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特開2015-199837軸性キラリティを有するPd(II)2核錯体からなる液晶物質キラルドーパント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-199837(P2015-199837A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】軸性キラリティを有するPd(II)2核錯体からなる液晶物質キラルドーパント
(51)【国際特許分類】
   C09K 19/54 20060101AFI20151016BHJP
   G02F 1/13 20060101ALI20151016BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20151016BHJP
   C07C 49/92 20060101ALN20151016BHJP
【FI】
   C09K19/54 B
   G02F1/13 500
   C07F15/00 C
   C07C49/92
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2014-79713(P2014-79713)
(22)【出願日】2014年4月8日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日:平成25年10月15日 刊行物名:錯体化学会第63回討論会要旨集 発行者名:錯体化学会 項目:2Fa−17 開催日:平成25年11月3日 研究集会名:錯体化学会第63回討論会 主催者名:錯体化学会
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(71)【出願人】
【識別番号】593165487
【氏名又は名称】学校法人金沢工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 堅志
(72)【発明者】
【氏名】山岸 晧彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 久子
(72)【発明者】
【氏名】北澤 孝史
(72)【発明者】
【氏名】谷口 昌宏
【テーマコード(参考)】
4H006
4H027
4H050
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB64
4H027BA02
4H050AA01
4H050AB64
4H050WB13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】軸性キラリティを有する平面正方形型Pd(II)2核錯体からなる、液晶物質に対する新規なキラルドーパントを提供する。
【解決手段】液晶物質に対するキラルドーパントであって、下記式で表され、鏡像異性体であるR体又はS体として軸性キラリティを有する非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体からなるキラルドーパント。

(A、B、Rは脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基等から選択;AとBとは異なり、二つのPd(II)イオン間にて非対称ビスβ−ジケトナト基を形成;RはH、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基及びこれらが複数個結合した基から選択)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶物質に対するキラルドーパントであって、
下記一般式(1)(式中、A、B及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Aは各々同じであり、Bは各々同じであり、かつRは各々同じであるが、AとBとは異なり、二つのPd(II)イオン間にて非対称ビスβ−ジケトナト基を形成しており、Rは、水素、並びに置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Rは各々同じである。)で表され、
鏡像異性体であるR体又はS体として軸性キラリティを有する、非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体からなるキラルドーパント。
【化1】
【請求項2】
A、B及び/又はRが、炭素数1から30の分岐していてもよいアルキル基、及び全体として炭素数6から50の置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される、請求項1に記載のキラルドーパント。
【請求項3】
A及びBが、それぞれ、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基から選択され、かつ、Rが、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基、並びに全体として炭素数6から30のアルキル基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される、請求項2に記載のキラルドーパント。
【請求項4】
が水素である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキラルドーパント。
【請求項5】
が、アゾ基及び/又はエーテル結合を含有する炭化水素基である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のキラルドーパント。
【請求項6】
が、シス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基であって、
一般式(2):−R−N=N−R
で表され、式中、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリーレン基であり、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基である、請求項5に記載のキラルドーパント。
【請求項7】
のシス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基が、
一般式(3):−C−N=N−C−R
で表され、式中、Rは、炭素数1から15の分岐していてもよいアルコキシ基であり、2つのフェニル基はパラ置換されている、請求項6に記載のキラルドーパント。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のキラルドーパント、及び液晶物質を含む液晶組成物。
【請求項9】
キラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によりコレステリック相が形成される、請求項8に記載の液晶組成物。
【請求項10】
淡黄色を呈する、請求項8又は9に記載の液晶組成物。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれか1項に記載の液晶組成物を使用してなる液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸性キラリティを有する非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体からなる液晶物質に対するキラルドーパントに関する。更には、本発明は、このキラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によりコレステリック相が形成される液晶組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶素子は、低電圧作動、低消費電力、薄型表示が可能であること、明るい場所でも使用でき目に優しいこと等の優れた特徴によって、時計、電卓から、各種測定機器、自動車用パネル、ワープロ、電子手帳、プリンタ、コンピュータ、テレビに至るまで広範な用途において使用されている。
【0003】
液晶表示方式としては、代表的なものにTN(捩れネマチック)型、STN(超捩れネマチック)型、DS(動的光散乱)型、GH(ゲスト・ホスト)型、FLC(強誘電性液晶)型等が知られている。これらの中でも、現在汎用されているのは、TN型及びSTN型である。TN型又はSTN型の液晶表示方式のための液晶材料には、通常、ネマチック液晶に、少量の光学活性な液晶性化合物をドーパント(キラルドーパント)として添加して得られるコレステリック液晶が用いられている。
【0004】
また、近年、コレステリック液晶よりなる表示素子とアモルファスシリコンよりなる光スイッチング素子とを備えた記録表示媒体や、メモリ性のある液晶素子と有機感光体を積層した画像入力システムであるエルグラフィシステム等が、光書き込み型の記録表示媒体として研究されている(例えば、非特許文献1)。このような光書き込み型の記録表示媒体の表示素子に用いる表示材料として種々の液晶物質が開発されている。その中でも、コレステリック液晶や、コレステリック液晶をカプセル化したコレステリックカプセル化液晶は、選択反射性を有するため、色選択のためのフィルタ等が不要であり、外部単電極を用いてカラー表示も可能であることから、特に注目されている。
【0005】
