【課題】東洋医学では、医師の肉眼による舌の診察や指の感覚による脈診や擬態語など曖昧な言葉による問診に基づいて診断され、数値やグラフなどを提示することが出来ないという課題があった。上記課題を解決するシステムを提供する。
【解決手段】カメラおよび画像表示装置を具備した携帯端末は容易に舌や顔を撮影することが出来る。この機能と東洋医学による診断を行うプログラムを搭載することにより、熟練した東洋医学の医師と同様の診断プロセスを実現する。舌や顔の色判断の曖昧さを解決するために、携帯端末の画面表示装置を波長可変光源として利用する。顔や舌の撮影を行う際、画面表示装置の発色を、3原色に対応する波長が特定されている光で発光させ、その光が被撮影対象に照射されている間に、顔や舌の画像を連続的に撮影することにより分光学に基づく計測データーを得る。
カメラ機能と画像表示装置を具備した携帯端末装置において、東洋医学に基づく診断機能を有し、患者あるいは被験者が、舌や顔や目や指を撮影または計測することにより、自らの健康管理情報または病状をその端末から容易に得ることができるシステム。
前記システムにおいて、東洋医学の蓄積された記録および診察の現場で使われている擬態語、擬声語、および擬音語による症状を説明する表現から、曖昧なデーターを扱うアルゴリズムを利用して演算することにより、特定の症状あるいは身体の状態を決定するプログラムを含むシステム。
携帯端末装置に向かい、舌の色や顔色や撮影する場合に、画像表示装置を、赤の色基準となる650nmから760nmの領域内の何れかの波長に設定して発光させ、その発光にタイミングを合わせて撮影を行い、次に、緑の色基準となる490nmから570nm領域内の何れかの波長に設定して発光させ、その発光タイミングに合わせて撮影を行い、次に、青の色基準となる460nmから490nm領域内の何れかの波長に設定して発光させ、その発光タイミングに合わせて撮影を行う手順を制御するプログラムを含む請求項1から3のシステム。
周期的な発光タイミングの合間に発光タイミング期間と同じ時間の発光しないタイミングを設定し、その発光しないタイミング期間を利用して、カメラが撮影するデーターから、背景ノイズを減算するロックイン検出機能を実施するプログラムを有する請求項1から4に記載のシステム。
画像表示装置の表面に患者あるいは被験者の指を置き、請求項4に記載の波長制御を行い、指を透過する光を集光し、その光をカメラまで最小限の損失で導光する治具を用い、指の内部の血液の光吸収特性を利用して脈拍パルスあるいは血中酸素濃度を計測する機能を有する請求項1から3に記載のシステム。
カメラとフラッシュ光源を同時に覆うように患者あるいは被験者の指を置き、指の内部の反射光あるいは散乱光を、カメラと指の間に配置した波長選択光学フィルター機能を有する治具を用い、指の内部の血液の光吸収特性を利用して脈拍パルスあるいは血中酸素濃度を計測する機能を有する請求項1から6に記載のシステム。
携帯端末装置を用いて日常的な健康管理を行う目的で、設置場所を洗面所に設置する場合に、画像表示画面に映る患者あるいは被験者の姿が、鏡に映る姿と同じように見える画像処理機能を有するプログラムを搭載した請求項1から7に記載のシステム。
請求項1から7に記載のシステムと同様の機能を有し、画像表示装置が50インチを超える大型であり、複数の人が画像表示装置に向かう設置環境において、画面に映る一人一人の顔の映像に対して、診断処理機能を有するシステム。
請求項1から9に記載のシステムを用いて、人の舌の色や舌の表面状態および顔色や脈拍の状態を計測して診断した結果と、同じ患者あるいは被験者を医師が従来の東洋医学の手順で診断した結果を比較することにより、その二つの結果が一致または強い相関が得られるまで、医師の協力を得ながら、患者あるいは被験者の計測と診断を繰り返すことにより、診断の基礎となるデーターベースの修正と更新を行うプロセスを含むシステム。
【背景技術】
【0002】
一般向けに市販されている健康状態を検査することを目的とした電子機器は、体重を計測する目的であれば体重計、脈拍であれば脈拍計、血圧であれば血圧計、など単一の計測対象に対して単一の機能を有する計測機器が多い。このような計測機器においては、計測値(例えば体重値)を表示、あるいは記録するだけであり、その計測値から健康状態を判定するには、被計測者の主観による判断が必要となる。
【0003】
この判断のよりどころとなるのは、計測装置毎に用意されている統計による代表値で分類した診断表であり、体重計測に関する診断表であれば、一定値以上の計測値に対しては、被験者が肥満状態であるという結論を導き、血圧計測に関する表であれば、一定値以上の計測値に対しては、被験者が高血圧状態という結論を示唆する方式が多い。
【0004】
従来、健康状態を検査する装置において、単一機能の計測機器の多くは、その計測しようとする身体の状態の検知に適したセンサーと電子制御装置を組み合わせて、単一の計測対象を意図したシステムが作られてきた。一般的には、体重計は、脈拍を計測しないし、体温計は脈拍を表示しない。ただし、血圧計のように、センサーに圧力を検知する電子素子を用いた機器では、圧力の周期的な変化から脈拍数を計測し、同時に、血圧までも計測できる機器が増えている。
【0005】
また、光の透過特性を利用したセンサーでは、血液を透過する光の波長依存性を利用して、血中酸素濃度を計測しながら、同時に、血液の圧力変化による透過光量の変動量から脈拍数を計測している。このように、健康管理機器では、センサーが検知した信号を分析することにより、種々の情報を複合的に計測し表示する技術が確立されている。
【0006】
一方、通信機器の市場から普及が始まった携帯端末と呼ばれる携帯型電子装置には、基本となる電話機能に加えて、コンピューター機能と多数のセンサーが組み込まれており、種々のデーター収集形態が可能である。例えば、携帯端末のスピーカーとマイクを組み合わせるソフトウエアを搭載することにより、スピーカーからパルス状に発した音を、マイクで検知することにより、音の発生から検知までの時間を演算し、携帯端末と対象物体との空間的距離を計測する機能を実現している。
【0007】
また、携帯端末に搭載されているカメラを利用して、眼球の動きを動画として計測し、眼球の特徴的な振動パターンから、アルコールが体内に残っているかを判断するソフトウエアまで登場している。このソフトウエアは、携帯端末に搭載されているカメラの性能が、静止画だけでなく、動画も撮影できるだけの応答速度を有していることを利用したものであり、肉眼では容易に検知できない、眼球の微小な変位と、さらには数十ミリ秒程度の高速時間応答も計測できることを巧みに活用したものである。
【0008】
携帯端末に限らず、最近の電子装置の表示部において、液晶表示パネルの背景照明の光源として、従来の冷陰極管や蛍光灯などから、LEDが利用されているようになっている。白色LEDが開発されてからは、ほとんどの表示装置の背景光源がLEDに置き換えられている。大型の表示装置では、背面の光源に3原色LEDを配置した装置まで開発されている。また、背景照明を必要としない表示部に自発発光する有機ELパネルを利用した次世代の電子装置として既に市場に登場している。
