【課題】ディスプレイ装置やタッチパネルなどの電子機器の部材として好適なスリップ性および防汚性を有する光学用ハードコートフィルム、その製造方法、およびハードコート層形成用塗工液を提供すること。
【解決手段】基材フィルムと、前記基材フィルムの少なくとも一方の面上に積層されたハードコート層とを備えたハードコートフィルムであって、前記ハードコートフィルムの前記ハードコート層側の面は、静摩擦係数が0.2以下であって、オレイン酸に対する接触角が50°以上であることを特徴とするハードコートフィルム。
前記ハードコートフィルムの前記ハードコート層側の面を、走査型プローブ顕微鏡を用いてタッピングモードで測定した際に、相分離構造を測定可能である、請求項1に記載のハードコートフィルム。
前記ハードコート層は、シリコーン系材料およびフッ素系材料を含有する塗工液から形成されたものである、請求項1から4のいずれか一項に記載のハードコートフィルム。
前記塗工液は、エネルギー重合性官能基を有する化合物を含有し、前記シリコーン系材料および前記フッ素系材料はエネルギー重合性官能基を有する、請求項5に記載のハードコートフィルム。
エネルギー重合性官能基を有する化合物、エネルギー重合性官能基を有するシリコーン系材料、およびエネルギー重合性官能基を有するフッ素系材料を含有することを特徴とする、ハードコート層形成用塗工液。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ハードコートフィルム
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係るハードコートフィルム10は、基材フィルム1と、基材フィルム1の一方の主面1A上に積層されたハードコート層2とを備える。また、
図2に示されるように、本発明の他の一実施形態に係るハードコートフィルム10は、基材フィルム1と、基材フィルム1の一方の主面1A上に積層されたハードコート層2と、基材フィルム1の他方の主面1B上に積層されたカール抑制層3とを備える。
【0022】
(1)物性等
(1−1)摩擦係数
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、ハードコート層2側の面の静摩擦係数が0.2以下である。かかる静摩擦係数が0.2以下であることにより、本実施形態に係るハードコートフィルム10は、優れたスリップ性を有することができる。本実施形態に係るハードコートフィルム10が優れたスリップ性をより安定的に有する観点から、上記の静摩擦係数は、0.18以下であることが好ましく、0.16以下であることがより好ましく、0.14以下であることが特に好ましい。
【0023】
(1−2)オレイン酸に対する接触角
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、ハードコート層2側の面のオレイン酸に対する接触角が50°以上である。かかる接触角が50°以上であることにより、本実施形態に係るハードコートフィルム10は、優れた防汚性を有することができる。本実施形態に係るハードコートフィルム10が優れた防汚性をより安定的に有する観点から、上記の接触角は、53°以上であることが好ましく、55°以上であることがより好ましく、60°以上であることが特に好ましい。
【0024】
(1−3)水に対する接触角
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、優れた防汚性をより安定的に有する観点から、ハードコート層2側の面の水に対する接触角が、90°以上であることが好ましく、95°以上であることがより好ましく、100°以上であることが特に好ましい。
【0025】
(1−4)相分離構造
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、ハードコート層2側の面を、走査型プローブ顕微鏡を用いてタッピングモードで測定した際に、相分離構造を測定することができることが好ましい。本明細書において、「相分離構造」とは、走査型プローブ顕微鏡により得られた画像において、複数の相が認められ、各相が互いに他の相から分離して観察される構造をいう。本実施形態に係るハードコートフィルム10のハードコート層2側の面に相分離構造が観察される場合には、優れたスリップ性および優れた防汚性が両立されやすい。後述するように、ハードコート層形成用塗工液に、エネルギー重合性のレベリング剤を添加することにより、エネルギー照射などによる塗膜の硬化時に塗工液に含有される成分の相溶性が変化し、相対的に体積分率の低いレベリング剤に基づく成分を含むが他の相から分離することに起因している可能性がある。
【0026】
相分離構造における複数の相が分離している状態の詳細は限定されない。一例として、海状部分と、この海状部分内で互いに独立する複数の島状部分とからなる相分離構造(本明細書において、この相分離構造を「海島構造」ともいう。)が挙げられる。
【0027】
本実施形態に係るハードコートフィルム10のハードコート層2側の面が海島構造を有する場合において、島状部分の形状は限定されない。円形であってもよいし、非円形(不定形)であってもよい。島状部分の個々の面積は限定されない。一例として円換算直径が10nm以上5μm以下であることが挙げられる。島状部分のより具体的な一例として、50nmから3μm程度の直径を有する円に近い形状として測定される場合が挙げられる。
【0028】
本実施形態に係るハードコートフィルム10のハードコート層2側の面が上記の海島構造を有する場合において、海状部分の面積の総和に対する島状部分の面積の総和の比率(本明細書において「海島比率」ともいう。)は限定されない。海島構造が安定的に形成される観点から、海島比率は5/95から95/5の範囲内であることが好ましく、25/75から75/25の範囲であることがより好ましく、33/67から67/33の範囲であることが特に好ましい。
【0029】
(1−5)厚さ
本実施形態に係るハードコートフィルム10の厚さは、被着体の性質や用途により適宜選択することができ、特に限定されない。例えば、10μmから600μmの範囲、好ましくは10μmから150μmの範囲とすることができる。
【0030】
(2)基材フィルム
