【課題】縦型配列構造のエピタキシャル成長装置を用いて、生産性に優れながら、ドーピング密度のばらつきを抑えてSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させるエピタキシャルSiCウェハの製造方法、及びSiC単結晶基板のホルダーを提供する。
【解決手段】SiC単結晶基板を保持するホルダーを縦方向に互いに隙間を空けて複数平行配列してSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際に、SiC単結晶基板を上面側及び下面側にそれぞれ少なくとも1枚ずつ保持可能なホルダーを用いて、上面側及び下面側のSiC単結晶基板にSiC単結晶薄膜を同時にエピタキシャル成長させる。また、上面側の炭化珪素単結晶基板を保持する上面保持部材と、該上面保持部材と一体に固定されて下面側の炭化珪素単結晶基板を保持すると共に、下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜を成長させるための開口領域が形成された下面保持部材とを有したホルダーである。
炭化珪素単結晶基板を保持可能なホルダーを縦方向に互いに隙間を空けて複数平行配列して、前記炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる縦型のエピタキシャル成長装置を用いて、エピタキシャル炭化珪素ウェハを製造する方法であって、前記ホルダーが、炭化珪素単結晶基板を上面側及び下面側にそれぞれ少なくとも1枚ずつ保持可能であり、上面側及び下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜を同時にエピタキシャル成長させることを特徴とするエピタキシャル炭化珪素ウェハの製造方法。
請求項1に記載の方法により縦型のエピタキシャル成長装置で炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素単結晶薄膜をエピタキシャル成長させて、エピタキシャル炭化珪素ウェハを製造する際に用いるホルダーであって、上面側の炭化珪素単結晶基板を保持する上面保持部材と、該上面保持部材と一体に固定されて下面側の炭化珪素単結晶基板を保持すると共に、下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜を成長させるための開口領域が形成された下面保持部材とを有することを特徴とする炭化珪素単結晶基板のホルダー。
上面保持部材と下面保持部材とが互いに相補的な形状を有して嵌め合わされると共に、上面保持部材と下面保持部材との間に下面側の炭化珪素単結晶基板が挟持され、かつ、挟持された下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜が成長可能なように、下面保持部材が開口部を備える請求項2に記載の炭化珪素単結晶基板のホルダー。
上面保持部材が、炭化珪素単結晶基板が収容される凹溝を2以上備えて、炭化珪素単結晶基板を上面側に複数保持する請求項2又は3に記載の炭化珪素単結晶基板のホルダー。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(以下、SiCと表記する場合がある)は、耐熱性及び機械的強度に優れ、物理的、化学的に安定なことから、耐環境性半導体材料として注目されている。また、近年、高周波高耐圧電子デバイス等の基板としてエピタキシャルSiCウェハの需要が高まっている。
【0003】
SiC単結晶基板(以下、単にSiC基板と呼ぶ場合がある)を用いて、電力デバイスや高周波デバイス等を作製する場合には、通常、SiC基板上に熱CVD法(熱化学蒸着法)によってSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させたエピタキシャルSiCウェハを得るようにする。SiC基板上にさらにSiCのエピタキシャル成長膜を形成する理由は、ドーピング元素によるドーピング密度が制御された層を使ってデバイスを作り込むためである。従って、ドーピング密度制御が不十分であると、デバイス特性が安定しないという問題が引き起こされる。
【0004】
