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特開2015-205823サボテン抽出エキス、このエキスを含む保健食品等及び医薬
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-205823(P2015-205823A)
(43)【公開日】2015年11月19日
(54)【発明の名称】サボテン抽出エキス、このエキスを含む保健食品等及び医薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/18 20060101AFI20151023BHJP
   A61K 36/00 20060101ALI20151023BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20151023BHJP
   A61P 37/08 20060101ALI20151023BHJP
【FI】
   A61K35/78 C
   A61K35/78 Y
   A61P35/00
   A61P37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-85283(P2014-85283)
(22)【出願日】2014年4月17日
(71)【出願人】
【識別番号】307033394
【氏名又は名称】春日井商工会議所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(74)【代理人】
【識別番号】100154483
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 和寛
(72)【発明者】
【氏名】小原 章裕
(72)【発明者】
【氏名】能勢 充彦
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AB12
4C088AC05
4C088BA08
4C088CA07
4C088CA09
4C088CA30
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZB13
4C088ZB26
(57)【要約】
【課題】ガン抑制作用やアレルギー抑制作用を期待できるサボテン抽出エキス、このエキスを含む保健食品等及び医薬を提供する。
【解決手段】ウチワサボテンの凍結乾燥物の抽出、特に好ましくは、酢酸エチル、ヘキサン等での抽出により得られるサボテン抽出エキス。このサボテン抽出エキスを含有する保健食品、保健食材、保健飲料及び医薬。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウチワサボテンの凍結乾燥物の抽出により得られるサボテン抽出エキス。
【請求項2】
前記ウチワサボテンの凍結乾燥物がウチワサボテンの葉の凍結乾燥物である請求項1に記載のサボテン抽出エキス。
【請求項3】
前記抽出に用いる抽出液が、酢酸エチル抽出液又はヘキサン抽出液である請求項1又は請求項2に記載のサボテン抽出エキス。
【請求項4】
前記抽出が、酢酸エチル抽出液による抽出と、これに続くヘキサン抽出液による抽出によって行なわれる請求項1〜請求項3のいずれかに記載のサボテン抽出エキス。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健食品。
【請求項6】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健食材。
【請求項7】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健飲料。
【請求項8】
請求項1〜請求項4のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する医薬。
【請求項9】
ガン抑制剤又はアレルギー抑制剤である請求項8に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サボテン抽出エキス、このエキスを含む保健食品等及び医薬に関する。更に詳しくは本発明は、ウチワサボテンの凍結乾燥物の抽出により得られるサボテン抽出エキスと、このエキスを含有する保健食品等及び医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
