【解決手段】直径2nm以下の複数のナノ粒子で構成され、かつ、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体と、該リング状ナノ粒子構造体を内包するGroEL変異体と、を有するナノ粒子−GroEL蛋白質複合体であって、前記リング状ナノ粒子構造体を構成する複数のナノ粒子が、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットに包囲された空間に内包されている、ことを特徴とするナノ粒子−GroEL蛋白質複合体。
直径2nm以下の複数のナノ粒子で構成され、かつ、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体と、該リング状ナノ粒子構造体を内包するGroEL変異体と、を有するナノ粒子−GroEL蛋白質複合体であって、
前記GroEL変異体が、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群から選択される少なくとも一種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなり、
前記リング状ナノ粒子構造体を構成する複数のナノ粒子が、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットに包囲された空間に内包されている、
ことを特徴とするナノ粒子−GroEL蛋白質複合体。
前記リング状ナノ粒子構造体が、直径4〜7nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体。
前記GroEL変異体が、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のヌクレオチドを更に含むことを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体。
配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群から選択される少なくとも一種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなるGroEL変異体と、
ナノ粒子と、
を接触させて、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットで、前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体を包囲して内包することを含むナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法。
前記GroEL変異体と前記ナノ粒子との接触は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に行われることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0024】
[ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体]
本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、直径2nm以下の複数のナノ粒子で構成され、かつ、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体と、該リング状ナノ粒子構造体を内包するGroEL変異体と、を有するナノ粒子−GroEL蛋白質複合体であって、前記GroEL変異体が、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群から選択される少なくとも一種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなり、前記リング状ナノ粒子構造体を構成する複数のナノ粒子が、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットに包囲された空間に内包されている、ことを特徴とするナノ粒子−GroEL蛋白質複合体である。
【0025】
(リング状ナノ粒子構造体)
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるリング状ナノ粒子構造体としては、直径2nm以下の複数のナノ粒子で構成され、かつ、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されことが必要である。
【0026】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるリング状ナノ粒子構造体のナノ粒子の粒子径は、前記GroEL変異体に内包可能なものであり、直径2nm以下であることが必要である。前記ナノ粒子の直径が2nmを超える場合には、高い割合でナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を得ることは極めて困難となる。
【0027】
なお、前記ナノ粒子は、直径が0.5〜2nmであることが好ましい。なお、ナノ粒子の粒子径は、走査型電子顕微鏡写真(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)によって求められる。また、前記ナノ粒子は1個のナノ粒子からなる1次粒子であっても、複数のナノ粒子からなる2次粒子であってもよい。
【0028】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるリング状ナノ粒子構造体のナノ粒子としては、前記GroEL変異体に内包可能なものであれば特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、金属ナノ粒子、金属酸化物ナノ粒子、セラミックなどの無機ナノ粒子、高分子の固体などの有機ナノ粒子、半導体ナノ粒子、結晶性材料ナノ粒子、非晶性材料ナノ粒子など、又はそれらの組み合わせを用いることができる。
【0029】
