【課題】本発明は、航行監視自動放送システムを介して空中線に到来した無線信号の送信端について存否や存在の可能性を判別する無線信号判別装置に関し、従来例に比べて基本的な構成が大幅に変更されることなく、到来した無線信号の送信端の存否やその可能性を確度高く判別できることを目的とする。
【解決手段】航行監視自動放送システムを介して到来した無線信号が示す相対距離と、前記無線信号のレベルとの実績の分布が格納された記憶手段と、前記航行監視自動放送システムを介して到来した無線信号のレベルと前記無線信号から算出された相対距離との対と、前記分布との相関として、前記無線信号の真偽または正規性を判別する判別手段とを備える。
【背景技術】
【0002】
AIS(Automatic Identification System)装置は、技術の進歩と共に低廉化、小型化、低消費電力化および高機能化が図られ、航行の安全や利便性の向上のために多くの船舶に搭載されつつある。
【0003】
また、このようなAIS装置は、国際航海する船舶にあっては総トン数が300トン以上の船、領海内のみを航行する船舶にあっては総トン数が500トン以上の船、国際航海をする旅客船の全てに対して搭載義務が課されている。また、搭載義務がない船舶には、無線従事者が居なくても運用が可能な簡易型のAIS装置も多く搭載されつつある。
【0004】
図5は、AIS装置の構成例を示す図である。
図において、アンテナ31AIS、31GPSの給電点は、トランスポンダ40の第一のアンテナ端子および第二のアンテナ端子にそれぞれ接続され、そのトランスポンダ40のディジタル入出力ポートには、縦続接続された集配器50および操作表示部60が接続される。集配器50には、所望の外部機器やセンサ(何れも図示されない。)が接続される。
【0005】
トランスポンダ40は、以下の要素から構成される。
(1) 単極双投であって共通接点が上記第一のアンテナ端子に接続されたスイッチ(SW)41
(2) スイッチ41のメーク(ブレーク)接点に接続された第一の端子を有するハイブリッド(H)42
【0006】
(3) ハイブリッド42の第二ないし第四の端子にそれぞれ接続されたTDMA受信部43-1、43-2およびDSC受信部44
(4) これらのTDMA受信部43-1、43-2およびDSC受信部44の出力にそれぞれ接続された第一ないし第三の復調入力を有する変復調部45
【0007】
(5) 変復調部45の変調出力に接続された変調入力を有し、かつ出力がスイッチ41のブレーク(メーク)接点に接続された送信部46
(6) 上記第二のアンテナ端子に接続された入力を有するGPS受信部47
【0008】
(7) 変復調部45の入出力ポートとGPS受信部47の出力とにそれぞれ接続された入出力ポートに併せて、既述の集配器50に接続されたディジタル入出力ポートとを有する制御部48
【0009】
このような構成のAIS装置では、スイッチ41およびTDMA受信部43-1、43-2は、制御部48の配下で稼働し、他船からアンテナ31AISに到来した受信波を変復調部45に与える。
【0010】
変復調部45は、その受信波を復調することによって、他船の識別情報、船首方位、船位、針路、速度等(以下、「通知情報」という。)を得る。制御部48は、このようにして得られた通知情報を所定の形式および内容の情報に変換し、かつ集配器50を介して操作表示部60に引き渡す。操作表示部60は、集配器50を介して制御部48から引き渡された情報を表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0011】
一方、集配器50は、制御部48の配下で既述の外部機器やセンサと連係することにより、自船の識別情報、船首方位、船位、針路、速度等(以下、「通知情報」という。)を収集し、その制御部48に与える。
【0012】
GPS受信部47は、図示されないGPS衛星からアンテナ31GPSに到来した無線信号に所定の衛星航法を適用することにより、時刻(TDMA受信部43-1、43-2等によって行われる多元接続の基準となる。)と自船(アンテナ31GPS)の位置とを求め、その位置を上記自船の通知情報に組み込まれ得る情報として制御部48に引き渡す。
