【課題】流量センサの差圧検出素子に対して過大な応力が加わっても、流量センサの差圧検出素子の支持部や梁部が弾性状態の限度を超えず、かつ、弾性状態において流体の流量を正確に測定することができる流量センサを提供する。
流量センサは、流体の流量に応じて弾性変形可能であると共に、ピエゾ抵抗層を有する梁部を備えた差圧検出素子と、梁部の弾性変形の軌道上に設けられた制止用突起部と、を具備しており、制止用突起部が梁部に当接することにより、梁部の弾性変形方向への自由な動きを制止する。
前記壁体の一部に、前記開口部の第1のシリコン層を露出する凹部を設け、前記露出した第1のシリコン層に、前記差圧検出素子とリード接続される電極を備えることを特徴とする請求項2に記載する流量センサ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の範囲は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。また、以下の図面においては、各構成をわかりやすくするために、実際の構造と各構造における縮尺や数等を異ならせる場合がある。
【0014】
なお、以下の説明においてはXYZ座標系を設定し、このXYZ座標系を参照しつつ各部材の位置関係を説明する。この際、第1のシリコン層81、酸化シリコン層82、第2のシリコン層83(
図3(b)参照)の積層方向をZ軸方向、Z軸方向と直交し、流量センサの平面視(
図3(a)参照)における支持部26から梁部27に向かって延在する方向をX軸方向、Z軸方向及びX軸方向の両方と直交する方向(
図3(a)では梁部27の幅方向)をY軸方向とする。
【0015】
<第一の実施形態>
図1は本発明の第一の実施形態における流量センサの全体構成を示す図、
図2(a)及び
図2(b)は第一の実施形態におけるバイパス路内の流量センサの断面図及び平面図である。
【0016】
本実施形態における流量センサは、
図1に示すように、主流路1を流れる流体の流量を測定する装置である。この流量センサ10は、差圧検出素子20を備えている。主流路内を流れる流体の一例としては、例えば、空気等の気体を例示することができるが流体であってもよい。
【0017】
なお、
図1では、流体が主流路1内を左側から右側に向かって流れている状況を図示しているが、流体の流通方向は特にこれに限定されず、流体が主流路1内を右側から左側に向かって流れる場合もある。
【0018】
この主流路1からはバイパス路2が分岐しており、主流路1とバイパス路2は、上流側開口3で連結されていると共に、下流側開口4でも連結されている。
図2(a)及び
図2(b)に示すように、バイパス路2内には取付部材5が設置されており、この取付部材5に差圧検出素子20が取り付けられている。
【0019】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、差圧検出素子20は、梁部27と、支持体21とを備えたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子である。
図3(a)及び
図3(b)では、後述する蓋体300は省略している。
【0020】
差圧検出素子20は、弾性体である梁部27と、梁部27の片側を支持する同じく弾性体である支持部25、26とで構成される。
【0021】
支持部25、26および梁部27は、バイパス路2を流れる流体の流量に応じて、支持部25,26を基点としたひずみが発生する。このひずみの量に応じて増減するピエゾ抵抗値を、図示しない流量算出部で計測することで、バイパス路2の開口間の圧力差を検出し、当該圧力差に基づいて流量を算出することができる。
【0022】
後述するように、支持体21は、SOI(Silicon on Insulator)ウェハを加工することで一体的に形成されており、支持体21は、第1のシリコン層81、酸化シリコン層82、および、第2のシリコン層83からなる積層体で構成される。この支持体21には、当該支持体21を貫通する貫通孔211が形成されている。
【0023】
一方、梁部27は、貫通孔211の開口部を塞ぐように、支持体21に支持部25、26を介して片持ち支持されている。貫通孔211は、+Z方向側の貫通孔211aと、−Z方向側の貫通孔211bとが、梁部27を介して連通して構成される。梁部27は、第2のシリコン層83と、接続リード223、から構成される。
【0024】
