(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-200991(P2015-200991A)
(43)【公開日】2015年11月12日
(54)【発明の名称】陶芸窯用のコントローラ、陶芸窯、および陶芸窯管理プログラム
(51)【国際特許分類】
G05D 23/00 20060101AFI20151016BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20151016BHJP
F27B 17/00 20060101ALI20151016BHJP
F27B 5/18 20060101ALI20151016BHJP
C04B 35/64 20060101ALI20151016BHJP
【FI】
G05D23/00 D
F27D19/00 A
F27B17/00 C
F27B5/18
C04B35/64 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-78354(P2014-78354)
(22)【出願日】2014年4月7日
(71)【出願人】
【識別番号】000107147
【氏名又は名称】日本電産シンポ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135013
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 隆美
(72)【発明者】
【氏名】大谷 正幸
(72)【発明者】
【氏名】栗城 基
(72)【発明者】
【氏名】井上 仁
(72)【発明者】
【氏名】今村 正
【テーマコード(参考)】
4K056
4K061
5H323
【Fターム(参考)】
4K056AA12
4K056BB05
4K056CA10
4K056FA04
4K061AA03
4K061BA09
4K061DA05
4K061GA02
5H323AA27
5H323BB15
5H323CA06
5H323CB02
5H323DA01
5H323EE05
5H323FF06
5H323GG02
5H323JJ02
5H323JJ05
5H323KK05
5H323PP02
5H323PP07
5H323QQ05
5H323SS01
5H323SS03
5H323SS07
5H323TT03
5H323TT17
(57)【要約】 (修正有)
【課題】陶芸窯の温度を、外部の情報機器から設定し、焼成の失敗を減らすことができる、陶芸窯用のコントローラ、陶芸窯、および陶芸窯管理プログラムの提供
【解決手段】表示部41と操作部42とを備えた陶芸窯1用のコントローラ40であって、前記陶芸窯1の焼成室10の内部を加熱する加熱部20と電気的に接続され、外部の情報機器からの指令に基づいて、目標温度を設定する目標温度設定部45と、前記目標温度に基づいて、前記加熱部を制御する加熱制御部46と、を有する、コントローラ40。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示部と操作部とを備えた陶芸窯用のコントローラであって、
前記陶芸窯の焼成室の内部を加熱する加熱部と電気的に接続され、
外部の情報機器からの指令に基づいて、目標温度を設定する目標温度設定部と、
前記目標温度に基づいて、前記加熱部を制御する加熱制御部と、
を有する、コントローラ。
【請求項2】
請求項1に記載のコントローラであって、
前記焼成室の内部の温度を計測する計測器と電気的に接続され、
前記計測器において計測された温度を、前記表示部または外部の情報機器へ出力する出力部
をさらに有し、
前記目標温度設定部は、前記加熱部による加熱の開始後に、前記操作部または前記情報機器からの指令に基づいて、前記目標温度を変更する、コントローラ。
【請求項3】
請求項2に記載のコントローラであって、
前記情報機器との間で情報の送受信を行う送受信部をさらに有し、
前記目標温度設定部は、前記送受信部において受信された前記指令に基づいて、前記目標温度を変更する、コントローラ。
【請求項4】
請求項3に記載のコントローラであって、
前記出力部は、前記計測器において計測された温度を、前記送受信部を介して前記情報機器へ送信する、コントローラ。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のコントローラであって、
