【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、総務省、電波資源拡大のための研究開発委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる第1導波管22の導波路23と、第1導波管22に一端側が内挿された状態で連結された第2導波管24の導波路25に電波ハーフミラー30A、30Bをそれぞれ設け、それら導波管22、24を相対的に移動させて電波ハーフミラー30A、30Bの間隔を可変し、ミラー間に形成される共振器の共振周波数を可変してその共振周波数成分を選択的に通過させるミリ波帯フィルタ20において、第1導波管22の内壁に対向する第2導波管24の外壁に、導波路の長手方向に沿った長さpが漏出防止対象の電磁波の1/4波長相当となる溝90を設けて、第1導波管22と第2導波管24の隙間からの電磁波漏出を防止する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユビキタスネットワーク社会を迎え、電波利用ニーズが高まる中、家庭内のワイヤレスブロードバンド化を実現するWPAN(ワイヤレスパーソナルエリアネットワーク)や安全・安心な運転をサポートするミリ波レーダー等のミリ波帯無線システムが利用され始めている。また、100GHz超無線システム実現への取組も積極的に行われてきている。
【0003】
その一方で、60〜70GHz帯の無線システムの2次高調波評価や100GHz超の周波数帯における無線信号の評価については、周波数が高くなるにつれ測定器の雑音レベル及びミキサの変換損失が増加するとともに周波数精度が低下するため、100GHzを超える無線信号の高感度、高精度測定技術が確立されていない状況となっている。しかも、これまでの測定技術では局部発振の高調波を測定結果から分離することができず、不要発射等の厳密な測定が困難となっている。
【0004】
これらの技術課題を克服し、100GHz超帯域無線信号の高感度・高精度測定を実現するためには、イメージ応答及び高次高調波応答を抑制するためのミリ波帯の狭帯域なフィルタ技術の開発が必要であり、特に、可変周波数型(チューナブル)に適応可能なものが望ましい。
【0005】
これを実現するものとして、本願出願人は、光の分野で用いられているファブリペロー共振器をミリ波に応用し、TE10モード(単一モード)を伝搬する導波路の内部に対向させた一対の電波ハーフミラーの間の共振作用により、ミリ波の所望周波数成分を選択的に通過させるミリ波帯フィルタを提案している(特許文献1)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1には、所望周波数帯域の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路を、断面長方形の第1導波管と、その第1導波管の内側に僅かに隙間のある状態で一端側が挿入された断面長方形の第2導波管とで構成し、第1導波管の内部と第2導波管の先端に電波ハーフミラーを設け、その間隔が変化するように一方の導波管に対して他方の導波管をその長手方向に相対的に移動させる構造が開示されている。
【0008】
この構造では、第1導波管の口径に対し、その内側に挿入される第2導波管の口径が必然的に第2導波管の肉厚分と移動に必要な導波管同士の隙間分だけ小さくなり、その口径差によってTE10モードで伝搬できる周波数範囲が異なってくる。したがって上記のような断面形状が長方形の導波管を用いた場合、両導波管の口径で決まるTE10モードの伝搬可能な周波数範囲が重なる領域で使用することが前提となる。
【0009】
例えば一般的に知られている内径2.54×1.27mmのWR−10型の導波管を外側の第1導波管として用いる場合、第2導波管の最低限必要な肉厚を0.1mm程度、両導波管の隙間を30μmとすれば、第2導波管の内径は、2.28×1.01mmとなり、この口径が小さくなった分だけTE10モードで伝搬できる周波数領域の下限周波数が上昇する。このため、低域側を広帯域化するためには、第2導波管の肉厚を極力小さくすることが必要である。
【0010】
また、一方で、上記のように口径が異なる導波管同士を連結した状態で、一方の導波管を他方に対して長手方向に相対的に移動させる構造のフィルタの場合、外側の導波管の内壁と内側の導波管の外壁と間の隙間から電磁波が漏れて、共振特性を劣化させる。
【0011】
