(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-200648(P2015-200648A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】アナログインジケータの周期的又は間欠的移動のための駆動機構を備える時計ムーブメント
(51)【国際特許分類】
G04B 19/253 20060101AFI20151016BHJP
【FI】
G04B19/253 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-74807(P2015-74807)
(22)【出願日】2015年4月1日
(31)【優先権主張番号】14163345.3
(32)【優先日】2014年4月3日
(33)【優先権主張国】EP
(71)【出願人】
【識別番号】591048416
【氏名又は名称】ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・グリューニッヒ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル・ラゴルゲット
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン・クリスタン
(72)【発明者】
【氏名】バプティスト・ヴィスブロッド
(57)【要約】 (修正有)
【課題】アナログインジケータ、特に日付リングを耐衝撃機能を保証し、比較的低いトルクで駆動できる駆動機構を提供する。
【解決手段】不可逆的伝達システムを定義するマルタ十字システムで形成される駆動機構30と、第1の歯部28を備えるインジケータ26と、位置決めジャンパ56とを備え、機動機構30の第2の歯部38と、インジケータ26の第1の歯部28との噛合にて十分な遊びを設ける。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
値が周期的又は間欠的に変動する情報を表示するためのアナログデバイスを備える、時計ムーブメント(24)であって、
前記アナログ表示デバイスは、第1の歯部(28、28A)を備える前記情報のインジケータ(26、26A)と、前記インジケータの周期的又は間欠的駆動のための機構(30、64)とを含み、
前記駆動機構は、前記第1の歯部と噛合する第2の歯部(38;68、69)を含む不可逆的伝達システムで形成される、時計ムーブメントにおいて:
前記表示デバイスは更に、前記第1の歯部への位置決め力を生成する、前記インジケータのための位置決めジャンパ(56)を含み、前記第1の歯部への位置決め力は、複数の非連続な表示位置に前記インジケータを正確に位置決めするには十分であるが、前記インジケータのための耐衝撃機能を保証するには不十分であること;
前記第1の歯部と前記第2の歯部との間には接線方向の遊び(J1+J2)が存在し、前記接線方向の遊びは、前記インジケータが前記複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、前記不可逆的伝達システムが対応する所定の位置にある場合に、前記第1の歯部と前記第2の歯部とが互いに接触しないよう、十分に大きく設定されること;及び
前記不可逆的伝達システムは、少なくとも前記インジケータが前記複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、前記不可逆的伝達システムが前記対応する所定の位置にある場合に、前記第1の歯部と前記第2の歯部との噛合によって、前記インジケータのための耐衝撃機能を保証すること
を特徴とする、時計ムーブメント(24)。
【請求項2】
前記不可逆的伝達システムは、マルタ十字システム(32、40)であることを特徴とする、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項3】
前記不可逆的伝達システムは、自己ロックピンシステム(66、68、69)であることを特徴とする、請求項1に記載の時計ムーブメント。
【請求項4】
前記位置決め力は、前記時計ムーブメントが前記インジケータに印加する最大摩擦力よりも高いこと、及び
前記位置決め力は、前記最大摩擦力の3倍未満であること
を特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項5】
