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特開2015-203139コネクタ用電気接点材料、その製造方法及びコネクタ用電気接点材料よりなるコネクタ端子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-203139(P2015-203139A)
(43)【公開日】2015年11月16日
(54)【発明の名称】コネクタ用電気接点材料、その製造方法及びコネクタ用電気接点材料よりなるコネクタ端子
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/00 20060101AFI20151020BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20151020BHJP
   H01R 43/16 20060101ALI20151020BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20151020BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20151020BHJP
【FI】
   C25D7/00 H
   H01R13/03 D
   H01R43/16
   C25D5/50
   C25D5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-83004(P2014-83004)
(22)【出願日】2014年4月14日
(71)【出願人】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 滋
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 玄
【テーマコード(参考)】
4K024
5E063
【Fターム(参考)】
4K024AA01
4K024AA03
4K024AB02
4K024AB03
4K024AB04
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA04
4K024CA06
4K024DB02
4K024GA16
5E063GA08
5E063XA01
(57)【要約】
【課題】摺動時の摩擦係数が低く、優れた耐摩耗性を有し、安価なコネクタ用電気接点材料及びその製造方法並びに上記電気接点材料よりなるコネクタ端子を提供する。
【解決手段】コネクタ用電気接点材料1は、金属材料よりなる基材と、基材上に形成された複合被覆層3とを有している。複合被覆層3は、Ni−In合金相31及びIn相32を有すると共に、Ni−In合金相31及びIn相32が表面300に露出している。複合被覆層3は、2層以上のNi膜と2層以上のIn膜とを有し、Ni膜とIn膜とが交互に積層された交互積層膜を基材2上に形成し、その後、交互積層膜を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させることにより形成できる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料よりなる基材と、
該基材上に形成された複合被覆層とを有し、
該複合被覆層は、Ni−In合金相及びIn相を有すると共に、上記Ni−In合金相及び上記In相が表面に露出していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料。
【請求項2】
上記複合被覆層は、上記Ni−In合金相よりなる海相中に上記In相よりなる島相が分散した海島構造であることを特徴とする請求項1に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項3】
上記複合被覆層は、表面に露出した上記In相の面積比率が0.3〜0.8であることを特徴とする請求項1または2に記載のコネクタ用電気接点材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のコネクタ用電気接点材料よりなるコネクタ端子。
【請求項5】
金属材料よりなる基材上に、2層以上のNi膜と2層以上のIn膜とを有し、上記Ni膜と上記In膜とが交互に積層された交互積層膜を形成し、
その後、該交互積層膜を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させ、Ni−In合金相及びIn相を有すると共に、上記Ni−In合金相及び上記In相が表面に露出した複合被覆層を形成することを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項6】
上記交互積層膜は、上記In膜が表面に露出するように形成されることを特徴とする請求項5に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【請求項7】
