(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-197163(P2015-197163A)
(43)【公開日】2015年11月9日
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
F15B 20/00 20060101AFI20151013BHJP
E02F 9/24 20060101ALI20151013BHJP
E02F 9/22 20060101ALI20151013BHJP
【FI】
F15B20/00 G
E02F9/24 C
E02F9/22 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-75284(P2014-75284)
(22)【出願日】2014年4月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 幸洋
【テーマコード(参考)】
2D003
2D015
3H082
【Fターム(参考)】
2D003AA00
2D003AB01
2D003BA07
2D003CA02
2D003DA02
2D003DA04
2D015GA02
2D015GB00
3H082AA01
3H082CC02
3H082DA06
3H082DA22
3H082DA33
3H082DA35
3H082EE01
(57)【要約】
【課題】 作業現場に緊急脱出装置を別に待機させることなく、異常が発生した際に緊急脱出することができる建設機械を提供する。
【解決手段】 杭打機11は、エンジン38又は作業用の油圧ポンプ35,36,37に異常が発生した際に、作業用の油圧回路L11に接続して、下部走行体12と作業用油圧装置を作動させるための緊急脱出用の油圧回路L12と、緊急脱出用の油圧回路L12に作動油を供給する緊急脱出用の油圧ポンプ32,33と、緊急脱出用の油圧ポンプ32,33を駆動するモータ32a,33aとを備えた緊急脱出用ユニット23を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンにより駆動される作業用の油圧ポンプから、作業用の油圧回路を介して供給される作動油により作動する走行装置及び作業用油圧装置を備えた建設機械において、該建設機械に、前記エンジン又は前記作業用の油圧ポンプに異常が発生した際に、前記作業用の油圧回路に接続して、前記走行装置及び前記作業用油圧装置を作動させるための緊急脱出用の油圧回路と、該緊急脱出用の油圧回路に作動油を供給する緊急脱出用の油圧ポンプと、該緊急脱出用の油圧ポンプを駆動するモータとを備えた緊急脱出用ユニットを設けたことを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記緊急脱出用の油圧ポンプは、前記緊急脱出用の油圧回路と、外部油圧機器の油圧回路とに切り換えて作動油を供給可能であることを特徴とする請求項1記載の建設機械。
【請求項3】
前記モータの電源が可搬式エンジン発電機であることを特徴とする請求項1又は2記載の建設機械。
【請求項4】
前記緊急脱出用の油圧回路は、作動油の供給先を前記走行装置と前記作業用油圧装置とに切換可能な切換弁を備えていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1に項記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関し、詳しくは、エンジンや作業用の油圧ポンプに異常が発生して自走不可能となった際に、作業場所から脱出するための緊急脱出用の油圧回路を備えた建設機械に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道の敷設作業や保守作業、周辺施設の整備作業などに、エンジンにより駆動される作業用の油圧ポンプから油圧回路を介して供給される作動油により作動する走行装置及び作業用油圧装置を備えた杭打機等の建設機械が用いられている。通常、鉄道軌道内での作業は、最終列車が通過した後、始発列車が運転を開始する前までの間に行われており、作業終了後は速やかに鉄道軌道内から退避する必要がある。
【0003】
また、架線下や跨線橋下、トンネル内などの鉄道軌道内で作業を行う際には、何らかの原因で建設機械のエンジンや作業用の油圧ポンプに異常が発生して走行装置などに圧油を供給できなくなり、建設機械が鉄道軌道内から退避できなくなった場合に備えて、建設機械に予め備えてある緊急脱出用の油圧回路に、外部から作動油を供給して建設機械を鉄道軌道内から脱出させるための緊急脱出装置を待機させておくことが行われている。