【0009】
このような背景光源のLED化は、画面の色の制御特性を、その色の種類と発光の応答時間の両方において飛躍的に向上させている。特に、背面に3原色LEDを配置した表示装置や、有機EL表示装置は、画面全体を特定の発光色、つまり、特定の波長に自在に制御できる波長可変光源としての応用も可能である。さらに、従来は独立していた表示機能とカメラ機能が装置として一体になっていることも、幅広い応用の可能性を広げている。
【0010】
以上の技術的背景は、本発明に関わるハードウエア技術の視点から述べたものである。次に、ソフトウエア技術やデーター処理手順の視点から背景となる技術を記述する。
光を利用する分光学によれば、被測定物の情報を得る方法として、被測定物から発する光、あるいは、被測定物からの反射光を、光の波長(単位はメートル)毎に分別して、波長毎の光強度(スペクトル)として整理することにより、被測定物の基本特性や状態を知ることができる。この方法は分光計測、あるいは単に分光と呼ばれる一般的な計測技術である。
【0011】
東洋医学による診断では、医師の肉眼により、患者の顔色、舌の色を観察し、診断に必要な情報を得ている。分光学の視点から判断すると、その観察が行われた部屋の照明光源が蛍光灯か、水銀灯か、あるいはタングステン灯か、どのような波長の光を発する光源かに依存して、被測定対象である、顔や舌の色はそれぞれ異なって見える。ところが熟練した医師は、光源の状態に依存しないで診断を行っている。おそらく、医師は、肉眼による色の観測情報を訓練により補正していると思われるが、人の肌の色に関連した診断を行う電子機器に置いても、光源の違いによる色の補正を行うソフトウエアが望まれる。
【0012】
東洋医学による診断では、医師の肉眼による色の観察だけでなく、指による脈の観察も診断情報として使われている。さらに、患者との問診から得られる症状を表現した言葉も診断情報として加味され、総合的に診断が行われる。同時に3本の指を用いる東洋医学に特徴的な脈診では、単位時間あたりの脈拍数だけではなく、強い脈、弱々しい脈、弦のような脈など、イメージによる捉え方により患者の心身の状態の情報を得ている。また、患者が話す症状も、刺すような痛み、ずっしり重い痛み、などイメージや、擬声語および擬態語による表現を普通の症状告知として医師は受け取り、診断情報としている。
【0013】
東洋医学による診断プロセスを、健康状態を検査する電子機器に置き換えるためには、カメラと表示装置が一体となった電子機器のハードウエア的特長を有効に活用しながら、同時に擬声語、擬音語および擬態語による表現を認識するソフトウエアと組み合わせたシステムが望まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
医師が患者を治療する際、東洋医学における診断では、医師の肉眼による顔色、舌の色の診察と、医師の指による脈診、および問診が基本的な診察要素であり手法である。この総合的かつ統合的な診察手法は、長い間の訓練により身につけることが出来る技能と位置づけられていて、いずれの診断要素も電子機器を用いた数値による診断は行われていない。その結果、診断は主観的であり、数値やグラフで示すことが出来ない、科学的根拠が無いとして、東洋医学による治療の普及を妨げる障壁の理由のひとつとなっている。
【0016】
熟練した東洋医学の医師は、肉眼により顔色や、特に舌の色から、正しい診断情報を得ているが、もし顔や舌をカメラで撮影すると、周囲の光の影響を受けるため、その画像からは実際の色と異なるため、正しい診断に直接使用することができない。例えば、色基準となる試料を近くに配置し、顔や舌と同一の画角の中で同時に撮影すれば、画像データーの色補正は可能であるが、熟練した東洋医学の医師の瞬時判断には及ばないため、現場で使える現実的な解決とは言えない。
【0017】
さらに、東洋医学における判断の基礎となる色の認識は、人の感覚に基づいた色表現で記録されたり、伝授されたりしているため、例えば国際照明委員会(CIE)で標準化された数値で定義できる色による診断なども行われていない。
【0018】
東洋医学における脈診では、既存の脈拍計のような単位時間あたりの脈拍数だけを診ていない。医師は脈の波形を医師の3本の指を同時に患者の手首に押しあてたときの感覚から脈イメージ(東洋医学では脈像と表現する)として認識して、数十種類に分類されている脈イメージと病状との記録や記憶を参照するための情報としている。このような脈診プロセスは、総合的かつ統合的であり、単位時間あたりの脈拍数だけをカウントする方式の電子機器では対応することができない。
【0019】
東洋医学における診断では、顔色の診察結果、舌の色の診察結果、および脈拍パターンから得られる脈イメージに加え、患者との問診による言葉による症状の把握などから過去の症例データーとの参照から総合的に導き出される。問診では、患者の症状を把握するために、患者の話す擬声語および擬態語を含んだ表現を聞くことにより診断情報としている。
【0020】
また、医師が、擬声語および擬態語を使いながら患者に問いかけることで、患者が最も近いと思う言葉を選択する作業も問診のなかで行われている。この診断プロセスは、熟練した医師によれば、ほとんど瞬時に行われ、順次、結果に応じた処置や、薬の処方が行われる。
【0021】
この総合診断の流れを電子的に装置化しようとすると、主としてソフトウエア側の課題として、擬声語や擬態語を含む言葉や、感覚イメージなどの曖昧な情報の高速処理が必要となり、大量の曖昧情報の処理に適したアルゴリズムの導入が望まれる。曖昧な言葉のデーターベースの検索などは、一般的なアルゴリズムでは高速コンピューターを用いても高速処理は容易ではなく、東洋医学の手法を体得した医師の瞬時診断には時間だけではなく、精度においても及ばない。
【0022】
既存の携帯端末やコンピューター機器に搭載されているカメラを利用すれば、顔色、舌の色、脈拍を単純なデーターとして計測することはできるが、東洋医学の診断に利用するには、上記のような課題があり、東洋医学による診断の現場における電子機器の活用が遅れている。
【0023】
また、東洋医学による診断手法は、現在のようにデジタル化した画像データーや客観的な数値を記録する計測機器が発達していない頃に構築された、人の五感を活用して把握した症状と、それに対する処方を蓄積した膨大な知識データーベースである。(特許文献3)で記述されているように、このデーターベースを、通信回線を活用して医療情報をユーザーに提供するサービスの提案がなされているが、その構成には本質的な課題が含まれている。
【0024】