上記交互積層膜は、上記基材上に上記Ni膜が積層されるように形成されることを特徴とする請求項5または6に記載のコネクタ用電気接点材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コネクタ用電気接点材料、その製造方法及びコネクタ用電気接点材料よりなるコネクタ端子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電気自動車やプラグインハイブリッドカーに用いられる充電用コネクタ等の、挿入と抜去とが繰り返される用途に用いられるコネクタには、優れた耐摩耗性が求められる。かかる用途に用いるコネクタ端子の表面には、通常、耐摩耗性を向上させるために、めっき処理等の表面処理が施されている。例えば、特許文献1には、Ag(銀)めっき膜を表面に有する電気接点材料が記載されている。Agめっき膜は耐摩耗性が高いため、コネクタ端子の挿抜を繰り返しても接点特性を長期間に渡って維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−2940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、純Agは比較的軟らかいため、表面にAgめっき膜を有するコネクタ端子は、相手方端子と摺動させた際の摩擦係数が高い。それ故、かかるコネクタ端子を用いたコネクタは、挿入の際に必要な挿入力が大きいという問題がある。
【0005】
また、Agは貴金属であるため、Agめっき膜を有するコネクタ端子はコストダウンが困難である。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、摺動時の摩擦係数が低く、優れた耐摩耗性を有し、安価なコネクタ用電気接点材料及びその製造方法並びに上記電気接点材料よりなるコネクタ端子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、金属材料よりなる基材と、
該基材上に形成された複合被覆層とを有し、
該複合被覆層は、Ni−In合金相及びIn相を有すると共に、上記Ni−In合金相及び上記In相が表面に露出していることを特徴とするコネクタ用電気接点材料にある。
【0008】
本発明の他の態様は、金属材料よりなる基材上に、2層以上のNi膜と2層以上のIn膜とを有し、上記Ni膜と上記In膜とが交互に積層された交互積層膜を形成し、
その後、該交互積層膜を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させ、Ni−In合金相及びIn相を有すると共に、上記Ni−In合金相及び上記In相が表面に露出した複合被覆層を形成することを特徴とするコネクタ用電気接点材料の製造方法にある。
【0009】
本発明の更に他の態様は、上記コネクタ用電気接点材料よりなるコネクタ端子にある。
【発明の効果】
【0010】
上記コネクタ用電気接点材料(以下、適宜「電気接点材料」という。)は、Ni(ニッケル)−In(インジウム)合金相及びIn相を有すると共に、上記Ni−In合金相及び上記In相が表面に露出している上記複合被覆層を有している。上記Ni−In合金相は、純Agや上記In相と比べて硬いため、相手方端子との摺動による摩耗を抑制することができる。また、上記In相は、上記Ni−In合金相に比べて軟らかいため、摺動時に相手方端子の滑りを良くして摩擦係数を低減することができる。
【0011】
そして、上記Ni−In合金相及び上記In相の両方が表面に露出していることにより、上記複合被覆層は、上記Ni−In合金相による耐摩耗性の向上効果と、上記In相による摩擦係数の低減効果との両方を得ることができる。
【0012】
また、上記複合被覆層は、Ag等の貴金属を使用していないため、材料コストが安価である。それ故、上記電気接点材料全体のコストを容易に低減することができる。
【0013】
以上のように、上記電気接点材料は、摺動時の摩擦係数が低く、優れた耐摩耗性を有し、安価である。それ故、上記電気接点材料から構成したコネクタ端子は、挿入と抜去とを繰り返す用途に好適に用いることができる。
【0014】
また、上記電気接点材料の製造方法においては、上記交互積層膜を形成した後、上記リフロー処理を施してNiとInとを合金化させる。このように、上記交互積層膜に上記リフロー処理を施すことにより、上記複合被覆層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例における、電気接点材料の表面をSEM観察した図面代用写真。
図2】実施例における、電気接点材料の表面に存在する(a)Inをマッピングした図面代用写真、(b)Niをマッピングした図面代用写真、(c)Cuをマッピングした図面代用写真。
