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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-200625(P2015-200625A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】真空用ガス検知素子
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20151016BHJP
【FI】
   G01N27/12 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-128449(P2014-128449)
(22)【出願日】2014年6月23日
(31)【優先権主張番号】特願2014-72568(P2014-72568)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000190301
【氏名又は名称】新コスモス電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健吾
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA02
2G046AA05
2G046AA19
2G046FB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】真空中で被検知ガスを検知することができる真空用ガス検知素子を提供する。
【解決手段】ガス感応層2と、ガス感応層2に接続された検知電極4とを備え、真空である検知空間で、検知電極4が検知したガス感応層2の抵抗値の変化に基づいて、被検知ガスを検知するための真空用ガス検知素子1であって、ガス感応層2が酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方を備える金属酸化物である酸化セリウムを主成分として構成してある。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス感応部と、前記ガス感応部に接続された検知電極とを備え、真空である検知空間で、前記検知電極が検知した前記ガス感応部の抵抗値の変化に基づいて、被検知ガスを検知するための真空用ガス検知素子であって、
前記ガス感応部が酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方を備える金属酸化物を主成分として構成してあることを特徴とする真空用ガス検知素子。
【請求項2】
前記金属酸化物が酸化セリウムであることを特徴とする請求項1に記載の真空用ガス検知素子。
【請求項3】
前記ガス感応部に貴金属触媒が担持されていることを特徴とする請求項1または2に記載の真空用ガス検知素子。
【請求項4】
前記ガス感応部は、絶縁基板の上に設けたガス感応層として構成され、当該ガス感応層の厚みが10から100μmの範囲に設定されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の真空用ガス検知素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス感応部と、前記ガス感応部に接続された検知電極とを備え、真空である検知空間で、前記検知電極が検知した前記ガス感応部の抵抗値の変化に基づいて、被検知ガスを検知するための真空用ガス検知素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、水素は、常温で無色・無味・無臭で、ガスの中でも最も軽い気体であり、拡散性・還元性に優れる等の性質を持つことから、半導体産業、エレクトロニクス産業、化学産業等の分野や、宇宙ロケットの燃料用等の宇宙工学の分野で広く使用されている。
このような分野において、水素は、効率の観点から液化させた状態で輸送、貯蔵することが行われている。しかし、液体水素の沸点は−250℃以下と低いため、周囲環境の熱により容易に気化してしまう。これを防止するために、液体水素のタンクは、液体水素の容器の周囲に、真空断熱層を備えた構造となっている。また、さらに真空断熱層の外殻に窒素もしくは液体窒素が充填された三重殻構造のタンクもある。
【0003】
水素は空気よりも熱伝導率が約7倍と高く、熱を伝え易いので、前記真空断熱層に前記容器内の液体水素が微量でも漏洩したら、気化した水素によって前記真空断熱層の断熱性能が低下し、前記容器に外部の熱が伝導されて、前記容器内の液体水素が気化(ボイルオフ)する虞がある。
