特開2015-196913(P2015-196913A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015196913-複合繊維 図000007
  • 特開2015196913-複合繊維 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-196913(P2015-196913A)
(43)【公開日】2015年11月9日
(54)【発明の名称】複合繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 8/04 20060101AFI20151013BHJP
【FI】
   D01F8/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-74986(P2014-74986)
(22)【出願日】2014年3月31日
(71)【出願人】
【識別番号】305037123
【氏名又は名称】KBセーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山下 裕之
【テーマコード(参考)】
4L041
【Fターム(参考)】
4L041AA07
4L041BA02
4L041BA06
4L041BA07
4L041BA21
4L041BA24
4L041BC06
4L041BC11
4L041BD20
4L041CA06
4L041CB01
4L041CB05
4L041CB19
4L041CB25
4L041DD22
(57)【要約】
【課題】 後加工によらずとも、後工程通過性が良好な遮熱性と難燃性を併せもつ合成繊維を提供する。
【解決手段】 繊維横断面において赤外線反射樹脂層(A層)と難燃樹脂層(B層)からなる複合繊維であって、以下(1)〜(4)を満足する複合繊維である。
(1)A層は平均粒子径0.8〜1.8μmの酸化チタンを3質量%以上15質量%以下含む
(2)A層とB層との面積比率は、80:20〜25:75である
(3)A層の繊維表面への露出率は、0〜50%である
(4)B層は少なくとも一部が繊維表面へ露出している
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維横断面において赤外線反射樹脂層(A層)と難燃樹脂層(B層)からなる複合繊維であって、以下(1)〜(4)を満足する複合繊維。
(1)A層は平均粒子径0.8〜1.8μmの酸化チタンを3質量%以上15質量%以下含む
(2)A層とB層との面積比率は、80:20〜25:75である
(3)A層の繊維表面への露出率は、0〜50%である
(4)B層は少なくとも一部が繊維表面へ露出している
【請求項2】
繊維横断面において、A層からなる芯部と、B層からなる鞘部とからなる芯鞘型複合繊維である請求項1記載の複合繊維。
【請求項3】
芯部が異型断面である請求項2記載の複合繊維。
【請求項4】
芯部が放射形状であり、鞘部が放射形状を補完する形状である請求項2または3記載の複合繊維。
【請求項5】
最内層がB層、B層を取り囲み外側へ放射形状に伸びる形状であるA層、A層の放射形状を補完する形状であるB層からなる請求項1記載の複合繊維。
【請求項6】
芯部が扁平形状である請求項2または3記載の複合繊維。
【請求項7】
単糸繊維直径におけるA層の最大厚み率が25%以上である請求項1〜6記載の複合繊維。
【請求項8】
繊維全体のリン濃度が0.2質量%以上であり、LOI値が30以上であることを特徴とする請求項1と6いずれか一項記載の複合繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製糸性、加工性などが良好な難燃樹脂と赤外線反射樹脂からなる複合繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より清涼感を有する布帛、難燃性を有する布帛はそれぞれ数多く提案されている。例えば、清涼感を有する布帛としては、繊維の形状、加工方法、織組織、練り込み剤などの工夫により断熱効果を向上させる方法や、繊維表面に銀メッキ加工を施した布帛で覆うことによる赤外線反射させて遮熱する方法などがある。また、難燃性を有する布帛としては、布帛に難燃剤を塗布する方法などにより布帛に難燃性を付加しているものがある。
例えば、特許文献1の導電性酸化亜鉛粒子含有ウレタン樹脂をバインダーとし、そのバインダー液にカーテン生地を浸漬して固着させることにより、遮熱性の優れたカーテンを得ることが記載されている。
特許文献2には、くびれのある異型断面の扁平糸で、平均粒径0.5〜1.5μmの酸化チタンを全分散した繊維とすることになり、製糸性及び遮熱性の優れたポリエステル繊維を得ることが記載されている。
特許文献3には、芯部に平均粒子径0.8〜1.8μmの酸化チタンを含有したポリエステル樹脂を配した芯鞘型複合繊維とすることにより、光を効率的に反射させ、清涼感のある芯鞘型複合繊維を得ることが記載されている。
特許文献4には、リン系の難燃性ポリエステル繊維からなる紡績糸とマルチフィラメントをそれぞれ経糸、緯糸として用いた布帛に精錬、漂白、染色、乾燥、熱セットを施し、得られた布帛表面に物理蒸着法によってステンレス鋼やチタンからなる光反射性金属膜形成後、つや消し加工を施して遮熱性及び難燃性を有する布帛を得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−245115号公報
【特許文献2】特開2012−112056号公報
【特許文献3】特開2010−116660号公報