図3】実施例における、基材上に交互積層膜を形成した状態の断面図。
図4】実験例における、初期状態の試料E1を用いた接触抵抗測定の結果を示す接触抵抗−荷重曲線。
図5】実験例における、高温放置処理後の試料E1を用いた接触抵抗測定の結果を示す接触抵抗−荷重曲線。
図6】実験例における、恒温恒湿放置処理後の試料E1を用いた接触抵抗測定の結果を示す接触抵抗−荷重曲線。
図7】実験例における、摺動特性評価に用いた試験装置の説明図。
図8図7の試験装置における、評価試料と摺動子との間に形成される電気回路の構成を示す説明図。
図9】実験例における、試料E1の摺動特性評価の結果を示すグラフ。
図10】実験例における、試料C1の摺動特性評価の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記電気接点材料における上記基材は、導電性を有する種々の金属から選択可能である。具体的には、上記基材としては、Cu(銅)、Al(アルミニウム)、Fe(鉄)、またはこれらの金属を含む合金が好適に用いられる。これらの金属材料は、導電性だけではなく、成形性やバネ性にも優れ、種々の態様の電気接点に適用可能である。基材の形状としては、棒状、板状等種々の形状があり、厚み等の寸法は、用途に応じて種々選択可能である。なお、通常、厚みは0.2〜2mm程度とすることが好ましい。
【0017】
上記複合被覆層は、例えば、上記Ni−In合金相または上記In相のいずれか一方の相が網目状に連なり、その空隙に他方の相が充填された共連続構造や、いずれか一方の相よりなる海相中に他方の相よりなる島相が分散した海島構造等の構造を有する。
【0018】
上記複合被覆層は、表面に露出した上記In相の面積比率が0.3〜0.8であることが好ましい。即ち、上記複合被覆層の表面を観察した場合における、視野全体の面積Bに対する上記In相の占有面積Aの比率(A/B)が、0.3〜0.8の範囲内にあることが好ましい。上記比率(A/B)は0.5が理想的であるが、製造上のばらつきを考慮すると、上記範囲とすることが好ましく、この範囲にあれば、上述した耐摩耗性及び摩擦係数低減の効果をバランス良く得ることができる。上記比率(A/B)が小さすぎる場合には、上記In相が少ないため摩擦係数低減の効果が不十分となるおそれがある。一方、上記比率(A/B)が大きすぎる場合には、上記Ni−In合金相が少ないため耐摩耗性が不十分となるおそれがある。
【0019】
上記Ni−In合金相に含まれるNiとInとの比率は、優れた耐摩耗性を得る観点から、原子比において、Ni:In=25:75〜70:30の範囲内とすることが好ましい。また、上記Ni−In合金相は、Ni及びInの他に、例えば上記基材から拡散した金属元素や、不可避不純物等を含有し得る。一方、上記In相は、実質的に純Inから構成されており、Inの他に不可避不純物を含有し得る。
【0020】
上記基材と上記複合被覆層との間には、拡散バリア層を設けてもよい。拡散バリア層は、上記基材を構成する金属元素が上記複合被覆層へ拡散することを抑制する作用を有する。また、拡散バリア層の存在によって上記複合被覆層の密着性を向上させることができ、上記複合被覆層の膨れや剥がれ等を抑制することも可能である。なお、このような問題が生じない場合には、必ずしも拡散バリア層を設ける必要が無く、その分コストダウンを図ることができる。
【0021】
例えば、上記基材がCu合金である場合には、拡散バリア層として、厚みが0.5μm程度のCuめっき層を用いることが好ましい。この場合には、拡散バリア層の存在により、上記基材に由来するCuが上記複合被覆層へ拡散することを抑制し、Cuに起因する耐食性の悪化や電気伝導性の低下を抑制することができる。なお、拡散バリア層としては、Cuめっき層の他に、Niめっき層、Coめっき層等を用いることも可能である。
【0022】
次に、上記電気接点材料の製造方法について説明する。
【0023】
まず、金属材料よりなる基材上に、2層以上のNi膜と2層以上のIn膜とを有し、上記Ni膜と上記In膜とが交互に積層された交互積層膜を形成する。Ni膜及びIn膜の形成は、例えば電気めっき処理等の従来公知の方法により行うことができる。Ni膜またはIn膜のいずれか一方が上記基材上に1層しか存在しない場合には、上述した構造を有する複合被覆層を形成することが難しい。また、Ni膜及びIn膜の両方が1層しか存在しない場合には、上記複合被覆層を形成することが不可能である。
【0024】
上記交互積層膜は、上記In膜が表面に露出するように形成されることが好ましい。InはNiに比べて酸化されにくいため、上記リフロー処理において、不導体である酸化膜が表面に形成されることを抑制できる。その結果、上記電気接点材料の接触抵抗が高くなることを抑制することができる。
【0025】