ネマチック液晶に少量の光学活性な液晶性化合物をキラルドーパントとして添加して得られるコレステリック液晶のらせんピッチは、キラルドーパントの構造や添加量によって可変である。キラルドーパントは、必ずしも液晶性、あるいはキラルスメクチックC(Sc)相を示す必要はない。その一方で、キラルドーパントを液晶組成物に添加した場合にその転移点をあまり降下させないものが好ましく、できるだけ少量の添加で充分大きい自発分極を誘起できるものが、液晶組成物としての粘度を低下させ応答の高速化をはかるうえで好都合である。
【0006】
液晶のらせんピッチを制御するために提案されたキラルドーパントの例としては、光学活性フェニルピリミジン化合物(特許文献1)、光学活性なハイドロキノンのビスシトロネリック酸エステルまたはテレフタル酸のビスシトロネロールエステル化合物(特許文献2)、光学活性ビフェニルエーテル化合物(特許文献3)、光学活性シアノビフェニル化合物(特許文献4)、光学活性オキサゾリン誘導体(特許文献5)が挙げられる。
【0007】
液晶物質にこのようなキラルドーパントを添加することにより、液晶分子の逆ツイストを抑えて液晶分子に右回り又は左回りのらせん構造を与えられる。添加されるキラルドーパントが有するらせんねじり力であるH.T.P.(100・μm−1・質量%−1)は、その添加濃度:c(質量%)及びピッチ:P(μm)を用いて、下記式で定義される。ピッチの測定は、典型的には公知のカノくさび法を用いて行われる。
P(μm)=1/(H.T.P (100・μm−1・質量%−1)× c(質量%))
【0008】
近年、キラルドーパントとして金属錯体が注目されている。金属錯体のキラリティによって左まわり、右まわりのらせんねじり力を選択的に発現させたり、また置換基の長さや配位子の選択によってもねじり力を弱めたり、場合によってはねじり力を反転させることも可能である(非特許文献2)。
【0009】
超分子キラリティを有する金属錯体の合成の初期の試みの例として、1〜3の配位部位を有する複数種の錯体をテクトン(tecton)として用いることによるキラル多核錯体の合成(非特許文献3)が挙げられる。この文献の例では、トリス(アセチルアセタト)ルテニウムに対し、ビスβ−ジケトンの1,1,2,2−テトラアセチルエタンを1〜3個の架橋配位子として配位させ、組手方式で分子を連結することで得られたキラル金属多核錯体が、開示されている。
【0010】
また、以下の化学式で示されるように、2つのルテニウム錯体部位を、非対称ビスβ−ジケトナト架橋配位子を経て接続し、2核錯体を形成することによって軸性キラリティを発現させた例が報告されている(非特許文献4〜5)。この2核錯体においては、ルテニウム錯体は八面体構造を有する。
【化1】
【0011】
液晶組成物に使用可能な金属錯体の合成に係る更なる主題として、軸性キラリティを有する平面正方形型の2核金属錯体(金属原子に対する配位子の結合方向が平面状となっている金属錯体の2核錯体)、例えば、軸性キラリティを有するPd(II)2核錯体が探求されている。軸性キラリティを有する平面正方形型のPd(II)2核錯体を製造する手段としては、Pd(II)2核錯体の末端に、非対称β−ジケトンを導入する方法が提案されている。例えば、ビス(ヘキサフルオロアセチルアセタト)パラジウム(II)錯体とペリ(ジメチルアミノ)置換ナフタレンとを反応させてジ(μ−メトキシ)−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を形成し、次いで以下の反応式に示されるように、これと、1,1,2,2−テトラアセチルエタンとを反応させてμ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(ヘキサフルオロアセチルアセタトパラジウム(II))を形成し、次いで、この末端を非対称β−ジケトンである1−メチル−3−フェニル−1,3−プロパンジオンで置換することによって、μ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(1−フェニルブタンジオナトパラジウム(II))が得られることが、報告されている(非特許文献6)。
【化2】
【0012】
しかし、本発明者らは、このようにPd(II)2核錯体の末端に非対称β−ジケトンを導入する方法によって得られた平面正方形型のPd(II)2核錯体は、液晶物質に対するらせんねじり力(H.T.P.)を有しないことを確認した。そこで、液晶物質にキラルドーパントして添加することでらせんねじり力であるH.T.P.を与えることが可能であり、かつ、2つのPd(II)イオンの架橋配位子として非対称ビスβ−ジケトンを用いた、軸性キラリティを有する新規な平面正方形型のPd(II)2核錯体を提供することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−116246号公報
【特許文献2】特公平7−64785号公報
【特許文献3】特公平7−91207号公報
【特許文献4】特公平8−19074号公報
【特許文献5】特許第2855346号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】H.Yoshida,T.Takizawaら“Reflective Display with Photoconductive Layer and a Bistable, Reflective Cholesteric Mixture” SID ’96 APPLICATIONS DIGEST p.59
【非特許文献2】Sato,H. and Yamagishi,A.,“Application of D− and L−Isomerism of Octahedral Metal Complexes for Inducing Chiral Nematic Phases”, International Journal of Molecular Sciences,2009,10,4559−4574(review)
【非特許文献3】Sato,H.;Furuno,H.;Fukuda,H.;Okamoto,K.;Yamagishi,A..Dalton Trans.,2008,37,1283
【非特許文献4】Sato,H.;Takase,R.;Mori,Y.;Yamagishi,A. Dalton Trans.,2012,41,747
【非特許文献5】Sato,H.;Mori,Y.;Kitazawa,T.;Yamagishi,A. Dalton Trans.,2013,42,232
【非特許文献6】Sato,H.;Morimoto,K.ら Dalton Trans.,2013,42,7579
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
軸性キラリティを有する平面正方形型のPd(II)2核錯体を製造する手段は、上記の方法以外に、2つのPd(II)イオンを架橋する架橋配位子として非対称ビスβ−ジケトンを用いる方法が考えられる。しかし、そのような方法による合成例はこれまで報告されていない。
【0016】
従って、本発明が解決すべき課題は、非対称ビスβ−ジケトナト基で架橋され、軸性キラリティを有する平面正方形型Pd(II)2核錯体からなる、液晶物質に対する新規なキラルドーパント、並びに、このキラルドーパント及び液晶物質を含む液晶組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究の結果、2つのPd(II)イオンを架橋する架橋配位子として非対称ビスβ−ジケトンを用いて平面正方形型Pd(II)2核錯体を実際に合成し、この合成物をR体又はS体に光学分割することによって得られた鏡像異性体が、軸性キラリティを示し、液晶物質に対するらせんねじり力(H.T.P.)を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0018】
上記課題を解決するための本発明の構成は、以下のとおりである。
[1].
液晶物質に対するキラルドーパントであって、
下記一般式(1)(式中、A、B及びRは、それぞれ、置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Aは各々同じであり、Bは各々同じであり、かつRは各々同じであるが、AとBとは異なり、二つのPd(II)イオン間にて非対称ビスβ−ジケトナト基を形成しており、Rは、水素、並びに置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Rは各々同じである。)で表され、
鏡像異性体であるR体又はS体として軸性キラリティを有する、非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体からなるキラルドーパント。
【化3】

[2].
A、B及び/又はRが、炭素数1から30の分岐していてもよいアルキル基、及び全体として炭素数6から50の置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される上記[1]項に記載のキラルドーパント。
[3].
A及びBが、それぞれ、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基から選択され、かつ、Rが、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基、並びに全体として炭素数6から30のアルキル基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される、上記[2]項に記載のキラルドーパント。
[4].