熱CVD法以外では、イオン注入法によりSiC基板に直接ドーピング元素を打ち込むことで、ドーピング密度が制御されたSiCウェハを形成する方法もある。しかしながら、この場合には、注入後にSiCウェハを高温でアニールする必要があることから、現在では、専らエピタキシャル成長によるエピタキシャルSiCウェハの作製が多用されている。
【0005】
この熱CVD法を利用する際には、一般に、成長室内のホルダー上にSiC基板を載せて、ホルダーを回転させながら、SiC基板の直上に、例えば珪素源のシランガスやクロロシランガス等と炭素源の炭化水素ガス等とを混合した原料ガスを、水素等のキャリアガスと共に供給してSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる方法が採用されている(例えば非特許文献1参照)。そして、このようにSiC基板をホルダーに載置するエピタキシャル成長装置をここでは横型配列構造と呼ぶ。また、より大きなホルダーを使って複数のSiC基板をホルダー上に並べて搭載すると、一度に多数の基板上にエピタキシャル成長することができるので、生産性を上げることができる。このとき、各SiC基板を回転(自転)させると共にホルダーを回転(公転)させて処理することも可能である。この構造は、横型配列構造の中でも特にプラネタリ構造とも呼ばれる。
【0006】
横型配列構造の場合には、複数のSiC基板をホルダーに搭載してもホルダーが回転することで各基板は同等のエピタキシャル成長環境下に置かれるため、基板間での膜厚やドーピング密度のばらつきを抑えることができる点で有利であると考えられる。しかしながら、ホルダーの大きさで搭載可能なSiC基板の枚数が決まるため、SiC基板の口径が大きくなるにつれてその数は減少してしまう。
【0007】
エピタキシャルSiCウェハの生産性を向上させる手段のひとつに、成長室内でホルダーを縦方向に並べて、複数のSiC基板を互いに隙間を空けて積層する方向に配列させる縦型配列構造のエピタキシャル成長装置が挙げられる。これによれば、SiC基板の口径が大きくなっても処理枚数の減少は避けられ、生産性良くエピタキシャルSiCウェハを製造することが可能となる。
【0008】
ところが、このような縦型配列構造のエピタキシャル成長装置では、横型配列構造の場合とは異なる制御が求められる。例えば、成長室の温度が縦方向に揃っていないと、SiC基板を配置した場所によって得られるエピタキシャル成長膜の膜厚が変わってしまったり、ドーピング密度にばらつきが生じてしまう。また、成長室内を縦方向に配列された各SiC基板にそれぞれ均一にエピタキシャル成長膜を成長させるためには、成長室内を縦方向に沿う配管を通じて珪素源と炭素源を含んだ原料ガスを導入し、SiC基板間の各隙間に対応する位置にガス吹出し口を設けてSiC基板の表面に原料ガスを供給するが、横型配列構造の場合のように珪素源のガスと炭素源のガスとを混合して供給すると、SiCの熱CVD法における高温環境下において配管内でこれらのガスが反応してしまい、吹き出し口を塞いでしまったり、配管内にSiCが堆積してしまうことがある。
【0009】
そこで、珪素源を含んだ珪素材料ガスと炭素源を含んだ炭素材料ガスとを個別のガス導入管によりそれぞれ成長室内に導入する縦型配列構造のエピタキシャル成長装置が提案されており(例えば特許文献1、2参照)、この縦型配列構造のエピタキシャル成長装置を使えば、多数枚のSiC基板に対して均一な膜厚でSiCのエピタキシャル成長膜を成膜することが可能になる。しかしながら、このようなエピタキシャル成長装置を使っても、得られるエピタキシャルSiCウェハは、SiC基板を配置した場所によってそのSiC単結晶薄膜のドーピング密度にばらつきがあったり、同一エピタキシャルSiCウェハにおいてSiC単結晶薄膜の面内でのドーピング密度にばらつきが生じてしまうことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
今後様々な分野で需要が増すことが予想されるSiCについて、量産性の点で有利と考えられる縦型配列構造を備えたエピタキシャル成長装置を使ってエピタキシャルSiCウェハを製造する場合、上述したように、エピタキシャルSiCウェハ間でのドーピング密度のばらつきや、同一エピタキシャルSiCウェハ内でのドーピング密度のばらつきを抑えることが難しく、これらはデバイス特性が安定しないといった根本的な問題を引き起こしてしまうおそれがある。
