【解決手段】 高圧空気の供給用ホース等が接続される第1開口部17Aを巻取ドラム5の主軸7から支持軸13側にずれた位置に設ける。このため、巻取装置1の揺動に伴って供給用ホース等が移動する範囲を小さくできる。つまり、巻取装置1は、支持軸13を中心に揺動するので、支持軸13と第1開口部17Aとの距離が大きくなるほど、供給用ホース等が移動する範囲が大きくなる。そして、第1開口部17Aが巻取ドラム5の主軸7から支持軸13側にずれた位置に設けられている。このため、供給用ホース等が移動する範囲を小さくできる。したがって、巻取装置1の揺動を著しく阻害されることを抑制でき得る。
前記ケーシングの外表面で開口した第2開口部であって、前記第1開口部と連通可能な第2開口部を有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の巻取装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する「発明の実施形態」は実施形態の一例を示すものである。つまり、特許請求の範囲に記載された発明特定事項等は、下記の実施形態に示された具体的手段や構造等に限定されるものではない。
【0016】
そして、本実施形態は、
図1に示すように、ホース3を巻き取る巻取装置1に本発明を適用したものである。ホース3は、内部に高圧空気等の流体が流通し、かつ、可撓性を有する策体である。以下、ホース3を策体3ともいう。
【0017】
なお、各図に付された方向を示す矢印等は、各図相互の関係を理解し易くするために記載したものであり、本発明は、各図に付された方向に限定されるものではない。少なくとも符号を付して説明した部材又は部位は、「複数」や「2つ以上」等の断りをした場合を除き、少なくとも1つ設けられている。
【0018】
1.巻取装置の概略
本実施形態に係る巻取装置1は、
図2に示すように、策体3を巻き取る巻取ドラム5を有する。巻取ドラム5は、
図3に示す主軸7により回転可能に支持されている。巻取ドラム5は、
図2に示すように、略円筒状の巻取部5A、及び略円盤状のフランジ部5Bを有している。
【0019】
策体3は、巻取部5Aの外周面に巻かれる。フランジ部5Bは、
図3に示すように、巻取部5Aの軸線方向両端側に設けられ、かつ、巻取部5Aに一体化されている。巻取部5A内には、略円盤状の第1ハブ体5C及び第2ハブ体5Dが設けられている。
【0020】
第1ハブ体5C及び第2ハブ体5Dそれぞれの外周端側は、巻取部5Aに一体化されている。第1ハブ体5C及び第2ハブ体5Dそれぞれの中心には、主軸7が貫通した円筒状の軸受部5Eが設けられている。一対の軸受部5Eは、巻取ドラム5を主軸7に対して回転可能とする滑り軸受けとして機能する。
【0021】
巻取ドラム5内には、ばね9が収納されている。ばね9は、策体3を巻き取る向きに巻取ドラム5を回転させる弾性力を巻取ドラム5に作用させる。当該ばね9は、板ばねを渦巻き状とした「ぜんまいばね」であって、第1ハブ体5Cと第2ハブ体5Dとの間の空間に収納されている。
【0022】
そして、ばね9のうち、渦巻きの中心側が主軸7に連結され、渦巻きの外径端が巻取ドラム5に連結されている。策体3が巻取ドラム5から引き出されると、ばね9の弾性変形量が増大しながら渦巻き形状が締まっていく。
【0023】
このため、策体3が引き出されると、ばね9は策体3を巻き取る向きの弾性力を巻取ドラム5に作用させる。そこで、本実施形態に係る巻取装置1では、策体3を巻き取る向きに巻取ドラム5が回転することを規制するラチェット機構20を設けている。
【0024】
なお、以下、巻取ドラム5の回転方向のうち、策体3を巻き取る向きを「巻き取りの向き」という。また、巻取ドラム5の回転方向のうち「巻き取りの向き」と逆向きを「引き出しの向き」という。
【0025】
巻取ドラム5及びラチェット機構20等は、ケーシング11内に収納されている。ケーシング11は、第1ケーシング11A、第2ケーシング11B及び第3ケーシング11C等を有している。なお、第1ケーシング11A、第2ケーシング11B及び第3ケーシング11Cは樹脂製である。
【0026】