前記送受信部は、近距離通信用の送受信器を含む、コントローラ。
【請求項6】
請求項3乃至請求項5のいずれか1項に記載のコントローラであって、
前記送受信部は、前記情報機器から送信された停止指令を受信し、
前記加熱制御部は、前記送受信部において受信された前記停止指令に基づいて、前記加熱部を停止させる、コントローラ。
【請求項7】
請求項2乃至請求項6のいずれか1項に記載のコントローラであって、
前記加熱制御部は、前記目標温度と前記計測器において計測された温度とに基づいて、前記加熱部の発熱量を修正する、コントローラ。
【請求項8】
請求項7に記載のコントローラであって、
前記出力部は、前記発熱量の修正を実施したときに、当該実施を示す情報を、前記表示部または前記情報機器へ出力する、コントローラ。
【請求項9】
請求項8に記載のコントローラであって、
前記出力部は、前記発熱量の修正後に、前記目標温度と前記計測器により計測された温度との間に依然として一定以上の乖離があるときに、当該乖離を示す情報を、前記表示部または前記情報機器へ出力する、コントローラ。
【請求項10】
請求項2乃至請求項9のいずれか1項に記載のコントローラであって、
前記出力部は、前記陶芸窯の消費電力を、前記表示部または前記情報機器へ出力する、コントローラ。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載のコントローラと、前記焼成室と、前記加熱部と、を有する、陶芸窯。
【請求項12】
陶芸窯のコントローラと通信可能な情報機器にインストールされる陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
a)前記陶芸窯の焼成室の内部の温度を、前記コントローラから受信する工程と、
b)前記コントローラが前記陶芸窯の加熱部を制御する際に参照する目標温度を変更する指令を、前記コントローラへ送信する工程と、
を実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項13】
請求項12に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
c)前記加熱部を停止させる停止指令を、前記コントローラへ送信する工程
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項14】
請求項12または請求項13に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
d)前記工程a)で受信した温度の履歴を保存する工程
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項15】
請求項12乃至請求項14のいずれか1項に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
e)前記工程a)で受信した温度の変化が正常でない旨の通知を、前記コントローラから受信する工程と、
f)前記工程e)の受信回数または受信頻度が、予め設定された許容値を超えると、警告を発する工程と、
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項16】
請求項12乃至請求項15のいずれか1項に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器は、タッチパネルディスプレイを備えたモバイル端末である、陶芸窯管理プログラム。
【請求項17】
請求項12乃至請求項16のいずれか1項に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
g)前記目標温度と、任意の画像データとを、対応づけて保存する工程
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項18】
請求項17に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
h)インターネット上のサーバとの間で、前記目標温度および前記画像データのアップロードおよびダウンロードを行う工程
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【請求項19】
請求項12乃至請求項18のいずれか1項に記載の陶芸窯管理プログラムであって、
