【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)(出願人による申告)平成25年度科学技術試験研究委託事業「先端光量子科学アライアンス」の一部「先端光科学システムの構築」について、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【解決手段】基本波光を波長変換素子50によって波長変換する波長変換装置1であって、基本波光L1として発振スペクトルが非狭窄化されたレーザー光を連続的に発振するレーザー発振部10と、レーザー発振部で発振された基本波光のビーム径を拡大する拡大光学系部20と、拡大光学系部でビーム径が拡大された拡大基本波光L2を透過させて当該拡大基本波光の波長を分散させる回折格子32が設けられる波長分散部30と、波長分散部から所定の大きさの光学的距離を介して設けられ、波長が分散された拡大基本波光L3を集光レンズ42で集光して波長変換素子に導く波長・角度分散部40と、を備えることを特徴とする。
前記波長分散部は、一又は複数の透過型回折格子から構成され、前記透過型回折格子によって前記拡大基本波光を回折させて、該拡大基本波光の前記波長を分散させることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の波長変換装置。
前記波長分散部には、前記透過型回折格子によって回折された前記拡大基本波光を反射させる一又は複数の反射ミラーが更に設けられ、前記反射ミラーによって反射後の前記拡大基本波光を前記透過型回折格子に戻し、再度回折させることを特徴とする請求項4に記載の波長変換装置。
前記拡大光学系部は、入力段側に設けられる第1レンズと出力段側に設けられる第2レンズが所定の距離を介して対向するように構成され、前記第1レンズと前記第2レンズとの距離を変更することによって、前記基本波光の前記ビーム径を調整することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の波長変換装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波長変換装置に備わる波長変換素子として主に用いられる非線形光学結晶は、角度依存性を有しており、高い効率で波長変換を行なうためには、この波長変換素子に入射するレーザー光の入射角を厳密に調節して位相整合をとる必要がある。このため、高効率な波長変換を実現するためには、一般的に単一周波数のレーザー光が用いられている。また、超短パルスレーザーのように、波長の範囲が広くても出力光が短パルス列となって実効的な強度が桁違いに上がっている場合には、その強い光電場で高効率な波長変換が行われている。
【0006】
しかしながら、高出力な連続発振ファイバーレーザー等のような簡便で光子コストに優れたレーザーでは、発振スペクトルが狭窄化されていることが少なく、このように複数の波長、色を有し、波長方向に単一でないレーザー光の波長変換をする際に、その高効率化が望めなかった。特許文献1には、半導体レーザーの発振波長を正確にロックして、波長変換後のレーザー光の発振の安定化については、言及しているものの、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光を効率よく波長変換することには、言及していない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光でも効率的に波長変換することの可能な、新規かつ改良された波長変換装置、及び波長変換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、基本波光を波長変換素子によって波長変換する波長変換装置であって、前記基本波光として発振スペクトルが非狭窄化されたレーザー光を連続的に発振するレーザー発振部と、前記レーザー発振部で発振された前記基本波光のビーム径を拡大する拡大光学系部と、前記拡大光学系部で前記ビーム径が拡大された拡大基本波光を透過させて該拡大基本波光の波長を分散させる回折格子が設けられる波長分散部と、前記波長分散部から所定の大きさの光学的距離を介して設けられ、前記波長が分散された拡大基本波光を集光レンズで集光して前記波長変換素子に導く波長・角度分散部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様によれば、拡大光学系部でビーム径が拡大された基本波光を回折格子に透過させることによって、その波長を分散させた拡大基本波光を所定の光学的距離を経由させてから集光レンズで集光する。このため、発振スペクトル幅がこの設計値内で変化した場合でも、波長変換素子により確実に導けるので、効率的に波長変換できるようになる。
【0010】
このとき、本発明の一態様では、 前記レーザー発振部は、ファイバーレーザーによって前記レーザー光が連続発振されることとしてもよい。
