【解決手段】蒸気滅菌器の滅菌槽内に設けられる棚1、または滅菌槽に出し入れされる棚1である。アルミニウムもしくはアルミニウム合金、またはマグネシウム合金を用いて構成され、被滅菌物が載せられる棚板12と、この棚板12の下部に設けられ、棚板12からの凝縮水が下の棚板12の被滅菌物に落下するのを防止する水受板13とを備える。棚板12は、上面より下面の表面積を大きくするように、下面に凹凸17が形成されるのがよい。棚板12は、上面に凝縮水が滞留しないように、適宜の貫通孔16が形成されるのがよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の蒸気滅菌用棚構造は、いずれも、被滅菌物が載せられる棚材が、ステンレス製の網または板から構成されている。しかしながら、ステンレスは、たとえばアルミニウムと比較して、比熱および熱伝導率が小さい。
【0005】
比熱が小さいと、滅菌工程において、棚材に発生する凝縮水量が少なく、棚材が板状の場合、棚材の上面に滞留する凝縮水(棚材上面および被滅菌物で発生した凝縮水)と比べ、棚材から落下する凝縮水(棚材の側面および下面で発生した凝縮水)の割合が小さくなる。この割合が小さいと、棚材に蓄熱される熱量は、滅菌工程後の乾燥工程における減圧で、棚材上の凝縮水を再蒸発させるのに使われ、さらに被滅菌物の乾燥を図ることはできない。すなわち、棚材に蓄熱されている熱量が少ないため、その熱量は、棚材上の凝縮水の蒸発に相殺されるだけで、さらに被滅菌物を乾燥させるほどの熱量はなく、乾燥時間の短縮を図れない。一方、棚材への蓄熱を図ろうと棚材を比較的厚く形成しても、熱伝導率が小さい場合、乾燥工程中に、棚材の蓄熱を、被滅菌物へ与える熱流束が小さくなり、乾燥時間の短縮を図れない。そのため、棚材は、比熱が高く、熱流束(言い換えれば熱伝導率)が大きい方が好ましい。
【0006】
また、網構造の棚材は、被滅菌物への伝熱面が小さく、滅菌および乾燥に不利である。一方、板構造の棚材は、滅菌工程において凝縮熱を多く受けるが、凝縮水が板上に残りやすく、乾燥工程における減圧時、その残留凝縮水の再蒸発のために熱が使われ、被滅菌物の乾燥時間の短縮を図れない。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、滅菌工程において棚板に蓄熱することで、その後の乾燥工程における乾燥を促進し、乾燥時間の短縮を図ることができる蒸気滅菌用棚構造および蒸気滅菌器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、蒸気滅菌器の滅菌槽内に設けられる棚、または前記滅菌槽に出し入れされる棚であって、比熱0.8kJ/(kg・K)以上で、熱伝導率90W/(m・K)以上の材質を用いて構成され、被滅菌物が載せられる棚板と、この棚板の下部に設けられ、前記棚板からの凝縮水が下の棚板の被滅菌物に落下するのを防止する水受板とを備えることを特徴とする蒸気滅菌用棚構造である。
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、ステンレスと比較して比熱および熱伝導率が大きい材質を用いて棚板を構成すると共に、棚板の下部に水受板を設けて、棚板からの凝縮水が下の棚板の被滅菌物に落下するのを防止することで、滅菌および乾燥を迅速に図ることができる。特に、滅菌工程において棚板に蓄熱して、その後の乾燥工程を行うことで、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記材質は、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、またはマグネシウム合金であることを特徴とする請求項1に記載の蒸気滅菌用棚構造である。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、またはマグネシウム合金を用いて棚板を構成したので、滅菌工程において棚板に蓄熱して、その後の乾燥工程を行うことで、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、前記棚板は、上面より下面の表面積を大きくするように、下面に凹凸が形成されるかフィンが設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蒸気滅菌用棚構造である。