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える基材フィルム1は、フィルム状の形状を有している限り、具体的な特徴は特に限定されないが、無色透明であることが好ましい。一実施形態に係る基材フィルム1は透明プラスチックフィルムからなる。この透明プラスチックフィルムとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン−1、ポリブテン−1などのポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリエチレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースアセテートなどのセルロース系樹脂などからなるフィルムまたはこれらの積層フィルムが挙げられる。これらの中で、特にポリエチレンテレフタレートフィルムが好適である。
【0031】
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える基材フィルム1の厚さとしては特に制限はなく、ハードコートフィルム10の使用目的に応じて適宜選定され、通常は10〜500μmである。取扱い性を高めたり軽量化を実現したりする観点から、基材フィルム1の厚さは200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましい。基材フィルム1の厚さの下限は限定されない。取り扱い性を高めるなどの観点から、基材フィルム1の厚さは10μm以上が好ましく、20μm以上がより好ましい。
【0032】
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える基材フィルム1は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤などの耐候剤を含んでいてもよい。
【0033】
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える基材フィルム1は、その主面の少なくとも一方に、その(それらの)主面に積層される要素(後述するカール抑制層、粘着剤層などが例示される。)に対する剥離強さを高める目的で、酸化法や凹凸化法などによる表面処理が施されていてもよい。上記の酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、上記の凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルム1の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果および操作性などの面から、好ましく用いられる。また、シランカップリング剤などによるプライマー層が設けられていてもよい。
【0034】
(3)ハードコート層
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備えるハードコート層2は、基材フィルム1に対向する側と反対側の面について、静摩擦係数が0.2以下であること、およびオレイン酸に対する接触角が50°以上であることを満たす。また、ハードコート層2の基材フィルム1に対向する側と反対側の面は、水に対する接触角が90°以上であってもよい。ハードコート層2の基材フィルム1に対向する側と反対側の面は、走査型プローブ顕微鏡を用いてタッピングモードで測定した際に、相分離構造を測定することができることが好ましい。
【0035】
上記の静摩擦係数に関する規定およびオレイン酸に対する接触角に関する規定を満たす限り、ハードコート層2の組成は限定されない。かかるハードコート層2は、シリコーン系材料およびフッ素系材料を含有する塗工液から形成することができる。塗工液は、後述する成分をそれぞれ所定の割合で加え、溶解または分散させることにより、調製することができる。
【0036】
以下、具体的な一例として、上記の塗工液が、シリコーン系材料としてシリコーン系レベリング剤およびフッ素系材料としてフッ素系レベリング剤を含有するとともに、エネルギー重合性官能基を有する化合物(本明細書において、「重合性化合物」ともいう。)を含有する場合について、詳しく説明する。
【0037】
(3−1)重合性化合物
本発明の一実施形態に係る塗工液が含有する重合性化合物は、エネルギー重合性官能基を有する限り、具体的な構造や組成は限定されない。
【0038】
重合性化合物が一分子あたりで有するエネルギー重合性官能基の数は限定されない。重合性化合物は一分子あたりで1個のエネルギー重合性官能基を有していていもよいし、複数のエネルギー重合性官能基を有していていもよい。硬質のハードコート層を得る観点から、重合性化合物は、一分子あたりが有するエネルギー重合性官能基の数が2以上の化合物を含むことが好ましい。
【0039】
重合性化合物が有するエネルギー重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、アリル基、スチリル基などのエチレン性不飽和基が例示される。これらの中でも、反応性の高さから、エネルギー重合性官能基は(メタ)アクリロイル基が好ましい。以下、エネルギー重合性官能基が(メタ)アクリロイル基である場合を具体例として説明する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基およびメタクリロイル基の少なくとも一方を意味する。他の類似語も同様である。
【0040】
重合性化合物は1種類の化合物から構成されていてもよいし、複数種類の化合物から構成されていてもよい。重合性化合物は、モノマーを含んでいてもよいし、重合体を含んでいていてもよい。重合性化合物が重合体を含む場合には、その重合体はオリゴマーであってもよいし、ポリマーであってもよい。
【0041】
重合性化合物がモノマーを含む場合において、かかるモノマーとして、5官能以上の多官能アクリレート系モノマーが例示される。5官能以上の多官能アクリレート系モノマーとしては、例えばジペンタエリスリトールペンタアクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサメタクリレートなどを挙げることができる。これらの中で、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートおよびジペンタエリスリトールヘキサアクリレートが好ましい。
【0042】