第2のシリコン層83の梁部27の一端は、ピエゾ抵抗層の支持部25、26で片持ち支持で固定され、梁部27の他方側の一端は、自由端とされる。
【0025】
梁部27の外縁と貫通孔211の開口部との間には隙間(ギャップ)224が確保されている。この隙間224は、支持体21と、梁部27とが当接しない程度の狭い幅を有していれば、特に限定されないが、例えば、0.1[μm]〜10[μm]程度の幅を有することが好ましい。
【0026】
支持部25、26のピエゾ抵抗層は、n型若しくはp型の不純物を第2のシリコン層83にドーピングすることで形成されており、支持部25、26の弾性変形に伴って当該ピエゾ抵抗層の抵抗値が変化する。このため、本実施形態では、ピエゾ抵抗層は、差動検出素子20において最もひずみが大きくなる根元部分である支持部25、26として設けられており、梁部27は、この支持部25、26を介して、貫通孔211の開口部の周縁に連結されている。
【0027】
支持部25、26同士は、梁部27上に設けられた接続リード223を介して電気的に直列接続されている。なお、梁部27全体をピエゾ抵抗層で形成してもよく、この場合には接続リード223は不要となる。
【0028】
電極23,24は、支持体21の上面に設けられている。第1の電極23は、第1のリード231を介して第1の支持部25に電気的に接続されている。第2の電極24も、第2のリード241を介して第2の支持部26に電気的に接続されている。これらの電極23,24は、特に図示しない配線等を介して、上述の流量算出部に電気的に接続されている。
【0029】
電極23、24は、壁体70および蓋体300に覆われる。図示しない流量算出部と接続するため、壁体70および蓋体300の一部を取り除き、電極23、24を外部に露出させる。
【0030】
図4は、
図3(b)において、制止用突起部301を含めた断面図である。制止用突起部301は、梁部の弾性変形の軌道α上に位置するように設けられる。梁部の弾性変形の起動αは、支持部25、26を中心軸として、梁部の延出方向の長さを半径としたXZ面における略円弧であり、流体の流量の方向に応じて、+Z方向あるいは−Z方向の何れの方向にも弾性変形できる。
【0031】
制止用突起部301の形状は、棒状でもよいし、板状でもよい。また、制止用突起部301の長さ方向は、直線形状でもよいし、L型形状でもよいし、曲線状でもよく、特に限定されない。
【0032】
制止用突起部301は、差圧検出素子20の貫通孔211aの周辺から突起物を突き出した形状でもよいし、貫通孔211aの開口部を覆う形状でもよく、特に限定されない。
【0033】
流体の流量が増大し、流量センサ10の差圧検出素子20に対して過大な応力が加わると、差圧検出素子20の支持部25、26や梁部27のひずみが弾性状態を超えて、塑性状態になる。塑性状態のひずみの一部は、流体の流量が0となり、ひずみを生じさせた応力を取り除いても、支持部25、26や梁部27に残留する。このため、流量を正確に測定することが困難になる。
【0034】
また、支持部25、26や梁部27に、塑性状態のひずみを与え続けると、微細な亀裂を生じ、それが進展して破壊に至る可能性がある。
【0035】
そのため、制止用突起部301は、梁部27および支持部25、26のひずみが弾性限度を超えない位置に設けられる。
【0036】
流体の流量の増大に伴い、差圧検出素子20の支持部25、26や梁部27のひずみが大きくなると、制止用突起部301に当接し、梁部27がさらに大きくひずむ方向への動きを制止する。制止用突起部301を設置する位置により、流体センサ10の測定上限が決定される。
<第一の実施形態の変形例>
【0037】
図5(a)および
図5(b)に、制止用突起部301の形状を、貫通孔211aの開口部を覆う蓋状とした例を示す。
図5(a)は、+Z方向から見た差圧検出素子20であり、
図5(b)は、−Z方向から見た差圧検出素子20である。
【0038】
図5(a)に示すように、差圧検出素子20の貫通孔211aを覆うように、蓋体300を設ける。蓋体300は蓋体開口部303を有し、蓋体開口部303は流体の流れを阻害しない程度の大きさに設けられている。蓋体開口部303は蓋体300の一部を蓋体開口部303の中心方向に延出させた制止用突起部301を備える。
【0039】
蓋体300は、貫通孔211aの周縁に立設する壁体70を介して、差動検出素子20に固定される。蓋体300と壁体70は、重ね合わせた構造でもよいし、一体形成されていてもよい。制止用突起部301のもう一方の端部は、自由端として、梁部の弾性変形の軌道α上を変位する。