金属ナノ粒子としては、実質的に単一の金属元素からなる金属ナノ粒子、2種以上の金属元素を含む合金又は金属化合物からなる金属ナノ粒子、金属元素と非金属元素を含む金属化合物からなる金属ナノ粒子等のいずれであってもよい。また前記金属ナノ粒子は、磁性粒子及び反磁性粒子のいずれでもあってもよく、また導体粒子及び半導体粒子のいずれであってもよい。ここで「実質的に」とは、不可避的に混入する他の元素が含まれることを排除しないことを意味する。具体的には他の元素の含有率が1質量%以下である。
【0030】
前記金属ナノ粒子を構成する金属元素としては、長周期律表(IUPAC1991)の第3周期、第4周期、第5周期、及び第6周期からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素を挙げることができる。中でも第2〜14族から選ばれる少なくとも1種の金属が好ましく、第2族、第4族、第5族、第6族、第7族、第8族、第9族、第10族、第11族、第12族、第13族、及び第14族から選ばれる少なくとも1種の金属元素が更に好ましい。
【0031】
前記金属元素としては、具体的には、金、銀、白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、鉄、銅、コバルト、オスミウム、ニッケル、錫、イリジウム、鉄、ルテニウム、マンガン、モリブデン、タングステン、ニオブ、タンタル、チタン、ビスマス、アンチモン、鉛、ケイ素、ゲルマニウム、カドミウム、インジウム、クロムなどが挙げられる。中でも、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、ニッケル、チタンからなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【0032】
また、上記本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、前記ナノ粒子が、Au(金)からなる金属ナノ粒子であることが特に好ましい。前記金属ナノ粒子の金属元素として金(Au)を用いることにより、構造及び導体としてより安定な状態を維持することができる。
【0033】
半導体ナノ粒子としては、周期表第12族元素と周期表第16族元素を含むか、又は周期表第11族元素と周期表第13族元素と周期表第16族元素を含むか、又は周期表第13族元素と周期表第15族元素を含む半導体ナノ粒子が挙げられる。具体的には、セレン化カドミウム、硫化カドミウム、硫化銀、硫化カドミウム、硫化亜鉛、セレン化亜鉛、硫化鉛、ヒ化ガリウム、シリコン、酸化スズ、酸化鉄、リン化インジウムなどが挙げられる。
【0034】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるリング状ナノ粒子構造体のナノ粒子は、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されていることが必要である。ナノ粒子の前記配置領域が前記下限未満では、ナノ粒子の凝集等によりリング状にナノ粒子構造を安定化したナノ粒子−GroEL蛋白質複合体とすることが難しい。
【0035】
なお、本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、前記リング状ナノ粒子構造体が、直径4〜7nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されていることが好ましい。
【0036】
また、ナノ粒子の粒子間隔は、0.5〜2nmであることが好ましい。ナノ粒子の粒子間隔が前記下限未満では、凝集した二次粒子となる傾向にあり、また、ナノ粒子の粒子間隔が前記上限を超えると、電子伝導が極端に低くなる傾向にある。なお、前記ナノ粒子の粒子間隔が0.5〜1nmであることが特に好ましい。
【0037】
なお、このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるリング状ナノ粒子構造体のナノ粒子としては、直径が2nm以下であり、かつ該ナノ粒子に表面コーティングや他の物質などによる表面コート層や表面被覆部がなく該ナノ粒子による反応面が露出したものであることが好ましい。このようなナノ粒子を用いることにより、二次元又は三次元構造を有し高密度化かつ高度に凝集抑制がなされたリング状ナノ粒子構造体とすることができる。
【0038】
(GroEL変異体)
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるGroEL変異体としては、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び、配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群から選択される少なくとも一種のGroELサブユニット変異体を含む、複数のGroELサブユニットからなることが必要である。
【0039】
特定構造のGroELサブユニット変異体を含んで構成されるGroEL変異体は、優れた効率でナノ粒子が内包されたナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を生成することができる。また、内包されるナノ粒子の粒子径の均一性に優れる。更に、前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、所定の時間経過後には、内包されたナノ粒子を放出可能である。
【0040】
これは、例えば以下のように考えることができる。Nature、Vol.423(6940)、p628〜632、2003.(非特許文献1)に記載の複合体は、ATP等の非存在下にシャペロニン分子とCdSナノ粒子の自発的な相互作用により形成されるため、生成効率が充分とは言い難い。一方、本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、ATPの加水分解速度が抑制されたGroELサブユニット変異体を含むGroEL変異体を有するため、ATP等との存在下に形成されることが可能である。これにより、GroEL変異体にナノ粒子が効率的に内包されると考えることができる。また前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、GroEL変異体としてGroELCys変異体を用いた場合には、GroELCys変異体とナノ粒子の相互作用が強化されると考えることができる。