が水素である、上記[1]〜[3]項のいずれか1項に記載のキラルドーパント。
[5].
が、アゾ基及び/又はエーテル結合を含有する炭化水素基である、上記[1]〜[3]項のいずれか1項に記載のキラルドーパント。
[6].
が、シス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基であって、
一般式(2):−R−N=N−R
で表され、式中、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリーレン基であり、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基である、上記[5]項に記載のキラルドーパント。
[7].
のシス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基が、
一般式(3):−C−N=N−C−R
で表され、式中、Rは、炭素数1から15の分岐していてもよいアルコキシ基であり、2つのフェニル基はパラ置換されている、上記[6]項に記載のキラルドーパント。
[8].
上記[1]〜[7]項のいずれか1項に記載のキラルドーパント、及び液晶物質を含む液晶組成物。
[9].
キラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によりコレステリック相が形成される、上記[8]項に記載の液晶組成物。
[10].
淡黄色を呈する、上記[8]又は[9]項のいずれか1項に記載の液晶組成物。
[11].
上記[8]〜[10]項のいずれか1項に記載の液晶組成物を使用してなる液晶素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明による、架橋配位子として非対称ビスβ−ジケトナト基を有する平面正方形型Pd(II)2核錯体からR体又はS体に光学分割された鏡像異性体は、軸性キラリティを示し、液晶物質に対するらせんねじり力(H.T.P.)を有する。この軸性キラリティを有する平面正方形型Pd(II)2核錯体は、液晶物質に対する新規なキラルドーパントして有用である。また、このキラルドーパント及び液晶物質を含む液晶組成物は、キラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によるコレステリック相形成能に加え、淡黄色を呈することも相俟って、種々の適用分野での広範な使用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明を非限定的に例証するための図面の説明は、以下のとおりである。
図1(a)】図1(a)は、合成例1で得られた化合物の電子吸収スペクトルを各ピークにデコンボリューション(deconvolution)したものを示す。
図1(b)】図1(b)は、合成例1で得られた化合物について計算された電子吸収スペクトルを示す。
図2(a)】図2(a)は、合成例1で得られた光学分割後のキラルドーパントについて観測されたCDスペクトルを示す。
図2(b)】図2(b)は、合成例1で得られた光学分割後のキラルドーパント(R体)について計算されたCDスペクトルを示す。
図3(a)】図3(a)は、合成例2で得られた化合物の電子吸収スペクトルを各ピークにデコンボリューションしたものを示す。
図3(b)】図3(b)は、合成例2で得られた光学分割後のキラルドーパントについて観測されたCDスペクトルを示す。
図4(a)】図4(a)は、合成例3で得られた化合物の電子吸収スペクトルを示す。
図4(b)】図4(b)は、合成例3で得られた光学分割後のキラルドーパントについて観測されたCDスペクトルを示す。
図5(a)】図5(a)は、合成例4で得られた化合物の電子吸収スペクトルを示す。
図5(b)】図5(b)は、合成例4で得られた光学分割後のキラルドーパントについて観測されたCDスペクトルを示す。
図6(a)】図6(a)は、合成例5で得られた化合物(トランス体)の電子吸収スペクトルを示す。
図6(b)】図6(b)は、合成例5で得られた光学分割後のキラルドーパント(トランス体)について観測されたCDスペクトルを示す。
図7(a)】図7(a)は、合成例5で得られたキラルドーパントの電子吸収スペクトルのトランス体−シス体間の可逆変化を示す図である。
図7(b)】図7(b)は、合成例5で得られたキラルドーパント(トランス体)をシス体に光異性化させたときのカラムクロマトグラフィ(HPLC)のピーク変化を示す図である。
図7(c)】図7(c)は、合成例5で得られたキラルドーパント(トランス体から光異性化させたシス体)のCDスペクトルを示す図である。
図8(a)】図8(a)は、比較合成例1で得られた化合物の電子吸収スペクトルを示す。
図8(b)】図8(b)は、比較合成例1で得られた光学分割後のキラルドーパントについて観測されたCDスペクトルを示す。
図9(a)】図9(a)は、合成例3のキラルドーパントから得られた液晶組成物の誘起CD効果を示す図である。
図9(b)】図9(b)は、合成例3に係るカノくさび法において、ドーパントのモル濃度(%)とらせんピッチ(μm)との関係を示す図である。
図9(c)】図9(c)は、合成例3に係るカノくさび法において、ドーパントのモル濃度が約0.1モル%及び約0.5モル%である場合の偏光顕微鏡写真を示す図である。
図10図10は、合成例5のトランス体のキラルドーパントから得られた液晶組成物に対して、波長350nm及び次いで波長450nmの光線を照射してシス体−トランス体間の光異性化を行った際の誘起CD効果の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のキラルドーパントは、上記一般式(1)(式中、A、B及びRは、それぞれ置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Aは各々同じであり、Bは各々同じであり、かつ、Rは各々同じであるが、AとBとは異なり、二つのPd(II)イオン間にて非対称ビスβ−ジケトナト基を形成しており、Rは、水素、並びに置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択され、Rは各々同じである。)で表される。各β−ジケトナト部位における半円は、二重結合の互変異性を示す。
【0022】
ここで、一般式(1)における二つのPd(II)イオン間のビスβ−ジケトナト基は非対称であるから、Aは各々同じであり、Bは各々同じであり、AとBとは異なる。AとBとの間で、それらの基の炭素鎖における炭素数の相違は1以上であればよい。一方で、一般式(1)の左右辺の各β−ジケトナト基は、対称性を有することが必要であり、Rは各々同じである。
【0023】
一般式(1)のA、B及び/又はRに用いられる脂肪族炭化水素基の非限定的な例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、ヘキシル、デシル、ペンタデシル、エイコシル、トリアコンチル基などのアルキル基(C1−30アルキル基等);アリル、デセニル、エイコセニル基などのアルケニル基(C2−20アルケニル基等)などが挙げられる。
【0024】
一般式(1)のA、B及び/又はRに用いられる脂環式炭化水素基の非限定的な例としては、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロデシル、シクロペンタデシル、シクロエイコシル基などのシクロアルキル基(3〜20員のシクロアルキル基等);シクロヘキセニル、シクロデセニル、シクロエイコセニル基などのシクロアルケニル基(3〜20員のシクロアルケニル基等);アダマンチル基などの橋かけ炭素環式基(炭素数6〜20程度の橋かけ炭素環式基等)などが挙げられる。
【0025】
一般式(1)のA、B及び/又はRに用いられる芳香族炭化水素基の非限定的な例としては、フェニル、ナフチル、アントリル基等の炭素数6〜50程度の芳香族炭化水素基(アリール基)などが挙げられる。
【0026】
一般式(1)のA、B及び/又はRに用いられる複素環式(ヘテロ環式)炭化水素基の非限定的な例としては、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基等の含窒素五員環炭化水素基;ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基の含窒素六員環炭化水素基;ピロリジジニル基、インドリジニル基、イソインドリル基、イソインインドリニル基、インドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノリジニル基、キノリニル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基等の含窒素縮合二環系炭化水素基;カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、アンチリジニル基等の含窒素縮合三環系炭化水素基;含酸素単環系、含酸素多環系、含硫黄系、含セレン・テルル環系炭化水素基などが挙げられる。
