【解決手段】モータ5と、モータ5の回転を減速して出力する遊星歯車機構71と、遊星歯車機構71より出力される回転力によりドアを開閉可能とする出力部材721と、遊星歯車機構71より出力される回転力を出力部材721に伝達可能な回転力伝達経路に設けられ、出力部材721に回転方向のブレーキ力を付与することにより、ドアを中間の開閉位置に保持可能とするブレーキ機構17とを備えるものとする。
前記減速機構は、前記モータの回転を漸次段階的に減速して前記出力部材に伝達可能な複数段の減速機構よりなり、これら複数段の減速機構のうち、前記モータに最も近い減速機構より出力される回転力を後段の減速機構に伝達可能な回転力伝達経路に、前記ブレーキ機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載のパワードア開閉装置。
前記モータに最も近い減速機構は、前記モータの回転軸に連結されたサンギヤ、前記サンギヤに噛合するプラネタリギヤ及び当該プラネタリギヤにより減速回転させられ、前記出力部材に駆動力を伝達可能なリングギヤを含む遊星歯車機構であり、
前記ブレーキ機構は、前記リングギヤの側面と対向するとともに、前記リングギヤに対し回転不能な円板状のフリクションプレートと、前記フリクションプレートを前記リングギヤ方向に付勢することにより、当該リングギヤの側面に前記フリクションプレートを摩擦接触させる付勢手段とを備えることを特徴とする請求項2に記載のパワードア開閉装置。
前記付勢手段を、前記フリクションプレートと当該フリクションプレートと対向する不動のばね受け部材との間に設けたウェーブワッシャとしたことを特徴とする請求項3に記載のパワードア開閉装置。
前記付勢手段を、前記フリクションプレートと当該フリクションプレートと対向する不動のばね受け部材との間に設けた皿ばねとしたことを特徴とする請求項3に記載のパワードア開閉装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載のパワードア開閉装置によりバックドアを開閉する際には、バックドアを開く際の駆動力を軽減するために、バックドアを開方向に付勢するガススプリング(ガスストラット)が使用されるのが一般的である。このようなガススプリングを使用すると、次のような問題が発生することがある。
【0005】
車内に荷物を出し入れする際等において、バックドアを必ずしも全開位置まで開く必要がない場合もあるが、バックドアは、ガススプリングの付勢力により常に開方向に付勢されているので、バックドアの開閉操作を途中で中止した場合に全開位置まで開かれてしまい、任意の中間開閉位置に保持することができないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1に記載のパワードア開閉装置を、車体の側面に設けられるスライドドアの開閉に適用した際には、次のような課題が生じるおそれがある。
例えば車両を坂道等で停車させ、この状態でスライドドアを中間位置まで開閉した際に、スライドドアが自重により全閉または全開方向に移動してしまい、中間開閉位置に保持することができないという問題がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、ドアを任意の中間開閉位置に保持しうるようにしたパワードア開閉装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
第1の発明は、モータと、前記モータの回転を減速して出力する減速機構と、前記減速機構より出力される回転力によりドアを開閉可能とする出力部材と、前記減速機構より出力される回転力を前記出力部材に伝達可能な回転力伝達経路に設けられ、前記出力部材に回転方向のブレーキ力を付与することにより、前記ドアを中間の開閉位置に保持可能とするブレーキ機構とを備えることを特徴としている。
【0009】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記減速機構は、前記モータの回転を漸次段階的に減速して前記出力部材に伝達可能な複数段の減速機構よりなり、これら複数段の減速機構のうち、前記モータに最も近い減速機構より出力される回転力を後段の減速機構に伝達可能な回転力伝達経路に、前記ブレーキ機構を設けたことを特徴としている。