【0041】
また前記GroEL変異体は、分散状態にあるナノ粒子を取り込んで、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を形成する。すなわち、前記GroEL変異体は凝集状態のナノ粒子とナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を形成しないことから、内包されるナノ粒子の粒子径が均一になると考えることができる。
【0042】
なお、複数のGroELサブユニットからなり、GroELサブユニットに包囲された空間(空洞)を有するGroELサブユニット多量体を「GroELサブユニット多量体」、GroELサブユニットとして少なくとも1つのGroELサブユニット変異体を含むGroELサブユニット多量体を「GroEL変異体」、GroEL変異体とナノ粒子との複合体を「ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体」と称する。
【0043】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるGroEL変異体に含まれるGroELサブユニット変異体は、配列番号1のアミノ酸配列を有する第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなる第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが必要である。
【0044】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体におけるGroEL変異体に含まれる前記第二のGroELサブユニット変異体としては、ATPの加水分解活性が野生型GroELサブユニットよりも低下しているものであれば特に制限はない。前記第二のGroELサブユニット変異体は、配列番号1のアミノ酸配列のうち52番及び398番のアラニン残基以外の位置における、アミノ酸残基の置換、欠失、又は付加した変異部位の数が15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることが更に好ましい。
【0045】
このような本発明の前記第二のGroELサブユニット変異体の前記アミノ酸残基の置換(変異)としては、以下のような具体例が挙げられる。
【0046】
一般にタンパク質の機能を維持するためには、置換するアミノ酸残基は、置換前のアミノ酸残基と類似の性質を有するアミノ酸残基であることが好ましい。このようなアミノ酸残基の置換は、保存的置換と呼ばれている。例えば、Ala、Val、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trpは、共に非極性アミノ酸残基に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸残基としては、Gly、Ser、Thr、Cys、Tyr、Asn、Glnが挙げられる。また、酸性アミノ酸残基としては、Asp及びGluが挙げられる。また、塩基性アミノ酸残基としては、Lys、Arg、Hisが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸残基の置換は好ましく許容される。
【0047】
前記アミノ酸残基の置換は、前記第二のGroELサブユニット変異体に機能を追加するものであってもよい。新たな機能を付加する置換の具体例としては、例えば、野生型GroELの490番のアスパラギン酸残基をシステイン残基に変異させた変異体(Nat.Biotechnol.、2001,Sep;19(9):861−5.)が挙げられる。かかる変異は、GroEL変異体をガラス基板等に固定化することを可能にする。また、265番のアスパラギン残基をアラニン残基に変異させた変異体(Biochem.Biophys.Res.Commun.、2000,Jan,27;267(3):842−9.)を挙げることもできる。かかる変異はナノ粒子をより効率的にGroEL変異体に内包することを可能にする。
【0048】
また、前記第二のGroELサブユニット変異体は、前記第一のGroELサブユニット変異体と同様の機能を有するものであっても、更に機能が追加されたものであってもよい。これらの具体例としては、例えば、GroELサブユニットにおけるC末端の繰返し配列を欠失、付加した変異体(Cell,2006 Jun 2;125(5):903−14.)を挙げることができる。かかる変異は、GroEL変異体の空間(空洞)の体積を変化させることを可能とする。
【0049】
更に、前記第二のGroELサブユニット変異体は、用途に応じて、1以上のアミノ酸残基が更に付加したものであってもよい。このような付加可能なアミノ酸残基としては、シグナルペプチド、タグ配列等を構成しうるアミノ酸残基を挙げることができる。
【0050】
前記第二のGroEL変異体サブユニットとしては、前記具体例として挙げた変異以外の変異を有するものであってもよい。そのような変異としては例えば、Cell.2002,Dec,27;111(7):1027−39.等に記載された特定のタンパク質をより効率的にフォールディングすることを可能にする変異や、Cell.1995、Nov17;83(4):577−87.等に記載された単一のリングからなる7量体を形成することを可能にする変異等をあげることができる。
【0051】
前記GroELサブユニット変異体は、例えば、GroELサブユニット変異体をコードする塩基配列からなるDNAを通常用いられる方法で発現させることで製造することができる。具体的には、GroELサブユニット変異体をコードする塩基配列からなるDNAを含む組換えベクターを、組換えベクターに応じて選択される宿主細胞に感染させて、宿主細胞を培養することで製造することができる。
【0052】