【特許文献4】特開2006−174978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、導電性酸化亜鉛粒子含有ウレタン樹脂をバインダーとして、そのバインダー液にカーテン生地を浸漬している。このため、ポリウレタンとカーテン生地が剥離し易い欠点がある。また、樹脂バインダーを使用しているため、耐候劣化による黄変が生じることが危惧される。さらに、布帛を衣料に用いた場合、柔軟性に欠け、繰り返し使用することにより遮熱性が低下する欠点があった。
特許文献2に記載の平均粒径0.5〜1.5μmの酸化チタンを全分散したくびれを含む異型断面繊維では、紡糸や整経、織編、仮撚りなどの工程通過性や治具、ローラー磨耗など問題が危惧される。
特許文献3では、芯鞘型複合繊維の芯部に平均粒径0.8〜1.5μmの酸化チタンを3重量%以上含有させることにより、清涼感を得ることができることは記載されているものの、難燃性については言及されていない。
特許文献4では、リン系難燃性ポリエステル加工布帛にスパッタリング法などの物理蒸着法が必要となり、コスト高となる。また、物理蒸着であるために、金属と布帛との間に剥離が生じるなどの欠点を及ぼすこともある。
なお、難燃性能を付与するために、布帛に難燃剤を用い難燃加工を施すことは、従来からよく実施されているが、洗濯回数を繰り返すことにより性能が減退してしまう欠点もある。
【0005】
したがって、本発明は上記のような問題を解決し、後加工によらずとも、後工程通過性が良好で、遮熱性と難燃性を併せ持った合成繊維を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、繊維横断面において赤外線反射脂層(A層)と難燃樹脂層(B層)からなる複合繊維であり、A層は平均粒子径0.8〜1.8μmの酸化チタンを3質量%以上15質量%以下含み、A層とB層との面積比率は、80:20〜25:75であり、A層の繊維表面への露出率は、0〜50%であり、B層は少なくとも一部が繊維表面へ露出している複合繊維をその要旨とする。
さらに、繊維横断面において、A層からなる芯部と、B層からなる鞘部とからなる芯鞘型複合繊維であることが好ましく、その芯部が異型断面であることがより好ましく、芯部が放射形状であり、鞘部が放射形状を補完する形状であることがさらに好ましい。
また、本発明の複合繊維は、繊維横断面において、最内層がB層、B層を取り囲み外側へ放射形状に伸びる形状であるA層、A層の放射形状を補完する形状であるB層からなるものであることが好ましく、また芯部が扁平形状である複合繊維であることがより好ましく、単糸繊維直径におけるA層の最大厚み率が25%以上であることがより好ましい。
そして、繊維全体のリン濃度が0.2質量%以上であり、LOI値が30以上であるとさらに好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の複合繊維は、後加工によらずとも、難燃性と遮熱性を有し、後工程通過性も優れている。
また、繊維横断面を工夫することにより、さらに遮熱性や難燃性の高い合成繊維を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の複合繊維の横断面形状の一例である。
図2】本発明における最大厚み率を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
まず、本発明の複合繊維は、難燃成分を含む難燃樹脂(B層)と赤外線反射樹脂(A層)とから構成されている。
【0011】
B層の難燃樹脂のベースとなる熱可塑性樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン等の繊維形成可能な熱可塑性樹脂を選択できる。例えば、ポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアルキレンテレフタレートを主体とした芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸のなどの脂肪族ポリエステル等が挙げられる。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T,ポリメタキシレンアジパミド、等が挙げられる。ポリウレタンとしては、ポリエステル系、ポリエーテル系、カーボネート系ポリウレタンや熱可塑性ポリウレタンエラストマー等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、エチレンの共重合形態をとるブロック、ランダムポリプロピレン、ホモのポリプロピレンや高密度、低密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0012】
本発明の複合繊維は、本発明の効果を損なわない範囲であれば一般的に使用される添加剤、滑剤、艶消し剤、酸化防止剤、蛍光増白剤、制電剤、耐光剤、顔料などが含まれていても構わない。
【0013】
本発明において、難燃樹脂(B層)は、難燃成分を含めばよく、例えば、リン系難燃成分を共重合させた樹脂、リン系難燃剤と樹脂とのブレンドまたは混練によるコンパウンドが好適に挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0014】
本発明の複合繊維は、難燃成分としてリンを含む場合、良好な難燃性を維持させる点から、樹脂内に含まれるリン濃度は、0.25質量%以上が好ましく、さらに好ましくは0.6〜1.5質量%である。0.25質量%未満では、難燃性を維持しにくくなる傾向がある。
さらに繊維全体に換算したときのリン濃度は0.2質量%以上が好ましく、さらに好ましくは4.0〜7.0質量%である。0.2質量%未満では難燃性が維持し難くなる傾向がある上、7.0%を超えると、紡糸操業性が低下する傾向がある。