【0010】
第3の発明は、上記第2の発明において、前記モータに最も近い減速機構は、前記モータの回転軸に連結されたサンギヤ、前記サンギヤに噛合するプラネタリギヤ及び当該プラネタリギヤにより減速回転させられ、前記出力部材に駆動力を伝達可能なリングギヤを含む遊星歯車機構であり、前記ブレーキ機構は、前記リングギヤの側面と対向するとともに、前記リングギヤに対し回転不能な円板状のフリクションプレートと、前記フリクションプレートを前記リングギヤ方向に付勢することにより、当該リングギヤの側面に前記フリクションプレートを摩擦接触させる付勢手段とを備えることを特徴としている。
【0011】
第4の発明は、上記第3の発明において、前記付勢手段を、前記フリクションプレートと当該フリクションプレートと対向する不動のばね受け部材との間に設けたウェーブワッシャとしたことを特徴としている。
【0012】
第5の発明は、上記第3の発明において、前記付勢手段を、前記フリクションプレートと当該フリクションプレートと対向する不動のばね受け部材との間に設けた皿ばねとしたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、減速機構より出力される回転力を出力部材に伝達可能な回転力伝達経路に、出力部材に回転方向のブレーキ力を付与するブレーキ機構を設けたことにより、パワードア開閉装置を、例えばガススプリング等の上向き付勢手段を有するバックドアの開閉に適用した際には、開かれたバックドアが、ガススプリングの付勢力により開方向へ移動させられるのが防止され、バックドアを任意の中間開閉位置に保持することが可能となる。
また、パワードア開閉装置を、例えば車体の側面に設けられるスライドドアの開閉に適用した際には、中間位置まで開閉されたスライドドアを、ブレーキ機構の作用により、その中間開閉位置に停止して保持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るパワードア開閉装置を備える車両を斜め後方から見た斜視図であり、車体1の後上部には、バックドア2が、左右1対のドアヒンジ3により上下方向に開閉可能に支持されている。バックドア2は、車体1の後部開口を閉塞する全閉位置(
図1の実線で示す位置)と、後端部が跳ね上げられて後部開口を開放する全開位置(
図1の2点鎖線で示す位置)とに開閉可能となっている。
【0016】
バックドア2が全閉位置にあるときには、バックドア2の下部中央に設けられたドアラッチ装置(図示略)が、車体1側のストライカ(図示略)に係合することにより、バックドア2は全閉位置に保持される。
【0017】
車体1とバックドア2との間には、上端部がバックドア2に、下端部が車体1にそれぞれ枢着された左右1対のガススプリング21、21が設けられ、この左右のガススプリング21の上向き付勢力によりバックドア2は開方向に付勢され、バックドア2を電動で開く際の駆動力や、手動で開く際の操作力が軽減されるようになっている。
【0018】
車体1における後部開口の上方には、バックドア2を自動で開閉させるためのパワードア開閉装置4が装着されている。なお、以下の説明においては、
図2、
図4の左方を「左」、同じく右方を「右」とする。
【0019】
図2〜
図5に示すように、パワードア開閉装置4は、全体形状が横長のほぼ円筒状をなし、円筒中心軸線が車両の左右方向(
図2において左右方向)を向くようにして車体1に取り付けられる。パワードア開閉装置4は、モータ5と、モータ5から入力される駆動力を出力軸6に伝達する伝達機構7とを備えている。
【0020】
モータ5は、左側面が開口する円筒形のモータケース51と、モータケース51に収容された回転子52と、回転子52に接続された回転軸53とを備えている。
【0021】