【0013】
制御部48は、これらの情報を所定の形式に変換して変復調部45に与える。変復調部45は、このような形式の情報で変調された送信波を制御部48の配下で生成する。送信部46は、制御部48の配下でスイッチ41およびアンテナ31AISを介して他船や陸上局宛に、上記送信波を送信する。
【0014】
なお、このような送信波は、制御部48の配下でTDMA受信部43-1、43-2が既述の受信波を受信するために行う同期制御の下で所定の時分割多重方式に適合した送信タイムスロット(制御部48の配下で予約され、あるいは自船に割り付けられる。)の期間に、バースト波として生成される。
【0015】
すなわち、AIS装置は、自船の通知情報を周辺の船舶や陸上局に自動的に通知し、かつ他の船舶から同様に通知される通知情報を取得して所定の処理を施すことにより、船舶の衝突予防、積荷情報等の把握、運航管理業務、海上保安業務、港湾等における運行管制の支援に供される。
【0016】
なお、本発明に関連する先行技術としては、以下に列記する特許文献1ないし特許文献5があった。
【0017】
(1) 「船舶から送信された船舶識別信号を受信して、該船舶識別信号から前記船舶の少なくとも位置情報を抽出する船舶位置情報抽出手段と、レーダの探知データから物標の位置を捕捉・追尾する物標捕捉追尾手段と、前記船舶位置情報抽出手段により得られた船舶の位置または速度ベクトルを示す第1のマーク、および前記物標捕捉追尾手段により得られた物標の位置または速度ベクトルを示す第2のマークを同一の表示部に表示するとともに、前記第1のマークの表示位置またはその周辺内において、第1のマークを第2のマークより優先して表示する制御手段とを備える」ことによって、「船舶自動識別装置(AIS)による他船のマークと、自動衝突予防援助装置(ARPA)による物標のマークとを同一表示画面上に表示する際の表示内容の煩雑さを解消し、またARPAの能力を有効に利用できるようにする」点に特徴がある船舶表示装置…特許文献1
【0018】
(2) 「他船の少なくとも位置の情報を含む他船情報を検知する検知手段と、該検知手段により検知された他船情報の重要度を所定条件に従って求め、予め設定した範囲の重要度をもつ他船情報を抽出する他船情報抽出手段と、抽出された他船情報に対応する他船の位置をグラフィック表示する表示制御手段とを備える」ことによって、「他船情報を検知して、他船と自船との相対位置関係または他船同士の相対位置関係をグラフィック表示する際に、他船の数が多くなった時の表示の煩雑化を防いで視認性を高める」点に特徴がある他船表示装置…特許文献2
【0019】
(3) 「ARPAレーダ装置併載船舶のAIS装置が、インターフェイスを介してARPAレーダ装置に接続され、受信する近傍船舶の動的情報とARPAレーダ装置から取得するレーダシンボル情報とを、刻々に比較し、所定の一致が認められる動的情報がないレーダシンボル情報を送信停止警戒情報とし、所定の一致が認められるレーダシンボル情報がない動的情報を無実体通報警戒情報とし、これらの警戒情報を表示装置にて表示して運用者に警戒を促すと共に、前記警戒情報を通報に変換して近傍船舶に送信する」ことによって、「送信AIS装置の送信停止や実体を伴わない動的情報、送信情報の詐称・欺瞞を受信AIS装置が検出して警戒を促すことにより、不正な情報送信に対する抑止効果が働く環境を実現し、ひいてはAIS装置の信頼性を向上する」点に特徴があるAIS送受信情報の信頼性向上方法…特許文献3
【0020】
