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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-206548(P2015-206548A)
(43)【公開日】2015年11月19日
(54)【発明の名称】蒸発器
(51)【国際特許分類】
   F25B 39/02 20060101AFI20151023BHJP
【FI】
   F25B39/02 R
   F25B39/02 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-87622(P2014-87622)
(22)【出願日】2014年4月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】張 平
(72)【発明者】
【氏名】河合 満嗣
(57)【要約】
【課題】吸収式冷凍装置用の蒸発器において、簡易な構造により、蒸発性能を向上できるようにする。
【解決手段】蒸発器(60)は、蒸発コイル(81)の上下に隣り合う伝熱管(82)の間に散布機構(61)から散布された液体を保持する隙間(85)を確保しながら、上下に隣り合う伝熱管(82)を固定する固定部材(86)を備えている。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱媒体が流れる伝熱管(82)が上下に隣り合うように螺旋状に形成された少なくとも1つの蒸発コイル(81)と、該蒸発コイル(81)の上側から液体を散布する散布機構(61)とを備えた吸収式冷凍装置用の蒸発器であって、
上記蒸発コイル(81)の上下に隣り合う上記伝熱管(82)の間に上記散布機構(61)から散布された液体を保持する隙間(85)を確保しながら、上下に隣り合う伝熱管(82)を固定する固定部材(86)を備えている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項2】
請求項1において、
上記熱媒体の流入部(51a)及び流出部(51b)に並列に接続され、互いに同一方向に熱媒体が流れる複数の上記蒸発コイル(81)が上下に積まれて構成される蒸発コイルユニット(80)を備え、
上記固定部材(86)は、上下に隣り合う上記蒸発コイル(81)の間に上記散布機構(61)から散布された液体を保持する隙間(85)を確保しながら、上下に隣り合う上記蒸発コイル(81)を固定するように構成されている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記固定部材(86)は、上下に隣り合う伝熱管(82)を局所的に固定するロウ付部(86)で構成されている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項4】
請求項3において、
上記ロウ付部(86)は、上記伝熱管(82)の配列方向に延びている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項5】
請求項3において、
上下に隣り合う複数のロウ付部(86)が、上記伝熱管(82)の周方向にずれるように配置される
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項6】
請求項3乃至5のいずれか1つにおいて、
上記散布機構(61)は、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の上方に位置し、液体を滴下させるとともに上記ロウ付部(86)に対して該伝熱管(82)の周方向にずれるように配置される散布部(74)を有している
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、
上記散布機構(61)は、
環状の底壁部(64)と、
上記伝熱管(82)に沿うように上記底壁部(64)の外周縁部から下方に突出するとともに、上記液体が伝う突出板(63a,70a)と
を備えている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項8】
請求項7において、
上記突出板(63a,70a)の下端と連続し、下方に突出する少なくとも1つの突起部(74)を備えている
ことを特徴とする蒸発器。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1つにおいて、
上記散布機構(61)には、
流体が流入する流体流入路(66)と、
上記流入した流体をガスと液に分離する気液分離空間(67)と、
上記気液分離空間(67)で分離したガスが流出するガス流出路(68)と、
上記気液分離空間(67)に溜まった液体を下方に散布する液体流出路(72)と
が形成されている
ことを特徴とする蒸発器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸収式冷凍装置用の蒸発器に関し、特に蒸発性能の向上対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、吸収式冷凍装置が知られている。吸収式冷凍装置は、再生器、凝縮器、蒸発器、及び吸収器を有し、臭化リチウム水溶液を用いて吸収式冷凍サイクルを行う。
【0003】
特許文献1には、この種の吸収式冷凍装置が開示されている。特許文献1の蒸発器は、縦型螺旋状に形成した蒸発コイルと、該蒸発コイルに液を散布する散布機構とを備えている。特許文献1では、蒸発コイルの表面に接着剤とともに繊維を吹き付け、伝熱管の表面に繊維質層を形成している。これにより、散布機構から滴下した液体は、毛管現象により繊維質層に浸透する。この結果、特許文献1の蒸発コイルでは、蒸発コイルの全表面に液体を分布させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−190561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の蒸発器では、蒸発コイルの全表面に液体を分布させることで、蒸発器の蒸発性能を向上できる。しかしながら、蒸発コイルに繊維質層を形成するために、蒸発コイルの構造や製造工程の複雑化を招く。また、蒸発コイルの表面の繊維が剥がれ落ちた場合、この繊維を含んだ流体が吸収式冷凍サイクルの回路を循環することとなり、配管や散布器等の詰まりの原因となってしまう虞もある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸収式冷凍装置用の蒸発器において、簡易な構造により、蒸発性能を向上できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、熱媒体が流れる伝熱管(82)が上下に隣り合うように螺旋状に形成された少なくとも1つの蒸発コイル(81)と、該蒸発コイル(81)の上側から液体を散布する散布機構(61)とを備えた吸収式冷凍装置用の蒸発器を対象とし、上記蒸発コイル(81)の上下に隣り合う上記伝熱管(82)の間に上記散布機構(61)から散布された液体を保持する隙間(85)を確保しながら、上下に隣り合う伝熱管(82)を固定する固定部材(86)を備えていることを特徴とする。