【0040】
差圧検出素子20における制止用突起部301は1つでもよいし、複数あってもよい。
図5の制止用突起部301は、平面に略五角形の開口部を設けた形状であるが、開口部は略三角形でもよく、制止用突起部として機能すれば、形状は限定されない。
【0041】
図5(a)では、梁部27の自由端側の一方の角部301aが、制止用突起部301aに当接し、梁部27の自由端側の他方の角部301bが、制止用突起部301bに当接することにより、梁部27を制止することができる。
【0042】
以上のように、本発明の第一の実施形態および変形例は、差圧検出素子20に対して、弾性状態を超える応力が加わっても、支持部25、26や梁部27が塑性状態にならず、弾性状態における流体の流量を高精度に測定できる。
【0043】
なお、以上説明した第一の実施形態および変形例は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の第一の実施形態および変形例に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0045】
図6は、蓋体300の第一の制止用突起部301に加えて、梁部27から蓋体300への方向とは反対側に、第二の制止用突起部302を備えた実施例である。
【0046】
第二の制止用突起部302の形状は、第一の制止用突起部301と同様、棒状でもよいし、板状でもよい。また、第二の制止用突起部302の長さ方向は、直線形状でもよいし、L型形状でもよいし、曲線状でもよく、特に限定されない。
【0047】
第二の制止用突起部302は、差圧検出素子20の貫通孔211bの周辺から突起物を突き出した形状でもよいし、貫通孔211bの開口部を覆う形状でもよく、特に限定されない。
【0048】
貫通孔211bの開口部を覆う形状の一例としては、差圧検出素子20の底部に、第二の制止用突起部302を有する台座400を設ける。台座400は台座開口部402を有し、台座開口部402は流体の流れを阻害しない程度の大きさに設けられている。台座開口部402は台座400の一部を台座開口部402の中心方向に延出させた第二の制止用突起部302を備える。
【0049】
台座400は、差動検出素子20の貫通孔211bの周縁に立設しされる。第二の制止用突起部302の端部は自由端として、梁部の弾性変形の軌道α上に位置するように設けられる。
【0050】
第二の制止用突起部302は1つでもよいし、複数あってもよい。第二の制止用突起部302を有する台座開口部402の形状は、前述の蓋体開口部303と同様、略五角形や略三角形でもよく、第二の制止用突起部302を備えていれば、形状は限定されない。
【0051】
梁部27が−Z方向に弾性変形する場合、梁部27が、台座400の第二の制止用突起302に当接することにより、梁部27を制止することができる。
【0052】
第二の制止用突起部302は、梁部に、破損や残留ひずみが生じるような変形(塑性変形)が発生しないように、弾性変形の範囲で制止する位置に備えられる。
【0053】
差圧検出素子20に対して、第一の制止用突起部301を有する蓋体300と、第二の制止用突起部302を有する台座400を設けることにより、梁部27が+Z方向および−Z方向のいずれに弾性変形しても、弾性変形の範囲内で制止することが可能である。
【0054】
梁部27が+Z方向および−Z方向のいずれか一方にのみ弾性変形する場合は、その弾性変形方向に合わせて、変形蓋体300あるいは台座400を選択的に設けることも可能である。
【0055】
以上のように、本発明の第二の実施形態では、差圧検出素子20に対して、弾性状態を超える応力が加わっても、支持部25、26や梁部27が塑性状態にならず、弾性状態における流体の流量を高精度に測定できる。
【0056】
なお、以上説明した第二の実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の第二の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0058】
以上に説明した第二の実施形態の差圧検出素子20の半導体基板の製造方法について、
図7(a)〜
図7(d)を参照しながら説明する。
図7(a)〜
図7(d)は、
図6と同様、制止用突起部301、302を含めた断面図である。
【0059】