東洋医学のデーターベースは、人の感覚により捉えた、曖昧な情報で構築されている。他方、西洋医学のデーターベースは、各種の計測機器による数値化された診察データーをもとに診断過程が体系化されている。このような構成基準が本質的に異なる二つのデーターベースを単純に統合しても、それを自在に活用するには、電子的な装置のデーターベースを必要としないほどに東洋医学と西洋医学の両医学に習熟した医師しかいないという矛盾が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0025】
東洋医学に基づく診断を行うソフトウエアを搭載した検査機器を実現するために、携帯端末やカメラ付き表示装置が持つハードウエアの機能を生かすプログラムを組み合わせることにより、上述の技術的課題を解決する。
【0026】
顔、あるいは舌の撮影を行う際、カメラと一体化して配置されている表示画面の発色を、3原色、赤(R)、緑(G)、青(B)に対応する波長で発光させ、その光が被撮影対象に照射されている瞬間に、顔や舌の画像を連続的に撮影することにより、分光学に基づく計測データーを得ることができる。この手法により、カメラで撮影した顔や舌の画像データーにおける色に関する種々の課題を解決する。
【0027】
医師は、年齢により顔色の診断基準を変えているが、それも医師各人の主観に依存しており、現場の活用を目的とした機器では、医師の主観を反映させることができる柔軟性が求められる。
撮影時の発光波長を自由に可変させることで、高速処理が可能となり、医師の肉眼に基づく診断と一致させることが容易な操作環境を実現することができる。
【0028】
東洋医学における脈診は、単位時間あたりの脈拍数を計測することが主目的ではなく、脈拍パルスの波形のイメージ化である。医師は、患者の腕の血管の上に、指を3本置くことにより、脈による血管の膨らみや微小な振動を、各指から検知することにより、脈拍パルスの波形に相当する情報(脈像)を得て、そこから患者の健康状態を認知している。
【0029】
東洋医学を背景とした手法による脈診プロセスを、電子機器により装置化するための手段として、赤外線を発光するLED光源と携帯端末や表示装置に配置されているカメラを活用する。赤外線LEDの波長は、指を透過する特性をもつ700nmから900nmの範囲の任意の波長とする。このLED光源の電源は、電池あるいは携帯端末からの供給されるものとする。
【0030】
この光源と携帯端末あるいはカメラ付き表示装置のカメラの間に指を置くことにより、指を通過した赤外線をカメラで撮影することにより、血管の収縮振動による変位より通過中に変調された赤外線の強度変化から脈拍パルスを計測する。
あるいは、携帯端末本体に搭載されているマイクロフォン、もしくは、外部接続端子に追加するマイクロフォンを使い、聴診器と同様の手法により、脈拍パルスを検出することも可能である。
【0031】
いずれかの方法で検知した脈拍パルスを、ウエーブレット変換(あるいはフーリエ変換)することにより、波形をスペクトルに分解する。このスペクトルと、医師が習得した種々の脈の波形イメージを、既存の脈拍イメージと病状とのデーターベースと対比させ、電子化した診断装置に適した病状参照データーベースを構築することにより、医師の指による脈診と密接な相関関係を表示できる診断環境および操作環境を実現する。
【0032】
東洋医学の診断では、問診と呼ばれる、患者の言葉による症状の説明が重要な診察要素となっている。例えば、刺すような痛み、鈍い痛み、などのように曖昧な修飾語を組み合わせた言葉によるデーターベースが診断の基準となっている。また、先の脈拍パルスのイメージも、文字による記述で詳細にイメージパターンが分類されている。
【0033】
曖昧な言葉による病状の記述や、主観的な表現により記述されている診断基準など、背景となっている知識や技術の基礎が数値的な根拠を持たない大量の文字データーベースであり、東洋医学の診断を電子化して装置化する際には、この病状データーベースを参照する高速の文字パターン認識技術が必要である。
【0034】
本発明では、(特許文献1)に記載されている制御アルゴリズムを曖昧な言葉の分類に応用する。既に、人の感覚による色認識を数値にするために「xy色度図」が作られている。この色度図を用いた色の特定において、もっと濃い赤い色、もう少し薄い赤色、などといった曖昧な言葉による表現を、このアルゴリズムの高速処理機能を利用して、東洋医学における記録で表現された色を、標準化できる数値に置き換えることにより、言葉による色表現の数値化を提供する。
【0035】
さらに、制御アルゴリズムを曖昧な言葉の分類に応用する。きりきり痛む、じくじくする、ぴりぴり痛むなどの、擬声語、擬音語および擬態語を含む文字で分類され体系的に整理されている東洋医学の記録を、階層構造をもった変数定義ができるプログラム言語(たとえばObjective-C)のルールに置き換えることにより、従来のイメージと言葉のデーターベースを現在のセンサー技術による計測結果と参照できるデジタル化されたデーター構造体に変換する手法を提供する。その結果、診断プロセスを西洋医学と同様に、数値やグラフにより可視化することができ、東洋医学の知識の真のデジタル化技術を提供できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、大量に普及している携帯端末と呼ばれる機器、すなわちカメラ機能および表示機能を有する電子装置に、東洋医学による診断手法をソフトウエアとして搭載することにより、簡単な手順で顔色や、舌の色、脈拍などの測定を実現し、被験者の健康状態を検査するものである。この装置により、被験者は容易に個人による健康管理を日常的に実施することができ、従来の伝統的な家庭の医学よばれる民間治療手法に加えて、ソフトウエアによる東洋医学の知識が加わることにより、家庭の医学の高度化が期待できる。その結果、医師の都市部への偏在が進むことで生じた地方の山間部や離島における医師不足による医療の偏在を補う道具として活用されると期待できる。
【0037】
今後、高齢化が進む社会環境において、多くの個人が普及している携帯端末を健康管理に活用すれば、東洋医学が目指している「健康状態の自己管理」の状態を社会的に達成できる可能性がある。そのため、公共的な医療費削減に関わる効果は大きいと予想される。さらに、生活習慣病に分類される病気の多くは、東洋医学的治療による効果が大きいと期待されているにも関わらず、診断機器が開発されていない現状では、患者一人一人に対する診察時間を短縮できないことや、東洋医学を習得した医師が少ないことなどにより、誰もが東洋医学による治療を受けられる機会は限られている。本装置を活用することにより、医療機関において医師が行う東洋医学による診断プロセスを高速化することができ、東洋医学診断のスループットを向上させることができる。
【0038】
東洋医学による診断手法を搭載した診断機器は、東洋医学に関わる医師の診察時間に関わる負荷を軽減するだけでなく、従来、数値やグラフで可視化できないことにより生じた患者と医師との間の誤解や不信感などを減らすことが期待でき、また患者側は本発明がもたらす東洋医学治療手法の可視化によって納得がゆく治療を受けることができる。
【0039】