このような虞を回避するために、前記真空断熱層への水素の漏洩を早期に検知して、水素の漏洩があった場合には前記真空断熱層の排気を行う等の手段を早急に講じる必要がある。
【0004】
一方、前記真空断熱層にタンク外の空気等が流入した場合の対策はそれほど急を要さない。なぜなら前記容器の外壁は極低温であり、外部から微量の空気の流入があったとしても、前記外壁で液化されるので、前記真空断熱層の断熱性能が急激に低下することはないからである。
【0005】
液体水素のボイルオフの危険を早期に回避する観点から前記真空断熱層内で、すなわち真空中で水素ガスを選択的に検知する技術が求められている。
また、宇宙輸送分野や有人宇宙飛行分野でも安全性を高めるために宇宙空間で、すなわち真空中で水素ガスを選択的に検知する技術が求められている。
なお、これらの用途では、大気圧から1×10-3Torrの圧力範囲で水素ガスを選択的に検知することを求められている。
【0006】
一般的なガスセンサとしては、接触燃焼式ガスセンサ、半導体式ガスセンサ、MOSFET型ガスセンサ等がある。しかし、これらのガスセンサは、素子の表面での水素ガスのような還元性ガスの酸化反応を利用する原理であるため、真空中、すなわち低酸素分圧の環境下では機能しない。
その他のガスセンサとして、超音波式ガスセンサ、気体熱伝導式ガスセンサ、紫外線レーザーを光源に用いてラマン散乱を利用する方式のガスセンサがある。しかし、超音波式ガスセンサは、真空中では超音波が伝播しない。気体熱伝導式ガスセンサは、0.1Torr以下の圧力範囲では、気体分子の平均自由行程が素子サイズよりも大きくなってしまい、気体分子による素子の熱移動効率が低下してしまう。紫外線レーザーを光源に用いてラマン散乱を利用する方式のものでは、真空中は分子密度が低く、散乱強度が低下してしまう。つまり、いずれも真空中での使用に適したものではない。
【0007】
一方、真空中の気体分子(ガス)を検知するものとして真空計がある。
真空計は、機械的な現象に基づいて圧力を測定する隔膜式真空計等、気体の輸送現象に基づいて圧力を測定するピラニ真空計、熱電対式真空計等、気体の電離現象に基づいて圧力を測定するペニング真空計、電離真空計、質量分析計等と、圧力を測定する原理によって分類されており、各真空計は、それぞれの原理に基づいて計測可能な圧力範囲が限定され、用途・目的に応じて使い分けられている。なお、各真空計の原理と特徴は一般的に良く知られた技術であるため、先行技術文献は記載しない。
【0008】
しかし、これらの真空計は気相中のガス分子の密度を捕らえてはいるが、質量分析計を除けばガスの種類を区別して検知するものではない。また、質量分析計は、使用できる圧力範囲が、1×10-5Torr以下の高真空の圧力範囲に限定される。
【0009】
以上説明のように、1台で真空中で被検知ガスを選択的に検知できる真空用ガス検知素子は存在しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、単純な構造でありながら、真空中で被検知ガスを高感度に選択的に検知することができる真空用ガス検知素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明による真空用ガス検知素子の第一の特徴構成は、ガス感応部と、前記ガス感応部に接続された検知電極とを備え、真空である検知空間で、前記検知電極が検知した前記ガス感応部の抵抗値の変化に基づいて、被検知ガスを検知するための真空用ガス検知素子であって、前記ガス感応部が酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方を備える金属酸化物を主成分として構成してある点にある。
【0012】
発明者の鋭意研究によって、真空中において、酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方の性質を持つ混合伝導性の金属酸化物と被検知ガスとの間では、前記金属酸化物のバルク中の格子酸素が被検知ガスに供給されるバルク制御型の反応が進行し、前記金属酸化物の抵抗値が低抵抗の状態となる特性が見出された。なお、このような酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方の性質を持つ混合伝導性の金属酸化物として酸化セリウムやイットリア安定化ジルコニアが例示できる。
【0013】