前記第1の歯部と前記第2の歯部との間の前記接線方向の遊び(J1+J2)は、前記インジケータと前記不可逆的伝達システムとで形成される歯車装置において発生する累積製造公差の2倍超又は略2倍であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【請求項6】
前記インジケータは日付リング(26A)であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の時計ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、値が所定の複数の非連続な値の中で周期的又は間欠的に変動する、特にカレンダー情報である情報、及び/又は複数の可能な機能/アプリケーションから選択される1つの機能/アプリケーションのアナログ表示を含む、時計ムーブメントの分野に関する。「値」は一般に、数字、カレンダー情報(日付、曜日又は月等)、及び複数の機能又はアプリケーションからの1つの機能又はアプリケーションの選択を意味するが、これらに限定されない。本発明は特に、提案された複数の非連続な表示位置の各表示位置におけるインジケータの正確な位置決めに加えて、アナログインジケータの周期的又は間欠的移動のための駆動機構、及び上記インジケータの耐衝撃手段に関する。
【背景技術】
【0002】
カレンダーインジケータ、特に日付リングを駆動するための主に3つの公知のタイプの機構:連続機構、従来の半瞬間的機構及び瞬間的機構が存在する。
【0003】
図1に示す従来の変形例では、内側歯部6を備える日付リング4を駆動するために、連続機構2が配設されている。この連続機構はマルタ十字8及びこれを作動させるためのホイールセット12を含む。このマルタ十字は6つのブランチ9を含み、日付リングの歯部6と噛合する同軸のカナ10と一体である。カナ10は6つの歯を有する。ここでのマルタ十字のブランチの数及びカナの歯の数は、非限定的な例として挙げたものである。よって、4つのブランチを有するマルタ十字及び8つの歯を有するカナを有するこのタイプの公知の機構も存在する。好ましくは、歯の数とブランチの数との間の比は整数である。作動ホイールセット12は、2つの駆動ピン16、17及びロック部材14を含み、上記ロック部材14は、ブランチ9と協働して上記2つのピンそれぞれが実施する2つの連続する駆動動作の間に、マルタ十字を安定位置にロックする。この作動ホイールセットは、例えばカナ20によって回転駆動される。マルタ十字システムの動作は周知であるため、ここでは詳述しない。
【0004】
上述した連続駆動機構は、遊びを殆ど又は全く有さない歯車装置、及びジャンパばねの不在を特徴とする。従って、駆動機能及び日付リングをその表示位置に位置決めする機能は両方とも、マルタ十字と連動するカナによって実施される。更に、耐衝撃機能はマルタ十字システムによって実施され、ロック部材14がこの機能を容易に保証する。このタイプの機構を有する時計ムーブメントの製造は、表示位置におけるリングの正確な位置決め、例えば時計ムーブメントに設けられた文字盤の開口部における各日付の正確なセンタリングを保証するために、機構及び日付リングの機械加工交差及び組立公差(製造公差)を最大限低減する必要があるため、高価である。
【0005】
従来の半瞬間的駆動機構は、日付リング用の駆動ホイールを含み、この駆動ホイールは一般に、周期的にリングの歯部を貫通して、上記リングの歯部をある表示位置から次の表示位置へと駆動する、1つのフィンガピース又は2つのフィンガピースを備える。この歯部の歯の間の空間は一般に、特に日付リングの製造交差及びセンタリング公差を原因とするロックのリスクなしに、特に各フィンガピースがリングの歯部を出入りできるよう、比較的広く作製される。よって、駆動ホイールがリングの位置決めの機能を保証できないのは明らかである。更に、歯部と1つのフィンガピース又は2つのフィンガピースとの間に、駆動ホイールの特定の角度範囲にわたる噛合は一般に存在しないため、駆動ホイールは耐衝撃機能を保証できない。
【0006】