さらに、東洋医学による診断機器が教育現場に波及することにより、医学部における教育時間の配分の中で、西洋医学に比べて極端に少ない東洋医学の教育時間を飛躍的に増やすことができる可能性も考えられ、医療に関連した社会的効果は大きい。
【発明を実施するための形態】
【0042】
添付図を参照しながら本発明の詳細を説明する。本発明は、大別して4つの構成要素からなる。第1の要素は、カメラおよび液晶パネル等の表示装置が一体となった携帯端末、第2の要素は、曖昧なデーターを処理するアルゴリズム、第3の要素は、膨大な記録として蓄積されている東洋医学の知識、第4の要素は、上記の要素を組み合わせて、東洋医学的診断を行うソフトウエアである。
なお、各図は、この発明が理解できる程度に各構成要素の形状、大きさ及びそれらの位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、この発明を図示例に限定するものではない。
【0043】
図1に本発明による検査装置の使用例を示す。患者あるいは被験者(以下、被験者)1は、携帯端末2を持ち、携帯端末に設置されているカメラ3を利用することにより、被験者が口を開いて出している舌を撮影して、表示装置4に舌の映像5を表示し、舌を撮影できることを確認する。一連の操作は被験者の手6で行う。
【0044】
後述するように、舌や、顔や、目を撮影するときに、表示装置を一時的に光源として利用し、特定の波長の光7を発光させながら撮影する。
【0045】
東洋医学の診断では、舌の色による病状の判定が重要な要素となっている。
図2に測定対象となる人の舌の表側8と舌の裏側9を示す。被験者1は、医師の診察を受ける場合と同じように、携帯端末に向かって、舌の表と、舌の裏を交互に出して、それぞれの表面の色を測定する。撮影した舌の色を判定する手順については後述する。
【0046】
東洋医学を習得した医師の感覚で認識されている舌の色、また、カメラを通して撮影された対象物の色、何れにしても色の判定は曖昧な要素を含んでいる。本発明において、曖昧なデーターを処理するアルゴリズム(特許文献1)特開2005−221807は、本検査装置システムのソフトウエアの主要な部分を占めているので、その適用方法を説明する。
【0047】
図3に従来の方式によるデーター処理の手法(1)と、本発明で利用する曖昧なデーターを処理する手法(2)の簡単な説明を行う。一般的に、データー処理において、入力として与えたデーターに対して必要とされる処理が行われた結果としてのデーターが出力される。この入力と出力の間の関係を応答関数、あるいは伝達関数と呼んでいる。従来の方式によるデーター処理では、特定の入力値に対して特定の出力値が得られるようにプログラムされる。産業機器や従来型の計測機器など、特に線形応答関数が支配的となるシステムにおいては、この方式が多く用いられている。
【0048】
一方で、達人技、職人技などと表現される特殊な技能を習得した人が作業しているそれぞれの最先端の専門分野では、機械ではなく人の五感による判断と処理が有用な役割を果たしている。機械化できない理由の一つは、厳密な応答関数を数学的に表現できないために、従来型のデーター処理方式が適用できないからである。また、人の感覚として認識されている処理方法では、たとえば、「もっとたくさん右に回す」「ほんの少しだけ火を強く」など曖昧かつ主観的な表現が多く用いられるため、従来型の方式の応答関数の構築を難しくしている。
【0049】
【特許文献1】で示されたデーター処理アルゴリズムは、線形ではない応答を呈するシステムの制御を可能にし、また、入力データーに幅があるような場合においても、そのときの最適値を出力する応答関数を提供している。このアルゴリズムを利用することにより、「もっと」「ほんの少し」などの曖昧な表現を数値的に処理できるため、人の感覚による認識表現をプログラムすることが可能となる。
図3の(2)参照。
【0050】
図4に色を数値で表現するためのxy色度図を示す。このダイヤグラムは、国際照明委員会(Commission internationale de l'eclairage、略称:CIE)が開発し、色に関する事柄の基準となっている。
【0051】
xy色度図は人の感覚による色の表現を数値にするためのダイヤグラムであるが、
図4からも分かるように、例えば赤色と表現される領域は広く、その境界はあいまいである。そこで、「もう少し赤色」あるいは「もう少し暗い赤色」などの曖昧な表現を、上述の曖昧なデーターを処理するアルゴリズムを利用し、xy色度図を参照すれば、曖昧な色表現を特定の数値群の集合として表すことが可能となり、人の感覚による色表現を含むデーター処理を実現することができる。
【0052】
携帯端末を利用した撮影に関わる要素について
図5を用いて説明する。携帯端末においては、一般的に、プログラム10を実行できるCPUユニット11の他に、撮影するためのカメラユニット12、液晶パネルなどのディスプレーユニット13、および光量が不足している場合の撮影のためのフラッシュユニット14が、標準的に搭載されている。プログラム10により、ディスプレーユニット13を特定の発光色(特定の波長)に制御することも可能であり、発光させる領域も、全画面や一部分など制御することもできる。また、フラッシュユニット14には、白色LEDが搭載されている場合が多いので、本来のフラッシュとしての利用ではなく、白色光源としての分光学的制御も可能である。
【0053】
また、携帯端末におけるカメラユニット12とフラッシュユニット14は、接近した位置に配置されていることが多い。この特徴を利用すると、人の指先でカメラとフラッシュを同時に全て覆うことが可能である。カメラとフラッシュを指先で覆い、そのとき、フラッシュを発光させると同時にカメラを駆動するプログラムを実行すると、指の内部の分光学的な計測実施できるプログラム10も可能である。この方式の詳細は後述する。
【0054】
次に、本発明における舌や顔、あるいは目の撮影手順について
図6を用いて説明する。表示装置は、通常の表示以外に、プログラムにより特定の波長を発光できる波長可変光源として機能させる。表示装置の発光タイミング15を図に示す。また、表示装置の発光に同期した、カメラの撮影タイミング16を図に示す。発光波長を3種類変えて、撮影を3回行う様子を示している。
【0055】
次に、撮影のタイミングの詳細を説明する。先ず、携帯端末を制御するプログラムにおいて、ディスプレーの発光波長を、650nmから760nmの赤色領域(図ではR)何れかの波長に設定し、通常の表示を消して、図に示すような発光時間tL17の期間点灯させる。カメラは、発光が十分な強度に達するまでの遅れ時間td18を経てから、撮影時間tON19の期間内で撮影してデーターを保存する。発光時間tLは、撮影時間tONと同期して、終了する。発光が終了すると、表示画面は通常の映像を表示し、一定の表示合間時間tV20を経て、次の波長領域の撮影を同様のタイミングで行う。緑色領域(図ではG)の波長選定範囲は、490nmから570nmとし、青色領域(図ではB)の波長選定範囲は、460nmから490nmとする。表示合間時間tV20をノイズ減算タイミングと見なし、撮影時間tONの期間で撮影したデーターから、カメラのノイズや上記の発光タイミングに同期しない迷光を含む信号を減算することにより、計測する信号のSN比を向上させるロックイン検出をソフトウエアで実施する。