つまり、前記金属酸化物を主成分としてガス感応部を構成した真空用ガス検知素子によると、前記ガス感応部に接続された検知電極に印加される電流または電圧をモニタすることで、真空の検知空間で、被検知ガスを検知することができる。
以上のように、単純な構造でありながら、真空中で被検知ガスを高感度に選択的に検知することができる真空用ガス検知素子が実現できる。
【0014】
同第二の特徴構成は、前記金属酸化物が酸化セリウムである点にある。
【0015】
酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方の性質を持つ混合伝導性の金属酸化物である酸化セリウムは、不定比化合物であり、周囲の酸素濃度(分圧)に応じて結晶格子内の酸素を吸蔵・放出する特性を持ち、検知空間中に酸素を放出することで生じる酸素空孔が酸化物イオンの移動を促して、電子伝導性が変化する。
【0016】
このとき、検知空間に被検知ガスの一例として水素ガスのようにガス分子の結合解離エネルギーが酸素以下である還元性の高い物質が存在すると、水素ガスの吸着によって酸化セリウムの電荷移動が容易になって電子伝導性が飛躍的に変化する。酸化セリウムの表面に水素ガスが吸着すると水素ガスと酸化セリウムの結晶格子内の酸素空孔が酸素原子を引き合うことで見かけ上酸素空孔が増加して、電子の移動が容易となるからである。このメカニズムでは、水素ガスは酸化セリウム表面に吸着するのみで酸素を消費しないので、無酸素中の方がより高感度に水素ガスを検知できることになる。
【0017】
このように、酸化セリウムは、水素ガスのような還元性の高い被検知ガスとの接触によって生じた酸化物イオンの移動が電子伝導性に反映されるので、真空用ガス検知素子のガス感応部として都合がよく、上記特性を利用することで、単純な構造でありながら、真空中の微量の水素ガスを高感度に選択的に検知可能な真空用ガス検知素子が実現できる。
なお、被検知ガスは水素ガスに限らず、ガス分子の結合解離エネルギーが酸素以下である還元性の高い物質であればよく、例えばメタンガス、ブタンガス等であってもよい。
【0018】
同第三の特徴構成は、前記ガス感応部に貴金属触媒が担持されている点にある。
ガス感応部に貴金属触媒、例えば白金触媒を担持することで、水素ガスのように還元性が高くない還元性ガスであっても検知できる。
【0019】
同第四の特徴構成は、前記ガス感応部は、絶縁基板の上に設けたガス感応層として構成され、当該ガス感応層の厚みが10から100μmの範囲に設定されている点にある。
【0020】
ガス感応層の厚みが薄い方が、被検知ガスと金属酸化物との間の反応に伴うガス感応層の抵抗値の変化が、より検知電極に近い位置で起こるため、被検知ガスに対する感度を高くすることができるが、ガス感応層の厚みを10μmより薄くしすぎると、均一な膜形成が困難となる。
一方、ガス感応層の厚みを100μmより厚くすると、膜中の内部応力の偏在と加熱ストレスによりクラックなどが発生しやすくなり、ガス感応層内での導電性が低下するという問題が生じ得る虞がある。
従って、ガス感応層の厚みを10から100μmとすることにより、感度及び耐久性のいずれをも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ガス検知素子の説明図
図2】ガスセンサの説明図
図3】ヒータ制御回路の説明図
図4】真空中のセンサ温度とセンサ抵抗値との関係を示すグラフ
図5】気圧とヒータ電流値及びヒータ温度との関係を示すグラフ
図6】実験装置の説明図
図7】各気体の気圧とセンサ抵抗との関係を示すグラフ
図8】各気圧における水素分圧とセンサ抵抗値との関係を示すグラフ
図9】各酸素分圧における水素分圧とセンサ抵抗値との関係を示すグラフ
図10】各酸素分圧における水素分圧と酸素分圧の分圧比とセンサ抵抗値との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本実施形態に係る真空用ガス検知素子1の概略図である。
真空用ガス検知素子1は、絶縁基板3の上面に形成された一対の検知電極4a、4bと、検知電極4a、4bを被覆するように設けられた酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方を備える金属酸化物の一例である酸化セリウムを主成分として構成されるガス感応層2と、絶縁基板3の下面には薄膜ヒータ5を備え、検知電極4が検知したガス感応層2の抵抗値の変化に基づいて、被検知ガスを検知するものである。
【0024】
