特開2015-206145(P2015-206145A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-206145(P2015-206145A)
(43)【公開日】2015年11月19日
(54)【発明の名称】生体溶解性無機繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20151023BHJP
【FI】
   D01F9/08 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-88825(P2014-88825)
(22)【出願日】2014年4月23日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086759
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 喜平
(74)【代理人】
【識別番号】100112977
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 有子
(72)【発明者】
【氏名】岩田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】北原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】持田 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】米内山 賢
(72)【発明者】
【氏名】添田 一喜
(72)【発明者】
【氏名】三木 達郎
【テーマコード(参考)】
4L037
【Fターム(参考)】
4L037CS23
4L037FA03
4L037PA31
4L037PF07
4L037UA06
(57)【要約】
【課題】生体溶解性に優れる新規な無機繊維を提供する。
【解決手段】ZrO、MgO及びSiOを、主成分として含み、ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる無機繊維。ZrO:0.0〜16.5重量%、MgO:21.5〜73.5重量%、SiO:10.0〜68.0重量%
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZrO、MgO及びSiOを、主成分として含み、ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる無機繊維。
ZrO:0.0〜16.5重量%
MgO:21.5〜73.5重量%
SiO:10.0〜68.0重量%
【請求項2】
ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる請求項1記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜16.5重量%
MgO:21.5〜60.0重量%
SiO:23.5〜68.0重量%
【請求項3】
ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる請求項1又は2記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜15.0重量%
MgO:21.5〜45.0重量%
SiO:40.0〜68.0重量%
【請求項4】
ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる請求項1〜3のいずれか記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜10.0重量%
MgO:30.0〜40.0重量%
SiO:50.0〜68.0重量%
【請求項5】
SiO量が60.0重量%以下である請求項1〜4のいずれか記載の無機繊維。
【請求項6】
MgO量が30.0重量%以下である請求項1〜5のいずれか記載の無機繊維。
【請求項7】
ZrO量が7.0重量%以上である請求項1〜6のいずれか記載の無機繊維。
【請求項8】
ZrO、MgO及びSiOの量の合計が、80.0重量%以上である請求項1〜7のいずれか記載の無機繊維。
【請求項9】
pH7.4の生理食塩水に対する溶解率が10mg/g以上である請求項1〜8のいずれか記載の無機繊維。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか記載の無機繊維を用いて製造された二次製品又は複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体溶解性に優れる無機繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
アスベストは、軽量で扱いやすく且つ耐熱性に優れるため、例えば、耐熱性のシール材として使用されていた。しかしアスベストは人体に吸入されて肺に疾患を引き起こすため使用が禁止され、これに代わりにセラミック繊維等が使用されている。セラミック繊維等は、耐熱性がアスベストに匹敵する程高く、適切な取り扱いをすれば健康上の問題は無いと考えられているが、より安全性を求められる風潮がある。そこで、人体に吸入されても問題を起こさない又は起こしにくい生体溶解性無機繊維を目指して、様々な生体溶解性繊維が開発されている(例えば、特許文献1,2,3)。
【0003】
従来の無機繊維は、アスベストと同様に、様々なバインダーや添加物とともに、定形物、不定形物に二次加工されて、熱処理装置、工業窯炉や焼却炉等の炉における目地材、耐火タイル、断熱レンガ、鉄皮、モルタル耐火物等の隙間を埋める目地材、シール材、パッキング材、断熱材等として用いられている。炉内の部材にアルミナが使用されていることが多く、二次加工品に含まれる繊維が、このアルミナと反応し二次加工品や部材が付着したり溶融したりする問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許公報第3753416号