第1ケーシング11Aは、主軸7の軸線方向一端側から巻取ドラム5等を覆う。第2ケーシング11Bは、軸線方向他端側から巻取ドラム5等を覆う。第3ケーシング11Cは、第1ケーシング11Aと第2ケーシング11Bとの間に配設されて巻取ドラム5の外周側を覆う。
【0027】
主軸7の軸線方向一端側は、
図7に示すように、雄ねじを有するボルト部7Aが設けられている。そして、主軸7の軸線方向一端側は、ボルト部7Aに嵌め込まれたナット7Bにより第1ケーシング11Aにねじ固定されている。
【0028】
第1ケーシング11Aを挟んで両側であって、ナット7B及びボルト部7Aと面する部位には、金属製のワッシャ7Cが配設されている。ナット7Bとワッシャ7Cとの間には、緩み止めをなすばね座7Eが配設されている。主軸7の軸線方向他端側は、
図3に示すように、金属製のワッシャ7Dを介して第2ケーシング11Bに支持されている。
【0029】
図2に示す支持軸13は、装置本体、つまり巻取装置1を揺動可能に支持する軸であって、巻取ドラム5からずれた位置に設けられている。具体的には、支持軸13は、フランジ部5Bの外周端より外方側にずれて位置において、巻取ドラム5の回転軸、つまり主軸7と直交する方向に延びている。
【0030】
支持軸13には、ブラケット15が組み付けられている。ブラケット15は、支持軸13に対して回転可能に組み付けられ、かつ、支持軸13と反対側に取付部15Aを有している。利用者は、取付部15Aを壁、柱又は天井等に固定組み付けすることにより、巻取装置1を揺動可能な状態で据え付けることができる。
【0031】
ケーシング11には、
図4に示すように、ケーシング11の外表面で開口した第1開口部17Aが設けられている。第1開口部17Aは、
図2に示すように、主軸7から支持軸13側にずれた位置において、支持軸13の延び方向と平行な方向(
図2の左右方向)に向けて開口している。
【0032】
第1開口部17Aは、巻取ドラム5に巻かれた策体3(ホース)に繋がって当該ホースに連通している。すなわち、
図3に示すように、支持軸13は、軸線方向一端側と他端側とが連通した筒状の管(パイプ)により構成され、かつ、内部に流体が流通可能である。そして、第1開口部17Aは支持軸13内に連通している。
【0033】
主軸7のうち第2ケーシング11B側には、回転式継手(スイベルともいう。)19が設けられている。回転式継手19と支持軸13とは第1接続パイプ18Aを介して連通している。巻取ドラム5に巻かれた策体3(ホース)と回転式継手19とは第2接続パイプ18Bを介して連通している。このため、巻取ドラム5が回転しても、巻取ドラム5に巻かれた策体3(ホース)と第1開口部17Aとの連通状態が維持される。
【0034】
回転式継手19は、円筒状の軸部19A、軸部19Aに対して回転可能な一対のジョイント部19B、19C等を有している。ジョイント部19Bには第1接続パイプ18Aが接続されている。ジョイント部19Cには第2接続パイプ18Bが接続されている。
【0035】
なお、軸部19Aの軸端側はプラグ19Dにより閉塞されている。一対のジョイント部19B、19Cと軸部19Aの外周面との間には、Oリング19E等の滑り接触可能なパッキンが配設されている。
【0036】
第1接続パイプ18Aは、
図2に示すように、支持軸13の長手方向中間部にて支持軸13内に連通している。そして、支持軸13の長手方向一端側に第1開口部17Aが設けられている。支持軸13の長手方向他端側には、第2開口部17Bが設けられている。
【0037】
このため、第1開口部17Aの中心と第2開口部17Bの中心とを通る仮想線L1は、支持軸13と平行となる。つまり、本実施形態では、仮想線L1は、支持軸13と重なる位置となる。
【0038】
第2開口部17Bは、支持軸13内に連通している。このため、第2開口部17Bは、第1開口部17A、及び巻取ドラム5に巻かれた策体3(ホース)と連通可能である。つまり、本実施形態では、第1開口部17Aと第2開口部17Bとは、位置が異なるのみで、同一の機能を発揮し得る。
【0039】
したがって、本実施形態では、紙面右側を第1開口部17Aとし、紙面左側を第2開口部17Bとして説明したが、例えば、紙面左側を第1開口部17Aとし、紙面右側を第2開口部17Bとして説明して本発明が成立する。
【0040】
なお、