(4) 「船舶に搭載されて航行支援を行う船舶用航行支援装置において、目標船から送信される目標船情報を受信するAIS(船舶自動識別)装置と、レーダのレーダ信号から捕捉した目標船を追尾するARPA(自動衝突予防援助)装置と、自船位置を特定する自船位置情報特定手段と、前記受信した目標船位置情報と前記特定した自船位置情報から目標船の自船に対する相対位置を演算する目標相対位置演算手段と、前記目標相対位置演算手段で演算された目標船の相対位置から、その目標船と同一の、ARPA装置で追尾中の目標船を特定する同一目標判定手段と、AIS装置にて受信される目標船情報の精度を監視して、AIS装置で受信される目標船情報が誤っているか否かを判定するAIS情報監視手段とを備え、ある目標船に対して、AIS情報監視手段がその目標船情報を誤っていると判定したときに、異常信号を出力する」ことによって、「AIS装置とARPA装置の特性を生かして、ARPA装置によりAIS装置の補完を行い、AIS装置で受信される目標船情報の信頼性を高める」点に特徴がある船舶用航行支援装置…特許文献4
【0021】
(5) 「船舶に搭載されて航行支援を行う船舶用航行支援装置において、目標船または第3者から送信される目標船位置情報を受信する目標船情報受信手段と、自船位置を特定する自船位置情報特定手段と、前記受信した目標船位置情報と前記特定した自船位置情報から目標船の自船に対する相対位置を演算する目標相対位置演算手段と、レーダのレーダ信号から、目標船を継続して追尾し、その履歴から目標船の運動情報を提供する目標船捕捉追尾手段と、前記目標相対位置演算手段で演算された目標船の相対位置と目標船捕捉追尾手段で追尾中の目標船の相対位置とを比較することにより、目標船捕捉追尾手段で追尾中の目標船と同一の、前記目標船情報受信手段でその目標船位置情報を入手した目標船を特定する同一目標判定手段とを備え、前記同一目標判定手段は、さらに、同一判定を行う期間を制限する同一目標判定期間制限手段を備える」ことによって、「レーダ信号から目標船捕捉追尾を行うものと、目標船等から送られてくる目標船情報を受信するものとの、それぞれの特性を生かして補完を行い、目標船についての情報の統合を効率的に行う」点に特徴がある船舶用航行支援装置…特許文献5
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
〔第一の実施形態〕
図1は、本発明の第一および第二の実施形態を示す図である。
図において、
図3に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ符号を付与し、ここでは、その説明を省略する。
【0035】
本実施形態の構成は、以下に列記する点で
図5に示す従来例と異なる。
(1) 制御部48に代えて制御部11が備えられる。
(2) 仮想的な円筒の側壁に所定の間隔でその円筒の軸に平行に配置された線状アンテナ素子12E-1〜12E-6から構成されるアンテナ12がアンテナ31AISに代えて備えられる。
【0036】
(3) これらの線状アンテナ素子12E-1〜12E-6の給電点に接続され、かつスイッチ41の共通接点に接続された合成出力を有する給電制御部13を備える。
(4) 給電制御部13に備えられ、上記線状アンテナ素子12-1〜12-6の給電点に対応する6つのポートにそれぞれ接続された給電ポートと、制御部11の特定の入力ポートに接続された出力ポートとを有する方探処理部14を備える。
【0037】
図2は、本発明の第一の実施形態における制御部の動作フローチャートである。
以下、
図1および
図2を参照して本実施形態の動作を説明する。
本実施形態の特徴は、
図5に示す従来例との対比においては、制御部11がアンテナ12、給電制御部13および方探処理部14と連係して行う下記の処理の手順にある。
【0038】
給電制御部13は、送信部46からスイッチ41を介して与えられた送信波については、線状アンテナ素子12-1〜12-6によって水平方向の指向性を無指向性とする給電を行い、その給電の下で従来例と同様に他船や陸上局宛に送信する。
一方、これらの線状アンテナ素子12-1〜12-6に異なる他船から個別に到来した受信波R1〜Rnについては、給電制御部13は、それぞれ方探処理部14に引き渡す。
【0039】