前記情報機器に、
i)前記陶芸窯の近傍に配置されたIPカメラから、情報を受信する工程
をさらに実行させる、陶芸窯管理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陶芸窯用のコントローラ、当該コントローラを有する陶芸窯、および、陶芸窯のコントローラと通信可能な情報機器にインストールされる陶芸窯管理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
陶磁器は、焼成時の温度変化の微妙な違いによって、仕上がり状態が大きく変化する。このため、陶芸窯を用いて陶磁器を焼成するときには、陶芸窯の内部の温度管理をシビアに行うことが求められる。このため、従来、陶芸窯の内部の温度を計測し、計測された温度を付属のコントローラに表示させることで、ユーザが内部の温度を確認できるようにしたものがあった。
【0003】
しかしながら、陶磁器の焼成には、一般に8時間〜12時間程度の時間が掛かる。このため、焼成の開始から終了まで、ユーザが陶芸窯の隣で温度を監視し続けることは難しい。そこで、従来、インターネットを利用して、陶芸窯の内部の温度を、遠隔地で監視する技術が、提案されている。当該技術は、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2003−67881号公報
【特許文献2】特開2005−309801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2の技術では、陶芸窯の内部の温度を遠隔地で把握したとしても、陶芸窯に対する温度の設定や変更を、遠隔地から行うことはできなかった。このため、焼成温度の設定や変更を行うときには、陶芸窯が設置された作業室まで戻り、陶芸窯のコントローラを操作する必要があった。これでは、外出先から作業室へ戻るまでの間に、不適切な温度で、焼成が進行してしまう。
【0005】
本発明の目的は、陶芸窯の温度を、外部の情報機器から設定し、焼成の失敗を減らすことができる、陶芸窯用のコントローラ、陶芸窯、および陶芸窯管理プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の例示的な第1発明は、表示部と操作部とを備えた陶芸窯用のコントローラであって、前記陶芸窯の焼成室の内部を加熱する加熱部と、電気的に接続され、外部の情報機器からの指令に基づいて、目標温度を設定する目標温度設定部と、前記目標温度に基づいて、前記加熱部を制御する加熱制御部と、を有する、コントローラである。
【0007】
本願の例示的な第2発明は、陶芸窯のコントローラと通信可能な情報機器にインストールされる陶芸窯管理プログラムであって、前記情報機器に、a)前記陶芸窯の焼成室の内部の温度を、前記コントローラから受信する工程と、b)前記コントローラが前記陶芸窯の加熱部を制御する際に参照する目標温度を変更する変更指令を、前記コントローラへ送信する工程と、を実行させる、陶芸窯管理プログラムである。
【発明の効果】
【0008】
本願の例示的な第1発明によれば、外部の情報機器からの操作で、加熱制御部の目標温度を設定できる。これにより、焼成室内の温度をシビアに管理でき、焼成の失敗を減らすことができる。
【0009】
本願の例示的な第2発明によれば、焼成の開始後、焼成室内の温度が期待通りに変化しない場合に、情報機器からの操作で、目標温度を事後的に変更できる。これにより、焼成室内の温度をシビアに管理でき、焼成の失敗を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る陶芸窯の正面図である。
【
図2】
図2は、陶芸窯、サーバ、およびモバイル端末の構成を、コントローラを中心として描いたブロック図である。
【
図3】
図3は、陶芸窯、サーバ、およびモバイル端末の構成を、モバイル端末を中心として描いたブロック図である。
【
図4】
図4は、焼成の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、モバイル端末の表示例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
<1.陶芸窯の構成について>
図1は、本発明の一実施形態に係る陶芸窯1の正面図である。この陶芸窯1は、陶芸の最終工程において、粘土材料からなる造形物を焼成して、陶磁器を得るための装置である。陶芸窯1は、例えば、陶芸教室や工房等の作業室100内に設置される。