伝達機構7は、モータ5側から順に、第1の減速機構を構成する第1遊星歯車機構71と、トルクリミッタ機構72と、第2の減速機構を構成する第2遊星歯車機構73とを備え、これらの各機構は、モータ5の回転軸53の中心軸線上に並んでいる。第1遊星歯車機構71は、右端部がモータケース51にねじにより固定された円筒形のギヤケース8内に収容され、第2遊星歯車機構73は、左側の円筒形のギヤケース9内に収容されている。ギヤケース8の外周面には、パワードア開閉装置4の右側部を車体1に取り付けるためのブラケット10が一体成形されている。ギヤケース9は、外周部の4箇所が、パワードア開閉装置4の左側部を車体1に取り付けるためのブラケット11と、ギヤケース8の外周部とに、4本のボルト12によりそれぞれ固定されている(
図2、
図3参照)。
【0022】
図4、
図5及び
図9に示すように、第1遊星歯車機構71は、ギヤケース8内に回転不能に支持されたプラネタリキャリア711と、左端部がプラネタリキャリア711の中心孔711aに回転自在に枢支され、右端部がモータ5の回転軸53に相対回転不能に差し込まれることにより連結されたサンギヤ712と、このサンギヤ712に噛合する2個のプラネタリギヤ713、713と、ギヤケース8内に回転自在に設けられ、内周面に内歯車714aが形成されたリングギヤ714とを備えている。リングギヤ714の左側面の中心には、左方に突出する小径筒部714bが設けられ、この小径筒部714bの内周面には、リングギヤ714の回転をトルクリミッタ機構72に伝達可能な内歯車714cが形成されている。
【0023】
2個のプラネタリギヤ713は、それぞれ、サンギヤ712に噛合する大径歯車713aと、リングギヤ714の内歯車714aに噛合する小径歯車713bよりなり、両プラネタリギヤ713は、プラネタリキャリア711とギヤケース8とにより両端部が支持された、サンギヤ712と平行をなす左右方向の支持軸715、715によりそれぞれ回転自在に枢支されている。
【0024】
モータ5の駆動力が回転軸53を介してサンギヤ712に入力されると、2個のプラネタリギヤ713は、支持軸715を中心として同方向に回転し、プラネタリギヤ713の小径歯車713bに噛合しているリングギヤ714が、モータ5の回転軸線を中心として減速回転させられる。
【0025】
図4〜
図8に示すように、トルクリミッタ機構72は、第1遊星歯車機構71と第2遊星歯車機構73との間、すなわち複数段の減速機構のうち、モータ5に最も近い第1遊星歯車機構71より出力される回転力を後段の第2遊星歯車機構73に伝達可能な回転力伝達経路に設けられている。
トルクリミッタ機構72は、第1遊星歯車機構71からの回転力を出力する合成樹脂製の出力部材721と、出力部材721の回転力を第2遊星歯車機構73に出力する金属製の中間出力軸722と、中間出力軸722の右側部に相対回転不能に嵌着されるトレランスリング723とを備えている。中間出力軸722の左端部は、第2遊星歯車機構73に駆動力を伝達する後述の1段目サンギヤ731となっている。なお、中間出力軸722と1段目サンギヤ731とを別体とし、それらを相対回転不能に連結してもよい。
【0026】
出力部材721の右側部には、リングギヤ714の内歯車714cと噛合する出力ギヤ部721aが一体的に形成されている。また、出力部材721の左側の中心部には、左側方に開口する軸孔721bが形成され、この軸孔721bには、中間出力軸722の右端部とそれに嵌着されたトレランスリング723が左方より嵌合される円筒形の金属製カラー724が、出力部材721に対し相対回転不能として嵌合されている。なお、出力部材721を金属製とした際には、カラー724を省略することもできる。
【0027】
トレランスリング723は、ばね鋼等よりなる肉薄の帯板を円筒形または円周方向の一部が切断された欠円筒形に形成したもので、溶接または圧入によって中間出力軸722に回転不能に固着されている。トレランスリング723の外周面には、長手方向を向く複数の摩擦突起723aが、円周方向に所定間隔おきに形成されている。この摩擦突起723aは、トレランスリング723の外周面を、周方向に一定間隔おきに半径方向外側に膨出させることにより形成されている。
【0028】