【特許文献2】特表2005−514318
【特許文献3】特表2010−511105
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、生体溶解性に優れる新規な無機繊維を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の無機繊維等が提供される。
1.ZrO、MgO及びSiOを、主成分として含み、ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる無機繊維。
ZrO:0.0〜16.5重量%
MgO:21.5〜73.5重量%
SiO:10.0〜68.0重量%
2.ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる1記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜16.5重量%
MgO:21.5〜60.0重量%
SiO:23.5〜68.0重量%
3.ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる1又は2記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜15.0重量%
MgO:21.5〜45.0重量%
SiO:40.0〜68.0重量%
4.ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる1〜3のいずれか記載の無機繊維。
ZrO:0.1〜10.0重量%
MgO:30.0〜40.0重量%
SiO:50.0〜68.0重量%
5.SiO量が60.0重量%以下である1〜4のいずれか記載の無機繊維。
6.MgO量が30.0重量%以下である1〜5のいずれか記載の無機繊維。
7.ZrO量が7.0重量%以上である1〜6のいずれか記載の無機繊維。
8.ZrO、MgO及びSiOの量の合計が、80.0重量%以上である1〜7のいずれか記載の無機繊維。
9.pH7.4の生理食塩水に対する溶解率が10mg/g以上である1〜8のいずれか記載の無機繊維。
10.1〜9のいずれか記載の無機繊維を用いて製造された二次製品又は複合材料。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、生体溶解性に優れる新規な無機繊維を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の無機繊維は、ZrO、MgO及びSiOを、主成分として含み、ZrO、MgO及びSiOの量が、それぞれ以下の範囲に含まれる。
ZrO:0.0〜16.5重量%
MgO:21.5〜73.5重量%
SiO:10.0〜68.0重量%
【0009】
主成分とは、無機繊維が含む全ての成分のうち最も含有量(重量%)の高い3成分(1番含有量が高い成分、2番目に含有量が高い成分、及び3番目に含有量が高い成分の3成分)がZrO、MgO及びSiOであることを意味する。
【0010】
本発明の無機繊維において、ZrO量を、9.6重量%以下又は9.0重量%以下とすることができる。また、0.1重量%以上、3.0重量%以上、又は4.0重量%以上とすることができる。
【0011】
本発明の無機繊維において、MgO量を、55.0重量%以下又は40.0重量%以下とすることができる。22.0重量%以上、30.0重量%以上、又は35.0重量%以上とすることができる。
【0012】
本発明の無機繊維において、SiO量を、67.5重量%以下、63.0重量%以下、又は60.0重量%以下とすることができる。また、30.0重量%以上、又は45.0重量%以上とすることができる。
【0013】
ZrO、MgO及びSiOの量が以下の組成を有することができる。
ZrO:0.1〜16.5重量%
MgO:21.5〜60.0重量%
SiO:23.5〜68.0重量%
【0014】
ZrO、MgO及びSiOの量が以下の組成を有することができる。
ZrO:0.1〜15.0重量%
MgO:21.5〜45.0重量%
SiO:40.0〜68.0重量%
【0015】
ZrO、MgO及びSiOの量が以下の組成を有することができる。
ZrO:0.1〜10.0重量%
MgO:30.0〜40.0重量%
SiO:50.0〜68.0重量%
【0016】
耐アルミナ反応性の観点から、以下の組成が好ましい。
ZrO:0.0〜16.5重量%
MgO:30.0〜54.4重量%
SiO:32.4〜59.1重量%
【0017】
耐アルミナ反応性の観点から、以下の組成がより好ましい。
ZrO:5.0〜16.4重量%
MgO:30.7〜40.1重量%
SiO:47.6〜59.1重量%
【0018】
上記のZrO、MgO及びSiOの各成分の量は任意に組み合わせられる。
【0019】
ZrO、MgO及びSiOの合計を、80.0重量%以上、85.0重量%以上、90.0重量%以上、95.0重量%以上、98.0重量%以上、99.0重量%以上又は100.0重量%(ただし不可避不純物は含んでもよい)としてもよい。
特定する成分以外の残りは他の元素の酸化物又は不純物等である。
【0020】
本発明の無機繊維は、Sc,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Y又はこれらの混合物から選択されるそれぞれの酸化物を含んでも含まなくてもよい。これらの酸化物の量を、それぞれ5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下又は0.5重量%以下としてもよい。
【0021】
アルカリ金属酸化物(NaO、LiO、KO等)の各々は含まれても含まれなくてもよく、これらはそれぞれ又は合計で、5重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下又は0.5重量%以下とすることができる。