図1に示すように、本実施形態の陶芸窯1は、焼成室10、加熱部20、計測器30、およびコントローラ40を有する。
【0013】
焼成室10は、耐熱性に優れたレンガやボードにより形成された筐体である。焼成室10の内部には、造形物を収容して加熱するための空間が、設けられている。
図1では、焼成室10の内部を明示するために、焼成室10の前面に設けられた扉の図示を省略している。ユーザは、焼成室10の扉を開けることにより、焼成室10の内部へ焼成前の造形物を搬入したり、焼成室10から焼成後の陶磁器を搬出したりすることができる。なお、扉は、焼成室10の上面に設けられていてもよい。
【0014】
加熱部20は、焼成室10の内部を加熱するための機構である。本実施形態の加熱部20は、焼成室10の内側面に埋め込まれた複数のコイル状またはウェーブ状の電熱線により構成される。各電熱線は、通電により発熱し、焼成室10の内部を加熱する。ただし、本発明の加熱部は、必ずしも電熱線を用いたものでなくてもよい。コントローラ40により発熱量を制御可能に構成されていれば、ガス式や灯油式の加熱部を用いてもよい。
【0015】
計測器30は、焼成室10の内部の温度を計測するセンサである。計測器30は、焼成室10内の温度を計測し、計測された温度(以下、「計測温度」と称する)を示す信号をコントローラ40へ送信する。計測器30には、例えば、2種類の金属間の温度差に応じた電圧を測定する熱電対が用いられる。ただし、熱電対に代えて、他方式の温度センサが用いられていてもよい。
【0016】
コントローラ40は、焼成室10の近傍に配置されて、陶芸窯1に関する種々の制御を行う装置である。コントローラ40には、例えば、CPUやメモリを有するマイクロコントローラまたはコンピュータが用いられる。コントローラ40は、上述した加熱部20および計測器30と、電気的に接続される。
【0017】
図1に示すように、コントローラ40は、ユーザインターフェースとなる表示部41および操作部42を備えている。表示部41は、焼成室10内の計測温度等の焼成に関する情報を表示する。表示部41には、例えば、液晶ディスプレイが使用される。操作部42は、コントローラ40に対する種々のコマンド入力を受け付ける。操作部42は、例えば、複数のプッシュキーにより構成される。ユーザは、表示部41を確認しながら、操作部42を操作して、種々のコマンドをコントローラ40に入力できる。
【0018】
なお、表示部41の機能と、操作部42の機能との双方が、タッチパネルディスプレイなどの単一のデバイスにより、実現されていてもよい。
【0019】
<2.コントローラの機能について>
図2は、陶芸窯1および陶芸窯1と通信する外部機器の構成を、コントローラ40を中心として描いたブロック図である。
図2中に概念的に示したように、陶芸窯1のコントローラ40は、出力部43、送受信部44、目標温度設定部45、および加熱制御部46を有する。コントローラ40は、予め設定されたプログラムに従ってCPUを動作させることにより、これらの各部の機能を実現する。
【0020】
出力部43は、焼成時に発生する種々の情報を、表示部41および送受信部44へ出力する。出力される情報には、例えば、焼成室10内の時系列情報を伴った計測温度T1、計測温度T1の変化が正常でない旨の通知、加熱制御部46において後述する自動修正を実施した旨の情報、および、陶芸窯1の消費電力等が含まれる。表示部41は、出力部43から受信したこれらの情報を、画面に表示することによって可視化する。
【0021】
送受信部44は、インターネット等のネットワーク200に接続されている。したがって、送受信部44は、ネットワーク200上のサーバ50との間で、情報の送信および受信を行うことができる。また、サーバ50は、陶芸窯1のユーザが持つモバイル端末60とも、ネットワーク200を介して接続される。このため、サーバ50とモバイル端末60との間においても、情報の送信および受信がなされる。
【0022】
また、本実施形態の送受信部44は、Bluetooth(登録商標)やWi-Fiなどの近距離無線通信用の送受信器を有する。このため、近距離無線通信の電波が届く範囲内にモバイル端末60があるときには、送受信部44とモバイル端末60との間で、サーバ50を介することなく、情報を直接送受信することができる。
