【実施例】
【0056】
以下、本発明に係るろう付構造体の製造における実施例に基づいて、本発明の好適な実施の形態を具体的に説明する。
【0057】
実施例1
一方のアルミニウム材として、板厚1.0mm、幅10mm、長さ130mmのJIS3003合金板を使用した。このアルミニウム合金板を電極に用い(対電極には黒鉛電極を用い)、ピロりん酸ナトリウムを主成分とするアルカリ水溶液を電解溶液として用いた。ピロりん酸ナトリウムなどのアルカリ成分の濃度は表1に示すpHになるように適宜調整した。そして、表1に示す電解条件にて交流電解処理を実施し、アルミニウム合金板の両面に易接着性酸化処理皮膜を形成した。
【0058】
【表1】
【0059】
上記アルカリ電解処理によって作成したサンプルの表面分析結果を、表2に示す。具体的には、易接着性酸化処理膜の構造として、(1)その全体厚さ及びバリア層厚さ、(2)ポア構造における小孔の直径と密度を、以下のようにして測定した。表2では、同一試料について、10箇所測定した算術平均値を記載した。
【0060】
【表2】
【0061】
(1)易接着性酸化処理膜の全体厚さ及びバリア層厚さ
易接着性酸化処理膜の全体厚さ及びバリア層厚さは、TEMにより酸化皮膜層の断面観察から測定した。ウルトラミクロトームを用いて供試材から断面観察用薄片試料を作製した。次に、この薄片試料において観察視野(1μm×1μm)中の任意の10点を選択して、酸化皮膜層の厚さを測定した。
【0062】
(2)ポア構造における小孔の直径と密度
ポア構造における小孔の直径と密度は、FE―SEM(電界放出形走査電子顕微鏡)を用いて、電解処理後のサンプルの酸化処理膜の表面の観察から測定した。観察視野(400nm×400nm)中のポア構造の最表面に見える任意の小孔10点を選択して小孔の直径を測定した。また、任意に観察した10点の観察視野(400nm×400nm)内の最表面に見える小孔の数を測定し、密度を計算した。
【0063】
なお、比較例1−11は無処理材のアルミニウム合金板を使用し、比較例1−12ではアルカリ交流電解処理に代わって、従来技術に基づいた硫酸アルマイト処理(厚さ1.0μm)を実施した。
【0064】
本発明例1−1〜1−10では、易接着性酸化処理膜の全体厚さ、ポア構造における小孔の直径と密度、ならびに、バリア層厚さが、本発明の規定範囲を満たしていた。
【0065】
一方、比較例1−1では、酸化処理膜の全体厚さがが50nm未満となり、易接着性酸化処理皮膜が形成されなかった。
【0066】
比較例1−2では、酸化処理膜の全体厚さが400nmを超え、易接着性酸化処理皮膜が形成されなかった。
【0067】
比較例1−3では、ポア構造における小孔の直径が5nm未満となり、小孔の密度が10000個/μm
2を超えたため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0068】
比較例1−4では、ポア構造における小孔の直径が30nmを超え、小孔の密度が1000個/μm
2未満となったため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0069】
比較例1−5では、ポア構造が形成されなかったため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0070】
比較例1−6では、ポア構造及びバリア層が形成されなかったため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0071】
比較例1−7では、ポア構造が形成されなかったため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0072】
比較例1−8では、酸化処理膜の全体厚さが400nmを超え、易接着性酸化処理皮膜が形成されなかった。
【0073】
比較例1−9では、ポア構造が形成されなかったため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0074】
比較例1−10では、小孔の直径が30nm未満となり、小孔の密度が1000個/μm
2未満のため、易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0075】
比較例1−11、1−12では、バリア層とポア構造からなる易接着性酸化皮膜が形成されなかった。
【0076】
次に、Siを10%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるろう材と、JIS3003合金を心材として、常法に従って、片面ブレージングシート(厚さ0.1mm)を作製した。ろう材の層厚は、それぞれ0.02mm(クラッド率20%)とした。これを巾10mmに切断し、コルゲート加工して作製されたコルゲートフィンを長さ50mmとなるように切断した。
【0077】
次に、
図9に示すようにミニコア37を組み付けた。まず、上記片面ブレージングシートのコルゲートフィン35(33:ろう材、34:心材)を脱脂処理し、アセトンでスラリー状に希釈したノコロックフラックス(KFとAlF
3を基本組成とするフッ化物系フラックス)を塗布し、自然乾燥させた。フラックスの塗布量は3g/m
