【実施例】
【0027】
(実施例)
上記コネクタ端子用電気接点材料(以下、適宜「電気接点材料」という。)の実施例を、
図1〜
図3を用いて説明する。電気接点材料1は、金属材料よりなる基材2と、基材2上に形成された複合被覆層3とを有している。
図1及び
図2に示すように、複合被覆層3は、Ni−In合金相31及びIn相32を有すると共に、Ni−In合金相31及びIn相32が表面300に露出している。
【0028】
以下、電気接点材料1の詳細な構成を、作製方法と共に説明する。
【0029】
<作製方法>
Cu合金よりなる基材2を準備し、基材2上に、2層のNi膜41及び2層のIn膜42を有し、Ni膜41とIn膜42とが交互に積層された交互積層膜4を形成した。具体的には、
図3に示すように、基材2上に第1Ni膜41a、第1In膜42a、第2Ni膜41b及び第2In膜42bを順次積層し、表面400に第2In膜42bが露出するように交互積層膜4を形成した。また、第1Ni膜41a、第1In膜42a、第2Ni膜41b及び第2In膜42bの膜厚は、それぞれ、0.5μm、1.5μm、0.3μm及び0.5μmとした。
【0030】
Ni膜41及びIn膜42の作製は、電気めっき処理により行った。電気めっき処理の詳細な条件は、以下の通りである。
【0031】
[Ni膜41]
・浴組成 硫酸ニッケル 265g/L
塩化ニッケル 45g/L
ホウ酸 40g/L
光沢剤
・めっき浴温度 50℃
・電流密度 0.5A/dm
2
【0032】
[In膜42]
・浴組成 硫酸インジウム 30g/L
メタンスルホン酸 30g/L
光沢剤
・めっき浴温度 30℃
・電流密度 1A/dm
2
【0033】
以上のように交互積層膜4を形成した後、交互積層膜4を加熱するリフロー処理を施してNiとInとを合金化させた。リフロー処理における加熱温度は300℃とし、加熱時間は3分とした。以上により、電気接点材料1を得た。
【0034】
<表面観察>
得られた電気接点材料1の表面300を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。
図1に、電気接点材料1の表面300の二次電子像を示す。また、
図2に、電気接点材料1の表面300の元素マッピング像を示す。なお、
図2(a)〜(c)は、それぞれ、In、Ni、Cuをマッピングした元素マッピング像である。
【0035】
図1より知られるように、電気接点材料1の表面300は、平坦な海相中に、海相よりも隆起した島相が分散した海島構造を有していた。また、
図2より知られるように、海相にはNi、In及びCuが含まれており、島相は実質的にInのみから構成されていた。以上の結果から、複合被覆層3は、Ni−In合金相31よりなる海相中にIn相32よりなる島相が分散した海島構造を有していると理解できる。
【0036】
また、
図1に基づいて視野全体の面積Bに対するIn相32の占有面積Aの比率(A/B)を算出したところ、複合被覆層3の表面300に露出したIn相32の面積比率(A/B)は0.5程度であった。
【0037】
(比較例)
本例は、基材2上に、1層のNi膜41と1層のIn膜42とを順次積層した後、実施例と同様のリフロー処理を施した例である。図には示さないが、リフロー処理を行った後の表面をSEMにより観察した結果、視野全体が平坦な二次電子像が得られた。また、表面の元素マッピング像を取得したところ、視野全体からNi、In及びCuが検出された。以上の結果から、本例の電気接点材料1は、基材2の全面がNi−In合金相31により覆われており、Ni−In合金相31及びIn相32の両方を備えた複合被覆層3が形成されていないことがわかった。
【0038】
(実験例)
本例は、実施例の電気接点材料1を用いて接触抵抗測定及び摺動特性評価を行った例である。本例においては、実施例の電気接点材料1から採取した試料(以下、「試料E1」という。)及び従来の電気接点材料(以下、「試料C1」という。)を用いて、以下の評価を行った。なお、試料C1は、基材上に、厚み1μmのNiめっき膜及び厚み2μmのAgめっき膜が順次積層された構造を有する。
【0039】
<接触抵抗測定>