【0023】
送受信部44から外部へ送信される情報には、上述した時系列情報を伴った計測温度T1、計測温度T1の変化が正常でない旨の通知、加熱制御部46において後述する自動修正を実施した旨の情報、および、陶芸窯1の消費電力等が含まれる。また、送受信部44が外部から受信する情報には、後述する開始指令C1、停止指令C2、および温度設定指令C3が、含まれる。
【0024】
目標温度設定部45は、加熱制御部46において参照される目標温度T2を設定する。目標温度設定部45は、送受信部44が受信した温度設定指令C3、または、操作部42から入力された温度設定指令C3に基づいて、目標温度T2を設定する。焼成の開始前には、目標温度設定部45が、目標温度T2を新規に設定できる。また、焼成の開始後には、目標温度設定部45が、既に設定された目標温度T2を変更できる。また、本実施形態の目標温度設定部45は、焼成開始後の複数の基準時刻において、それぞれ目標温度T2を設定できる。
【0025】
加熱制御部46は、操作部42または送受信部44から開始指令C1が入力されると、加熱部20による焼成室10内の加熱を開始させる。加熱が開始されると、焼成室10内の温度は次第に上昇し、焼成室10の内部に配置された造形物が焼成される。加熱制御部46は、焼成室10内の計測温度T1と、目標温度設定部45において設定された目標温度T2とを参照し、計測温度T1が目標温度T2に近づくように、加熱部20の発熱量を制御する。また、加熱制御部46は、操作部42または送受信部44から停止指令C2が入力されると、加熱部20を停止させる。
【0026】
また、加熱制御部46は、焼成室10内の計測温度T1から目標温度T2までの温度差と、現在時刻から目標温度T2が設定された基準時刻までの残り時間とに基づいて、加熱部20の発熱量を適宜に自動修正する。すなわち、基準時刻に目標温度T2に到達できないと予測される場合には、加熱部20の発熱量を上げる。また、基準時刻に目標温度T2を超えそうな場合には、加熱部20の発熱量を下げる。
【0027】
また、
図2に示すように、作業室100内の陶芸窯1の近傍には、ネットワーク200に接続されたIPカメラ70が、配置されている。IPカメラ70は、陶芸窯1を含む作業室100内の様子を撮影する。また、
図2に示すように、IPカメラ70は、温度センサ71および湿度センサ72を有することもある。温度センサ71および湿度センサ72は、作業室100内の温度および湿度を、それぞれ計測する。取得された撮影画像、温度、および湿度の各データは、IPカメラ70から、ネットワーク200上のサーバ50を介してモバイル端末60へ、もしくは、サーバ50を介することなく直接モバイル端末60へ、送信される。
【0028】
<3.陶芸窯管理プログラムの機能について>
図3は、陶芸窯1、サーバ50、およびモバイル端末60の構成を、モバイル端末60を中心として描いたブロック図である。
【0029】
本実施形態では、モバイル端末60として、スマートフォンまたはタブレット型PCを用いる。モバイル端末60の前面には、タッチパネルディスプレイ61が設けられている。タッチパネルディスプレイ61は、種々の情報を表示する機能と、ユーザの操作入力を受け付ける機能と、の双方を兼ね備えている。また、モバイル端末60は、筐体の内部に記憶部62を有する。記憶部62は、モバイル端末60において取り扱われる種々のデータを記憶する。
【0030】
このモバイル端末60は、陶芸窯管理プログラムPをインストールすることによって、陶芸窯1を遠隔で管理する管理装置となる。陶芸窯管理プログラムPは、いわゆるアプリ(アプリケーションソフトウエア)として、ネットワーク200からダウンロードされ、記憶部62に記憶される。ただし、陶芸窯管理プログラムPは、CDやDVDなどの記憶媒体から読み取られるものであってもよい。
【0031】
陶芸窯管理プログラムPがモバイル端末60にインストールされると、
図3中に概念的に示したように、モバイル端末60内において、受信部63、送信部64、指令生成部65、履歴作成部66、および警告発生部67の各機能が実現される。モバイル端末60は、記憶部62から読み出した陶芸窯管理プログラムPに従って演算処理を行うことにより、上記の各機能を実行する。
【0032】