図8に示すように、中間出力軸722と共にトレランスリング723をカラー724に嵌合すると、各摩擦突起723aの外周面がカラー724の内周面に所定の摩擦力をもって接触し、パワードア開閉装置4の通常の作動状態においては、出力部材721と中間出力軸722とが相対回転不能に接続され、出力部材721の回転力が中間出力軸722に伝達可能となる。一方、中間出力軸722に、摩擦突起723aとカラー724との摩擦力を超える回転負荷(トルク)が入力された際には、互いの接触部に滑りが発生し、出力部材721と中間出力軸722とが相対回転することにより、第1遊星歯車機構71におけるリングギヤ714の回転力が中間出力軸722に伝達不能となる。なお、摩擦突起723aとカラー724との摩擦力は、バックドア2の質量等に応じて最適に設定される。
【0029】
出力部材721の左側部には、小径部721cが形成され、この小径部721cには、出力部材721と一体回転するリング状の磁気回転センサ13が嵌合されている(
図5参照)。なお、磁気回転センサ13と後述するセンサ基板15とにより、バックドア2の開閉位置や開閉方向が検出される。
【0030】
図2〜
図5に示すように、トルクリミッタ機構72の一部と磁気回転センサ13は、ギヤケース8とほぼ同外径の円筒状の中間ケース14内に収容されている。中間ケース14の左側面に形成された矩形の凹部141には、磁気回転センサ13の回転を検出するホール素子等のセンサ部(図示略)を有するセンサ基板15が嵌合されている。センサ基板15は、中間ケース14と、その左側面に当接して凹部141を閉塞する円板状のセンサカバー16とにより覆われている。中間ケース14とセンサカバー16の外周部の4箇所は、前述したギヤケース9と共に、ギヤケース8の左側部の外周部に4本のボルト12により固定されている。なお、固定後において、ギヤケース9と中間ケース14とセンサカバー16の中心は、モータ5の回転軸線と整合している。
【0031】
図4〜
図7に示すように、上記複数段の減速機構のうち、モータ5に最も近い第1遊星歯車機構71より出力される回転力を後段の第2遊星歯車機構73に伝達可能な回転力伝達経路には、バックドア2を任意の中間開閉位置に保持可能なブレーキ機構17が設けられている。ブレーキ機構17は、ほぼ円筒形をなす合成樹脂製のばね受け部材171と、付勢手段であるウェーブワッシャ172と、合成樹脂製のブレーキブッシュ173とからなっている。ばね受け部材171は、出力部材721の右側部に、当該出力部材721が回転可能なように、かつ出力ギヤ部721aが右方に突出するように遊嵌されている。ばね受け部材171は、その外周部の4箇所が、ギヤケース8の外周部の4箇所に、上述した中間ケース14とセンサカバー16と共にボルト12により回転不能に固定されている(
図3、
図4参照)。
【0032】
ブレーキブッシュ173は、ばね受け部材171内において出力部材721の右側部の小径部721dに相対回転可能に外嵌される円筒部173aと、その右端部に一体成形された、リングギヤ714の外径とほぼ等しい外径の円板状のフリクションプレート173bとを有し、フリクションプレート173bの右側面は、リングギヤ714の左側面に相対回転可能に接触するようになっている。
【0033】
図9に示すように、ばね受け部材171におけるブレーキブッシュ173の円筒部173aが嵌合される内周面には、左右方向を向く4個の凹溝171aが、円周方向に等間隔おきに形成され、これら4個の凹溝171aに、ブレーキブッシュ173の円筒部173aの外周面に形成された4個の突条173cを嵌合することにより、ばね受け部材171に対し、ブレーキブッシュ173は回転不能となっている。
【0034】
ウェーブワッシャ172は、ブレーキブッシュ173の円筒部173aの周りに嵌合されるとともに、ばね受け部材171とフリクションプレート173b間において圧縮された状態で組み付けられる。この際のウェーブワッシャ172の弾性反発力により、ブレーキブッシュ173はリングギヤ714方向に付勢され、フリクションプレート173bの右側面が、リングギヤ714の左側面に所定の摩擦力で圧接する。これにより、開かれたバックドア2が中間位置で保持可能となる。すなわち、バックドア2を電動または手動で開閉すると、バックドア2はガススプリング21の上向き付勢力により、開方向に移動しようとするが、回転止めされているブレーキブッシュ173のフリクションプレート173bと、リングギヤ714とは、ウェーブワッシャ172の付勢力により所定の摩擦力で接触しているので、リングギヤ714及びそれに連結された出力部材721には、回転方向のブレーキ力が作用する。