【0015】
本発明において、赤外線反射樹脂層(A層)のベースとなる樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン等、繊維形成可能な熱可塑性樹脂が選択できる。例えば、ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアルキレンテレフタレートを主体とした芳香族ポリエステルや、ポリ乳酸のなどの脂肪族ポリエステル等が挙げられる。ポリアミドとしては、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T,ポリメタキシレンアジパミド等が挙げられる。ポリウレタンとしては、ポリエステル系、ポリエーテル系、カーボネート系ポリウレタンや熱可塑性ポリウレタンエラストマー等が挙げられる。ポリオレフィンとしては、エチレンを共重合形態をとるブロック、ランダムポリプロピレン、ホモのポリプロピレンや高密度、低密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0016】
本発明における赤外線反射樹脂(A層)は、赤外線反射剤として、平均粒子径が0.8〜1.8μmの酸化チタンを含む。この平均粒子径は、0.8〜1.5μmであることがより好ましい。
【0017】
赤外線反射樹脂(A層)の上記酸化チタンの含有量は、3質量%以上が好ましく、より好ましくは、6質量%以上である。紡糸操業性および繊維品質を考慮すると、上限は、15質量%程度である。
【0018】
また繊維全体に対する上記の平均粒子径の酸化チタンの濃度は1.8質量%以上であることが好ましく、2.0〜8.0質量%がより好ましく、さらに好ましくは3.5〜7.5質量%である。紡糸操業性、延伸操業性を考慮すると、8.0質量%以下とすることが好ましく、良好な遮熱性を得る点からは、1.8質量%以上、さらには2.0質量%以上、3.5質量%以上とすることが好ましい。
【0019】
なお、通常、合成繊維において、つや消し剤として用いる酸化チタンは、平均粒子径が0.3μm程度であるが、0.8〜1.8μmのように酸化チタンの平均粒子径を大きくすることによって、熱エネルギーに変換されやすい赤外線の波長(0.8〜3.0μm)の光を反射するため、遮熱効果を発揮できる。特に好ましくは、0.8〜1.5μmである。
【0020】
また、上記酸化チタンは、一次粒子径が0.8〜2.0μmのものであることが好ましい。
【0021】
上記酸化チタンの結晶構造は、ルチル型が好ましい。なお通常繊維に用いる艶消し剤として用いる酸化チタンは一般的にアナターゼ型が多い。
【0022】
本発明の複合繊維は、難燃樹脂(B層)と、芯部が赤外線反射樹脂(A層)から構成される。A層とB層の樹脂比率(面積比)は、80:20〜25:75が好ましく、より好ましくは、60:40〜30:70である。この範囲であると、A層が一定以上の面積をもつため、遮熱効果を奏し易く、一定以上の濃度の難燃成分を含ませることで難燃性も得られ易い。
【0023】
本発明の複合繊維のA層とB層の比率(面積比)は、80:20〜25:75が好ましく、より好ましくは60:40〜30:70である。
すなわち、A層の比率が大きすぎると、平均粒子径の大きい酸化チタンを多く含むことになり、糸質の低下につながる恐れがある。また、難燃成分の割合が低下することにより難燃性を十分に得ることができない恐れがある。
さらに、B層の比率が大きすぎると、平均粒子径の大きい酸化チタンを含有している部分が少なくなり、熱エネルギーとなりやすい3μm以下の波長の赤外線を反射しない部分が多くなるため、遮熱効果を十分に得る点からは、上記の範囲とすることが好ましい。
【0024】
本発明の複合繊維はLOI値が30以上であることが好ましい。
LOI値は、例えば、上述したようなリン濃度にすることや、上述したような芯鞘比率を持つ芯鞘型複合繊維とすることにより、上記のLOI値とすることができる。
尚、LOI値は通常26以上あれば、難燃性を有するとされている。但し、持続的な何難燃効果や難燃性に耐久性を持たせるには、LOI値を30以上が好ましい。
【0025】
本発明の複合繊維は、上記の難燃樹脂層(B層)と赤外線反射樹脂層(A層)を組み合わせる繊維横断面を種々工夫することにより、さらに本発明の効果を良好に発揮できる。
【0026】
本発明の複合繊維は、繊維長手方向に垂直な面(繊維横断面)において、A層とB層とを含んで構成される。
【0027】
本発明の複合繊維の横断面形状としては、サイドバイサイド型、芯鞘型、海島型、中空芯鞘等、種々の形態を挙げることができる。
【0028】
A層の繊維表面への露出率(繊維横断面において繊維外周に露出している割合)は、0〜50%である。好ましくは、20%以内、さらに好ましくは0%(露出しない)である。すなわち、A層の露出率が50%を超えると、紡糸工程、延伸工程、整経工程、織工程、編工程、後加工工程など、工程通過性が低下する。
【0029】
B層は、少なくとも一部が繊維表面へ露出している。B層の繊維表面への露出率は、50%を超えることが好ましく、より好ましくは、75%以上であり、さらに好ましくは、90%以上である。
B層が繊維表面へ露出することによって、難燃性を良好に保ち、紡糸操業性や後工程通過性等も良好に保つことができる。
【0030】
特に好ましい複合形態としては、例えば、鞘部がB層、芯部がA層で構成され、A層が繊維表面に露出しない形態が挙げられる。このような形態であれば、A層に粒径の大きい酸化チタン含有させた場合でも、この酸化チタンが繊維表面に露出しないため、難燃性が特に発揮し易くなり、また紡糸操業性、工程通過性も良好となる。