絶縁基板3は、従来の基板型のガス検知素子に用いられるものが好ましく適用でき、その大きさ、形状等は特に限定されない。また、絶縁基板3の材質は、絶縁体であればよく、例えば、アルミナ、シリカ、ガラス等が適用できる。中でもアルミナを絶縁基板3として用いることは、その表面は完全な平滑ではなく、ナノオーダーの凹凸を有するため、アンカー効果により検知電極4a、4bや薄膜ヒータ5との接合を強固にすることができ、好ましい。
【0025】
検知電極4a、4bは、従来のガス検知素子に用いられるものが好ましく適用できる。検知電極4a、4bの形状は特に限定されない。図1には一対の櫛型検知電極4a、4bを設けた例を図示したが、これ以外にも平行平板型、螺旋型等の任意の形状を採用することができる。また、検知電極4a、4bの材質についても、特に制限されるものではなく、例えば、白金や金等の貴金属、白金パラジウム合金等を蒸着等によって設けることができる。特に白金は非常に耐久性に優れた材料であり、検知電極4a、4bに好ましく適用することができる。
【0026】
本実施形態において、一対の検知電極4a、4bの間の電極間距離は、5から100μmとされる。ガス感応層2を構成する酸化セリウムは、高抵抗な材料であるので、従来のガス検知素子1に比べて電極間距離が短く設定されている。
【0027】
ガス感応層2は、酸化セリウムを主成分として構成され、一対の検知電極4a、4bを被覆するように設けられている。
【0028】
ガス感応層2の厚みは、10から100μmの範囲に設定されている。ガス感応層2の厚みが薄い方が、被検知ガスとガス感応層2を構成する金属酸化物との間の反応に伴うガス感応層2の抵抗値の変化が、より検知電極に近い位置で起こるため、被検知ガスに対する感度を高くすることができるが、ガス感応層2の厚みを10μmより薄くしすぎると、均一な膜形成が困難となる。一方、ガス感応層2の厚みを100μmより厚くすると、膜中の内部応力の偏在と加熱ストレスによりクラックなどが発生しやすくなり、ガス感応層2内での導電性が低下するという問題が生じ得る虞がある。従って、ガス感応層の厚みを10から100μmとすることにより、感度及び耐久性のいずれをも向上させることができる。
【0029】
本実施形態では、真空用ガス検知素子1は、アルミナセラミックス製の絶縁基板3の上面に白金薄膜製の櫛型検知電極4a、4bを、下面に薄膜ヒータ5をスパッタ法で成膜し、検知電極4a、4b上に酸化セリウムを塗布・焼結することで一体的に製造される。
このように製造された真空用ガス検知素子1は小型・低消費電力であり、同一空間に真空用ガス検知素子1を複数備える冗長設計が可能となる。例えば、複数の真空用ガス検知素子1のうち、一つをメインの真空用ガス検知素子1とし、他をメインの真空用ガス検知素子1の健全性を評価するために用いることができる。また、真空断熱層等の真空中では、真空用ガス検知素子1の故障時の取替えが困難であるため、真空用ガス検知素子1を、予めスペアとして複数個設置することもできる。
【0030】
酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方を備える金属酸化物である酸化セリウムは、不定比化合物であり、周囲の酸素濃度(分圧)に応じて結晶格子内の酸素を吸蔵・放出する特性を持ち、検知空間中に酸素を放出することで生じる酸素空孔が酸化物イオンの移動を促して、電子伝導性が変化する。
このとき、検知空間に被検知ガスとして水素ガス、メタンガス、ブタンガス(以下では、単に「被検知ガス」という場合がある。)のようにガス分子の結合解離エネルギーが酸素以下である還元性の高い物質が存在した場合、ガス感応層2に被検知ガスが到達すると酸化セリウムの電荷移動が容易になって電子伝導性が飛躍的に変化する。
【0031】
酸化セリウムと被検知ガスとの間の反応は、いわゆるバルク制御型と言われる反応機構で進行する。このバルク制御型の反応機構によれば、被検知ガスとの反応がガス感応層2の表面にとどまらず、バルクにまで及ぶ。特に、真空中では、従来のガスセンサとしてよく知られている半導体式ガスセンサのように被検知ガスがガス感応層2の表面に存在する吸着酸素と反応するのではなく、被検知ガスが酸化セリウムを主成分とするガス感応層2のバルク中に存在する格子酸素と反応する。この反応でバルク中に生じる酸素欠陥が拡散することにより、ガス感応層2の中を電子が流れる。
【0032】
酸化セリウム表面に被検知ガスが吸着すると被検知ガスと酸化セリウムの結晶格子内の酸素空孔が酸素原子を引き合うことで見かけ上酸素空孔が増加して、ガス感応層2の中で電子の移動が容易となり、つまりガス感応層2の抵抗値が低抵抗の状態となる。
【0033】