【0013】
これらの問題のうち、特にSiCウェハ間でのドーピング密度のばらつきに関しては、横型配列構造のエピタキシャル成長装置では原理的に発生しないため、そのデメリットは大きく、縦型配列構造のエピタキシャル成長装置の普及を損ねている原因となっている。そこで、本発明の目的は、縦型配列構造のエピタキシャル成長装置を用いて、生産性に優れながら、ドーピング密度のばらつきを抑えることを可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記のような課題を解決するため鋭意検討を行った結果、SiC基板を並行配列する縦方向の距離を短くすることが効果的であると確信するに至った。しかしながら、単純にSiC基板の間隔を短くするとSiC基板間の各隙間に対応する位置に設けられたガス吹出し口からのガスの流れが制御しづらくなり、SiCウェハ内でのドーピング密度のばらつきが悪化する。そこで、本発明者らは、SiC基板を保持するホルダーの構造に着目した。すなわち、一つのホルダーの上下にSiC基板を保持できるようにすれば、SiC基板の間隔を変えることなく、SiC基板の数を増やすことができるので、積層するホルダーの数を減らして縦方向の距離を短くすることが可能になる。結果として処理基板の数を減らすことなく制御すべき空間を小さくでき、ドーピング密度のばらつきを大きく改善することができるのである。また、制御すべき空間が小さくできるので、原料ガスの節約にもなる。
【0015】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)炭化珪素単結晶基板を保持可能なホルダーを縦方向に互いに隙間を空けて複数平行配列して、前記炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる縦型のエピタキシャル成長装置を用いて、エピタキシャル炭化珪素ウェハを製造する方法であって、前記ホルダーが、炭化珪素単結晶基板を上面側及び下面側にそれぞれ少なくとも1枚ずつ保持可能であり、上面側及び下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜を同時にエピタキシャル成長させることを特徴とするエピタキシャル炭化珪素ウェハの製造方法。
(2)(1)に記載の方法により縦型のエピタキシャル成長装置で炭化珪素単結晶基板上に炭化珪素単結晶薄膜をエピタキシャル成長させて、エピタキシャル炭化珪素ウェハを製造する際に用いるホルダーであって、上面側の炭化珪素単結晶基板を保持する上面保持部材と、該上面保持部材と一体に固定されて下面側の炭化珪素単結晶基板を保持すると共に、下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜を成長させるための開口領域が形成された下面保持部材とを有することを特徴とする炭化珪素単結晶基板のホルダー。
(3)上面保持部材と下面保持部材とが互いに相補的な形状を有して嵌め合わされると共に、上面保持部材と下面保持部材との間に下面側の炭化珪素単結晶基板が挟持され、かつ、挟持された下面側の炭化珪素単結晶基板に炭化珪素単結晶薄膜が成長可能なように、下面保持部材が開口部を備える(2)に記載の炭化珪素単結晶基板のホルダー。
(4)上面保持部材が、炭化珪素単結晶基板が収容される凹溝を2以上備えて、炭化珪素単結晶基板を上面側に複数保持する(2)又は(3)に記載の炭化珪素単結晶基板のホルダー。
(5)下面保持部材が、2以上の開口部を備えて、炭化珪素単結晶基板を下面側に複数保持する(2)又は(3)に記載の炭化珪素単結晶基板のホルダー。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、縦型配列構造のエピタキシャル成長装置における限られた空間に多数のSiC基板を保持できるので、制御が必要な成長室内の縦方向の長さを短くでき、その結果、同時に複数得られるエピタキシャルSiCウェハの相対的なドーピング密度のばらつきを抑えることができる。また、原料ガスの消費を抑えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
