【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0056】
〔実施例1:サボテン抽出エキスの調製〕
(凍結乾燥用試料の準備、試料の凍結乾燥)
サボテン抽出エキスを得るための原料として、ウチワサボテンの葉の部分を適量採取し、不要部分の除去、洗浄等の前処理を行なってから、適宜なサイズに破砕した。
【0057】
次に上記の破砕物を袋詰めして冷却装置に導入し、−35℃で凍結させる予備凍結を行なった。そして予備凍結物を冷却装置から出して1cm程度のサイズに粗粉砕した後、トレーに入れてフリーズドライ装置に移し、0.67パスカル程度に減圧して凍結物中の水を昇華させた。フリーズドライ装置としては、共和真空技術(株)製の型式RL-4522BS型を用いた。その後、乾燥雰囲気下で凍結物を40℃まで昇温させ、乾燥を促進してから、ミルを用いて粉末状の凍結乾燥物とした。
【0058】
(凍結乾燥物の抽出処理)
上記のように調製したウチワサボテンの凍結乾燥物を抽出溶媒を用いて抽出した。抽出溶媒としては、ヘキサン、酢酸エチル、メタノールを用いた。これらの抽出溶媒はいずれも他種の溶媒や水と混合していない100%のものである。以下においても抽出溶媒としてヘキサン、酢酸エチル、メタノールを記載した場合は、100%のものを意味する。
【0059】
抽出は、それぞれ容器に収容した適量の上記各溶媒中に凍結乾燥物を投入し、超音波洗浄器中に導入することにより行なった。
【0060】
無極性溶媒であるヘキサン又は酢酸エチルを抽出溶媒としたサンプルについては、抽出処理の終了後に前記した「有機溶媒X(エタノール)を使用した洗浄」を行い、無極性溶媒を十分に除去した。メタノールを抽出溶媒としたサンプルも、抽出処理の終了後に抽出溶媒を十分に除去した。
【0061】
〔実施例2−1:サボテン抽出エキスのガン抑制効果の評価〕
(サボテン抽出エキスの抗発ガン性)
発ガンの発症要因は、食品や喫煙によるものが過半数を占めているといわれている。分子レベルで発症要因を考えると、その殆どが化学物質(発ガン物質)による化学発ガンである。発ガン物質には、正常な細胞が遺伝子にダメージを与えて前ガン細胞に変異するイニシエーション過程を誘導する物質、前ガン細胞がガン細胞に変異するプロモーション過程を誘導する物質がある。
【0062】
(抗変異原性試験)
正常細胞が発ガン物質の作用により前ガン細胞に変異する。その際のメカニズムが微生物が変異するメカニズムと似通っており、発ガン物質が微生物の突然変異を誘導するのを阻止する現象(抗変異原性)を利用して評価した。
【0063】
ウチワサボテンの葉の破砕物を、前記「試料の凍結乾燥」の項に記載の条件による凍結乾燥に供した。得られた凍結乾燥物をヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水(70℃)によりそれぞれ抽出し、減圧乾固等によって溶媒を除去した後、DMSOで試料濃度1.0mg/plateとなるように調製して、これらを試料溶液とした。
【0064】
試料溶液の抗変異原性を調べるためAmes testの変法、プレインキュベーション法を用いた。試験管に試料溶液100μL、1−NP溶液(1.0μg/mL)100μL、0.1Mナトリウムリン酸緩衝液(pH7.4)500μLと17時間の前培養を行った菌懸濁液100μLを加えた。37℃の恒温槽で20分間振とう培養し、トップアガーを2mL加えて最少グルコース寒天培地に重層した。37℃で48時間培養し、生じたコロニー数を計測した。以下の式を用いて抗変異原活性を求めた。対照区では、試料溶液に代えて、サボテン抽出物を含まないDMSOを用いた。
【0065】
抗変異原性=〔(A−B)/A〕×100
A:対照区の復帰コロニー数
B:試料区の復帰コロニー数
(抗変異原性の結果、考察)
マヤ種における抗変異原活性は、ヘキサン抽出画分81.7±3.4%、酢酸エチル抽出画分78.8±2.2%、メタノール抽出画分20.3±3.3%となった。バーバンク種における抗変異原活性はヘキサン抽出画分84.2±3.7%、酢酸エチル抽出画分85.8±5.5%、メタノール抽出画分11.0±2.3%となった。
【0066】
以上の結果を
図1に示す。
図1において、「Hex.extracted fraction」はヘキサン抽出画分であり、「EtOAc extracted fraction」は酢酸エチル抽出画分であり、「MeOH extracted fraction」はメタノール抽出画分である。又、比較的濃色の「Burbank」と付記した棒グラフはバーバンク種のものであり、比較的淡色の「Maya」と付記した棒グラフはマヤ種のものである。
【0067】
図1から分かるように、バーバンク種、マヤ種共にヘキサン抽出画分と酢酸エチル抽出画分の両画分に強い抗変異原性成分の存在が示唆された。
図1には示さないが、バーバンク種、マヤ種共に熱水(70℃)抽出画分では抗変異原性が低減することも判明した。