サボテンは棘を持つ多肉植物で、1万種以上あり、中でもオプンティア亜科ウチワサボテン属(Opuntia spp.)は300種以上が存在し、観葉植物としてだけではなく、食用あるいは薬用としても用いられている。
【0003】
サボテンでは、本来の葉であった部分が退化して棘となっており、「葉」と通称される部分は厳密には茎である。しかし本願では、厳密にはサボテンの茎である部分を、一般的な社会通念に従い「葉」と呼ぶ。
【0004】
例えば下記の特許文献1では、サボテン科オプンティア属植物の粉末や乾燥粉末、エタノール/水抽出液による抽出物等を含有する美白剤、及びこの美白剤を含有する化粧料や食品を提案している。
【0005】
下記の特許文献2では、食用サボテンの表皮の青臭さをマスキングして褐変色を抑制するため、特定の工程で食用サボテンにサイクロデキストリン水溶液を接触させ、青臭さの臭い成分をサイクロデキストリンで包接する方法を提案している。
【0006】
下記の特許文献3では、サボテン(Opuntia streptacantha)の水あるいは低級1価アルコール等による抽出物を、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子産生抑制効果を有する医薬、食品等として使用することを提案している。
【0007】
下記の特許文献4では、ウチワサボテン類、その植物の部分、それらからの水、エタノール、アセトン等の溶媒による抽出物等を含有する抑うつ症状、うつ病等の治療剤を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−263254号公報
【特許文献2】特開2011−004611号公報
【特許文献3】特開2007−230977号公報
【特許文献4】特許4863875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし本願発明者は、保健食品や医薬等に応用するサボテン類、特にウチワサボテンやその抽出物について、改善の余地が十分にあると考えている。
【0010】
本願発明者の研究によれば、第1の課題として、ウチワサボテンの抽出物を保健食品用や医薬用等へ応用するにあたり、ウチワサボテンの抽出のための前処理を再検討することが重要であるとの知見が得られた。更に第2の課題として、主として保健食品添加物や内服用医薬として利用されるウチワサボテンの抽出物においては、抽出物に対するヒトの消化酵素の影響を無視できないとの認識を持つに至った。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(第1発明の構成)
上記課題を解決するための第1発明の構成は、ウチワサボテンの凍結乾燥物の抽出により得られるサボテン抽出エキスである。
【0012】
(第2発明の構成)
上記課題を解決するための第2発明の構成においては、前記第1発明に係るサボテン抽出エキスにおいて、ウチワサボテンの凍結乾燥物がウチワサボテンの葉の凍結乾燥物である。
【0013】
(第3発明の構成)
上記課題を解決するための第3発明の構成においては、前記第1発明又は第2発明に係るサボテン抽出エキスにおいて、抽出に用いる抽出液が、酢酸エチル抽出液又はヘキサン抽出液である。
【0014】
上記の第3発明において、酢酸エチル抽出液とは、酢酸エチルからなり、あるいは酢酸エチルに対して他種の適宜な抽出溶媒を30質量%以下の割合で混合させた混液からなる抽出液を言う。又、ヘキサン抽出液とは、ヘキサンからなり、あるいはヘキサンに対して他種の適宜な抽出溶媒を30質量%以下の割合で混合させた混液からなる抽出液を言う。
【0015】
(第4発明の構成)
上記課題を解決するための第4発明の構成においては、前記第1発明〜第3発明のいずれかに係るサボテン抽出エキスにおいて、抽出が、酢酸エチル抽出液による抽出と、これに続くヘキサン抽出液による抽出によって行なわれる。
【0016】
(第5発明の構成)
上記課題を解決するための第5発明の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健食品である。
【0017】
(第6発明の構成)
上記課題を解決するための第6発明の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健食材である。
【0018】
(第7発明の構成)