【0013】
請求項3に記載の発明によれば、棚板の上面より下面に凝縮水を多く発生させ、棚材に滞留する凝縮水と比べ、棚材から落下する凝縮水の割合を増やし、しかもその凝縮水を水受板で下方の被滅菌物には落とさないので、棚板の上面における凝縮水の発生を抑えつつ棚板を迅速に加熱して、被滅菌物の加熱とその後の乾燥を迅速に図ることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、前記棚板は、凝縮水を下方へ脱落させるように、上面に溝もしくは孔が形成されるか、および/または、傾斜して設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸気滅菌用棚構造である。
【0015】
請求項4に記載の発明によれば、棚板に溝や孔を形成するか、棚板を傾斜して設けることで、棚板上面への凝縮水の滞留を防止して、被滅菌物の加熱とその後の乾燥を迅速に図ることができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記水受板は、下記(a)〜(c)のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蒸気滅菌用棚構造である。
(a)V字形または逆V字形に形成された水受板。
(b)四角錐状または逆四角錐状に形成された水受板。
(c)板材を傾斜して配置された水受板。
【0017】
請求項5に記載の発明によれば、簡易な構成で安価に水受板を製造することができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、前記蒸気滅菌器の滅菌槽は、左右に加熱面を備え、前記水受板は、左右に傾斜面を配置したV字形または逆V字形に形成されていることを特徴とする請求項5に記載の蒸気滅菌用棚構造である。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、水受板の傾斜面は、滅菌槽から輻射熱を受け易く、しかも、その輻射熱を棚板にも放射しやすい。これにより、棚板の加熱を迅速に図ることができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸気滅菌用棚構造の棚が設けられるか、そのような棚が出し入れされる蒸気滅菌器であって、滅菌工程後の乾燥工程において、前記滅菌槽内を減圧後、その減圧を停止した状態で、前記滅菌槽内に蒸気を供給して前記棚板を加熱し、その後、その蒸気供給を停止した状態で再び前記滅菌槽内を減圧することを特徴とする蒸気滅菌器である。
【0021】
請求項7に記載の発明によれば、上記各請求項に記載の蒸気滅菌用棚構造による作用効果を奏する蒸気滅菌器とできる。しかも、乾燥工程の中途において、滅菌槽内に一時的に蒸気を供給して棚板を加熱することで、棚板への再蓄熱を図って、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0022】
さらに、請求項8に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸気滅菌用棚構造の棚が設けられるか、そのような棚が出し入れされる蒸気滅菌器であって、滅菌工程前の空気排除工程、または滅菌工程後の乾燥工程において、前記滅菌槽内に空気がある状態で、前記滅菌槽内に蒸気を供給して前記棚板を加熱し、その後、その蒸気供給を停止した状態で前記滅菌槽内を減圧することを特徴とする蒸気滅菌器である。
【0023】
