【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)第40回 日本股関節学会学術集会 プログラム・抄録集(2013年10月28日発行) (2)第40回 日本股関節学会学術集会 スライド(2013年11月30日発表) (3)第8回 日本CAOS研究会 抄録集(2014年2月14日発行) (4)第8回 日本CAOS研究会 スライド(2014年3月6日発表)
【解決手段】骨切断補助部材1は、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いられ、切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状である。骨切断補助部材1は、腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされ、周辺部において腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する嵌合面11と、嵌合面11が骨表面に嵌合した状態で、腸骨から突出部が突出する方向に嵌合面から延び、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を案内する案内部12とを備える。
前記案内部は、前記切断治具による切断方向を案内する側壁をなし、前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態のときに当該骨表面に当接する端縁部が、前記腸骨において前記寛骨臼を切断する切断位置を示すものとされ、前記側壁は、当接する状態にある前記切断治具の前記骨表面側の先端部を前記端縁部及び前記切断位置に位置させる形状とされている請求項1に記載の骨切断補助部材。
前記案内部をなす前記側壁は、当該側壁に摺擦して前記腸骨の内部側に向けてスライド移動されて当該腸骨の内部に入り込む前記切断治具が、予め定められた形状の切断面を当該腸骨の内部に形成する形状とされている請求項2に記載の骨切断補助部材。
前記案内部は、前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記嵌合面から延び、挿入される前記切断治具を挟持して当該切断治具の前記骨表面側の先端部を予め定められた切断位置上に位置させる貫通孔とされている請求項1、請求項3又は請求項4のいずれかに記載の骨切断補助部材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記骨切断補助部材は、骨切断時に、処置対象とする骨の表面において切断面に対応する位置に取り付ける必要がある。この骨切断補助部材は、処置対象とする骨の表面に嵌合する嵌合面を有し、当該嵌合面が骨表面の形状に適合する位置に骨切断補助部材を取り付けることで、骨切断補助部材が切断面に対応する位置に取り付けられる。しかしながら、術時に術者が実際に直面する処置現場では、このような人体を処置対象とする骨の処置は、骨の状態が予測した状態とは異なることが多いため、予め設定した切断位置で正確に骨切りを行えるとは限らない。特に、股関節を対象として骨切り術を行う場合に、寛骨臼が腸骨に対して位置変更可能となるように切断を行うときは、ノミ等の切断治具の操作に術者の熟練性が要求され、正確な切断面で当該切断を行うことが困難である。
【0005】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、股関節を対象として骨切り術を行う場合に、特殊な技術や術者の熟練性に頼ることなく、寛骨臼が腸骨に対して位置変更可能となる、予定した通りの切断面が正確に得られるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る骨切断補助部材は、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨切断補助部材であって、
切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされ、
前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する嵌合面と、
前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記嵌合面から延び、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を案内する案内部とを備えるものである。
【0007】
また、本発明の一局面に係る骨保持部材は、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨保持部材であって、
切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされ、
前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する底面部と、
前記底面部が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記底面部から延び、前記骨切り術により前記腸骨から切断されて当該腸骨に対して位置が変更される前記寛骨臼の切断面に密着する密着面とを備え、
前記密着面は、前記切断面に密着して前記寛骨臼の前記移動方向を案内し、前記腸骨の骨表面からの前記寛骨臼の高さが、前記骨切り術による矯正で求められる予め定められた移動量とされているものである。
【0008】
また、本発明の一局面に係る骨切断補助キットは、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨切断補助部材及び骨保持部材を有する骨切断補助キットであって、
前記骨切断補助部材は、
切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされ、