上記課題を解決するための第7発明の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する保健飲料である。
【0019】
(第8発明の構成)
上記課題を解決するための第8発明の構成は、第1発明〜第4発明のいずれかに記載のサボテン抽出エキスを含有する医薬である。
【0020】
(第9発明の構成)
上記課題を解決するための第9発明の構成においては、前記第8発明に係る医薬がガン抑制剤又はアレルギー抑制剤である
【発明の効果】
【0021】
従来のサボテン類を利用する保健食品や医薬においては、例えば前記の特許文献1、3、4に見られるように、サボテンの植物体、その葉又はそれらの粉砕・乾燥物をそのまま保健食品や医薬に含有させ、あるいは、植物体やその粉砕・乾燥物を抽出溶媒により抽出したエキスを含有させている。しかし、原材料であるサボテン類に対するこのような前処理では、必ずしも十分な効果が得られない。
【0022】
そこで、サボテン類に対する前処理を種々に検討した結果、まず、原料であるサボテンとしてはウチワサボテン(Opuntia spp.)が好ましいことを知った。特に重要な点は、上記の原料を予め凍結乾燥処理し、その凍結乾燥物の抽出によりサボテン抽出エキスを得ることである。
【0023】
このようにして得た本発明のサボテン抽出エキスは、例えば、抗変異原性(ガンの抑制効果)を示し、皮膚アレルギー等の抑制に優れた効果を示すことが分かった。
【0024】
本発明のサボテン抽出エキスに上記の優れた効果が見られる理由は、未だ十分には解明していないが、少なくとも抽出原料を凍結乾燥することで、ガンの抑制やアレルギーの抑制に働く未知の有効成分が極めて高度に濃縮され、サボテン抽出エキス中に有効成分が高濃度に抽出されることが考えられる。更に、推測ではあるが、凍結乾燥と言う極度の低水分状態を経過することで、サボテン中の各種の親水性化合物の水和水が奪われる等の作用が起こり、その結果、有効成分の活性度の向上、有効成分に対する阻害(拮抗)作用成分の失活等が起こっている可能性もある。
【0025】
又、凍結乾燥の対象物としては、特にそれらの葉の部分、とりわけ、葉の部分の破砕物が好ましい。
【0026】
次に、上記の凍結乾燥した対象物の抽出に用いる抽出液としては酢酸エチル抽出液又はヘキサン抽出液が好ましい。これらの抽出液は、酢酸エチル又はヘキサンからなるものでも良いし、酢酸エチル又はヘキサンに対して他種の適宜な抽出溶媒を例えば30質量%以下の割合で混合させた混液であっても良い。これらの抽出溶媒により抽出すると、サボテン抽出エキスの抗変異原性がヒトの消化酵素の作用によっても低下しないことを示す実験結果が得られており、前記した本発明の第2の課題が解決される。
【0027】
本発明のサボテン抽出エキスは、上記のように、少なくとも抗変異原性(ガン抑制効果)及びアレルギー抑制効果を示す。従って、これらの効果を期待して、保健食品、保健食材あるいは保健飲料への添加物として利用することができる。又、ガン抑制剤、アレルギー抑制剤等の医薬の有効成分として利用することができる。
【0028】
なお、本発明のサボテン抽出エキスの調製過程、例えば原料の破砕、抽出溶媒による抽出、抽出後の溶媒除去等の過程において、例えば60℃を超える温度の熱水で抽出する等の、60℃を超える加熱は、エキスの活性を維持する上で好ましくない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明に係るサボテン抽出エキスの抗変異原活性を示す。
図2】サボテン抽出前の加工処理による抗変異原性の変化を示す。
図3】消化酵素処理による抗変異原性の変化を示す。
図4】本発明のサボテン抽出エキスのアレルギー抑制効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に本発明の実施形態を、その最良の形態を含めて説明する。
【0031】
〔ウチワサボテン〕
抽出エキスを得るための原料としてのウチワサボテンの種類は限定されず、例えばマヤ種、バーバンク種などと俗称されるウチワサボテンを用いることができる。
【0032】
ウチワサボテンは、その植物体の全体を用いても良いが、葉の部分が最も好ましい。但し、ウチワサボテンの植物体の内、葉以外の部分も用いることができる。これらの原料は、破砕等を行なわずに凍結乾燥に供することも可能であるが、例えばミル等で1cm程度あるいはそれ以下のサイズに細かく破砕して凍結乾燥に供することが好ましい。これらの原料を、ミル等で細かく破砕してから凍結乾燥したり、凍結乾燥した後にミル等で細かく粉砕することで、粉末状の凍結乾燥物を得ることも好ましい。