請求項8に記載の発明によれば、上記各請求項に記載の蒸気滅菌用棚構造による作用効果を奏する蒸気滅菌器とできる。しかも、滅菌槽内ひいては被滅菌物内にも空気がある状態で、滅菌槽内に一時的に蒸気を供給して棚板を加熱することで、被滅菌物への凝縮伝熱を空気で阻害するから、被滅菌物に発生する凝縮水を減らしながら、棚板に蓄熱することができ、被滅菌物の乾燥をより有利に行える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の蒸気滅菌用棚構造および蒸気滅菌器によれば、滅菌工程において棚板に蓄熱することで、その後の乾燥工程における乾燥を促進し、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0027】
図1は、被滅菌物(図示省略)が載せられる棚1を上下に複数段備える内台車2と、この内台車2を載せて搬送する外台車3と、この外台車3との間で内台車2が出し入れされる蒸気滅菌器4とを示す概略側面図である。なお、被滅菌物は、滅菌バッグ、不織布または滅菌コンテナなどに収容されていてもよい。
【0028】
内台車2は、外台車3に載せられて搬送されると共に、外台車3と滅菌槽5との間を走行して出し入れされる。そのために、蒸気滅菌器4には、滅菌槽5内の底部に案内レール6が設けられており、内台車2の車輪7はその案内レール6を走行する。また、外台車3にも、台座8上に案内レール9が設けられており、内台車2の車輪7はその案内レール9を走行する。そして、外台車3は、台座8の底部に設けられたキャスター10により、走行可能とされる。外台車3には把手11が設けられており、その把手11を持って外台車3を走行させることができる。
【0029】
蒸気滅菌器4は、滅菌槽5内へ蒸気を供給して、滅菌槽5内の被滅菌物の滅菌を図る装置である。本実施例の蒸気滅菌器4は、正面(
図1において右側)へ開口してその開口部を扉により開閉可能な滅菌槽5と、この滅菌槽5内の気体を外部へ吸引排出して滅菌槽5内を減圧する減圧手段(図示省略)と、減圧された滅菌槽5内へ外気を導入して滅菌槽5内を復圧する復圧手段(図示省略)と、滅菌槽5内へ蒸気を供給する給蒸手段(図示省略)と、滅菌槽5内からスチームトラップを介して凝縮水を排出するドレン排出手段(図示省略)と、大気圧との差圧により滅菌槽5内の気体を外部へ導出する排気手段(図示省略)と、滅菌槽5内の圧力を検出する圧力センサ(図示省略)と、滅菌槽5内の温度を検出する温度センサ(図示省略)と、これらセンサの検出信号などに基づき前記各手段を制御する制御手段(図示省略)とを備える。
【0030】
蒸気滅菌器4は、滅菌槽5内からの空気排除を図った後、滅菌槽5内に蒸気(通常は飽和蒸気)を供給して被滅菌物の滅菌を図り、その後、滅菌槽5内を減圧して被滅菌物の乾燥を図る。滅菌槽5内からの空気排除は、典型的には、減圧手段による滅菌槽5内の減圧と、給蒸手段による滅菌槽5内への給蒸とを繰り返してなされる。その後、給蒸手段により滅菌槽5内を蒸気により昇圧して、滅菌槽5内を滅菌温度(典型的には135℃)まで高めた後、滅菌工程が開始される。滅菌工程では、温度センサで滅菌槽5内の温度を監視し、滅菌温度を滅菌時間保持するように、給蒸手段による滅菌槽5内への給蒸を制御する。その後、給蒸手段による給蒸を停止して、排気手段により滅菌槽5内から蒸気を排出した後、減圧手段により滅菌槽5内を所定圧力まで減圧し、設定時間保持することで、被滅菌物の乾燥を図る。詳細は後述するが、この乾燥工程において、一時的に給蒸手段により滅菌槽5内に蒸気を供給してもよい。被滅菌物の乾燥後には、減圧手段を停止する一方、復圧手段により滅菌槽5内を大気圧まで復圧して、一連の運転を終了する。
【0031】
このように、蒸気滅菌器4は、空気排除工程、滅菌工程、排気工程および乾燥工程を順次に実行する。また、蒸気滅菌器4は、滅菌槽5内を外側から加熱して所望温度に維持するために、滅菌槽5の左右に加熱面を備える。典型的には、滅菌槽5の左右両側壁に、中空構造で蒸気が供給される蒸気ジャケット(図示省略)を備える。空気排除工程前の予熱工程として、蒸気ジャケットには蒸気が供給され、滅菌槽5内の予熱が図られる。そして、このような蒸気ジャケットによる滅菌槽5内の加熱保持は、その後の空気排除工程から乾燥工程までも継続してなされる。従って、滅菌工程や乾燥工程では、被滅菌物は、蒸気ジャケットから加熱されることになる。
