(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-203243(P2015-203243A)
(43)【公開日】2015年11月16日
(54)【発明の名称】注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20151020BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20151020BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-83438(P2014-83438)
(22)【出願日】2014年4月15日
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089635
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 守
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】舘山 勝
(72)【発明者】
【氏名】井澤 淳
(72)【発明者】
【氏名】上田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寅士良
(72)【発明者】
【氏名】中村 宏
(72)【発明者】
【氏名】川▲崎▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】大西 高明
(72)【発明者】
【氏名】林田 晃
(72)【発明者】
【氏名】入山 修
【テーマコード(参考)】
2D040
2D046
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB01
2D040AC02
2D040BD00
2D046DA17
(57)【要約】
【課題】 砂地盤の密実化を図り、簡易で経済的な液状化対策を可能とする、注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法を提供する。
【解決手段】 注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法であって、注入管の先端を閉塞した状態で、静的もしくは打撃貫入して注入管を立て込み、次に、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入することにより、砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈を直行方向に押し広げ、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図る。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)注入管の先端を閉塞した状態で、静的もしくは打撃貫入して注入管を立て込み、
(b)次に、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入することにより、砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈を直行方向に押し広げ、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図ることを特徴とする注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法。
【請求項2】
請求項1記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、注入工法では、前記注入管を存置させ、該注入管を幹として割裂脈同士の連結性を高めることを特徴とする注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法。
【請求項3】
請求項1記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、前記注入管を引き抜く際にモルタル等で置き換えることを特徴とする注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法。
【請求項4】
請求項3記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、注入管を引き抜き、モルタルで置き換えた後に、モルタル中に鉄筋などの補強体を存置することを特徴とする注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法。
【請求項5】
請求項1記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、地盤改良杭を用いることを特徴とする注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法に関するものである。特に、液状化が懸念される緩い砂質土地盤において、既設の盛土や、橋梁の基礎などに対して液状化対策する際に、薬液注入工法によって地盤を密実化させる、簡易で経済的な液状化対策工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、以下のような工法が採用されている。
【0003】
(1) 薬液を脈状に注入する技術(動的注入工法)(下記特許文献1〜3、下記非特許文献1参照)
地盤に対して薬液注入を施す方法として動的に薬液を注入させる技術が提案されている。この方法は砂地盤に対しては品質が高い浸透注入を施すことを目的とし、粘性土地盤や岩盤地盤に対しては、水みちやクラックなどに対して脈状に注入を施すことを目的に行われるものである。
【0004】
(2) 薬液注入工法による液状化対策
これまでの薬液注入による液状化地盤対策工法としては、飽和地盤中に薬液を浸透注入させて水と置換し、液状化地盤を固化させる浸透固化工法が挙げられる。また、対象地盤を薬液やセメントと混合することで地盤の剛性・強度を高める深層混合処理工法や高圧噴射攪拌工法がある。しかしながら、これらの場合には液状化対象地盤を100%改良することにより対策しようとするものであるため、得られる対策効果は大きいが、その分、高コストとなる。
【0005】
図10は従来の格子状地盤改良の一例を示す模式図である。
【0006】
この図において、101は非液状化層、102は液状化層、103は杭であり、格子状地盤改良を行った例もある。
【0007】
上記した工法では、格子状に地盤改良し、コストを低減することができるが、施工機械が大きく、既設構造物を対象とした狭隘箇所での施工が困難である。