【0033】
〔ウチワサボテンの凍結乾燥〕
上記のように調製したウチワサボテン原料を凍結乾燥に供するにあたり、凍結乾燥に用いる手段(装置)や凍結乾燥の処理条件は特に限定されないが、例えば下記のものを例示することができる。
【0034】
(凍結乾燥に用いる装置)
凍結乾燥に用いる装置は、所要の性能を備える限りにおいて特に限定されないが、市販の一般的な凍結乾燥装置(フリーズドライ装置)を用いることができる。
【0035】
(凍結乾燥の処理条件)
凍結乾燥の処理条件についても特に限定されないが、例えば次のようなプロセスによって行なうことができる。
【0036】
(1)まず前処理として、ウチワサボテンの特定の部分、例えば葉の部分を採取し、いわゆる「棘」の部分等の不要部分の除去や洗浄を行った後、適宜な装置やナイフ等の道具を用いて、例えば3cm程度の適宜なサイズにカットする。カットした原料は、必要に応じ、保管・輸送時の劣化防止のために−30℃程度で冷凍する。
【0037】
(2)上記のカットした原料を1cm程度に粗粉砕してからフリーズドライ装置に移し、例えば−60℃の低温下で0.5〜1パスカル程度に減圧して凍結物中の水を昇華させ、乾燥させる。
【0038】
(3)その後、凍結物を約40℃まで昇温して乾燥を促進させた後、乾燥物を破砕し、好ましくは繊維質を除去してから、ミルを用いて粉末状の凍結乾燥物とする。
【0039】
〔凍結乾燥物の抽出〕
上記のように調製したウチワサボテンの凍結乾燥物を抽出溶媒で抽出する。抽出溶媒の種類は特に限定されず、例えば水を使用できる。メタノールやエタノール等の低級1価アルコールや、グリセリン、プロピレングリコール、1、3−ブチレングリコール等の液状多価アルコールや、ヘキサン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレン等の無極性溶媒も使用できる。更に、例えば水/メタノール混液、酢酸エチル−ヘキサン混液等の2種以上の抽出溶媒の混合液も使用できる。
【0040】
特に、無極性溶媒、とりわけ、「発明の効果」欄で前記した理由から、酢酸エチル、ヘキサン等が好ましく例示される。
【0041】
具体的な抽出方法は、要するにウチワサボテンの凍結乾燥物から有効成分を溶出できる方法であれば良く、公知の各種の抽出装置を用いることができる。又、例えば、破砕したウチワサボテンの凍結乾燥物を抽出溶媒中に投入して撹拌したり、この抽出溶媒を容器に入れて超音波洗浄器中に導入することで、抽出が行われる。水で溶媒抽出を行なった後は、得られた水溶液をそのままサボテン抽出エキスとして使用しても良く、水分をある程度蒸発させて濃縮しても良い。
【0042】
無極性溶媒を用いて抽出した場合には、抽出後に、まず蒸留等の方法で無極性溶媒をなるべく除去した後、残留物を、当該無極性溶媒と相溶性又は混和性を示すと共に人体への摂取が容認されている有機溶媒X(例えばエタノール)に溶解させ、その後、有機溶媒Xを除去することができる(これを「有機溶媒Xを使用した洗浄」と言う)。有機溶媒Xを使用した洗浄を1回以上行なうことにより、無極性溶媒を十分ないし完全に除去することができる。
【0043】
本発明における「サボテン抽出エキス」とは、正確には、上記のように除外すべき抽出溶媒を排除したものを言う。第4発明の「酢酸エチルによる抽出と、これに続くヘキサンによる抽出」においては、ヘキサンによる抽出を完了した後、ヘキサンを十分に除去してから、酢酸エチルによる抽出を行なう。
【0044】
〔サボテン抽出エキスの無毒性〕
ウチワサボテンは前記のように食用や薬用に供されているので、その抽出エキスも、抽出溶媒を排除すると言う前提下では、無毒性であることが容易に推定される。
【0045】
又、特にデータは示さないが、後述する抗変異原性試験の際にコントロールとしてサボテン抽出エキスの変異原性の有無を確認したが、変異原性は認められなかった。更に、後述する動物実験(抗アレルギー試験)の際、ラットにサボテンの凍結乾燥物の抽出エキスを1週間経口摂取させたが、全く毒性は出ていない。以上の点から、本発明のサボテン抽出エキスは無毒性であると考えられる。
【0046】
〔保健食品〕