前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する嵌合面と、
前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記嵌合面から延び、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を案内する案内部とを備え、
前記骨保持部材は、
前記寛骨臼の前記周辺部に沿った円弧状をなす形状とされ、
前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する底面部と、
前記底面部が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記底面部から延び、前記骨切り術により前記腸骨から切断されて当該腸骨に対して位置が変更される前記寛骨臼の切断面に密着する密着面とを備え、
前記密着面は、前記切断面に密着して前記寛骨臼の前記移動方向を案内し、前記腸骨の骨表面からの前記寛骨臼の高さが、前記骨切り術による矯正で求められる予め定められた移動量とされている。
【0009】
また、本発明の一局面に係る骨切断補助部材を製造する方法は、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨切断補助部材を製造する方法であって、
処置対象とする骨の三次元データを取得し、当該取得した三次元データに基づいて、当該処置対象とする股関節の腸骨及び寛骨臼を表す三次元の骨モデルを作成する骨モデル作成ステップと、
前記骨モデルに対して前記寛骨臼矯正用の切断面を設定する切断面設定ステップと、
切断対象とされる前記寛骨臼が前記腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされた骨切断補助部材モデルであって、前記外縁部分において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する嵌合面モデルと、前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記嵌合面から延び、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を前記切断面に向けて案内する案内部モデルとを備える骨切断補助部材モデルを作成する骨切断補助部材モデル作成ステップと、
前記骨切断補助部材モデル作成ステップで作成された骨切断補助部材モデルを示す作成用三次元データを出力する作成用データ出力ステップと、
前記出力された作成用三次元データに従って、骨切断補助部材を作成する骨切断補助部材作成ステップと、を有する。
【0010】
また、本発明の一局面に係る骨保持部材を製造する方法は、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨保持部材を製造する方法であって、
処置対象とする骨の三次元データを取得し、当該取得した三次元データに基づいて、当該処置対象とする腸骨及び寛骨臼を表す三次元の骨モデルを作成する骨モデル作成ステップと、
前記骨モデルに対して前記寛骨臼矯正用の切断面を設定する切断面設定ステップと、
切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされた骨保持部材モデルであって、前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有して当該骨表面に嵌合する底面部と、前記底面部が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記底面部から延び、前記骨切り術により前記腸骨から切断されて当該腸骨に対して位置が変更される前記寛骨臼の切断面に密着する密着面とを備え、前記密着面は、前記切断面に密着して前記寛骨臼の前記移動方向を案内し、前記腸骨の骨表面からの前記寛骨臼の高さが、前記骨切り術による矯正で求められる予め定められた移動量とされている固定部材モデルを作成する骨保持部材モデル作成ステップと、
前記骨保持部材モデル作成ステップで作成された骨保持部材モデルを示す作成用三次元データを出力する作成用データ出力ステップと、
前記出力された作成用三次元データに従って、骨保持部材を作成する骨保持部材作成ステップと、を有する。
【0011】
また、本発明の一局面に係る骨切断用部材作成用プログラムは、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨切断補助部材を製造するためにコンピューターを動作させる骨切断用部材作成用プログラムであって、
処置対象とする骨の三次元データを取得し、当該取得した三次元データに基づいて、当該処置対象とする股関節の腸骨及び寛骨臼を表す三次元の骨モデルを作成する骨モデル作成部と、
前記骨モデルに対して前記寛骨臼矯正用の切断面を設定する切断面設定部と、
切断対象とされる前記寛骨臼が前記腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされた骨切断補助部材モデルであって、前記外縁部分において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する嵌合面モデルと、前記嵌合面が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記嵌合面から延び、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を前記切断面に向けて案内する案内部モデルとを備える骨切断補助部材モデルを作成する骨切断補助部材モデル作成部と、
前記骨切断補助部材モデル作成部で作成された骨切断補助部材モデルを示す作成用三次元データを出力する作成用データ出力部として、コンピューターを動作させるものである。