【0032】
図2は、外台車3に内台車2が載せられた状態を示す概略斜視図である。前述したように、内台車2は、外台車3に載せられて搬送可能とされ、外台車3と滅菌槽5との間で出し入れされる。内台車2は、上下に複数段の棚1を備え、その内、一または複数の棚1に、本発明の蒸気滅菌用棚構造が適用される。ここでは、すべての棚1に、本発明の蒸気滅菌用棚構造が適用されるが、最下段の棚1には、後述する水受板13の設置が不要である。なお、
図1および
図2では、上下に三段の棚1を設けているが、棚1の段数は適宜に変更可能なことは言うまでもない。
【0033】
内台車2は、前後左右の四隅に、上下方向へ沿って支柱14を備え、これら支柱14に、上下に間隔をあけて複数の棚1が保持される。この際、各棚1は、被滅菌物が載せられる棚板12と、この棚板12の下部に設けられて、その棚板12や被滅菌物からの凝縮水が下の棚板12や被滅菌物へ落下するのを防止する水受板13とを備える。但し、前述したとおり、最下段の棚1には、棚板12だけを設け、水受板13の設置を省略することができる。
【0034】
なお、棚板12は、後述するように蓄熱性に優れた素材から形成される一方、支柱14および水受板13の材質は特に問わない。支柱14は、たとえばステンレスから形成され、水受板13は、たとえばステンレス、アルミニウムまたは合成樹脂から形成される。
【0035】
棚板12は、適宜の手法で支柱14に保持され、水受板13は、適宜の手法で棚板12または支柱14に保持される。たとえば、棚板12および水受板13の四隅に、それぞれパイプ15を固定しておき、そのパイプ15を支柱14にはめて所望高さに固定する。但し、棚板12および水受板13は、四隅においてそれぞれ共通のパイプ15に固定しておき、棚板12と水受板13とを一体のものとして取り扱ってもよい。また、棚板12や水受板13の四隅に設けられるパイプ15自体が支柱14の一部を構成しつつ、内台車2が組み立てられてもよい。さらに、単に、棚板12や水受板13の四隅を、内台車2の支柱14に溶接したり、支柱14に設けたフックに引っ掛けたりしてもよい。その他、水受板13を棚板12に保持することで、棚板12を介して水受板13を支柱14に保持してもよい。
【0036】
棚板12は、従来のステンレスと比較して、蓄熱性に優れた材質から形成される。具体的には、比熱0.8kJ/(kg・K)以上で、熱伝導率90W/(m・K)以上の材質を用いて構成される。たとえば、アルミニウムもしくはアルミニウム合金、またはマグネシウム合金である。
【0037】
なお、ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、およびマグネシウム合金の比熱[kJ/(kg・K)]および熱伝導率[W/(m・K)]は、次のとおりである。
・ステンレスは、比熱0.46〜0.494、熱伝導率13〜16である。
・アルミニウムは、比熱0.90、熱伝導率204である。
・アルミニウム合金7075は、比熱0.96、熱伝導率120である。
・マグネシウム合金AZ31は、比熱0.96、熱伝導率96である。
【0038】
これから明らかなとおり、たとえばアルミニウムの場合、ステンレスと比較して、比熱を約2倍、熱伝導率を約10倍に大きくすることができる。比熱が大きいので、蓄熱性に優れる。そのため、滅菌工程において棚板12に蓄熱でき、その後の乾燥工程において蓄熱を放出することで、乾燥工程においても棚板12の熱で被滅菌物を加熱できるから、乾燥時間の短縮を図ることができる。しかも、熱伝導率が大きいので、乾燥工程中に、棚板12の蓄熱を、被滅菌物へ与える熱流束が大きくなり、この点からも、乾燥時間の短縮を図ることができる。
【0039】
前述したとおり、棚板12は、アルミニウムやアルミニウム合金などを用いて構成されるが、その際、それら金属には、防食処理を施してもよい。たとえば、アルミニウムとして、アルマイト処理されたアルミニウムを用いることができる。