重合性化合物が含んでもよいモノマーとして、4官能以下のエネルギー重合性モノマーも例示される。その具体例として、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレートなどの単官能アクリレート;1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールアジペートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレーなどが挙げられる。
【0043】
重合性化合物がオリゴマーを含む場合において、かかるオリゴマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系オリゴマー、エポキシアクリレート系オリゴマー、ウレタンアクリレート系オリゴマー、ポリオールアクリレート系オリゴマーなどを挙げることができる。
【0044】
重合性化合物の具体的な一例として、上記の5官能以上の多官能アクリレート系モノマーからなる場合が挙げられる。重合性化合物の具体的な別の一例として、5官能以上の多官能アクリレート系モノマーと、エネルギー重合性オリゴマーおよび/または4官能以下のエネルギー重合性モノマーとの混合物が挙げられる。
【0045】
本実施形態に係る塗工液における重合性化合物の含有量は限定されない。ハードコート層2を適切に形成することが可能であるとともに、塗工液の粘度が適切になるように設定すればよい。塗工液の固形分全体に占める重合性化合物の質量比率は、20質量%以上99.9質量%以下であることが好ましく、30質量%以上99質量%以下であることがより好ましい。
【0046】
(3−2)シリコーン系材料
エネルギー重合性官能基を有するシリコーン系材料としては、上述のエネルギー重合性官能基を有するシリコーン系レベリング剤等のシリコーン系材料であれば特に限定されない。具体的には、例えば、GL−02R(商品名、共栄社化学株式会社製)やUV AF−100(商品名、日本合成化学社製)等、エネルギー重合性基を有するポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンやシリコーン変性アクリルポリマーを用いることができる。
【0047】
シリコーン系レベリング剤の市販品としては、GL−02R(商品名、共栄社化学株式会社製)、FZ−2118、FZ−77、FZ−2161(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製)等、KP321、KP323、KP324、KP326、KP340、KP341(商品名、信越化学工業株式会社製)等、TSF4440、TSF4441、TSF4445、TSF4450、TSF4446、TSF4452、TSF4453、TSF4460(商品名、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)等、BYK−300、BYK−302、BYK−306、BYK−307、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−344、BYK−345、BYK−346、BYK−348、BYK−377、BYK−378、BYK−UV3500、BYK−3510、BYK−3570(ビックケミー・ジャパン株式会社製)等のポリエーテル変性シリコーンオイル(ポリオキシアルキレン変性シリコーンオイル)等が挙げられる。
【0048】
シリコーン系材料は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本実施形態に係る塗工液が重合性化合物を含有する場合において、シリコーン系材料はエネルギー重合性官能基を有することが好ましい。この場合には、塗工液内にシリコーン系材料が溶解しやすくなる。そして、塗工液の塗膜においてエネルギー重合性官能基の重合反応が進行することにより、塗工液の塗膜内のシリコーン系材料に基づく成分の、塗膜内の他の成分に対する相溶性が変化して、塗工液の塗膜から得られたハードコート層2の面に相分離構造が測定されやすくなる。
【0050】
本実施形態に係る塗工液におけるシリコーン系材料の含有量は限定されない。塗工液の固形分に占める質量割合の一例として、0.05質量%以上10質量%以下を挙げることができ、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい一例として挙げられる。
【0051】
(3−3)フッ素系材料
エネルギー重合性官能基を有するフッ素系材料としては、上述のエネルギー重合性官能基を有するフッ素系レベリング剤等のフッ素系材料であれば特に限定されない。具体的には、親水性基、親油性基、含フッ素基およびエネルギー重合性基を有するオリゴマー等を用いることができる。
【0052】
フッ素系レベリング剤の市販品としては、RS−90等のDIC株式会社製メガファック(登録商標)シリーズ、フタージェント(登録商標)710FL(商品名、株式会社ネオス製)、住友スリーエム株式会社製のフロリナートシリーズ等が挙げられる。
【0053】
本実施形態に係る塗工液におけるフッ素系材料の含有量は限定されない。塗工液の固形分に占める質量割合の一例として、0.05質量%以上10質量%以下を挙げることができ、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい一例として挙げられる。
【0054】
フッ素系材料は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
本実施形態に係る塗工液が重合性化合物を含有する場合において、フッ素系材料はエネルギー重合性官能基を有することが好ましい。この場合には、塗工液内にフッ素材料が溶解しやすくなる。そして、塗工液の塗膜においてエネルギー重合性官能基の重合反応が進行することにより、塗工液の塗膜内のフッ素材料に基づく成分の、塗膜内の他の成分に対する相溶性が変化して、塗工液の塗膜から得られたハードコート層2の面に相分離構造が測定されやすくなる。ハードコート層2の面に相分離構造がより安定的に測定されやすくなる観点から、本実施形態に係る塗工液は、重合性化合物を含有し、シリコーン系材料およびフッ素系材料がエネルギー重合性官能基を有することが好ましい。
【0056】