図1には、縦型配列構造を有するエピタキシャル成長装置の概要を説明する説明図が示されており、
図2には、その成長室内において互いに隙間を空けて縦に配列されたSiC基板に対して、珪素材料ガス、炭素材料ガス、及びドーピングガスをそれぞれ個別のガス導入管を通じて供給し、熱CVD法によりSiC単結晶薄膜を形成する様子を説明する説明図が示されている。
【0019】
このエピタキシャル成長装置1は、複数のSiC基板を互いに隙間を設けて積層する方向に配列することができる縦型配列構造を備えており、外周を誘導加熱ヒーター等の加熱手段7により取り囲まれた成長室2内には、SiC基板を保持することができるSiC基板ホルダー3が複数配設されている。また、これらのSiC基板ホルダー3は、回転機構を備えたボート(図示外)に搭載されることで、SiC基板の表面に成長させるエピタキシャル膜の面内での膜厚やドーピングのばらつきを抑えることができるようになっている。また、成長室2を黒鉛等で形成することで、誘導加熱ヒーターによって成長室自体が発熱体となる。
【0020】
また、成長室2内には、SiC基板ホルダー3に配置されたSiC基板の外周方向からガスを供給することができるように、珪素材料ガス導入管4、炭素材料ガス導入管5、及びドーピングガス導入管6が成長室2の縦方向に沿って配置されている。これらのガス導入管4,5,6は、
図2に示したように、各SiC基板ホルダー3(
図2では記載を省略している)に配置されたSiC基板10の表面にSiC単結晶薄膜を成長させることができるように、SiC基板10の間に形成される各隙間に対応する位置にそれぞれガス吹出し口4a,5a,6aを有しており、各SiC基板10の表面に対して平行ないし略平行に珪素材料ガス、炭素材料ガス、及びドーピングガスが吹出されるようになっている。更に、これらの加熱手段7及び成長室2は断熱効果を備えた容器(筐体)8に収容され、また、成長室内に供給された各ガスは、真空ポンプ9を介して容器外に排出される。
【0021】
なお、ここで言う「縦型」とは、SiC基板10を積層させる(重ね合わせる)方向に並行配列させることを意味するものであり、その場合の成長室の長手方向を「縦方向」と呼ぶ。そして、「上面側」及び「下面側」とは、「縦方向」における一方の面とその反対側の面を言う。また、
図2では、珪素材料ガス導入管4、炭素材料ガス導入管5、及びドーピングガス導入管6を1本ずつ備えた例を示すが、SiC基板10の外周にそれぞれを複数本配置するようにしてもよい。更には、SiC単結晶薄膜を成長させる前などに行うSiC基板のエッチングに関しては、水素やHCl等のエッチングガスを珪素材料ガス導入管4や炭素材料ガス導入管5を利用して供給するようにもよく、エッチングガスを導入するエッチングガス導入管を別途設けるようにしてもよい。但し、その場合には、ガス導入管内で事前に反応することを防ぐために、窒素を含んだドーピングガスとは混合されないようにするのが望ましい。
【0022】
このような縦型のエピタキシャル成長装置を用いて、本発明では、SiC基板ホルダーの上面側及び下面側にそれぞれSiC基板を少なくとも1枚ずつ保持して、これらのSiC基板にSiC単結晶薄膜を同時にエピタキシャル成長させるようにする。すなわち、本発明では、ホルダーを工夫することによって、SiC基板におけるSiC単結晶薄膜の成長面を下向きと上向きにして、SiC基板ホルダーの上面側及び下面側に少なくとも1枚ずつ同時に保持できるようにする。
【0023】
本発明におけるホルダーとして、例えば、
図3(a)に示したように、SiC基板を収容する収容部14aを有し、かつ、SiC基板の落下を防ぐ張出部14bが周設されたリング状のホルダー14のようなものを用いることができ、この収容部14a内に2枚のSiC基板(13,13’)を収容することで、リング状ホルダー14の上面側からSiC基板13’にSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させると共に、リング状ホルダー14の下面側からSiC基板13にSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させることができる。このとき、収容部14aの内壁面にストッパー用リングを嵌め合せるなどして上面側のSiC基板13’を押さえるようにしてもよく、このような場合には、鉛直方向にSiC基板を並行配列させるのみならず、SiC基板を水平方向に並行配列(すなわち成長室を横長に形成)させることもできる。
