【解決手段】液体中のリン酸イオンを吸着するための粒子状リン吸着材であって、(1)粒子状リン吸着材は、1つの粒子中にa)ニッケル成分単独又はb)ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とを含有し、(2)粒子状リン吸着材のX線回折分析において、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの少なくとも一方のピークを有し、(3)粒子状リン吸着材のBET比表面積が25m
【背景技術】
【0002】
工業廃水、生活廃水、農業廃水等の廃水には、窒素、リン等の富栄養化をもたらす栄養塩類が含まれており、これが河川、湖沼、海等に流入することによって、赤潮、アオコ等を大量発生させることが知られている。これらの廃水は、通常は下水処理場で浄化されているが、一般的な下水処理法(標準法)では窒素、リンの除去は十分なものではなく、専らこれらの除去を目的とした高度処理を施す必要がある。この場合、窒素はN
2ガスとして大気中に揮散させることができるのに対し、リンはそのようなことができないため、液相での吸着・回収が必要となる。
【0003】
リンを吸着・除去する方法として、これまで様々な方法が提案されている。例えば、含水状態で、少なくともリン吸着性微粒子、活性炭、セメントに高吸水性高分子を加え、混練・造粒してなることを特徴とする粒状リン吸着剤であって、前記リン吸着性微粒子として、鉄塩、アルミニウム塩水溶液を中和して得たスラリ状の水酸化鉄、水酸化アルミニウムを用いることが提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、生活排水、事業所排水などの排水や、池水、内湾など閉鎖性水域の水中のリンを固定・除去する材料であって、水中でオルトリン酸イオンを特異吸着し、かつ物理的、化学的処理を施すことによって吸着したオルトリン酸イオンを脱離する特性を示す金属酸化物およびこれらの複合酸化物を主体とすることを特徴とするリン吸着材であって、前記の金属酸化物として酸化銀、酸化ビスマス、酸化コバルト、酸化クロム、酸化ジスプロシウム、酸化エルビウム、酸化ガドリニウム、酸化ホルミウム、酸化インジウム、酸化ランタン、酸化ニオブ、酸化ネオジム、酸化ニッケル、酸化鉛、酸化プラセオジム、酸化サマリウム、酸化スズ、酸化タンタル、酸化テルビウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムの少なくとも1つ以上を用いることが提案されている(特許文献2)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、従来のリン吸着剤として、水酸化アルミニウム、金属酸化物等を用いるリン吸着方法が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1のように、水酸化アルミニウム等のアルミニウム化合物を吸着剤として用いる方法では、処理水中にアルミニウムイオンが溶出しやすく、しかもその溶出に伴ってリン吸着性能が低下するという問題がある。また、特許文献2の特定の金属酸化物を用いるリン吸着方法では、リン吸着性能が十分なものとは言えず、その点においてさらなる改善の余地がある。
【0008】
従って、本発明の主な目的は、より高いリン吸着性能を発揮できるリン吸着材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の組成・構造を有する粒子状のリン吸着材が上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記の粒子状リン吸着材及びその製造方法に係る。
1. 液体中のリン酸イオンを吸着するための粒子状リン吸着材であって、
(1)粒子状リン吸着材は、1つの粒子中にa)ニッケル成分単独又はb)ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とを含有し、
(2)粒子状リン吸着材のX線回折分析において、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの少なくとも一方のピークを有し、
(3)粒子状リン吸着材のBET比表面積が25m
2/g以上である、
ことを特徴とするリン吸着材。
2. ニッケル成分以外の金属成分がコバルト、マンガン、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム及びカルシウムの少なくとも1種の成分である、前記項1に記載のリン吸着材。