本発明のサボテン抽出エキスを含有する保健食品としては、アイスクリーム、ういろ、羊羹、こんにゃく、どらやき、サブレ、きしめん、うどん、そば、メロンパン等のパン類、ラスクやビスケット等のクッキー類、大福餅、のど飴、まんじゅう、せんべい、ラーメン、ハンバーグ、コロッケ、ソーセージ、フランクフルト、串焼き、ナンカレー、ゴーフレット等が例示されるが、これらに限定されない。
【0047】
〔保健食材〕
本発明のサボテン抽出エキスを含有する保健食材としては、うどん粉やパン粉等の各種食用粉末類、各種の食用ペースト類、ドレッシングやソースあるいは醤油等の調味料が例示されるが、これらに限定されない。
【0048】
〔保健飲料〕
本発明のサボテン抽出エキスを含有する保健飲料としては、オレンジジュースやリンゴジュース等のジュース類、緑茶やウーロン茶等の飲料茶、スポーツドリンク、缶入りコーヒー等の各種のソフトドリンクが例示されるが、これらに限定されない。
〔保健食品、保健食材、保健飲料の摂取効果〕
日常生活において、本発明に係る保健食品、保健食材、保健飲料を摂取することで、知らず知らずの内に下記(a)〜(c)の保健効果が得られる。
【0049】
(a)ガン抑制効果:添加された本発明のサボテン抽出エキスが発揮する抗変異原性に基づく保健効果である。
【0050】
(b)アレルギー抑制効果:添加された本発明のサボテン抽出エキスが発揮する抗アレルギー作用に基づく保健効果である。具体的にはアトピー性皮膚炎その他の多様なアレルギー症状に対する効果を期待できる。
【0051】
(c)上記の他にも、本発明のサボテン抽出エキスには、発ガンプロモーターであるオカダ酸に対する阻害活性、ガンの浸潤、転移を誘導するウロキナーゼに対する阻害活性、ラジカル捕捉能やリノール酸に対する酸化抑制効果等が判明しており、生活習慣病の原因である活性酸素の消去能を期待できる。
【0052】
〔医薬〕
本発明のサボテン抽出エキスを含有する医薬には、少なくとも、ガン抑制剤、アレルギー抑制剤が包含される。これらの医薬の効果は、上記の(a)、(b)に対応する。
【0053】
本発明のサボテン抽出エキスを含有する医薬は種々の内服用の剤型で製造し、投与することができる。例えば、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤等の形態とすることができる。これらの製剤化においては、内服薬として通常に使用する担体や添加物、例えば溶剤、基剤、希釈剤、充填剤などの賦形剤、溶解補助剤、乳化剤、分散剤、崩壊剤、可溶化剤、増粘剤、滑沢剤等の補助剤、抗酸化剤、保存剤、芳香剤、甘味剤等の添加剤を常法に従って使用し、製剤化することができる。
【0054】
本発明の医薬の用法、用量については、効果がマイルドなこともあって特段の限定がなく、適宜に投与プロトコルを設定すれば良い。
【実施例】
【0055】
次に本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例によって限定されない。
【0056】
〔実施例1:サボテン抽出エキスの調製〕
(凍結乾燥用試料の準備、試料の凍結乾燥)
サボテン抽出エキスを得るための原料として、ウチワサボテンの葉の部分を適量採取し、不要部分の除去、洗浄等の前処理を行なってから、適宜なサイズに破砕した。
【0057】
次に上記の破砕物を袋詰めして冷却装置に導入し、−35℃で凍結させる予備凍結を行なった。そして予備凍結物を冷却装置から出して1cm程度のサイズに粗粉砕した後、トレーに入れてフリーズドライ装置に移し、0.67パスカル程度に減圧して凍結物中の水を昇華させた。フリーズドライ装置としては、共和真空技術(株)製の型式RL-4522BS型を用いた。その後、乾燥雰囲気下で凍結物を40℃まで昇温させ、乾燥を促進してから、ミルを用いて粉末状の凍結乾燥物とした。
【0058】
(凍結乾燥物の抽出処理)
上記のように調製したウチワサボテンの凍結乾燥物を抽出溶媒を用いて抽出した。抽出溶媒としては、ヘキサン、酢酸エチル、メタノールを用いた。これらの抽出溶媒はいずれも他種の溶媒や水と混合していない100%のものである。以下においても抽出溶媒としてヘキサン、酢酸エチル、メタノールを記載した場合は、100%のものを意味する。
【0059】
抽出は、それぞれ容器に収容した適量の上記各溶媒中に凍結乾燥物を投入し、超音波洗浄器中に導入することにより行なった。
【0060】