上記のような特性に基づくと、酸化セリウムの酸化物イオン伝導性と電子伝導性は、被検知ガスとの接触によって生じた酸化物イオンの移動が電子伝導性に反映されるので、ガス検知素子1の材料として都合がよい。上記メカニズムによると、被検知ガスは酸化セリウム表面に吸着するのみで酸素を消費しないので、無酸素中の方がより高感度に被検知ガスを検知できることになる。このように、単純な構造でありながら、真空中で被検知ガスを高感度に選択的に検知することができる真空用ガス検知素子1が実現できる。
【0034】
なお、ガス感応層2は、酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方の性質を持つ混合伝導性の金属酸化物であるイットリア安定化ジルコニアを主成分として構成してもよい。
ガス感応層2は、酸化物イオン伝導性と電子伝導性の両方の性質を持つ混合伝導性の金属酸化物のみを成分として構成することもできるし、さらに、白金等の貴金属触媒を担持することもできる。ガス感応層2に貴金属触媒を担持することで、被検知ガスが水素のように還元性の高いガスではない場合であっても上述と同じように検知することができる。
【0035】
図2は、真空用ガス検知素子1、検知回路10及びヒータ制御回路20を備えた真空用ガスセンサ100を示している。
検知回路10は、真空用ガス検知素子1と直列に接続された負荷抵抗R0と、真空用ガス検知素子1と負荷抵抗R0に所定の動作電圧を印加する電源部Eと、負荷抵抗R0に並列に接続され、負荷抵抗R0に印加される動作電圧を検知する電圧計Vとを備えている。 上述のように、真空用ガス検知素子1は、真空である検知空間に被検知ガスが存在すると、抵抗値が低抵抗となる。従って、電圧計Vによって、負荷抵抗R0に印加される動作電圧を検知することで、真空用ガス検知素子1の抵抗値、または出力の変化を間接的に算出することができる。
【0036】
薄膜ヒータ5は、真空用ガス検知素子1の動作温度を維持するために設けられている。 薄膜ヒータ5の材質は、特に制限されるものではなく、例えば、白金や金等の貴金属、白金パラジウム合金等を蒸着等によって設けることができる。特に白金は非常に耐久性に優れた材料であり、薄膜ヒータ5に好ましく適用することができる。
【0037】
図3は、薄膜ヒータ5のヒータ制御回路20を示している。ヒータ制御回路20は、真空用ガス検知素子1の温度が200℃から1000℃の範囲、好ましくは、400℃から650℃の範囲の所定温度となるように薄膜ヒータ5を制御する。
【0038】
ガス感応層2を構成する酸化セリウムの電子易動度は真空用ガス検知素子1の動作温度に依存し、真空用ガス検知素子1を高温で動作させるほど、動作抵抗値は下がり電子伝導性は上がる。しかし、真空用ガス検知素子1の動作温度が1000℃より高いと、酸化物イオンの易動度が上がりすぎ、電子伝導性が良くなりすぎて、水素を検知したときの変化幅が十分でなくなるから好ましくない。
一方、ガス感応層2を構成する酸化セリウムの耐熱性を考慮すると、真空用ガス検知素子1を低温で動作させるほど、動作抵抗値は上がり電子伝導性は下がるが、寿命は延びる。しかし、真空用ガス検知素子1の動作温度が200℃より低いと、酸化物イオンの易動度が制限され、電子伝導性が低下しすぎてしまうので好ましくない。
【0039】
図4は、1.2×10-4Torrの真空中において、水素ガスが存在する場合と、存在しない場合の真空用ガス検知素子1の動作温度と動作抵抗値との関係を示している。
図4からわかるように、水素ガスが存在する場合では、動作抵抗値の変化比は、動作温度が低いほど大きくなる傾向がある。また、寿命の観点からも、上記のように400℃から650℃の温度範囲が好ましく採用される。
【0040】
ところで、検知空間の気圧が変化すると、気体の熱伝導効果が変化するため、ガス検知素子1の温度は変化する。
図5は、気圧とヒータ電流及びヒータ温度との関係を示している。
図5に示されるように、検知空間の気圧が下がると、薄膜ヒータ5の動作温度は上がる。これは、圧力が低いほど熱移動の媒体となる気体分子が減るからである。逆に、検知空間の気圧が上がると、薄膜ヒータ5の動作温度は下がる。これは、圧力が高いほど熱移動の媒体となる気体分子が増えるからである。従って、薄膜ヒータ5の動作温度をモニタすることで検知空間の気圧変化が検知できる。
【0041】
換言すると、気圧の変化に応じて薄膜ヒータ5の動作温度が変化しないように、薄膜ヒータ5の動作抵抗値が一定となるように動作させるとすると、検知空間の気圧が下がると、薄膜ヒータ5の動作電流は少なくてよい。逆に、検知空間の気圧が上がると、薄膜ヒータ5の動作電流は増える。つまり、薄膜ヒータ5の動作電流値の変化をモニタし、別途設けた、検知空間の温度を計測する温度センサと併用して環境温度の補正を行うことで、検知空間の気圧の変化が検知できることになる。なお、薄膜ヒータ5に印加される動作電圧値をモニタしてもよい。