【0004】
前記緊急脱出装置としては、異常が発生した建設機械の緊急脱出用の油圧回路に接続可能に設けられた緊急脱出用の油圧ポンプと、該緊急脱出用の油圧ポンプを駆動するエンジンと燃料タンクとを備えた、他の建設機械で輸送可能な油圧ユニットで形成されるものや(例えば、特許文献1参照。)、前記油圧ユニットと、走行装置と、建設機械に接続する油圧ホースと、該油圧ホースを巻き取るホースリールとを備え、走行可能に形成された緊急脱出装置(例えば、特許文献2参照。)が提案されており、さらに、前記油圧ユニットとして、別の建設機械の油圧ポンプを利用することも提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平8−650号公報
【特許文献2】特開2010−180537号公報
【特許文献3】特開2012−67454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述の特許文献1や特許文献2のものでは、緊急脱出時以外では使用されない緊急脱出装置を、作業現場に常時待機させておく必要があることから、作業現場のスペースが待機中の緊急脱出装置に占有されると共に、緊急脱出装置の輸送コストも掛かっていた。また、油圧ユニットとして、別の建設機械の油圧ポンプを利用するものでは、1台の建設機械で作業を行う建設現場では適用し難かった。
【0007】
そこで本発明は、エンジンや作業用の油圧ポンプに異常が発生した際に、作業現場で用いられている発電機を用いて緊急脱出することができる建設機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の建設機械は、エンジンにより駆動される作業用の油圧ポンプから、作業用の油圧回路を介して供給される作動油により作動する走行装置及び作業用油圧装置を備えた建設機械において、該建設機械に、前記エンジン又は前記作業用の油圧ポンプに異常が発生した際に、前記作業用の油圧回路に接続して、前記走行装置及び前記作業用油圧装置を作動させるための緊急脱出用の油圧回路と、該緊急脱出用の油圧回路に作動油を供給する緊急脱出用の油圧ポンプと、該緊急脱出用の油圧ポンプを駆動するモータとを備えた緊急脱出用ユニットを設けたことを特徴としている。
【0009】
また、前記緊急脱出用の油圧ポンプは、前記緊急脱出用の油圧回路と、外部油圧機器の油圧回路とに切り換えて作動油を供給可能であると好ましい。さらに、前記モータの電源が可搬式エンジン発電機であると好適である。また、前記緊急脱出用の油圧回路は、作動油の供給先を前記走行装置と前記作業用油圧装置とに切換可能な切換弁を備えていると良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明の建設機械によれば、作業現場で建設機械のエンジン又は前記作業用の油圧ポンプに異常が発生し、建設機械が作業現場から退避できなくなった際に、作業現場で使用されている発電機に、建設機械に設けた緊急脱出用の油圧ポンプを駆動させるモータを接続することにより、走行装置を作動させて建設機械を退避位置まで移動させることができる。
【0011】
さらに、緊急脱出用の油圧ポンプは、緊急脱出用の油圧回路と、外部油圧機器の油圧回路とに切り換えて作動油を供給可能とすることにより、緊急脱出時以外に、緊急脱出用ユニットを外部油圧機器の油圧源として利用することができ、緊急脱出用ユニットを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1形態例を示す建設機械の正面図である。
【
図3】本発明の第1形態例を示す緊急脱出時の油圧回路の概略を示す回路図である。
【
図4】本発明の第2形態例を示す緊急脱出時の油圧回路の概略を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1乃至
