンス性(クリーニング回復性)
メンテナンス性の1つの評価として、ヘッドでのノズル詰まりが発生した際に、プリンターのクリーニング動作によりノズル詰まりの解消が行えるかを評価した。
具体的には、クリーニングシステムを備えたプリンター(商品名 VersaArt RE−640、ローランドDG(株)製)を用いて、各インクジェット記録用油性インク組成物を充填して1.80m
2印刷後、室温25℃にて1週間放置し、その後評価を行った。
評価A :ノーマルクリーニング1回でノズル詰まりを解消する。
評価B :ノーマルクリーニング2〜3回でノズル詰まりを解消する。
評価C :ノーマルクリーニング3回でもノズル詰まりを解消しない。
ここでのノーマルクリーニングとは、起動時や印刷工程中にドット抜けなどが生じたときに使用されるクリーニング方法で、時間が短く、使用するインク消費量が比較的少ない。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
(結果のまとめ)
表1−1及び表1−2から、本発明のインクジェット記録用油性インク組成物は、高速印刷における印刷乾燥性、ベタ部の画像均一性及び細線の画像再現性、印刷物の表面光沢性、耐擦性、並びに、高速印刷適性、間欠吐出性、プリンター部材適性、及びメンテナンス性のいずれの項目にも満足できるインクジェット記録用油性インク組成物であることが明らかにされた。
一方、表2から、ラクトン系溶剤とアミド系溶剤の合計含有量を本願の規定の範囲外の割合で用いた比較例1〜3は、表面光沢性、プリンター部材適性(ヘッド用接着剤)に劣っていた。
ラクトン系溶剤及びアミド系溶剤を用いなかった比較例4は、印刷乾燥性、細線の画像再現性、耐擦性、高速印刷適性、間欠吐出性及びメンテナンス性(チューブ適性)に劣っていた。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを用いなかった比較例5は、ベタ部の画像均一性、印刷物の表面光沢性、プリンター部材適性、及びメンテナンス性(チューブ適性、クリーニング回復性)に劣り、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルを特定範囲よりも多い量で用いた比較例6、7、8は、印刷乾燥性、細線の画像再現性、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)、高速印刷適性が悪かった。ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの本願の規定の下限値未満の沸点を用いた比較例9、10、13、はベタ部の画像均一性、表面光沢性、高速印刷適性、間欠吐出性及びメンテナンス性(チューブ適性、クリーニング回復性)が劣っていた。また、ポリオキシアルキレングリコールモノアルキルエーテルの本願の規定の上限値を超える沸点を用いた比較例11、12、14は印刷乾燥性、細線の画像再現性、耐擦性が劣り、プリンター部材適性(ヘッドキャップ用吸収体)が悪化する傾向が見られた。