【0024】
また、本発明におけるホルダーは、上面側のSiC基板を保持する上面保持部材と、この上面保持部材と一体に固定されて下面側のSiC基板を保持すると共に、下面側のSiC基板にSiC単結晶薄膜を成長させるための開口領域が形成された下面保持部材とにより、ホルダーを形成するようにしてもよい。上面保持部材と下面保持部材とが一体に固定されるためには、上面保持部材と下面保持部材とが互いに相補的な形状を有して嵌め合わされるようにすることなどが挙げられ、下面側のSiC基板にSiC単結晶薄膜が可能なように、開口部を備えた下面保持部材と上面保持部材との間で、下面側のSiC基板を挟持するようにすればよい。
【0025】
このようなホルダーの具体例が
図3(b)に示されている。すなわち、下面保持部材11は、リング状に形成されて下面側のSiC基板13を収容し、このSiC基板13の落下を防ぐ張出部11aが周設されている。また、上面保持部材12は、凹溝を有して上面側のSiC基板13’を収容し、凹溝の反対面には、下面保持部材11に嵌合される凸面部12aが形成されるように、周縁部に段差を有している。そして、下面保持部材11にはSiC単結晶薄膜の成長面を下向きにして落とし込むことによってSiC基板13を保持させ、張出部11で囲われた開口部を通じて、SiC基板13は下向きにエピタキシャル成長をさせることになる。この下面保持部材11は、上面保持部材12の凸面部12aと嵌め合わされて一体に固定され、この上面保持部材12には、凹溝にSiC基板13’を収容し、SiC基板13’は上向きにエピタキシャル成長をさせることになる。このような例以外にも、上面保持部材と下面保持部材とのいずれかに突起部を設け、他方にはそれが挿嵌される挿入部を設けて、上面保持部材と下面保持部材とが一体に固定されるようにしてもよく、下面保持部材は下面側のSiC基板を取り囲むように2以上に分割されるようにしてもよい。
【0026】
図3のホルダーの例は、いずれも上下に1枚ずつのSiC基板を保持するものであるが、これに限られずに、上面側及び下面側ともに複数のSiC基板を保持するようにしてもよい。上向きに複数枚のSiC基板を配置する例を
図4に、下向きに複数枚のSiC基板を配置する例を
図5に示す。すなわち、
図4は、上面保持部材12が、SiC基板13’が収容される凹溝を3つ備えて、SiC基板を上面側に複数保持する例であり、
図5は、下面保持部材が、SiC基板13よりひとまわり小さい開口部を3つ備えて、SiC基板を下面側に複数保持する例を示している。そして、これらの下面保持部材11の内壁面は漸次縮径しており、これと相補的な形状を有する上面保持部材12の凸面部と嵌め合わされることにより一体に固定される。
【0027】
次に、本発明のホルダーを使って、上面側及び下面側のSiC基板にSiC単結晶薄膜を同時にエピタキシャル成長させる際には、各種のガスが上面側及び下面側のSiC基板に対して平行ないし略平行に吹出されるように、それぞれのガス吹出し口を設けるようにすればよい。その成長条件については以下に詳述する。
【0028】
先ず、珪素材料ガスについて、その窒素源としては熱CVD法によるSiCのエピタキシャル成長に用いられるものであれば特に制限はなく、シランガスやクロロシランガス等を用いることができ、例えば、SiH
4、SiH
3Cl、SiH
2Cl
2、SiHCl
3、SiCl
4等の珪素源ガスが挙げられ、これらの1種又は2種以上を混合したものを好適に用いることができる。モノシラン(SiH
4)の2量体であるジシラン(Si
2H
6)など、上記に例示したガスの各2量体も使用可能であるが、それらは気相中で凝集を起こし、塊としてSiC基板の表面に付着する確率が若干高くなるため、望ましくは単量体を使用するのがよい。また、珪素材料ガスのキャリアガスとしては、アルゴンやヘリウム等の希ガスを用いるのが好適である。仮に水素を用いると、例えばSiCl