この電磁波の漏れによる共振特性の劣化を防ぐ技術として、上記特許文献1には、内側の導波管の外壁に隙間を挟んで対向する外側の導波管の内壁に、その導波管の長手方向と直交する方向に所定深さの溝を設け、隙間に進入して溝に達した電磁波と、その溝を往復して位相が反転した電磁波とで互いを相殺させることで外部への電磁波の漏れを防止する技術が開示されている。
【0012】
この溝の深さは、その漏出防止の原理から想到されるように、漏出防止対象の電磁波の管内波長の1/4波長程度となり、仮に漏出防止対象の電磁波の周波数を100GHz程度とすれば、その管内波長は4mm程度となり、漏出防止用の溝の深さは1mm程度必要となり、外側の導波管の肉厚として、この溝の深さ分を考慮した値に設定すればよい。
【0013】
しかしながら、上記のように外側の導波管の内壁に電磁波漏出防止用の溝を設けた構造のフィルタの特性を詳細に調べてみると、内側の導波管の先端(電波ハーフミラーが固定されている部分)から外側の導波管の内壁に設けた溝までの間(以下、不要共振器長と呼ぶ)で不要共振が生じることが認められ、その不要共振周波数が導波管の移動により変化することがわかった。
【0014】
ここで、一対の電波ハーフミラーの間隔で決まるフィルタ自体の共振周波数(フィルタ共振周波数)は、そのミラー間隔が小さくなるほど高くなるのに対し、上記不要共振周波数はミラー間隔が小さくなるほど低くなる。つまり、ミラー間隔の変化に対し、両共振周波数の変化方向は逆向きとなり、不要共振がフィルタ共振特性を乱すことになる。
【0015】
これを防ぐために、ミラー間隔が最も広い状態のときに、不要共振器長をそのミラー間隔より十分広くすることが考えられるが、上記不要共振は電磁波の波長の1/2だけでなく、その奇数倍でも発生し、高次の不要共振の影響が避けられない。また不要共振器長を極端に長くすると内側の導波管と外側の導波管とがオーバーラップする長さを大きくする必要があり、フィルタ全体が大型化してしまう。
【0016】
本発明は、上記問題を解決して、電磁波漏出による共振特性の劣化を招くことなく、広帯域に共振周波数を可変できるミリ波帯フィルタを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、本発明の請求項1のミリ波帯フィルタは、
ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路を有する第1導波管(22)と、
前記所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路を有し、少なくとも一方の端部が前記第1導波管に内挿された状態で該第1導波管と連結される第2導波管(24)と、
前記所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもち、前記第1導波管の導波路と前記第2導波管の導波路とをそれぞれ塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向するように設けられた平面型の一対の電波ハーフミラー(30A、30B)と、
前記第1導波管と前記第2導波管とを、互いに連結された状態で導波路の長手方向に相対的に移動させて前記一対の電波ハーフミラーの間隔を可変する間隔可変手段(40)とを備え、
前記一対の電波ハーフミラーの間に形成される共振器の共振周波数を中心とする周波数成分を選択的に通過させるミリ波帯フィルタにおいて、
前記第1導波管の内壁に対向する前記第2導波管の外壁には、導波路の長手方向に沿った長さが漏出防止対象の電磁波の1/4波長相当となる溝(60)が形成され、該溝によって前記第2導波管の外壁と前記第1導波管の内壁との隙間からの電磁波漏出を防止することを特徴する。
【0018】
また、本発明の請求項2のミリ波帯フィルタは、請求項1記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記第1導波管を、その導波路の断面形状が長方形の方形導波管とし、
前記第2導波管を、その外形が前記第1導波管の内壁に対して所定の隙間をもつ長方形で、導波路の断面形状が両側部の高さに対して中央部の高さが小となるリッジ型導波管としたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の請求項3のミリ波帯フィルタは、請求項1または請求項2記載のミリ波帯フィルタにおいて、
前記一対の電波ハーフミラーは、
前記導波路を伝搬する電磁波を反射させる所定厚さの長方形の基板(31A、31B)と、
前記基板の中央部に該基板の長辺方向に沿って形成され、前記導波路を伝搬する電磁波の一部を通過させるスリット(32A、32B)とを有し、