前記GroELサブユニット変異体の製造方法の詳細については、例えば、特開20010−119322号公報に記載の製造方法を参照することができる。
【0053】
前記GroEL変異体は、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群より選ばれる少なくとも1種のGroELサブユニット変異体を含む。すなわち、前記GroEL変異体を構成する複数個(好ましくは7個、より好ましくは14個)のGroELサブユニットのうち、少なくとも1個は上記のGroELサブユニット変異体である。
【0054】
前記GroEL変異体は、従来知られているシャペロニン変異体(例えば、GroEL(D398A))と比べて顕著にATPの加水分解活性が低下している。そのため形成されたナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、所定の時間、安定的にナノ粒子を内包することができる。
【0055】
また、前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に、ナノ粒子を内包可能であるため、ナノ粒子の内包効率が高く、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を優れた効率で生成することができる。
【0056】
更に、前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体がGroELサブユニットの14量体である場合、GroEL変異体を構成する2つのリングの空間(空洞)に同時にナノ粒子を内包することができるため、より効率的にナノ粒子をナノ粒子−GroEL蛋白質複合体内に内包することができる。
【0057】
前記GroEL変異体を構成するGroELサブユニットの数は、リング状ナノ粒子構造体を内包可能であれば特に制限はない。前記GroEL変異体はGroELサブユニットの7量体であることが好ましく、より好ましくは14量体である。また前記GroEL変異体を構成するGroELサブユニット群のうち、前記GroELサブユニット変異体の総数は少なくとも1とすることができる。前記GroEL変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、ATPの加水分解活性の観点から、GroELサブユニット変異体の総数は、7以上であることが好ましく、14であることがより好ましい。
【0058】
なお、前記GroEL変異体は、GroELサブユニット変異体を含むGroELサブユニット群から、通常の条件下、例えば、ATP依存的(Nature, 1990 Nov 22; 348(6299): 339−42)に形成される。
【0059】
(ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体)
本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、上記の特定のリング状ナノ粒子構造体と、該リング状ナノ粒子構造体を内包する上記の特定のGroEL変異体と、を有するナノ粒子−GroEL蛋白質複合体であって、前記リング状ナノ粒子構造体を構成する複数のナノ粒子が、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットに包囲された空間(空洞)に内包されていることを特徴とするナノ粒子−GroEL蛋白質複合体である。
【0060】
前記GroEL変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、GroEL変異体はナノ粒子を内包可能な2つの空間(空洞)を有する。前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体において、リング状ナノ粒子構造体は2つの空間(空洞)のうち少なくとも1つに内包されていればよい。なお、リング状ナノ粒子構造体が2つの空間(空洞)の両方に内包されることでリング状ナノ粒子構造体の含有率が高いナノ粒子−GroEL蛋白質複合体とすることができる。また、リング状ナノ粒子構造体が1つの空間(空洞)にのみ内包されることで、後述の支持体への接着性に優れるナノ粒子−GroEL蛋白質複合体とすることができる。
【0061】
なお、前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体が2つのリング状ナノ粒子構造体を内包可能である場合、それぞれのリング状ナノ粒子構造体は、該リング状ナノ粒子構造体を構成するナノ粒子の数が同一のものでも又は異なったものでも、前記リング状ナノ粒子構造体の配置構造が同一のものでも又は異なったものでも、更に前記ナノ粒子の材質が同一のものであっても、同種又は異種で異なったものであってもよい。
【0062】
GroEL変異体の1つの空間(空洞)に内包されるナノ粒子の数は、目的とするリング状ナノ粒子構造体を構成するナノ粒子の数に応じて適宜選択される。内包されるリング状ナノ粒子構造体の観点から、1つの空間(空洞)に内包されるナノ粒子の数は3個以上であることが好ましい。
【0063】
また、上記本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、前記GroEL変異体が、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも一種のヌクレオチドを更に含むことが好ましい。前記GroEL変異体がADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを更に含むことで、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体に構造変化が生じて、より効率的にGroEL変異体にナノ粒子を内包しリング状ナノ粒子構造体を形成することができる。
【0064】
なお、前記ADP又はATPの誘導体としては、例えば、ADPBeFx、AMPBeFx、ATPγS、後述するATP代替化合物等を挙げることができる。例えば、前記GroEL変異体がヌクレオチドとしてADPBeFxを含むことで、フットボール型及び弾丸型のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体をより安定化することができる。