【0008】
第1の発明では、散布機構(61)から散布された液体が蒸発コイル(81)の表面を伝って落ちていく。これにより、伝熱管(82)の表面の液体が、伝熱管(82)の内部を流れる熱媒体から吸熱して蒸発する。
【0009】
本発明では、上下に隣り合う伝熱管(82)の間に隙間(85)が確保されるように、各伝熱管(82)が固定部材(86)によって固定される。この隙間(85)の内部には、散布機構(61)から散布された液体が表面張力によって保持される。これにより、この隙間(85)の内部の液体は、その上下の伝熱管(82)を流れる熱媒体と熱交換する。この結果、蒸発せずに蒸発コイル(81)の下側まで流れてしまう液体(いわゆる無効冷媒)の量を低減でき、蒸発器(60)の蒸発性能を向上できる。
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、上記熱媒体の流入部(51a)及び流出部(51b)に並列に接続され、互いに同一方向に熱媒体が流れる複数の上記蒸発コイル(81)が上下に積まれて構成される蒸発コイルユニット(80)を備え、上記固定部材(86)は、上下に隣り合う上記蒸発コイル(81)の間に上記散布機構(61)から散布された液体を保持する隙間(85)を確保しながら、上下に隣り合う上記蒸発コイル(81)を固定するように構成されていることを特徴とする。
【0011】
第2の発明では、複数の蒸発コイル(81)が上下に積まれて蒸発コイルユニット(80)が構成される。各蒸発コイル(81)は、上下の伝熱管(82)の間に隙間(85)が確保されるようにして、固定部材(86)に固定される。このため、各蒸発コイル(81)の間の隙間(85)にも液体が保持され、その上下を流れる伝熱管(82)の冷媒と熱交換する。この結果、蒸発せずに蒸発コイルユニット(80)の下側まで流れてしまう無効冷媒の量を低減でき、蒸発器(60)の蒸発性能を向上できる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記固定部材(86)は、上下に隣り合う伝熱管(82)を局所的に固定するロウ付部(86)で構成されていることを特徴とする。
【0013】
第3の発明では、固定部材(86)がロウ付部(86)によって構成される。蒸発コイル(81)では、上下に隣り合う伝熱管(82)に局所的にロウ付部(86)が形成されることで、液体を保持するための隙間(85)が形成される。
【0014】
第4の発明は、第3の発明において、上記ロウ付部(86)は、上記伝熱管(82)の配列方向に延びていることを特徴とする。
【0015】
第4の発明では、ロウ付部(86)が伝熱管(82)の配列方向に延びて形成されることで、各伝熱管(82)が隙間(85)を介して固定される。
【0016】
第5の発明は、第3の発明において、上下に隣り合う複数のロウ付部(86)が、上記伝熱管(82)の周方向にずれるように配置されることを特徴とする。
【0017】
第5の発明では、上下に隣り合うロウ付部(86)が、伝熱管(82)の周方向にずれて配置される。上下に隣り合うロウ付部(86)が周方向に一致して上下に連なった状態になると、ロウ付部(86)の表面の液体が隙間(85)に入らずにロウ付部(85)を伝って下方へ流れ落ちてしまう虞がある。これに対し、本発明では、上下に隣り合うロウ付部(86)が周方向にずれることで、上側のロウ付部(86)のすぐ下側に、液体を保持するための隙間(85)が形成される。この結果、上述した無効冷媒の量を低減でき、蒸発器(60)の蒸発性能を向上できる。
【0018】
第6の発明は、第3乃至第5のいずれか1つの発明において、上記散布機構(61)は、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の上方に位置し、液体を滴下させるとともに上記ロウ付部(86)に対して該伝熱管(82)の周方向にずれるように配置される散布部(74)を有していることを特徴とする。
【0019】
第6の発明では、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の上方に散布機構(61)の散布部(74)が配置される。散布部(74)は、ロウ付部(86)に対して伝熱管(82)の周方向にずれて配置されるため、散布部(74)が滴下した液体が、ロウ付部(86)の表面を伝ってしまうことを回避でき、この液体を隙間(85)の内部に確実に送ることができる。
【0020】
第7の発明は、第1乃至第6のいずれか1つの発明において、上記散布機構(61)は、環状の底壁部(64)と、上記伝熱管(82)に沿うように上記底壁部(64)の外周縁部から下方に突出するとともに、上記液体が伝う突出板(63a,70a)とを備えていることを特徴とする。
【0021】
第7の発明では、散布機構(61)の環状の底壁部(64)の外周縁部から下方に突出する突出板(63a,70a)が設けられる。突出板(63a,70a)を伝った液体は、伝熱管(82)の表面へ流れ落ちる。このように底壁部(64)に対して突出板(63a,70a)を突出させると、突出板(63a,70a)の突端にある液体が、表面張力によって底壁部(64)側へ流れてしまうことを防止できる。この結果、突出板(63a,70a)を伝った液体を確実に蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の表面へ供給できる。
【0022】
第8の発明は、第7の発明において、上記突出板(63a,70a)の下端と連続し、下方に突出する少なくとも1つの突起部(74)を備えていることを特徴とする。
【0023】
第8の発明では、突出板(63a,70a)を伝った液体が突起部(74)に伝わり、下方へ流れ落ちる。これにより、液体を蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の所望とする位置に確実に供給できる。
【0024】
第9の発明は、第1乃至第8のいずれか1つの発明において、上記散布機構(61)には、流体が流入する流体流入路(66)と、上記流入した流体をガスと液に分離する気液分離空間(67)と、上記気液分離空間(67)で分離したガスが流出するガス流出路(68)と、上記気液分離空間(67)に溜まった液体を下方に散布する液体流出路(72)とが形成されている事を特徴とする。