該スリットは、その両側部に対して中央部の高さが小となるリッジ型であって、前記基板の厚さ、前記スリットの前記両側部と前記中央部の高さと幅が、前記導波路を伝搬する電磁波に対する透過率が前記所定周波数範囲で平坦となるように設定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上記のように、本発明のミリ波帯フィルタは、ミリ波帯の所定周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬させる第1導波管と、その第1導波管に少なくとも一端側が内挿された状態で連結された第2導波管の導波路にそれぞれ一対の電波ハーフミラーを設け、それら導波管を相対的に移動させて電波ハーフミラーの間隔を可変し、ミラー間に形成される共振器の共振周波数を可変してその共振周波数成分を選択的に通過させるミリ波帯フィルタにおいて、第1導波管の内壁に対向する第2導波管の外壁に、導波路の長手方向に沿った長さが漏出防止対象の電磁波の1/4波長相当となる溝が形成され、その溝によって第2導波管の外壁と第1導波管の内壁との隙間からの電磁波漏出を防止している。
【0021】
このように、内側の第2導波管の外壁に、導波路の長手方向に沿った長さが漏出防止対象の電磁波の1/4波長相当となる溝を設けた構造であるので、ミラー間隔の変化に対し不要共振器長は不変となり、不要共振の影響によるフィルタの特性の乱れを防止でき、しかも、溝の漏出防止作用を示す長さは導波路の長手方向であるので、第2導波管の肉厚としては、その長さの溝を形成できる程度の深さ分を見込めばよく、限られた口径の第2導波管であっても十分実現できる。
【0022】
また、リッジ型導波管のように導波路の中央部の高さが両側部の高さ寸法に対して小に設定されたものでは、その導波路の断面積が標準の方形導波管のものより小さくても低い周波数領域の電磁波をTE10モードで伝搬できる特性を有しているので、第2導波管としてリッジ型導波管を用いた場合には、電磁波漏出防止用の溝のために肉厚が大きくなっても、TE10モードで伝搬できる周波数帯の低域側を広く維持でき、より広帯域化が可能である。
【0023】
また、電波ハーフミラーの基板に設けるスリットを、両側部に対して中央部の高さが小に設定されたリッジ型としたものでは、基板の厚さ、スリットの両側部と中央部の幅と高さを含めた多くのパラメータを選ぶことにより、導波路を伝搬する電磁波に対する透過率を、所定周波数範囲で平坦となるように設定でき、フィルタとしてのさらなる広帯域化が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明のミリ波帯フィルタ20の基本構造を示すものであり、
図1の(a)は、ミリ波帯フィルタ20を側方から見て一部を破断した図、
図1の(b)は、
図1の(a)のA−A線断面、
図1の(c)は、
図1の(a)のB−B線断面を示している。
【0026】
図1に示しているように、このミリ波帯フィルタ20は、第1導波管22、第2導波管24、一対の電波ハーフミラー30A、30Bおよび間隔可変手段40によって構成されている。
【0027】
第1導波管22は、ミリ波帯の所定周波数範囲(例えば75〜110GHz)の電磁波をTE10モード(単一モード)で伝搬させる断面長方形の導波路23を有する方形導波管であり、例えば、前記した内径w0×h0=2.54×1.27mmのWR−10型の導波管が使用できる。なお、
図1では電波ハーフミラー30Aを境にして左側の導波路23と右側の導波路23′に別れており、基本構造では、二つの導波路23、23′の口径は等しいとするが、外部回路に接続される右側の導波路23′をWR−10型に対応した標準口径とし、第2導波管24が内挿される左側の導波路23の口径を、標準口径より若干大きく(例えばw0′×h0′=2.65×1.47mm)してもよい。
【0028】
図2は、第1導波管22として用いることができる上記内径w0×h0=2.54×1.27mmのWR−10型の導波管の透過率特性(S21)を示すものであり、下限周波数60GHzから160GHzを超える範囲で低損失且つ平坦な特性を示している。
【0029】
また、第2導波管24は、第1導波管22と同様に前記所定周波数範囲(例えば75〜110GHz)の電磁波をTE10モードで伝搬させる導波路を有し、少なくとも一方の端部が第1導波管22に内挿された状態で第1導波管22と連結される。
【0030】
ここで、この第2導波管24として導波路の断面形状が長方形の方形導波管を用いた場合、導波管の相対移動に必要な隙間G、G′分と、導波管自身の肉厚分の和の分だけ導波路が細くなり、