無極性溶媒であるヘキサン又は酢酸エチルを抽出溶媒としたサンプルについては、抽出処理の終了後に前記した「有機溶媒X(エタノール)を使用した洗浄」を行い、無極性溶媒を十分に除去した。メタノールを抽出溶媒としたサンプルも、抽出処理の終了後に抽出溶媒を十分に除去した。
【0061】
〔実施例2−1:サボテン抽出エキスのガン抑制効果の評価〕
(サボテン抽出エキスの抗発ガン性)
発ガンの発症要因は、食品や喫煙によるものが過半数を占めているといわれている。分子レベルで発症要因を考えると、その殆どが化学物質(発ガン物質)による化学発ガンである。発ガン物質には、正常な細胞が遺伝子にダメージを与えて前ガン細胞に変異するイニシエーション過程を誘導する物質、前ガン細胞がガン細胞に変異するプロモーション過程を誘導する物質がある。
【0062】
(抗変異原性試験)
正常細胞が発ガン物質の作用により前ガン細胞に変異する。その際のメカニズムが微生物が変異するメカニズムと似通っており、発ガン物質が微生物の突然変異を誘導するのを阻止する現象(抗変異原性)を利用して評価した。
【0063】
ウチワサボテンの葉の破砕物を、前記「試料の凍結乾燥」の項に記載の条件による凍結乾燥に供した。得られた凍結乾燥物をヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水(70℃)によりそれぞれ抽出し、減圧乾固等によって溶媒を除去した後、DMSOで試料濃度1.0mg/plateとなるように調製して、これらを試料溶液とした。
【0064】
試料溶液の抗変異原性を調べるためAmes testの変法、プレインキュベーション法を用いた。試験管に試料溶液100μL、1−NP溶液(1.0μg/mL)100μL、0.1Mナトリウムリン酸緩衝液(pH7.4)500μLと17時間の前培養を行った菌懸濁液100μLを加えた。37℃の恒温槽で20分間振とう培養し、トップアガーを2mL加えて最少グルコース寒天培地に重層した。37℃で48時間培養し、生じたコロニー数を計測した。以下の式を用いて抗変異原活性を求めた。対照区では、試料溶液に代えて、サボテン抽出物を含まないDMSOを用いた。
【0065】
抗変異原性=〔(A−B)/A〕×100
A:対照区の復帰コロニー数
B:試料区の復帰コロニー数
(抗変異原性の結果、考察)
マヤ種における抗変異原活性は、ヘキサン抽出画分81.7±3.4%、酢酸エチル抽出画分78.8±2.2%、メタノール抽出画分20.3±3.3%となった。バーバンク種における抗変異原活性はヘキサン抽出画分84.2±3.7%、酢酸エチル抽出画分85.8±5.5%、メタノール抽出画分11.0±2.3%となった。
【0066】
以上の結果を図1に示す。図1において、「Hex.extracted fraction」はヘキサン抽出画分であり、「EtOAc extracted fraction」は酢酸エチル抽出画分であり、「MeOH extracted fraction」はメタノール抽出画分である。又、比較的濃色の「Burbank」と付記した棒グラフはバーバンク種のものであり、比較的淡色の「Maya」と付記した棒グラフはマヤ種のものである。
【0067】
図1から分かるように、バーバンク種、マヤ種共にヘキサン抽出画分と酢酸エチル抽出画分の両画分に強い抗変異原性成分の存在が示唆された。図1には示さないが、バーバンク種、マヤ種共に熱水(70℃)抽出画分では抗変異原性が低減することも判明した。
【0068】
〔実施例2−2:加工処理による抗変異原性の変化〕
サボテン抽出前の加工処理による抗変異原性の変化を、以下のように検討した。
【0069】
(各種加工処理に係る試料溶液の調製)
ウチワサボテンの葉の破砕物を原料として、それぞれ下記(a)〜(d)のように加工処理を行い、得られた各種加工処理物を、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水(70℃)によってそれぞれ抽出し、減圧乾固等によって溶媒を除去した後に、DMSOで試料濃度10mg/mLとなるように調製し、これらを各種加工処理に係る試料溶液とした。
【0070】
なお、下記の各種加工処理物を溶媒抽出するに際し、(a)ジュース、(b)ペースト、(d)発酵搾汁は水を媒体とする液体または液体状の流動体であるため、ヘキサンや酢酸エチルで抽出する際には、加工処理物を溶媒中に直接に投入して抽出し、また、メタノールや熱水で抽出する際には、これらの溶媒中に加工処理物を直接に投入して抽出すると共に、次いでその液をヘキサン中に投入して、ヘキサンで抽出した。