【0025】
第9の発明では、流体流入路(66)から流入した流体が、気液分離空間(67)で液とガスとに分離される。分離したガスは、ガス流出路(68)より散布機構(61)の外部へ排出される。分離した液体は、液体流出路(72)を通じて蒸発コイル(81)へ供給される。本発明では、流体がフラッシュ(気化)してガスが発生したとしても、分離した液体だけを確実に蒸発コイル(81)へ供給できる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、上下に隣接する伝熱管(82)の隙間(85)に液体を保持するようにしたので、蒸発せずに流出する無効冷媒の量を低減することができ、蒸発器の蒸発性能を向上できる。また、従来例のように、伝熱管(82)の表面に繊維質層を形成するような加工が不要となり、比較的簡易な構造により蒸発器の蒸発性能を向上できる。
【0027】
また、上下に隣接する伝熱管(82)の間に隙間(85)を形成することで、これらの伝熱管(82)を流れる熱媒体同士の熱交換を抑制できる。即ち、蒸発コイル(81)では、伝熱管(82)を流れる熱媒体が徐々に冷却されるため、上下に隣接する伝熱管(82)を流れる熱媒体の間にも温度差が生じることがある。この場合、各伝熱管(82)を流れる熱媒体同士が熱交換し、伝熱管(82)を流れる熱媒体の冷却性能が低下してしまう可能性がある。
【0028】
これに対し、本発明では、隣り合う伝熱管(82)の間にそれぞれ隙間(85)を形成しているため、隣り合う伝熱管(82)を流れる熱媒体同士の熱交換を隙間(85)によって抑制できる。この結果、蒸発器(60)における熱媒体の冷却性能が向上する。
【0029】
第2の発明によれば、上下に隣接する蒸発コイル(81)の間の隙間(85)にも液体を保持することができ、無効冷媒の量を低減でき、蒸発器の蒸発性能を向上できる。
【0030】
また、上下に隣接する蒸発コイル(81)の間に隙間(85)を形成することで、各蒸発コイル(81)の伝熱管(82)を流れる熱媒体同士の熱交換を抑制できる。即ち、各蒸発コイル(81)では、熱媒体が流れる方向が同一となっているため、例えば最も上段の伝熱管(82)の熱媒体が最も低温となり、例えば最も下段の伝熱管(82)の熱媒体が最も高温となることがある。このため、蒸発コイル(81)を上下に積み上げた蒸発コイルユニット(80)では、最も低温の熱媒体が流れる伝熱管(82)と最も高温の熱媒体が流れる伝熱管(82)とが上下に隣接する。この場合、両者の伝熱管(82)を流れる熱媒体の温度差が大きくなり、熱媒体同士の熱交換が促進される。この結果、各蒸発コイル(81)の伝熱管(82)を流れる熱媒体の冷却性能が低下してしまう可能性がある。
【0031】
これに対し、本発明では、隣り合う蒸発コイル(81)の間にもそれぞれ隙間(85)を形成しているため、各蒸発コイル(81)の熱媒体同士の熱交換により冷却性能が著しく低下してしまうことを回避できる。
【0032】
第3の発明によれば、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)同士をロウ付部(86)によって局所的に固定することで、比較的簡易な構造により、液体を保持する隙間(85)を確保することができる。また、第2の発明のように、複数の蒸発コイル(81)を上下に積み重ねる構成においても、比較的簡易な構造により蒸発コイルユニットを自立させることができる。
【0033】
第4の発明によれば、ロウ付部(86)を伝熱管(82)の配列方向に延びて形成することで、上下に隣り合う伝熱管(82)を容易な加工により固定することができる。
【0034】
第5の発明によれば、上下に隣接するロウ付部(86)を伝熱管(82)の周方向にずらすことで、伝熱管(82)の表面を伝う液体を確実に隙間(85)に保持させることができ、無効冷媒の量を低減して蒸発性能を更に向上できる。
【0035】
第6の発明によれば、散布部(74)とロウ付部(86)とを伝熱管(82)の周方向にずらすことで、伝熱管(82)の表面を伝う液体を確実に隙間(85)に保持させることができ、無効冷媒の量を低減して蒸発性能を更に向上できる。
【0036】
第7の発明によれば、散布機構(61)の突出板(63a,70a)を伝った液体が表面張力によって底壁部(64)側へ流れるのを防止でき、伝熱管(82)の表面に確実に液体を供給できる。
【0037】
第8の発明によれば、突出板(63a,70a)を伝った液体を突起部(74)の突端から滴下できるため、伝熱管(82)の表面のうち所望とする箇所へ液体を供給できる。
【0038】
第9の発明によれば、散布機構(61)から分離した液体だけを蒸発コイル(81)へ供給できるので、蒸発器の蒸発性能を更に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1は、実施形態に係る空調システムの配管系統図である。
図2図2は、実施形態に係る蒸発器の斜視図である。
図3図3は、実施形態に係る蒸発器の配管の接続関係を模式的に表した構成図である。
図4図4は、実施形態に係る散布機構の図2におけるY−Y断面図である。
図5図5(A)は、実施形態に係る散布機構の気液分離空間の近傍を拡大した図4相当図であり、図5(B)は、図5(A)のカバー部材を外した状態におけるX矢視図である。
図6図6は、実施形態に係る散布機構の下面図である。
図7図7は、実施形態に係る蒸発コイルユニットのロウ付部の箇所を模式的に表した平面図である。
図8図8は、実施形態に係る蒸発コイルユニットのロウ付部の箇所を模式的に表した側面図である。
図9図9は、実施形態に係る蒸発コイルユニットの一部を拡大した側面図である。
図10図10は、実施形態1に係る散布機構と蒸発コイルユニットの一部を拡大した側面図である。
図11図11は、実施形態2に係る散布機構と蒸発コイルユニットの一部を拡大した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0041】
《発明の実施形態1》
本発明の実施形態1は、室内の冷房と暖房とを行う空調システム(1)である。図1に示すように、空調システム(1)は、吸収式冷凍装置(10)と、熱源装置(40)と、空気調和装置(50)とを備えている。
【0042】
〈吸収式冷凍装置〉
吸収式冷凍装置(10)は、再生器(30)と凝縮器(31)と蒸発器(60)と吸収器(32)とを備えている。吸収式冷凍装置(10)は、臭化リチウム(LiBr)水溶液を吸収液として用い、水を冷媒として用いる。吸収式冷凍装置(10)では、吸収式冷凍サイクルが行われる。吸収式冷凍装置(10)は、熱源装置(40)から供給された温熱を利用して作動する。吸収式冷凍装置(10)は、空気調和装置(50)の冷媒の冷却に利用される。