第一工程では、SOIウェハを加工し、少なくとも1つ以上の差圧検出素子20を形成する。加工により、差圧検出素子20の支持体21において、ピエゾ抵抗層を有する梁部27を備えた差圧検出素子20を形成する(
図7(a))。ここで、支持体21は、第1のシリコン層81、酸化シリコン層82、および第2のシリコン層83からなる積層体で構成される。
【0060】
次の第二工程では、差圧検出素子20の貫通孔211bが、第二の制止用突起部302を有する台座400の台座開口部402を介して、流量センサ10の外部に連通するように、差圧検出素子20と台座400を接合する(
図7(b))。ここで、第二の制止用突起部302は、梁部27の弾性変形の軌道上に設けられる。
【0061】
さらに、第三工程では、差圧検出素子20の貫通孔211aが、第一の制止用突起部301を有する蓋体300の蓋体開口部303を介して、流量センサ10の外部に連通するように、差圧検出素子20と蓋体300を接合する(
図7(c))。ここで、第一の制止用突起部301は、梁部27の弾性変形の軌道上に設けられる。
【0062】
最後に、第四工程では、差圧検出素子20と、台座400と、蓋体300とで構成された一組の流量センサ10を、半導体基板から切り離し、個片化する(
図7(d))。
【0063】
これらの工程により、第二の実施形態の差圧検出素子20を製造することができる。第二工程と第三工程の順序は特に限定されず、入れ替えてもよい。また、ここで説明する製造方法は、第二の実施形態の差圧検出素子20の半導体基板の製造方法に限定されることはない。例えば、第二工程を除くことにより、第一の実施形態の差圧検出素子20の半導体基板の製造方法にも適用可能である。
【0064】
以上のように、本発明の第二の実施形態の差圧検出素子20の半導体基板の製造方法では、差圧検出素子20に対して、弾性状態を超える応力が加わっても、支持部25、26や梁部27が塑性状態にならず、弾性状態における流体の流量を高精度に測定可能な差圧検出素子20を製造することができる。
【0066】
図8(a)および
図8(b)に、第三の実施形態を示す。蓋体300および壁体70の一部に、第1のシリコン層81を露出させるように凹部90を設け、第1のシリコン層81上に、凹部電極91、92を設ける。第1の凹部電極91は、図示されないリードで、第1の電極23に接続される。また、第2の凹部電極92は、図示されないリードで、第2の電極24に接続される。
【0067】
凹部電極91、92に対して、図示しない流量算出部を接続して、差圧検出素子20のピエゾ抵抗値を測定することにより、流体の流量を算出することができる。
【0068】
図9に、
図8(a)におけるVIIIA−VIIIAの断面図を示す。蓋体300および壁体70の一部に、凹部90を設けることにより、第1のシリコン層81を露出させ、第1のシリコン層81上に、凹部電極91、92を設ける。
【0070】
図10に第三の実施形態の変形例として、流量センサ10のセンサモジュール30のX軸−Z軸で構成される面での断面図を示す。流量センサ10は、センサモジュール30に収容される。
【0071】
センサモジュール30のセンサモジュール設置面312に、素子接合層500を介して、流量センサ10の台座400を接合する。ここで、流量センサ10は、当該流量センサ10の貫通孔211bと、センサモジュール30のセンサモジュール貫通孔311が、連通するように載置される。
【0072】
第1の電極23は、接続ワイヤ330を介して、センサモジュールリード320に接続される。また、上面に露出された第2の電極24は、接続ワイヤ331を介して、センサモジュールリード321に接続される。
【0073】
センサモジュールリード320、321は、センサモジュール壁部310を貫通し、センサモジュール30の外部に延出され、外部端子として用いることができる。
【0074】
センサモジュールリード320、321は、センサモジュール30の具体的には、図示しない流量算出部と接続し、差圧検出素子20のピエゾ抵抗値を測定することにより、流体の流量を算出することができる。
【0075】
以上のように、本発明の第三の実施形態では、センサモジュール30に対して、流体の流量が増大し、弾性状態を超える応力が加わっても、支持部25、26や梁部27が塑性状態にならず、弾性状態における流体の流量を高精度に測定することができる。
【0076】
なお、以上説明した第三の実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。