また、GroEL変異体におけるADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの含有数は、GroEL変異体がGroELサブユニットの14量体である場合、GroEL変異体1分子あたりに7分子又は14分子であることが好ましく、前記ヌクレオチドがADP又はその誘導体の場合にはGroEL変異体1分子あたりに7分子であり、前記ヌクレオチドがATP又はその誘導体の場合にはGroEL変異体1分子あたりに14分子であることがより好ましい。
【0065】
また、前記ヌクレオチドがADP又はATPの誘導体である場合、GroEL変異体におけるヌクレオチド含有数は、誘導体の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
【0066】
本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体は、リング状ナノ粒子構造体を内包している。このリング状ナノ粒子構造体は、特定の閉鎖された空間内にリング状にその構造が高密度化され安定化されており、ナノ粒子同士の凝集が抑制し、量子効果を発生させることができるため、光電変換、反応触媒、燃料電池や二次電池などにおける電極材料、反応触媒、燃料電池や二次電池などにおける触媒材料、光電気化学エネルギー変換システムや光電気化学水分解システムなどにおける光電変換素子材料、光捕集アンテナや光応答ナノセンシング素子などの光応答性機能材などの用途に用いることができる。
【0067】
[ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法]
本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法は、配列番号1のアミノ酸配列からなる第一のGroELサブユニット変異体、及び配列番号1のアミノ酸配列中、52番及び398番のアラニン残基以外の1以上のアミノ酸残基が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、分子シャペロン活性を有する第二のGroELサブユニット変異体からなる群から選択される少なくとも一種のGroELサブユニット変異体を含む複数のGroELサブユニットからなるGroEL変異体と、ナノ粒子と、を接触させて(接触工程)、前記GroEL変異体の複数のGroELサブユニットで、前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体を包囲して内包することを含むことを特徴とするものである。
【0068】
このような本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法における接触工程においては、前記GroEL変異体と前記ナノ粒子とを接触させる方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、適当な緩衝液中で、GroEL変異体とナノ粒子とを混合する方法、あらかじめ準備したGroEL変異体分散液及びたナノ粒子分散液(又はナノ粒子コロイド溶液など)とを混合する方法、等を挙げることができる。GroEL変異体とナノ粒子とを混合する方法としては、通常用いられる攪拌方法から適宜選択して用いることができる。例えば、マイクロチューブ中で、ピペティングにより混合する方法、ローテーターを用いて混合する方法、ボルテックスを用いて混合する方法等を挙げることができる。GroEL変異体とナノ粒子とを接触させる温度としては、例えば4〜60℃とすることができ、25〜37℃であることがより好ましい。接触時間は例えば1〜60分間であることが好ましく、1〜2分間であることがより好ましい。
【0069】
前記緩衝液としては、通常用いられる緩衝液から適宜選択して用いることができる。例えば、HKM−D、HK、HEPES、PBS、Tris等を挙げることができる。
【0070】
前記緩衝液のpHとしては5〜9であることが好ましく、7〜8であることがより好ましい。pHの調整には例えば、KOH、NaOH等の無機塩基や、HCl等の無機酸を用いることができる。
【0071】
前記緩衝液は、無機塩を更に含むことが好ましい。無機塩としては、KCl、MgCl
2、Na
2SO
4等を挙げることができる。中でもナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の生成効率の観点から、KCl及びMgCl
2を含むことが好ましい。
【0072】
前記緩衝液の濃度としては、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の生成効率の観点から、1mM〜100mMであることが好ましく、20mM〜40mMであることがより好ましい。
【0073】
前記緩衝液が無機塩としてKClを含む場合、KClの濃度は1mM〜200mMであることが好ましく、50mM〜100mMであることがより好ましい。また前記緩衝液が無機塩としてMgCl
2を含む場合、MgCl
2の濃度は1mM〜10mMであることが好ましく、4mM〜6mMであることがより好ましい。
【0074】
前記接触工程におけるGroEL変異体とナノ粒子の混合比率は特に制限されない。例えば、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の生成効率の観点から、GroEL変異体を構成するGroELサブユニット1μmolあたりにナノ粒子を0.1〜10mg混合することが好ましく、1〜10mg混合することがより好ましい。
上記本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法においては、前記GroEL変異体と前記ナノ粒子との接触は、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に行われることが好ましい。また、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドと、金属イオン(好ましくは、マグネシウムイオン)の存在下に行われることがより好ましい。これにより優れた生成効率でリング状ナノ粒子構造体が内包されたナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を生成することができる。