図2に点線で示しているように低域のカットオフ周波数が高域側に移動して使用可能な帯域が狭くなる。したがって、この第2導波管24の特性と第1導波管22の特性とがオーバーラップする領域がTE10モードの伝搬が可能な範囲となる。なお、ここでは、第2導波管24を方形導波管として説明し、その変形例については後述する。
【0031】
一方、平面型の一対の電波ハーフミラー30A、30Bは、所定周波数範囲の電磁波の一部を透過させ、一部を反射させる特性をもち、第1導波管22の導波路23と、第2導波管24の導波路25とをそれぞれ塞ぐ状態で互いに間隔を開けて対向するように設けられている。
【0032】
より具体的に言えば、電波ハーフミラー30A、30Bは、それぞれの導波管の導波路を塞ぐ長方形の外形を有し、一方の電波ハーフミラー30Aは、第1導波管22の導波路の中間部に固定され、他方の電波ハーフミラー30Bは、第2導波管24の先端(
図1で右端)に設けられている。
【0033】
電波ハーフミラー30A、30Bは、導波路を伝搬する電磁波を反射させる金属材からなる所定厚の長方形の基板31A、31Bと、基板31A、31Bの中央部にその長辺方向に沿って形成され、導波路を伝搬する電磁波の一部を通過させるスリット32A、32Bを有している。
【0034】
このスリット32A、32Bとしては、フィルタの基本構造を示す
図1の(c)では、幅方向にわたって高さが一定の単純なものを示しているが、後述するように一部の高さが他の部分と異なっていてもよい。
【0035】
また、間隔可変手段40は、第1導波管22と第2導波管24とが連結された状態で導波路の長手方向に相対的に移動させて一対の電波ハーフミラー30A、30Bの間隔を可変させ、その間隔で決まるフィルタの共振周波数を可変させる。この間隔可変手段40の具体的な構造は任意であるが、基本的には、径が大きい第1導波管22側を固定支持し、第2導波管24をその長手方向に且つ第1導波管22と同心状態で移動させるものであればよく、駆動方法としてはモータの回転力を直線運動に変換して第2導波管24を第1導波管22に対して進退させる構成等が採用できる。
【0036】
図1に示しているように、第2導波管24の先端側(電波ハーフミラー30Bが固定されている端部側)の外壁には、電磁波漏出防止用の溝(チョーク)60が形成されている。このように内側の第2導波管24に電磁波漏出防止用の溝を設けることで、前述したミラー間隔の変化に対する不要共振長の変化をなくすことができるが、前記したように電磁波漏出防止用の溝として必要な深さは1mm程度であり、これを従来装置のように導波路の長さ方向に直交する向きに設けることは、第1導波管22の内径寸法(ほぼ2mm×1mm)から考えて実現困難である。
【0037】
そこで、発明者らは、溝の電磁波漏出防止作用を示す長さ方向を導波路の長さ方向に合わせることができないかを検討した。
【0038】
図3の(a)は、30μmのギャップ(隙間Gによる導波路)に直交するように長さ1.1mm、幅0.3mmの溝を設けた従来モデルであり、
図3の(b)は、30μmのギャップに沿って長さ1.1mm、深さ0.2mmの溝を設けた検討モデルである。従来モデルの透過特性は
図4のように得られ、検討モデルの透過特性は
図5のように得られた。
【0039】
70〜120GHzの範囲で両者を比較すると、従来モデルは検討モデルに対して大きな減衰が得られ、特に94GHzでは急峻に減衰していることがわかる。しかしながら、検討モデルにおいても、上記周波数範囲でほぼ10dBの減衰が得られており、この減衰量で不十分であれば、同一形状の溝を導波路の長さ方向に沿って複数段形成することで対応できる。この結果から、電磁波漏出防止用の溝については、その電磁波漏出防止作用を示す長さ方向を導波路の長さ方向に合わせて形成することが可能であることが確認でき、この技術は、肉厚が0.3mm程度の第2導波管24であれば十分適用できる。
【0040】
図1に示したミリ波帯フィルタ20は上記検討技術を採用したものであり、第1導波管22の内壁面に隙間Gを挟んで対向する第2導波管24の先端に近い上下の外壁面に、電磁波漏出防止用の溝60を、その電磁波漏出防止作用を示す長さ方向が導波路の長さ方向となるように設けている。
【0041】
つまり、電磁波漏出防止作用を示す長さp=1mm程度の溝60を、深さq=0.2mm程度で形成している。このような向きに設けた場合であっても、溝60のハーフミラーに近い方のエッジから遠い方のエッジまで伝搬して戻ってくる電磁波の位相がλ/2変化して入出力が相殺する(漏出電磁波に対してインピーダンスが非常に高くなるチョーク効果を示す)ため、電磁波漏出効果が得られる。