3. 1つの粒子中において、ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とが均一に分布している、前記項1に記載のリン吸着材。
4. 粒子状リン吸着材が、下記一般式(1):
Ni
1−XM
X(OH)
Y・・・(1)
(但し、Mはニッケル成分以外の金属成分を示し、Xは0≦X≦0.4を満たし、Yは2≦Y≦2.4を満たす。)
で示される共沈水酸化物を250〜400℃で焼成して得られたものである、前記項1に記載のリン吸着材。
5. 粒子状リン吸着材を製造する方法であって、下記一般式(1):
Ni
1−XM
X(OH)
Y・・・(1)
(但し、Mはニッケル成分以外の金属成分を示し、Xは0≦X≦0.4を満たし、Yは2≦Y≦2.4を満たす。)
で示される共沈水酸化物を250〜400℃で焼成する工程
を含むことを特徴とする粒子状リン吸着材の製造方法。
6. 前記項1〜5のいずれかに記載の粒子状リン吸着材を、リン酸イオンを含む液体に接触させる工程を含むことを特徴とするリンの吸着方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粒子状リン吸着材は、1つの粒子中にニッケル又はニッケルと所定の成分を含有し、なおかつ、特定の結晶構造及び比表面積を有することから、より高いリン酸イオン吸着性能を発揮することができる。また、本発明のリン吸着材は、アルミニウムを含まなくても高いリン酸イオン吸着性能を発揮できるので、その場合には従来技術のアルミニウム系材料に関する問題も回避することもできる。
【0012】
本発明の製造方法では、ニッケルを含む共沈水酸化物を完全な酸化物になる温度で焼成するのではなく、完全な酸化物に至らない温度範囲内での焼成にとどめることにより、上記のような特異な構造を有する材料を効率的に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.粒子状リン吸着材
本発明の粒子状リン吸着材(本発明吸着材)は、液体中のリン酸イオンを吸着するための粒子状リン吸着材であって、
(1)粒子状リン吸着材は、1つの粒子中にa)ニッケル成分単独又はb)ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とを含有し、
(2)粒子状リン吸着材のX線回折分析において、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの少なくとも一方のピークを有し、
(3)粒子状リン吸着材のBET比表面積が25m
2/g以上である、
ことを特徴とする。
【0015】
本発明吸着材は、液体中に含まれるリン酸イオンを吸着するために用いられるものである。その具体的な使用方法は、公知のリン吸着材と同様にすれば良いが、より具体的には後記3.で説明する。
【0016】
吸着の対象となるリン酸イオンは、リン元素を含むイオン(特にアニオン)であれば限定されない。例えば、オルトリン酸イオンPO
43−をはじめ、オルトリン酸(H
3PO
4)が解離する段階で生じるリン酸二水素イオンH
2PO
4−、リン酸水素イオンHPO
42−イオンも包含され、さらに亜リン酸イオン、ポリリン酸イオン等も含まれる。
【0017】
本発明吸着材は粒子状であり、1つの粒子中にa)ニッケル成分単独又はb)ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とを含有している。この点において、本発明吸着材は、ニッケル化合物の粉末と、それ以外の金属化合物の粉末との単なる混合粉末とは区別されるものである。
【0018】
本発明吸着材は、上記のように、a)1つの粒子がニッケル成分単独からなる粒子、あるいはb)1つの粒子にニッケル成分とそれ以外の金属成分が含まれる粒子のいずれであっても良い。ニッケル以外の金属成分としては、特に限定的でなく、遷移金属(Au、Ag、Cu、Fe、Co、Ni、Ti、Mn等)、アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba等)のほか、Zn、Al、Ga、In、Sn等の各金属成分が例示される。これらの中でも、ニッケルと併用することにより優れたリン吸着特性が得られるという点で、コバルト、マンガン、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム及びカルシウムの少なくとも1種を採用することが好ましい。さらには、アルミニウムが含まれないことがより好ましい。
【0019】