【0035】
このブレーキ力により、バックドア2にガススプリング21の付勢力が作用していても、バックドア2は開方向へ移動させられるのが防止され、任意の中間位置に停止して保持可能となる。なお、ウェーブワッシャ172によるブレーキ力、すなわちフリクションプレート173bとリングギヤ714との接触面の摩擦力は、ガススプリング21によるバックドア2の上向き付勢力よりも大きく、かつバックドア2を手動で開閉する際の操作力が過大とならないように、最小限に設定されている。
【0036】
図3〜
図5に示すように、前述したギヤケース9は、右側の円筒形の第1ケース91と、その左側の開口面を塞ぐ第2ケース92とからなり、第1ケース91と第2ケース92とは、互いの対向部が、円周方向の2箇所において結合されている。
【0037】
図4及び
図5に示すように、ギヤケース9内に収容された第2遊星歯車機構73は、第1遊星歯車機構71からトルクリミッタ機構72を介して出力される回転力を、出力軸6にさらに減速して出力するもので、2段の減速機構により構成されている。第1段目の減速機構は、前述したトルクリミッタ機構72の中間出力軸722と一体をなす1段目サンギヤ731と、この第1段目サンギヤ731に噛合する3個の1段目プラネタリギヤ732と、各1段目プラネタリギヤ732をモータ5の回転軸線と平行な軸733により回転自在に枢支する1段目プラネタリキャリア734と、各1段目プラネタリギヤ732が噛合する内歯車735aが内周面に形成されたリングギヤ735とを有している。
【0038】
また、第2段目の減速機構は、2段目サンギヤ736と、この2段目サンギヤ736に噛合する3個の2段目プラネタリギヤ737と、各2段目プラネタリギヤ737をモータ5の回転軸線と平行な軸738により回転自在に枢支する2段目プラネタリキャリア739とを有し、各2段目プラネタリギヤ737は、第1段目の減速機構と共通のリングギヤ735の内歯車735aに噛合している。リングギヤ735は、中心がモータ5の回転軸線と整合するように、ギヤケース9内に固定されている。
【0039】
1段目プラネタリキャリア734の中心孔に、2段目サンギヤ736の右端部を、セレーションを介して嵌合することにより、1段目プラネタリキャリア734と2段目サンギヤ736とは一体的に回転する。2段目プラネタリキャリア739は、リングギヤ735よりも左方のギヤケース9内に回転可能に収容されている。2段目プラネタリキャリア739の中心部に設けられた左方を向く円筒軸739aは、ギヤケース9における第2ケース92の側板92aに設けられた円筒軸92b内に回転自在に嵌合されている。2段目プラネタリキャリア739の円筒軸739aと出力軸6の右側部とは、セレーションにより連結され、2段目プラネタリキャリア739と出力軸6とが一体的に回転するようになっている。
【0040】
第1遊星歯車機構71からの回転力が、トルクリミッタ機構72を介して1段目サンギヤ731に減速されて入力されると、当該1段目サンギヤ731とリングギヤ735の内歯車735aとに噛合している3個の1段目プラネタリギヤ732が、自転しながら、モータ5の回転軸線を中心として公転する。各1段目プラネタリギヤ732が公転すると、1段目プラネタリキャリア734が減速されて回転するとともに、当該1段目プラネタリキャリア734にセレーションをもって連結されている2段目サンギヤ736も減速されて回転する。
【0041】
2段目サンギヤ736が減速されて回転すると、当該2段目サンギヤ736とリングギヤ735の内歯車735aとに噛合している3個の2段目プラネタリギヤ737が、自転しながら、モータ5の回転軸線を中心として公転する。これにより、2段目プラネタリキャリア739は、1段目プラネタリキャリア734よりもさらに減速されて回転する。
【0042】
2段目プラネタリキャリア739が減速回転すると、それにセレーションにより連結されている出力軸6、及びこの出力軸6におけるギヤケース9からの突出端部にボルト18により固定された駆動アーム19に、大きな回転力(回転トルク)が伝達される。駆動アーム19の遊端部には、球状ジョイント部191が設けられ、この球状ジョイント部191に連結されたロッド192は、ドアヒンジ3に連結される。