【0022】
TiO、ZnO、B、P、CaO、SrO、BaO、Cr、Fe、Alの各々は含まれても含まれなくてもよく、それぞれ10.0重量%以下、7.0重量%以下、5.0重量%以下、3.0重量%以下、2.0重量%以下、1U重量%以下又は0.5重量%以下とすることができる。
【0023】
無機繊維は溶融法、ゾルゲル法等公知の方法で製造できるが、低コストのため溶融法が好ましい。溶融法では、通常の方法により、原料の溶融物を作製し、この溶融物を繊維化して製造する。例えば、高速回転しているホイール上に熔解した原料を流し当てることで繊維化するスピニング法及び熔解した原料に圧縮空気を当てることで繊維化するブロー法等により製造できる。
【0024】
本発明の無機繊維の平均繊維径は、通常0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm、さらに好ましくは1〜10μm、最も好ましくは1〜8μmである。平均繊維径は、所望の繊維径になるように回転数、加速度、圧縮空気圧力、風速、風量等、既知の製造方法で調整すればよい。
【0025】
また、本発明の無機繊維は、加熱処理してもしなくてもよい。
加熱処理する場合は、繊維形状を維持する温度であればよい。加熱温度、加熱時間により繊維物性が変化するので適宜所望の性能(耐クリープ性、収縮率、強度、弾性)がでるように処理すればよい。
所定の加熱処理により無機繊維は非晶質から結晶質へ変化するが、上記の記載のように所望の性能がでればよく、非晶質、結晶質のどちらの状態でもよく、非晶質、結晶質部分がそれぞれが混在している状態でもよい。
加熱温度は、例えば100℃以上、300℃以上、好ましくは、600℃以上、800℃以上、さらに好ましくは1000℃以上、1200℃以上、1300℃以上、1400℃以上でよく、600℃〜1400℃、さらに好ましくは、800℃〜1200℃、800℃〜1000℃である。
【0026】
本発明の無機繊維は上記の組成を有することにより、pH7.4の生理食塩水に対する溶解性が高い。溶解性は、実施例1記載の測定方法で、好ましくは10mg/試料g以上、20mg/試料g以上、30mg/試料g以上である。
【0027】
本発明の繊維から、様々な二次製品が得られる。例えば、バルク、ブランケット、ブロック、ロープ、ヤーン、紡織品、界面活性剤を塗布した繊維、ショット(未繊維化物)を低減または取り除いたショットレスバルクや、水等の溶媒を使用し製造するボード、モールド、ペーパー、フェルト、コロイダルシリカを含浸したウェットフェルト等の定形品が得られる。また、それら定形品をコロイド等で処理した定形品が得られる。また、水等の溶媒を使用し製造する不定形材料(マスチック、キャスター、コーティング材等)も得られる。また、これら定形品、不定形品と各種発熱体を組み合わせた構造体も得られる。
【0028】
本発明の繊維の具体的な用途として、熱処理装置、工業窯炉や焼却炉等の炉における目地材、耐火タイル、断熱レンガ、鉄皮、モルタル耐火物等の隙間を埋める目地材、シール材、パッキング材、クッション材、断熱材、耐火材、防火材、保温材、保護材、被覆材、ろ過材、フィルター材、絶縁材、目地材、充填材、補修材、耐熱材、不燃材、防音材、吸音材、摩擦材(例えばブレーキパット用添加材)、ガラス板・鋼板搬送用ロール、自動車触媒担体保持材、各種繊維強化複合材料(例えば繊維強化セメント、繊維強化プラスチック等の補強用繊維、耐熱材、耐火材の補強繊維、接着剤、コート材等の補強繊維)等が例示される。
【実施例】
【0029】
実施例1〜26、比較例1,2
表1に示す組成を有する繊維を溶融法で製造し、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0030】
(生体溶解性)
以下の方法で、未加熱の繊維の生体溶解性を測定した。
繊維を、メンブレンフィルター上に置き、繊維上にマイクロポンプによりpH7.4の生理食塩水を滴下させ、繊維、フィルターを通った濾液を容器内に貯めた。貯めた濾液を24時間経過後に取り出し、溶出成分をICP発光分析装置により定量し、溶解度を算出した。測定元素は主要元素であるZr、Mg、Siの3元素とした。平均繊維径を測定して単位表面積・単位時間当たりの溶出量である溶解速度定数(単位:ng/cm・h)に換算した。
平均繊維径は以下の方法で測定した。
400本以上の繊維を、電子顕微鏡で観察・撮影した後、撮影した繊維について、その径を計測し、全計測繊維の平均値を平均繊維径とした。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例27〜50
表2に示す繊維組成について以下のように検討した。
まず、表2に示す組成となるように原料を混合し、プレス加工して成形体を得た。この成形体を加熱溶融し、急冷して得られた物を粉砕しサンプルを得た。このサンプルを用いて以下の方法で評価した。比較のため比較例1,2の繊維も同様に評価した。その結果を表2に示す。
【0033】
(生体溶解性)
サンプル1gを、pH7.4の生理食塩水150mLが入った三角フラスコ(容積300mL)に入れた。このフラスコを、37℃のインキュベーター内に設置して、毎分120回転の水平振動を2.5時間継続した。その後、ろ過により得られた濾液に含有されている各元素の量(mg)をICP発光分析装置により測定し、その合計を溶出量とした(mg/サンプル1g)。
【0034】
(アルミナ反応性)
サンプルを成形して、直径約7mm、厚み約5mmの円柱状サンプルを得た。この円柱状サンプルをアルミナ板に載せて、1400℃8時間加熱して、付着や溶融の有無を観察した。円柱状サンプルが溶融したときは4、付着したときは3、付着しないが痕が残ったときは2、付着もせず痕も残らないときは1とした。
【0035】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の無機繊維は、断熱材、またアスベストの代替品として、様々な用途に用いることができる。