4と水素を共存させて供給した場合にSiCl
4の分解が生じてしまい、設計通りの成長が得られないことがある。
【0029】
また、炭素材料ガスについては、珪素材料ガスの場合と同様に公知のものを用いることができ、一般的には炭化水素ガスが使用される。なかでも常温付近でガス状態であってハンドリングする上で好都合であることから、炭素数が5以下の飽和炭化水素、又は、炭素数が5以下の不飽和炭化水素からなる炭素源ガスであるのがよく、これらの1種又は2種以上を混合したものを好適に用いることができる。これら以外にも芳香族炭化水素なども使用可能ではあるが、一般に分解速度が遅く、カーボンの凝集体を作りやすいので注意が必要である。また、炭素材料ガスのキャリアガスとしては、水素を用いるのが望ましい。
【0030】
珪素材料ガス及び炭素材料ガスは、いずれも上記のようなキャリアガスによって希釈されるのが一般的であるが、SiC単結晶薄膜の成長速度は、珪素源ガスや炭素源ガスの濃度に比例する。すなわち、成長速度を高めるためにはそれらのガス濃度を高くすればよいが、ある程度の濃度になってしまうとドロップレット(付着物)が発生したり、面荒れの原因となってエピタキシャル膜の品質が低下してしまう。
【0031】
そのため、SiC単結晶薄膜の成長速度を1.0μm/時間以上70μm/時間以下にするのが好適であり、その際の珪素材料ガスについては、上記で好適な例として挙げた珪素源ガスの濃度が1体積%以上10体積%以下になるようにするのがよく、好ましくは2体積%以上4体積%以下であるのがよい。一方の炭素材料ガスについては、好適な例として挙げた炭素源ガスの濃度が0.01体積%以上1体積%以下になるようにするのがよく、好ましくは0.02体積%以上0.06体積%以下であるのがよい。なお、この濃度範囲はC
3H
8の場合を例示したものであり、他の炭素源ガスを用いる場合にはカーボン(C)の量で等量となるように変更すればよい。例えばメタン(CH
4)ではこの濃度範囲の上限値及び下限値をそれぞれ3倍にすればよい。
【0032】
また、成長室内に導入する珪素材料ガス中の珪素原子数に対する炭素材料ガス中の炭素原子数の比(C/Si)については、0.5以上1.5以下の範囲にしてSiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させるのがよく、好ましくは0.7以上1.3以下の範囲であるのがよい。C/Si比が上記範囲であれば比較的成長速度を大きくすることができて生産性の向上に繋がる上に、良質なエピタキシャル膜が得られるようになる。C/Si比が0.5未満であると未反応のSiが金属状態で膜に付着(ドロップレット)して欠陥発生の原因となる。逆に、1.5を超えるとバンチングと呼ばれる表面段差が発生し、デバイスを作製する上で悪影響を与えることがある。加えて、C/Si比が上記範囲を外れると、ドーピング密度にも影響が出るおそれがある。例えば、C/Si比が0.5未満になるとドーピングが高い効率で起きるため、反応場に不可避的に含まれる残留窒素によって所望のドーピング量を超えてしまうことがある。逆に1.5を超えるとドーピングの効率が落ちてしまうため、高いドーピング密度を目指して大量の窒素を供給しても狙いとするドーピング密度に到達しない場合がある。ちなみに、より大量の窒素を導入すると、膜質そのものへの影響(膜厚のばらつき、成長速度など)が出てしまうおそれがある。
【0033】
本発明においては、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際の成長温度は1450℃以上1700℃以下の範囲にするのがよい。一般に、1450℃より低い温度ではSiCはエピタキシャル成長せず、反対に1700℃より高い温度ではSiCの昇華速度が成長速度を上回ることになるため、結果的にその場合も実質的なエピタキシャル成長が行われない。要するに、SiCがエピタキシャル成長する温度領域にある限り、本発明の方法はいずれの温度であっても有効である。また、成長圧力については、成長温度と同様、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際の一般的な条件をそのまま採用することができ、800Pa以上10,000Pa以下の範囲であるのがよい。