前記b)の1つの粒子にニッケル成分とそれ以外の金属成分が含まれる粒子である場合、各成分の存在形態は特に制限されず、例えばコアシェル型、均一分散型等のいずれであっても良いが、特に均一分散型であることがリン吸着性能上好ましい。すなわち、1つの粒子中において、ニッケル成分とニッケル成分以外の金属成分とが均一に分布していることが望ましい。
【0020】
また、本発明吸着材は、そのX線回折分析において、水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの少なくとも一方のピークを有する。すなわち、本発明吸着材の必須成分として含まれるニッケル成分は、その一部又は全部が水酸化ニッケル及び/又は酸化ニッケル(結晶)として存在する。従って、例えば水酸化ニッケル及び酸化ニッケルの双方のピークを有する本発明吸着材は、より優れたリン吸着性能を発揮することができる。
【0021】
上記のような本発明吸着材の好ましい具体例としては、下記一般式(1):
Ni
1−XM
X(OH)
Y・・・(1)
(但し、Mはニッケル成分以外の金属成分を示し、Xは0≦X≦0.4を満たし、Yは2≦X≦2.4を満たす。)
で示される共沈水酸化物を250〜400℃で焼成して得られた焼成体が挙げられる。
【0022】
上記Mの好ましい例としては、前記で掲示したような各金属成分が挙げられる。すなわち、特にコバルト、マンガン、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、カルシウム及びアルミニウムの少なくとも1種を採用することが好ましい。さらには、本発明では、アルミニウムが含まれないことがより好ましい。
【0023】
上記Xは、0≦X≦0.4を満たす。従って、例えば0<X≦0.4であっても良いし、また例えば0.1≦X≦0.4であっても良い。より具体的には、後記の実施例で示すように、M=Coであり、Ni
1−XCo
X(OH)
Y(但し、0≦X≦0.4(好ましくは0.1≦x≦0.4)、2≦Y≦2.4)で示される共沈水酸化物を250〜400℃(好ましくは250〜350℃、より好ましくは250〜300℃)で焼成して得られたニッケル−コバルト系焼成体を本発明吸着材として好適に用いることができる。
【0024】
なお、本発明では、上記の共沈水酸化物は、水和物であっても良いし、あるいは無水物であっても良い。また、結合水等を含んでいても良い。
【0025】
また、本発明吸着材におけるBET比表面積は、通常25m
2/g以上であり、好ましくは50m
2/g以上であり、より好ましくは110m
2/g以上であり、最も好ましくは140m
2/g以上である。BET比表面積が25m
2/g未満の場合は、所望のリン酸吸着性能が得られなくなるおそれがある。なお、BET比表面積の上限値は限定されないが、一般的には300m
2/g程度である。このような比較的高い比表面積は、特に上記のような温度範囲内で上記共沈水酸化物を焼成することによってより確実に得ることができる。
【0026】
本発明吸着材は粒子状であるが、その粒径は限定的でなく、その使用条件(リン吸着条件)等に応じて適宜設定すれば良いが、一般的には平均粒径1〜20μm程度とすれば良い。これらの粒度調整は、例えば分級、粉砕、造粒等の公知の方法を用いることによって実施すれば良い。また、本発明吸着材の粒子形状も限定的でなく、例えば球状、フレーク状、不定形状等のいずれの形態であっても良い。特に、固定床(カラム等)への充填性、液体の通流性等の見地より、球状であることが望ましい
【0027】
2.粒子状リン吸着材の製造方法
本発明吸着材の製造方法は特に限定されないが、次の方法によって好適に製造することができる。すなわち、粒子状リン吸着材を製造する方法であって、下記一般式(1):
Ni
1−XM
X(OH)
Y・・・(1)
(但し、Mはニッケル成分以外の金属成分を示し、Xは0≦X≦0.4を満たし、Yは2≦Y≦2.4を満たす。)
で示される共沈水酸化物を250〜400℃で焼成する工程を含むことを特徴とする。
【0028】
共沈水酸化物は、公知又は市販のものを使用しても良いし、また公知の方法で製造することもできる。共沈水酸化物の製造方法自体は特に限定的でなく、例えばNiイオン及びMのイオンを含む溶液を調製し、その溶液から沈殿物を形成させることによって共沈水酸化物を得ることができる。より具体的には、共沈水酸化物として前記Ni
1−XM
X(OH)