2とし、塗布量の値は塗布前後の試験片の質量を電子天秤で測定し、質量差を塗布面積で除した値とした。コルゲートフィン35のろう材33と、上記の両面に易接着性酸化処理皮膜32a、32bを設けたアルミニウム合金板31の一方の面の易接着性酸化処理皮膜面32aとを合わせ、コルゲートフィン35の心材34をステンレス板36に合わせて、コルゲートフィン35をアルミニウム合金板材31とステンレス板36で挟み、不図示のステンレス製ワイヤーで固定することにより、ミニコア7を作製した。なお、また、比較例1−13では、アルミニウム合金板31として表1、2の本発明例1−10のものを用い、アルミニウム合金板材31の易接着性酸化処理皮膜面32bにもフラックスを3g/m
2塗布した。
【0078】
ミニコア37のろう付加熱には、非酸化性ガスとして窒素ガスを導入したろう付炉を使用した。ミニコア37の到達温度が600℃に達した後、3分間保持して室温まで冷却し、ろう付を完了した。ろう付完了後に、ステンレス製ワイヤーをはずし、ステンレス板36をミニコア37から取り外した。
【0079】
(フィン接合率)
ろう付後のサンプル(ミニコア37)について、アルミニウム合金板31からコルゲートフィン35を剥がし、フィン接合率を測定した。フィン接合率は、コルゲートフィン35の接合長さをコルゲートしたフィンの山数の総和に相当する接合長さで割って算出した。本発明例1―1〜1−9及び比較例1−1〜1−13のいずれも95%以上のフィン接合率が得られ、良好なろう付が確認された。
【0080】
(Tピール剥離試験)
ろう付後のミニコア37のアルミニウム合金板31について、ろう付部を除いて長さ80mmに切断したものを2枚準備した。そして、幅10mm、長さ50mm、厚さ3mmのPP樹脂を2枚のアルミニウム合金板31で、易接着性酸化処理皮膜面32bがPP樹脂と接触するように三辺を揃えて挟み込み、ホットプレス機によって圧力1MPa、温度230℃で1分間保持して接着した。ホットプレス機から取り外して空冷後、アルミニウム合金板31からはみ出したPP樹脂をカッターナイフで除去した。内側にPP樹脂が存在せず、対向しているアルミニウム合金板部分をそれぞれ外側に90°折り曲げてT字型とした。次いで、折り曲げ部を引張試験機にて引張速度100mm/分で引張ってTピール剥離試験を行った。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表3から明らかなように、本発明例1−1〜1−9では、本発明要件を満たす易接着性酸化処理皮膜が形成されているため、ろう付後のTピール剥離試験にて高い強度を示した。また、アルミニウム合金板とPP樹脂との剥離は生じず、PP樹脂の凝集破壊が生じていることを確認した。すなわち、本発明例1−1〜1−9の易接着性酸化処理皮膜は、ろう付後においても良好な樹脂接着性が維持されており、PP樹脂との強固な接着がなされていた。
【0083】
これに対して、比較例1−1では、酸化処理皮膜の全体の厚さが50nm未満であったため、ポア構造の厚さが十分でないことから、PP樹脂とはほとんど接着されておらず低いTピール強度を示し、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0084】
比較例1−2では、酸化処理皮膜の全体の厚さが400nm超であったため、ろう付加熱時にクラックが生じた。その結果、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0085】
比較例1−3では、ポア構造における小孔の直径が5nm未満であるために、樹脂がポア構造に十分に取り込まれず、また、小孔の密度が10000個/μm
2超えたため、酸化皮膜自身の強度が失われた。その結果、低いTピール強度を示し、アルミニウ合金板とPP樹脂が剥離した。
【0086】
比較例1−4では、ポア構造における小孔の直径が30nmを超え、小孔の密度が1000個/μm
2未満であるため、酸化皮膜自身の強度が失われ、また樹脂との接触面積が十分に確保できなかった。その結果、P樹脂とはほとんど接着されておらず低いTピール強度を示し、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0087】
比較例1−5では、ポア構造が形成されていなかったために、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0088】
比較例1−6では、ポア構造及びバリア層が形成されていなかったために、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0089】
比較例1−7では、ポア構造が形成されていなかったために、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0090】
比較例1−8では、酸化処理皮膜の全体の厚さが400nm超であったため、ろう付加熱時にクラックが生じた。その結果、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0091】
比較例1−9では、ポア構造が形成されていなかったために、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0092】