また、上記基材としてCuを用いる場合には、上記基材に上記Ni膜が積層されるようにして上記交互積層膜を形成することが好ましい。Niは、Inに比べてCu上へのめっき膜形成が容易である。それ故、この場合には、上記交互積層膜を形成する工程をより効率よく行うことができ、ひいては上記電気接点材料の生産性をより向上させることができる。
【0026】
上記交互積層膜を形成した後、該交互積層膜を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させる。リフロー処理における加熱温度は、例えば、250〜400℃の範囲で適宜設定することができる。また、リフロー処理における加熱時間は、例えば、90〜270秒の範囲で適宜設定することができる。
【実施例】
【0027】
(実施例)
上記コネクタ端子用電気接点材料(以下、適宜「電気接点材料」という。)の実施例を、図1図3を用いて説明する。電気接点材料1は、金属材料よりなる基材2と、基材2上に形成された複合被覆層3とを有している。図1及び図2に示すように、複合被覆層3は、Ni−In合金相31及びIn相32を有すると共に、Ni−In合金相31及びIn相32が表面300に露出している。
【0028】
以下、電気接点材料1の詳細な構成を、作製方法と共に説明する。
【0029】
<作製方法>
Cu合金よりなる基材2を準備し、基材2上に、2層のNi膜41及び2層のIn膜42を有し、Ni膜41とIn膜42とが交互に積層された交互積層膜4を形成した。具体的には、図3に示すように、基材2上に第1Ni膜41a、第1In膜42a、第2Ni膜41b及び第2In膜42bを順次積層し、表面400に第2In膜42bが露出するように交互積層膜4を形成した。また、第1Ni膜41a、第1In膜42a、第2Ni膜41b及び第2In膜42bの膜厚は、それぞれ、0.5μm、1.5μm、0.3μm及び0.5μmとした。
【0030】
Ni膜41及びIn膜42の作製は、電気めっき処理により行った。電気めっき処理の詳細な条件は、以下の通りである。
【0031】
[Ni膜41]
・浴組成 硫酸ニッケル 265g/L
塩化ニッケル 45g/L
ホウ酸 40g/L
光沢剤
・めっき浴温度 50℃
・電流密度 0.5A/dm2
【0032】
[In膜42]
・浴組成 硫酸インジウム 30g/L
メタンスルホン酸 30g/L
光沢剤
・めっき浴温度 30℃
・電流密度 1A/dm2
【0033】
以上のように交互積層膜4を形成した後、交互積層膜4を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させた。リフロー処理における加熱温度は300℃とし、加熱時間は3分とした。以上により、電気接点材料1を得た。
【0034】
<表面観察>
得られた電気接点材料1の表面300を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。図1に、電気接点材料1の表面300の二次電子像を示す。また、図2に、電気接点材料1の表面300の元素マッピング像を示す。なお、図2(a)〜(c)は、それぞれ、In、Ni、Cuをマッピングした元素マッピング像である。
【0035】
図1より知られるように、電気接点材料1の表面300は、平坦な海相中に、海相よりも隆起した島相が分散した海島構造を有していた。また、図2より知られるように、海相にはNi、In及びCuが含まれており、島相は実質的にInのみから構成されていた。以上の結果から、複合被覆層3は、Ni−In合金相31よりなる海相中にIn相32よりなる島相が分散した海島構造を有していると理解できる。
【0036】
また、図1に基づいて視野全体の面積Bに対するIn相32の占有面積Aの比率(A/B)を算出したところ、複合被覆層3の表面300に露出したIn相32の面積比率(A/B)は0.5程度であった。
【0037】
(比較例)
本例は、基材2上に、1層のNi膜41と1層のIn膜42とを順次積層した後、実施例と同様のリフロー処理を施した例である。図には示さないが、リフロー処理を行った後の表面をSEMにより観察した結果、視野全体が平坦な二次電子像が得られた。また、表面の元素マッピング像を取得したところ、視野全体からNi、In及びCuが検出された。以上の結果から、本例の電気接点材料1は、基材2の全面がNi−In合金相31により覆われており、Ni−In合金相31及びIn相32の両方を備えた複合被覆層3が形成されていないことがわかった。
【0038】
(実験例)
本例は、実施例の電気接点材料1を用いて接触抵抗測定及び摺動特性評価を行った例である。本例においては、実施例の電気接点材料1から採取した試料(以下、「試料E1」という。)及び従来の電気接点材料(以下、「試料C1」という。)を用いて、以下の評価を行った。なお、試料C1は、基材上に、厚み1μmのNiめっき膜及び厚み2μmのAgめっき膜が順次積層された構造を有する。
【0039】
<接触抵抗測定>