なお、別途併用する温度センサには、サーミスタや測温抵抗体のほか、真空用ガス検知素子1の絶縁基板3と、同じ絶縁基板3を密閉容器内に空気または不活性ガスなどと封入したものも適用することができる。この場合、真空用ガス検知素子1と温度センサの温度特性が近くなるため、補正が容易となる。
【0042】
図3に戻り、ヒータ制御回路20には、薄膜ヒータ5の動作抵抗値を一定に保つために、ホイートストンブリッジを備えたフィードバック回路が用いられる。
ホイートストンブリッジを構成する抵抗R1と抵抗R3とは同じ抵抗値であり、抵抗R2と薄膜ヒータ5とは同じ抵抗値である。
これら抵抗の両端の非平衡電圧をオペアンプA1に差動入力し、出力をパワートランジスタTR1のエミッタフォロワで受け、薄膜ヒータ5の抵抗値が常に抵抗R2と同じ値になるようにホイートストンブリッジに印加する動作電圧を自動的に調節する。
なお、薄膜ヒータ5に印加される動作電流または動作電圧値をモニタするモニタ部としては、薄膜ヒータ5に並列に接続された電圧計や、薄膜ヒータ5に直列に接続された電流計が用いられる。
【0043】
以上のように構成された、真空用ガス検知素子1、検知回路10、ヒータ制御回路20を備えた真空用ガスセンサ100を用いて、真空中での被検知ガスの検知に関する各種実験を行った。
実験にあたり、図6に示すような、真空チャンバ30を用意した。
真空チャンバ30は約30Lの容量を有し、周囲には水素、酸素、窒素を夫々真空チャンバ30内に供給するためのリークバルブ31,32、ベントバルブ33、真空チャンバ30内を真空にするための真空ポンプ34が備えられ、内部にガス検知素子1が設置されている。
【0044】
まず、真空中に被検知ガスが存在する場合と存在しない場合の真空用ガス検知素子1の抵抗値の様子を確認する実験を行った。
【0045】
該実験では、真空チャンバ30内に空気を供給した後に、真空ポンプ34を起動し約1×102Torrから1×10-5Torrまで減圧したときの真空用ガス検知素子1の抵抗値RAと、真空チャンバ30内に窒素を供給した後に、真空ポンプ34を起動し約1Torrから1×10-5Torrまで減圧したときのガス検知素子1の抵抗値RNと、真空チャンバ30内に水素ガスを供給した後に、真空ポンプ34を起動し約1Torrから1×10-5Torrまで減圧したときの真空用ガス検知素子1の抵抗値RHを取得した。また、メタンガス、ブタンガスについてもそれぞれ水素ガスの場合と同様に、真空チャンバ30内に供給した後に、真空ポンプ34を起動し約1Torrから1×10-5Torrまで減圧したときの真空用ガス検知素子1の抵抗値RM、抵抗値RBを取得した。その結果を図7に示す。
【0046】
図7からわかるように、真空中では、抵抗値RAは徐々に低下していることがわかる。
これは、周囲の酸素濃度(分圧)に応じてガス感応層2を構成する酸化セリウムの結晶格子内の酸素が放出され、その結果生じる酸素空孔が酸化物イオンの移動が促された結果だと考えられる。
同様の傾向は、真空チャンバ30内に窒素を供給したときの抵抗値RNでも確認できた。なお、抵抗値RA、抵抗値RNの比較から、ガス感応層2は酸素にも応答していることがわかる。また、1×102〜1×10-3Torrの範囲で抵抗値RAと抵抗値RNには酸素分圧に対応した差が認められ、1×10-5Torr付近では抵抗値RAと抵抗値RNの差が小さくなった。これは高真空中では酸化セリウムから酸素が放出され酸素空孔が増加して酸化物イオンの易動度が高くなったためだと考えられる。
一方、真空チャンバ30内に水素ガスを供給したときの抵抗値RHは、抵抗値RA、抵抗値RNに比べて、約1/100以下まで大きく低下し、この傾向は、真空チャンバ30内が1×10-5Torrまで減圧するまで維持されることが確認できた。
これは、ガス感応層2を構成する酸化セリウムの表面で水素ガスが酸化しているのではなく、酸化セリウムへの水素ガスの吸着によって格子内酸素が引き付けられて、酸素空孔の移動が容易になった結果だと考えられる。この結果より、ガス感応層2に酸化セリウムを用いた真空用ガス検知素子1によると、約1×10-5Torrまでの任意の圧力下で水素ガスを検知可能であることがわかる。