本実施形態に係る塗工液に含まれる、シリコーン系材料およびフッ素系材料の質量比率(シリコーン系材料/フッ素系材料)は限定されない。本実施形態に係るハードコートフィルム10が優れたスリップ性および優れた防汚性を有する観点から、当該質量比率は、10/90から90/10の範囲内とすることが好ましく、30/70から80/20の範囲内とすることがより好ましい。
【0057】
(3−4)その他の成分
本実施形態に係る塗工液は、前述した重合性化合物、シリコーン系材料、およびフッ素系材料に加えて、必要に応じ、フィラー、重合開始剤、さらには各種添加成分、例えば光増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、光安定剤、消泡剤などを含有してもよい。本実施形態に係る塗工液は、これらの有効成分に加えて、必要に応じ、溶媒を含有して、コーティングに適した濃度および粘度に調整するのがよい。
【0058】
これらの任意添加成分のいくつかについて、以下に説明する。
【0059】
(3−4−1)フィラー
本実施形態に係る塗工液はフィラーを含有してもよい。フィラーの種類、形状および含有量は限定されない。塗工液がフィラーを含有することにより、塗工液から形成されたハードコート層2の硬度を高めることが可能である。本実施形態に係る塗工液に含有されるフィラーは、1種類から構成されていてもよいし、2種類以上から構成されていてもよい。
【0060】
フィラーは無機系の材料を含有してもよいし、有機系の材料を含有してもよいが、ハードコート層2の硬度を高めることが容易である観点から、フィラーは無機系の材料を含有することが好ましく、無機系の材料から構成されることがより好ましい。
【0061】
無機系のフィラーを与える材料として、シリカ、酸化アルミニウム、ジルコニア、チタニア、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化アンチモン、酸化セリウム等の金属酸化物;フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等の金属フッ化物などが挙げられる。ハードコート層2が無色透明であることを満たす限り、金属、金属硫化物、金属窒化物などを用いてもよい。
【0062】
これらの中でも、ハードコート層2の硬度を高めることがより容易であること、入手が容易であることなどから、無機系のフィラーを与える材料としてシリカ、酸化アルミニウムが好ましい。ハードコート層2の屈折率を高める観点から、塗工液は、ジルコニア、チタニア、酸化アンチモンなどからなるフィラーを含有してもよい。逆に、ハードコート層2の屈折率を低下させる観点から、塗工液は、フッ化マグネシウム、フッ化ナトリウム等のフッ化物からなるフィラー、中空シリカフィラーなどを含有してもよい。ハードコート層2に帯電防止性、導電性を付与する観点から、塗工液は、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化スズなどからなるフィラーを含有してもよい。
【0063】
フィラーの表面は化学修飾されていてもよい。化学修飾の具体的な構成は限定されない。一例として、シランカップリング剤などを介して、重合性化合物と同様にエネルギー重合性官能基を有することが挙げられる。この場合には、フィラーと重合性化合物との間で剥離が生じにくくなり、ハードコート層2の硬度が高くなる、透明性が高くなるといった好ましい傾向がみられやすくなる。化学修飾されたフィラーの具体例として、反応性シリカを挙げることができる。本明細書において、エネルギー重合性官能基を有するシリカを反応性シリカといい、エネルギー重合性官能基を有さないシリカを非反応性シリカという。
【0064】
フィラーの形状は球状であってもよいし、非球状であってもよい。非球状である場合には、不定形であってもよいし、針状、鱗片状といったアスペクト比が高い形状であってもよい。ハードコート層の透明性が高まりやすくなることから、フィラーは球状であることが好ましい場合もある。
【0065】
フィラーの大きさも限定されない。フィラーの平均粒径は、通常、5nm程度から2μm程度であり、ハードコート層の透明性が高まりやすくなることから、フィラーの平均粒径は、5nm以上100nm以下であることが好ましい場合もある。なお、本明細書におけるフィラーの1μm未満の平均粒径は、粒度分布測定装置(日機装社製,ナノトラックWave−UT151)を使用して、動的光散乱法により測定した値とする。また、フィラーの1μm以上の平均粒径は、粒度分布測定装置(日機装社製,マイクロトラックMT3000II)を使用して、レーザー回折・散乱法により測定した値とする。
【0066】
本実施形態に係る塗工液がフィラーを含有する場合において、塗工液におけるフィラーの含有量は限定されない。ハードコート層の硬度、塗膜からハードコート層が形成される際の収縮の程度、透明性などを所望の範囲に設定できるように、適宜設定すればよい。例示的に具体的な数値範囲を示せば、重合性化合物100質量部に対して5質量部以上200質量部以下程度が挙げられ、10質量部以上150質量部以下が好ましい範囲として例示される。
【0068】
本実施形態に係る塗工液は重合開始剤を含有してもよい。本実施形態に係る塗工液が重合開始剤を含有する場合において、その種類は限定されない。重合開始剤は、光重合開始剤および熱重合開始剤のいずれであってもよく、塗工液に双方が含有されていてもよい。重合開始剤を含有することにより、塗工液の塗膜に対して紫外線を照射したり塗膜に熱を与えたりすることで、塗膜内の重合性化合物の重合反応を進行させることが可能となる。
【0069】
光重合開始剤としては、例えば、アシルフォスフィンオキサイド系、アセトフェノン系、ベンゾフェノン系、ベンゾイン系、チオキサントン系、およびイミダゾール系光重合開始剤等が挙げられる。
【0070】
アシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0071】
アセトフェノン系光重合開始剤としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチルプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン、ベンジルジメチルケタール、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル}−2−メチルプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オンなどが挙げられる。