位置決め機能及び耐衝撃機能を保証するために、「ジャンパ」とも呼ばれるジャンパばねが存在し、このジャンパばねはリングの歯部の2つの連続する歯の間に挿入される。これは、次の日付への変更の第1の段階において、リングは駆動ホイールのフィンガピースによって回転駆動され、ジャンパの下流の歯の先端はジャンパの先端が歯の先端に当たるまでジャンパを持ち上げるため、半瞬間的システムと呼ばれる。次に、ジャンパは問題の歯の後方フランクに接線力を印加して、次の静止位置を取る。この第2の段階において、ジャンパは日付リングを次の表示位置へと即座に回転駆動し、駆動ホイールのフィンガピースはリングよりも低い速度で回転を続け、その結果リングへのトルク力の印加が停止される。歯の間の空間は、フィンガピースによって押される歯に続く歯がリングの歯部に挿入されるフィンガピースと当接しないよう、十分に大きく設定される。この半瞬間的機構の主要な欠点は、耐衝撃機能がジャンパによって達成されるため、衝撃を受けた際に十分なロックトルクを印加するために、ジャンパが有意な力で日付リングを圧迫しなければならないことに起因する。よって駆動機構は、各日付の変更の際に、ジャンパの位置決めトルクを上回るために大きな駆動トルクを提供しなければならず、これは多大なエネルギ、及び日付リングの歯部においてこのような駆動トルクを提供できる機構を必要とする。
【0007】
瞬間的駆動機構の複数の実施形態が存在する。各場合において、これもまた耐衝撃機能を保証する位置決めジャンパが設けられる。従ってこの機構は、上述の半瞬間的機構と同じ欠点を有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、アナログインジケータ、特に日付リングの周期的又は間欠的移動のための従来技術の駆動機構の問題及び欠点を克服することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明は、値が周期的又は間欠的に変動する情報を表示するためのアナログデバイスを備える時計ムーブメントに関し、このアナログ表示デバイスは、第1の歯部を備える上記情報のインジケータと、インジケータの周期的又は間欠的駆動のための機構とを含む。この駆動機構は、第1の歯部と噛合する第2の歯部を含む不可逆的伝達システムで形成される。表示デバイスは更に、第1の歯部への位置決め力を生成するインジケータ位置決めジャンパを含み、この位置決め力は、複数の非連続な表示位置にインジケータを正確に位置決めするには十分であるが、インジケータのための耐衝撃機能を保証するには不十分である。更に、第1の歯部と第2の歯部との間の接線方向の遊びは、インジケータが複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、不可逆的伝達システムが対応する所定の位置にある場合に、第1の歯部と第2の歯部とが互いに接触しないよう、十分に大きく設定される。この不可逆的伝達システムは、少なくともインジケータが複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、不可逆的伝達システムが上記対応する所定の位置にある場合に、第1の歯部と第2の歯部との噛合によって、インジケータのための耐衝撃機能を保証する。
【0010】
「周期的駆動」は周期的にのみ起こる駆動を意味し、即ち駆動は限定された期間中に周期的に起こり、ある限定された期間と別の限定された期間との間には起こらない。同様に「間欠的駆動」は、間欠的駆動機構の命令に応じて停止したり開始したりする断続的な駆動を意味し、この駆動は規則的な間隔で起こる必要はない。
【0011】
本発明による時計ムーブメントのこれらの特徴の結果として、インジケータを駆動及び位置決めするマルタ十字システムを有する上述の連続機構の問題と、ジャンパばねがインジケータの位置決め及び耐衝撃機能を保証する従来の半瞬間的又は瞬間的機構の問題とが両方とも解決される。本発明の特定の実施形態では、駆動機構は、マルタ十字と一体のインジケータを駆動するための1つ又は複数のフィンガピースを有する半瞬間的機構と同様の機構を定義し、1つのフィンガピース又は複数のフィンガピースは上述の第2の歯部を形成する。実際、位置決めジャンパは一般に、インジケータをある表示位置から次の表示位置へと変更する第2の段階においてインジケータを駆動するためにも使用される。
【0012】
本発明によると、少なくともインジケータをある表示位置から次の表示位置へと変更する第1の段階におけるインジケータ駆動機能、及び耐衝撃機能は、極めて高いロック力を印加できる不可逆的伝達システムによって保証される。しかしながら位置決めの機能は、従来技術のようにこの不可逆的伝達システムによっては保証されず、衝撃を受けた際にインジケータをロックするための通常の最小の力よりもはるかに低いものの上記機能には十分な力を印加する位置決めジャンパによって保証される。
【0013】