【0042】
この溝60による電磁波漏出防止効果は、前記検討モデルから10dB程度の減衰と予想されるが、
図1の(a)に点線で示しているように溝60を導波路の長さ方向に沿って複数段(
図1では2段示しているが導波管の重なる長さを延長して3段以上設けてもよい)並べることで、より大きな減衰量を得ることができる。
【0043】
また、ここでは、電磁波漏出防止効果が高い第2導波管24の上下(長辺側)の外壁に溝60を設けているが、隙間G′を挟んで第1導波管22の左右(短辺側)の内壁に対向する左右(短辺側)の外壁にも溝を設けることができる。
【0044】
このように、口径が異なる第1、第2導波管22、24を連結し、外側の第1導波管22の導波路と内側の第2導波管24の導波路にそれぞれ電波ハーフミラー30A、30Bを対向する状態で固定し、一方の導波管を他方に対して相対的に移動させてミラー間隔を可変することで、フィルタの共振周波数を可変する構造のミリ波帯フィルタにおいて、第1導波管22と第2導波管24の隙間から漏出する電磁波を、電磁波漏出作用を示す長さ方向が導波路の長さ方向に沿って第2導波管24の外壁に形成された溝60により防止する構造を採用したことで、電波ハーフミラー30から溝60までの距離(不要共振器長)がミラー間隔の変化に対し不変となり、その距離をミラー間隔に対して十分小さくすることで、不要共振によるフィルタの共振特性の乱れを防止できる。
【0045】
また、第2導波管24の肉厚としては、電磁波漏出防止作用を示す長さと無関係にその溝を形成できる程度の深さ分を見込めばよく、限られた口径の第2導波管であっても十分実現できる。
【0046】
第2導波管24の寸法例について記載すると、第1導波管22の内径を前記したように標準口径より大きい2.65×1.47mm、第1導波管22と第2導波管24との隙間gを30μmとすると、第2導波管24の外径c×dは、2.59×1.41mmとなり、上下(長辺側)の肉厚t1を、最低限必要な肉厚0.1mmと溝60の深さ0.2mmの和の0.3mmとすれば、導波路の高さh1は、1.41−2×0.3=0.81mmとなる。また、第2導波管24の口径の縦横比を1対2とすれば、導波路の幅w1は、1.62mmとなり、左右(短辺側)の肉厚t2は、(2.59−1.62)/2=0.485mmとなる。なお、
図1において、第1導波管22の外形a×bは、内径w0×h0より大きく且つ構造物としての強度が得られる範囲で任意である。
【0047】
前記した基本構造のミリ波帯フィルタ20は、第2導波管24を方形導波管とし、その外壁に深さ0.2mm程度の溝60を形成しているため、最低限必要な肉厚として0.3mm程度が必要となり、この肉厚の増加により第2導波管24がTE10モードで伝搬できる電磁波の周波数帯域の低域側が、第1導波管22に比べて狭くなる。
【0048】
したがって、低域側でより広帯域な特性が望まれる場合には、内側の第2導波管24として、小口径であっても低域まで通過特性が延びている導波管を用いる必要がある。
【0049】
例えば、導波管の長辺側の両内壁中央から互いに近づく方向に突出する突出部が長さ方向に連続して形成されていて、導波路の断面形状が略H状となる所謂リッジ型導波管を用いることが考えられる。
【0050】
このリッジ型導波管の場合、導波路の中央部の幅と高さおよび両側部の幅と高さを選ぶことで、標準の方形導波管の導波路の断面形状より小さい断面形状で、同等の周波数範囲の電磁波をTE10モードで伝搬できる。
【0051】
図6は、内側の第2導波管24として、リッジ型導波管を用いたミリ波帯フィルタ20′の構造を示している。
【0052】
この実施形態の第2導波管24の寸法例としては、前記同様に、第1導波管22の内壁との隙間gを30μm、外径c×d=2.59×1.41mmとし、導波路の中央部25aの幅w1′=0.5mm、高さh1′=0.27mm、導波路の側部25b、25cの幅w2′=0.72mm、高さh2′=0.67mm、上下(長辺側)の肉厚t1=0.37mm、左右(短辺側)の肉厚t2=0.325としており、この形状の導波管の透過特性(S21)は、
図7のように求められている。
【0053】
図7から明らかなように、
図2に示した標準のWR−10型導波管の導波路の断面形状に比べて格段に小口径な形状であるにも関わらず、下限周波数が56GHz程度まで低くなっている。
【0054】
したがって、このリッジ型導波管を第2導波管24として用いても、使用目的の所定周波数範囲(75〜110GHz)でTE10モードの伝搬を低損失に行なうことができ、さらに低域側を拡げることもできる。