【0043】
再生器(30)は、発生容器(30a)と吸収液散布器(30b)と伝熱プレート(30c)とを備えている。発生容器(30a)は、起立した中空直方体状の部材である。発生容器(30a)の頂部には、蒸気流出管(11)が接続されている。発生容器(30a)の底部には、第1吸収液流出管(12)の流入端が接続されている。発生容器(30a)の上部側壁には、第1吸収液供給管(13)が貫通している。第1吸収液供給管(13)の流出端は、吸収液散布器(30b)に接続している。
【0044】
吸収液散布器(30b)は、伝熱プレート(30c)の上側に配置されている。吸収液散布器(30b)は、第1吸収液供給管(13)から供給された吸収液を伝熱プレート(30c)の表面に散布する。
【0045】
発生容器(30a)の下部側壁には、第1熱媒体流入管(14)が貫通している。第1熱媒体流入管(14)の流出端は、伝熱プレート(30c)の内部流路(図示省略)の流入端に接続されている。発生容器(30a)の上部側壁には、第1熱媒体流出管(15)が貫通している。第1熱媒体流出管(15)の流入端は、伝熱プレート(30c)の内部流路の流出端に接続されている。伝熱プレート(30c)の内部流路では、熱源装置(40)から供給された熱媒体が下部から上部に向かって流れる。伝熱プレート(30c)では、内部流路を流れる熱媒体と、吸収液散布器(30b)から散布された吸収液とが熱交換する。
【0046】
凝縮器(31)は、蒸気流出管(11)の流出側に接続されている。凝縮器(31)の近傍には、第1ファン(31a)が設置されている。凝縮器(31)では、凝縮器(31)の内部を流れる水蒸気と第1ファン(31a)が送風する空気とが熱交換する。
【0047】
蒸発器(60)及び吸収器(32)は、1つのシェル部材(33)の内部に収容されている。シェル部材(33)の内部空間は、エリミネータ(34)によって左右に区画されている。エリミネータ(34)は、複数の孔を有し、水蒸気中から液体を分離する。シェル部材(33)の内部空間のうちエリミネータ(34)で仕切られた一方の空間には、蒸発器(60)が収容され、他方の空間には吸収器(32)が収容されている。
【0048】
蒸発器(60)は、散布機構(61)と、該散布機構(61)の下側に配置された蒸発コイルユニット(80)とを備えている。シェル部材(33)の頂部には、液供給管(16)が貫通している。液供給管(16)の流出端は、散布機構(61)に接続している。散布機構(61)は、液供給管(16)から供給された液体(水)を、蒸発コイルユニット(80)の上側から散布する。
【0049】
蒸発コイルユニット(80)は、空気調和装置(50)から供給される冷媒(熱媒体)が流れる伝熱管(82)を有している。蒸発コイルユニット(80)では、散布機構(61)から散布された水と、伝熱管(82)を流れる冷媒とが熱交換する。蒸発器(60)は、散布機構(61)から散布されてシェル部材(33)の底部に溜まった液体がそのまま排出される、いわゆる一過式に構成される。散布機構(61)及び蒸発コイルユニット(80)の詳細な構造は後述する。
【0050】
吸収器(32)は、吸収液散布部材(32a)を備えている。シェル部材(33)の頂部には、第2吸収液供給管(17)が貫通している。第2吸収液供給管(17)の流出端は、吸収液散布部材(32a)に接続している。吸収液散布部材(32a)は、第2吸収液供給管(17)から供給された吸収液を水蒸気に向かって散布する。シェル部材(33)の底部には、吸収液流入管(18)の流出端と、第2吸収液流出管(19)の流入端とが接続されている。
【0051】
吸収式冷凍装置(10)は、ポンプ(35)と冷却用熱交換器(36)と溶液熱交換器(37)と過熱器(38)とを備えている。
【0052】
ポンプ(35)は、第2吸収液流出管(19)の途中に接続されている。ポンプ(35)は、シェル部材(33)から流出した吸収液を搬送する搬送機構を構成している。
【0053】
冷却用熱交換器(36)は、第2吸収液流出管(19)から分岐した第2吸収液供給管(17)に接続されている。冷却用熱交換器(36)の近傍には、第2ファン(36a)が設置されている。冷却用熱交換器(36)では、冷却用熱交換器(36)の内部を流れる吸収液と第2ファン(36a)が送風する空気とが熱交換する。
【0054】
溶液熱交換器(37)は、第1流路(37a)と第2流路(37b)とが形成されたプレート式の熱交換器である。溶液熱交換器(37)の第1流路(37a)の流入端は、第2吸収液流出管(19)と接続している。溶液熱交換器(37)の第1流路(37a)の流出端は、過熱器(38)の第2流路(38b)と繋がっている。溶液熱交換器(37)の第2流路(37b)の流入端は、第1吸収液流出管(12)と接続している。溶液熱交換器(37)の第2流路(37b)の流出端は、吸収液流入管(18)と接続している。
【0055】
溶液熱交換器(37)では、第1流路(37a)を流れる吸収液と、第2流路(37b)を流れる吸収液とが熱交換する。溶液熱交換器(37)では、第1流路(37a)を流れる吸収液と、第2流路(37b)を流れる吸収液とが互いに逆向きとなっている。つまり、溶液熱交換器(37)は、対向流式の熱交換器を構成している。
【0056】
過熱器(38)は、第1流路(38a)と第2流路(38b)とが形成されたプレート式の熱交換器である。過熱器(38)の第1流路(38a)の流入端は、第2熱媒体流入管(20)と接続している。過熱器(38)の第1流路(38a)の流出端は、第2熱媒体流出管(21)と接続している。第2熱媒体流入管(20)は、第1熱媒体流入管(14)から分岐し、第2熱媒体流出管(21)は、第1熱媒体流出管(15)から分岐している。
【0057】
過熱器(38)では、第1流路(38a)を流れる熱媒体と第2流路(38b)を流れる吸収液とが熱交換する。過熱器(38)では、第1流路(38a)を流れる熱媒体と、第2流路(38b)を流れる吸収液とが互いに逆向きとなっている。つまり、過熱器(38)は、対向流式の熱交換器を構成している。
【0058】
〈熱源装置〉
図1に示すように、熱源装置(40)は、集熱部(41)と熱媒体循環回路(42)とを備えている。熱媒体循環回路(42)の流出端は、連絡配管を介して第1熱媒体流入管(14)と繋がっている。熱媒体循環回路(42)の流入端は、連絡配管を介して第1熱媒体流出管(15)と繋がっている。熱源装置(40)は、集熱部(41)で得られた熱を再生器(30)の伝熱プレート(30c)へ供給する。
【0059】
〈空気調和装置〉