【0071】
(a)ジュース:ウチワサボテンの葉の破砕物を、単にジューサーミキサーを用いて細断し、汁状のジュースを得た。
【0072】
(b)ペースト:ウチワサボテンの葉の破砕物を上記(a)と同様にしてジュースとした後、100℃で約120分間加熱して、ペーストを得た。
【0073】
(c)凍結乾燥粉末:ウチワサボテンの葉の破砕物を、前記「試料の凍結乾燥」の項に記載した条件による凍結乾燥に供して、凍結乾燥物粉末を得た。
【0074】
(d)発酵搾汁:ウチワサボテンの葉の破砕物を上記(a)と同様にしてジュースとした後、恒温機内に移して、58℃で48時間、自然発酵させた。この自然発酵は、サボテン原料に付着している乳酸菌や酵母菌を利用したものである。この発酵物を布袋に移して搾り、発酵搾汁を得た。
【0075】
(加工処理による抗変異原性の変化)
上記(a)〜(d)に係る各種加工処理物についての、上記した抽出方法による、それぞれヘキサン、酢酸エチル、メタノール、熱水による抽出画分に係る試料溶液の抗変異原性を調べるため、これらの試料溶液について、Ames testの変法、プレインキュベーション法を用いた。
【0076】
試験管に試料溶液100μL、1−NP溶液(1.0μg/mL)100μL、0.1Mナトリウムリン酸緩衝液(pH7.4)500μLと17時間の前培養を行った菌懸濁液100μLを加えた。37℃の恒温槽で20分間振とう培養し、トップアガーを2mL加えて最少グルコース寒天培地に重層した。37℃で48時間培養し、生じたコロニー数を計測した。以下の式を用いて抗変異原活性を求めた。対照区では、試料溶液に代えて、サボテン抽出物を含まないDMSOを用いた。
【0077】
抗変異原性=〔(A−B)/A〕×100
A:対照区の復帰コロニー数
B:試料区の復帰コロニー数
(加工処理による抗変異原性の変化の結果、考察)
加工処理による抗変異原性の変化を図2に示す。図2では、上記の式を用いて求めた抗変異原性(%)を縦軸方向に棒グラフで示し、加工処理の区別及び抽出溶媒による抽出画分の区別を横軸方向に示す。加工処理の区別は図2の横軸の下部に「ジュース」、「ペースト」等の表記で示した。これらの表記の冒頭の部分には横軸から垂直下方に短い指示線を付しているが、この指示線の左側の2本の棒グラフが、左側から順に、当該加工処理に係る「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液を示し、指示線の右側の2本の棒グラフが、左側から順に、当該加工処理に係る「メタノール抽出画分」及び「熱水抽出画分」の試料溶液を示している。加工処理の区別ごとに、上記の説明に合致しない「棒グラフの欠落部分」があるが、その部分では、該当する抽出画分の試料溶液の抗変異原性が0(%)であっため、棒グラフの表示用のスペースを削除している。
【0078】
図2から分かるように、「凍結乾燥」の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液が、他種の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液との比較において、抗変異原性が有意に優れている。
【0079】
〔実施例2−3:加工処理後の消化酵素処理による抗変異原性の変化〕
(消化酵素処理)
上記した(a)〜(d)の各種の加工処理物である(a)ジュース、(b)ペースト、(c)凍結乾燥粉末、(d)発酵搾汁に対して消化酵素処理を行い、その処理後の抗変異原性の変化を検討した。消化酵素処理としては、ペプシン処理を30分間行い、続いてパンクレアチン処理を2時間行った。
【0080】
具体的には、(c)凍結乾燥粉末については、ヘキサン、酢酸エチル、メタノール及び熱水による抽出に係るそれぞれの試料溶液をpH2の緩衝液に添加して、30分間ペプシンを作用させた。その後、これらの第1試料液(pH2の緩衝液にそれぞれの試料溶液を添加した液)を容器から取り出し、pH8の緩衝液に添加して、2時間パンクレアチンを作用させた。第2作用液中に投入した第1作用液中のペプシンはpHの変化により、ほとんど失活していると考えられる。
【0081】
また、(a)ジュース、(b)ペースト、(d)発酵搾汁については、これらの加工処理物を直接にpH2の緩衝液に投入して、30分間ペプシンを作用させた後、その液(第1作用液)をそのままpH8の緩衝液に投入して、2時間パンクレアチンを作用させた(第2作用液)。