【0034】
本発明のホルダーは、上向き、下向きに少なくとも1枚のSiC基板を保持できる構造を持つが、上述したように、それぞれ平面上に複数のSiC基板を保持できるようにしてもいい。その数は特に制限はないが、あまり多くするとホルダー自体が大きくなり装置自体の大型化を招くため、一つのホルダーの上面及び下面に5枚以下であるのが好ましい。互いに並行配列されるホルダー自体の数も特段の制限はないが、縦方向の温度の制御性を鑑みると、ホルダー数は縦方向に20〜30個程度であるのが好ましい。
【0035】
各SiC基板の表面に成長させるSiC単結晶薄膜の膜厚については、エピタキシャルSiCウェハ上に作り込むデバイスの種類やその仕様等によって適宜設定することができて特に制限はないが、一般的には5μm以上100μm以下程度の範囲である。
【0036】
また、SiC単結晶薄膜をエピタキシャル成長させる際には、水素ガスや塩化水素ガス等のエッチングガスを用いてSiC基板をエッチングするようにしてもよい。その一例として、例えば、成長室内を真空排気した後、エッチングガスを導入して圧力を6×10
3〜1×10
4Pa程度に調整する。その後、圧力を一定に保ちながら成長室内の温度を上げて、成長温度である1450〜1700℃に達した後、圧力をエピタキシャル成長条件(例えば1000Pa程度)まで低くして所定時間保持し、成長前のSiC基板の表面をエッチングする。このとき圧力はエッチング効率に大きな影響を持ち、低圧であるほどエッチングが進行する。このエッチングの程度は、その後のエピタキシャル成長に影響を与えることから、最適なエッチング量を設定するのがよい。一般的には、圧力条件は600Pa以上3000Pa以下、望ましくは800Pa以上1500Pa以下であるのがよい。また、保持時間(エッチング時間)は30秒以上30分以下、望ましくは1分以上5分以下であるのがよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の内容に制限されるものではない。
【0038】
(実施例1)
4インチ(100mm)基板用の炭化珪素(SiC)単結晶インゴットから、約400μmの厚さでスライスし、粗削りとダイヤモンド砥粒による通常研磨を実施した4H型のポリタイプを有するSiC単結晶基板を複数用意した。そして、
図3(b)に示した上面保持部材12と下面保持部材11とが一体に固定されるホルダー14を用いて、SiC単結晶基板のSi面を成長面として鉛直方向上向きに1枚、SiC単結晶基板のSi面を成長面として鉛直方向下向きに1枚それぞれ配置し、以下のようにして熱CVD法によりSiC単結晶薄膜のエピタキシャル成長を実施した。なお、これらのSiC単結晶基板のオフ角はいずれも4°である。
【0039】
エピタキシャル成長には、
図1、
図2に示したような縦型配列構造を有するエピタキシャル成長装置1を使用した。ここで、成長室2は直径30cm、高さ100cmの黒鉛製坩堝から形成されており、その外側を誘導加熱ヒーター7が取り囲んだ状態で容器(筐体)8に収容されている。この成長室2内には図示外のボートが備え付けられており、合計20個のホルダーが成長室の縦方向に等間隔の隙間をおいて互いに平行に配列できるようになっている。本実施例では、このうち下側半分の10箇所に、
図3(b)に示したホルダー14を10個配置した。
【0040】
また、成長室2内には、縦方向に沿って合計6本のカーボン製ガス導入管(内径10mm×長さ500mm)が配設されており、各ホルダー14に保持された上面側と下面側のSiC単結晶基板の外周に沿って順にi)炭素材料ガス導入管5、ii)珪素材料ガス導入管4、iii)炭素材料ガス導入管5、iv)ドーピングガス導入管6、v)珪素材料ガス導入管4、vi)炭素材料ガス導入管5として使用した。これらの各ガス導入管4,5,6には、各ホルダー14における上面側のSiC単結晶基板13’と下面側のSiC単結晶基板13のそれぞれ成長面に対応させて、約φ2mmのガス吹出し口4a,5a,6aを備えている。そして、成長室2の下方にはガス排出管(図示外)が設けられており、成長室2内に供給された各ガスは、このガス排出管に接続された真空ポンプ9を通じて容器外に排出される。