従って、衝撃を受けた際にジャンパばねがインジケータの歯部に大きな接線力を印加できなければならない、従来の半瞬間的又は瞬間的機構を有する従来技術の実施形態よりもはるかに低い駆動トルクによって、インジケータをある表示位置から別の表示位置へと駆動できる。その一方で、連続機構を有するがジャンパを有さない従来技術の実施形態の公差及び組立の問題は排除される。
【0014】
本発明の他の特定の特徴は、本発明の詳細な説明において以下に提示される。
【0015】
本発明を、非限定的な例として与えられる添付の図面を参照して、以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】既に説明した
図1は、マルタ十字システムを有する従来技術の連続駆動機構の上面図である。
【
図2A】
図2Aは、本発明による時計ムーブメントの第1の実施形態の概略上面図である。
【
図2B】
図2Bは、第1の実施形態の日付リングの歯部とマルタ十字システムとの噛合を示す図を部分的に拡大したものである。
【
図3】
図3Aは、本発明による時計ムーブメントの第2の実施形態の部分斜視図であり、
図3Bは、本発明による時計ムーブメントの第2の実施形態の部分上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2A、2Bを参照して、本発明による時計ムーブメントの第1の実施形態を以下に説明する。時計ムーブメント24は、周期的に変動する情報である日付、及びこの時計ムーブメントを備える腕時計のユーザが選択できる様々な機能F1、F2等のアナログ表示用のデバイスを備える。このアナログ表示デバイスは、第1の歯部28及び駆動機構30を備えるリング26を含む。様々な日付「1」〜「31」及び様々な可能な機能の名称がリング26上に印刷される。各日付及び各機能は、時計ムーブメント24上に設置された文字盤に設けられた開口部を通したリング26の非連続な表示位置を定義する。駆動は日付に関しては周期的であり、複数の可能な機能からの1つの機能の選択に関しては間欠的である。
【0018】
駆動機構30は、不可逆的伝達システムを定義するマルタ十字システムで形成される。これは、カナ36が載せられたマルタ十字34を有する駆動ホイール32を含み、カナ36は第1の歯部28と噛合する第2の歯部を有する。駆動ホイールを周期的又は間欠的に作動させるために、駆動機構はカナ46によって駆動される作動ホイール40を更に含み、カナ46自体は電磁モータ(図示せず)によって回転駆動される。作動ホイールは、作動ホイールの直径上に整列する2つのピン41、42と、この回転軸上にセンタリングされたロック部材44とを含む。これらピンは、マルタ十字のブランチ間で貫通するよう、またホイール32及びそれに伴って独立した日付リングを駆動できるよう配設される。ロック部材44は、マルタ十字のブランチの湾曲した端部のうちのいずれの1つにおいてホイール32を位置決めする間に、ホイール32をロックするために使用される。
【0019】
このように、作動ホイールは駆動ホイールを回転駆動できるがその逆は不可能であるため、マルタ十字システムは不可逆的伝達を定義する。作動ホイールの角度位置にかかわらず、駆動ホイールが作動ホイールへと伝達するトルク力は、せいぜい小さな角度距離にわたって、作動ホイールを回転させる。これは意図した方向とは逆の方向のトルク力の伝達及びその結果としての回転を意図的に停止させるため、自己ロック駆動機構とも呼ばれる。非連続な表示位置において、(製造公差を超える)マルタ十字のいずれの回転を防止するために、ロック部材44が(
図2A、2Bに示すように)マルタ十字の1つのブランチの端部上で実質的に位置合わせされると好ましい。従って、少なくともリング26がその複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、マルタ十字システムが上で定義した対応する位置にある場合、リングがカナ36に印加するトルク力が駆動ホイール40を回転駆動することはない。
【0020】
本発明によると、第1の歯部28と第2の歯部38との間に、
図2Bに示したJ1+J2と略等しい接線方向の遊びが存在する。この接線方向の遊びは、リング26が上記の複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にあり、マルタ十字が好ましくは