【0072】
ベンゾフェノン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド、3,3’,4,4’−テトラ(tert−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、4,4’−ビス−ジメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0073】
ベンゾイン系光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル化合物などが挙げられる。
【0074】
チオキサントン系光重合開始剤としては、例えば、2−イソプロピルチオキサントン、4−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどが挙げられる。
【0075】
イミダゾール系光重合開始剤としては、例えば、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニルビスイミダゾリル、2,2'−ビス(o−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラ−(p−メトキシフェニル)ビスイミダゾリル、2,2’−ビス(2−クロロフェニル)−4,4’,5,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等のヘキサアリールビスイミダゾール系化合物などが挙げられる。
【0076】
これらの光重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
また、熱重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2−エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシビバレート、t−ヘキシルパーオキシピバレート、(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ジアセチルパーオキシドのような有機過酸化物;2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]のようなアゾ系化合物が挙げられる。
【0078】
これらの熱重合開始剤は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0079】
これらの重合開始剤の中でも、反応性の観点から、光重合開始剤が好ましい。
【0080】
本実施形態に係る塗工液が重合開始剤を含有する場合において、塗工液における重合開始剤の含有量は特に限定されない。例示的に具体的な数値範囲を示せば、重合性化合物100質量部に対して、1質量部から15質量部の範囲が挙げられ、2質量部から10質量部の範囲が好ましい範囲として例示される。
【0081】
(3−4−3)光増感剤
本実施形態に係る塗工液が含有する重合開始剤が光重合開始剤である場合には、本実施形態に係る塗工液は、光重合開始剤とともに、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、ペンチル−4−ジメチルアミノベンゾエート、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類のような光増感剤を併用してもよい。これらの光増感剤は、単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0082】
(3−4−4)溶媒
本実施形態に係る塗工液が含有してもよい溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1−メトキシ−2−プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、メチルイソブチルケトン、イソホロン等のケトン;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒などが挙げられる。
【0083】
(3−5)光学特性
本実施形態に係る塗工液から形成した厚さ30μmのハードコート層と基材フィルムとを備えるハードコートフィルムは、JIS K7136(2000)に準拠して測定されたヘーズが1%以下、より好ましくは0.5以下であることが好ましい。
【0084】
本実施形態に係る塗工液から形成した厚さ30μmのハードコート層と基材フィルムとを備えるハードコートフィルムは、JIS K7361−1に準拠して測定された全光線透過率が85%以上、より好ましくは90%以上であることが好ましい。
【0085】
ヘーズと全光線透過率がかかる値の場合、ディスプレイなどの画像表示に悪影響を与えることのない透明度を維持したハードコートフィルム10を得ることができる。
【0086】
(3−6)厚さ
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備えるハードコート層2の厚さは特に限定されない。一例を挙げれば、1μm以上100μm以下であり、3μm以上60μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0087】
(3−7)硬度
本実施形態に係るハードコートフィルム10が備えるハードコート層2の硬度は特に限定されない。必要に応じ適宜設定されるべきものである。一例として、鉛筆硬度として、H以上であることが挙げられる。ハードコート層2の鉛筆硬度がH以上であれば、十分に高い硬度を有するハードコート層であるといえる。ハードコート層2の鉛筆硬度が3H以上であれば、特に高い硬度を有するハードコート層であるといえる。
【0088】
(4)ハードコートフィルムにおけるその他の要素
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、基材フィルム1およびハードコート層2以外の構成要素を備えていてもよい。そのような要素の具体例として、カール抑制層、粘着剤層および剥離シートが例示される。
【0089】