【0075】
前記GroEL変異体が2つの空間(空洞)を有し、前記接触工程をATPの存在下に行う場合、GroEL変異体の2つの空間(空洞)の両方にリング状ナノ粒子構造体が内包されたフットボール型のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を優先的に得ることができる。
【0076】
一方、前記GroEL変異体が2つの空間(空洞)を有し、前記内包工程をADPの存在下に行う場合、GroEL変異体の2つの空間(空洞)の一方にのみリング状ナノ粒子構造体が内包された弾丸型のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を優先的に得ることができる。
【0077】
更に、前記接触工程を、GroEL変異体、第一のナノ粒子、及びADPの存在下に行って、GroEL変異体の2つの空間(空洞)の一方に第一のナノ粒子が内包された第一のGroEL蛋白質複合体を得た後、第一のGroEL蛋白質複合体と、第二のナノ粒子とを、ATPの存在下に接触させることで、第一のナノ粒子と第二のナノ粒子とが1つのGroEL変異体に内包されリング状ナノ粒子構造体を形成したハイブリッド型のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を得ることもできる。
前記接触工程においては、ATPの代わりにATP代替化合物を用いてもよい。ATP代替化合物としては、GroELサブユニット変異体のATP結合部位に結合可能で、GroEL変異体の構造変化を引き起こすことが可能な化合物であれば特に制限はない。例えば、ADPとフッ化ベリリウムの付加物(J.Biol.、Chem.、279、45737−45743(2004).)、ADPとフッ化アルミニウムやフッ化ガリウムの付加物(J.Mol.Biol.、2003,May,23;329(1):121−34.)等を挙げることができる。
【0078】
前記接触工程をADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドの存在下に行う場合、GroELサブユニットに対して、ADP、ATP、及びこれらの誘導体からなる群より選ばれる少なくとも1種のヌクレオチドを10
3〜10
6のモル比で用いることが好ましく、10
3〜10
4のモル比で用いることがより好ましい。
【0079】
前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法は、前記接触工程に加えて、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の精製工程、修飾工程等を更に含んでいてもよい。前記精製工程としては、例えば、クロマトグラフィーにより分離する方法、限外ろ過する方法、等を挙げることができる。
【0080】
[リング状ナノ粒子構造体]
なお、リング状にナノ粒子構造を安定化させたリング状ナノ粒子構造体を得ることを目的として、前記本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体及び前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法に得られたナノ粒子−GroEL蛋白質複合体から蛋白質を除去することにより、直径2nm以下の複数のナノ粒子で構成され、かつ、直径4〜10nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されたリング状ナノ粒子構造体を得ることができる。
【0081】
このようなリング状ナノ粒子構造体においては、前記リング状ナノ粒子構造体が、直径4〜7nmの間の領域内に前記複数のナノ粒子が離間した状態でリング状に配置されていることが好ましい。また、ナノ粒子の粒子間隔は0.5〜2nmであることが好ましい。
【0082】
また、このようなリング状ナノ粒子構造体としては、ナノ粒子が直径が2nm以下のAuナノ粒子であり、かつ該ナノ粒子に表面コーティングや他の物質などによる表面コート層や表面被覆部がなく該ナノ粒子による反応面が露出したものであることが好ましい。このようなナノ粒子を用いることにより、二次元又は三次元構造を有し高密度化かつ高度に凝集抑制がなされたリング状ナノ粒子構造体とすることができる。
【0083】
なお、このようなリング状ナノ粒子構造体においては、前記リング状ナノ粒子構造体は、目的とする用途に応じて支持体(基材)上に結合又は付着などして配置したものであることが好ましい。
【0084】
このようなリング状ナノ粒子構造体に用いる支持体(基材)としては、特に制限されず、通常用いられる支持体から、目的に応じて適宜選択して用いることができる。支持体としては、例えば、ガラス基材、アクリルアミド、セルロース、ニトロセルロース、ガラス、ポリスチレン、ポリエチレンビニルアセテート、ポリプロピレン、ポリメタクリレート、ポリエチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリシリケート、ポリカーボネート、ナイロン、ポリ乳酸、ポリオルトエステル、官能基化シラン、ポリプロピルフマラート、フェノール樹脂等の有機基材、アルミナ、金、銀、白金、イリジウム、タングステン、銅、コバルト、ニッケル、鉄等の金属基材、カーボン、セラミック等の無機基材、半導体基材、などを挙げることができる。また、基材は、チューブ、プレート、膜、マイクロアレイ、ファイバー、フィルム、ビーズ、チップ、粒子及び微粒子を含む任意の有用な形を持つことができる。
【0085】
このようなリング状ナノ粒子構造体は、特定の微小領域内にリング状にその構造が高密度化され安定化されており、ナノ粒子同士の凝集が抑制され量子効果を発生させることができるため、光電変換、反応触媒、燃料電池や二次電池などにおける電極材料、反応触媒、燃料電池や二次電池などにおける触媒材料、光電気化学エネルギー変換システムや光電気化学水分解システムなどにおける光電変換素子材料、光捕集アンテナや光応答ナノセンシング素子などの光応答性機能材などの用途に用いることができる。