【0011】
このように、基本波光としてファイバーレーザーの出力光を使用することによって、そのレーザー光の空間モードの安定性が高められ、固体レーザーの励起において高精度な励起が可能になる。
【0012】
また、本発明の一態様では、前記波長・角度分散部は、前記光学的距離が下記の条件式を満たすように設定されることとしてもよい。
L/f=1.26×δcosβ
L:回折格子と集光レンズとの距離
f:集光レンズの焦点距離
δ:回折格子の溝の間隔
β:回折格子による回折角
【0013】
このように、波長分散部から距離を置いて波長・角度分散部を設けることによって、横方向に位置ずれした各波長のレーザー光を単一の集光レンズで集光して、波長変換素子に導くことができる。
【0014】
また、本発明の一態様では、 前記波長分散部は、一又は複数の透過型回折格子から構成され、前記透過型回折格子によって前記拡大基本波光を回折させて、該拡大基本波光の前記波長を分散させることとしてもよい。
【0015】
このようにすれば、波長により最適角度になるようにビーム径を拡大した基本波光で波長変換素子に導入するので、基本波光による波長変換素子の加熱が空間的に分散されて、波長変換効率の低下を軽減できる。
【0016】
また、本発明の一態様では、前記波長分散部には、前記透過型回折格子によって回折された前記拡大基本波光を反射させる一又は複数の反射ミラーが更に設けられ、前記反射ミラーによって反射後の前記拡大基本波光を前記透過型回折格子に戻し、再度回折させることとしてもよい。
【0017】
このようにすれば、透過型回折格子の最大分散効率が得られる入射角度、ビーム径で数回、透過型回折格子を利用して回折できるので、回折格子の最大限の波長分散を利用しながら、基本波光の波長が分散された状態で波長変換素子に導入できる。
【0018】
また、本発明の一態様では、前記拡大光学系部は、入力段側に設けられる第1レンズと出力段側に設けられる第2レンズが所定の距離を介して対向するように構成され、前記第1レンズと前記第2レンズとの距離を変更することによって、前記基本波光の前記ビーム径を調整することとしてもよい。
【0019】
このように、第1レンズと第2レンズとの距離を変更して基本波光のビーム径を調整することによって、波長・角度分散部での分解能を高めることができる。
【0020】
また、本発明の他の態様は、基本波光を波長変換素子によって波長変換する波長変換方法であって、発振スペクトルが非狭窄化されたレーザー光を前記基本波光として連続的に発振するレーザー光発振工程と、前記基本波光のビーム径を拡大するビーム径拡大工程と、前記ビーム径が拡大された拡大基本波光を回折格子に透過させて該拡大基本波光の波長を分散させる波長分散工程と、前記波長が分散された拡大基本波光を前記回折格子から所定の大きさの光学的距離を介して設けられた集光レンズによって前記波長変換素子に導く波長・角度分散工程と、を含むことを特徴とする。
【0021】
本発明の他の態様によれば、基本波光のビーム径を拡大されてから、かかる拡大基本波光を回折格子に透過させて波長分散させるので、回折格子の最大限の波長分散を利用できる。また、この拡大光学系のレンズ間隔を調整することで、集光レンズ位置で波長分散させた拡大基本波光を低損失で集光レンズに集光できる。このため、発振スペクトルがこの設計値内で変化した場合でも、拡大基本波光を波長変換素子により確実に導けるので、効率的に波長変換できるようになる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光を波長変換素子に確実に導けるので、効率的な波長変換が実現される。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0025】
まず、本発明の一実施形態に係る波長変換装置の概略構成について、図面を使用しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る波長変換装置の概略構成図である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る波長変換装置1は、基本波光L1となるレーザー光の波長をニオブ酸リチウムLiNbO
3(PPLN:periodically poled lithium niobate )の周期分極反転型の非線形光学結晶からなる波長変換素子50で変換する装置である。波長変換装置1は、
図1に示すように、レーザー発振部10と、拡大光学系部20と、波長分散部30と、波長・角度分散部40と、波長変換素子50とを備える。なお、本実施形態では、波長変換素子50として、PPLN結晶を用いているが、周期分極反転型の非線形光学結晶であれば、KTP結晶、LT結晶、LBO結晶、BBO結晶等を用いてもよい。
【0027】