表面に厚み2μmのAgめっき膜を有する厚み0.25mmのリン青銅板よりなり、曲率半径3mmの半球状凸部を設けた接触子を準備し、試料E1の表面に接触子の半球状凸部を当接させた。この状態から接触子に加える荷重を徐々に大きくし、40Nまで印加した。その後、接触子に加える荷重を徐々に小さくした。そして、接触子に荷重が印加されている間の、試料E1と接触子との間の接触抵抗(初期状態)を測定した。また、大気雰囲気下にて160℃で120時間加熱する高温放置処理を施した後の試料E1を用いて上述と同様に接触抵抗(高温放置処理後)の測定を行った。更に、温度85℃、相対湿度85%RHの環境下に96時間放置する恒温恒湿放置処理を施した後の試料E1を用いて上述と同様に接触抵抗(恒温恒湿放置処理後)の測定を行った。なお、接触抵抗の測定は、初期状態、高温放置処理後、恒温恒湿放置処理後の各条件について、複数回行った。
【0040】
図4図5及び図6に、初期状態での測定結果、高温放置処理後の測定結果及び恒温恒湿放置処理後の測定結果をそれぞれ示す。なお、図4図6の縦軸は接触抵抗(mΩ)の値であり、横軸は接触子に加えた荷重(N)である。また、縦軸及び横軸の目盛りは対数表示とした。
【0041】
図4図6より知られるように、試料E1は、初期状態、高温放置処理後及び恒温恒湿放置処理後のいずれの測定においても、荷重を増加させて1Nに達した時点(符号P)での接触抵抗の値が10mΩ以下であった。この結果は、コネクタ端子に要求される特性を十分に満足できる結果である。
【0042】
<摺動特性評価>
摺動特性評価は、図7及び図8に示す評価装置8を用いて行った。この評価は、図8に示すごとく、評価試料Sと、半球状のエンボス部を設けた摺動子Tとを接触させ、所定の加重Fを付与した状態で、両者を所定の周波数で摺動させ続け、評価試料Sと摺動子Tとの間の接触抵抗と摩擦係数を測定し、その推移をみるというものである。
【0043】
本例では、図7及び図8に示すごとく、摺動子Tとして、厚み0.25mmのリン青銅板の表面に厚み2μmのAgめっき層を設けた電気接点材料であって、半径1mmの半球状のエンボス部9を設けたものを用いた。評価試料Sとしては、試料E1及び試料C1を用いた。
【0044】
評価装置8は、図7に示すごとく、評価試料Sをセットする試料台部81と、摺動子Tを保持して荷重を付与する荷重付与部82とをベース80上に備えてなる。試料台部81は、固定台811上において水平方向に摺動可能なスライド台812を有し、モータ813の駆動によってスライド台812を水平方向に微摺動させることができるよう構成されている。そして、スライド台812の上面には、評価試料Sを固定する固定手段(図示略)が設けられている。
【0045】
荷重付与部82は、支柱部821上の傾動中心822を中心として上下方向に傾動可能なアーム部823を備えている。アーム部823の一端には、バランス用おもり824が設けられ、他端には主おもり825及び相手部材保持部826とが設けられている。相手部材保持部826の下端には、摺動子Tを固定する固定手段(図示略)が設けられている。
【0046】
評価装置8にセットされた評価試料Sと摺動子Tとの間には、図8に示すような通電回路が接続されるよう構成されており、接触抵抗を測定することができる。また、評価試料Sと摺動子Tとの間の摩擦係数は、測定された摩擦力を垂直荷重で割ることによって得られる。
【0047】
また、本例での摺動特性評価の条件は、次のとおりである。
・通電電流:10mA
・荷重F:3N
・摺動距離:50μm
・摺動回数:50回
・摺動周波数:1Hz
【0048】
試料E1及び試料C1に対して行った摺動特性評価の結果を、それぞれ図9及び図10に示す。これらの図は、横軸に時間(sec)を、左縦軸に接触抵抗(mΩ)を、右縦軸に摩擦係数をとり、接触抵抗及び摩擦係数の推移をプロットしたものである。なお、図9及び図10の横軸は、対数目盛りにより表示した。また、これらの図において、接触抵抗の推移は符号Rで示し、摩擦係数の推移は符号Mで示した。
【0049】
図9及び図10の比較から知られるように、複合被覆層3を有する試料E1は、試験開始時の摩擦係数が約0.8であり、試験完了に至るまで0.8前後の摩擦係数が維持された。一方、従来のAgめっき層を備えた試料C1は、試験開始時の摩擦係数が、試料E1よりも高い約1.0であり、試験完了に至るまで1.0前後の摩擦係数が維持された。この結果から、試料E1は、複合被覆層3の存在により、試料C1よりも低い摩擦係数を長期間に渡って維持することができると理解できる。
【0050】
また、試料E1及び試料C1は、試験開始時から試験完了に至るまで、接触抵抗の値が10mΩ以下の範囲で変化した。この結果は、コネクタ端子に要求される特性を十分に満足できる結果である。
【符号の説明】
【0051】
1 電気接点材料
2 基材
3 複合被覆層
31 Ni−In合金相
32 In相
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図1
図2
図9
図10