【0008】
次に、液状化地盤中に裂け目を形成しながら薬液を割裂注入することにより、地盤内に注入固化物を形成する液状化対策工法の特許(特許2)もある。この特許は、理想的には液状化が懸念される砂地盤に対して浸透注入を行いたいのだが、実際は地盤の不均一性や細粒分の混入などによって、割裂注入となってしまうことが多いので、割裂状の注入固化物を多数形成させ、その拘束によって地盤の剛性を増加させ、液状化抵抗を増大させる効果を狙ったものである。したがって、所定の液状化対策効果を得るためには、注入量は比較的大きくなり、その分、高コストとなる。また、地震による地盤の変形を受けて、割裂状の注入固化体が損傷した場合には、地盤剛性の向上効果は低下する。
【0009】
(3) 密実化による液状化対策
一方、地盤の密実化による既存の液状化対策工法としては、静的又は動的砂締固め杭工法(SCP工法:サンドコンパクションパイル工法)や圧入式締固め工法(CPG工法:コンパクショングラウチング工法)、振動を与えて地盤を締固めるロッドコンパクション工法や重錘落下締固め工法が挙げられるが、これらはいずれも大型機械が必要となり、狭隘箇所での施工に向かない。また、所定の液状化対策効果を得るためには高コストになるなどの問題がある。また、施工中の騒音や振動、地盤変位も大きいため、鉄道など変位制限が厳しい箇所での施工に不適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3731189号公報
【特許文献2】特許第3709505号公報
【特許文献3】特許第3757400号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】動的注入工法、動的注入工法協会編、パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このように、
(1) これまでに液状化対策工法として適用されてきた地盤改良工法は、液状化対象地盤を100%改良することを基本とするため、高コストである。
【0013】
(2) 割裂状に注入固化物を配置する方法も提案されているが、注入固化物だけによって地盤の剛性を高めるためには、それでも高改良率となる。このため、抜本的な低コスト化を実現できない。
【0014】
(3) 従来の密実化による液状化対策工法は、いずれも大型機械を必要とし、施工中の騒音や振動、変形も大きく、鉄道のような変位制限が厳しく箇所、都市部のような騒音振動の制限箇所、施工スペースが狭隘な箇所での施工は困難である。
【0015】
本発明は、上記状況に鑑みて、砂地盤の密実化を図り、簡易で経済的な液状化対策を可能とする、注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、注入管の先端を閉塞した状態で、静的もしくは打撃貫入して注入管を立て込み、次に、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入することにより、砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈を直行方向に押し広げ、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図ることを特徴とする。
【0017】
〔2〕上記〔1〕記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、前記注入工法では、注入管を存置させ、この注入管を幹として割裂脈同士の連結性を高めることを特徴とする。
【0018】
〔3〕上記〔1〕記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、前記注入管を引き抜く際にモルタル等で置き換えることを特徴とする。
【0019】
〔4〕上記〔3〕記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、前記注入管を引き抜き、モルタルで置き換えた後に、モルタル中に鉄筋などの補強体を存置することを特徴とする。
【0020】
〔5〕上記〔1〕記載の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、地盤改良杭を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、次のような効果を奏することができる。
【0022】
(1) 本発明の注入工法は注入率が5〜10%程度であるため、通常の浸透注入工法の注入率(20〜50%程度)による液状化対策に比べて経済的であり、施工スピードも高い。また、施工機械が小さいため狭隘箇所での施工性にも優れている。
【0023】
(2) 基本的には地盤の密実化による液状化対策であるが、地盤に注入することによって、未注入地盤と比べて相対的に透水性の低下が見込めるため、地震時において過剰間隙水圧の上昇も抑制でき、この効果も地盤の液状化の程度を低減することに寄与する。
【0024】
(3) また、地震中のせん断変形で破壊しない程度の幹(注入管の存置、モルタルと鉄筋、地盤改良杭等)を造ることにより、せん断変形の抑制効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の実施例による注入管立て込みによる密実化の模式図である。
【
図2】本発明の実施例による割裂脈の押し広げによる密実化の効果を示す模式図である。
【
図3】改良脈のみと存置した注入管と割裂脈との連結によるせん断変形の抑制効果を示す模式図である。
【
図4】モルタル等による注入管の代替案を示す模式図である。
【
図5】本発明の実施例を示す脈状改良体(3回目)を示す図面代用写真である。
【
図6】脈状改良体施工前後のミニラム試験結果を示す図である。
【
図9】本発明の実施例を示す脈状地盤改良工法の適用模式図である。
【
図10】機械式攪拌混合工法などによって格子状に地盤改良し、コストを低減する方法(TOFT工法)の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法は、注入管の先端を閉塞した状態で、静的もしくは打撃貫入して注入管を立て込み、次に、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入することにより、砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈を直行方向に押し広げ、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図る。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の実施例による注入管立て込みによる密実化の模式図である。