図2A、2Bに示した対応する所定の位置にある場合に、第1の及び第2の歯部が互いに接触しないよう、十分に大きく作製される。カナ36の角度位置にかかわらず、第1及び第2の歯部は常に噛合状態にある。従って衝撃を受けた際に、独立した日付リングが偶然ジャンプすることはあり得ない。実際、リングがカナ36によって駆動されている間に衝撃による加速を受けたとしても、駆動が終了して、マルタ十字システムが複数の非連続な表示位置に設けられた非駆動位置に戻ると、歯48は常に歯部28の2つの隣接する歯51、52の間に配設された空間50内にある。従って、少なくともマルタ十字システムが意図した非駆動位置にある場合、カナ36は、リング26が有意なトルク力をカナ36に印加しても静止したままである。従ってこのリングは、複数の非連続な表示位置のうちのいずれの1つの表示位置にある場合に、上記の接線方向の遊び内でのみ移動できる。よってマルタ十字システムは、第1の歯部と第2の歯部との噛合によって、リング26のための耐衝撃機能を保証する。「耐衝撃機能」は、衝撃を受けた際に機構が破損又は損傷するのを防ぐことを意味するのではなく、(NIHS91−10、91−20、91−30及び他の規格に従って)腕時計が破損することなく受け得る衝撃の影響下でインジケータが非連続な表示位置を変更するのを継続的に防止することを意味する。
【0021】
独立した日付リングを正確に位置決めするために、表示デバイスは更に、リングのための位置決めジャンパ56を含む。ジャンパばねとしても公知であるこのジャンパは、第1の端部に位置決め歯60を有し、他方の端部にある軸の周りで枢動するアーム58と、このアームに力を印加して第1の歯部28に対する位置決め力を生成するばね62とから形成される。リングが表示位置から離れ、ジャンパが対応する安定又は静止位置から離れる際、この位置決め力は、非連続な表示位置の変更がない場合はリングをその表示位置へと戻すように、又は終了段階においてリングをリング駆動デバイスの作動中に別の意図した表示位置へと移動させるように、リングの歯部に作用する接線成分を有する。例としてばね62は、一方の部分が溝64内にあり、他方の部分がアーム58の後側面に当たる、湾曲した弾性ピン又はストリップである。本発明によると、位置決め力は、リング26を複数の非連続な表示位置に正確に位置決めするには十分であるが、リングのための耐衝撃機能を保証するには不十分である。従って位置決め力は、衝撃を受けた際にリングをロックするための通常の最小の力よりも低くなるよう設定され、これによりリングを比較的低いトルク力で回転駆動でき、従ってある表示位置から別の表示位置への変更のために必要なエネルギを最小化できる。好ましい変形例では、位置決め力は時計ムーブメントがリング26に印加する最大摩擦力よりも高く、その一方でこの最大摩擦力の3倍未満である。
【0022】
非限定的な例として、直径20mmの真ちゅう製の従来の日付リングは、ムーブメントが水平に置かれている場合に、リングに対する静摩擦力を克服するために約60μNmのトルクを必要とすることが観察された。ジャンパによって耐衝撃機能を保証するために、上記の先行技術のムーブメントの場合、ジャンパは約2000μNmのロックトルク力を印加できる。より重量が軽いアルミニウム又はプラスチック製のリングの場合、この耐衝撃トルクは例えば約800μNm未満となる。しかしながら本発明の結果として、鋼鉄製のリングの場合、ある変形例では、ジャンパ56が120μNm〜180μNmのトルクを印加できるように、ばね62をサイズ設定できる。アルミニウム又はプラスチック製のリングの場合、ジャンパ56が印加するトルクは例えば80μNm〜120μNmとなる。このように本発明は、ジャンパがリングに印加するトルク、及びそれに伴って駆動機構30が伝達する必要がある駆動トルクを大幅に低減できることが観察された。特に、駆動機構における減速比を低減できる。
【0023】
好ましい変形例によると、第1の歯部と第2の歯部との間の接線方向の遊びは、リング26とマルタ十字ホイール32とで形成される歯車装置において第1の歯部28及び第2の歯部38に発生する累積製造公差の2倍超又は略2倍となるよう設定される。
【0024】
具体的な変形例では、第1の歯部と第2の歯部との間の遊びは、インジケータの移動によって表示位置に対応する安定静止位置から離れたジャンパが、このジャンパがインジケータの歯部に印加する位置決め力によってインジケータを上記安定静止位置に戻すことができる最大距離未満となるよう、設定される。別の変形例では、これは、遊びの半分に、インジケータと不可逆的伝達システムとによって形成される歯車装置において第1及び第2の歯部に発生する累積製造公差を加えたものであり、これは上で定義した最大距離未満である。この変形例では、インジケータの非連続な表示位置に関する不可逆的伝達システムの第2の歯部の理論上の位置は、インジケータの第1の歯部内に実質的にセンタリングされている。即ち、遊びは、