レーザー発振部10は、基本波光L1となるレーザー光を高出力で連続的に発振する機能を有する。レーザー発振部10は、ファイバーレーザー12と、ファラデーアイソレーター14と、λ/2波長板16とを備える。
【0028】
本実施形態では、レーザー光の発振源として、イッテルビウムYbやネオジムNd等の希土類イオン固体赤外レーザーからなるファイバーレーザー12が使用され、例えば、中心波長1064nmのCWレーザー光が連続発振される。このように、基本波光L1としてファイバーレーザー12の出力光を使用することによって、そのレーザー光の空間モードの安定性が高められ、固体レーザーの励起において高精度な励起が可能になる。ファイバーレーザー12から発振されたレーザー光は、かかるレーザー光を一方向に伝搬するために設けられるファラデーアイソレーター14と、当該レーザー光の偏光を調整するために設けられるλ/2波長板16を経て、基本波光L1として発振される。
【0029】
また、本実施形態では、レーザー発振部10は、レーザー光の発振源がファイバーレーザー12であり、基本波光L1として発振スペクトルが非狭窄化されたレーザー光を連続的に発振することを特徴とする。すなわち、レーザー発振部10は、基本波光として、複数の異なる波長、色を含んで、波長方向に単一でないレーザー光、換言すると発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光を高出力に連続発振する。
【0030】
本実施形態の波長変換装置1は、このように狭窄化されていない連続発振レーザーを波長変換素子50で波長変換する際に問題となる位相不整合を補償するために、波長角度分散型光学系を導入して、高効率に波長を変換可能としたことを特徴とする。波長変換装置1は、90%以上の高い回折効率を有する回折格子を用いて角度分散型波長変換を実現させる波長角度分散型光学系として、拡大光学系部20と、波長分散部30と、波長・角度分散部40と、を備える。
【0031】
拡大光学系部20は、レーザー発振部10で発振された基本波光のビーム径を拡大する機能を有する。本実施形態では、拡大光学系部20は、入力段側に設けられる第1レンズ22と出力段側に設けられ、第1レンズ22より焦点距離の大きい第2レンズ24が所定の距離を介して対向するように構成されている。そして、第1レンズ22と第2レンズ24との距離を変更することによって、基本波光L1のビーム径を調整する。
【0032】
このように、第1レンズ22と第2レンズ24との距離を変更して基本波光L1のビーム発散角を調整することによって、基本波光L1の集光レンズ42の位置でのビーム径を最適化できる。このため、後段側に有する波長変換部30の回折格子32によって、異なる複数の発振スペクトルを有する狭窄化されていないレーザー光の波長を、それぞれの発振スペクトルごとに分散させられる。それによって、波長変換装置1の最終段側に有する波長・角度分散部40での分解能を高めることができる。
【0033】
波長分散部30は、拡大光学系部20でビーム径が拡大された拡大基本波光L2を透過させて、当該拡大基本波光L2の波長を分散させる回折格子32が設けられる。本実施形態では、波長分散部30は、所定間隔の溝32a(
図6参照)が設けられるガラス等から形成される90%以上の高い回折効率を有する透過型回折格子32から構成され、拡大基本波光L2を回折させて、かかる拡大基本波光L2の波長を分散させる。
【0034】
具体的には、本実施形態の波長分散部30は、
図1に示すように、透過型回折格子32が三角形の一の頂点上に有するような配置となるように設けられ、反射ミラー34、36が当該三角形の他の頂点上にそれぞれ有するような配置となるように設けられている。これらの反射ミラー34、36は、入射する回折後の拡大基本反射L3−1(L3)を反射させて、透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で当該透過型回折格子32に戻せるように、適宜、設置角度が調整可能な構成となっている。
【0035】
波長分散部30をかかる構成とすることによって、拡大光学系部20から導入された拡大基本波光L2は、まず、透過型回折格子32で回折する。次に、当該透過型回折格子32で回折した拡大基本波光L3−1(L3)は、2つの反射ミラー34、36でそれぞれ反射されてから、再び透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で戻って回折する。そして、その回折後の拡大基本波光L3−2(L3)が後段側に設けられる反射ミラー38で反射してから、その反射光となる拡大基本波光L3−3(L3)が波長・角度分散部40に導かれるようになっている。なお、本実施形態では、波長分散部30の後段側に反射ミラー38が設けられているが、反射ミラー38を設けずに、波長分散部30で波長分散された拡大基本波光L3−2(L3)が直接、波長・角度分散部40に導入される構成としてもよい。