【0031】
ここで、難燃性と赤外線反射性が効率良く、紡糸性や後工程通過性が良い本発明の複合繊維の横断面形状について、図面を用いて、さらに詳細に説明する。
【0032】
図1は、本発明の複合繊維の繊維長手方向に垂直な断面である繊維横断面形状の例を示す。
図1(a)〜(n)、(q)〜(s)は、芯部にA層、鞘部にB層を配置した芯鞘型複合繊維の例である。このように芯部に平均粒子径の大きい酸化チタンを含む赤外線反射樹脂(A層)を配置することによって、良好な糸質を保持し易く、鞘部に難燃成分を含む難燃樹脂層を配置することによって、難燃性が発揮し易くなる。
この場合、A層とB層の比率(面積比)は、80:20〜25:75が好ましく、より好ましくは60:40〜30:70である。
すなわち、A層の比率が大きすぎると、平均粒子径の大きい酸化チタンを多く含むことになり、糸質の低下につながる恐れがある。また、難燃成分の割合が低下することにより難燃性を十分に得ることができない恐れがある。
さらに、B層の比率が大き過ぎると、平均粒子径の大きい酸化チタンを含有している部分が少なくなり、熱エネルギーとなりやすい3μm以下の波長の赤外線を反射しない部分が多くなるため、遮熱効果を十分に得る点からは、上記の範囲とすることが好ましい。
【0033】
図1(a)、(r)、(s)は、外形が丸断面の芯部をA層とし、外形が丸断面の鞘部をB層とする単芯の例であり、図1(f)は、その多芯の例である。図1(a)はA層とB層が同心で配置され、図1(r)、(s)は、A層とB層が偏芯して配置されている。また図1(r)はA層が繊維表面に露出しているが、図1(a)、(b)は、A層は露出していない形状である。芯部のA層の外形は、丸断面であるが、三角断面、四角断面、星型等の異型断面でもよい。また芯部のA層の数は、2個以上であっても、5個以上であってもよい。なかでも、芯部のA層の個数が3個以上であると、効率的にA層が反射し易くなるため、特に、遮熱性が良好となる。より好ましくは、7個以上である。
尚、図1(r)のA層の繊維表面への露出率は、50%以下が好ましく、より好ましくは、20%以下である。また、また、図1(r)において、A層とB層の比率(面積比)は、80:20〜50:50が特に好ましい。
【0034】
図1(b)は、外形が三角断面の芯部をA層とし、外形が三角断面の鞘部をB層とする単芯の例である。
図1(c)は、外形が四角断面の芯部をA層とし、外形が四角断面の鞘部をB層とする単芯の例である。
図1(d)は、外形が扁平丸断面の芯部をA層とし、外形が扁平丸断面の鞘部をB層とする単芯の例である。
図1(e)は、A層は、外形が三つ葉の形状であり、B層は外形が丸断面形状であり、A層を芯部、B層を鞘部とした単芯の例である。尚、A層の外形は二つ葉であっても、四つ葉であってもよい。
【0035】
図1(g)は、芯部にB層、芯部を囲んで放射状に外側に向かって伸びる形状であるA層、芯部のB層及び放射状に伸びた形状のA層を囲んだ最外層の鞘部にB層を配置した多層芯鞘型の例である。図1(g)は三層の例を記載したが、四層以上であってもよい。A層は、放射状に伸びた形状で突起を有しているが、突起の数は、3個以上が好ましく、上限は20個以下が好ましい。
【0036】
図1(h)、(m)は、芯部に放射形状であるA層を配置し、芯部を囲んでA層を補完する形状であるB層を配置した例であり、(h)はA層がB層に完全に覆われており、(m)は放射形状に伸びたA層が一部繊維表面へ露出している形状である。
図1(i)は、一番中心の内層である芯部にB層、中間層にA層、最外層の鞘部にB層
を配置した多層芯鞘型の例である。図1(i)は三層であるが、四層以上であってもよい。
図1(j)は、一番中心の内層である芯部が中空、中間層にA層、最外層の鞘部にB層を配置した中空芯鞘型の例である。
【0037】
図1(k)は、放射形状のA層を取り囲むようにB層を配置し、繊維外形が星状となる形状の例である。そして、A層が星部の窪み部分に露出し、各窪み部分に対して襷掛けをしている構造になっている。星の突起の数は3個以上が好ましく、20個以内が好ましい。尚、各星の窪み部のみにA層が露出していてもよい。このような横断面では、酸化チタンが多量に含有しているA層が、窪み部のみの露出のため、後工程での問題が少ない。さらに、紡糸などの操業性も良く、難燃性、赤外線反射性も良好となる。赤外線反射樹脂(A層)と難燃樹脂(B層)において、それぞれの比率(面積比)が80:20〜25:75の範囲であることが好ましく、このような形状であれば、露出があっても工程通過性に問題を生じずに特に難燃性、遮熱性とも優れた繊維を得ることができる。
【0038】
図1において、(l)〜(n)の横断面形状では、外形が丸断面であり、A層の一部が繊維表面へ露出している形態である。
図1(l)は、A層の両サイドをB層で囲んだサンドイッチ型の例である。
図1(m)は、A層が、繊維横断面中央から放射状に伸びて突起し、繊維表面に露出し、A層を補完する形でB層が扇型に配置されている形態の例である。
図1(n)は、最内層の芯部にB層、芯部のB層を囲んで放射状に突起が伸びる形状であるA層、A層の放射状を補完する形状であるB層を配置し、A層の突起とB層が交互に繊維表面へ露出している形状の例である。
図1(m)及び(n)の突起数は3個以上が好ましく、また20個以下が好ましい。尚、A層の繊維表面への露出が50%を超える場合は、後工程通過性や紡糸操業性が低くなるため、A層とB層において、それぞれの比率(面積比)が80:20〜50:50の範囲であることが好ましい。また、A層の露出が50%を超えなければ、図1(l)〜(n)のA層とB層を逆転させてもよい。
【0039】