方探処理部14は、このようにして引き渡され、かつ線状アンテナ素子12-1〜12-6に個別に到来した受信波R1〜Rnを取り込み、これらの受信波Rc(c=1〜n)がそれぞれ線状アンテナ素子12-1〜12-6に到達する伝搬路の長さの差に相当する位相(φ1c〜φ6c)の相違と、既述の仮想的な円筒の側壁におけるこれらの線状アンテナ素子12-1〜12-6の配置とに基づいて、受信波の到来方向を示す到来角θc(c=1〜n)を算出する。なお、このような到来角θcは、受信波の送信元に該当する他船等の地理的な方位を示す。
【0040】
スイッチ41およびTDMA受信部43-1、43-2は、従来例と同様に制御部48の配下で稼働し、他船からアンテナ12に個別に到来した受信波Rc(c=1〜n)を変復調部45に与える。
【0041】
さらに、変復調部45は、これらの受信波Rc(c=1〜n)を復調することによって、個々の他船の識別情報、船首、船位、進路、速度等を示す「通知情報c」(c=1〜n)を得る。
【0042】
また、制御部11は、下記の処理を行う。
(1) 上記通知情報cを所定の形式および内容の配列Ac(c=1〜n)にそれぞれ変換する(
図2ステップS1)。
【0043】
(2) 上記配列Acに含まれる他船の位置Lc(c=1〜n)の相対的な方位角Θc(c=1〜n)を求める(
図2ステップS2)。
【0044】
(3) その方位角Θcと上記到来角θcとに対して下式で示される偏差δc(c=1〜n)を算出する(
図2ステップS3)。
δc=|θc−Θc|
【0045】
(4) この偏差δcと既定の閾値th(≧0)との大小関係dc(c=1〜n)を判別する(
図2ステップS4)。
【0046】
(5) 集配器50を介して操作表示部60に、既述の「通知情報c」および大小関係dcを受信波Rc(c=1〜n)にそれぞれ対応付けて引き渡す(
図2ステップS5)。
【0047】
操作表示部60は、このようにして引き渡された通知情報cおよび大小関係dcを表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0048】
すなわち、本実施形態によれば、複雑であって多くの処理量を要する無線航法や衛星航法が適用されることなく、受信波Rcで示される他船の方向の真偽が所定の精度で判別され、かつその判別の結果が操作表示部60の表示画像上に表示される。
【0049】
したがって、実存しない船舶からAISを介して通知された情報が安価にかつ確度高く識別され、その判別の結果が航行の支援に供されると共に、偽装船舶による航行の無用な妨げが回避される。
【0050】
なお、本実施形態では、波浪や船舶の揺動に起因して線状アンテナ素子12E-1〜12E-6の全ての軸が鉛直に維持されないことに起因する誤判定が回避されるべき場合には、以下の何れかの形態で構成されてもよい。
【0051】
(1) 線状アンテナ素子12E-1〜12E-6の全ての軸を鉛直に維持するための揺動装置や機構を備える。
(2) 誤判定の可能性を軽減するための積分処理を適宜行う手段を備える。
【0052】
また、これらの揺動装置、機構、手段は、地形、環境条件、気象条件、波浪等の実体に適応して振る舞うように構成されてもよい。
【0053】
さらに、垂直面上における線状アンテナ素子12E-1〜12E-6の配置および数は、到来角θcを所望の精度や速度で求めることが可能であるならば、如何なるものであってもよい。
【0054】
また、本実施形態では、到来角θcは、方探処理部14が行う既述の処理によって一義的に求められている。
しかし、このような到来角θcに基づく大小関係dc(c=1〜n)の判別は、例えば、各部が下記の通りに連係することによって実現されてもよい。
【0055】
(1) 給電制御部13は、「通知情報c」で示される(受信波の到来方向を示す)到来角θcを含んだ所定の到来角の範囲内において、アンテナ12の主ローブの方向を制御部11の配下で電子的なビームフォーミングによりサーチする。
【0056】
(2) このサーチの下で該当する他船から到来した受信波が最大のレベルで受信できるか否かを判別する。