【0043】
次に、上記実施形態に係るパワードア開閉装置4の動作について説明する。
バックドア2が閉位置(または開位置)にあるとき、モータ5を作動させると、モータ5の回転軸53は正転(または逆転)し、回転軸53の回転は、第1遊星歯車機構71のサンギヤ712に入力されて、サンギヤ712と噛合するプラネタリギヤ713を介してリングギヤ714から減速されて出力される。なお、リングギヤ714が回転するのに伴って、その左側面に接触しているブレーキブッシュ173のフリクションプレート173bは摺動するので、リングギヤ714の回転が妨げられることはない。
【0044】
リングギヤ714から出力された回転力は、トルクリミッタ機構72を介して、第2遊星歯車機構73の1段目サンギヤ731に減速されて出力される。なお、この際、トルクリミッタ機構72の出力部材721と中間出力軸722とは、トレランスリング723の摩擦力により相対回転不能となっており、それらは接続状態にあるので、リングギヤ714の回転力が、中間出力軸722から第2遊星歯車機構73側へ支障なく伝達される。
【0045】
1段目サンギヤ731に出力された回転力は、1段目プラネタリギヤ732、1段目プラネタリキャリア734を介して、2段目サンギヤ736に、さらに減速されて伝達される。2段目サンギヤ736に伝達された回転力は、2段目プラネタリギヤ737を介して、2段目プラネタリキャリア739に、さらに減速されて伝達され、2段目プラネタリキャリア739の減速駆動力は、出力軸6を介して駆動アーム19に伝達される。これにより、駆動アーム19は、モータ5の回転軸線を中心に側面視時計方向(または反時計方向)へ所定角度回転し、駆動アーム19の端部に連結されたロッド192及びロッド192に連結されたドアヒンジ3を介して、バックドア2は閉位置(または開位置)から開方向(または閉方向)へ移動させられる。なお、ドア開閉スイッチ等の操作によりモータ5への通電を遮断すれば、バックドア2は手動で開閉することができる。
【0046】
バックドア2を中間位置まで開閉し、この位置においてモータ5への通電を遮断した場合や、バックドア2を手動により中間位置まで開閉し、その位置でバックドア2の開閉を停止したときには、ブレーキ機構17の作用により、バックドア2を中間位置に保持することができる。すなわち、前述したように、ブレーキブッシュ173のフリクションプレート173bは、ウェーブワッシャ172の付勢力により、第1遊星歯車機構71のリングギヤ714の左側面に所定の摩擦力で接触しているため、リングギヤ714及びそれに連結された出力部材721には、ガススプリング21によるバックドア2の上向き付勢力に打ち勝つ回転方向のブレーキ力が作用している。これにより、バックドア2が、ガススプリング21の付勢力により開方向へ移動させられるのが防止され、中間開閉位置に保持可能となる。
【0047】
モータ5によるバックドア2の開閉途中において、万一、バックドア2が障害物に接触して停止したり、バックドア2に開閉方向の大きな外力が加わったりした際には、トルクリミッタ機構72が作動する。すなわち、バックドア2にモータ5の駆動力を超える開閉方向の過大な負荷が加わると、トルクリミッタ機構72の中間出力軸722に固着されたトレランスリング723と、出力部材721に設けたカラー724との間にスリップトルクが作用し、出力部材721と中間出力軸722とが相対回転することにより、第1遊星歯車機構71の回転力が中間出力軸722に伝達不能となる。これにより、モータ5の駆動力が、第1遊星歯車機構71及びトルクリミッタ機構72を介して、第2遊星歯車機構73側に伝達されたり、バックドア2に加わる過大な外力(回転力)が、第2遊星歯車機構73及びトルクリミッタ機構72を介して、第1遊星歯車機構71及びモータ5側に伝達されるのが防止される。その結果、モータ5や、第1遊星歯車機構71及び第2遊星歯車機構73の各ギヤに過大な負荷が加わることがなくなり、モータ5及び各ギヤが損傷するのが防止される。
【0048】