【0055】
しかも、この第2導波管24では、上下の肉厚t1は0.37mmであるから、前記したように電磁波漏出防止用の深さ0.2mm程度の溝60を無理無く形成でき、電磁波漏出による特性劣化を防ぐとともに、フィルタとしての広帯域化も実現している。
【0056】
なお、ここでは、第1導波管22の伝搬可能な下限周波数(
図2の例では60GHz)に対し、第2導波管24の伝搬可能な下限周波数が低くなる寸法例を示したが、要求される周波数帯域と溝60の形成に必要な肉厚とを考慮して、第2導波管24の導波路の形状を設定すればよい。
【0057】
また、前記したように、電波ハーフミラー30A、30Bの反射特性に関しても、種々の検討した結果、上記基本構造のミリ波帯フィルタのように、スリットの形状として高さ一定のものは、所望の周波数範囲において透過率に変動が見られることが確認された。
【0058】
図8は、厚み1mmの基板31A(31B)にスリット32A(32B)の高さが50μmで一定の場合のミラー単体の透過特性(電波ハーフミラーをその基板と等しい外形の導波路内に設置した状態の透過特性)を示すものであり、70〜115GHzの範囲で下に凸の変化を示している。
【0059】
それに対処するために、
図6に示したミリ波帯フィルタ20′では、
図6の(c)に示しているように電波ハーフミラー30Bのスリット32Bの形状として、第2導波管24の導波路25の断面形状に対応させて、幅w3の中央部33aの高さh3が、幅w4の側部33b、33cの高さh4より小に設定されたリッジ型としている。なお、図示しないが、このスリット形状は他方の電波ハーフミラー30Aについても同じである。
【0060】
このようなスリット形状において、例えば、基板厚0.7mm、スリットの中央部33aの幅w3=0.5mm、高さh3=40μm、両側部33b、33cの幅w4=1.02mm、高さh4=0.2mmとした場合のミラー単体の透過特性(電波ハーフミラーをその基板と等しい外形の導波路内に設置した状態の透過特性)を
図9に示す。
図9に示しているように、70〜115GHzの広い範囲にわたって平坦な透過特性を示している。
【0061】
上記数値例は、基板厚、スリットの中央部、両側部の幅、高さ等のパラメータを種々変化させて平坦化して得られた結果であって、数値そのもので本発明を特定するものではないが、上記のようにスリットに高さの異なる部分を設け、それによって増えたパラメータの変化に対する特性の変化を把握してパラメータを設定することで、電波ハーフミラーの透過特性を平坦化できることが確認された。
【0062】
なお、詳述しないが、パラメータの変化に対する特性の変化傾向について言えば、スリットの中央部33aの高さh3が大きくなる程、透過率が全周波数帯で増加し、両側部33b、33cの高さh4の変化に対しては透過特性の顕著な変化は現れない。また、中央部33aの幅w3が小さくなる程(即ち、両側部33b、33cの幅w4が大きくなる程)、透過率が全周波数帯で増加する傾向がある。そして、基板厚の変化に対して透過特性の傾きが大きく変化し、所定範囲内で厚さを増加させると透過特性の傾きが負から正に変化する。
【0063】
したがって、基板厚を透過特性の傾きがほぼ0(周波数軸とほぼ平行)になる値に設定し、スリットの中央部33aの高さh3と幅w3を、共振器に用いるハーフミラーとして好ましい透過率(例えば20dB程度)となる値に設定することで平坦化でき、上記数値例がその一例を示している。
【0064】
図10は、
図6に示したミリ波帯フィルタ20′において、ハーフミラー間隔uを3.1mm〜1.5mmまで0.04mmステップで可変させたときの透過特性を示すものである。
【0065】
この図から明らかなように、第2導波管24として小口径で肉厚を大きくできるリッジ型導波管を用い、その外壁に電磁波漏出防止用の溝60を導波路の長さ方向に沿って設けたことで、所定周波数範囲75〜110GHzでほぼ一定の損失のフィルタ特性が得られていることがわかる。
【0066】
なお、
図10において、ハーフミラー間隔u=1.5mmの特性の近傍(111GHz以上)に現れているピークは、ハーフミラー間隔uが広い場合(3.1mm〜2.9mm)の副共振である。また、117GHz付近の落ち込みは、別モード(LSE11)の発生による損失であるが、第2導波管24として方形導波管を用いた場合には使用帯域内で発生していたものが、リッジ型導波管を用いたことで使用帯域より高域側に移動させることができていることがわかる。