図1(o)、(p)は、A層とB層がサイドバイサイド型に配置された例であり、(o)はA層とB層はそれぞれの層の中心が離れ、A層とB層の接合面にくぼみを設けた落花生型のサイドバイサイド型、(p)は接合面にくぼみがない真円のサイドバイサイド型である。
【0040】
尚、図1(o)の場合、長辺と短辺の比(長辺/短辺)が、1.1〜3.0であり、より好ましくは1.1〜2.2である。
図1(q)は、最内層の芯部に放射形状に伸びる突起が配置されたB層、B層を補完する形状で配置されたA層と、補完形状のA層を繊維表面に露出しないように放射形状に配置されたB層とを接続してB層を最外層として囲んだ形状の例である。
【0041】
また、図1において、(a)〜(j)、(q)及び(s)の横断面形状では、繊維表面が全てB層で覆われていることにより、紡糸性、後工程通過性が良好で、難燃性、赤外線反射性が特に優れたものとなる。このような、繊維横断面形状では、赤外線反射樹脂(A層)と難燃樹脂(B層)において、それぞれの樹脂層の比率(面積比)が80:20〜25:75の範囲とすることが好ましい。さらに好ましくは75:25〜40:60である。
図1(a)〜(e)は、それぞれ丸断面、三角断面、四角断面、扁平断面の芯鞘型断面であり、単芯の芯鞘形状であるが、芯の外形や鞘の外形は、丸断面であっても、異型断面であってもよい。また、これらは、単芯であっても、多芯であってもよい。
【0042】
本発明の複合繊維の繊維横断面において、赤外線反射性について説明する。繊維横断面において、A層の外周の長さが大きいほど、反射性の効果が高い傾向がある。A層の外周の長さが大きいと、光が外部から繊維軸方向に照射された際に、A層に照射される表面積が大きくなる。このような表面積が大きい場合には、繊維内部に入射した赤外線が乱反射し、効率的に系外へ反射するため遮熱性を持った繊維となる。特に、繊維横断面にA層が突起を有した形状としたり、扁平としたり、島数が多いと、表面積が大きくなるため、特に良好な遮熱性を有する。例えば、図1の(d)〜(k)、(m)、(n)及び(q)などが特に好ましい形態として挙げられる。
【0043】
次に、単糸繊維の直径に対するA層の最大厚み率について説明する。A層の最大厚み率は、25%以上であることが好ましい。さらに好ましくは50%以上である。25%以上であれば、赤外線反射性が良好となり、遮熱性が良好となり易い。
A層の最大厚み率とは、繊維最大直径に占めるA層の最大厚み率をいう。例えば、図2(a)のようなサンドイッチ型断面で、挟まれたところがA層の場合、最大厚み率は、100%となる。
尚、図2(b)のような芯鞘型繊維の場合、
(〔〔A層の最大直径(a1)〕/〔繊維の最大直径(2r)〕〕×100)%で示される。
また図2(c)のような、A層が複数ある場合は、A層が繊維の最大直径に対して占める最大厚み(〔(a1+a2)/〔繊維の最大直径(2r)〕〕×100)%を示す。
【0044】
本発明の複合繊維は、以下に示す遮熱性が1.5℃以上である。
遮熱性は、難燃成分及び赤外線遮熱成分が入っていない繊維からなる布帛(基準サンプル)と測定対象の繊維からなる布帛(比較サンプル)を用いて、レフランプによる照射により、基準サンプルに対して、比較サンプルの温度が何℃低下するかを、後述のように測定して算出し、「基準サンプル−比較サンプル」を遮熱性の値(℃)とする。
本発明の合成繊維の遮熱性(基準サンプルからの低下温度)は1.5℃以上であり、さらに好ましくは3.0℃以上であり、低下温度が高ければ高いほど、遮熱効果に優れている。遮熱性が1.5℃未満の場合、繊維を構成するA層による熱線反射効果は大きいものでなく、遮熱効果は得られ難い傾向がある。
【0045】
本発明の複合繊維は、強度が3.0cN/dtex以上であることが好ましい。また伸度は、20%以上が好ましく、より好ましくは、25%以上である。
【0046】
次に、本発明の複合繊維の好適な製造方法について好適な例を具体的に説明する。
以下は、芯部にA層として、上記平均粒子径の酸化チタンを含有したポリエステル、鞘部にB層として、リン系の難燃成分を共重合させた共重合ポリエステルを用いた複合繊維の例である。
【0047】
まず、赤外線反射樹脂として、上記平均粒子径をもつ酸化チタンを3〜20質量%含有したポリエステル樹脂、難燃樹脂として、上述したリン濃度を有するリン系の難燃成分を共重合した共重合ポリエステルを準備する。
これらの樹脂をそれぞれ溶融して、紡糸口金から吐出する。引き続き糸条を冷却して、油剤を付与した後、未延伸糸を巻糸体に一旦巻き取る。その後、巻糸体に巻き取った未延伸糸を引き出し、延伸した後、熱処理をして巻糸体に捲き取り、本発明の複合繊維を得ることができる。
【0048】
紡糸温度(紡糸口金から吐出する温度)としては、例えば、270〜295℃が好ましく、より好ましくは280〜295℃である。
【0049】
紡糸速度(上記では未延伸糸を巻き取る速度)としては、例えば、800〜1800m/minが好ましく、より好ましくは800〜1500m/minである。
延伸工程での熱処理温度としては、例えば、100〜180℃が好ましく、より好ましくは120〜160℃である。
【0050】
捲取速度としては3000〜4500m/minが好ましく、より好ましくは、3000〜4000m/minである。
【0051】
上記は、未延伸糸を一旦巻き取ることなく、延伸し、熱処理した後に巻き取る方法(直接延伸方法)にて、本発明の複合繊維の製造法を例示したが、未延伸糸を一旦巻き取った後に、延伸する方法(コンベンショナル法)を、してもよい。
この場合、紡糸速度は、例えば、800〜1800m/minが好ましく、より好ましくは800〜1500m/minである。
延伸工程での熱処理温度は、例えば、100〜180℃が好ましく、より好ましくは120〜160℃である。