さらに、本実施形態では、既述の偏差δcを与える方位角Θcと到来角θcとは、必ずしも同時に受信された受信波に基づいて求められなくてもよく、時間軸上で異なる期間に個別に受信された受信波に基づいて求められてもよい。
【0057】
〔第二の実施形態〕
本実施形態の構成は、既述の第一の実施形態の構成とは、制御部11に代えて制御部11Aが備えられた点で異なる。
【0058】
本発明の特徴は、本実施形態では、受信波Rc(c=1〜n)毎の送信端が該当する受信波の復調によって得られる通知情報が示す位置に位置するか否かの判別が、後述する通りに制御部11Aが行う処理の下で実現される点にある。
【0059】
なお、本実施形態では、方探処理部14は、動作を停止し、既述の処理を行わない。
また、給電制御部13は、水平方向におけるアンテナ12の指向性を無指向性に設定し、そのアンテナ12を受信と送信とに共用する。
【0060】
TDMA受信部43-1、43-2は、受信波Rc(c=1〜n)の何れについても、該当する他船に個別に対応した受信電界強度Ec(c=1〜n)を求め、変復調部45を介して制御部11Aに引き渡す。
【0061】
ところで、制御部11Aの主記憶には、
図3(a)に示すように、以下の通りに構成された距離換算テーブル11Tを有する。
(1) 受信波Rcの送信端に適用され得る2通りの送信電力12.5ワット、1ワット(何れも、公称値)に個別に対応した面(以下、「面H」、「面L」という。)を有する。
【0062】
(2) 面H、面Lとの何れも、以下の2つのフィールドを有するレコードの列として構成される。
− TDMA受信部43-1、43-2によって求められ得る受信電界強度を所定の精度(例えば、0.5デシベルステップ)で示す「電界強度」フィールド
− 該当する「電界強度」フィールドの値の換算値として与えられる(該当する他船の)相対距離を示す「相対距離」フィールド
【0063】
なお、ここでは、このような換算値については、以下に列記する既知の値や標準的な値の適用の下で予め算出されると仮定する。
(1) 送信電力の偏差
(2) アンテナ12の利得、指向性
【0064】
(3) 他船との間に形成され得る無線伝送路の伝搬損失や伝送特性(他船との間に介在し得る地形や地物の分布と、気象条件およびその変動との全てまたは一部が勘案されてもよい。)
【0065】
図4は、本発明の第二の実施形態における制御の動作フローチャートである。
以下、
図1、
図3および
図4を参照して、本実施形態の動作を説明する。
制御部11Aは、受信波Rc(c=1〜n)についてTDMA受信部43-1、43-2によって個別に求められた受信電界強度Ec(c=1〜n)の何れについても、以下の処理を行う。
【0066】
(1) 通知情報cを所定の形式および内容の配列Ac(c=1〜n)にそれぞれ変換する(
図4ステップS1)。
【0067】
(2) 換算テーブル11Tの「面H」、「面L」の何れかに、『「電界強度」フィールドの値が所望の精度で受信電界強度Ecに等しい』との要件を満たすレコードがあるか否かを判別する(
図4ステップS2)。
【0068】
(3) このような要件を満たすレコードがない場合には、以下の処理を省略する。
(4) 反対に該当するレコードがある場合には、そのレコードの「相対距離」フィールドの値Dcを取得する(
図4ステップS3)。
【0069】
(5) 上記配列Acに含まれる他船の位置Lc(c=1〜n)の相対距離rc(c=1〜n)を求める(
図4ステップS4)。
(6) その相対距離rcと上記値Dcとに対して下式で示される偏差δc(c=1〜n)を算出する(
図4ステップS5)。
δc=|Dc−rc|
【0070】
(7) この偏差δcと既定の閾値th(≧0)との大小関係dc(c=1〜n)を判別する(
図4ステップS6)。
【0071】
(8) 集配器50を介して操作表示部60に、既述の「通知情報c」および大小関係dcを受信波Rc(c=1〜n)に対応付けて引き渡す(
図4ステップS7)。
【0072】
操作表示部60は、このようにして引き渡された通知情報cおよび大小関係dcを表示することにより、自船舶の航行にかかわる要員に通知する。