【0056】
図6に示すタイミングで撮影を行うことにより、舌の表面の色を、色の基準となる3原色に分かれていて、かつ波長が特定された光を照射して、それぞれの基準となる波長ごとにデーター化できる。この分光学の手法で計測された画像は、カメラの特性や、部屋の照明などの影響を最小限にした、統一された色表現による舌の画像を提供する。環境の照明が強く、その影響を受ける場合は、上記と同様の波長を発光でき、かつ、より発光強度の強い光源を携帯端末の近傍に設置し、携帯端末からの制御により、
図6と同様のタイミングによる撮影を行えば良い。
【0057】
次に、上記の手法で測定した舌の画像データーの処理方法について説明する。東洋医学において舌の表側の表面は4カ所に分類されている。
図7に、舌の奥部分21、舌の中央部分22、舌の先端部分23、舌の両側24を示す。東洋医学における診断では、舌の全体の色や、舌の裏側の色、さらに、4つに分類した部位の色や表面の形状などを医師が肉眼で観測することにより、患者の状態を把握し、病状を特定して薬が処方されている。最終的な診断には、舌の観察だけでなく、後述するように問診や脈診も同時に行われて、その情報もあわせた総合的な判断が行われている。
【0058】
携帯端末のカメラにより撮影した舌の画像データーを、例えば
図8で示すような階層構造を持つ変数で定義する。この構造化の手順は、構造化プログラミング言語として知られているObjective-Cの変数定義ルールに準じている。
図8において、カメラから得られた舌の画像情報は、舌クラス25として最上位クラスを定義し、その下位クラスに色クラス26、形状クラス27を定義する。色クラスには、色サブクラス28を定義し、各色変数を定義する。
図7で示した舌の部位(先端、奥、中央、両端など)を定義するために、部位サブクラス29を形状クラス27の下位に準備する。
【0059】
擬声語、擬音語および擬態語を含む文字で分類され体系的に整理されている東洋医学の記録と、舌の画像情報とを関連づけるために、各サブクラスに定義する変数として、擬態語、擬声語、擬音語を引数とするインスタンス変数30を準備する。この擬態語、擬声語、擬音語インスタンスを、オノマトペ(Onomatopee)変数と定義して以下の説明に使用する。
【0060】
患者が痛みを話す場合に使う擬態語、擬声語、擬音語による症状の一例を示す。「ちくちく」「がんがん」「じんじん」「きりきり」「ずきんずきん」「おしつけられるような」「しめつけられるような」「突き刺すような」「えぐるような」「割られるような」「うずくような」などが既に医師により整理されている。このような人が自然に発するオノマトペ表現を変数に取り込むことにより、舌の情報と診断記録として蓄積された記録をプログラムにより繋ぐことができる。
【0061】
さらに、このオノマトペ表現を次のように扱うことにより、プログラム上で、よりメモリ領域を縮小し高速にし、より確実に処理を行うことが可能とすることができます。それは、言葉の意味する内容を周波数とそのスペクトル強度で分析し、マッピングを取る方法です。例えば、「きりきりする痛み」は、高周波成分に単一のスペクトル強度ピークをもつ信号とし、「おしつけられるような痛み」は、直流成分付近に複数のピークをもつ信号としてマッピングできます。もちろん、言葉自身は合間さをもっておりますので、(特許文献1)と同様に扱います。そしてこのように扱うことにより、オノマトペ表現を数値として扱うことが可能となり、より演算を行い易くできます。このような処理の選択性を用意しておくことにより、携帯端末の能力によって使い分け、システム全体のレスポンス性と得られる結果の適切性のバランスをとることができます。また、以下の説明でオノマトペ変数とはこのような扱いも含んだことを意味します。
【0062】
図9に、測定した舌の画像データーおよびオノマトペ変数により、プログラムが作り出した舌のインスタンス(あるいはオブジェクト)の一例を示す。
図5、
図6により説明したように、R,G,Bの波長ごとに色分解されて測定された舌のデーターは、プログラムにより、xy色度図を使って色相を基本にして色合成されて画面に表示される。一例を
図9(1)に示す。その際、患者あるいは舌の撮影者が入力した、症状に関連した、擬態語、擬声語、あるいは擬音語を変数として症例が記録されているマスターデーターベースを検索し、その結果から、舌に現れる特徴的な色や、表面形状を、舌オブジェクトの色31と、
図7で分類した舌の奥部分21、舌の中央部分22、舌の先端部分23、舌の両側24に対応した舌オブジェクトの部位形状32に反映させ、同じ画面に次候補画像
図9(2)として表示する。オノマトペ変数に複数の検索結果がある場合は、さらに画像を表示する
図9(3)を表示する。
【0063】
以上のような手順により、携帯端末に向かう被験者は携帯端末の表示画面上に、舌に関して、通常の撮影画像、波長分解により撮影されてプログラムが合成した画像、さらに、オノマトペ変数を使って東洋医学による判断を加味したいくつかの画像を比較することができる。
【0064】
この比較から、被験者は撮影された舌の状態が、どの画像に最も近いか、あるいは、どの画像も似ていないかを判断できる。特に、東洋医学を習得した医師が立ち会い、被験者の通常の診察と同時に携帯端末による計測を行い、
図9に示すような画像候補を観測できる場合には、医師自身の診断結果と画像により示される診断結果との差異を携帯端末に入力することにより、診断に使われたマスターデーターベースの補正を行うことができる。このような補正を医師が繰り返し行うことにより携帯端末検査装置がアクセスする診断用マスターデーターベースの診断精度を向上させることができる。
【0065】
図10に、東洋医学の診察の際に行われる脈診の様子を示す。東洋医学の診察では、舌の色の観察だけでなく、患者への問診や、
図10に示すような指による脈診や、身体に触れる触診などを行い、総合的な判断として診断が行われる。脈診は患者の状態をとらえる重要な診察であるが、単純に単位時間あたりの脈拍数を計測するだけではないため、熟練した医師でないと脈診から症状を把握することはできない。
図10には脈診する医師の腕33と、患者の腕34を示している。医師は3本の指を手首に近い脈拍計測位置(東洋医学では、寸、関、尺と定義される位置)35に軽く触れることにより、脈拍パルスの形状を識別していると思われるが、この3本指の機能に相当する電子機器はいまだに、実用化されていない。
【0066】
図11に、カメラおよび表示装付き携帯端末36に外部機器を接続して使用する例を示す。脈拍等の情報を携帯端末に取り込むための機器は、外部機器接続コネクタ37、接続ケーブル38、センサー信号増幅器39、接続ケーブル40、およびセンサー端子41で構成される。