【0086】
このようなリング状ナノ粒子構造体の製造方法としては、前記本発明のナノ粒子−GroEL蛋白質複合体及び前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の製造方法に得られたナノ粒子−GroEL蛋白質複合体から蛋白質を除去する(蛋白質除去工程)ことを特徴とするものである。このような前記蛋白質除去工程において、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体から蛋白質を除去する方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このような除去方法としては、例えば、前記ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を乾燥又は加熱処理する方法等が挙げられる。なお、このような方法としては、酸素雰囲気での熱処理又はUVオゾン処理等により行うことが好ましい。これより、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体から蛋白質を除去してリング状ナノ粒子構造体を得ることができる。なお、このようなリング状ナノ粒子構造体は、所望の支持体や基板に配置又は固定して用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
[GroEL蛋白質の調製]
配列番号1のアミノ酸配列からなるGroELサブユニット変異体(野生型GroELの52番目のアスパラギン酸をアラニンに、398番目のアスパラギン酸をアラニンにそれぞれ変異させた変異体:以下、名称「GroEL」、略称「DR体」ともいう)を、特開2010−119322号公報に記載の方法に準じて調製した。なお、GroELは、硫安沈殿として冷蔵保存した。
【0089】
次に、前記冷蔵保存していたGroELを、可溶化後、脱塩カラムにより脱塩した。すなわち、先ず、冷蔵保存していたGroEL硫安沈殿100μLを、二度遠心分離(それぞれ14000rpm×5分)した。次いで、HKM−D緩衝液(HEPES/KOH(pH7.5)が20mM、KClが100mM、MgCl
2が5mM、ADPが5mM)に前記沈殿物を加えてピペッティングにより可溶化した。透析後、HKM−D緩衝液で平衡化した脱塩カラム(GE Healthcare社製、NAP−5)へアプライした。なお、脱塩カラムへのアプライは、0.4mLのHKM−D緩衝液をアプライした後、続いて0.1mLのHKM−D緩衝液をアプライし、得られたGroEL蛋白質0.6mL分をポリエチレン製エッペンチューブに入れた。
【0090】
次に、得られたGroEL蛋白質の吸光度A280nmを測定して蛋白質の定量を行った後、溶出画分を冷蔵保存した。
【0091】
[ナノ粒子溶液の調整]
Auナノ粒子のコロイド溶液(ATR社製、品番:A11−1.8−25)を準備し、脱塩カラムによりバッファー交換を行った。すなわち、先ず、Auナノ粒子コロイド溶液をHK緩衝液(HEPES/KOH(pH7.5)が20mM、KClが100mM)で平衡化した脱塩カラム(GE Healthcare社製、NAP−5)にかけ、0.4mLのHK緩衝液をアプライし、次いで0.1mLのHK緩衝液をアプライし、得られたAuナノ粒子溶液0.6mL分をポリエチレン製エッペンチューブに入れた。次に、目視にて溶出画分を判別し、溶出画分を冷蔵保存した。
【0092】
[GroEL蛋白質へのAuナノ粒子の内包]
得られたGroEL蛋白質のHKM−D緩衝液分散液及びAuナノ粒子のHK緩衝液分散液を用いて、マイクロチューブに最終濃度がそれぞれ以下のようになるように各材料を順次添加して、ナノ粒子内包蛋白質溶液を作製した。
【0093】
すなわち、先ず、マイクロチューブに(A)GroEL蛋白質のHKM−D緩衝液分散液(GroEL:0.1μM、HKM−D緩衝液:10μL)と(B)Auナノ粒子のHK緩衝液分散液(10μL)を添加し、室温で10秒間マイクロピペットで混合後、1分間静置した。次に、(A)と(B)の混合分散液に(C)HKM緩衝液(HEPES/KOH(pH7.5)が20mM、KClが100mM、MgCl
2が5mM)80μLを添加し、室温で10秒間マイクロピペットで混合した。次いで、(A)、(B)及び(C)の混合分散液に(D)ATP(10mM)10uLを添加し、室温で10秒間マイクロピペットで混合してAuナノ粒子内包蛋白質溶液を作製した。
【0094】
<TEM観察>
得られたナノ粒子内包蛋白質溶液について、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子(株)製,JEM−2000EX)により写真を撮影し、その写真上の画像からAuナノ粒子の配置形態を観察した。
【0095】
先ず、ナノ粒子内包蛋白質溶液10μLを、プラズマ処理したカーボン支持膜(Cu200メッシュ)グリッド上に載せ、1分間静置した。次に、純水500μLの水滴にグリッドを浮かべ、洗浄し、余分な溶液を濾紙で吸い取った。次いで、2%酢酸ウラン水溶液10μLで染色を行い、余分な溶液は濾紙で吸い取った。次に、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて加速電圧200kVで観察した。得られた透過型電子顕微鏡(TEM)写真を
図1に示す。
【0096】
図1に示した結果から明らかなとおり、蛋白質由来の輪郭の内部にAuナノ粒子が存在する像が確認され、Auナノ粒子がGroEL蛋白質に内包しているAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体が得られていることが確認された。なお、本実施例では、GroES蛋白質を用いることなくAuナノ粒子をGroEL蛋白質に内包できることが確認された。
【0097】
次に、