【0068】
〔実施例2−2:加工処理による抗変異原性の変化〕
サボテン抽出前の加工処理による抗変異原性の変化を、以下のように検討した。
【0069】
(各種加工処理に係る試料溶液の調製)
ウチワサボテンの葉の破砕物を原料として、それぞれ下記(a)〜(d)のように加工処理を行い、得られた各種加工処理物を、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水(70℃)によってそれぞれ抽出し、減圧乾固等によって溶媒を除去した後に、DMSOで試料濃度10mg/mLとなるように調製し、これらを各種加工処理に係る試料溶液とした。
【0070】
なお、下記の各種加工処理物を溶媒抽出するに際し、(a)ジュース、(b)ペースト、(d)発酵搾汁は水を媒体とする液体または液体状の流動体であるため、ヘキサンや酢酸エチルで抽出する際には、加工処理物を溶媒中に直接に投入して抽出し、また、メタノールや熱水で抽出する際には、これらの溶媒中に加工処理物を直接に投入して抽出すると共に、次いでその液をヘキサン中に投入して、ヘキサンで抽出した。
【0071】
(a)ジュース:ウチワサボテンの葉の破砕物を、単にジューサーミキサーを用いて細断し、汁状のジュースを得た。
【0072】
(b)ペースト:ウチワサボテンの葉の破砕物を上記(a)と同様にしてジュースとした後、100℃で約120分間加熱して、ペーストを得た。
【0073】
(c)凍結乾燥粉末:ウチワサボテンの葉の破砕物を、前記「試料の凍結乾燥」の項に記載した条件による凍結乾燥に供して、凍結乾燥物粉末を得た。
【0074】
(d)発酵搾汁:ウチワサボテンの葉の破砕物を上記(a)と同様にしてジュースとした後、恒温機内に移して、58℃で48時間、自然発酵させた。この自然発酵は、サボテン原料に付着している乳酸菌や酵母菌を利用したものである。この発酵物を布袋に移して搾り、発酵搾汁を得た。
【0075】
(加工処理による抗変異原性の変化)
上記(a)〜(d)に係る各種加工処理物についての、上記した抽出方法による、それぞれヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水による抽出画分に係る試料溶液の抗変異原性を調べるため、これらの試料溶液について、Ames testの変法、プレインキュベーション法を用いた。
【0076】
試験管に試料溶液100μL、1−NP溶液(1.0μg/mL)100μL、0.1Mナトリウムリン酸緩衝液(pH7.4)500μLと17時間の前培養を行った菌懸濁液100μLを加えた。37℃の恒温槽で20分間振とう培養し、トップアガーを2mL加えて最少グルコース寒天培地に重層した。37℃で48時間培養し、生じたコロニー数を計測した。以下の式を用いて抗変異原活性を求めた。対照区では、試料溶液に代えて、サボテン抽出物を含まないDMSOを用いた。
【0077】
抗変異原性=〔(A−B)/A〕×100
A:対照区の復帰コロニー数
B:試料区の復帰コロニー数
(加工処理による抗変異原性の変化の結果、考察)
加工処理による抗変異原性の変化を
図2に示す。
図2では、上記の式を用いて求めた抗変異原性(%)を縦軸方向に棒グラフで示し、加工処理の区別及び抽出溶媒による抽出画分の区別を横軸方向に示す。加工処理の区別は
図2の横軸の下部に「ジュース」、「ペースト」等の表記で示した。これらの表記の冒頭の部分には横軸から垂直下方に短い指示線を付しているが、この指示線の左側の2本の棒グラフが、左側から順に、当該加工処理に係る「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液を示し、指示線の右側の2本の棒グラフが、左側から順に、当該加工処理に係る「メタノール抽出画分」及び「熱水抽出画分」の試料溶液を示している。加工処理の区別ごとに、上記の説明に合致しない「棒グラフの欠落部分」があるが、その部分では、該当する抽出画分の試料溶液の抗変異原性が0(%)であっため、棒グラフの表示用のスペースを削除している。
【0078】
図2から分かるように、「凍結乾燥」の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液が、他種の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液との比較において、抗変異原性が有意に優れている。
【0079】
〔実施例2−3:加工処理後の消化酵素処理による抗変異原性の変化〕
(消化酵素処理)
上記した(a)〜(d)の各種の加工処理物である(a)ジュース、(b)ペースト、(c)凍結乾燥粉末、(d)発酵搾汁に対して消化酵素処理を行い、その処理後の抗変異原性の変化を検討した。消化酵素処理としては、ペプシン処理を30分間行い、続いてパンクレアチン処理を2時間行った。
【0080】