図2Bの場合のように、第1のインジケータの歯部に挿入された第2の歯部の1つの歯又は複数の歯の両側部上に略等しく分布する。ジャンパは、第1の歯部内でのジャンパの安定静止位置によって定義される表示位置に関して、ある程度の公差を有してもよいことに留意されたい。この公差は有利には、上記の歯車装置において発生する累積製造公差に加算され、上で示した変形例において提供される遊びを画定する。好ましい変形例では、ジャンパの位置をインジケータの組み付け後に調整してよく、これにより非連続な表示位置を極めて正確な様式で事前に定義でき、ジャンパの位置決め公差を無視できる。
【0025】
図3A、3Bは、本発明による時計ムーブメントの第2の実施形態を部分的に示す。この第2の実施形態に設けてもよい上記の様々な変形例については、ここで再び説明しない。第2の実施形態は、第1の実施形態のマルタ十字システムの代わりに自己ロックピンシステムを有する駆動機構を特徴とする。図示した変形例では、日付リング26Aのための駆動機構64は駆動ホイール66を含み、この駆動ホイール66には2つのピン68、69が固定され、これら2つのピン68、69は、リング26Aとホイール66とで形成される歯車装置において第2の歯部を画定する。このホイールは、電磁モータと連動する、又は電磁モータに連結されるカナ70によって駆動される。2つのピンは、ホイール66の直径上で整列する。このようにして、日付リングの非連続な表示位置に配設されるホイール66の位置に対応する、
図3A、3Bに示した位置において、これら2つのピンは日付リングの完全なロックを保証する。実際、リングがホイール66に印加するトルク力はホイールを回転駆動できない。従ってホイールは、その2つのピンと共に不可逆的伝達システムを形成する。
【0026】
好ましくは、2つのピンは円筒形ではなく略半円形の断面を有し、これにより、歯車装置がロックされないまま、第1の歯部28Aとこれら2つのピンで形成された第2の歯部との間に比較的大きな遊びが得られる。実際、日付リングが駆動される際、各ピンは交互に、歯部28Aの空間から出て、歯の先端に当接することなくこの歯部の別の空間に入ることができなければならない。第1の実施形態を参照して既に説明した他の特徴は、ここでは繰り返さない。特に、第1の実施形態のものと同様のジャンパばねは、複数の非連続な表示位置における日付リングを正確に位置決めするよう配設される。
【0027】
最後に、当業者は、不可逆的伝達システムを作製するために他の実施形態を用意できることに留意されたい。不可逆性については、衝撃又は激しい運動を受けた際に、インジケータ、特に日付リングの歯部と噛合ホイールにおいて発生し得るトルク力の範囲内で考えることができる。従って、本発明による時計ムーブメントを備える腕時計が遭遇し得るあらゆる状況においてインジケータがホイール内で生成する最大トルク力まで不可逆性が得られれば十分である。特定の実施形態は、インジケータ駆動機構を作動させるために配設された電磁モータを含む電子式ムーブメントに関する。ステッピングモータの場合、固定子は、モータの永久磁石回転子に印加される位置決めトルクを生成するために配設され、これは特にLavetモータの場合、コイルの短絡によって増大させることができる。この位置決めトルクは、回転子を少なくとも1つの安定静止位置(電力の不在時に取られる位置)に保持する。モータは、インジケータと噛合するホイールに伝達される回転子の位置決めトルクが、特に衝撃を受けた際に、インジケータがホイールに印加し得る最大トルク力よりも高いロックトルクを画定できるよう、構成できる。好ましくは、駆動機構の運動学的連鎖の減速比は比較的高く、これによりロック力を十分に高くすることができる。得られるロックトルクは、位置決めトルクだけでなく、運動学的連鎖における摩擦損失にも依存することに留意されたい。
【符号の説明】
【0028】
24 時計ムーブメント
26、26A インジケータ
26A 日付リング
28、28A 第1の歯部
30、64 周期的又は間欠的駆動のための機構
32、40 マルタ十字システム
38;68、69 第2の歯部
66、68、69 自己ロックピンシステム
J1+J2 接線方向の遊び