受信部63および送信部64は、ネットワーク200に接続される。このため、受信部63および送信部64は、ネットワーク200上のサーバ50との間で、情報の受信および送信を、それぞれ行うことができる。また、本実施形態の受信部63および送信部64は、コントローラ40の送受信部44に対応する近距離無線通信機能を有する。したがって、受信部63および送信部64は、陶芸窯1のコントローラ40との間で、情報の受信および送信を、それぞれ直接行うこともできる。
【0033】
受信部63において受信される情報には、例えば、焼成室10内の計測温度T1、計測温度T1の変化が正常でない旨の通知、加熱制御部46において自動修正を実施した旨の情報、および、陶芸窯1の消費電力等が含まれる。受信された情報は、タッチパネルディスプレイ61に表示される。また、受信部63は、IPカメラ70からサーバ50もしくはモバイル端末60へ直接送信された撮影画像、温度、および湿度の各データも受信する。ユーザは、これらの情報を、モバイル端末60において確認し、異常がないかどうかを監視することができる。また、送信部64から送信される情報には、開始指令C1、停止指令C2、および温度設定指令C3が含まれる。
【0034】
指令生成部65は、ユーザがタッチパネルディスプレイ61に対して行った操作に基づき、開始指令C1、停止指令C2、および温度設定指令C3を生成する。開始指令C1は、陶芸窯1において焼成を開始させるための指令信号である。停止指令C2は、陶芸窯1において焼成を停止させるための指令信号である。温度設定指令C3は、コントローラ40の目標温度設定部45に、目標温度T2を設定させるための指令信号である。温度設定指令C3には、タッチパネルディスプレイ61から入力された目標温度T2の数値情報が含まれる。指令生成部65において生成された各指令C1,C2,C3は、送信部64を介して、サーバ50またはコントローラ40へ送信される。
【0035】
履歴作成部66は、時系列情報を伴った計測温度T1の履歴を蓄積することによって、履歴データD1を作成する。そして、作成した履歴データD1を、記憶部62に保存する。保存された履歴データD1は、タッチパネルディスプレイ61上に、例えば、折れ線グラフとして表示される。ユーザは、表示された計測温度T1の履歴を参照することによって、焼成室10内の温度が適切に変化しているかどうかを、確認することができる。
【0036】
警告発生部67は、陶芸窯1に何らかの異常が生じたときに、警告を発する。本実施形態では、計測温度T1の変化が想定される範囲から外れた場合に、温度変化が正常でない旨の通知が、コントローラ40からモバイル端末60へ送信される。警告発生部67は、当該通知の受信回数または受信頻度が、予め設定された許容値を超えると、警告を発する。警告の仕方は、例えば、タッチパネルディスプレイ61に表示されるメッセージまたはマークであってもよく、あるいは、警告音や振動であってもよい。
【0037】
<4.焼成の流れについて>
続いて、陶芸窯1を用いた焼成の流れについて、
図4のフローチャートを参照しながら説明する。なお、以下の例では、ユーザが、モバイル端末60から全ての操作を行うものとする。ただし、これらの操作の一部を、陶芸窯1のコントローラ40において行うようにしてもよい。
【0038】
陶芸窯1を用いて造形物の焼成を行うときには、まず、焼成前の造形物を、焼成室10の内部に収容する。そして、焼成開始後の基準時刻ごとに目標温度T2を設定する(ステップS1)。具体的には、ユーザが、モバイル端末60のタッチパネルディスプレイ61を操作して、所望の目標温度T2を入力する。そうすると、モバイル端末60内の指令生成部65が、目標温度T2の数値情報を含む温度設定指令C3を生成する。生成された温度設定指令C3は、送信部64から、サーバ50を介して、あるいは、近距離無線通信によって、コントローラ40へ送信される。その後、コントローラ40内の目標温度設定部45が、受信した温度設定指令C3に基づいて、目標温度T2を設定する。
【0039】
目標温度T2の設定が完了すると、次に、ユーザは、タッチパネルディスプレイ61を操作して、焼成の開始を指示する。そうすると、モバイル端末60内の指令生成部65が、開始指令C1を生成する。生成された開始指令C1は、送信部64から、サーバ50を介して、あるいは、近距離無線通信によって、コントローラ40へ送信される。コントローラ40内の加熱制御部46は、開始指令C1を受信すると、加熱部20による焼成を開始させる(ステップS2)。
【0040】