(4−1)カール抑制層
本実施形態に係るハードコートフィルム10は、
図2に示されるように、基材フィルム1のハードコート層2とは反対側の面にカール抑制層3を設けることもできる。本実施形態に係るハードコートフィルム10にカールが生じることを抑制できる限り、カール抑制層3の組成および厚さは特に限定されない。一例として、本実施形態に係るハードコートフィルム10のハードコート層と同等の材料から構成されていてもよい。具体的には、カール抑制層3は、ハードコート層と同じ材質もしくは異なる材質の有機無機ハイブリッド材料または有機材料からなる光硬化性樹脂であってもよい。
【0090】
(4−2)粘着剤層
図1に示される、本発明の一実施形態に係るハードコートフィルム10は、基材フィルム1の一方の主面1Aと反対側の面上に、粘着剤層を備えていてもよい。
図2に示される、本発明の別の一実施形態に係るハードコートフィルム10は、カール抑制層3の面上に、粘着剤層を備えていてもよい。本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える粘着剤層は、粘着性組成物から形成される層状体である。粘着剤層を構成する粘着性組成物の組成は特に限定されない。主成分である粘着剤としてゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系等の粘着剤が例示され、これらの一種類を使用してもよいし、二種類以上を使用してもよい。
【0091】
上記のうちアクリル系の粘着剤についてやや詳しく説明すれば、官能基含有モノマーと、アクリル酸エステル、メタアクリル酸エステル等の他のモノマーとを共重合して得られるアクリル系共重合体を主成分とする。粘着性組成物は必要に応じて、架橋剤、粘着付与剤、充填剤、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤等をさらに含んでいてもよい。
【0092】
官能基含有モノマーとしては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸等のカルボキシル基含有モノマーやアクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基含有モノマーが挙げられる。官能基含有モノマーは、アクリル系共重合体を構成するモノマー全体を基準(100質量%)として、モノマー単位として0.3〜5.0質量%含むことが好ましい。アクリル系共重合体は、官能基を含有することにより、架橋剤との反応で凝集力を調整することができ、粘着力および耐熱性を向上させることができる。
【0093】
粘着性組成物に使用される架橋剤としては、特に制限はなく、アクリル系の材料を主成分とする粘着性組成物において慣用されているものの中から適宜選択して用いられ、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ジアルデヒド類、メチロールポリマー、アジリジン系化合物、金属キレート化合物、金属アルコキシド、金属塩などが用いられ、好ましくはポリイソシアネート化合物が用いられる。
【0094】
粘着剤層の厚さは特に限定されない。用途に応じて適宜設定されるべきものであり、通常、1μm以上500μm以下程度とされる。
【0095】
(4−3)剥離シート
本実施形態に係るハードコートフィルム10が上記の粘着剤層を備える場合には、その基材フィルム1に対向する側と反対側の面を使用時まで保護する目的で、その面に、剥離シートの剥離面が貼付されていてもよい。この剥離シートとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリプロピレンやポリエチレンなどのポリオレフィンフィルムなどのプラスチックフィルムの一方の主面に、剥離剤を塗布することを含む剥離処理が施されたものなどが挙げられる。剥離剤としては、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系などを用いることができるが、これらの中で、安価で安定した性能が得られるシリコーン系が好ましい。剥離シートの厚さは特に限定されない。
【0096】
剥離シートの厚さは限定されない。通常、20〜250μm程度である。
【0097】
2.ハードコートフィルムの製造方法
本実施形態に係るハードコートフィルム10の製造方法は限定されない。以下、
図1に示されるハードコートフィルム10を製造する方法の一例(第1の方法)および
図2に示されるハードコートフィルム10を製造する方法の一例(第2の方法)を説明する。
【0098】
(1)第1の方法
(1−1)塗布工程
まず、本実施形態に係るハードコートフィルム10が備える基材フィルム1の一方の主面1A上に、前述の塗工液を塗布して、上記主面1A上に塗膜を形成する。塗工液の塗布量は限定されない。塗布により得られた塗膜から形成されるハードコート層2の厚さに応じて適宜設定される。塗布手法も特に限定されない。例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などが例示される。必要に応じ、基材フィルム1の一方の主面1A上に形成された塗膜を乾燥して、塗膜内に含有される揮発性成分、特に溶媒を除去してもよい。乾燥する場合におけるその条件は任意であり、例えば、80〜140℃で数分間〜数十分間乾燥させることが挙げられる。
【0099】
(1−2)硬化工程
塗布工程により基材フィルム1の一方の主面1A上に形成された塗膜に、エネルギー線を照射したり熱を与えたりすることにより、塗膜内に含有される重合性化合物の重合反応を進行させる。この重合反応が進行することにより、塗膜はハードコート層2となり、基材フィルム1とハードコート層2とからなる本実施形態に係るハードコートフィルム10の基本的な構造が得られる。
【0100】
重合性化合物の重合反応をエネルギーにより進行させる場合に使用されるエネルギーとしては、熱やエネルギー線が挙げられ、エネルギー線としては電離放射線、すなわち、X線、紫外線、電子線などが挙げられる。これらのうちでも、比較的照射設備の導入の容易な紫外線が好ましい。
【0101】
電離放射線として紫外線を用いる場合には、取り扱いのしやすさから波長200〜380nm程度の紫外線を含む近紫外線を用いればよい。紫外線量としては、重合性化合物の種類やハードコート層2の厚さに応じて適宜選択すればよく、通常50〜800mJ/cm