図1に示すように、空気調和装置(50)は、室外ユニット(50a)と室内ユニット(50b)とが連絡配管で接続され、冷媒回路(51)が構成されている。冷媒回路(51)では、充填された冷媒(R410A)が循環して蒸気圧縮式の冷凍サイクルが行われる。
【0060】
冷媒回路(51)には、圧縮機(52)と四方切換弁(53)と室外熱交換器(54)と膨張弁(55)と室内熱交換器(56)とが接続されている。圧縮機(52)と四方切換弁(53)と室外熱交換器(54)と膨張弁(55)とは、室外ユニット(50a)に収容され、室外熱交換器(54)は、室内ユニット(50b)に収容される。また、冷媒回路(51)では、室外熱交換器(54)と膨張弁(55)との液ラインに、吸収式冷凍装置(10)の蒸発コイルユニット(80)が接続されている。
【0061】
圧縮機(52)の吐出管は、四方切換弁(53)の第1ポートに接続し、圧縮機(52)の吸入管は、四方切換弁(53)の第3ポートに接続している。冷媒回路(51)では、四方切換弁(53)の第3ポートから第4ポートに向かって順に、室外熱交換器(54)、蒸発コイルユニット(80)、膨張弁(55)、室内熱交換器(56)が接続されている。
【0062】
四方切換弁(53)は、第1ポートと第3ポートとが連通し且つ第2ポートと第4ポートとが連通する第1状態(図1の実線で示す状態)と、第1ポートと第4ポートとが連通し且つ第2ポートと第3ポートとが連通する第2状態(図1の破線で示す状態)とに切換可能に構成される。
【0063】
室外熱交換器(54)の近傍には、室外ファン(54a)が設置される。室外熱交換器(54)では、内部を流れる冷媒と室外ファン(54a)が送風する室外空気とが熱交換する。膨張弁(55)は、開度が調節可能な電子膨張弁で構成される。室内熱交換器(56)の近傍には、室内ファン(56a)が設置される。室内熱交換器(56)では、内部を流れる冷媒と室内ファン(56a)が送風する室内空気とが熱交換する。
【0064】
〈蒸発器の詳細な構成〉
実施形態1に係る蒸発器(60)の構成について、図2図10を参照しながら詳細に説明する。図2にも示すように、蒸発器(60)は、散布機構(61)と、該散布機構(61)の下側に設けられる蒸発コイルユニット(80)と、該蒸発コイルユニット(80)を支持する支持部材(90)とを備えている。
【0065】
支持部材(90)は、円環状のプレート部(91)と、該プレート部(91)の上面から上方に延びる4本の支柱部(92)とを備えている。4本の支柱部(92)の上端部に蒸発コイルユニット(80)が設置されている。
【0066】
本実施形態の蒸発コイルユニット(80)は、8つの蒸発コイル(81)が上下方向に積み重ねられて構成されている。なお、蒸発コイル(81)の数量はこれに限らず、少なくとも1つ以上であればよい。各蒸発コイル(81)は、冷媒(熱媒体)が流れる伝熱管(82)が上下に隣り合うように螺旋状に形成されている。各蒸発コイル(81)は、その下端側に冷媒の流入管(83)が形成され、その上端側に冷媒の流出管(84)が形成されている。つまり、蒸発コイル(81)では、下側の流入管(83)から流入した冷媒が、伝熱管(82)の内部を徐々に上方へ流れ、上側の流出管(84)より流出する。
【0067】
図3に模式的に示すように、蒸発コイルユニット(80)では、8つの蒸発コイル(81)が冷媒回路(51)に並列に接続されている。具体的に、各蒸発コイル(81)は、冷媒回路(51)の流入部(51a)及び流出部(51b)に並列に接続されている。従って、冷媒回路(51)の冷媒は、流入部(51a)から各蒸発コイル(81)の流入管(83)にそれぞれ分流する。分流した冷媒は、各蒸発コイル(81)の伝熱管(82)を流れ、各流出管(84)より冷媒回路(51)の流出部(51b)で合流する。
【0068】
図2図4図5図6等に示すように、散布機構(61)は、外形が略円筒状の部材によって構成される。図4に示すように、散布機構(61)は、円筒状の内側筒部(62)と、該内側筒部(62)の周囲に形成される円筒状の外側筒部(63)と、内側筒部(62)と外側筒部(63)の各下端の間に介在する環状の底壁部(64)とを有している。外側筒部(63)の外径は、内側筒部(62)の外径より大きい。内側筒部(62)と外側筒部(63)と底壁部(64)の軸心は概ね一致している。内側筒部(62)の高さは、外側筒部(63)の高さよりも大きい。また、外側筒部(63)の外径は、各蒸発コイル(81)の外径と概ね等しく、且つ外側筒部(63)の軸心と各蒸発コイル(81)の軸心も概ね一致している。
【0069】
散布機構(61)は、略筒状の仕切部材(65)を有している。仕切部材(65)は、上蓋部(65a)と外壁部(65b)と傾斜部(65c)と中間仕切部(65d)とを備えている。上蓋部(65a)は、円環状に形成され、内側筒部(62)の上部外周面に固定されている。上蓋部(65a)には、上述した液供給管(16)の流出部が貫通している。外壁部(65b)は、上蓋部(65a)の外周端部から下方に延びる筒状に形成される。傾斜部(65c)は、外壁部(65b)の下端から内側斜め下方に傾斜したテーパー筒状に形成される。中間仕切部(65d)は、傾斜部(65c)の下端から下方に延びる筒状に形成され、内側筒部(62)と外側筒部(63)の間に位置している。中間仕切部(65d)の下端は、外側筒部(63)の高さ方向の中間位置にある。
【0070】
散布機構(61)には、流体流入路(66)と気液分離空間(67)とガス流出路(68)とが形成される。流体流入路(66)は、内側筒部(62)と仕切部材(65)との間に形成される。流体流入路(66)には、液供給管(16)の流体(主として水)が流出する。流体流入路(66)では、流体の一部がフラッシュ(気化)してガスが発生することがある。気液分離空間(67)は、仕切部材(65)と底壁部(64)との間に形成される筒状の空間で構成される。気液分離空間(67)では、流体がフラッシュしたガス(水蒸気)と、液体(水)とに分離される。分離した液体は、気液分離空間(67)の下部に溜まり込む。
【0071】
ガス流出路(68)は、仕切部材(65)と外側筒部(63)との間に形成される。ガス流出路(68)には、気液分離空間(67)で分離した水蒸気が流れ、この水蒸気は散布機構(61)の外部へ流出する。
【0072】
図2図5図6図10にも示すように、散布機構(61)は、3枚のガイド板(69)と、該ガイド板(69)の外側に対応して配置される3枚のカバー板(70)とを備えている。各ガイド板(69)及び各カバー板(70)は、周方向に等間隔に配置される。
【0073】
3枚のガイド板(69)は、内側筒部(62)の外周面に沿った円弧状に形成される。各ガイド板(69)には、それぞれ3つの切欠溝(69a)が形成される。各切欠溝(69a)は、ガイド板(69)の周方向の両端部と、該ガイド板(69)の周方向の中間部とにそれぞれ1つずつ形成されている。各切欠溝(69a)は、ガイド板(69)の下端から上端近傍まで延びている。切欠溝(69a)は、縦長に形成され、下側に向かって開放されている。