【0036】
このように、本実施形態では、波長分散部30が透過型回折格子32と反射ミラー34、36を備える構成としたので、波長により最適な角度になるように基本波光L3の光路を確保してから、波長・角度分散部40を介して波長変換素子50に導入できる。このため、基本波光L1で結晶内に生じてしまう加熱分布が分散されるように、波長変換素子50に導入されるようになる。従って、熱の影響を受けやすい波長変換素子50が、基本波光L1の熱によって波長変換効率を低下するリスクを軽減できる。
【0037】
また、本実施形態では、波長分散部30は、反射ミラー34、36を設けることによって、ビーム径を拡大した基本波光L3−1(L3)の光路を確保しながら、透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で反射後の拡大基本波光L3−1(L3)を透過型回折格子32に戻せる。このように、反射ミラー34、36を設けることによって、透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で反射後の拡大基本波光L3−1(L3)を戻してから回折するので、透過型回折格子32で最大限に回析後の拡大基本波光L3−2、L3−3(L3)の波長を分散させられる。
【0038】
このため、拡大基本波光L3に含まれる各波長のレーザー光をそれぞれ波長ごとに効率的に分散させて、後段側に設けられた波長・角度分散部40に導入できる。また、波長分散部30に反射ミラー34、36を設けることによって、限られたスペース内で拡大基本波光L3−1の光路を確保できるようになるので、波長変換装置1のコンパクト化も図れるようになる。
【0039】
なお、本実施形態では、波長分散部30は、1つの透過型回折格子32が設けられているが、回折格子の数は、1つに限定されず、例えば、回折格子を2つ以上から構成されるようにしてもよい。また、本実施形態では、波長分散部30に2つの反射ミラー34、36が設けられているが、その設置数は、2つに限定されず、反射光を再び透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で戻して、再度回折させる構成となっていれば、1つでも、3つ以上としてもよい。ただし、反射光を再び透過型回折格子32の最大分散効率が得られる入射角度で確実に戻して、再度回折させるためには、反射ミラーの設置数は、2枚、4枚等の偶数枚が好ましい。
【0040】
波長・角度分散部40は、波長分散部30から所定の大きさの光学的距離を介して設けられ、波長が分散された拡大基本波光L3(L3−3)を集光レンズ42で集光して波長変換素子50に導く機能を有する。本実施形態では、波長・角度分散部40は、波長分散部30から所定の大きさの光学的距離を介して設けられるので、横方向に位置ずれした各波長を単一の集光レンズ42で集光することで、波長変換素子50となるPPLN結晶の持つ角度・波長・温度の位相整合条件の最適条件を達成させられる。なお、波長・角度分散部40の設置条件となる波長分散部30からの光学的距離の詳細については、後述する。
【0041】
一般的に、CW単一モード発振の高出力ファイバーレーザーでは、中心波長1064nmに対するスペクトル幅が0.1nm程度であり、Δλ/λが10
−4以上の波長分解能が必要になる。その際におけるこの波長幅に対する分散角が0.1mrad程度にしかならないので、PPLN等の波長変換素子50の波長・角度分散補償の要求値と比較すると桁違いに小さい。
【0042】
そこで、本実施形態では、波長分散部30から集光レンズ42まで、所定の大きさの光学的距離として数m程度の光路長を持たせるようにしているので、
図2に示すように、基本波光L1に含まれる各波長ごとに集光レンズ42の幅方向における位置を分散させることができる。すなわち、波長分散部30から距離を挟んで波長・角度分散部40を設けることによって、PPLN結晶50の前段側に設けられる集光レンズ42の位置において、基本波光L1に含まれる各波長に応じた入射横方向位置を取らせることができる。このため、波長・角度分散部40の集光レンズ42によって、拡大基本波光L3が基本波光L1に含まれる各波長に応じた最適な入射角度で波長変換素子50に導かれるようになる。
【0043】
前述したように、PPLN等の非線形光学結晶からなる波長変換素子50は、角度依存性を有しており、高い効率で波長変換を行なうためには、この波長変換素子50に入射するレーザー光の入射角を厳密に調節して位相整合をとる必要がある。このため、従来では、高効率な波長変換を実現するために、単一周波数のレーザー光が用いられていた。
【0044】