なお、この状態で窒素を約1×102Torrまで導入するとセンサ抵抗値は60kΩ程度まで増加した。これは、ガス感応層2の酸化セリウムが水素ガス中で金属にまで還元されたのではなく、酸化セリウムの表面に水素ガスが吸着することで、酸化物イオン伝導性が高くなったためであると考えられる。メタンガスとブタンガスについても水素ガスと同様の結果が確認された。
【0047】
上述のようにガス感応層2を構成する酸化セリウムの電子伝導性は、環境中の酸素に影響される。そこで、水素分圧に対する抵抗値特性の酸素の影響評価を目的として、真空チャンバ30内に窒素を供給し、無酸素下で水素分圧比を変化させたときの電気抵抗値の傾向を確認する実験を行った。
【0048】
該実験では、真空ポンプ34を起動しながら真空チャンバ30内にリークバルブ31から窒素を供給し、所定の平衡圧力(1×10-2Torr)に調整した。
次に、リークバルブ32から水素ガスを段階的に所定の条件(水素分圧比約1%、約4%、51%、83%)となるように供給し、圧力が安定したときの抵抗値を取得した。
異なる圧力条件(1×10-3Torr、1×10-4Torr)についても夫々同様の実験を行った。なお、平衡圧力が1×10-3Torrであるときは、リークバルブ32から水素ガスを段階的に所定の条件(水素分圧比3.8%、35%、66%、83%)となるように供給し、圧力が安定したときの抵抗値を取得した。また、平衡圧力が1×104Torrであるときは、リークバルブ32から水素ガスを段階的に所定の条件(水素分圧比9%、33%、53%、68%、80%)となるように供給し、圧力が安定したときの抵抗値を取得した。その結果を図8に示す。
【0049】
図8からわかるように、無酸素状態である窒素バランス環境下では、水位分圧比が低くても、水素ガスが存在しない場合に比べて、抵抗値の大きな変化が確認される。そして、水素分圧比に対する抵抗値は、1×10-2Torr、1×10-3Torr、1×10-4Torrの各圧力条件にかかわらず略一致し、酸素が存在しなければ、高感度に水素ガスに反応していることがわかる。
なお、1×10-3Torrの圧力条件のデータをもとに近似式で外挿により求めた水素ガスの検知限界濃度は、1000ppm以下と見積もられる。
酸化セリウムを主成分として構成されたガス感応層2を備える真空用ガス検知素子1では、真空中では、水素ガスの吸着に伴う電子伝導度変化を利用するため、高感度に水素ガスを検知することができる。
【0050】
次に、一定の真空環境下での、酸素分圧比の違いが、水素ガスの検知に与える影響を確認する実験を行った。
抵抗値への酸素分圧比の影響評価を目的として、真空チャンバ30内に窒素と異なる分圧比となるように酸素を供給し、各酸素分圧比において水素分圧比を変化させたときの電気抵抗値の傾向を確認する実験を行った。
【0051】
該実験では、真空ポンプ34を起動しながら真空チャンバ30内にリークバルブ31から各酸素濃度(酸素分圧比1%、5%、10%、50%)の窒素を供給して、所定の平衡圧力(1×10-3Torr)に調整した。
次に、リークバルブ32から水素ガスを段階的に所定の条件となるように供給し、圧力が安定したときの抵抗値を取得した。その結果を図9に示す。
【0052】
図9からわかるように、各酸素分圧比の環境下での水素ガスに対する抵抗値を比較した結果、水素分圧比に対する抵抗値の傾きは、酸素分圧比の影響を受けることが確認された。
【0053】
そこで、図10に示すように、抵抗値と、水素分圧/酸素分圧との相関を確認すると、両者は比例関係にあることが確認された。つまり、抵抗値は、水素分圧と酸素分圧の分圧比に依存することがわかる。
【0054】
検知回路10に備えた電圧計Vをモニタすることによって、酸素分圧と水素分圧の分圧比の変化に応じて変化するガス感応層2の抵抗値の変化に基づいて水素ガスを検知することができる。即ち電圧計Vが検知部を構成する。
【0055】
さらに、検知回路10に、予め前記分圧比に対応する水素ガス濃度テーブルが格納された濃度記憶部と、前記分圧比に基づいて水素ガス濃度を算出する濃度算出部を備えておくと、前記分圧比に基づいて水素ガス濃度を算出することができる。
【0056】
以上のように、単純な構造でありながら、真空中で被検知ガスを高感度に選択的に検知することができる真空用ガス検知素子が実現できる。
【0057】
上述した実施形態は、いずれも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
1 真空用ガス検知素子
2 ガス感応層(ガス感応部)
3 絶縁基板
4 検知電極
10 ガス検知回路
20 ヒータ制御回路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10