【0074】
外側筒部(63)には、各切欠溝(69a)の上端部に対応する位置に連通孔(71)がそれぞれ形成される。また、各切欠溝(69a)は、各ガイド板(69)に対応する円弧状のカバー板(70)によって覆われる。これにより、切欠溝(69a)の内部には、連通孔(71)を介して気液分離空間(67)と連通する液体流出路(72)が形成される。
【0075】
外側筒部(63)には、ガイド板(69)及びカバー板(70)に対応する位置に、底壁部(64)の外周縁部から下方に突出する内側突出板(63a)が形成される。内側突出板(63a)は、下側の伝熱管(82)に沿った円弧状に形成され、液体流出路(72)を流れる水が伝うように構成される。また、カバー板(70)の下部には、底壁部(64)の外周縁部から下方に突出する外側突出板(70a)が形成される。外側突出板(70a)は、下側の伝熱管(82)に沿った円弧状に形成され、液体流出路(72)を流れる水が伝うように構成される。内側突出板(63a)の下端と外側突出板(70a)の下端と高さは概ね等しい。これに対し、ガイド板(69)の下端は、内側突出板(63a)や外側突出板(70a)の下端よりも上方に位置している。これにより、ガイド板(69)の下端部とガイド板(69)の下端部との間には、平面視において円弧状の溝(73)が形成される(図6を参照)。
【0076】
各ガイド板(69)には、3つ切欠溝(69a)(液体流出路(72))の下部に対応する位置にそれぞれ一対の突起部(74,74)が形成される。つまり、各ガイド板(69)には、周方向の両端部と、その中間部とにそれぞれ一対の突起部(74,74,)が形成される。一対の突起部(74,74,)は、液体流出路(72)の流出口(72a)の周方向両側に隣接して配置される(図5(B)を参照)。一対の突起部(74,74,)は、互いに平行な略棒状に形成される。一対の突起部(74,74,)は、内側突出板(63a)及び外側突出板(70a)の下端部から下方に突出している。一対の突起部(74,74,)の突端は、径方向外方から視て円弧状に形成されている。各一対の突起部(74,74,)は、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)と筒軸方向にオーバーラップする位置にある。突起部(74)は、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の上方に位置し、液体を滴下させる散布部を構成している。なお、突起部(74)の数は単なる例示であり、少なくとも1つ以上であれば如何なる数であってもよい。
【0077】
〈蒸発コイルの隙間について〉
実施形態に係る蒸発器(60)では、図8図10に示すように、上下に隣り合う伝熱管(82)の間に僅かな隙間(85)が形成されている。具体的に、蒸発コイルユニット(80)では、上下に隣り合う全ての伝熱管(82)の間に約1mmの隙間(85)が確保されるように、各伝熱管(82)がロウ付部(固定部材(86))によって固定される。例えばこの隙間(85)を確保するためには、各伝熱管(82)の間の約1mmの隙間(85)を確保するように蒸発コイルユニット(80)を治具で固定し、この状態で各伝熱管(82)をロウ付けする。本実施形態では、図7及び図8に示すように、蒸発コイル(81)の周方向に等間隔(等角度90°)を置いた4箇所において、局所的にロウ付部(86)が形成される。また、本実施形態では、4箇所に形成された各ロウ付部(86)が伝熱管(82)の配列方向(上下方向)に連なって延びており、隣り合う伝熱管(82)同士を互いに固定している。
【0078】
これにより、各ロウ付部(86)の間には、図9に示すように僅かな隙間(85)が形成される。この隙間(85)は、散布機構(61)から散布された液体を保持する間隔に設定されている。つまり、この隙間(85)が小さすぎると、散布機構(61)から散布された液体が隙間にほとんど入らない。また、この隙間(85)が大きすぎると、散布機構(61)から散布された液体を表面張力により保持できなくなる。。
【0079】
図10に示すように、本実施形態では、散布機構(61)の各一対の突起部(74,74,)と、上下に延びるロウ付部(86)の位置が伝熱管(82)の周方向にずれている。つまり、一対の突起部(74,74,)は、ロウ付部(86)と筒軸方向に一致しておらず、ロウ付部(86)の間の隙間(85)と筒軸方向にオーバーラップしている。
【0080】
−空調システムの運転動作−
空調システム(1)は、冷房運転と暖房運転とを行う。暖房運転では、吸収式冷凍装置(10)及び熱源装置(40)が停止状態なり、空気調和装置(50)が運転状態となる。つまり、暖房運転では、図1に示す四方切換弁(53)が第2状態となり、圧縮機(52)で圧縮された冷媒が室内熱交換器(56)で凝縮し、膨張弁(55)で減圧された後、室外熱交換器(54)で蒸発する。
【0081】
一方、空調システム(1)の冷房運転では、冷房負荷が比較的高い場合において、吸収式冷凍装置(10)及び熱源装置(40)が運転状態となる。ここでは、この冷房運転の基本的な動作について図1を参照しながら説明する。
【0082】
〈冷房運転〉
冷房運転では、吸収式冷凍装置(10)、熱源装置(40)、及び空気調和装置(50)が運転状態となる。吸収式冷凍装置(10)では、ポンプ(35)が運転される。空気調和装置(50)では、圧縮機(52)が運転され、四方切換弁(53)が第1状態となる。また、熱源装置(40)では、集熱部(41)で過熱された熱媒体が熱媒体循環回路(42)を循環する。
【0083】
吸収式冷凍装置(10)では、シェル部材(33)の底部に溜まった吸収液が、ポンプ(35)によって搬送される。この吸収液は、一部が冷却用熱交換器(36)に分流し、残りが溶液熱交換器(37)の第1流路(37a)を流れる。冷却用熱交換器(36)では、第2ファン(36a)に搬送される空気によって吸収液が冷却される。冷却された吸収液は、吸収器(32)の吸収液散布部材(32a)から下方に散布され、シェル部材(33)の内部の水蒸気を吸収する。
【0084】
溶液熱交換器(37)の第1流路(37a)を流れる吸収液は、第2流路(37b)を流れる吸収液から吸熱し、その温度が上昇する。溶液熱交換器(37)の第1流路(37a)を流出した吸収液は、過熱器(38)の第2流路(38b)を流れる。過熱器(38)の第2流路(38b)を流れる吸収液は、第1流路(38a)を流れる熱媒体から吸熱し、その温度が上昇する。このとき、第2流路(38b)の吸収液の温度は、その沸点まで上昇する。つまり、過熱器(38)の第2流路(38b)では、吸収液が顕熱変化する。