【0040】
図3は、本実施例の棚板12を下方から見た状態を示す斜視図である。棚板12は、単なる平板でもよいが、上面より下面の表面積を大きくするように、下面に凹凸が形成されるかフィンが設けられるのが好ましい。凹凸やフィンの形状および形成位置は、適宜に設定される。本実施例では、
図2および
図3に示すように、棚板12は、後述する貫通孔16の存在を加味(つまり貫通孔16の箇所をそれ以外の箇所の肉で埋めたと想定)した平均厚み4mm以上の比較的分厚い板材(たとえば幅600mm×長さ1200mm×厚さ8mm、15〜16kg/枚のアルミニウム製)から形成され、上面が平らに形成される一方、下面にギザギザの凹凸17が形成されている。図示例の場合、棚板の下面には、前後方向(棚板の長手方向)へ沿って、断面略三角形状の溝17が左右方向(棚板の幅方向)に等間隔に形成されている。但し、棚板12の下面に形成される溝17は、前後等間隔に左右方向へ沿って形成されてもよいし、棚板12の長辺に対し平行または垂直に限らず、斜めに配置されてもよい。また、凹凸17に代えてまたはこれに加えて、フィンを設ける場合には、棚板12の下面に下方へ延出するようにフィンを設ければよい。
【0041】
棚板12は、上面より下面の表面積を大きくされることで、滅菌工程において、上面より下面に凝縮水を多く発生させることができる。言い換えれば、棚板12は、下面から多くの加熱を受けることになる。しかも、その凝縮水は、棚板12の下部に設けた水受板13により、下方の棚板12やその被滅菌物には落とされない。これにより、棚板12の上面における凝縮水の発生を抑えつつ、棚板12を迅速に加熱して、被滅菌物の加熱とその後の乾燥を迅速に図ることができる。
【0042】
棚板12は、凝縮水を下方へ脱落させるように、上面に溝もしくは孔が形成されるか、および/または、傾斜して設けられるのが好ましい。本実施例では、水平な棚板12に、前後方向等間隔に、左右方向へ沿う長孔状の貫通孔16が複数形成されている。但し、貫通孔16は、左右等間隔に前後方向へ沿って形成されてもよいし、棚板12の長辺に対し垂直または平行に限らず、斜めに配置されてもよいなど、適宜に変更可能である。
【0043】
棚板12の上面に貫通孔16ではなく溝を形成する場合、その溝を棚板12のいずれか一以上の端辺に開口しておくことで、棚板12より外側へ凝縮水を排水可能としておくか、溝の底部の適宜箇所に下方への排水孔を形成しておくことで、溝内から下方へ凝縮水を排水可能としておくのがよい。そして、端辺や排水孔への排水を円滑に行うために、溝の底部を傾斜面に形成しておくか、棚板12を傾斜して配置しておくのがよい。
【0044】
いずれにしても、棚板12に溝や孔を形成して、棚板上面への凝縮水の滞留を防止することで、被滅菌物の加熱とその後の乾燥を迅速に図ることができる。その他、棚板12に溝や孔を形成するのに代えてまたはこれに加えて、棚板12自体を傾斜しておくことで、棚板12上面からの凝縮水の排水を図ってもよい。この際、棚板12の傾斜角度は、棚板12上の被滅菌物が滑り落ちない程度の傾斜であることは言うまでもない。
【0045】
水受板13は、棚板12の下部に設けられ、棚板12からの凝縮水が下の棚板12やそれに置かれた被滅菌物に落下するのを防止する。水受板13は、その形状を特に問わないが、典型的には四角形の板材であり、その四隅が前記支柱14または直ぐ上の棚板12に保持される。水受板13は、平面視において、棚板12と同一かそれよりも大きく形成されるのが好ましい。水受板13は、最下段の棚板12を除いた各棚板12のすぐ下に、重ね合わされるように設けられる。水受板13は、たとえば、下記のいずれかの構成とすることができる。
【0046】