図4に示す第1開口部17Aは、プラグ17Cにより閉塞されている。したがって、第1開口部17Aから高圧空気等を巻取ドラム5に巻かれた策体3(ホース)に供給する際には、プラグ17Cを取り外す必要がある。
【0041】
2.ラチェット機構
2.1 ラチェット機構の概要
本実施形態に係るラチェット機構20は、巻取ドラム5の回転方向を規制する。そして、ラチェット機構20は、
図5に示すように、ラチェット歯車21、歯止部材23、支持部25、カム27及び従動節29等を有して構成されている。
【0042】
<ラチェット歯車>
ラチェット歯車21は、主軸7周りに回転変位可能な状態で第1ハブ体5Cに組み付けられている。すなわち、ラチェット歯車21には、長径方向が円周方向に一致する長穴21Cが設けられている。第1ハブ体5Cには、長穴21Cに嵌り込む円筒状のボス部5Gが設けられている。
【0043】
ボス部5Gは、長穴21Cの長径方向に沿ってラチェット歯車21に対して相対変位可能である。そして、六角穴付きボルト5Fがボス部5Gに締め込まれて固定されている。このため、ラチェット歯車21は、長穴21Cの長径範囲内において、主軸7周りに回転変位できる。
【0044】
ばね21Dは、弾性力をラチェット歯車21に作用させる。当該弾性力の向きは、第1ハブ体5Cに対してラチェット歯車21を引き出しの向き側に変位させる向きである。このため、ラチェット歯車21は、通常、ボス部5Gが長穴21Cの長径方向一端端に接触した位置で第1ハブ体5Cに対して静止している。
【0045】
ラチェット歯車21の外周には、
図6に示すように、突起状の歯21Aが多数設けられている。これらの歯21Aは、頂部21Bと回転中心O1とを結ぶ仮想線Loに対して非対称形状である。
【0046】
具体的には、仮想線Loより「巻き取りの向き」側の傾斜面と仮想線Loとのなす角θ1が0度以下であって、かつ、仮想線Loより「引き出しの向き」側の傾斜面と仮想線Loとのなす角θ2が0度より大きくなっている。
【0047】
<歯止部材>
歯止部材23は、ラチェット歯車21と噛み合う噛合位置とラチェット歯車21から離間した離間位置との間で変位する。そして、歯止部材23が「巻き取りの向き」側から歯21Aと噛み合うと、ラチェット歯車21が「巻き取りの向き」に回転することが禁止される。つまり、「歯止部材23が噛合位置にある」とは、歯止部材23が「巻き取りの向き」側から歯21Aと噛み合う状態をいう。
【0048】
歯止部材23とラチェット歯車21とが噛み合った時の衝撃力が大きい場合には、ばね21Dが弾性変形し、ラチェット歯車21が僅かに第1ハブ体5Cに対して巻き取りの向き」側に回転する。これにより、歯止部材23とラチェット歯車21とが噛み合う時に発生する衝撃力がばね21Dにより吸収される。
【0049】
<支持部>
支持部25は、歯止部材23を変位可能に支持する。具体的は、支持部25は、歯止部材23の長手方向一端側に位置して歯止部材23を揺動可能に支持する軸状の部材である。そして、支持部25は、歯21Aから歯止部材23に作用する力Fの作用線L2上に位置している。
【0050】
このため、支持部25は、ラチェット歯車21から歯止部材23に作用する力(以下、この力を禁止力という。)Fを受ける。なお、
図6では、作用線L2が支持部25の軸心を通るように描かれているが、本実施形態は、これに限定されるものではない。つまり、支持部25にて禁止力Fを受けることが可能な位置であれば、いずれの位置でもよい。
【0051】
因みに、作用線L2、つまり禁止力Fの方向は、概ね、歯21Aと歯止部材23との接触面と直交する方向となる。したがって、当該接触面と直交する方向であって、当該接触面から「巻き取りの向き」にずれた位置に支持部25が設けられていれば、支持部25にて禁止力Fを受けることができる。
【0052】
また、本実施形態に係る支持部25は、
図7に示すように、第1ケーシング11Aに組み付けられている。すなわち、第1ケーシング11Aには、軸受部11Dが設けられている。軸状の支持部25は、軸受部11D内に回転可能に挿入されている。このため、支持部25は、巻取ドラム5の中心線方向L1と平行な中心線L2を中心として回転又は揺動する。
【0053】