【0085】
過熱器(38)の第2流路(38b)から流出した吸収液は、再生器(30)の吸収液散布器(30b)から下方へ散布される。再生器(30)の伝熱プレート(30c)では、吸収液散布器(30b)から散布された吸収液が、内部流路を流れる熱媒体によって加熱される。この結果、吸収液中から水蒸気が発生し、吸収液の濃度が高くなる。
【0086】
発生容器(30a)の底部に溜まった吸収液は、溶液熱交換器(37)の第2流路(37b)を流れ、第1流路(37a)を流れる吸収液へ放熱する。溶液熱交換器(37)の第2流路(37b)で冷却された吸収液は、シェル部材(33)の底部に流入する。
【0087】
発生容器(30a)の外部へ流出した水蒸気は、凝縮器(31)へ流入し、空気へ放熱して凝縮する。凝縮した流体(主として水)は、散布機構(61)から蒸発コイルユニット(80)へ散布される。蒸発コイルユニット(80)の伝熱管(82)には、冷媒が流れている。このため、蒸発コイルユニット(80)の表面の水は、冷媒から吸熱して蒸発する。蒸発した水蒸気は、エリミネータを通過し、吸収液散布部材(32a)から散布された吸収液に吸収される。
【0088】
空気調和装置(50)では、圧縮機(52)で圧縮された冷媒が、室外熱交換器(54)で凝縮する。凝縮した冷媒は、図3に示すように、冷媒回路(51)の流入部(51a)から各蒸発コイル(81)の流入管(83)に分流する。各蒸発コイル(81)では、各伝熱管(82)を流れる冷媒が、散布機構(61)から散布された水に放熱して冷却される。つまり、吸収式冷凍装置(10)の蒸発器(60)は、冷媒回路(51)の過冷却熱交換器を構成する。各蒸発コイル(81)の伝熱管(82)を流れた冷媒は、各流出管(84)より冷媒回路(51)の流出部(51b)に合流する。つまり、蒸発コイルユニット(80)では、複数(8つの)の並列の冷媒パスが形成される。
【0089】
蒸発コイルユニット(80)で過冷却された冷媒は、膨張弁(55)で減圧された後、室内熱交換器(56)で蒸発する。この結果、室内空気が冷却され、冷房が行われる。室内熱交換器(56)で蒸発した冷媒は、圧縮機(52)に吸入されて再び圧縮される。
【0090】
〈蒸発器の動作〉
上述した冷房運転における蒸発器の動作について詳細に説明する。
【0091】
図4に示すように、冷房運転では、凝縮器(31)で凝縮した水が、液供給管(16)を流れ、流体流入路(66)へ流入する。この際、流体流入路(66)の水の一部が、フラッシュ(気化)して水蒸気になることがある。水と水蒸気とを含む流体は、気液分離空間(67)へ流れ液(水)とガス(水蒸気)とに分離される。分離された水は、気液分離空間(67)の下部に溜まっていく。分離されたガスは、ガス流出路(68)を上方へ流れ、散布機構(61)の外部へ排出される。このように、散布機構(61)は、散布する前の流体を液とガスとに分離し、液だけを散布するように構成されるため、蒸発コイルユニット(80)での蒸発性能(冷媒の冷却性能)が向上する。
【0092】
図5に示すように、気液分離空間(67)の下部に溜まった水は、連通孔(71)を通じて液体流出路(72)へ流出する。この水は、液体流出路(72)を流れ、外側突出板(70a)及び内側突出板(63a)を伝って下方へ落ちていく。図5(A)に示すように、外側突出板(70a)及び内側突出板(63a)は、底壁部(64)よりも下方に突出している。このため、外側突出板(70a)及び内側突出板(63a)を伝う水が、例えば図5(A)の破線矢印で示すように、表面張力により底壁部(64)側へ流れることを回避でき、各突出板(63a,70a)の下方へ確実に水を滴下することができる。
【0093】
また、散布機構(61)では、各突出板(63a,70a)の下端部に連続するようにして、複数の突起部(74)が設けられている。このため、液体流出路(72)から流出した水は、各突起部(74)を伝うように下方へ落ちていく。これにより、水の散布位置を確実に管理でき、この水を蒸発コイル(81)の伝熱管(82)の所望とする箇所に供給できる。
【0094】
蒸発コイルユニット(80)の表面に滴下した水は、各伝熱管(82)の表面を伝って下方へ流れ落ちていく。図10に示すように、各突起部(74)とロウ付部(86)とは、伝熱管(82)の周方向に互いにずれている。このため、各突起部(74)から滴下した水がロウ付部(86)の表面を伝っていくことを回避でき、伝熱管(82)の内部の冷媒と水の伝熱が損なわれてしまうのを回避できる。
【0095】
また、各突起部(74)から滴下した水は、各伝熱管(82)の隙間(85)を通過する。これにより、伝熱管(82)の表面を伝う水は、表面張力により隙間(85)の内部に保持される。この結果、蒸発コイルユニット(80)では、水と冷媒との伝熱が促進され、蒸発性能(冷媒の冷却性能)が向上する。
【0096】
この隙間(85)は、上下に隣接する伝熱管(82)同士の冷媒の熱交換を抑制する効果も奏する。つまり、蒸発コイル(81)の伝熱管(82)では、下側から上側に向かって徐々に冷媒の温度が低くなる。冷房運転では、蒸発コイル(81)において冷媒が過冷却されるからである。このため、上下に隣接する伝熱管(82)では、各々の伝熱管(82)を流れる冷媒に温度差が生じる。このようにして、それぞれの冷媒が上下の伝熱管(82)を介して熱交換すると、冷媒の冷却性能が低下してしまう。これに対し、本実施形態の蒸発コイル(81)では、上下に隣接する伝熱管(82)の間に隙間(85)が形成されるため、各伝熱管(82)の冷媒同士の熱交換を抑制できる。この結果、蒸発コイル(81)では、所望とする冷媒の冷却性能を得ることができる。
【0097】
更に、この隙間(85)は、上下に隣接する各蒸発コイル(81)同士の冷媒の熱交換を抑制する効果も奏する。つまり、各蒸発コイル(81)では、最下段の伝熱管(82)を流れる冷媒の温度が最も高く、最上段の伝熱管(82)を流れる冷媒の温度が最も低い。このため、各蒸発コイル(81)を上下に積んで蒸発コイルユニット(80)を構成すると、下側の蒸発コイル(81)の最上段の伝熱管(82)を流れる冷媒と、その上側に隣接する蒸発コイル(81)の最下段の伝熱管(82)を流れる冷媒の温度差がかなり大きくなる。このようにして、それぞれの冷媒が各伝熱管(82)を介して熱交換すると、冷媒の冷却性能が著しく低下してしまう。これに対し、本実施形態の蒸発コイルユニット(80)では、上下に隣接する蒸発コイルユニット(80)の間にも隙間(85)を形成しているため、各蒸発コイルユニット(80)の伝熱管(82)の冷媒同士の熱交換を抑制できる。この結果、蒸発コイルユニット(80)では、所望とする冷媒の冷却性能を得ることができる。