(A)水受板13は、正面視または側面視において、逆V字形(つまり山形)の四角形の板材から形成される。これにより、左右または前後に傾斜面が配置され、その傾斜面に沿って、凝縮水を左右両側または前後両側へ流し落とすことができる。この際、逆V字の頂部(屈曲部)は、必ずしも前後または左右方向に沿って配置される必要はなく、それらに対し傾いて(たとえば後方へ行くに従って右側へ傾斜して)配置されてもよい。また、左右または前後の傾斜面は、下端辺が水平に配置される以外に、下端辺の長手方向一方または両方へ行くに従って下方へ傾斜するよう延出形成されてもよく、その場合、水受板13の角部から凝縮水を下方へ脱落させることができる。
【0047】
(B)水受板13は、正面視または側面視において、V字形(つまり谷形)の四角形の板材から形成される。これにより、左右または前後に傾斜面が配置され、その傾斜面に沿って、凝縮水をV字の溝部(屈曲部)に集め、その溝部の長手方向一方または両方へ流し落とすことができる。この際、V字の溝部は、必ずしも前後または左右方向に沿って配置される必要はなく、それらに対し傾いて(たとえば後方へ行くに従って右側へ傾斜して)配置されてもよい。また、左右または前後の傾斜面は、下端辺(V字の溝部)が水平に配置される以外に、下端辺の長手方向一方または両方へ行くに従って下方へ傾斜するよう延出形成されてもよく、その場合、水受板13からの排水を一層円滑に行うことができる。
【0048】
(C)水受板13は、四角錐状に形成される。この場合、前後左右に傾斜面が配置され、凝縮水を前後左右へ流し落とすことができる。
【0049】
(D)水受板13は、逆四角錐状に形成される。この場合、傾斜面により中央部(下方への頂部)に集められた水は、ホース等により棚板外へ導出して排水される。
【0050】
(E)水受板13は、傾斜して配置される平板から形成される。たとえば、四角形の平板を、左右一方へ傾けるか、前後一方へ傾ければよい。これにより、凝縮水を傾斜面に沿って流し落とすことができる。なお、一つの角部が最も下方に配置されるよう形成することで、その角部から下方へ凝縮水を脱落させることができる。
【0051】
本実施例の蒸気滅菌用棚構造によれば、蓄熱性に優れた棚板12と、この棚板12で発生した凝縮水を下段へ落とさない(受け止めるか、内台車2の外方等へ受け流す)水受板13とにより、蒸気滅菌とその後の乾燥を迅速および確実に図ることができる。特に、棚板12は、蓄熱性に優れるので、滅菌工程において蒸気により加熱されて蓄熱され、乾燥工程において蓄熱を放出して被滅菌物を加熱できるから、乾燥時間の短縮を図ることができる。しかも、棚板12は、表面積が大きくされた下面において蒸気の凝縮熱を多く受けて加熱される一方、上面に孔16や溝が形成されたり傾斜されたりして凝縮水が溜まらないので、被滅菌物の乾燥を迅速に行うことができる。棚板12上に凝縮水を残さないことで、棚板12の蓄熱が、乾燥工程において残留凝縮水の再蒸発に使われるのを防止して、被滅菌物の加熱を有効に図ることができる。このようにして、従来のステンレス製の網棚の場合と比較して、乾燥時間を10〜60分間短縮することができる。
【0052】
図4は、本発明の蒸気滅菌器の運転中の滅菌槽5内の圧力Pと経過時間tとの関係を示す概略図であり、主要部のみを示している。この図に示すように、滅菌工程S1の終了後、滅菌槽5内からの排気工程S2を実行した後、減圧手段により滅菌槽5内を減圧して被滅菌物の乾燥工程S3を実行する。乾燥工程S3では、図示されるように、一時的に滅菌槽5内に蒸気を供給して、棚板12を加熱して再蓄熱を図ってもよい。つまり、滅菌工程S1後の乾燥工程S3として、滅菌槽5内を減圧(たとえばP2=−95〜−98kPaまで減圧)後、その減圧を停止した状態で、滅菌槽5内に蒸気を供給して棚板12を加熱し、所定時間(棚板12に蓄熱できる時間、たとえば3〜5分)保持した後、その蒸気供給を停止した状態で再び滅菌槽5内を減圧してもよい。さらに、二点鎖線で示すように、このような操作を複数回繰り返してもよい。つまり、乾燥工程S3中、一時的に滅菌槽5内に蒸気を供給する操作を複数回行ってもよい。なお、乾燥工程S3中の給蒸は、本実施例では、滅菌工程S1における滅菌圧力(滅菌温度)P1と同じまでなされるが、場合により、これよりも低い圧力であってもよい。
【0053】