延伸速度としては、例えば、500〜1200m/minが好ましく、より好ましくは600〜1000m/minである。
【0052】
本発明の合成繊維は、未延伸糸、半延伸糸(高配向き未延伸糸)、延伸糸等のいずれの形態のものでもよい。
【0053】
上述した製造方法においては、延伸糸を得る方法を例示したが、高配向の未延伸糸を得る場合は、上述したコンベンショナル法と同様に、樹脂を溶融した吐出した後、冷却し、油剤を付与した後、第1ゴデッドロールに導き、その後、第1ゴデッドロールと等速の第2ゴデッドローラーを経由して巻糸体に高配向の半延伸糸巻き取ることにより得ることができる。それぞれのゴデッドロールを等速の3000〜4500m/min程度が好ましく、より好ましくは、3000〜4000m/minである。
【0054】
本発明において、上記より得られた合成繊維をそのまま布帛に用いても良いが、仮撚り加工、押し込み加工、ニットデニット加工など繊維が嵩高となるような加工を施してもよい。またこのような加工を施すことにより、より保温性が優れたものが得られ、また製編織した場合、編み目や織り目を、密とすることができるため、より一層遮熱性が向上する。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の測定方法は以下の通りである。
【0056】
A.破断強度、破断伸度
JIS−L−1013に準じ、島津製作所製のAGS−1KNGオートグラフ引張試験機を用い、試料糸長20cm、定速引張速度20cm/minの条件で測定する。荷重−伸び曲線での荷重の最高値を繊度で除した値を破断強度(cN/dtex)とし、そのときの伸び率を破断伸度(%)とする。
B.平均粒子径
透過電子顕微鏡(日本電子社製 透過電子顕微鏡 JEM−1230)を用いて写真撮影し、自動画像処理装置(LUZEX AP(ニレコ(株)製)にて体積基準の水平方向等分径を測定し、比重を計算して、質量平均の平均粒子径を求めた。
C.紡糸操業性
紡糸操業性および延伸操業性の通過性良好であれば○、工程通過性が若干悪いものを△、製糸不可であれば×とした。
D.LOI値
JIS L 1091法に準じて実施した。ポリエステル重合体を常法により紡糸延伸して得た合成繊維の脱脂を行い、その繊維1gを長さ10cmのかせ巻きを作製し、検撚器により長さ10cmの測定用サンプルを得た。その試験サンプルの限界酸素指数を試験した。
E.遮熱性
〈測定条件〉
温度:22℃、湿度:60%(室内)
〈測定法〉
得られた繊維を2本双糸として、ウェール数が30本/2.54cm、コース数が60本/2.54cmの筒編地を作成し、比較サンプルとする。基準サンプルとして、難燃成分及び赤外線反射成分を含まない以外は比較サンプルと同じものを準備する。温度22℃、湿度60%の室内にて、平坦面に黒画用紙を配置し、黒画用紙の上方0.5cmに、基準サンプルを配置し、基準サンプルの上方50cmにレフランプを配置し、黒画用紙より下方に接触した状態で温度計を設置する。レフランプから500Wの光を照射し、30分経過したときの基準サンプルの温度を測定しA1とする。同様に、比較サンプルのレフランプ30分照射後の温度を測定し、S1とする。
遮熱性は以下の式にて算出する。
遮熱性(℃)=(A1)−(S1)
F.ステンレス繊維磨耗切断試験
10g荷重をかけた線径35μmのステンレスワイヤー(SUS315)に対し垂直に評価繊維を150m/minの糸速にて走行させる。このとき、評価繊維とステンレスワイヤーとが擦られることによりワイヤーが磨耗するので、切断するまでの時間を計測する。
切断に要する時間が長いほど、紡糸、延伸工程やこれ以降の後加工工程などの工程通過性が向上する傾向があるため、下記に示す切断までの時間で評価した。切断までの時間は通常、○以上有れば、問題はない。
切断時間1min未満は×、1min以上2min未満は△、3min以上10min未満は○、10min以上を◎とした。
G.A層の繊維表面への露出率及び単糸繊維直径におけるA層の最大厚み率
未延伸糸、半延伸糸または延伸糸をポリエチレン樹脂により包埋し、ミクロトームにより切片を採取する。得られた切片をマイクロスコープにより繊維横断面を撮影し、画像を得る。その画像より、A層が繊維表面に露出している割合(%)と単糸繊維直径におけるA層の最大厚み率を算出した。
【0057】
〔実施例1〕
A層の樹脂として、平均粒子径1.0μmの酸化チタンが含有した酸化チタン濃度40質量%マスターバッチとポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV=0.670dl/g)を酸化チタン粉末濃度として9質量%となるようにチップブレンドしたものを準備した。またB層はリン濃度1.05質量%の難燃樹脂を使用し、繊維全体のリン濃度が0.21質量%に調整した。これらの樹脂を用いて、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金からA層を芯部にB層を鞘部に配し、芯鞘比率43:57(面積比)にて吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、GR1速度1200m/min、GR2速度3800m/minにより延伸し、GR1/GR2温度=85/135℃にて熱処理を行い、延伸糸を巻き取った。繊度84dtex/24fの芯鞘型複合繊維(繊維横断面:図1(a))を得た。
【0058】
〔実施例2〜6〕
繊維横断面(それぞれ図1(b)、(e)、(f)、(n)、(o))とした以外は実施例1と同様に複合繊維を得た。
【0059】
〔比較例1〕