2程度であり、100〜650mJ/cm
2が好ましく、200〜500mJ/cm
2がより好ましい。また、紫外線照度は、通常50〜500mW/cm
2程度であり、100〜450mW/cm
2が好ましく、200〜400mW/cm
2がより好ましい。紫外線源としては特に制限はなく、例えば高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、紫外線域の発光ダイオード(UV−LED)などが用いられる。
【0102】
重合性化合物の重合反応を、熱を与えることにより進行させる場合には、加熱条件は、用いた重合開始剤の成分や含有量などに基づいて適宜設定される。前述の塗布工程において、任意的に行われる乾燥目的の加熱によって、重合性化合物の重合反応を進行させることが可能であってもよい。この場合には、塗布工程の乾燥が実質的に硬化工程に相当することになる。
【0103】
(1−3)粘着剤層形成工程
こうしてハードコートフィルム10を得たら、必要に応じ、基材フィルム1の主面1Aと反対側の主面に、粘着剤層を形成する。粘着剤層の形成方法は任意である。一例を挙げれば、粘着剤層を形成するための組成物である粘着剤組成物からなる、またはこの粘着剤組成物に必要に応じ溶媒を添加してなる粘着剤層形成用塗工液を、基材フィルム1の主面1Aと反対側の主面上に塗布し、これを乾燥させることにより粘着剤層を得ることができる。粘着剤組成物が架橋剤を含有する場合には、必要に応じて、粘着剤層を加熱したり、養生したりして、架橋剤の反応を進行させてもよい。
【0104】
(1−4)剥離シート貼付工程
上記のように粘着剤層形成工程を行った場合には、得られた粘着剤層の露出する面、すなわち、粘着剤層における基材フィルム1に対向する側と反対側の面に、剥離シートの剥離面を貼付して、粘着剤層の上記の面を保護する。
【0105】
(2)第2の方法
第2の方法は、上記の第1の方法との対比では、基材フィルム1の他方の面1B上にカール抑制層3を形成する工程を備える点が相違する。以下、カール抑制層3が、ハードコート層2と同様に塗工液から形成されるものであって、その塗工液の塗膜を硬化させることによりカール抑制層3が形成される場合を具体例として説明する。
【0106】
第2の方法は、基材フィルム1の他方の面1B上にカール抑制層3を形成するための塗工液を塗布して、当該塗工液の塗膜を形成する第2塗布工程を備える。第2塗布工程における塗工液の塗布量は限定されない。塗布により得られた塗膜から形成されるカール抑制層3の厚さに応じて適宜設定される。塗布手法も特に限定されない。例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などが例示される。必要に応じ、基材フィルム1の一方の主面1B上に形成された塗膜を乾燥して、塗膜内に含有される揮発性成分、特に溶媒を除去してもよい。乾燥する場合におけるその条件は任意であり、例えば、80〜140℃で数分間〜数十分間乾燥させることが挙げられる。
【0107】
第2の方法は、第2塗布工程により基材フィルム1の一方の主面1B上に形成された塗膜に、エネルギー線を照射したり熱を与えたりすることにより、塗膜内に含有される重合性化合物の重合反応を進行させる第2硬化工程を備える。この重合反応が進行することにより、上記の塗膜はカール抑制層3となる。塗工液が熱重合開始剤を含有する場合には、前述の第2塗布工程において行われた乾燥が、実質的に第2硬化工程と位置付けられることもある。
【0108】
第2の方法において、ハードコート層2を形成するための塗布工程および硬化工程と、カール抑制層3を形成するための第2塗布工程および第2硬化工程との実施の順序は限定されない。塗布工程と第2塗布工程とは、同時に行われてもよいし、別々に行われてもよい。別々に行われる場合における各塗布工程の実施の順序は任意である。また、ハードコート層2およびカール抑制層3の一方を形成してから、ハードコート層2およびカール抑制層3の他方に係る塗膜を形成してもよいし、基材フィルム1の両面1Aおよび1B上に塗膜を形成してから、一度の硬化工程により、ハードコート層2およびカール抑制層3を形成してもよい。
【0109】
図2に示される構造のハードコートフィルム10が得られたのち、粘着剤層形成工程、さらに必要に応じて剥離シート貼付工程が行われる場合には、カール抑制層3が粘着剤層形成工程の処理対象であることが好ましい。
【0110】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0111】
〔実施例1〕
(1)塗工液の調製
次の組成を有する塗工液を調製した。
i)重合性化合物およびフィラーを含有する成分として、JSR社製「オプスターZ7530」(反応性シリカ60質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部および光重合開始剤を含有)、
ii)シリコーン系材料としてシリコーン系レベリング剤(共栄社化学社製「GL−02R」)、
iii)フッ素系材料としてフッ素系レベリング剤(DIC社製「RS−90」)、および
iv)溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)。
こうして得られた塗工液は、シリコーン系材料の添加量とフッ素系材料の添加量との総和が、塗工液の固形分に対して1質量%であった。また、塗工液におけるシリコーン系材料とフッ素系材料との配合比(質量比)は33:67であった。
【0112】
(2)ハードコートフィルムの作製
厚さ75μmのポリエチレンテレフタレート製基材フィルムの一方の主面上に、上記の塗工液を、マイヤーバーにて、ハードコート層としての厚さが30μmとなる量塗布して、乾燥炉にて100℃2分間の条件で乾燥し、その主面上に塗膜を形成した。得られた基材フィルムと塗膜とからなる積層体に対して、高圧水銀ランプ(アイグラフィックス社製、照度200mW/cm
2)を用いて、照射量が600mJ/cm
2となるように、光を照射した。こうして、塗膜を硬化させて、30μmの厚さのハードコート層を備えるハードコートフィルムを得た。
【0113】
〔実施例2から4〕
シリコーン系材料とフッ素系材料との配合比(質量比)を、表1に記載の値とした以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0114】