【0067】
図12に、脈拍センサー端子として圧力センサーを用いて、東洋医学における脈診の指の位置(寸、関、尺)42に設置する方法による3端子型の脈拍パルス計測センサーの例を示す。3個の圧力センサーから得られる脈拍パルスは、それぞれセンサー接続ケーブル43により、センサー信号増幅器44へ導かれ、信号を増幅後デジタル化され、そして各信号は接続ケーブル45により携帯端末へ送られる。ここでは、わかりやすくするために指先3本の代わりに3端子型の脈拍パルス計測センサーを説明した。しかし、センサーの性能が十分である場合は、3端子でなく2端子あるいは1端子でも十分であることがある。逆に、センサーの性能が不十分である場合は4端子以上が必要なこともある。
【0068】
東洋医学の手法によれば、脈は医師の指により脈像(脈のイメージ)をとらえる。医師の人差し指、中指、薬指の3本により触診されることが多い。脈像は28種類に分類されているが、数値化されている訳ではなく、イメージとして記述されており、その記述にはオノマトペによる表現が多い(参考文献:図説東洋医学ISBN4-05-104872-1 C3047)。その一例を以下に述べる。「毛脈」の説明は、きわめて軽微で、風に吹かれる毛のような脈、「石脈」の説明は、水中に沈んだ石のように深く堅い脈、「細脈」の説明は、細く糸のごとし、細であるが微脈にくらべて力がある、など脈像を説明する記述は擬態語による表現が多く、記述からその状態をイメージすることは、熟練した東洋医学の医師を除いて一般的には容易ではない。
【0069】
脈像は、脈拍パルスの波形イメージとして表現されている場合もある。
図13に一例を示す。
指でとらえた感覚を基にして描かれた脈像のイメージを波形イメージとして図にしたものであり、脈拍パルスの実際の時間応答波形ではないが、擬態語による脈像の記述と強い相関を持つ図形と考えることができる。
【0070】
東洋医学による膨大な診断記録をデジタル機器で活用するためには、医師がとらえる感覚や、抽象的なイメージが記述されたオノマトペ表現を、センサーや画像が検知したデーターと一致もしくは強い相関関係を構築する必要がある。
【0071】
次に、東洋医学を習得した医師の指による感覚がとらえる脈像イメージを、機具である脈診センサーが検知した電気的な信号から数学的処理で発生させた脈像イメージ波形と、一致させる手順を述べる。
【0072】
東洋医学を習得した医師は訓練により3本の指による触診から脈像を認識する技術を習得し、脈像毎に分類されている病状を診断に利用している。携帯端末を用いた検査装置において、東洋医学による診断を行うためには、医師が指からとらえた脈像イメージと同じものをプログラム上で再現する必要がある。脈拍を計測する手段として、3本の指と同様の計測が行えるように、3個の脈診センサーを用いて、指と同様の3カ所の位置で脈拍データーを計測する。東洋医学では、患者の左右の腕の脈を、医師はそれぞれ3本の指で触診するので、都合6本の指を使っているが、以下の説明では、触診は3本の指として説明する。
【0073】
触診の指と同じ位置に配置した3個の圧力センサーなどの電気的な脈診センサーから得られる信号は、それぞれ医師が指で感じ取っている信号と強い相関関係があると予想される。そこで、同一の患者、被験者に対して、医師がとらえた脈像イメージと、3個の脈診センサーが電気信号としてとらえた脈拍パルスからプログラム上で発生させた脈像イメージ波形を携帯端末の画面に同時に表示し、それを比較し、医師のフィードバックを入力することにより、医師が把握した脈像イメージに近づけるように、数学的に合成して作る脈像イメージ波形を修正できるようにプログラムする。
【0074】
脈診センサーを具備した携帯端末検査装置を使いながら、医師の協力を得ることにより、上記の過程を繰り返すことで、脈診センサーから得られる脈像を東洋医学の記録に残されている脈像と強い相関関係をもつ脈像データーベースを構築できる。この修正過程で、脈像と対応しているオノマトペによる記述と、脈診センサーが検知するデーターとの相関も得られる。上記の説明では、3本の指に対応させた、3個の脈新センサーの例で説明したが、実際には患者の左右の腕に対して、医師は両方の指を対応させて、都合6本の指で脈診を行う。患者の左腕の脈診からは、「小腸、胆、膀胱、心、肝、腎」、他方、右腕からは「肺、脾、心包、大腸、胃、三焦」と呼ばれる内蔵の状態を示す感覚を得るとされているが、その習得も容易ではないため、感覚としてとらえやすい状態から、段階を踏んでデーターベースを構築する必要がある。
【0075】
以上の過程は、東洋医学を習得した医師の感覚を活用して、東洋医学の診断記録をデジタル化する過程の最初に必要な手順であり、患者と医師が協力できる医療機関における使用例である。次に、上記の過程で構築された脈診のデーターベースを、一般的に活用するための手順を述べる。
【0076】
患者や被験者が、脈診を行う目的で、3個の脈診センサーをそれぞれ右腕と左腕に装着することは、煩雑である。そこで、簡便な単一のセンサーを利用する方法を示す。最近の脈拍計測では、赤外線LEDの発光と受光を利用した、指に挟む方式のセンサー機具(一般名称:パルスオキシメーター)が使われる。この方式のセンサー機具は、指の血管内の血流量の変化に依存して透過する赤外線の光量が変化することを利用して脈拍パルスを得ている。既に、携帯端末に接続する形式のパルスオキシメーターも市販されている。このような機器を本発明のセンサー部として活用することも可能である。
【0077】
パルスオキシメーターを利用した検知装置の応答速度は十分に速く、脈拍の時間応答波形をとらえることも出来るので、その機能を有効に活用する。応答速度の速いセンサーから得られる脈拍パルスを東洋医学診断に利用するために、検知された脈拍パルスをウエーブレット変換、あるいはフーリエ変換(数学的略称:FFT)し、周波数軸における波形を得る。
図14に時間軸で得られる脈拍パルス波形(1)、および、そのフーリエ変換波形(2)の関係を説明する概念図を示す。フーリエ変換することにより、時間軸上の波形は、より特徴がはっきりした周波数軸上の波形となる。
【0078】
また、指を透過する赤外線の光量変化を利用するという点では、同様の原理に基づく手法であるが、携帯端末の表示装置を波長可変光源として利用することにより、脈拍パルスを得る方法を示す。
図15は、表示装置の面に指を置き、表示装置を発光させ、指を透過した光を集光し、その光を携帯端末に予め設置されているカメラまで導光する治具を使うことにより脈拍パルスを計測する手法を示している。
図15上段(1)は計測方法の全体像を示し、同図下段(2)は、表示装置の面に指を置いた状態における、光を導光する治具の断面を説明する図である。携帯端末45の表示画面上に置かれた被験者の指46の下を含む表示画面内の領域47は、表示画面の一部を波長可変光源として利用する領域を示す。