これに対して、本実施形態では、拡大光学系部10でビーム径が拡大された基本波光L2を回折格子32に透過させることによって、その波長を分散させた拡大基本波光L3を所定の光学的距離を経由させてから集光レンズ42で集光する。このため、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光でも、当該レーザー光に含まれる各波長ごとに最適な入射角で波長変換素子50に導くことができるので、効率的な波長変換が実現される。具体的には、
図3に示すように、従来の波長変換装置による非波長・角度分散に比べて、本実施形態の波長変換装置1による波長・角度分散の場合では、10W以上の入力で50%以上の変換効率の改善が見られた。
【0045】
なお、実際の波長角度分散型光学系の設計では、拡大基本波光L3の集光レンズ42への入射角を固定した状態で、当該入射光の波長に対する最適結晶温度を測定し(λopt=f(Topt))、次に、入射光の波長を固定して、それぞれの入射角での最適温度依存性を測定する(θopt =g(Topt))。そして、これらの2つの関数から、入射角と波長との関係を示す関数θopt =h(λopt)を導出する。すなわち、拡大基本波光L3の集光レンズ42への入射角度を固定して波長と温度との関係と、波長を固定して角度と温度との関係と、温度を固定したときの角度と波長との関係を調べることを行って、その中で一番いい関係のものを選び出す。本実施形態では、一例として、結晶長30mmのMgO・PPLN結晶では、0.1nm のバンド幅で126mradの角度分散が必要になる。
【0046】
次に、本発明の一実施形態に係る波長変換装置における波長・角度分散部40の設置条件となる波長分散部30からの光学的距離の詳細について、図面を使用しながら説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る波長変換装置の概略構成を説明する模式図であり、
図5及び
図6は、本発明の一実施形態に係る波長変換装置の要部の詳細説明図である。なお、
図4では、説明の便宜上、波長分散部30を1つの回折格子32のみで構成される場合を示し、また、波長分散部30から回析後の拡大基本波光L3が直接、波長・角度分散部40に導かれる場合を示している。また、
図5は、波長変換装置1の要部として、主に波長分散部30と波長・角度分散部40との光学的距離、
図6は、波長変換装置1の要部として、波長分散部30における入射角と回折角との関係を示す。
【0047】
本実施形態では、狭窄化されていないレーザー光を効率よく波長変換するために、波長・角度分散部40の集光レンズ42を、波長分散部30の回折格子32から所定の大きさの光学的距離を介して設置する必要がある。すなわち、横方向に位置ずれした各波長のレーザー光を集光レンズ42で集光して波長変換素子50に導くために、波長・角度分散部40は、波長分散部30から所定の大きさの距離を置いて設けられる。
【0048】
具体的には、波長・角度分散部40は、波長分散部30との間に有する所定の大きさの光学的距離として、下記の条件式(1)を満たすように設定される。
L/f=1.26×δcosβ・・・(1)
L:回折格子と集光レンズとの距離
f:集光レンズの焦点距離
δ:回折格子の溝の間隔
β:回折格子による回折角
【0049】
上記の条件式(1)を算出する過程を以下で説明する。
図5に示すように、波長分散部30と波長・角度分散部40との間に有する光学的距離となる回折格子32から集光レンズ42までの距離をL、集光レンズ42の位置での拡大基本波光L3の波長差による横方向の広がりの大きさをΔx、集光レンズ42の焦点距離をf、回折格子32による回折角の広がりをΔβ、集光レンズ42による集光角度をΔθとすると、これらは、下記の条件式(2)及び(3)を満たす。
Δx=LΔβ ・・・(2)
Δθ=Δx/f・・・(3)
【0050】
一方、
図6に示すように、波長分散部30における拡大基本波光L2の入射角をα、回折格子による回折角をβ、回折格子32の溝32aの間隔をδとすると、当該回折格子32における回折格子方程式は、以下の式(4)で表される。
δ(sinα+sinβ)=mλ・・・(4)(m:回折次数、λ:波長)
【0051】
上記の式(4)に示すシステムにおいて、m=1であり、使用する回折格子32によって、最適入射角αと溝間隔δが決定済みの定数となることから、上記の式(4)を微分すると、下記の式(5)が得られる。
【0053】
上記の式(5)に前述した条件式(2)及び(3)を代入して整理すると、下記の関係式(6)が得られる。
【0055】
上記の式(6)の左辺の値は、波長変換素子50となるPPLNの長さと分極周期で決定される。本実施形態では、Δθ/Δλの値が例えば、1.26(rad/nm)となる。従って、上記の式(6)にΔθ/Δλの値として1.26を代入すると、前述した関係式(1)が得られる。
【0056】