軸受部11Dは、摺接部11E及び円筒部11Fを有している。摺接部11Eは、軸状の支持部25の外周面と滑り接触(以下、摺接ともいう。)する金属製の部材である。そして、摺接部11Eは、樹脂製の円筒部11F内に挿入されている。
【0054】
支持部25は、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、歯止部材23及び従動節29と一体化されている。つまり、歯止部材23と従動節29とは、中心線L2を中心として一体的に連動して回転又は揺動する。そして、歯止部材23を介して支持部25に作用する禁止力Fは、最終的に、第1ケーシング11Aにて受ける。
【0055】
因みに、
図7に示す止め輪25Aは、支持部25が巻取ドラム5側に移動することを規制する。従動節29は、摺接部11Eの軸線方向他端側に設けられたフランジ部11Gに摺接可能に接触している。
【0056】
このため、支持部25は、中心線L2と平行な軸線方向に移動することなく、回転又は揺動する。金属製のワッシャ25Bは、金属製の止め輪25Aが、樹脂製の第1ケーシング11Aと直接的に接触することを防止する。
【0057】
<カム>
カム27は巻取ドラム5から力を受けて変位する。すなわち、
図7に示すように、カム27には軸穴27Aが設けられている。軸穴27Aには軸部21Eが挿入されている。軸部21Eは、ラチェット歯車21に一体化された軸である。つまり、軸部21Eは、ラチェット歯車21を介して巻取ドラム5と一体的に回転する。
【0058】
軸部21Eは、円筒状に形成され、かつ、その中心線方向に主軸7が貫通している。なお、主軸7の軸端側は第1ケーシング11Aに固定され、かつ、巻取ドラム5及びラチェット歯車21は、主軸7に支持されている。そして、軸部21Eの内周面と主軸7の外周面とは離間している。
【0059】
軸部21Eの外周面と軸穴27Aの内周面との間には、軸部21Eの外周面及び軸穴27Aの内周面と接触したゴム製の回転力伝達材27Bが設けられている。そして、回転力伝達材27Bは、軸部21Eの外周面及び軸穴27Aの内周面と接触面で発生する摩擦力により、軸部21Eの回転をカム27に伝達する。
【0060】
このため、カム27は、巻取ドラム5から力を受けて巻取ドラム5と同一の向きに回転変位する。また、カム27の変位を妨げる力がカム27に作用した場合には、回転力伝達材27Bは、軸部21Eの外周面と軸穴27Aの内周面と接触したまま、いずれか一方に対して滑る。つまり、カム27が変位することなく、回転力伝達材27Bは、軸部21E及び軸穴27Aのうち少なくとも一方と摺接する。
【0061】
なお、本実施形態に係る回転力伝達材27Bは、Oリング等の環状に形成されたニトリルゴム製である。そして、軸部21Eの外周面及び軸穴27Aの内周面のうちいずれか一方の周面(本実施形態では、軸部21Eの外周面)には、回転力伝達材27Bを保持する保持溝21Fが設けられている。
【0062】
また、本実施形態に係るカム27は、
図6に示すように、主軸7から巻取ドラム5の外周側に向けて延びる帯板状のカムプレートにより構成されている。そして、カム27のうち主軸7の中心線方向と直交する面には、従動節29を変位させるカム溝31が設けられている。なお、カム溝31の詳細は後述する。
【0063】
<従動節>
従動節29は、カム27の変位と連動して歯止部材23を変位させる部材である。つまり、従動節29は、カム27の変位を歯止部材23に伝達するリンクとして機能する。具体的には、従動節29は、
図7に示すように、支持部25から軸部21E側に延びる帯板状の部材であって、支持部25を中心として揺動する。
【0064】
そして、従動節29の延び方向先端側には、カム27と接触する接触部29Aが設けられている。接触部29Aは、カム溝31に嵌り込んでカム溝31内を移動する。なお、本実施形態に係る接触部29Aは、カム溝31の側壁と接触する部位が曲面となる形状、例えば円柱状又は円筒状に形成されている。
【0065】
また、従動節29の延び方向先端側には、接触部29Aが出没可能に収納される凹部29Bが設けられている。接触部29Aは、凹部29B内に収納された弾性材29Cによりカム溝31の底部に向けて押圧されている。このため、接触部29Aは、カム溝31から外れることなくカム27の変位に追従してカム溝31内を移動する。
【0066】
2.2 カム溝
カム溝31は、