焼成の開始後、焼成室10内の温度は、計測器30によって継続的に計測される(ステップS3)。取得された計測温度T1は、送受信部44から、サーバ50を介して、あるいは、近距離無線通信によって、モバイル端末60に送信される。モバイル端末60は、計測温度T1を受信すると、当該計測温度T1の履歴を、タッチパネルディスプレイ61に表示させる。
【0041】
図5は、焼成中におけるモバイル端末60の表示例を示した図である。
図5の例では、タッチパネルディスプレイ61に、焼成開始後の温度変化を示すグラフ611が表示されている。グラフ611の横軸は、焼成開始後の経過時間を示す。グラフ611の縦軸は、焼成室10内の温度を示す。また、グラフ611内には、複数の目標温度T2を繋いだ理想的な温度変化が破線で示され、計測温度T1の履歴が、実線で示されている。このため、ユーザは、タッチパネルディスプレイ61を参照することによって、計測温度T1の理想状態からのずれを、視覚的に認識することができる。
【0042】
コントローラ40の加熱制御部46は、計測温度T1と目標温度T2とを参照し、計測温度T1が目標温度T2に近づくように、加熱部20の発熱量を制御する。また、加熱制御部46は、計測温度T1から目標温度T2までの温度差と、現在時刻から基準時刻までの残り時間とに基づいて、加熱部20の発熱量を適宜に自動修正する。出力部43は、発熱量の自動修正が実施されたときに、当該実施を示す情報を、モバイル端末60へ出力する。ユーザは、モバイル端末60を参照することによって、発熱量が自動的に修正されたことを知ることができる。
【0043】
このように、加熱制御部46は、計測温度T1に基づいて、ある程度自動で加熱部20の発熱量を修正する。ただし、加熱部20の劣化や入力電圧の低下が生じると、自動修正では追いつかない場合もある。発熱量の自動修正が実施された後に、計測温度T1と目標温度T2との間に、依然として一定以上の乖離がある場合、コントローラ40は、乖離状態であることを示す情報を、モバイル端末60へ送信する。ユーザは、モバイル端末60を参照することによって、発熱量の自動修正では温度の乖離を解消できない状態であることを、知ることができる。
【0044】
このように、発熱量の自動修正では計測温度T1が十分に上昇しない場合、ユーザは、目標温度T2を変更することによって、焼成室10内の温度を強制的に上昇させることを試みる(ステップS4)。ここでは、ユーザが、モバイル端末60のタッチパネルディスプレイ61を操作して、目標温度T2の変更を指示する。例えば、
図5のグラフ611において、目標温度T2を示すポイントをドラッグすることによって、目標温度T2の変更を直感的に行えるようにするとよい。
【0045】
モバイル端末60内の指令生成部65は、タッチパネルディスプレイ61から入力された目標温度T2の数値情報を含む新たな温度設定指令C3を生成する。生成された温度設定指令C3は、送信部64から、サーバ50を介して、あるいは、近距離無線通信によって、コントローラ40へ送信される。その後、コントローラ40内の目標温度設定部45が、受信した温度設定指令C3に基づいて、目標温度T2を新たな値に変更する。加熱制御部46は、新たな目標温度T2を目標として、加熱部20による加熱を継続させる。
【0046】
その後、予定通りの焼成時間が経過すると、加熱制御部46は、自動的に加熱部20を停止させる。これにより、陶芸窯1における焼成が終了する(ステップS5)。また、ユーザは、焼成室10内の計測温度T1がどうしても上がらない場合や、その他の事情によって、焼成を途中で停止させたい場合には、タッチパネルディスプレイ61に表示される停止ボタン612をタップする。そうすると、モバイル端末60内の指令生成部65が、停止指令C2を生成する。生成された停止指令C2は、送信部64から、サーバ50を介して、あるいは、近距離無線通信によって、コントローラ40へ送信される。コントローラ40内の加熱制御部46は、停止指令C2を受信すると、加熱部20を強制終了させる。
【0047】
以上のように、この陶芸窯1では、焼成の開始後、焼成室10内の温度が期待通りに変化しない場合に、加熱制御部46の目標温度T2を、事後的に変更できる。これにより、焼成室10内の温度を、理想的な状態に近付けることができる。その結果、陶磁器の仕上がり状態を、よりシビアに管理できるとともに、焼成の失敗を減らすことができる。
【0048】