【0027】
ここでの、脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基のいずれかが複数個結合した基には、ヘテロ原子(典型的にはエーテル酸素)又はヘテロ原子含有基(典型的にはアゾ基)を介して連結されているものも含まれる。
【0028】
これらの炭化水素基が有していてよい置換基の非限定的な例としては、フッ素、塩素、臭素原子などのハロゲン原子;メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロピルオキシ、ブトキシ、イソブチルオキシ、t−ブチルオキシ、オクトキシ、デカンオキシ基などのアルコキシ基(C1−10アルコキシ基等);ヒドロキシ;メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル、オクトキシカルボニル、デカンオキシカルボニル基などのアルコキシカルボニル基(C1−10アルコキシ−カルボニル基等);アセチル、プロピオニル、ベンゾイル、デカノイル基などのアシル基(C1−10アシル基等);シアノ基;ニトロ基などが挙げられる。
【0029】
一般式(I)の左右辺それぞれの2つのRは、互いに結合して環を形成していてもよい。このような環の例としては、シクロペンタン環、シクロペンテン環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環などの5〜15員のシクロアルカン環又はシクロアルケン環などが挙げられる。
【0030】
一般式(1)のA、B及び/又はRは、好ましくは、炭素数1から30の分岐していてもよいアルキル基、及び全体として炭素数6から50の置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される。より好ましくは、A及びBは、それぞれ、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基から選択され、Rは、炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基、並びに全体として炭素数6から30のアルキル基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基からなる群から選択される。炭素数1から10の分岐していてもよいアルキル基が炭素数3以上の場合においては、炭素数3から10の分枝鎖アルキル基であることが好ましい。また、全体として炭素数6から30のアルキル基及び/又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基のより好ましい例は、フェニル基、及び炭素数1〜10の直鎖又は分枝鎖アルキル基で置換されたフェニル基である。なお、ここでの「全体として」は、置換基が存在する場合にその置換基も含めた基全体の炭素原子の総数を意味する(以下でも同様)。
【0031】
一般式(1)における左右辺の各β−ジケトナト基は、対称性を有することが必要とされるが、Rは、水素、並びに置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基からなる群から選択される。Rに用いられる置換基を有していてもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、複素環式炭化水素基、及びこれらが複数個結合した基は、特に限定されるものではなく、その例はA、B及び/又はRについて上述したものと同様である。
【0032】
は、最も典型的には、水素である。
理論に拘束されるものではないが、少なくともRが水素の場合において、Rの炭素鎖がより長く(炭素数が大きく)及び/又は嵩高い(炭素分枝鎖が存在する)ほど、当該キラルドーパント化合物の立体構造の安定性が増大し(立体構造の変動自由度が小さくなり)、それによって、液晶物質に対して与えられるらせんねじり力(H.T.P.)が大きくなるため好ましいと考えられる。
【0033】
他の好ましい態様として、Rは、水素の代わりに、アゾ基を含有する炭化水素基、エーテル結合を含有する炭化水素基、又は、アゾ基及びエーテル結合の両方を含有する炭化水素基であってよい。
【0034】
エーテル結合を含有する炭化水素基の非限定的な例としては、全体として炭素数2〜30のアルコキシアルキル基(メトキシメチル、エトキシメチル、ブトキシエチル、ヘキソキシブチル基等)、アリールオキシアルキル基(フェノキシメチル、フェノキシブチル基等)、アルコキシアリール基(ブトキシフェニル基、オクトキシフェニル基等)、アリールオキシアリール基(フェノキシフェニル基、ナフチルオキシフェニル基等)が挙げられる。
【0035】
アゾ基を含有する炭化水素基の非限定的な例としては、アゾ基の両端に、上に挙げたような置換基を有してもよい脂肪族炭化水素基、脂環式炭化水素基、芳香族炭化水素基、及び/又は複素環式(ヘテロ環式)炭化水素基を備える基が挙げられる。アゾ基を含有する炭化水素基の好ましい例としては、上に挙げたような置換基を有してもよい芳香族炭化水素基及び/又は複素環式(ヘテロ環式)炭化水素基を備える基が挙げられる。
【0036】
ある好ましい態様では、Rは、シス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基であって、一般式(2):−R−N=N−R(式中、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリーレン基であり、Rは、全体として炭素数6から50のアルキル基又はアルコキシ基で置換されていてもよいアリール基である。)で表されるものであってよい。
【0037】
その中でも、Rのシス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基は、好ましくは、一般式(3):−C−N=N−C−R(式中、Rは、炭素数1から15の分岐していてもよいアルコキシ基であり、2つのフェニル基はパラ置換されている。)で表されるものであってよい。この例のRは、アゾ基及びエーテル結合の両方を含有する炭化水素基である。
【0038】
このようにシス又はトランスアゾ基を含有する炭化水素基であるRを有するキラルドーパント化合物は、光異性を示しうる。すなわち、このような構造のRを有する化合物は、その化合物に固有のある範囲内の波長の光線が照射されることによって、シス型のアゾ基及びトランス型のアゾ基の両者の間を、可逆的に変動しうる。その結果、アゾ基がシス型又はトランス型であるときに、液晶物質に対して与えられるらせんねじり力(H.T.P.)が変動しうる。例えば、後述の実施例にて示されるように、A:−CH、B:−i−C、R:−CH、R:−C−N=N−C−O−C(2つのフェニル基はパラ置換)であるキラルドーパントは、ジクロロメタン溶液中で、波長350nmの光線を照射することによってトランス型のアゾ基からシス型のアゾ基に異性化し、波長450nmの光線を照射することによってシス型のアゾ基からトランス型のアゾ基に異性化することが分かった。また、この光異性化に伴って、液晶物質に対して与えられるらせんねじり力(H.T.P.)が変動することが分かった。
【0039】
本発明のキラルドーパントは、後述のように通常、R体又はS体に光学分割される。液晶物質に対する可能な限り大きならせんねじり力(H.T.P.)を得る観点から、光学分割されたR体又はS体は、より高い純度(理想的には100%の純度)を有することが好ましい。しかし、用途に応じてらせんねじり力(H.T.P.)を調節するために、R体に対してS体を、あるいはS体に対してR体を適当な割合で(例えばR体:S体の当量比0.0001:99.999〜99.999:0.0001の範囲内にて)、混合することが必要な場合もあり得る。従って、本発明において、キラルドーパントが「鏡像異性体であるR体又はS体として軸性キラリティを有する」とは、一般式(1)で表される非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体の構造それ自体が、軸性キラリティを示す「R体」又は「S体」のいずれかの鏡像異性体として表されうることを意味する。すなわち、ここでの「鏡像異性体であるR体又はS体として軸性キラリティを有する」は、光学分割された後のR体又はS体の純物質又はそれに準じる化合物のみを含む趣旨ではなく、光学分割される前又は後であるR体及びS体のあらゆる範囲の混合物を包含する。