図9に示すように、接触部29Aの移動軌跡が「複数の角部31A〜31Dを有する多角形」になっている。なお、カム溝31のうち隣り合う角部31A〜31Dを繋ぐ移動部31E〜31Hは、接触部29Aが滑らかにカム溝31内を移動可能な形状であれば、直線状及び曲線状のいずれであっても構わない。つまり、上記「多角形」は、直線のみで結ばれた図形に限定されるものではない。
【0067】
そして、接触部29Aは、カム溝31内を一方向に移動する。具体的には、二点鎖線の矢印で示されるように、閉曲線状の移動形跡を紙面右周りに移動する。なお、接触部29Aが
図9の実線で示す角部31Aに位置するときには、
図5に示すように、歯止部材23は噛合位置にある。
【0068】
そこで、角部31Aを第1角部31Aと呼び、角部31Bを第2角部31Bと呼び、角部31Cを第3角部31Cと呼び、角部31Dを第4角部31Dと呼ぶ。また、接触部29Aが第1角部31Aに位置しているときには、上述したように、歯止部材23は噛合位置にある。
【0069】
このため、接触部29Aが第1角部31Aに位置しているときには、巻取ドラム5、つまりラチェット歯車21は、「巻き取りの向き」に回転できないが、「引き出しの向き」には回転できる。そこで、以下、ラチェット歯車21が「巻き取りの向き」に回転することを「正転」という。一方、ラチェット歯車21が正転と逆向きに回転することを「逆転」という。
【0070】
一方、接触部29Aが第2角部31Bないし第4角部31Dのうちいずれか角部に位置するときには、歯止部材23は離間位置となる。つまり、接触部29Aが第1角部31A以外の角部に位置するときは、ラチェット歯車21、つまり巻取ドラム5は、正転及び逆転いずれも可能な状態となる。
【0071】
また、各角部31A〜31Dには、
図10(a)に示すように、阻止部31Jが設けられている。これら阻止部31Jは、接触部29Aがカム溝31内を一方向に移動することを許容し、他方向に移動することを阻止する。
【0072】
このため、例えば接触部29Aが第1角部31Aに位置するときには、接触部29Aは、第2角部31B側には変位できるが、第4角部31D側には変位できない。つまり、接触部29Aは、閉曲線を描くカム溝31内を、第1角部31A→第2角部31B→第3角部31C→第4角部31D→第1角部31Aの順のみにカム溝31内を移動できる。
【0073】
そして、阻止部31Jは、
図10(b)に示すように、段差部により構成されている。当該段差部は、接触部29Aの移動方向後退側の溝深さH1が、接触部29Aの移動方向前進側の溝深さH2に比べて小さくなっていることにより構成されている。
【0074】
このため、接触部29Aがいずれかの角部31A〜31Dに位置すると、阻止部31J、つまり段差部に接触部29Aが引っ掛かって係止された状態となる。したがって、接触部29Aは、移動方向後退側に移動できず、カム溝31内を一方向、つまり移動方向前進側のみに移動する。
【0075】
各移動部31E〜31Hの底側には、接触部29Aの移動方向後退側から移動方向前進側に向かうほど、溝深さが小さくなる傾斜面31Kが設けられている。つまり、本実施形態では、角部31A〜31Dに移動方向前進側と移動方向後退側との溝深さを相違させた段差状の阻止部31Jが設けられている。そこで、移動部31E〜31Hの始点側と終点側とは、滑らかに連続した傾斜面31Kで繋がれている。
【0076】
2.3 ラチェット機構の作動
接触部29Aは、支持部25を中心とする円弧方向(
図9の破線参照)のみに揺動できる。一方、各移動部31E〜31Hの長手方向は、従動節29の長手方向、つまり、支持部25と接触部29Aとを結ぶ方向に対して交差している。このため、カム27が主軸7を中心に回転又は揺動すると、接触部29Aとカム溝31との接触箇所において、従動節29を揺動させる力が接触部29Aに作用する。
【0077】
つまり、
図9に示すように、接触部29Aが第1角部31Aに位置しているときに、カム27が正転すると、接触部29Aには、支持部25を中心として従動節29を紙面左回りに回転させる力Foが作用する。このため、接触部29Aは、移動部31E及び移動部31Hのうちいずれかに移動しようとする。
【0078】