図1中の任意の1個のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を拡大して、Auナノ粒子の配置を観察した。Auナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の拡大像を、
図2に示す。また、
図2のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体の拡大像の予想図を、
図3に示す。
【0098】
図2及び
図3に示した結果から明らかなとおり、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体において、一つのナノ粒子−GroEL蛋白質複合体において、直径1.8nm程度のAuナノ粒子が、直径8.5nmの間の領域内に6つのAuナノ粒子が離間した状態(粒子間隔が約1.2nm程度)でリング状に配置されていることが確認された。これより、7量体であるサブユニットに対して決まった位置にAuナノ粒子が1対1で存在している(配位している)ことが確認された。また、
図1中に示された他のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、直径1.8nm程度のAuナノ粒子が、直径8.5nm程度の間の領域内に3つ〜6つのAuナノ粒子が離間した状態(粒子間隔が約1.2nm程度)でリング状に配置されていることが確認された。なお、
図1中に示された他のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、Auナノ粒子が存在するものの、Auナノ粒子がランダム配置したものなど、リング状配置構造とはならなかったものも存在した。
【0099】
次いで、得られた全てのナノ粒子−蛋白質複合体の画像について、Auナノ粒子配置の分類分けを行った。得られた全てのナノ粒子−蛋白質複合体のTEM写真図を
図4に示す。2つの変異体についてカウントした結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
図4及び表1に示した結果から明らかなとおり、GroEL蛋白質(DR体)においてAuナノ粒子が配位していることが確認され、蛋白質の内部に2個以上あって配位の可能性があるナノ粒子−蛋白質複合体の比率は30%程度であり、Auナノ粒子が積極的に蛋白質内部に集積し、更には決まった部位に吸着していることが確認された。
【0102】
なお、本実施例においては、配位が確認されたAuナノ粒子の最大個数は6個であり、Auナノ粒子とシステイン残基の相互作用を強化させたり、GroEL蛋白質の高次構造を安定化させたりすることで、理想的に7個が配位したリング状ナノ粒子の構造体が得られることが確認された。
【0103】
(実施例2)
ワイルドタイプのGroEL(野生型GroEL)のC末端にシステインを導入した変異体(以下、名称「GroELCys変異体」、略称「DR−C体」ともいう)を、特開2010−119322号公報に記載の方法に準じて調製した。なお、GroELCys変異体は、硫安沈殿として冷蔵保存した。
【0104】
次に、冷蔵保存していたGroELCys変異体を用い、実施例1と同様にしてGroEL蛋白質のHKM−D緩衝液分散液を得、蛋白質の定量を行った後、溶出画分を冷蔵保存した。
【0105】
次いで、実施例1と同様にしてAuナノ粒子のHK緩衝液分散液を得、得られたGroEL蛋白質のHKM−D緩衝液分散液及びAuナノ粒子のHK緩衝液分散液を用いて、実施例1と同様にしてAuナノ粒子内包蛋白質溶液を得た。
【0106】
次に、得られたナノ粒子内包蛋白質溶液について、実施例1と同様にしてTEM観察を行った。得られた透過型電子顕微鏡(TEM)写真を
図5に示す。
【0107】
図5に示した結果から明らかなとおり、蛋白質由来の輪郭の内部にAuナノ粒子が存在する像が確認され、Auナノ粒子がGroEL蛋白質に内包しているAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体が得られていることが確認された。なお、本実施例では、GroES蛋白質を用いることなくAuナノ粒子をGroEL蛋白質に内包できることが確認された。
【0108】
次に、
図5中の任意の1個のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体を拡大して、Auナノ粒子の配置を観察した。その結果、ナノ粒子−GroEL蛋白質複合体において、一つのナノ粒子−GroEL蛋白質複合体において、直径2nm程度のAuナノ粒子が、直径10nmの間の領域内に6つのAuナノ粒子が離間した状態(粒子間隔が約1nm程度)でリング状に配置されていることが確認された。また、
図5中に示された他のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、直径2nm程度のAuナノ粒子が、直径10nm程度の間の領域内に3つ〜6つのAuナノ粒子が離間した状態(粒子間隔が約1.2nm程度)でリング状に配置されていることが確認された。なお、
図5中に示された他のAuナノ粒子−GroEL蛋白質複合体においては、Auナノ粒子が存在するものの、Auナノ粒子がランダム配置したものなど、リング状配置構造とはならなかったものも存在した。
【0109】
次いで、得られた全てのナノ粒子−蛋白質複合体の画像について、Auナノ粒子配置の分類分けを行った。得られた全てのナノ粒子−蛋白質複合体のTEM写真図を
図6に示す。2つの変異体についてカウントした結果を表1に示す。
【0110】
図6及び表1に示した結果から明らかなとおり、GroEL蛋白質(DR体)においてAuナノ粒子が配位していることが確認され、蛋白質の内部に2個以上あって配位の可能性があるナノ粒子−蛋白質複合体の比率は53%程度で前記実施例1より高く、Auナノ粒子が積極的に蛋白質内部に集積し、更には決まった部位に吸着していることが確認された。
【0111】
なお、本実施例においては、配位が確認されたAuナノ粒子の最大個数は6個であり、Auナノ粒子とシステイン残基の相互作用を強化させたり、GroEL蛋白質の高次構造を安定化させたりすることで、理想的に7個が配位したリング状ナノ粒子の構造体が得られることが確認された。