【0040】
本発明のキラルドーパントは、光学分割されている場合において、通常、R体:S体又はS体:R体の当量比が90:10〜100:0であり、好ましくはR体:S体又はS体:R体の当量比が99:1〜100:0であり、より好ましくはR体:S体又はS体:R体の当量比が99.9:0.1〜100:0であり、さらに好ましくはR体:S体又はS体:R体の当量比が99.99:0.01〜100:0であり、最も好ましくはR体:S体又はS体:R体の当量比が99.999:0.001〜100:0である。
【0041】
本発明のキラルドーパントである平面正方形型のPd(II)2核錯体は、通常、Pd(II)2核錯体前駆体である(μ−ジアルコキシド)構造の化合物に対して、架橋配位子として非対称ビスβ−ジケトンを反応させ、それによって2分子のβ−ジケトナトPd(II)錯体を架橋させて非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体を合成し、次いで、鏡像異性体として軸性キラリティを有するR体又はS体に光学分割することによって得ることができる。
【0042】
このようなPd(II)2核錯体の合成法は、特に限定されるわけではないが、典型的には、対称ビスβ−ジケトンを用いた合成例を示す上記の非特許文献6に記載された反応条件を採用することができる。具体例としては、以下の反応式に示されるように、Pd(II)2核錯体の前駆体であるジ(μ−メトキシ)−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))と非対称ビスβ−ジケトンである1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタナト)エタンとを反応させることによって、非対称ビスβ−ジケトナト基含有Pd(II)2核錯体であるμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を形成し、次いで塩基存在下にて、これと2,4−ペンタンジオンとを反応させることでトリフルオロメチル基がメチル基に置換された構造のμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を形成することができる(反応式中の“iBu”はイソブチル基を示す)。
【0043】
【化4】
【0044】
上記の非特許文献6を参考にした典型的な反応条件としては、特に限定されるわけではないが、以下のように例示される。非対称ビスβ−ジケトン(ジクロロメタンに代表される有機溶媒の溶液)とPd(II)2核錯体前駆体とを、それらの成分の質量比が約1:1となるように、10℃〜50℃の範囲内(室温前後)で、1時間から5日間程度の適当な期間にわたって攪拌する。この反応物を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィによりジクロロメタン等の有機溶媒によって溶離し、不純物を分離することによってヘキサフルオロ生成物(R体及びS体のラセミ混合物)を得ることができる。次いで、このヘキサフルオロ生成物に対し、3〜6当量程度のトリエチルアミン等の塩基の存在下、ジクロロメタンに代表される有機溶媒中で、約2当量の2,4−ペンタンジオンを例えば2時間〜40時間反応させることによって、トリフルオロメチル基がメチル基に置換された所望の構造のラセミ混合物を得ることができる。例えばヘキサンとジクロロメタンの体積比3:1〜5:1程度(特に好ましくは4:1程度)の混合物を用い、キラルカラムを通してこのラセミ混合物を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体である目的のキラルドーパントを得ることができる。
【0045】
本発明の液晶組成物は、上記キラルドーパント及び液晶物質を含む。
この液晶組成物において用いられる液晶物質としては、ネマティック相、スメクチック相又はコレステリック相を示す液晶化合物が挙げられる。
【0046】
ネマチック相を示すホスト液晶化合物の非限定的な例としては、4,4’−ジメトキシアゾキシベンゼン、N−(4−メトキシベンジリデン)−4’−n−ブチルアニリン、4−シアノ−4’−n−ペンチルビフェニル、4−置換安息香酸4−置換フェニル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4−置換フェニル、4−置換シクロヘキサンカルボン酸4’−置換ビフェニリル、4−(4−置換シクロヘキサンカルボニルオキシ)安息香酸4−置換フェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4−置換フェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)安息香酸4−置換シクロヘキシル、4,4’−置換ビフェニル、1−(4−置換シクロヘキシル)−4−置換ベンゼン、4,4’−置換ビシクロヘキサン、1−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4−置換ベンゼン、1−(4−置換シクロヘキシル)−2−(4−置換シクロヘキシル)エタン、4,4”−置換ターフェニル、4−(4−置換シクロヘキシル)−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−(4−置換フェニル)−4’−置換ビシクロヘキサン、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]−4’−置換ビフェニル、4−[2−(4−置換シクロヘキシル)エチル]シクロヘキシル−4’−置換ベンゼン、4−[2−(4−置換フェニル)エチル]−4’−置換ビシクロヘキサン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−置換ベンゼン、1−(4−置換フェニルエチニル)−4−(4−置換シクロヘキシル)ベンゼン、2−(4−置換フェニル)−5−置換ピリミジン、2−(4’−置換ビフェニリル)−5−置換ピリミジン及び上記各化合物においてベンゼン環が光学的に許容される置換基を有する各種誘導体を挙げることができる。
【0047】
これらのネマチック相を示すホスト液晶化合物の具体例としては、以下の「化5」〜「化21」の化合物群が挙げられる。下記式中、「化5」においてnは3〜8の整数、「化6」においてnは4〜8の整数である、「化7」においてnは6〜8の整数、「化8」においてnは3,5〜8,10のうちのいずれかの整数、「化9」においてnは3,5,7,9,10のうちのいずれかの整数、「化10」においてnは3,4,6,7のうちのいずれかの整数、「化11」においてnは3,4,6,8のうちのいずれかの整数、「化12」においてnは2〜4のうちのいずれかの整数、「化13」においてnは2〜7のうちのいずれかの整数、「化14」においてnは3,5のうちのいずれかの整数、「化17」においてnは5,7のうちのいずれかの整数、「化18」においてnは4,6のうちのいずれかの整数、「化19」においてnは4,6,8のうちのいずれかの整数、「化20」においてnは6、「化21」においてnは3,5のうちのいずれかの整数である。
【0048】
【化5】
【0049】
【化6】
【0050】
【化7】
【0051】
【化8】
【0052】
【化9】
【0053】
【化10】
【0054】
【化11】
【0055】
【化12】
【0056】
【化13】
【0057】
【化14】
【0058】
【化15】
【0059】
【化16】
【0060】
【化17】
【0061】
【化18】
【0062】
【化19】
【0063】
【化20】
【0064】
【化21】
【0065】
スメクチック相を示すホスト液晶化合物の非限定的な例としては、ナフタレン系液晶、フェニルピリミジン系液晶、フェニルベンゾエート系液晶、三環系ジフェニルピリミジン系液晶、シクロヘキシルフェニルチアジアゾール系液晶、シクロヘキシルフェニルピリミジン系液晶、及びこのフッ素化誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