Yを調製する場合は、Niイオン及びCoイオンを含む溶液を調製し、その溶液からNiとCoを含む共沈水酸化物を製造することができる。Niイオン及びMイオンのイオン供給源としては、例えば塩化物、硝酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、酢酸塩等の有機酸塩を使用することができる。溶媒は、水をはじめ、アルコール類等を適宜選択することができる。例えば、溶媒として水を用いる場合は、Niイオン及びMイオンのイオン供給源として水溶性塩類を使用すれば良い。
【0029】
なお、本発明における共沈水酸化物は、結晶性であり、X線回折分析において水酸化物特有のピークを有するものである。
【0030】
共沈水酸化物を250〜400℃、好ましくは250〜350℃、より好ましくは250〜300℃で焼成する。共沈水酸化物の焼成は、上記のような温度範囲内において、得られる焼成物のBET比表面積が最大(極大)となるような温度に設定することが最も望ましい。本発明者の知見によれば、共沈水酸化物を完全に焼成して酸化物とする過程の途中において、BET比表面積が増加し、最大(極大)値を呈した後、酸化が進行するに従って低下しはじめることが確認されている。そして、そのBET比表面積の極大値及びその周辺領域で高いリン吸着性能が発揮されることが確認されている。すなわち、共沈水酸化物が酸化しはじめてから完全な酸化物結晶への相転移の完了前までの間にある物質が高いリン吸着性能を発揮できることを見出したものである。
【0031】
焼成雰囲気は特に限定されず、例えば酸化性雰囲気中(大気中)、還元性雰囲気中、不活性ガス雰囲気中等のいずれであっても良い。また、焼成時間も、焼成温度等に応じて適宜調整することができる。
【0032】
得られた焼成体は、一般的には粒子状であり、そのままリン吸着用途に使用することができるが、必要に応じて粉砕、造粒、分級等の処理を行った後にリン吸着用途に供することもできる。
【0033】
さらに、必要に応じて別途に用意した担体に上記焼成体を担持させた複合体としてリン吸着用途に用いることもできる。担体としては、一般的な触媒等に使用されている材料を使用することができ、例えばシリカゲル、アルミナ、ジルコニア、ゼオライト等を好適に用いることができる。
【0034】
3.リンの吸着方法
本発明は、本発明吸着材を、リン酸イオンを含む液体に接触させる工程を含むことを特徴とするリンの吸着方法も包含する。
【0035】
本発明の吸着方法では、本発明吸着材がリン酸イオンを含む液体と接触できるようにする限り、その形態は特に限定されない。例えば、バッチ式で上記液体と接触させる方法、連続式で上記液体を連続的に供給・流動させながら接触させる方法等のいずれであっても良い。また、固定床方式プロセス又は移動床式プロセスのいずれでも良い。
【0036】
リン酸イオンを含む液体(特に水を媒体とする液体)としても限定的でなく、例えば工業廃水、生活廃水、農業廃水等の廃水のほか、湖沼水、海水、河川水等であっても適用できる。また、これらの液体のリン酸イオン濃度も限定的でなく、例えば0.1〜10モル%程度に予め調整しておくことができる。
【0037】
リン酸イオンを含む液体と接触させる際の温度(すなわち、前記液体の液温)も特に限定されず、液体状態が維持されている限り、いずれの温度であっても適用可能である。
【0038】
リン酸イオンを含む液体に対する本発明吸着材の使用量も制限されず、リン酸イオンの濃度等に応じて適宜決定すれば良い。
【0039】
なお、本発明では、本発明の吸着方法で使用した後の吸着材は、吸着したリン酸イオンを放出させた後、再利用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0041】
実施例1
25%水酸化ナトリウム水溶液を水に添加することによりpH10.5に調整されたアルカリ性水を液温50℃に保持し、撹拌しながら硫酸ニッケル水溶液を前記アルカリ性水に添加した。この際、反応液をpH10.5に保つように25%水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加した。反応中は、不活性ガス(窒素)を100ml/minの流量で反応液中に導入し、生成物の酸化を抑制した。得られた反応生成物を脱水・水洗した後、110℃で10時間乾燥することによって、粒子状の共沈水酸化物(「Ni
100」と表記する。)を得た。
【0042】
実施例2