しかし、第1角部31Aには、阻止部31Jが設けられているので、接触部29Aは、移動部31H側に移動できず、移動部31E内を第2角部31Bに向けて移動する。そして、カム27が正転したまま、接触部29Aが第2角部31Bに到達すると、
図11に示すように、接触部29Aが第2角部31Bに引っ掛かって係合する。
【0079】
このため、接触部29Aは、巻取ドラム5の回転の向きと逆向きの力F1をカム27に作用させる。したがって、
図11に示す状態では、回転力伝達材27Bにて滑りが発生し、カム27の変位が停止したまま巻取ドラム5が正転し続ける。
【0080】
ところで、ばね9は、巻き取りの向きに巻取ドラム5を回転させる力を発揮している。つまりラチェット歯車21には、常に逆転の向きの力が作用している。一方、巻取ドラム5、つまりラチェット歯車21を正転させる力は、利用者が策体3を引き出す力(以下、この力を引き出し力という。)である。
【0081】
このため、策体3が引き出された状態で引き出し力が消失し、かつ、歯止部材23が離間位置にあるときには、ラチェット歯車21は逆転する。そして、接触部29Aが第2角部31Bに位置するときに、引き出し力が消失して巻取ドラム5が逆転すると、カム27が逆転するため、接触部29Aは、移動部31Fに沿って第2角部31Bから第3角部31C側に移動する。
【0082】
接触部29Aが第3角部31Cに位置しているときには、
図12に示すように、歯止部材23が離間位置にある。このため、ラチェット歯車21が逆転し続け、策体3が巻取ドラム5、つまり巻取部5Aに巻き取られていく。つまり、引き出し力が策体3に作用して巻取ドラム5が正転しない限り、策体3は巻取ドラム5に巻き取られていく。
【0083】
そして、策体3の先端側に設けられたストッパ3Aがケーシング11に引っ掛かって係止されたとき、巻取ドラム5の逆転が停止する。なお、ストッパ3Aがケーシング11に係止されて巻取ドラム5が停止した場合には、接触部29Aは第3角部31Cに位置しままである。
【0084】
接触部29Aは第3角部31Cに位置しているときに、引き出し力が策体3に作用してカム27が正転すると、
図12に示すように、接触部29Aには、逆転側の向きの力F2が作用する。そして、第3角部31Cから第4角部31Dを繋ぐ移動部31Gは、第3角部31Cから逆転側の向きに延びている。このため、第3角部31Cに位置する接触部29Aは、第4角部31D及び第2角部31Bのうちいずれかに移動しようとする。
【0085】
なお、「移動部31Gが逆転側の向きに延びている」とは、延び方向の成分として、逆転の向きを含むという意味である。同様に、例えば「移動部31Hが正転側の向きに延びている」とは、延び方向の成分として、正転の向きを含むという意味である。
【0086】
しかし、第3角部31Cにも阻止部31Jが設けられているため、接触部29Aは、第2角部31B側に移動することなく、第4角部31Dに向けて移動する。そして、カム27が正転したまま、接触部29Aが第4角部31Dに到達すると、
図13に示すように、接触部29Aが第4角部31Dに引っ掛かって係合する。
【0087】
このため、接触部29Aは、巻取ドラム5の回転の向きと逆向きの力F3をカム27に作用させる。したがって、
図13に示す状態では、回転力伝達材27Bにて滑りが発生し、カム27の変位が停止したまま巻取ドラム5が正転し続ける。
【0088】
ところで、「接触部29Aが第3角部31Cに位置しているとき」とは、策体3が巻取ドラム5に巻き取られているとき、又は策体3の巻き取りが完了したとき、つまり、ストッパ3Aがケーシング11に係止されて巻取ドラム5が停止しているときである。
【0089】
したがって、「接触部29Aが第3角部31Cに位置している場合において、カム27が正転するとき」とは、策体3が利用者より引き出されているときである。そして、利用者により策体3が引き出されているとき、つまり「引き出し力が策体3に作用しているとき」の次には、必ず、「引き出し力が消失するとき」つまり「カム27が逆転するとき」となる。
【0090】
また、カム27が正転しているときには、上述したように、接触部29Aには、逆転側の向きの力が作用する。したがって、カム27が逆転しているときには、接触部29Aには、正転側の向きの力が作用する。このため、正転側の向きの力が接触部29Aに作用するときに、接触部29Aをカム溝31に沿って移動させるには、カム溝31は、逆転側の向きの力が接触部29Aに作用するときと逆転側の向きに延びている必要がある。