これらのスメクチック相を示すホスト液晶化合物の具体例としては、以下の「化22」の化合物(フェニルピリミジン系液晶)、「化23」の化合物(フェニルベンゾエート系液晶)が挙げられる。下記式中、式[H−1]においてR、Rは炭素数3〜18のアルキル基またはアルコキシ基、式[H−2]においてR、Rは炭素数3〜18のアルキル基またはアルコキシ基を示す。
【0067】
【化22】
【0068】
【化23】
【0069】
コレステリック相を示すホスト液晶化合物の具体例としては、特に限定されるわけではないが、以下の「化24」〜「化32」の化合物群が挙げられる。
【0070】
【化24】
【0071】
【化25】
【0072】
【化26】
【0073】
【化27】
【0074】
【化28】
【0075】
【化29】
【0076】
【化30】
【0077】
【化31】
【0078】
【化32】
【0079】
本発明に使用できる液晶物質は、上記の例示物質に限定されるものではなく、また、上記例示物質の2種以上もしくはそれ以外の液晶物質をブレンドして使用することも可能である。
【0080】
本発明の液晶組成物は、ネマチック相を示すホスト液晶化合物を用いた場合に、上記のキラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によりコレステリック相が形成されるものであることが好ましい。この液晶組成物は、種々の用途に適用されうるが、典型的には液晶素子のために使用される。
【0081】
本発明の液晶組成物における上記キラルドーパントの割合は、特に限定されるものではないが、通常0.01質量%〜20質量%、好ましくは0.1質量%〜5質量%であってよい。キラルドーパントの割合が0.01質量%以上であることによって、液晶物質にらせんねじり力を与えることが可能となる。また、キラルドーパントの割合は、らせんねじり力付与効果の促進及びコスト抑制のバランスの観点から、20質量%以下であることが好ましい。
【0082】
また、本発明の液晶組成物における上記液晶物質の割合は、特に限定されるものではないが、液晶特性の発現の観点から、通常10質量%〜99.99質量%、好ましくは20質量%〜99.99質量%、より好ましくは30質量%〜99.99質量%、典型的には50質量%〜99.99質量%である。
【0083】
本発明の液晶組成物において、上記のキラルドーパントのらせんねじり力(H.T.P)の絶対値は、0(100・μm−1・質量%−1)超であり、好ましくは4(100・μm−1・質量%−1)超であり、より好ましくは5(100・μm−1・質量%−1)以上であり、更により好ましくは10(100・μm−1・質量%−1)以上であり、最も好ましくは20(100・μm−1・質量%−1)以上である。また、上記のキラルドーパントのらせんねじり力(H.T.P)の絶対値は、合成可能性の観点から、通常500(100・μm−1・質量%−1)以下である。特に、一般式(1)におけるRがHの場合に、10(100・μm−1・質量%−1)以上のらせんねじり力(H.T.P)の絶対値が得られることが多い。なお、ここでのらせんねじり力(H.T.P;単位:100・μm−1・質量%−1)は、公知のカノくさび(Cano‘s wedge)法により偏光顕微鏡観察を用いて求めた25℃でのらせんピッチP25(μm)及びキラルドーパント濃度(質量%)に基づいて、下記式から算出される。
25(μm) = 1/(H.T.P (100・μm−1・質量%−1)× c(質量%))
【0084】
本発明の液晶組成物は、通常、淡黄色を呈する。このように淡黄色を呈色であることによって、当該組成物の適用分野がより広がることが期待される。
【0085】
本発明の液晶組成物は、用途に応じて、上記成分の他、しきい値電圧、ネマティックレンジ、Δn、誘電率異方性、粘度等を調整する目的で、本発明の目的を害さない範囲で他の化合物を適当量含有することができる。これらの他の化合物は、当業者によく知られており、文献等に詳細に記載されている。
【0086】
本発明の液晶組成物は、メロシアニン系、スチリル系、アゾ系、アゾメチン系、アゾキシ系、キノフタロン系、アントラキノン系及びテトラジン系等の二色性色素を添加して、ゲストホスト(GH)モード用の液晶組成物としても使用することができる。あるいは、ネマチック液晶をマイクロカプセル化して作製したNCAPや液晶中に三次元網目状高分子を作製したポリマーネットワーク液晶表示素子(PNLCD)に代表されるポリマー分散型液晶表示素子(PNLCD)用の液晶組成物としても、本発明の液晶組成物を使用することができる。その他、複屈折制御(ECB)モードや動的散乱(DS)モード用の液晶組成物としても、本発明の液晶組成物を使用することができる。
【0087】
本発明の液晶組成物は、公知の方法に従って調製される。
調製方法としては、特に限定されるわけではないが、通常、使用される諸成分を高められた温度で互いに溶解させる方法がとられている。
【実施例】
【0088】
以下、実施例により本発明を例証するが、これらの実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0089】
[合成例1]
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2,4−ペンタンジオナトパラジウム(II))の合成
Pd(II)2核錯体前駆体であるジ(μ−メトキシ)−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))と非対称ビスβ−ジケトンである1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタナト)エタンとを、それらの成分の質量比が1:1となるように、室温で、3日間にわたって攪拌した。得られた溶液を、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィによりジクロロメタンによって溶離し、各成分を分別することでR体及びS体のラセミ混合物の形態であるμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を得た。この錯体に対し、5等量のトリエチルアミンの存在下で2当量の2,4−ペンタンジオンをジクロロメタン溶媒中で24時間反応させて、μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2,4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を得た。この錯体の構造は、以下の式によって示されるものである。式中、各ジケトナト部位における半円は、二重結合の互変異性を示し、また、“iBu”はイソブチル基を示す(以下でも同様)。
【0090】
【化33】
【0091】
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2,4−ペンタンジオナトパラジウム(II))の構造は、プロトンNMR及び質量スペクトルにより確認された。シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)によって分別されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2,4−ペンタンジオナトパラジウム(II))のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を各ピークにデコンボリューション(deconvolution)したもの、及び計算された電子吸収スペクトルを、図1(a)及び(b)にそれぞれ示す。この実測データ及び計算データの比較からも、実際に目的化合物が得られたことが確認された(図1(a)の実測データにおいて、所望の生成物に特有のスペクトル曲線を矢印で指した)。
【0092】
ヘキサンとジクロロメタンの体積比4:1の混合物を用い、キラルカラム(内径4mm×25cm:株式会社ダイセル製)を通して、R体及びS体のラセミ混合物の形態であるμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(2,4−ペンタンジオナトパラジウム(II))を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離によって、二つの一部が重なるピークが示された。これらのピークの円偏光二色性スペクトル:CDスペクトルを記録した。本合成例で実際に観測されたCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)、並びに計算によるCDスペクトル(R体)を、図2(a)及び(b)にそれぞれ示す。この実測データ及び計算データの比較からも、実際にR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0093】