表面に厚み2μmのAgめっき膜を有する厚み0.25mmのリン青銅板よりなり、曲率半径3mmの半球状凸部を設けた接触子を準備し、試料E1の表面に接触子の半球状凸部を当接させた。この状態から接触子に加える荷重を徐々に大きくし、40Nまで印加した。その後、接触子に加える荷重を徐々に小さくした。そして、接触子に荷重が印加されている間の、試料E1と接触子との間の接触抵抗(初期状態)を測定した。また、大気雰囲気下にて160℃で120時間加熱する高温放置処理を施した後の試料E1を用いて上述と同様に接触抵抗(高温放置処理後)の測定を行った。更に、温度85℃、相対湿度85%RHの環境下に96時間放置する恒温恒湿放置処理を施した後の試料E1を用いて上述と同様に接触抵抗(恒温恒湿放置処理後)の測定を行った。なお、接触抵抗の測定は、初期状態、高温放置処理後、恒温恒湿放置処理後の各条件について、複数回行った。
【0040】
図4、
図5及び
図6に、初期状態での測定結果、高温放置処理後の測定結果及び恒温恒湿放置処理後の測定結果をそれぞれ示す。なお、
図4〜
図6の縦軸は接触抵抗(mΩ)の値であり、横軸は接触子に加えた荷重(N)である。また、縦軸及び横軸の目盛りは対数表示とした。
【0041】
図4〜
図6より知られるように、試料E1は、初期状態、高温放置処理後及び恒温恒湿放置処理後のいずれの測定においても、荷重を増加させて1Nに達した時点(符号P)での接触抵抗の値が10mΩ以下であった。この結果は、コネクタ端子に要求される特性を十分に満足できる結果である。
【0042】
<摺動特性評価>
摺動特性評価は、
図7及び
図8に示す評価装置8を用いて行った。この評価は、
図8に示すごとく、評価試料Sと、半球状のエンボス部を設けた摺動子Tとを接触させ、所定の加重Fを付与した状態で、両者を所定の周波数で摺動させ続け、評価試料Sと摺動子Tとの間の接触抵抗と摩擦係数を測定し、その推移をみるというものである。
【0043】
本例では、
図7及び
図8に示すごとく、摺動子Tとして、厚み0.25mmのリン青銅板の表面に厚み2μmのAgめっき層を設けた電気接点材料であって、半径1mmの半球状のエンボス部9を設けたものを用いた。評価試料Sとしては、試料E1及び試料C1を用いた。
【0044】
評価装置8は、
図7に示すごとく、評価試料Sをセットする試料台部81と、摺動子Tを保持して荷重を付与する荷重付与部82とをベース80上に備えてなる。試料台部81は、固定台811上において水平方向に摺動可能なスライド台812を有し、モータ813の駆動によってスライド台812を水平方向に微摺動させることができるよう構成されている。そして、スライド台812の上面には、評価試料Sを固定する固定手段(図示略)が設けられている。
【0045】
荷重付与部82は、支柱部821上の傾動中心822を中心として上下方向に傾動可能なアーム部823を備えている。アーム部823の一端には、バランス用おもり824が設けられ、他端には主おもり825及び相手部材保持部826とが設けられている。相手部材保持部826の下端には、摺動子Tを固定する固定手段(図示略)が設けられている。
【0046】
評価装置8にセットされた評価試料Sと摺動子Tとの間には、
図8に示すような通電回路が接続されるよう構成されており、接触抵抗を測定することができる。また、評価試料Sと摺動子Tとの間の摩擦係数は、測定された摩擦力を垂直荷重で割ることによって得られる。
【0047】
また、本例での摺動特性評価の条件は、次のとおりである。
・通電電流:10mA
・荷重F:3N
・摺動距離:50μm
・摺動回数:50回
・摺動周波数:1Hz
【0048】
試料E1及び試料C1に対して行った摺動特性評価の結果を、それぞれ
図9及び
図10に示す。これらの図は、横軸に時間(sec)を、左縦軸に接触抵抗(mΩ)を、右縦軸に摩擦係数をとり、接触抵抗及び摩擦係数の推移をプロットしたものである。なお、
図9及び
図10の横軸は、対数目盛りにより表示した。また、これらの図において、接触抵抗の推移は符号Rで示し、摩擦係数の推移は符号Mで示した。
【0049】
図9及び
図10の比較から知られるように、複合被覆層3を有する試料E1は、試験開始時の摩擦係数が約0.8であり、試験完了に至るまで0.8前後の摩擦係数が維持された。一方、従来のAgめっき層を備えた試料C1は、試験開始時の摩擦係数が、試料E1よりも高い約1.0であり、試験完了に至るまで1.0前後の摩擦係数が維持された。この結果から、試料E1は、複合被覆層3の存在により、試料C1よりも低い摩擦係数を長期間に渡って維持することができると理解できる。
【0050】
また、試料E1及び試料C1は、試験開始時から試験完了に至るまで、接触抵抗の値が10mΩ以下の範囲で変化した。この結果は、コネクタ端子に要求される特性を十分に満足できる結果である。