酸化チタンなどの無機粒子を添加していないポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV=0.670dl/g)を、紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有する紡糸口金から吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、GR1速度1050m/min、GR2速度3800m/minにより延伸し、GR1/GR2温度=85/135℃にて熱処理を行い、延伸糸を巻き取った。繊度84dtex/24fの単独繊維を得た。
【0060】
〔比較例2〕
B層の難燃樹脂のリン濃度0.6質量%の樹脂を用いて、紡糸温度290℃にて丸型の吐出孔を有す紡糸口金から吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、GR1速度1050m/min、GR2速度3800m/minにより延伸し、GR1/GR2温度=85/135℃にて熱処理を行い、延伸糸を巻き取った。繊度84dtex/24fの単独繊維を得た。
【0061】
〔比較例3〕
A層、B層の比率を表1のように変更した以外は実施例6と同様に合成繊維を得た。
【0062】
〔比較例6〕
平均粒子径1.0μmの酸化チタンが含有した40質量%マスターバッチとポリエチレンテレフタレート(極限粘度IV=0.670dl/g)を酸化チタン粉末濃度として9.0質量%となるようにチップブレンドした。このブレンド樹脂を紡糸温度295℃にて丸型の吐出孔を有す紡糸口金から吐出した。引き続き糸条を冷却、給油し、GR1速度1270m/min、GR2速度3800m/minにより延伸し、GR1とGR2の熱処理温をそれぞれ85、135℃にて行い、延伸糸を巻き取った。繊度84dtex/24fの単独繊維を得た。
【0063】
〔実施例7、比較例4,5〕
A,B層の比率を表1のように変更した以外は実施例5と同様に合成繊維を得た。
【0064】
得られた結果を表1に示す。
【表1】
【0065】
実施例1〜6から得られた、繊維全体のリン濃度0.6質量%で繊維全体の平均粒径が1μmの酸化チタンの濃度が繊維全体で3.861質量%である複合繊維は、LOI値30以上、遮熱性が3.0〜4.4℃(比較例1の基準布帛比較)であり、難燃性及び遮熱性に優れたものであった。これらの合成繊維は、いずれも、強度3.4cN/dtex以上、伸度28.0%以上であり、紡糸操業性が良く、SUS繊維切断試験でも良好であるため製編織に好適に適用できる。
なお、実施例2〜5のように、実施例1の芯部の外形が円形の芯鞘繊維と比較し、A層の外周の長さが大きく、光が外部から繊維軸方向に照射された際にA層に照射される表面積が、大きい方から、図1(n)、(f)、(e)、(b)、(a)となることにより、効率的に入射した赤外線を反射する。この効果により、例えば比較例1と比較し実施例5の図1(n)の横断面形状では遮熱性が4.4℃となるが、実施例3の図1(e)では遮熱性が3.9℃となり、図1(n)のようなA層の外周の長さが大きいものの方が遮熱性に優れるものと推測される。通常の芯部の外形が丸断面の単芯の芯鞘断面である実施例1の図1(a)と比較しても、A層の外周の長さが大きい図1(n)、(f)、(e)、(b)は、遮熱性が優れているのがわかる。また、同様に、図1(c)、(d)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、(m)、(q)の断面として、複合繊維を得て、各評価を行ったところ、遮熱性については、3.7℃以上と優れた遮熱性を得ることができた。
また、A層が露出していない図1(a)〜(j)、(q)、(s)は、SUS繊維の磨耗がほとんど生じず、後加工通過性がよく、特に製編織に好適に適用できるものであった。また、単糸繊維直径におけるA層の最大厚み率が、いずれも40%以上であり、十分な遮熱性を得ることができた。
尚、これらのうち、遮熱性効率と難燃性のバランスが良いのは、図1(d)、(f)〜(h)及び(q)であった。
実施例7は、図1(n)のA層の面積比率を大きくし、繊維表面への露出率を49%にしたものでは、A層の比率が高くなり、効率的に赤外線を反射させることができ、特に遮熱性に優れていた。さらに、SUS繊維切断試験でも○と良好な評価となり後工程通過性にも優れるため、製編織に好適に適用できるものであった。
比較例1から得られたポリエチレンテレフタレート単独の合成繊維は、遮熱性、難燃性とも得られないものであった。
比較例2からなる平均粒径が1μmの酸化チタンを含まない難燃樹脂層(B層)のみからなる合成繊維は、難燃性は十分保持しているが、遮熱性のないものであった。
比較例3は実施例6と同じ繊維横断面であるが、A層の比率が大きくなり、繊維表面の露出率が60%となった。これにより遮熱性は4.0℃の高い数値を有しているが、SUS繊維切断試験で×のため、製編織の工程通過性も不良だった。
比較例4、5は、実施例7以上に図1(n)のA層の比率を大きくしたもので、遮熱性は5.0℃以上と極めて優れている。しかし、芯部のA層が大きく繊維表面に露出するため、SUS繊維切断試験での判定が△以下、紡糸操業性も悪くなった。
また比較例6からなる平均粒径が1μmの酸化チタンを含むA層のみからなる複合繊維は、遮熱性能は十分保持しているが、難燃性、紡糸・延伸操業性が極端に低く、SUS繊維切断試験の結果が×であったことより、製編織の工程通過性も不良だった。
このように、繊維横断面の異型やA層の横断面形状を工夫することにより、熱線や可視光線などの波長の光を効率的に反射させることが可能となり、工程通過性が良好で、難燃性、遮熱性ともに高い繊維を提供できる。
【0066】
〔比較例7〕
A層、B層の比率を表2のように変更した以外は実施例2と同様に複合繊維を得た。