【0073】
すなわち、本実施形態によれば、複雑かつ多くの処理量を要する無線航法や衛星航法が適用されることなく、受信波Rcの受信電界強度に基づいて換算(推測)される距離の真偽が所定の精度で判別され、かつその判別の結果が操作表示部60の表示画像上に表示される。
【0074】
したがって、実存しない船舶からAISを介して通知された情報が安価にかつ確度高く識別され、その判別の結果が航行の支援に供され、かつ偽装船舶による航行の無用な妨げが回避される。
【0075】
なお、本実施形態では、『「電界強度」フィールドの値が所望の精度で受信電界強度Ecに等しい』との要件を満たすレコードの有無は、換算テーブル11Tの「面H」、「面L」の双方が参照されることによって判別されている。
【0076】
しかし、このようなレコードの有無は、例えば、各部が以下の通りに連係することによって判別されてもよい。
【0077】
[送信端のAISトランスポンダにおける各部の振る舞い]
(1) 送信波の送信電力が12.5ワットと1ワットとの何れであるかを示す2値情報が制御部11Aによって生成される。
(2) 変復調部45および送信部46は、例えば、バイナリー放送メッセージ(Message 8)として(に含めて)、他船向けに上記2値情報を送信する。
【0078】
[受信端のAISトランスポンダにおける制御部11Aの振る舞い]
(1) 制御部11Aは、受信波Rc(c=1〜n)についてTDMA受信部43-1、43-2によって求められた受信電界強度Ec(c=1〜n)について、該当する通知情報cを所定の配列Ac(c=1〜n)にそれぞれ変換する(
図4ステップS1)。
【0079】
(2) 配列Ac(c=1〜n)の何れについても、既述の2値情報が含まれるか否かを判別する(
図4ステップS11)。
(3) このような2値情報が含まれる場合には、『「電界強度」フィールドの値が所望の精度で受信電界強度Ecに等しい』との要件を満たすレコードがあるか否かの判別(以下、「レコード判別」という。)に先行して、換算テーブル11Tの「面H」、「面L」の内、その2値情に対応する一方のみを参照の対象とする(
図4ステップS12)。
【0080】
また、本実施形態では、上記「レコード判別」は、制御部11Aが行う下記の処理で代替されてもよい。
(1) TDMA受信部43-1、43-2によって求められた受信電界強度Ecの内、所定の判定基準の下で正規であることが判別された他船(AISトランスポンダ)から通知された受信電界強度Ecnを識別する。
【0081】
(2) その他船から到来した受信波Rcn(通知情報cn)に含まれる他船の位置を自船に対する相対距離rcnに変換する。
(3) 距離換算テーブル11Tに代わる実績テーブル(図示されない。)に、その相対距離rcnと上記受信電界強度Ecnとの対を実績として記録し、適宜、相対距離の降順(昇順)にソーティングする。
【0082】
(4) 後続して新たに受信された受信波Rc毎に、TDMA受信部43-1、43-2によって求められた受信電界強度Ecと、該当する通知情報cに含まれる位置の自船に対する相対距離rcとの対(以下、「被判定対」という。)を求める。
(5) 上記実績テーブルを相対距離rcnと受信電界強度Ecnとの対として与えられる散布図(
図3(b))と見なし、その散布図上において実績が分布する領域(任意の幅の折れ線や曲線として識別されてもよい。)に上記被判定対が位置するか否かを判別する。
【0083】
さらに、本実施形態では、既述の換算テーブル11Tや実績テーブルは、自船と他船との双方もしくは一方にかかわる以下の項目の全てまたは一部にも対応付けられた3次元以上のテーブルとして構成されてもよい。
【0084】
・ 送信波の送信電力の偏差
・ 搭載されたAISトランスポンダにかかわる製造者、機種、ロット番号
・ 船名、危険物の搭載の有無、甲板上における障害物等の分布
・ 気象条件、地形、地物の分布、相対的な方位角
【0085】
また、本実施形態では、アンテナ12は、