25%水酸化ナトリウム水溶液を水に添加することによりpH10.5に調整されたアルカリ性水を液温50℃に保持し、撹拌しながら硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液とをモル比Ni:Co=9:1となるように混合した混合水溶液を前記アルカリ性水に添加した。この際、反応液をpH10.5に保つように25%水酸化ナトリウム水溶液を連続的に添加した。反応中は、不活性ガス(窒素)を100ml/minの流量で反応液中に導入し、生成物の酸化を抑制した。得られた反応生成物を脱水・水洗した後、110℃で10時間乾燥することによって、粒子状の共沈水酸化物(「NiCo
91」と表記する。)を得た。得られた共沈水酸化物の粒子をEDXで観察したところ、1つの粒子中にニッケルとコバルトが均一に分布していることが確認された。
【0043】
実施例3
混合水溶液においてモル比Ni:Co=8:2としたほかは、実施例2と同様にして反応生成物を得た。このようにして粒子状の共沈水酸化物(「NiCo
82」と表記する。)を得た。得られた共沈水酸化物の粒子をEDXで観察したところ、実施例2と同様に1つの粒子中にニッケルとコバルトが均一に分布していることが確認された。
【0044】
実施例4
混合水溶液においてモル比Ni:Co=2:1としたほかは、実施例2と同様にして反応生成物を得た。このようにして粒子状の共沈水酸化物(「NiCo
21」と表記する。)を得た。得られた共沈水酸化物の粒子をEDXで観察したところ、実施例2と同様に1つの粒子中にニッケルとコバルトが均一に分布していることが確認された。
【0045】
比較例1
Niを含まない組成としたほかは、実施例2と同様にして反応生成物を得た。このようにして粒子状の共沈水酸化物(「Co
100」と表記する。)を得た。
【0046】
試験例1
各実施例で得られた共沈水酸化物及び比較例1で得られたコバルト水酸化物ならびにこれらを大気中で焼成して得られた焼成体についてBET比表面積(m
2/g)を測定した。その結果を表1及び
図1に示す。なお、焼成温度は、表1に示すように200℃、250℃、260℃、270℃、280℃、290℃、300℃及び400℃とした。0℃は、「焼成なし」(未焼成)のものを示す。
【0047】
【表1】
【0048】
表1及び
図1の結果からも明らかなように、焼成温度が高くなるに従って比表面積も増加するが、焼成温度が一定の値を超えると反対に比表面積が減少しており、完全な酸化物(焼成温度400℃)になるまでに比表面積の顕著な極大値が存在することがわかる。また、Niを含まない比較例1(Co
100)では、実施例と類似の挙動が認められるものの、極大値は顕著なものではなかった。
【0049】
試験例2
各実施例で得られた共沈水酸化物及び比較例1で得られたコバルト水酸化物ならびにこれらを大気中で焼成して得られた焼成体についてリン酸イオンの飽和吸着量(mg/g)を測定した。その結果を表2及び
図2に示す。なお、焼成温度は、試験例1と同様とした。また、リン酸イオンの飽和吸着量の測定方法は、次の手順に従って実施した。初濃度500mg/Lのリン酸水溶液300mLに各吸着剤1.0gを添加し、25℃で24時間振とう後にろ過し、ろ液のリン酸濃度を吸光光度法により測定した。その濃度を平衡濃度とし、初濃度と平衡濃度との差から吸着量を算出した。
【0050】
【表2】
【0051】
表2及び
図2の結果からも明らかなように、焼成温度が高くなるに従って飽和吸着量も増加するが、焼成温度が一定の値を超えると反対に飽和吸着量が減少しており、完全な酸化物(焼成温度400℃)になるまでに飽和吸着量についても顕著な極大値が存在することがわかる。すなわち、共沈水酸化物から酸化物に移行する途中の段階において、高いリン酸イオン吸着能を発現していることがわかる。より具体的には、比較例1の焼成体の飽和吸着量についてはほとんど有意な変化が認められないのに対し、実施例の焼成体では、未焼成の場合に比して1.5〜1.8倍程度の飽和吸着量に達しており、高いリン酸吸着能が発現している。
【0052】
なお、比較例1(Co
100)は、焼成温度0℃(未焼成品)におけるリン酸イオンの飽和吸着量が比較的高くなっているが、焼成温度200℃以上では吸着量が急激に低下し、その低下した状態のままになっていることがわかる。これは、水中を含め、酸化性雰囲気下での使用に耐えられないことを示すものである。
【0053】
試験例3
各実施例で得られた共沈水酸化物及び比較例1で得られたコバルト水酸化物ならびにこれらを大気中で焼成して得られた焼成体について、その外観形状を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果を
図3〜
図7にそれぞれ示す。これらの結果からも明らかなように、実施例で得られた共沈水酸化物又はその焼成体(
図3〜
図6)は球状粒子から構成されていることがわかる。