[合成例2]
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(3,5−ヘプタンジオナトパラジウム(II))の合成
2,4−ペンタンジオンを3,5−ヘプタンジオンに変更した以外は、合成例1と同様に反応を行い、以下の式で示される構造を有するμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(3,5−ヘプタンジオナトパラジウム(II))のR体及びS体のラセミ混合物を得た。
【0094】
【化34】
【0095】
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(3,5−ヘプタンジオナトパラジウム(II))の構造は、プロトンNMR及び質量スペクトルにより確認された。シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)によって分別されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(3,5−ヘプタンジオナトパラジウム(II))のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を各ピークにデコンボリューションしたものを、図3(a)に示す(図中、所望の生成物に特有のスペクトル曲線を矢印で指した)。
【0096】
次いで、上記同様、キラルカラムを用いてこのラセミ混合物を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離にて観測された一部が重なる二つのピークのCDスペクトルを記録した。本合成例で実際に観測されたCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)を、図3(b)に示す。これら電子吸収スペクトル及びCDスペクトルのデータから、実際に目的化合物が得られたこと、並びにR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0097】
[合成例3]
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジフェニルプロパンジオナトパラジウム(II))の合成
2,4−ペンタンジオンを1,3−ジフェニルプロパンジオンに変更した以外は、合成例1と同様に反応を行い、以下の式で示される構造のμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジフェニルプロパンジオナトパラジウム(II))のR体及びS体のラセミ混合物を得た。
【0098】
【化35】
【0099】
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジフェニルプロパンジオナトパラジウム(II))の構造は、プロトンNMR及び質量スペクトルによって確認された。シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)によって分別されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジフェニルプロパンジオナトパラジウム(II))のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を図4(a)に示す。
【0100】
次いで、上記同様、キラルカラムを用いてこのラセミ混合物を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離にて観測された一部が重なる二つのピークのCDスペクトルを記録した。本合成例で実際に観測されたCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)を図4(b)に示す。これら電子吸収スペクトル及びCDスペクトルのデータから、実際に目的化合物が得られたこと、並びにR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0101】
[合成例4]
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジ(4−オクトキシフェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))の合成
2,4−ペンタンジオンを1,3−ジ(4−オクトキシフェニル)プロパンジオンに変更した以外は、合成例1と同様に反応を行い、以下の式で示される構造のμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジ(4−オクトキシフェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のR体及びS体のラセミ混合物を得た。
【0102】
【化36】
【0103】
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジ(4−オクトキシフェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))の構造は、プロトンNMR及び質量スペクトルにより確認された。シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)によって分別されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジ(4−オクトキシフェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を図5(a)に示す。
【0104】
次いで、上記同様、キラルカラムを用いてこのラセミ混合物を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離にて観測された一部が重なる二つのピークのCDスペクトルを記録した。本合成例で実際に観測されたCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)を、図5(b)に示す。これら電子吸収スペクトル及びCDスペクトルのデータから、実際に目的化合物が得られたこと、並びにR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0105】
[合成例5]
アゾ基含有Pd(II)2核錯体:μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジメチル−2−(4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))の合成
2,4−ペンタンジオンを4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオンに変更した以外は、合成例1と同様に反応を行い、以下の式で示される構造のμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジメチル−2−(4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のトランス体について、R体及びS体のラセミ混合物を得た。
【0106】
【化37】
【0107】
μ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジメチル−2−(4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のトランス体の構造は、プロトンNMR及び質量スペクトルにより確認された。シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)によって分別されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジメチル−2−(4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のトランス体のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を図6(a)に示す。
【0108】