【0079】
指を透過した光は、表示画面に指を密着できるような切り込み48を持つ集光カバー49と、光ファイバーで構成される導光路50、および吸盤型光コネクタ51で構成された導光治具を経由して、携帯端末に予め設置されているカメラ52に導かれる。波長可変光源として利用する領域47から発光する光は、指の組織を透過しやすく、血液に吸収領域を持つ波長を選択する。酸素と結合したヘモグロビンと酸素と結合していないヘモグロビンの光吸収特性の差が大きい領域の波長を選択することで、信号のSNを向上させることができる。この条件を満たす波長として、650nmから750nmの範囲の波長が適当である。また、550nm付近で、酸素との結合の有無により、光吸収特性が他の領域とちょうど逆転している領域があり、その波長を併用すれば、より高感度の酸素濃度の検知も可能となる。
【0080】
図15(2)に、導光路治具を表示画面に密着させて使用している様子を示す。上記で示した領域47から発する特定の波長の光53は、被験者の指46を通過し、導光路50に入る。このとき、集光カバー49の内側面54はアルミ蒸着などを施し、光が外部に漏れないようにする。さらに、集光カバー49の内側面54の形状は、放物面とし、指を透過した光53を効率よく、導光路50に導くように光学設計を行う。
【0081】
また、指を透過する赤外線の光量変化を利用するという点では、同様の原理に基づく手法であるが、携帯端末の表示画面を波長可変光源として利用することにより、表示画面から上記で示した650nmから750nmの範囲の波長をプログラムにより発光させ、近傍に置いた指の反射光の変化を携帯端末に予め配置されているカメラで検出すれば、光を集める治具などの機具を使用せずに脈拍パルスを計測できる。この手法を用いる場合は、検知しようとする信号のノイズを減らす目的で、手と携帯端末を周辺の光を遮断できる光を通さない袋などに入れて計測する方法もある。
【0082】
さらに解析の上では、煩雑だとしてもより正確さを増すために3個あるいは6個などの複数のセンサーを使う場合は、それぞれのセンサー間のフーリエ変換波形の相対的な関係から、特に
図14(2b)の位相波形の相対的な関係(センサー間の位相差)から、脈拍パルスのさらに多くの情報を得ることが出来きる。
【0083】
図16を使い脈診センサーから得られる信号と東洋医学の記録に残る情報を比較する手順を説明する。先ず、先に述べた手順を経て構築されている、東洋医学の記録から得られる脈像イメージ波形55を、同様にウエーブレット変換もしくはフーリエ変換することにより、周波数軸上の波形56に変換する。そして、パルスオキシメーターなどのセンサーから得られる脈拍パルス57を周波数軸に変換した波形58と比較する。すなわち、脈拍パルスと脈像イメージから作ったパルスを、周波数空間で比較する59。この方法は数学的には一般的な方法であるが、二つの波形の差異を抽出する方法としては、時間軸空間で比較するより微細な変化も検知できる点で優れている。
【0084】
この手順により、西洋医学として利用されているセンサーから得られる脈拍データーと、東洋医学による脈診のデーターを強い相関関係で結合することができ、東洋医学による知識を踏まえたメッセージを提示することができる、携帯端末による健康状態の検査に活用することが可能となる。
【0085】
図17に携帯端末を利用した脈拍パルスを計測する別の例を示す。
図17(1)に示すように携帯端末60には、カメラ61とフラッシュ光源62が極めて接近して指先程度の面積をもつ領域63に配置されているため、被験者の指64でカメラとフラッシュ光源を同時に覆うことが出来る。
【0086】
図17(2)に携帯端末のカメラとフラッシュ光源を同時に覆う指の側面図、および分光治具65の上面図を示す。図に示すように、カメラやフラッシュ光源と指の間に、薄いシート状の分光治具65を配置する。この分光治具は、分光領域66、遮蔽領域67、および透明領域68の、3つの部分で構成され、それぞれ張り合わせるなどの手法で一体化されている。この分光治具65の面積寸法は指先程度の面積をもつ領域63と同程度とする。
【0087】
フラッシュ光源62から発する光69は、白色光であり、可視光領域の全ての波長を含んでいる。この白色光は、指の中の血管を流れる血液に照射されると、反射、吸収、透過、散乱など光に特徴的な効果が生じる。散乱光や反射光70は、分光治具65を経てカメラ61に入射する。分光治具65における分光領域66の材質は、ヘモグロビンと酸素が結合した血液とそうでない血液の光吸収特性の差が大きい、650nmから750nmの範囲を透過させる光学フィルター特性を有するものとする。
【0088】
上記のように、光学的に分光した光をカメラで検知することにより、脈拍パルスだけでなく、血中酸素濃度も計測することができ、外部接続機器を用いること無く、パルスオキシメーターと同様の計測を行うことが出来る。
【0089】
さらに、分光領域66の材質特性を、650nmから750nm付近の透過特性に加えて、550nm付近の光も透過するように二つの領域に透過ピークを有する光学フィルターとすることにより、より高感度に血中酸素濃度を検知することも出来る。
【0090】
分光治具65における、遮蔽領域67は、フラッシュ光源の光が直接カメラに入射しないように、フラッシュ光源のカメラに向かう横方向の光を遮断するための領域であり、黒色の吸収体あるいは鏡のような反射体で構成する。透明領域68は、フラッシュ光源の光が損失無く透過する媒体で構成する。また、この透明領域に、光学フィルター機能を持たせ、650nmから750nmの光だけを透過するようにすれば、上記に述べた表示画面を波長可変光源として利用した場合と同様の計測も可能である。
【0091】
脈拍パルスは、指に取り付けるセンサーから得られるだけでなく、
図18に一例示すように、首の頸動脈から測定することもできる。圧力センサーを用いた脈診センサー71、および接続ケーブル72、センサー信号増幅器およびデジタル変換部73、携帯端末への接続ケーブル74で構成されている。検知された脈拍パルス信号に対する処理手順は上記のパルスオキシメーターの場合と同様である。
【0092】
さらに、目の網膜を撮影することでも脈拍パルスを検知することができる。携帯端末に具備されているカメラは、動画を撮影することができ、脈拍パルスの波形をとらえるのに十分な応答速度を有している。
図19に携帯端末75に具備されているカメラ76で目の網膜を撮影している例を示す。被験者77は、自らの目を携帯端末に設置されているカメラで撮影し、表示画面に目を撮影している動画78として表示する。目の動画を撮影する際に、通常の動画撮影に加えて、表示画面をプログラムで制御する波長可変光源として機能させ、網膜の血管の吸収が大きい波長領域510nmから570nmの光を照射した場合と、網膜の血管による反射が大きい650nmから750nmの領域の特定の波長の光を交互に発光79させて撮影する。
【0093】
図20を用いて目の動画撮影により、脈拍パルスを検知する方法を説明する。