特に、この陶芸窯1では、外部のモバイル端末60から、目標温度T2の設定や変更等の操作を行うことができる。したがって、長時間の焼成の間、陶芸窯1の近くに待機しておくことなく、また、外出先から作業室100へ戻ることなく、遠隔で陶芸窯1の管理を行うことができる。
【0049】
また、この陶芸窯1では、ユーザが遠隔で焼成室10内の計測温度T1を常に監視し、焼成室10内の計測温度T1がどうしても上がらない場合には、すぐに遠隔操作で焼成を停止させることができる。早めに焼成を停止させれば、陶芸窯1のメンテナンスを行った後、同じ造形物に対して追加焼成をして、陶磁器を完成させることができる。これにより、焼成の失敗をより減らすことができる。
【0050】
<5.過去データの作成および共有について>
また、この陶芸窯管理プログラムPがインストールされたモバイル端末60は、焼成の実績を過去データD2として保存する機能を有する。
【0051】
図6は、過去データD2の例を示した図である。
図6の例では、焼成の試行ごとに、「日付」、「プログラム」、「仕上がり画像」、「窯詰め画像」の各データが、対応づけて保存されている。「日付」は、焼成を実施した日付である。「プログラム」は、基準時刻ごとに設定された複数の目標温度T2を、一括りのデータにしたものである。「仕上がり画像」および「窯詰め画像」には、任意の画像を保存することができるが、「仕上がり画像」には、焼成後の陶磁器の外観画像を、「窯詰め画像」には、焼成室10内における陶磁器の配置状態を示す画像を、それぞれ保存することを想定している。
【0052】
このような過去データD2を、保存・蓄積しておけば、次回以降の焼成時に、過去データD2を参照しながら、焼成条件を検討することができる。例えば、複数の仕上がり画像のうちの1つと同様の仕上がり状態を得るために、目標温度T2どのように設定すればよいかを、知ることができる。また、「窯詰め画像」を参照して、焼成室10内における陶磁器の効率的な配置を、次回以降に再現しやすい。
【0053】
また、このような過去データD2を、モバイル端末60から、ネットワーク200上のサーバ50へ、アップロードできるようにしてもよい。また、サーバ50に蓄積された過去データD2を、モバイル端末60へダウンロードできるようにしてもよい。このようにすれば、他のユーザとの間で、サーバ50に蓄積された過去データD2を、共有することができる。したがって、多くの情報を参考にしながら、目標温度T2をより適切に設定することができる。
【0054】
<6.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
上記の実施形態では、外部の情報機器として、スマートフォンやタブレット型PC等のモバイル端末60を用いていた。しかしながら、本発明における「情報機器」は、固定設置されるパーソナルコンピュータであってもよい。ただし、モバイル端末60を用いれば、場所を選ぶことなく、陶芸窯1の管理を行うことができる点で好ましい。
【0056】
また、本発明のコントローラは、焼成室とセットで販売されるものであってもよく、別々に販売されるものであってもよい。また、本発明のコントローラは、複数種類の焼成室に適用可能な汎用のコントローラであってもよい。
【0057】
また、陶芸窯および外部の情報機器の細部の構成は、同等の機能を実現できる範囲で、適宜に変更してもよい。
【0058】
また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、陶芸窯用のコントローラ、当該コントローラを有する陶芸窯、および、陶芸窯のコントローラと通信可能な情報機器にインストールされる陶芸窯管理プログラムに利用できる。
【符号の説明】
【0060】
1 陶芸窯
10 焼成室
20 加熱部
30 計測器
40 コントローラ
41 表示部
42 操作部
43 出力部
44 送受信部
45 目標温度設定部
46 加熱制御部
50 サーバ
60 モバイル端末
61 タッチパネルディスプレイ
62 記憶部
63 受信部
64 送信部
65 指令生成部
66 履歴作成部
67 警告発生部
70 カメラ
71 温度センサ
72 湿度センサ
100 作業室
200 ネットワーク
611 焼成開始後の温度変化を示すグラフ
612 停止ボタン
C1 開始指令
C2 停止指令
C3 温度設定指令
D1 履歴データ
D2 過去データ
P 陶芸窯管理プログラム
T1 計測温度
T2 目標温度