比較例1−10では、ポア構造における小孔の直径が30nmを超え、小孔の密度が1000個/μm
2未満であるため、酸化皮膜自身の強度が失われ、また樹脂との接触面積が十分に確保できなかった。その結果、P樹脂とはほとんど接着されておらず低いTピール強度を示し、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0093】
比較例1−11では、アルミニウム合金材を無処理材としたため、Tピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0094】
比較例1−12では、アルミニウム合金材に硫酸アルマイト処理を施したものであるため、ろう付後には樹脂接着性を維持できず低いTピール強度示し、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0095】
比較例1−13は、接着下地としての易接着性酸化処理皮膜にフラックスを塗布したことで、ろう付時に易接着性酸化処理皮膜が破壊された。その結果、PP樹脂とはほとんど接着されておらず低いTピール強度を示し、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。
【0096】
実施例2
一方のアルミニウム材として、Siを10%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるろう材と、JIS3003合金を心材とし、常法に従って、片面ろう材のブレージングシート(厚さ1mm)を作製した。ろう材の層厚は、それぞれ0.1mm(クラッド率10%)とした。上記ブレージングシートを幅10mm、長さ130mmに切断したものを電極に用い(ブレージングシートにおけるろう材がクラッドされていない側の心材表面が、対電極である黒鉛電極と対面するように)、ピロりん酸ナトリウムを主成分とするアルカリ水溶液を電解溶液として用いた。ピロりん酸ナトリウムなどのアルカリ成分の濃度は表4に示すpHになるように適宜調整した。その他の電解条件は、電解浴の温度を60℃、電流密度を10A/dm
2とし、周波数と電解時間は表4に示す条件にて交流電解処理を実施し、ろう材がクラッドされていない側の心材表面に易接着性酸化処理皮膜が形成されたアルミニウム材としてのブレージングシートを作製した。
【0097】
【表4】
【0098】
上記アルカリ電解処理によって作成したサンプルの表面分析結果を、表5に示す。
【0099】
【表5】
【0100】
本発明例2−1〜2−6では、易接着性酸化処理膜の全体厚さ、ポア構造における小孔の直径と密度、ならびに、バリア層厚さが、本発明の規定範囲を満たしていた。一方、比較例2−1〜2−6では、易接着性酸化処理皮膜が形成されなかった。
【0101】
次に、厚さ0.1mmのJIS3003合金を巾10mmに切断し、コルゲート加工して作製したコルゲートフィンを長さ50mmとなるように切断した。
【0102】
次に、
図10に示すようにミニコア47を組み付けた。まず、上記コルゲートフィン45を脱脂処理し、アセトンでスラリー状に希釈したノコロックフラックス(KFとAlF
3を基本組成とするフッ化物系フラックス)を塗布し、自然乾燥させた。フラックスの塗布量は3g/m
2とし、塗布量の値は塗布前後の試験片の質量を電子天秤で測定し、質量差を塗布面積で除した値とした。コルゲートフィン45と、易接着性酸化処理皮膜44を配したブレージングシート43(41:ろう材、42:心材)のろう材41とを合わせ、コルゲートフィン45をブレージングシート43とステンレス板46で挟み、不図示のステンレス製ワイヤーで固定することにより、ミニコア47を作製した。
【0103】
ミニコア47のろう付加熱は、実施例1と同様に行った。
【0104】
(フィン接合率)
ろう付後のサンプル(ミニコア47)について、実施例1と同様にブレージングシート43とコルゲートフィン45との接合状況を観察し、フィン接合率を測定した。本発明例2−1〜2−6および比較例2−1〜2−6では95%以上のフィン接合率が得られ、良好なろう付が確認された。
【0105】
(Tピール剥離試験)
ろう付後のミニコア47のブレージングシート43について、ろう付部を除いて長さ80mmに切断したものを2枚準備し、実施例1と同様に、PP樹脂を2枚のブレージングシート41で、易接着性酸化処理皮膜面44がPP樹脂と接触するように挟み込んで接着した後、Tピール剥離試験を行った。結果を表6に示す。
【0106】
【表6】
【0107】
表6から明らかなように、本発明例2−1〜2−6では、本発明要件を満たす易接着性酸化処理皮膜が形成されているため、ろう付後のTピール剥離試験にて高い強度を示した。また、アルミニウム合金板とPP樹脂との剥離は生じず、PP樹脂の凝集破壊が生じていることを確認した。すなわち、本発明例2−1の易接着性酸化処理皮膜は、ろう付後においても良好な樹脂接着性が維持されており、PP樹脂との強固な接着がなされていた。
【0108】
一方で、比較例2−1〜2−6では、本発明要件を満たす易接着性酸化処理皮膜が形成されていないため、ろう付後のTピール剥離試験にてTピール強度が低くPP樹脂とはほとんど接着されておらず、アルミニウム合金板とPP樹脂が剥離した。