図20(1)に模式図として描いた目80、および、同図(2)に瞳孔81を通して見える網膜82を示す。網膜には、太い血管83や細い血管84を含めて多くの血管が詰まっている。図に示すような微細な血管の個々の形状は、携帯端末に予め具備されているカメラでは分解能が不足しているために、拡大するレンズを付加するか、眼底カメラを使用しないと撮影できないと思われる。
【0094】
しかし、瞳孔を通して見える網膜上の血管が全体として、脈拍と同期して拡大収縮する動きは、携帯端末のカメラによる動画撮影機能でも撮影可能である。瞳孔内の動的な変化を強調して計測するために、
図19で説明したように、瞳孔部分に対して反射率の異なる二種類の波長の照明光を交互に照射した動画情報から、瞳孔部分の時間応答を計測して脈拍パルスとする。このようにして検知した脈拍パルスは、上記のパルスオキシメーターの場合と同様に、フーリエ変換操作を施し、周波数軸上の波形に置き換えてから、東洋医学による脈像イメージから得られる波形と比較する。
【0095】
図21に、本発明が提供する東洋医学の知識を利用できる携帯端末を用いた健康状態検査装置におけるデーター処理の全体像をフローチャートで示す。最初に、東洋医学における治療の記録85を構造化変数により定義できるプログラム言語(例えばObjective-C)を用いて分類86し、データーベースとして取り扱えるように形式を整えると同時にデジタル化87する。その際、検査機器が発達していなかった時代の記録がほとんどであるため、患者が訴える症状や、診断の基準となる記録に、擬態語、擬音語、擬声語による表現が多い点を考慮し、このような感覚に基づく曖昧な表現をデーターとして扱うためにオノマトペ変数を定義する。
【0096】
携帯端末に搭載されているセンサーや、外部接続したセンサーなどから得られる脈拍情報や舌や顔色のデーター88は、xy色度図による標準化のための補正に加えて、医師が判断した結果とマスターデーターベース90が導いた結果が異なる場合、舌の色や顔色と脈拍に対する補正処理89が行えるようにする。その手順を経た後、東洋医学の知識がデジタル化されたデーター87と統合され、症状と診断の基本となるマスターデーターベース90を構成する。
【0097】
患者や被験者の入力により、マスターデーターベースは、
図9に示すようなオブジェクト(プログラムが生成した色や形を含む舌の合成画像)を携帯端末の画面に表示する92。また、同時に東洋医学における脈像に近い脈パターンのオブジェクトを画面に表示する91。さらに、舌のオブジェクトや脈パターンのオブジェクトを導いた過程からプログラムにより演繹される病状に対する診断を表示する93。
【0098】
マスターデーターベースの信頼度が向上するまでの過程においては、東洋医学の診断ができる熟練した医師は、携帯端末の画面に表示される舌の情報と脈パターン情報から診断すると同時に、従来の診察により導いた診断結果とあわせて、医師としての診断結果94とプログラムが導いた診断結果93と比較95する。このとき、医師の感覚的な判断も含めて、結果が一致しない場合は、医師は補正処理を行う。センサー由来の補正処理89と東洋医学治療の記録85由来の補正処理97に分けて実施し、舌や脈を観察する各種のセンサー機器が判断する診断と医師の診断が一致するか、あるいは強い相関を持つまで繰り返し行う。比較処理95の結果96は、一致あるいは相関の程度をグラフとして画面に表示させる。
【0099】
当然、
【特許文献1】にあるように
図21の処理全体の中のそれぞれの数値をファジイ集合として扱い、曖昧な処理をより簡便にかつ適切に行うようにする。これにより、漢方医が出す診断結果と同等の結論が得られるようにできる。
【0100】
さらに、
図21の補正処理89および97には、ニューラルネットワークの手法を用いることもできる。この機能を追加することで、データーベースの自己学習機能だけでなく、過去の検査結果を加味した補正を行うことが容易にできるため、より正確度を上げることが可能となる。
【0101】
図22に、東洋医学に基づく診断を行う携帯端末による健康状態検査装置が医療機関で使用される場合の利用形態を示す。
図21で説明した処理を経たマスターデーターベースは、厳重な管理ができる施設のサーバーに設置する。このマスターデーターベース98へのアクセスは、インターネット99を経由して、各医療機関に設置されている携帯端末管理サーバー100を通して、無線LAN101により接続されている院内の各携帯端末機器102から行える。
【0102】
図23に、個人が活用する場合の携帯端末103による健康状態検査装置の利用形態を示す。
図21による処理を経たマスターデーターベースは、患者に対する薬の処方を含む診断や診断の選択肢を表示するが、医療行為の資格を持たない個人がそれを行うことは出来ないので、その一部を取り出した簡略化したデーターベース104を携帯端末の内部メモリに記憶させて、個人利用にカスタマイズした東洋医学診断プログラム105で使用する。簡略化したデーターベースとは、たとえば、舌の診断の画像や、顔色や顔の日々の大きさの変化などから、食生活や生活習慣に関する示唆を与える表示だけに限定したものである。この利用形態の場合は、マスターデーターベースとのアクセスは必要としない。
【0103】
図24に、これまでに説明した携帯端末と同様に、表示画面106とカメラ107を備えた大型画像表示装置108に、東洋医学に基づく診断を行う健康状態検査機能を持たせた場合の利用形態を示す。大型画像表示装置は、病院の待合室、介護を必要とする老人施設などで、複数の人が映像を見る場合に利用される。このような複数の人109が同時にひとつの大型画像表示装置に向かい合っている場合には、映し出されている人110を一人ずつ順に、顔色や、舌の色、目の撮影などを行う。その際、画面を波長可変光源として利用し、一人の人を限定して、
図4から
図6で説明した波長と同様の特定の波長の光111を発光させる。カメラが付属していない場合や、画面の発光が出来ない場合は、カメラと発光光源を別に付加すれば同様の計測は可能である。
【0104】
図25に、被験者112が日常的に使用する洗面所に、携帯端末もしくは大型画像表示装置による健康状態検査装置113を設置した例を示す。被験者112は、毎日のように洗面台114の前の鏡に対峙することが予想される。洗面所は、決まった時間に毎日健康状態を検査するには都合のいい場所である。カメラ115が予め内蔵されている携帯端末では、携帯端末本体を洗面所に設置すればよい。画面は、波長可変光源として利用し、
図4から
図6で説明した特定の波長の光を発光116させる。画面を発光させることができない場合は外部光源117を設置して、携帯端末もしくは大型画像表示装置から制御すれば同様の計測が可能である。この例のように、洗面所で利用する場合は、カメラで撮影した画像を表示する際、被験者の映像118が鏡に映った像のように見える工夫をプログラムで施すと、洗面所の鏡と違和感のない設置環境を構築できる。