具体的には、(c)凍結乾燥粉末については、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール及び熱水による抽出に係るそれぞれの試料溶液をpH2の緩衝液に添加して、30分間ペプシンを作用させた。その後、これらの第1試料液(pH2の緩衝液にそれぞれの試料溶液を添加した液)を容器から取り出し、pH8の緩衝液に添加して、2時間パンクレアチンを作用させた。第2作用液中に投入した第1作用液中のペプシンはpHの変化により、ほとんど失活していると考えられる。
【0081】
また、(a)ジュース、(b)ペースト、(d)発酵搾汁については、これらの加工処理物を直接にpH2の緩衝液に投入して、30分間ペプシンを作用させた後、その液(第1作用液)をそのままpH8の緩衝液に投入して、2時間パンクレアチンを作用させた(第2作用液)。
【0082】
その後、第2作用液をヘキサン又は酢酸エチルで抽出する際には、第2作用液を溶媒中に直接に投入して抽出した。これらが下記の
図3における「ヘキサン抽出画分」又は「酢酸エチル抽出画分」である。
【0083】
一方、第2作用液をメタノールや熱水で抽出する際には、これらの溶媒中に第2作用液を直接に投入して抽出すると共に、次いでその液をヘキサン中に投入して、ヘキサンで抽出した。これらが下記の
図3における「メタノール抽出画分」又は「熱水抽出画分」である。
【0084】
これらの抽出物について、減圧乾固等によって溶媒を除去した後に、DMSOで試料濃度10mg/mLとなるように調製し、これらを消化酵素処理に係る試料溶液とした。
【0085】
(消化酵素処理による抗変異原性の変化の結果、考察)
上記の消化酵素処理に係る各試料溶液における抗変異原性の変化を、前記の「加工処理による抗変異原性の変化」の場合と同様の方法により検討した。
【0086】
それらの結果を
図3に示す。
図3の表記の要領は、
図2の場合と同様であるので、その説明を省略する。
【0087】
図3から分かるように、「凍結乾燥」における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液が、他種の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液との比較において、抗変異原性が顕著に優れている。
【0088】
〔実施例3:マウス接触性皮膚炎モデルに対する影響〕
ウチワサボテンは、生食したり、調理して食したりするので、本発明のサボテン抽出エキスをマウスに経口投与して、アレルギー抑制効果を評価した。
【0089】
まず、実施例1の「サボテン抽出エキスの調製」で述べたように、バーバンク種のウチワサボテンの葉を細かく破砕した後に凍結乾燥し、凍結乾燥物を酢酸エチルで抽出し、次いで抽出溶媒を十分に除去して、サボテン抽出エキスを得た。
【0090】
この抽出エキスを0.5%CMC水溶液と混合して、100mg/kg、250mg/kgとなるように経口投与した。実験動物として雌性BALB/cマウスにハプテンとして2,4,6-trinitrochlorobenzene(TNCB)を用いた接触性皮膚炎への作用を評価した。
【0091】
感作2日前にマウスの腹部を剃毛し、5%TNCBアセトン溶液100μlを塗布して感作し、7日後に1%TNCBオリーブ油液をマウスの耳介の表裏に10μlずつ塗布して接触性皮膚炎を惹起し、24時間、48時間後の耳介腫脹を測定した。惹起前に、それぞれのマウスの耳介の厚さを測定し、その初期値を引き算することで各時間の耳介腫脹を算出した。
【0092】
24時間後の耳介腫脹を
図4(a)に、48時間後の耳介腫脹を
図4(b)にそれぞれ示す。
図4(a)、(b)において縦軸の「Ear swelling(μm)」は耳介腫脹の厚さをμm単位で示す。
図4(a)、(b)の横軸方向において、「N」はTNCB処理を行わなかったことを表し、具体的にはブランク試験を意味する。又、「CTRL」はコントロールを表し、具体的には、サボテン抽出エキスを含有しない0.5%CMC水溶液を経口投与したマウスについての結果である。更に
図4(a)、(b)において「Nopal」とはウチワサボテンを意味し、「100」はその100mg/kgの経口投与群、「250」はその250mg/kgの経口投与群である。
【0093】
本モデルマウスはIV型アレルギー反応なので、惹起後24〜48時間に腫脹のピークを迎える。
図4(a)より明らかなように、本発明のサボテン抽出エキスは、感作後から一日一回経口投与したが、250mg/kgの投与量において、24時間後の耳介腫脹を有意に抑制した。更に
図4(b)より、100mg/kg及び250mg/kgの投与量において、48時間後の耳介腫脹を抑制する傾向も認められる。
【0094】
これらの結果は、本発明のサボテン抽出エキスがIV型アレルギー反応において抗アレルギー作用を有することを示唆している。250mg/kgの投与量は、60kgの体重の人が摂取する場合、生のウチワサボテンに換算すると一日一回270gの摂取に相当する。