【0029】
この図において、1は注入管、2はその注入管1の回りの密度の増加を示しており、注入管1は立て込みにより密実化される。また、その際に、通常の小型ボーリングマシーンによる削孔でもよいが、例えば注入管の先端を閉塞した状態で、静的もしくは打撃貫入すると、注入管の貫入時に地盤の密実化が図れる。更に、その際、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入することにより、砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈を直行方向に押し広げ、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図ることができる。
【0030】
図2は本発明の実施例による割裂脈の押し広げによる密実化の効果を示す模式図である。
【0031】
この図において、11は注入管、12は改良脈(割裂脈)、13は改良脈12の押し広げによる密実部を示している。すなわち、地盤の限界注入速度より大きな振幅で動的に注入する。ここで、従来の動的注入工法(上記特許文献1〜3)は、より高品質に砂地盤に浸透注入を行うことを目的としていたが、本発明の工法では砂地盤においても積極的に割裂脈を発生させ、割裂脈が直行方向に押し広がろうとすることにより効率的に地盤の密実化を図る。地盤を低注入量で効率的に密実化させることを目的とした注入方法や注入剤、ゲルタイムなどの設定を行うことにより、割裂脈と割裂脈の間に挟まれた未注入地盤の密実化を図ることができる。室内実験や土層実験によると、注入率2.5%〜5%で所定の密実化が得られるが、実際の地盤では多少のロスも見込む必要があるものの、それでも5〜10%程度の注入率で、地盤の相対密度Drの10%以上の向上効果が期待でき、これによって地盤の液状化抵抗力が高まる。
【0032】
図3は改良脈のみと存置した注入管と割裂脈との連結によるせん断変形の抑制効果を示す模式図、
図4はモルタル等による注入管の代替案を示す模式図である。
【0033】
割裂脈は、実際には地震中の地盤のせん断変形を抑制する効果も期待できるが、地震中に地盤がせん断変形する際に、割裂脈が折れて不連続となることが懸念されるため、せん断変形の抑制効果は小さいと思われる。そこで、本発明の注入工法では、
図3(a)に示すように、一般的には注入管は割裂脈21から引き抜かれるが、本発明では注入管を存置することも可とする。これによって、
図3(b)に示すように、注入管を幹として割裂脈同士の連結性が高まるため、地盤のせん断変形の抑制効果や、既設構造物(盛土や基礎)の支持力向上効果も期待できる。
【0034】
もしくは注入管の存置に変えて、
図4に示すように、割裂脈31と密実部32を形成した注入管33を引き抜く際にモルタル34等で置き換え、鉄筋35などを存置しても同様の効果が得られる。ここで鉄筋35は、モルタル34の引張りや曲げによる破壊を阻止するために設置するものである。また、注入とは別工程で、十分な強度を有する噴射攪拌工法や機械式攪拌工法などで杭状に地盤改良(改良率5〜10%程度)しても同様の効果が得られる。
【0035】
このように、本発明の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法において、注入工法で、注入管を存置させることにより、この注入管を幹として割裂脈同士の連結性を高めることができる。
【0036】
また、注入管を引き抜く際にモルタル等で置き換えるようにしてもよい。さらに、注入管を引き抜き、鉄筋などの補強体を存置するようにしてもよい。更には、地盤改良杭を用いるようにしてもよい。
【0037】
図5は本発明の実施例を示す脈状改良体(3回目)を示す図面代用写真である。
図6は脈状改良体施工前後のミニラム試験結果を示す図である。
【0038】
縦5.0mm×横4.0m×深さ4.0mの土槽を用いて脈状薬液注入を実施し、出来形の評価およびミニラムサウンディングによる地盤改良効果の評価を行った。
【0039】
図5に示すように、動的注入によって脈状改良が可能であることが確認できている。また、
図6に示すように、注入前後でN値の増加が確認できている。
【0040】
鉄道総研所有の中型振動台実験装置を用いて、脈状地盤改良工法による液状化対策の効果確認を実施した(
図7および
図8)。
図7は確認実験模型の図であり、
図7(a)は未改良地盤の図、
図7(b)は改良地盤(改良率2.5%)の図である。
【0041】
図7において、41は砕石層(フィルター砂層)、42は水圧計(100kPa)、43は水圧計(50kPa)、44は加速度計、45は注入口、46はシール、47は脈状改良体である。
【0042】
図8は実験結果を示す図であり、
図8(a)は入力加速度(gal)に対する経過時間(秒)、
図8(b)は沈下量(mm)に対する経過時間(秒)、
図8(c)は過剰間隙水圧(kPa)に対する経過時間(秒)である。
【0043】
このように構成することにより、目標改良率10%で相対密度が12%増加し、その結果、液状化抵抗が高まり、振動後の地盤変位が1割以下まで低減された。
【0044】
図9は本発明の実施例を示す脈状地盤改良工法の適用模式図である。
【0045】
この図において、51は液状化層、52は改良された脈状地盤(脈状改良体)、53は盛土、54は盛土53上に構築された鉄道の軌道、55は自動車の道路、56は住居(建物)、57はすべり面、58は幹によるすべり抵抗力である。
【0046】
このように、液状化層51を改良された脈状地盤(脈状改良体)52で低コストで広範囲に改良することができる。
【0047】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法は、砂地盤の密実化を図り、簡易で経済的な液状化対策を可能とする、注入工法を用いた地盤の密実化による液状化対策工法として利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,11,33 注入管
2 注入管回りの密度の増加
12,21,31 改良脈(割裂脈)
13,32 密実部
34 モルタル
35 鉄筋
41 砕石層
42 水圧計(100kPa)
43 水圧計(50kPa)
44 加速度計
45 注入口
46 シール
47 脈状改良体
51 液状化層
52 改良された脈状地盤(脈状改良体)
53 盛土
54 盛土上に構築された鉄道の軌道
55 自動車の道路
56 住居(建物)
57 すべり面
58 幹によるすべり抵抗力