図5に示すアンテナ31AISで代替されてもよい。
さらに、上述した各実施形態は、実体のない船舶等から到来する受信波による航行の妨げや混乱の回避がより確度高く実現されるべき場合には、単独ではなく、組み合わせられてもよい。
【0086】
また、このような航行の妨げや散乱は、例えば、本願と同日の出願に係る発明に基づく「他船の存否、その確度の判定」が既述の各実施形態の双方または何れか一方に組み合わせられることにより、さらに確度高く実現されてもよい。
【0087】
さらに、上述した各実施形態では、到来する受信波の送信端は、船舶局のみに限定されず、陸上局、ブイ等に搭載されたAISトランスポンダであってもよい。
【0088】
また、上述した各実施形態では、本発明は、船舶局や陸上局に適用されるAISに適用されている。
しかし、本発明は、このようなAISに限定されず、例えば、以下に連記される何れのシステムや装置にも同様に適用可能である。
【0089】
(1) 低軌道を周回する人工衛星にAIS受信機が搭載されることにより、沿岸から80キロメートル以上離れている大洋上に位置する船舶等の航行状態も監視可能とする「人工衛星AIS」
【0090】
(2) 海上の捜索や監視を行う航空機等に搭載されるAISトランスポンダ
(3) 航空機が絶えずその位置や高度を他の航空機および地上局に向けて報知する放送型自動従属監視システム(ADS−B(Automatic Dependent Surveillance-Broadcast))
【0091】
さらに、上述した各実施形態の構成は、
図1に示す構成に限定されず、既述の連係の下で本発明の特徴的な処理や機能が実現されるならば、各部の機能や負荷の分散の形態だけではなく、無線伝送に適用される多元接続方式、周波数配置、チャネル構成も如何なるものであってもよい。
【0092】
また、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の範囲において多様な実施形態の構成が可能であり、構成要素の全てまたは一部に如何なる改良が施されてもよい。
【0093】
以下、本願に開示された発明の内、「特許請求の範囲」に記載しなかった発明の構成、作用および効果を「特許請求の範囲」、「課題を解決するための手段」、「発明の効果」の各欄の記載に準じた様式により列記する。
【0094】
〔1〕請求項1または請求項2に記載の無線信号判別装置において、
前記分布は、
前記無線信号の送信端に該当する装置の製造者、機種、ロット番号、船名の全てまたは一部の組み合わせに個別に対応し、
前記判別手段は、
前記送信端から無線伝送された前記装置の製造者、機種、ロット番号、船名の全てまたは一部の組み合わせと、前記分布との相関として、前記真偽または前記正規性を判別する
ことを特徴とする無線信号判別装置。
【0095】
すなわち、航行監視自動放送システムを介して到来した無線信号で示される位置の真偽あるいは正規性は、その無線信号の送信端の属性と、この送信端に該当する装置に固有の特性とが反映された分布との相関として判別される。
【0096】
したがって、本発明が適用されたトランスポンダでは、新規や正規性の判別の精度が高められ、信頼性および性能が高められる。
【0097】
〔2〕 請求項1、2と上記〔1〕との何れか1項に記載の無線信号判別装置において、
前記分布は、
前記無線信号の送信端に該当する装置が位置する地点の気象、地形、地物の分布の全てまたは一部の組み合わせに対応し、
前記判別手段は、
前記送信端から無線伝送された気象、地形、地物の分布の全てまたは一部の組み合わせと、前記分布との相関として、前記真偽または前記正規性を判別する
ことを特徴とする無線信号判別装置。
すなわち、航行監視自動放送システムを介して到来した無線信号で示される位置の真偽あるいは正規性は、その無線信号の送信端における気象、地形、地物が反映された分布との相関として判別される。
【0098】
したがって、本発明が適用されたトランスポンダでは、新規や正規性の判別の精度が高められ、信頼性および性能が高められる。