【0091】
つまり、「引き出し力が策体3に作用しているとき」に接触部29Aが移動する移動部31Gは、逆転側の向きに延びている必要がある。そして、「引き出し力が策体3に作用しているとき」の次にくる「引き出し力が消失するとき」に接触部29Aが移動する移動部31Hは、正転側の向きに延びている必要がある。
【0092】
そこで、本実施形態では、
図9に示すように、第4角部31Dは、第1角部31Aと第3の角部31Cとを結ぶ仮想直線L3より、第2角部31B側に位置している。これにより、第3角部31Cから第4角部31Dに向かう移動部31Gは、逆転側の向きに延びた形状となる。一方、第4角部31Dから第1角部31Aに向かう移動部31Hは、正転側の向きに延びた形状となる。
【0093】
接触部29Aが第4角部31Dに位置しているとき、つまり、利用者により策体3が引き出されているときに、引き出し力が消失すると、カム27が逆転して接触部29Aに正転側の向きの力が作用する。このため、接触部29Aは、移動部31Hに沿って第4角部31Dから第1角部31Aに移動する。
【0094】
そして、接触部29Aが第1角部31Aに到達すると、
図14に示すように、歯止部材23が噛合位置になる。このため、ばね9の弾性力を相殺する力がラチェット歯車21に発生するため、巻取ドラム5の回転が停止し、かつ、その状態が保持される。
【0095】
3.本実施形態に係る巻取装置の利用方法
本実施形態に係る巻取装置1は、
図15に示すように、第1状態→第2状態→第3状態→第4状態→第1状態の順に状態が変化する。
【0096】
第1状態は
図12に示す状態である。つまり、策体3が巻取ドラム5に巻き取られていく状態、又はストッパ3Aがケーシング11に係止されて巻取ドラム5が停止している状態である。
【0097】
第2状態は
図13に示す状態である。つまり、第1状態のときに、利用者により策体3が引き出されているときである。第3状態は
図14に示す状態である。つまり、利用者が策体3の引き出しを中止し、引き出し力が消滅した状態である。そして、第3状態のときに、引き出された策体3がその状態で止まる。
【0098】
第4状態は
図11に示す状態である。つまり、引き出された策体3を巻取ドラム5に巻き取らせる際には、利用者は、その引き出された策体3を僅かに引き出して第4状態とした後、策体3の引き出しを中止して引き出し力を消滅させる。これにより、巻取装置1は、第4状態から第1状態に移行するため、策体3が巻き取られていく。
【0099】
なお、引き出された策体3の引き出し長さを増加させるときには、利用者は、その引き出された策体3を僅かに引き出した後、策体3の引き出しを中止し、その後、引き続き策体3を引き出せばよい。
【0100】
これにより、巻取装置1は、第4状態→第1状態→第2状態に移行するため、引き出し長さが利用者の意図した長さになったときに、策体3の引き出しを中止して引き出し力を消滅させればよい。
【0101】
4.本実施形態に係る巻取装置の特徴
本実施形態では、高圧空気の供給用ホース等が接続される第1開口部17Aが巻取ドラム5の主軸7から支持軸13側にずれた位置に設けられている。このため、本実施形態では、巻取装置1の揺動に伴って供給用ホース等が移動する範囲を小さくできる。
【0102】
つまり、巻取装置1は、支持軸13を中心に揺動するので、支持軸13と第1開口部17Aとの距離が大きくなるほど、供給用ホース等が移動する範囲が大きくなる。
そして、本実施形態では、第1開口部17Aが巻取ドラム5の主軸7から支持軸13側にずれた位置に設けられている。このため、本実施形態では、供給用ホース等が移動する範囲を小さくできる。したがって、巻取装置1の揺動を著しく阻害されることを抑制でき得る。
【0103】
本実施形態では、支持軸13は、巻取ドラム5の主軸7と直交する方向に延びており、さらに、第1開口部17Aは、支持軸13の延び方向と平行な方向に向けて開口していることを特徴としている。
【0104】