このように、本実施形態では、前述した関係式(1)を満たすように、回折格子32と集光レンズ42との距離Lと集光レンズ42の焦点距離fの組み合わせを決定する。すなわち、本実施形態では、横方向に位置ずれした各波長のレーザー光を集光レンズ42で集光して波長変換素子50に導くことによって、狭窄化されていないレーザー光を効率よく波長変換するために、集光レンズ42と波長分散部30の回折格子32との設置条件となる光学的距離、すなわち回折格子32と集光レンズ42との距離Lを設定する。
【0057】
次に、本発明の一実施形態に係る波長変換装置による波長変換方法について、図面を使用しながら説明する。
図7は、本発明の一実施形態に係る波長変換方法の概略を示すフロー図である。
【0058】
本発明の一実施形態に係る波長変換方法は、基本波光の波長を波長変換素子によって変換する。本実施形態では、まず、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光、すなわち、発振スペクトルが非狭窄化されたレーザー光を基本波光として連続的に発振する(レーザー光発振工程S11)。
【0059】
次に、拡大光学系部20の第1レンズ22と第2レンズ24との距離を調整しながら、基本波光L1のビーム径を拡大する(ビーム径拡大工程S12)。本実施形態では、後段側に設けられる波長分散部30によって、狭窄化されていないレーザー光の波長を分散させ易くするために、基本波光L1のビーム径を拡大する。また、波長分散部30の回折格子32で回折後の拡大基本波光L3を集光レンズ42で集光して波長変換素子50に導く際に、拡大基本波光L3が集光レンズ42で各波長ごとに明確に色分けされるようにするために、基本波光L1のビーム径を所望の大きさとなるように調整する。
【0060】
その後、ビーム径が拡大された拡大基本波光L2を波長分散部30の回折格子32に透過させて、当該拡大基本波光の波長を分散させる(波長分散工程S13)。本実施形態では、波長分散部30は、90%以上の高い回折効率を有する透過型回折格子32から構成されるので、この透過型回折格子32によって拡大基本波光L2を回折させて、かかる拡大基本波光L3の波長を分散させる。
【0061】
次に、波長が分散された拡大基本波光L3を回折格子32から所定の大きさの光学的距離を介して設けられた波長・角度分散部40の集光レンズ42によって、波長変換素子50に導く(波長・角度分散工程S14)。本実施形態では、波長・角度分散部40は、波長分散部30から所定の大きさの光学的距離を介して設けられるので、横方向に位置ずれした各波長を単一の集光レンズ42で集光することで、波長変換素子50の持つ角度・波長・温度の位相整合条件の最適条件を達成させられる。
【0062】
このようにして、本実施形態では、基本波光L1のビーム径を拡大されてから、かかる拡大基本波光L2を回折格子32に透過させて波長分散させる。そして、その波長を分散させた拡大基本波光L3が、所定の光学的距離を経由して集光レンズ42で集光させてから、波長変換素子50に導かれる。このため、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光でも、波長が異なることによる位相不整合を解消して、当該レーザー光に含まれる各波長ごとに好適な入射角で波長変換素子50に導けるので、効率的に波長変換できるようになる。
【0063】
また、本実施形態の波長変換装置1及び波長変換方法では、単一周波数レーザー光や超短パルスレーザーと異なり、高出力な連続発振ファイバーレーザー等の簡便で光子コストに優れ、発振スペクトルが狭窄化されていない質の良くないレーザー光でも、その波長を変換することによって、所望の用途に適用可能な高調波光に変換することができる。このため、発振スペクトルが狭窄化されていないレーザー光でも波長変換することによって、波長変換後の高調波光の適用範囲を広げられ、その光源のコスト削減も実現されるようになる。
【0064】
例えば、金属の切断や加工等において、加工用の数百W以上のCWファイバーレーザーでも、波長を1/2の大きさ等に高効率で波長変換することによって得られる波長変換後の高調波光でその加工精度を向上させられる。また、高出力連続CWレーザーを波長変換することによって、その波長変換後の高調波光をレーザーディスプレイにおけるRGBの緑色光源として、より廉価に適用することも可能である。さらに、波長変換後の高調波光による緑色光によって、チタンサファイヤを励起してフェムト秒レーザーの発振に適用することもできる。
【0065】
なお、上記のように本発明の各実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0066】
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、波長変換装置の構成、動作も本発明の各実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。