【0012】
また、本発明の一局面に係る骨切断用部材作成用プログラムであって、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いる骨保持部材を製造する製造するためにコンピューターを動作させる骨切断用部材作成用プログラムであって、
処置対象とする骨の三次元データを取得し、当該取得した三次元データに基づいて、当該処置対象とする腸骨及び寛骨臼を表す三次元の骨モデルを作成する骨モデル作成部と、
前記骨モデルに対して前記寛骨臼矯正用の切断面を設定する切断面設定部と、
切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、前記腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされた骨切断補助部材保持部材モデルであって、前記周辺部において前記腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合する底面部と、前記底面部が前記骨表面に嵌合した状態で、前記腸骨から前記突出部が突出する方向に前記底面部から延び、前記骨切り術により前記腸骨から切断されて当該腸骨に対して位置が変更される前記寛骨臼の切断面に密着する密着面とを備え、前記密着面は、前記切断面に密着して前記寛骨臼の前記移動方向を案内し、前記腸骨の骨表面からの前記寛骨臼の高さが、前記骨切り術による矯正で求められる予め定められた移動量とされている固定部材モデルを作成する骨保持部材モデル作成部と、
前記骨保持部材モデル作成部で作成された骨保持部材モデルを示す作成用三次元データを出力する作成用データ出力部として、コンピューターを動作させるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、股関節を対象として骨切り術を行う場合に、特殊な技術や術者の熟練性に頼ることなく、寛骨臼を腸骨に対して位置変更が可能となる、予定した通りの切断面を従来よりも更に正確に得ることが可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る骨切断補助部材、骨保持部材、骨切断補助キット、骨切断補助部材の製造方法、骨保持部材の製造方法、及び骨切断用部材作成用プログラムについて図面を参照して説明する。
図1は、人体の股関節部分を示す図である。
図2(A)は骨切り前の股関節を示す図、(B)は腸骨から切断した寛骨臼を回転させて臼蓋(屋根)を作った状態にある股関節を示す図である。
【0016】
本実施形態に係る骨切断補助部材、骨保持部材、及び骨切断補助キットは、
図1に示す股関節を対象とする寛骨臼回転骨切り術(RAO)において用いられる。当該骨切り術は、股関節において寛骨臼を腸骨から切断して回転させ、寛骨臼の腸骨に対する位置を変更して、大腿骨頭に対して臼蓋(屋根)を作るものである。すなわち、この骨切り術は、臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼に起因する二次性変形性股関節症等に対して股関節の足りない臼蓋を作る手術であり、
図2(A)に示すように破線で示すように切断位置を設定して関節包と軟骨をつけたまま寛骨臼を丸く骨切りし、
図2(B)に示すように当該寛骨臼を回転させて(腸骨側の内側面に対してスライド移動させて)腸骨に対する位置を変更し、解剖学的に正常に近い股関節を再建するものである。当該骨切り術は、手技が高難度であり、術者に熟練性や専門技術が必要とされるため、この骨切り術における手技を簡単にする目的で、本発明の一実施形態に係る骨切断補助部材、骨保持部材、及び骨切断補助キットを用いることが提案される。
【0017】
次に、本発明の一実施形態に係る骨切断補助部材の第1実施形態を説明する。
図3(A)は本発明の第1実施形態に係る骨切断補助部材を示す斜視図、(B)は当該骨切断補助部材を(A)とは異なる角度で視認した状態を示す斜視図、(C)は当該骨切断補助部材を(A)(B)とは異なる角度で視認した状態を示す斜視図、(D)は当該骨切断補助部材にロッド取り付けた状態を示す斜視図である。
図4は腸骨における寛骨臼の周辺部に骨切断補助部材を取り付けた状態を示す図である。
【0018】
第1実施形態に係る骨切断補助部材1は、上述したように、股関節を構成する各骨を対象とする寛骨臼回転骨切り術(以下、単に骨切り術という)に用いられる部材である。骨切断補助部材1は、切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部(後述の
図11参照)に沿った円弧状をなす形状とされている。骨切断補助部材1は、嵌合面11と、案内部12と、上面部13と、内側壁部14と、ロッド挿入孔15とを備える。
【0019】
嵌合面11は、骨切断補助部材1の例えば下面部であって、当該骨切断補助部材1を腸骨の骨表面に宛がう際に当該骨表面に対向して接触する面として形成される。嵌合面11は、処置対象とされる寛骨臼の上記周辺部において、腸骨の骨表面の形状に合致する形状を有し、当該骨表面に嵌合可能に形成されている。骨切断補助部材1は、切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿う形状であり、腸骨における当該周辺部に向かう方向からの視認において円弧状をなす形状とされる(後述の
図4参照)。
【0020】
案内部12は、骨切断補助部材1において内側壁部14とは反対側となる外側の側壁部をなす。
図4に示すように、骨切断補助部材1の嵌合面11が上記骨表面に嵌合した状態で骨表面に配置されているときに、腸骨から上記突出部が突出する方向に嵌合面11から延びる。案内部12は、当該寛骨臼の切断に用いる切断治具による切断方向を案内する。
【0021】
案内部12は、