なお、本願に係る発明では、第1開口部17Aが支持軸13の延び方向と直交する方向に向けて開口している場合も含まれる。しかし、本実施形態係る第1開口部17Aは、支持軸13の延び方向と平行な方向に向けて開口しているので、支持軸13の延び方向と直交する方向に向けて第1開口部17Aを開口させた場合に比べて、供給用ホース等が移動する範囲を小さくできる。
【0105】
本実施形態では、第1開口部17Aは、支持軸13の軸線上に位置していることを特徴としている。これにより、本実施形態では、供給用ホース等が移動する範囲を非常に小さくできる。したがって、ケーシング11を周囲の壁に近接させる程度まで巻取装置1を揺動させることができるので、巻取装置1の使い勝手及び設置性を向上させることができる。
【0106】
本実施形態では、ケーシング11の外表面で開口した第2開口部であって、第1開口部17Aと連通可能な第2開口部17Bを有することを特徴としている。これにより、本実施形態では、
図16に示すように、複数の巻取装置1同士を接続部材13Aを介して接続することができるので、複数の巻取装置1を設置する際の設置性を向上させることができる。
【0107】
本実施形態では、第1開口部17Aと第2開口部17Bとは、筒状の支持軸13を介して連通していることを特徴としている。これにより、第1開口部17Aと第2開口部17Bとを簡素な構成にて容易に連通させることができる。
【0108】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、ラチェット機構20を備える巻取装置1であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、ラチェット機構20を廃止する、又は上述の実施形態に示されたラチェット機構20と異なる構成のラチェット機構20を採用してもよい。
【0109】
上述の実施形態では、高圧空気を供給するためのホースを策体3とする巻取装置1であったが、本発明の適用はこれに限定されるものではなく、その他の策体3であってもよい。
【0110】
上述の実施形態に係る支持軸13は、主軸7と直交していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、支持軸13と主軸7とが平行である場合、又は、支持軸13の位置が、
図2に示す位置に対して、主軸7を中心に略90度回転した位置であってもよい。
【0111】
上述の実施形態では、第1開口部17Aが支持軸13の軸線上に位置していたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第1開口部17Aが支持軸13の軸線に対して交差する方向に向けて開口している場合、第1開口部17Aが支持軸13の軸線に対して平行にずれた位置に開口している場合等であってもよい。
【0112】
上述の実施形態では、第2開口部17Bを設けたが、本発明はこれに限定されるものではなく、第2開口部17Bを廃止してもよい。
上述の実施形態では、第1開口部17Aの中心と第2開口部17Bの中心とを通る仮想線L1が支持軸13と平行であったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第2開口部17Bが支持軸13の軸線方向と交差する方向に向けて開口した構成、又は第1開口部17Aと第2開口部17Bとが支持軸13を介さずに連通している構成等であってもよい。
【0113】
上述の実施形態では、支持軸13、第1接続パイプ18A、回転式継手19、及び第2接続パイプ等を介して、供給用ホース等と巻取部5Aに巻かれた策体3とが繋がっていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、第1接続パイプ18A等を廃止し、供給用ホース等を直接的に回転式継手19又は巻取部5Aに巻かれた策体3に繋ぐ構成としてもよい。
【0114】
上述の実施形態に係るケーシング11は、第1〜第3ケーシング11A〜11Cにより構成されていたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、2部品にてケーシング11を構成してもよい。
【0115】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。