【0041】
上記のエピタキシャル成長装置1を使用してSiC単結晶薄膜を成長させるにあたり、先ず、真空ポンプ9によって成長室2内を真空排気した後、炭素材料ガス導入管5を使って水素ガスを毎分200cm
3導入しながら圧力を8000Paに調整した。その後、圧力を一定に保ちながら、成長室2の温度を1550℃まで上げた。しかる後、導入水素ガスを毎分250リットルまで増加させると同時に真空排気を行い、成長室2内の圧力を1000Paとした。その状態を3分間保持した後、SiCl
4ガスを珪素源とし、かつ、キャリアガスとしてアルゴンを混合した珪素材料ガスをii)及びv)の珪素材料ガス導入管4を通じて導入し、また、C
3H
8ガスを炭素源とし、かつ、キャリアガスとして水素ガスを混合した炭素材料ガスをi)、iii)及びvi)の炭素材料ガス導入管5を通じて導入し、更に、窒素ガスにアルゴン(キャリアガス)を混合したドーピングガスをiv)のドーピングガス導入管6を通じて導入して、エピタキシャル成長を開始した。
【0042】
ここで、2本の珪素材料ガス導入管4を通じて成長室2内に珪素材料ガスを毎分15,000cm
3/min供給した。SiCl
4の流量を毎分300cm
3/min供給することで、SiCl
4ガスの濃度が2体積%となるようにした。また、3本の炭素材料ガス導入管5を通じて成長室2内に炭素材料ガスを毎分225,000cm
3/min供給した。C
3H
8流量の流量を90cm
3/min供給することで、C
3H
8ガスの濃度が0.04体積%となるようにした。更に、ドーピングガスは窒素(N
2)ガスの濃度が1体積%となるように成長室2内に供給した。そして、エピタキシャル成長時間は2時間とし、その間の各ガスの供給量や成長室内の温度及び圧力は一定に保持した。なお、この実施例1のエピタキシャル成長におけるC/Si比は0.9である。
【0043】
エピタキシャル成長終了後、得られた全20枚のエピタキシャルSiCウェハは、成長室内で最下段に位置するホルダー14をスロット1(slot 1)とし、最上段に位置するホルダー14をスロット10(slot 10)として(つまり、ガス導入管の上流側から下流側に向けてホルダー14を連番のスロット番号で特定して)、また、各ホルダー14の上面側をU、下面側をDとして、得られたエピタキシャルSiCウェハにID番号を付けた(例えばスロット1のホルダーにおけるウェハは1U/1Dとなる)。そして、これらの得られたエピタキシャルSiCウェハについて、SiC単結晶薄膜の膜厚はFT−IR方式の専用膜厚計により、また、ドーピング密度はCV測定器(水銀プローブC-V測定装置:フォーディメンジョン社製CVmap92A)により、それぞれ測定した。
【0044】
膜厚の結果を
図6に示す。この図から分かるように、上向きに置かれたSiC基板(U)と下向きに置かれたSiC基板(D)とでは、若干上向きに置かれたSiC基板でSiC単結晶薄膜の膜厚が薄くなる傾向を示したものの、20枚の膜厚のばらつきは良好に抑えられていることが確認できた。
【0045】
また、ドーピング密度の結果を
図7に示す。この図から分かるように、上向きに置かれたSiC基板(U)と下向きに置かれたSiC基板(D)とでは、ほぼ同じドーピング密度となっており、かつ、成長室内の縦方向でのばらつきも抑えられていることが確認できた。
【0046】
(比較例1)
実施例1で用いたホルダー14に下面側のSiC単結晶基板13のみを保持させるようにして、1個のホルダーに1枚のSiC基板を下向きに配置し、このホルダー14を図示外のボートに合計20個(スロット1〜20)備え付けるようにした以外は実施例1と同様にし、成長条件を実施例1と同じにして、SiC単結晶薄膜のエピタキシャル成長を行った。
【0047】
得られたエピタキシャルSiCウェハの膜厚の結果を
図8に示す。この図から分かるように、実施例1と同等のばらつきであることが確認された。
【0048】
一方で、ドーピング密度の結果を
図9に示す。この図から分かるように、実施例1と比較し、ばらつきが大きくなることが確認された。
【0049】
以上のことから、エピタキシャルウェハの製造において、本発明によってドーピング密度で顕著な効果があることが確かめられた。