図3は、本発明を鋼管杭埋設仕様とした小型杭打機に適用した第1形態例を示している。この杭打機11は、下部走行体12(本発明の走行装置)の上に旋回ベアリングを介して上部旋回体13を旋回可能に設けたベースマシン14(本発明の作業用油圧装置)とを備えている。ベースマシン14は、上部旋回体13の前部にリーダサポート15を介して起伏可能に設けられた上部リーダ16と、上部旋回体13の前端部に設けられて前記上部リーダ16の下部に連結される下部リーダ17と、上部リーダ16を後方から支持するリーダ起伏シリンダ18と、上部旋回体13の前部で上部リーダ16の後方に起伏可能に設けられたホース支持支柱19と、該ホース支持支柱19を後方から支持するホース支持支柱起伏シリンダ20と、上部旋回体13の前後左右の4箇所にそれぞれ設けられたジャッキ21と、上部旋回体13の後端部に設けられたカウンタウエイト22と、上部旋回体13の後部上面に設けられた緊急脱出用ユニット23とを備えている。
【0014】
上部リーダ16及び下部リーダ17には、左右一対のガイドパイプ24が長手方向に連続して設けられ、該ガイドパイプ24にガイドギブ25を介してオーガドライブなどの作業装置26が昇降可能に設けられている。また、下部リーダ17の下端部には、下部振止27が設けられている。前記作業装置26は、上部リーダ16及び下部リーダ17の前面に連続して設けられたラック28に歯合し、昇降用モータ29,29の駆動により作業装置26を昇降させるラックピニオン式昇降装置を備えるとともに、作業装置26を貫通した出力軸30を回転駆動する出力軸駆動用モータ31,31を備えている。さらに、杭打機11には、作業用油圧機器として前記昇降用モータ29と出力軸駆動用モータ31の他に、下部走行体12を走行させるための走行用モータと、上部旋回体13を旋回させるための旋回用モータと、ジャッキ21を昇降させるジャッキシリンダと、吊上げ用のワイヤを作動させるウインチなどが設けられており、前記各作業用油圧機器は、作業用の油圧回路L11にそれぞれ接続されている。
【0015】
上部旋回体13は、一側方にエンジン室13a、他側方前部に運転室13b、他側方後部に機器収納ハウス13cをそれぞれ備え、機器収納ハウス13cの上部に前記緊急脱出用ユニット23が設けられている。
【0016】
緊急脱出用ユニット23は、2台の緊急脱出用の油圧ポンプ32,33と、該油圧ポンプ32,33を駆動するモータ32a,33aと、切換弁34と、作業用の油圧回路L11に接続される緊急脱出用の油圧回路L12とを備えている。
【0017】
作業用の油圧回路L11は、
図3に示すように、複数の作業用の油圧ポンプ35,36,37と、緊急脱出用の油圧回路L12から作業用の油圧ポンプ35,36,37への逆流を防止する逆止弁35a,36a,37aと、作業用の油圧ポンプ35,36,37を駆動するためのエンジン38と、油圧ポンプ35,36,37から供給される作動油を所定の回路に切換供給するための複数のコントロール弁39,40,41と、作動油タンク42とを備えている。油圧ポンプ35により作動油が供給される回路L13は、逆止弁35aを介してコントロール弁39に接続され、コントロール弁39から、上部旋回体13を旋回させるための旋回用モータと、作業装置26を昇降させる昇降用モータ29,29と、作業装置26に設けた出力軸30を回転駆動させる出力軸駆動用モータ31,31と、ジャッキ21を伸縮させるジャッキシリンダとに作動油が切換供給される。油圧ポンプ36により作動油が供給される回路L14は、逆止弁36aを介してコントロール弁40に接続され、コントロール弁40から、リーダ起伏シリンダ18と、下部走行体12を走行させるための走行用モータとに作動油が切換供給される。油圧ポンプ37により作動油が供給される回路L15は、逆止弁37aを介してコントロール弁41に接続され、コントロール弁41から制御系の各機器に作動油が切換供給される。
【0018】
緊急脱出用の油圧回路L12は、
図3に示すようにモータ32aによって作動する油圧ポンプ32により作動油が供給される回路L16と、モータ33aによって作動する油圧ポンプ33により作動油が供給される回路L17とを有し、回路L17は、コントロール弁41と逆止弁37aとの間に接続される回路L15に接続される。また、回路L16は、切換弁34を有し、該切換弁34を一方に切り換えることにより回路L18を介して、コントロール弁39と逆止弁35aとの間に接続される回路L13に接続され、切換弁34を他方に切り換えることにより回路L19を介してコントロール弁40と逆止弁36aとの間に接続される回路L14に接続される。
図3では、主な回路のみを図示し、コントロール弁39,40,41から各機器に接続される回路や、各機器からの戻り回路の図示は省略している。
【0019】