【0082】
その後、第2作用液をヘキサン又は酢酸エチルで抽出する際には、第2作用液を溶媒中に直接に投入して抽出した。これらが下記の図3における「ヘキサン抽出画分」又は「酢酸エチル抽出画分」である。
【0083】
一方、第2作用液をメタノールや熱水で抽出する際には、これらの溶媒中に第2作用液を直接に投入して抽出すると共に、次いでその液をヘキサン中に投入して、ヘキサンで抽出した。これらが下記の図3における「メタノール抽出画分」又は「熱水抽出画分」である。
【0084】
これらの抽出物について、減圧乾固等によって溶媒を除去した後に、DMSOで試料濃度10mg/mLとなるように調製し、これらを消化酵素処理に係る試料溶液とした。
【0085】
(消化酵素処理による抗変異原性の変化の結果、考察)
上記の消化酵素処理に係る各試料溶液における抗変異原性の変化を、前記の「加工処理による抗変異原性の変化」の場合と同様の方法により検討した。
【0086】
それらの結果を図3に示す。図3の表記の要領は、図2の場合と同様であるので、その説明を省略する。
【0087】
図3から分かるように、「凍結乾燥」における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液が、他種の加工処理における「ヘキサン抽出画分」及び「酢酸エチル抽出画分」の試料溶液との比較において、抗変異原性が顕著に優れている。
【0088】
〔実施例3:マウス接触性皮膚炎モデルに対する影響〕
ウチワサボテンは、生食したり、調理して食したりするので、本発明のサボテン抽出エキスをマウスに経口投与して、アレルギー抑制効果を評価した。
【0089】
まず、実施例1の「サボテン抽出エキスの調製」で述べたように、バーバンク種のウチワサボテンの葉を細かく破砕した後に凍結乾燥し、凍結乾燥物を酢酸エチルで抽出し、次いで抽出溶媒を十分に除去して、サボテン抽出エキスを得た。
【0090】
この抽出エキスを0.5%CMC水溶液と混合して、100mg/kg、250mg/kgとなるように経口投与した。実験動物として雌性BALB/cマウスにハプテンとして2,4,6-trinitrochlorobenzene(TNCB)を用いた接触性皮膚炎への作用を評価した。
【0091】
感作2日前にマウスの腹部を剃毛し、5%TNCBアセトン溶液100μlを塗布して感作し、7日後に1%TNCBオリーブ油液をマウスの耳介の表裏に10μlずつ塗布して接触性皮膚炎を惹起し、24時間、48時間後の耳介腫脹を測定した。惹起前に、それぞれのマウスの耳介の厚さを測定し、その初期値を引き算することで各時間の耳介腫脹を算出した。
【0092】
24時間後の耳介腫脹を図4(a)に、48時間後の耳介腫脹を図4(b)にそれぞれ示す。図4(a)、(b)において縦軸の「Ear swelling(μm)」は耳介腫脹の厚さをμm単位で示す。図4(a)、(b)の横軸方向において、「N」はTNCB処理を行わなかったことを表し、具体的にはブランク試験を意味する。又、「CTRL」はコントロールを表し、具体的には、サボテン抽出エキスを含有しない0.5%CMC水溶液を経口投与したマウスについての結果である。更に図4(a)、(b)において「Nopal」とはウチワサボテンを意味し、「100」はその100mg/kgの経口投与群、「250」はその250mg/kgの経口投与群である。
【0093】
本モデルマウスはIV型アレルギー反応なので、惹起後24〜48時間に腫脹のピークを迎える。図4(a)より明らかなように、本発明のサボテン抽出エキスは、感作後から一日一回経口投与したが、250mg/kgの投与量において、24時間後の耳介腫脹を有意に抑制した。更に図4(b)より、100mg/kg及び250mg/kgの投与量において、48時間後の耳介腫脹を抑制する傾向も認められる。
【0094】
これらの結果は、本発明のサボテン抽出エキスがIV型アレルギー反応において抗アレルギー作用を有することを示唆している。250mg/kgの投与量は、60kgの体重の人が摂取する場合、生のウチワサボテンに換算すると一日一回270gの摂取に相当する。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明により、ガン抑制作用やアレルギー抑制作用を期待できるサボテン抽出エキス、このエキスを含む保健食品等及び医薬が提供される。
図1
図2
図3
図4