〔実施例5〕
フッ素系材料として他のフッ素系レベリング剤(ネオス社製「710FL」)を使用した以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0115】
〔実施例6〕
フッ素系材料としてフッ素系レベリング剤(DIC社製「RS−90」)を使用し、シリコーン系材料として他のシリコーン系レベリング剤(日本合成化学社製「UV AF−100」)を使用し、シリコーン系材料とフッ素系材料との配合比(質量比)を、表1に記載の値とした以外は実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0116】
〔比較例1〕
ハードコート層形成材料としてJSR社製「オプスターZ7530」(反応性シリカ60質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部および光重合開始剤を含有)を塗工液とした。得られた塗工液を用いて、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0117】
〔比較例2〕
次の組成を有する塗工液を調製した。
i)重合性化合物およびフィラーを含有する成分として、JSR社製「オプスターZ7530」(反応性シリカ60質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部および光重合開始剤を含有)、
ii)シリコーン系材料としてシリコーン系レベリング剤(共栄社化学社製「GL−02R」)、および
iii)溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)。
こうして得られた塗工液は、シリコーン系材料の添加量が塗工液の固形分に対して1質量%であった。この塗工液を用いて、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0118】
〔比較例3〕
次の組成を有する塗工液を調製した。
i)重合性化合物およびフィラーを含有する成分として、JSR社製「オプスターZ7530」(反応性シリカ60質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部および光重合開始剤を含有)、
ii)フッ素系材料としてフッ素系レベリング剤(DIC社製「RS−90」)、および
iii)溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)。
こうして得られた塗工液は、フッ素系材料の添加量が塗工液の固形分に対して1質量%であった。この塗工液を用いて、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0119】
〔比較例4〕
次の組成を有する塗工液を調製した。
i)重合性化合物およびフィラーを含有する成分として、JSR社製「オプスターZ7530」(反応性シリカ60質量部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部および光重合開始剤を含有)、
ii)シリコーン系材料としてシリコーン系レベリング剤(共栄社化学社製「GL−02R」)、
iii)フッ素系材料としてフッ素系レベリング剤(DIC社製「RS−90」)、および
iv)溶媒としてメチルイソブチルケトン(MIBK)。
こうして得られた塗工液は、シリコーン系材料の添加量とフッ素系材料の添加量との総和は、塗工液の固形分に対して1質量%であった。また、塗工液におけるシリコーン系材料とフッ素系材料との配合比(質量比)は95:5であった。
こうして得られた塗工液を用いて、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0120】
〔比較例5〕
塗工液におけるシリコーン系材料とフッ素系材料との配合比(質量比)が5:95となるようにシリコーン系材料の配合量とフッ素系材料の配合量とを変更した以外は、実施例1と同様にして塗工液を調製し、この塗工液を用いて、実施例1と同様にしてハードコートフィルムを得た。
【0122】
〔試験例1〕<静摩擦係数の測定>
ポータブル摩擦計「ミューズTYPE94i−II:新東科学株式会社」を用いて、各実施例および比較例のハードコート層の表面の6箇所を測定し、その平均値を静摩擦係数とした。
【0123】
〔試験例2〕<オレイン酸に対する接触角および水に対する接触角>
全自動接触角計「DM−701:協和界面科学株式会社」を用いて、各実施例および比較例のハードコート層表面に、2μLのオレイン酸または水をそれぞれ6箇所に滴下して測定し、その平均値を接触角とした。
【0124】
〔試験例3〕<走査型プローブ顕微鏡による測定>
実施例および比較例により作製したハードコートフィルムのそれぞれのハードコート層側の面について、走査型プローブ顕微鏡(島津製作所社製「SPM−9700」)を用いて、5μm×5μmの範囲をタッピングモードにて測定し、測定画像に相分離構造が観察されるか否かについて確認した。相分離構造が観察された場合には、Media Cybernetics社製画像解析ソフトImage−proを用いて、測定領域内で各相の面積を求め、これらの相の面積比を求めた。また、相分離構造の画像を目視で確認し、相分離の形状がどのような構造であったかについて確認した。観察等の結果を表2に示す。また、実施例1および5ならびに比較例1から3に係る測定画像(写真)を、それぞれ、
図3から7に示す。
【0125】
〔試験例4〕<ヘーズ値の測定>
実施例および比較例において作製した塗工液のそれぞれから作製したハードコートフィルムを50mm×50mmサイズにカットし、ヘーズ値測定のための試験部材とした。
得られた試験部材について、JIS K 7136(2000)に準じて、ヘーズメーター「NDH−2000:日本電色社製」を用いて、ヘーズ値を測定した。測定結果を表2に示す。
【0126】
〔試験例5〕<全光線透過率の測定>
試験例4と同様にして作製した、厚さ30μmのハードコート層を備える試験部材について、JIS K7361−1に準じて、ヘーズメーター「NDH−2000:日本電色社製」を用いて、全光線透過率を測定した。測定結果を表2に示す。
【0127】
なお、実施例1から6のハードコート層の表面のスリップ性・防汚性は優れていた。