以上説明したように、上記実施形態に係るパワードア開閉装置4においては、モータ5に最も近い第1遊星歯車機構71より出力される回転力を後段の第2遊星歯車機構73に伝達可能な回転力伝達経路に、リングギヤ714及びそれに連結された出力部材721の回転にブレーキ力を付与するブレーキ機構17を設けたことにより、開いたバックドア2が、ガススプリング21の付勢力により開方向へ移動させられるのが防止され、バックドア2を任意の中間開閉位置に保持することができる。また、ブレーキ力を付与する付勢手段に、ウェーブワッシャ172を使用しているので、ブレーキ機構17のモータ5の軸線方向の寸法を小とすることができ、パワードア開閉装置4の左右寸法(長さ)も小さくなる。
【0049】
また、ブレーキ機構17を、複数段の減速機構のうち、モータ5に最も近い第1遊星歯車機構71より出力される回転力を後段の第2遊星歯車機構73に伝達可能な回転力伝達経路に設けたことにより、ウェーブワッシャ172の付勢力が小さくても、バックドア2を中間の開閉位置に保持することができる。これは、モータ5に近い遊星歯車機構ほど、バックドア2側から伝達されるトルクが小さくなるためである。ウェーブワッシャ172の付勢力を小さくすると、モータ5に作用する駆動負荷を軽減することができる。
【0050】
第1遊星歯車機構71より出力される回転力を後段の第2遊星歯車機構73に伝達可能な回転力伝達経路に、トルクリミッタ機構72を設け、モータ5及びそれに接続された第1遊星歯車機構71の回転力を、トルクリミッタ機構72を介して、第2遊星歯車機構73及び出力軸6に伝達し、バックドア2を開閉するようにしたことにより、モータの回転力を電磁クラッチを介して減速機構に伝達するようにした従来のパワードア開閉装置に比して、小型・軽量化が可能となる。しかも、トルクリミッタ機構72は、第2遊星歯車機構73に駆動力を伝達する中間出力軸722に、トレランスリング723を固着し、このトレランスリング723を出力部材721のカラー724に嵌合しただけの簡単な構成であるので、トルクリミッタ機構72の径方向及び軸方向の寸法を最小限とすることができ、パワードア開閉装置4を小型化することができる。
【0051】
また、機械的なトルクリミッタ機構72であるので、従来のパワードア開閉装置のように、電磁クラッチ、及びそれをオン・オフするための制御装置や電気配線等が不要となるので、コスト低減が可能となる。
【0052】
さらに、トルクリミッタ機構72を設けると、従来の電磁クラッチを備えるパワードア開閉装置のように、ドアを開閉している途中に大きな外力が加わった際でも、モータや減速機構に過大な負荷が作用するというおそれがない。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(1)ブレーキ機構17の付勢手段を、ウェーブワッシャ172に代えて、
図6の2点鎖線で示すような皿ばね174とする。皿ばね174とした際にも、ブレーキ機構17の軸方向の寸法を小としうる。また、圧縮コイルばね等の付勢手段を用いることもできる。
(2)トルクリミッタ機構72を省略する。この際には、出力部材721と一体をなす1段目サンギヤ731を、リングギヤ714の小径筒部714bに相対回転不能に接続する。
(3)第2遊星歯車機構73を省略し、第1遊星歯車機構71のみの減速機構とする。この際には、中間出力軸722を左方に延長させて、この中間出力軸722をドアを開閉する出力部材とする。また、トルクリミッタ機構72も省略したときには、出力部材721を左方に延長させて、この出力部材721の側端部に出力軸6を連結するか、出力部材721自体をドアを開閉する出力軸とする。
(4)2段の第2遊星歯車機構73を、1段の遊星歯車機構とする。
(5)減速機構を、第1、第2遊星歯車機構に代えて、サイクロイド減速機構に変更する。
(6)ブレーキ機構17を、出力軸6と第2遊星歯車機構73との間に設ける。この際、例えば第2遊星歯車機構73を、第1遊星歯車機構71と同様に、減速回転するリングギヤを有するものとする。
(7)本発明に係るパワードア開閉装置4を、バックドア2に代えて、車体の側面に開閉可能に支持されるスライドドアやスイングドアの開閉に適用する。この際にも、ブレーキ機構17の作用により、中間位置まで開いたスライドドアやスイングドアを、その位置に保持することができる。