次いで、上記同様、キラルカラムを用いてこのラセミ混合物(トランス体)を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離にて観測された一部が重なる二つのピークのCDスペクトルを記録した。本合成例で実際に観測された、トランス体についてのCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)を、図6(b)に示す。これら電子吸収スペクトル及びCDスペクトルのデータから、実際に目的化合物が得られたこと、並びにR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0109】
この光学分割されたμ−1,2−ジアセチル−1,2−ビス(3−メチルブタノイル)エタナト−ビス(1,3−ジメチル−2−(4−(4−ブトキシフェニルアゾ)フェニル)プロパンジオナトパラジウム(II))のトランス体に対して波長350nmの光線を照射することによって、光異性化が起こり、シス体が得られることが観測された。また、このシス体に波長450nmの光線を照射することによって、逆の光異性化が起こり、もとのトランス体が得られることが観測された。この光異性化は、図7(a)に示されるように、ジクロロメタン溶液中の電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)の可逆的な経時変化によって明らかにされた。更に、この光異性化は、図7(b)に示されるように、トランス体のジクロロメタン溶液の試料に対して波長350nmの光線を照射した後に、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィ(HPLC)に通したときのピークの変化からも明らかに把握された。図7(c)に示されるように、シス体のCDスペクトル(R体及びS体)は、トランス体からの光異性化の前後で顕著な変化がなかった。
【0110】
[比較合成例1]
μ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(6−メチルヘプタン−2,4−ジオナトパラジウム(II))の合成(非特許文献6に記載の方法による合成例)
非特許文献6に記載の条件の下、Pd(II)2核錯体前駆体であるジ(μ−メトキシ)−ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2.4−ペンタンジオナトパラジウム(II))と対称ビスβ−ジケトンである1,1,2,2−テトラアセチルエタンとを、それらの成分の質量比が約1:1となるように、室温で3日間にわたって攪拌した。得られた溶液から、シリカゲルを充填したカラムクロマトグラフィによりジクロロメタンによって不純物を取り除いてμ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(ヘキサフルオロアセチルアセタトパラジウム(II))を形成した。次いで、この末端を非対称β−ジケトンである6−メチルヘプタン−2,4−ジオンで置換することによって、以下の式で示される構造のμ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(6−メチルヘプタン−2,4−ジオナトパラジウム(II))を得た。この化合物は、非特許文献6に示されているようにプロトンNMR、質量スペクトル、X線分析により同定された。収率は63%であった。得られたμ−1,1,2,2−テトラアセチルエタナト−ビス(6−メチルヘプタン−2,4−ジオナトパラジウム(II))のジクロロメタン溶液について観測された電子吸収スペクトル(紫外−可視光線スペクトル)を図8(a)に示す。
【0111】
【化38】
【0112】
次いで、上記同様、キラルカラムを用いてこのラセミ混合物を光学分割することによって、実質的にR体及びS体の鏡像異性体をそれぞれ得た。キラルカラムによる溶離にて観測された一部が重なる二つのピークのCDスペクトルを記録した。この比較合成例で実際に観測されたCDスペクトル(1つ目のピークであるP1(R体)及び2つ目のピークであるP2(S体)のCDスペクトルを含む)を、図8(b)に示す。これら電子吸収スペクトル及びCDスペクトルのデータから、実際に目的化合物が得られたこと、並びにR体及びS体の各々の光学異性体への光学分割が高純度にて達成されたことが証明された。
【0113】
[液晶組成物の製造及び観察]
ホスト液晶物質としてネマチック液晶MBBA(N−(4−メトキシベンジリデン)−4−ブチルアニリン)を使用した。上記の合成例1〜5(合成例5についてはトランス体及び光異性化されたシス体)並びに比較合成例1の各々のキラルドーパント(R体)について、MBBAにそれらのドーパントを0.2質量%になるように加え、更に少量のクロロホルムを加えて攪拌した。その後エバポレーターで約60℃にて溶媒を除き、均一に溶けた液晶組成物を製造した。合成例1〜5の各々のキラルドーパントから得られた液晶組成物は、淡黄色に呈色していることが視認された。
【0114】
[誘起CD効果の観測]
合成例3については、キラルドーパント(S体)からも、キラルドーパント(R体)と同様に液晶組成物を製造した。合成例3のキラルドーパント(S体)及び(R体)のそれぞれから得られた液晶組成物を無配向石英セルに注入し、25℃にてCD測定を行った結果を、図9(a)に示す。その結果、コレステリック相の形成に伴い大きなCDが誘起されることが確認された。また、キラルドーパント(S体)から得られた液晶組成物とキラルドーパント(R体)から得られた液晶組成物の誘起CD効果の波形は、対称に近い形態であった。
【0115】
[カノくさび法の実施]
合成例1〜5及び比較合成例1の各々から得られた液晶組成物に対して、公知のカノくさび法により、10μmのスペーサーを用い、偏光顕微鏡観察にて観測した25℃でのらせんピッチP25(μm)及びキラルドーパント濃度(0.2質量%)に基づいて、らせんねじり力であるH.T.P.(100・μm−1・質量%−1)を求めた。
【0116】
合成例3についてのカノくさび法の実施において、ドーパントのモル濃度(%)とらせんピッチ(μm)との関係を図9(b)に例示する。ドーパントのモル濃度の増大につれてらせんピッチが減少したことが把握される。ドーパントのモル濃度が約0.1モル%である場合(i)と、ドーパントのモル濃度が約0.5モル%である場合(ii)のそれぞれについての偏光顕微鏡写真を図9(c)に例示する。この偏光顕微鏡写真から、らせんピッチの減少が明確に視認された。
【0117】
[らせんねじり力の比較]
各合成例及び比較合成例について、らせんねじり力であるH.T.P.の結果(β、単位:100・μm−1・質量%−1)は、それぞれ以下のとおりであった。比較合成例では、らせんねじり力は得られなかった。合成例4において、最も大きならせんねじり力が得られた。
・合成例1:β=−23
・合成例2:β=−25
・合成例3:β=−33
・合成例4:β=−47
・合成例5(トランス体):β=+7
・合成例5(シス体):β=+5
・比較合成例1:β=0(ゼロ)
【0118】
[光異性化による誘起CD効果の変化]
合成例5のトランス体のキラルドーパント(R体)から得られた液晶組成物に対して、波長350nmの光線を照射してシス体に光異性化させ、更にその後に波長450nmの光線を照射してもとのトランス体に光異性化させた場合のCD測定を行った。その結果を図10に示す。これによって、光異性化の前後で、誘起CD効果の有意な経時変化が観測されることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明に従う軸性キラリティを有する平面正方形型Pd(II)2核錯体は、液晶物質に対するらせんねじり力(H.T.P.)を有するため、新規なキラルドーパントして有用である。このキラルドーパント及び液晶物質を含む液晶組成物は、キラルドーパントの誘起CD(円偏光二色性)効果によるコレステリック相形成能を有する。また、この液晶組成物は、通常淡黄色を呈する。従って、この新規なキラルドーパントは、種々の電気・電子機器において、液晶物質に対する誘起CD効果の付与及びその制御、並びに所望の色彩の付与及びその調節のために幅広く適用可能であると期待される。
図1(a)】
図1(b)】
図2(a)】
図2(b)】
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6(a)】
図6(b)】
図7(a)】
図7(b)】
図7(c)】
図8(a)】
図8(b)】
図9(a)】
図9(b)】
図9(c)】
図10