上述のように形成された杭打機11は、通常の作業を行う際には、切換弁34を閉状態とし、作業用の油圧回路L11を使用し、下部走行体12により所定の位置に移動し、上部旋回体13を所定の角度に旋回させ、ジャッキ21を伸ばして接地させた後、リーダ起伏シリンダ18などで下部リーダ17及び上部リーダ16の角度を調整して、昇降用モータ29,29を駆動させ、ラックピニオン式昇降装置により作業装置26を昇降させるとともに、出力軸駆動用モータ31,31により出力軸30を回転駆動させて杭打ち作業を行う。
【0020】
作業中にエンジン38又は作業用の油圧ポンプ35,36,37に異常が発生し、杭打機11が自力で作業場所から所定の退避場所まで移動できなくなった場合は、作業現場の照明などに使用されている可搬式の発電機43とモータ32a,33aとを繋ぐ。
【0021】
モータ33aを作動させることにより、作動油タンク42から吸入された作動油は、回路L17を介してコントロール弁41に供給され、該コントロール弁41を介して各種制御機器に供給される。モータ32aを作動させることにより、作動油タンク42から吸入された作動油は、切換弁34を一方に切り換えることにより、回路L16が切換弁34を介して回路L18に接続され、回路L18が回路L13に接続されていることから、コントロール弁39を介して、上部旋回体13を旋回させるための旋回用モータと、作業装置26を昇降させる昇降用モータ29,29と、作業装置26に設けた出力軸30を回転駆動させる出力軸駆動用モータ31,31に作動油が切換供給される。これにより、作業装置26や上部旋回体13を走行可能な状態にすることができる。
【0022】
次に、切換弁34を他方に切り換えることにより、回路L16が切換弁34を介して回路L19に接続され、回路L19が回路L14に接続されていることから、コントロール弁40を介して、リーダ起伏シリンダ18と下部走行体12を走行させるための走行用モータとに作動油が切換供給される。これにより、下部走行体12を作動させて、杭打機11を退避位置まで移動させることができる。さらに、緊急用の油圧ポンプ33で昇圧された作動油が、回路L17が回路L15に接続されていることから、コントロール弁41を介して各制御機器に作動油が供給され、運転室13b内で各制御機器の操作が可能となる。
【0023】
これにより、杭打ち作業中の杭打機11でエンジン38や作業用の油圧ポンプ35,36,37に異常が発生した場合でも、緊急脱出用ユニット23を発電機43に接続させることにより、杭打機11を走行可能な状態にすることができるだけでなく、杭打機11で杭打ち作業を行うことができるので、中途半端な状態で杭打ち作業を終えることなく、所定の段階まで作業を行ってから退避、脱出することができる。
【0024】
図4は、本発明の第2形態例を示す緊急脱出時の油圧回路の概略を示す回路図で、第1形態例と同様の構成要素を示すものには、同一の符号をそれぞれ付して、その詳細な説明は省略する。
【0025】
本形態例では、緊急用の油圧ポンプ32は、手動切換弁51を介して、回路L16と回路L21とに切り替え可能となっており、回路L21は、逆止弁52を介して杭打機11とは別の外部油圧機器に接続可能となっている。また、緊急用の油圧ポンプ33は、手動切換弁53を介して、回路L17と回路L22とに切り替え可能となっており、回路L22は、逆止弁54を介して外部油圧機器に接続可能となっている。これにより、本形態例の杭打機11では、緊急脱出時以外に、緊急脱出用ユニット23を他の外部油圧機器の油圧源として利用が可能となり、緊急脱出用ユニット23を有効に利用することができる。
【0026】
なお、本発明の建設機械は、杭打機に限定されるものではなく、クレーンや油圧ショベルなど自走式の建設機械に広く適用することができる。また、作業用の油圧ポンプや、緊急脱出用の油圧ポンプや、コントロール弁の数は上述の形態例に限るものではなく、油圧回路も任意であり、切換弁も適宜設ければ良い。
【符号の説明】
【0027】
11…杭打機、12…下部走行体、13…上部旋回体、14…ベースマシン、15…リーダサポート、16…上部リーダ、17…下部リーダ、18…リーダ起伏シリンダ、19…ホース支持支柱、20…ホース支持支柱起伏シリンダ、21…ジャッキ、22…カウンタウエイト、23…緊急脱出用ユニット、24…ガイドパイプ、25…ガイドギブ、26…作業装置、27…下部振止、28…ラック、29…昇降用モータ、30…出力軸、31…出力軸駆動用モータ、32,33…油圧ポンプ、32a,33a…モータ、34…切換弁、35,36,37…油圧ポンプ、38…エンジン、39,40,41…コントロール弁、42…作動油タンク、43…発電機、51,53…手動切換弁、52,54…逆止弁