【0067】
〔比較例8〕
A、B層の比率を表2のように変更した以外は実施例4と同様に複合繊維を得た。
【0068】
〔比較例9〕
A、B層の比率を表2のように変更した以外は実施例5と同様に複合繊維を得た。
【0069】
実施例2、実施例8、比較例7、実施例4、実施例9、比較例8、実施例5、比較例5,9についての結果を表2に示す。
【表2】
【0070】
実施例2、4、5、8、9は、繊維全体のリン濃度を0.2質量%以上である。実施例2、4、8、9は繊維表面が全てB層に覆われていること、B層のリン濃度が1.05質量%と濃度が高いこと、全体のリン濃度が一定以上あることから、若干、繊維全体のリン濃度が低い実施例8、9も含め、効率的に難燃性を発揮し、LOI値が30以上を有していた。また、A層が繊維表面に露出していないため、紡糸操業性が非常に良く、後工程での通過性に指標となるSUS繊維切断試験も◎であり、優れていた。
これに対し比較例7、8は、A層の比率が大きく、B層の比率が低いため、難燃性に劣ったものであった。また、燃焼試験を実施した際、着火直後は、リン成分により難燃性を維持したが、時間が経つとB層が薄いために燃えてしまった。
実施例5は、繊維全体のリン濃度を0.2質量%以上とし、A層が50%未満露出している複合繊維である。A層は露出しているが、局所的にリン濃度が濃いため、十分な難燃性を有し、LOI値が30以上であった。さらにSUS繊維切断試験では、A層の露出率が50%未満であるので○判定であり、紡糸操業性も後工程通過性も良好であった。
比較例5、9は、繊維全体のリン濃度を0.2質量%以上にし、A層が50%を超えて露出している複合繊維である。これらの複合繊維は、A層の露出が80%以上露出しているため、B層の露出部が少なく、局所的にリン濃度が高くても、難燃性を発揮しにくい。尚、比較例5は、かろうじてLOI値30を維持できたが、比較例9はLOI値が30未満となった。さらに、いずれのものも、A層の露出率が高いため、SUS繊維切断試験は非常に悪く△や×判定となり後工程通過性も悪く、また紡糸操業性も△判定と実施例品と比べて劣っていた。
【0071】
〔実施例10〜12、比較例10〜13〕
A層の酸化チタン平均粒径とGR1とGR2間のDRを表3のように変更した以外は実施例5と同様に複合繊維を得た。その結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
A層の酸化チタンの平均粒子径が0.8〜1.8μmである複合繊維(実施例5、10、11、12)では、紡糸操業性、後工程通過性、遮熱性及び難燃性とも良好であった。
これに対し、平均粒径1.8μmを超える比較例12、13から得られた複合繊維は、遮熱性は優れているものの、断糸傾向が強くなり、紡糸操業性が極端に低下し、△判定となった。SUS繊維切断試験も同様に、平均粒径1.8μmを超えるとSUS繊維が直ぐに切断されてしまう△か×判定であった。さらに、平均粒径0.8μm未満の比較例10、11から得られた複合繊維は、紡糸操業性やSUS繊維切断試験が非常に良い判定を示すが、平均粒径が小さくなるため、反射効率が著しく低下し、遮熱性が劣ったものであった。
【0074】
〔実施例13〜15、比較例14〜16〕
A層の酸化チタン濃度とGR1とGR2間のDRを表4のように変更した以外は実施例5と同様に複合繊維を得た。
【0075】
【表4】

A層の酸化チタン濃度が4〜15質量%である実施例5、13、14、15から得られた複合繊維は、紡糸操業性は問題なかった。また、SUS繊維切断試験では、○判定で、後工程での通過性も良好であった。また、LOI値は30以上を維持し、遮熱性も比較例1と比較し、3.5〜6.0℃の遮熱効果があった。
これに対し、A層の酸化チタン濃度15.0質量%を超える比較例15、16からなる複合繊維は、遮熱性は良好なものの、紡糸操業性は、断糸傾向が強くなり、低下し、△や×判定となった。SUS繊維切断試験も同様に、A層の酸化チタン濃度15.0質量%を超えるとSUS繊維が直ぐに切断されてしまう×判定であった。
さらに、A層の酸化チタン濃度3.0質量%未満の比較例14から得られた複合繊維では、紡糸操業性やSUS繊維切断試験が非常に良い判定を示すが、A層の酸化チタン濃度が低くなるため、酸化チタンによる反射効率が著しく低下する傾向が見られた。これにより、遮熱性が比較例1と比較し、1.5℃未満となり、遮熱性に劣ったものであった。
【0076】
実施例1〜15から得られた繊維をそれぞれ比較例1の繊維にて、50%の混率で布帛を製造し、ボイルカーテンとした。また同様に、比較例1の繊維を、100%用いて布帛を製造し、ボイルカーテンとした。これらのボイルカーテンに火を翳したところ、実施例1〜15から得られた各ボイルカーテンは少し焦げたのみであったのみ対し、比較例1のみから得られたボイルカーテンは燃えた。晴天下、実施例1〜15、比較例1から得られたボイルカーテンを、同様の条件で、室内の窓にかけて、2時間経過した後に、室内の温度を測定した。実施例1〜15から得られた繊維を用いた各ボイルカーテンは、比較例1から得られたものと比べて遮熱性に優れていた。尚、実施例1で5.0℃以上、実施例4で5.5℃以上、実施例6で8℃以上、室内温度が低下し、特に遮熱性に優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0077】
難燃と遮熱性を有し、長期間持続して使用できる点から、ブラインドカーテン、ボイルカーテン、遮熱・難燃カーテン、レースカーテンなどのカーテン素材や網戸などに利用が期待される。
【符号の説明】
【0078】
A:A層 赤外線反射樹脂(空白部)
B:B層 難燃樹脂(斜線部)
図1
図2