【0098】
−実施形態1の効果−
実施形態1によれば、上下に隣接する伝熱管(82)の隙間(85)に液体を保持するようにしたので、蒸発せずに流出する、いわゆる無効冷媒の量を低減することができ、蒸発器の蒸発性能を向上できる。また、従来例のように、伝熱管(82)の表面に繊維質層を形成するような加工が不要となり、比較的簡易な構造により蒸発器の蒸発性能を向上できる。
【0099】
また、上下に隣接する伝熱管(82)の間に隙間(85)を形成することで、これらの伝熱管(82)を流れる冷媒同士の熱交換を抑制できる。この結果、隣接する伝熱管(82)を流れる冷媒同士の熱交換に起因して、蒸発器(60)の冷却性能が低下してしまうことを防止できる。
【0100】
また、上下に隣接する蒸発コイル(81)の間に隙間(85)を形成することで、比較的温度差の大きな冷媒同士が熱交換することも抑制できる。この結果、このような冷媒同士の熱交換に起因して、蒸発器(60)の冷却性能が著しく低下してしまうことを防止できる。
【0101】
また、図8に示すように、蒸発コイルユニット(80)では、伝熱管(82)の配列方向(上下方向)にロウ付部(86)を延ばして各伝熱管(82)を固定している。このため、比較的容易な加工により各伝熱管(82)を固定しつつ、各伝熱管(82)の間に隙間(85)を確保できる。また、このようにすると、各蒸発コイル(81)を互いに固定する柱部材等を用いずとも、蒸発コイルユニット(80)を自立させることができる。例えば柱部材により蒸発コイル(81)を互いに固定すると、散布機構(61)から散布された液体が柱部材を伝って流れることがあり、無効冷媒の量が増大してしまう可能性がある。これに対し、本実施形態では、ロウ付部(86)を固定部材とすることで、このような無効冷媒の量を低減でき、蒸発器(60)の蒸発性能を向上できる。
【0102】
また、図10に示すように、液体が滴下する突起部(74)と、ロウ付部(86)とは、伝熱管(82)の周方向にずれている。このため、突起部(74)から滴下された液体が、ロウ付部(86)の表面を伝って下方まで流出してしまうことを防止できる。つまり、突起部(74)から滴下された液体は、確実に隙間(85)の内部に保持されるため、液体と冷媒との熱交換が促進され、蒸発器(60)の蒸発性能を向上できる。
【0103】
また、図4に示すように、散布機構(61)に供給された流体は、気液分離空間(67)で液(水)とガス(水蒸気)とに分離され、分離された水だけを蒸発コイルユニット(80)へ散布している。この結果、蒸発器(60)の蒸発性能を更に向上できる。
【0104】
また、図5に示すように、気液分離空間(67)で分離された水は、内側突出板(63a)や外側突出板(70a)を伝って下方へ流れ、更に突起部(74)の突端より下方へ流れ落ちる。これにより、分離された水が、表面張力により底壁部(64)側へ流れてしまうことを防止でき、伝熱管(82)の所望とする箇所に確実に液体を供給することができる。
【0105】
《発明の実施形態2》
本発明の実施形態2について図11を参照しながら説明する。実施形態2は、実施形態1と固定部材(ロウ付部(86))の構成が異なるものである。
【0106】
実施形態2では、上下に隣接する伝熱管(82)を固定するロウ付部(86)が点付けされている。蒸発コイルユニット(80)では、上下に隣り合う各ロウ付部(86)が周方向にずれるように形成されている。より具体的に、例えば図11の例では、上下に隣り合う各ロウ付部(86)の間に1つの隙間(85)が介在するように、各ロウ付部(86)が上下方向に配列されている。そして、周方向に隣り合う各列のロウ付部(86)同士は、1つの隙間(85)分だけ上下方向にシフトして配置される。つまり、実施形態2の蒸発コイルユニット(80)では、各ロウ付部(86)が千鳥状に配列されている。また、実施形態2においても、散布機構(61)の各突起部(74)と、各列のロウ付部(86)とが、伝熱管(82)の周方向にずれている。
【0107】
実施形態1のように、蒸発コイルユニット(80)のロウ付部(86)が上下方向に連続して連なっている場合、仮に散布された水がロウ付部(86)の表面に伝わると、水がこのロウ付部(86)を伝って蒸発コイルユニットの下端までいっきに流れ落ちてしまう可能性がある。
【0108】
これに対し、実施形態2では、複数のロウ付部(86)が千鳥状に配列され、上下方向に連続して連なっていない。このため、散布された水がロウ付部(86)の表面に伝わったとしても、この水は、その下側の隙間(85)に保持される。従って、実施形態2では、ロウ付部(86)の表面に伝わった水が蒸発コイルユニットの下端までいっきに流れ落ちてしまうことを確実に防止でき、蒸発性能(冷媒の冷却性能)を向上できる。
【0109】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0110】
上記実施形態の散布機構(61)では、円弧状のガイド板(69)及び円弧状のカバー板(70)がそれぞれ3つずつ設けられているが、これらを1つの筒状の部材として構成してもよい。この場合、外側筒部(63)において、周方向に等間隔に連通孔(71)を形成し、ガイド板(69)には、この連通孔(71)に対応する位置に切欠溝(69a)を形成する。これにより、散布機構(61)からは、周方向に等間隔置きに水を滴下できるので、蒸発コイルユニット(80)の全周に均一に水を供給でき、蒸発性能を向上できる。
【0111】
また、上記実施形態の固定部材は、ロウ付部(86)によって構成されているが、例えば伝熱管(82)の隙間(85)を確保しつつ、各伝熱管(82)を保持する柱部材や他の部材を固定部材としてもよい。
【0112】
また、上記実施形態の吸収式冷凍装置(10)では、吸収液として臭化リチウム水溶液を用いているが、これに限らず例えばアンモニアを吸収液として用いてもよい。
【0113】
また、上記実施形態の空気調和装置(50)では、冷媒としてR410Aを用いているが、これに限らず例えばCO2やR32を冷媒として用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上説明したように、本発明は、吸収式冷凍装置用の蒸発器にについて有用である。
【符号の説明】
【0115】
51a 流入部
51b 流出部
60 蒸発器
61 散布機構
63a 内側突出板(突出板)
64 底壁部
66 流体流入路
67 気液分離空間
68 ガス流出路
70a 外側突出板(突出板)
74 突起部(散布部)
80 蒸発コイルユニット
81 蒸発コイル
82 伝熱管
85 隙間
86 ロウ付部(固定部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11