また、滅菌工程S1前の空気排除工程、または滅菌工程S1後の乾燥工程S3において、滅菌槽5内に空気がある状態で、滅菌槽5内に蒸気を供給して棚板12を加熱し、その後、その蒸気供給を停止した状態で滅菌槽5内を減圧し、そして、上述した通常の空気排除工程または乾燥工程へ戻してもよい。言い換えれば、空気排除工程中または乾燥工程中に、一時的に、滅菌槽5内に空気がある状態で、滅菌槽5内に蒸気を供給して棚板12を加熱し、その後、その蒸気供給を停止した状態で滅菌槽5内を減圧する操作を実行してもよい。この場合、滅菌槽5内ひいては被滅菌物内にも空気がある状態で、滅菌槽5内に一時的に蒸気を供給して棚板12を加熱することで、被滅菌物への凝縮伝熱を空気で阻害するから、被滅菌物に発生する凝縮水を減らしながら、棚板12に蓄熱することができ、被滅菌物の乾燥をより有利に行える。なお、滅菌槽5内に空気を確保するために、空気排除工程や乾燥工程において、滅菌槽5内を減圧手段で減圧後、復圧手段により滅菌槽5内に外気を導入すればよいが、この操作は、空気排除工程については、滅菌槽5内に未だ空気が存在している状況下では省略することができる。
【0054】
ところで、乾燥工程S3では、滅菌槽5内の左右に設けた蒸気ジャケットなどの加熱面により滅菌槽5内が加熱されるが、その加熱面からの熱放射を水受板13が受けやすいのが好ましい。具体的には、滅菌槽5内の左右に加熱面があることを考慮し、水受板13は、左右に傾斜面を配置したV字形または逆V字形に形成されるのが好ましい。しかも、熱放射率の高い素材で形成されるのがよい。これにより、水受板13は、加熱面からの熱放射を受け、しかもその熱を棚板12へ熱放射して、棚板12を加熱してひいては被滅菌物を加熱できる。
【0055】
本発明の蒸気滅菌用棚構造および蒸気滅菌器4は、前記実施例の構成に限らず適宜変更可能である。特に、比熱0.8kJ/(kg・K)以上で、熱伝導率90W/(m・K)以上の材質を用いて構成され、被滅菌物が載せられる棚板12と、この棚板12の下部に設けられ、棚板12からの凝縮水が下の棚板12の被滅菌物に落下するのを防止する水受板13とを備えて構成されるのであれば、棚構造は適宜に変更可能である。
【0056】
たとえば、前記実施例では、被滅菌物は内台車2に載せられ、その内台車2を滅菌槽5と外台車3との間で出し入れしたが、外台車3を省略し、内台車2を単独で滅菌カートとして、滅菌槽5に対し直接にキャスターで出し入れしてもよい。あるいは、滅菌槽5自体に棚1(棚板12、水受板13)を設け、その棚1に被滅菌物を直接に出し入れしてもよい。その場合、前記支柱14に代えて、滅菌槽5内の側壁やそれに固定の部材を用いて、棚板12や水受板13を取り付けることもできる。
【0057】
また、前記実施例では、棚板12は、アルミニウム、アルミニウム合金またはマグネシウム合金などから形成されたが、これら材質の複数の部材を組み合わせて構成されてもよい。また、場合により、これら材質以外の部材で構成された部材を、一部に使用してもよい。たとえば、ステンレス製の枠材の四隅が支柱14に取り付けられ、枠内にアルミニウム製の板材をはめ込んで、棚板12を構成してもよい。この際、枠内を複数に仕切っておき、その仕切られた各所に、アルミニウム製の板材をそれぞれはめ込んでもよい。また、ステンレス製の網棚にアルミニウム製の板材を載せるなど、ステンレス製の網棚にアルミニウム製の板材を組み込んで、棚板12を構成してもよい。
【0058】
さらに、アルミニウム、アルミニウム合金またはマグネシウム合金などから形成された棚板12の上面には、熱伝導率の高い銅を重合してもよい。たとえば、アルマイト処理したアルミニウムを用いた場合、アルミニウム上面で滅菌コンテナを滑らせると、アルマイトがはがれて、高温蒸気に晒されるとアルミニウムが黒色や茶色に変色するおそれがあるので、それを防止するために、棚板12の上面には銅を張り合わせておいてもよい。
【0059】
その他、棚板12は、内部に水がある真空容器構造としてもよい。その場合、棚板12の中空部内の水は、滅菌工程において蒸発され、乾燥工程においてその凝縮潜熱で被滅菌物の加熱を図る。