図4に示すように嵌合面11が上記骨表面に嵌合しているときに、端縁部121(嵌合面11の縁部でもある)が、寛骨臼を腸骨から切断する際の切断位置に位置するように設計して形成されている。すなわち、嵌合面11の端縁部も当該切断位置に位置するように形成される。
図5に示すように、案内部12をなす外側壁部は、当該外側壁部に当接する状態とされた切断治具(本実施形態ではノミとする)7を、当該切断治具7の骨表面側の先端部を上記切断位置及び端縁部121上に位置させる曲面形状に形成されている。すなわち、当該曲面形状は、当該切断治具7の骨表面側の側面が有するカーブに沿う形状とされている。当該曲面形状は、術者が、案内部12の形状に沿って当該切断治具7の骨表面側の側面を宛がって当接させ、互いの形状が填まり合う状態にすると、切断治具7の先端部が端縁部121に位置するように形成されている。更に、術者が、上記のように案内部12をなす壁部に当接された切断治具7を、端縁部121がその周方向に有する円弧に沿って周方向にスライド移動させることによって、上記切断位置に沿って寛骨臼を腸骨から切断可能になる。本実施形態では、案内部12をなす外側壁部は球面状に形成され、切断部材の外側壁部に当接する部分は、当該球状に対応する形状とされ、当該球状の外側壁部に沿って密着する形状とされている。
【0022】
上面部13は、底面部となる嵌合面11に対して上面側となる面である。上面部13から嵌合面11までに亘って、ロッド挿入孔15が骨切断補助部材1を貫通して形成されている。
図4に示すように、骨切断補助部材1が、上記骨表面に嵌合面11が嵌合した状態で宛がわれたとき、
図3(D)に示すように、ロッド挿入孔15にロッド16が差し入れられ、当該ロッド16は骨表面から腸骨の内部に到達して、この位置で骨切断補助部材1を骨切断補助部材表面に固定する。ロッド16は、例えば、先端部を尖らせて骨に挿入することが可能とされた金属製とされる。ロッド16は、ロッド挿入孔15と同径又は僅かに小さい径を有している。なお、
図3(D)にはロッド挿入孔15が2つ形成されたものを示しているが、ロッド挿入孔15の数は特に限定されない。
【0023】
内側壁部14は、
図4に示すように上記骨表面に嵌合面11が嵌合した状態で宛がわれたときに、処置対象とされる寛骨臼が腸骨から突出している突出部側に対向する側面である。嵌合面11が骨表面に嵌合する位置に骨切断補助部材1を宛がうと、内側壁部14が寛骨臼の上記周辺部に沿った状態で、処置時における骨表面上での寛骨臼に対する骨切断補助部材1の位置が特定される。すなわち、嵌合面11は、骨表面における予定した領域の形状に合致させて形状が形成されるため、当該領域でのみ、嵌合面11と骨表面とが合致する。更に、上記のようにロッド16により骨切断補助部材1を骨表面に固定することにより、腸骨及び寛骨臼に対する骨切断補助部材1の位置が安定する。
【0024】
骨切断補助部材1における嵌合面11と更に他の各部の形状は、当該骨切り術の処置対象とされる腸骨及びその寛骨臼部分をCT等により撮影して得た当該腸骨及びその寛骨臼部分の立体三次元データに基づいて形成される(詳細は後述)。
【0025】
当該腸骨及びその寛骨臼部分の立体三次元データを取得するデバイスとしては、対象物の三次元モデルを得ることができる限りどのようなデバイスを用いても可能である。例えば、CCDカメラ、光学カメラ、レントゲン撮影、CT、MRI(磁気共鳴像)などの手段を用いることができる。但し、これらに限定されない。
【0026】
次に、本発明の一実施形態に係る骨切断補助部材の第2実施形態を説明する。
図6は本発明の第2実施形態に係る骨切断補助部材を示す斜視図である。
【0027】
第2実施形態に係る骨切断補助部材2も、上述したように、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いられる部材であって、切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿った上記円弧状をなす形状とされている。骨切断補助部材2は、嵌合面21と、外側壁部22と、貫通孔(案内部)23と、内側壁部24と、ロッド挿入孔25とを備える。第2実施形態における外側壁部22は、第1実施形態とは異なり、切断治具7を案内する機能を有していない。なお、嵌合面21と、内側壁部24と、ロッド挿入孔25は、第1実施形態と同様に機能するため、説明を省略する。
【0028】
第2実施形態に係る骨切断補助部材2は、貫通孔(案内部)23を有する点が、第1実施形態に係る骨切断補助部材1と相違している。貫通孔23は、嵌合面21が上記骨表面に嵌合した状態とされたときに、腸骨から寛骨臼の突出部が突出する方向に嵌合面21から高さ方向に延びて形成されている。貫通孔23は、骨切断補助部材2が有する円弧形状に沿って延びる長孔とされている。
【0029】
貫通孔23は、切断治具7の刃部分を挿し入れ可能な大きさとされ、当該刃部分の側面部が有するカーブに沿った形状とされている。貫通孔23は、2つの内側壁の両方が、挿入された刃部分の両側部に当接して互いに填まり合い、当該刃部分を挟持する。切断治具7を貫通孔23に挿し入れると、貫通孔23の内側壁に形成された曲面形状が、刃部分の両側部の表面形状に密着し、この状態で刃部分が貫通孔23により挟持されるように形成され、貫通孔23に刃部分を挿入した切断治具7の向きが固定される。
【0030】
この固定により、貫通孔23及びその内壁形状は、嵌合面21が上記骨表面に嵌合した状態とされたときに、挿し入れられた切断治具7を、その骨表面側の先端部(刃部分の先端部)が、上記のようにして予め定められた切断位置に位置するように保持する。術者は、挿し入れた切断治具7を貫通孔23の延びる方向にスライド移動させることが可能である。このため、術者が、挿し入れた状態の切断治具7を貫通孔23が長孔の延びる方向にスライド移動させると、予め定められた切断位置を示す線に沿って寛骨臼を切断することができる。
【0031】
この第2実施形態に係る骨切断補助部材2は、貫通孔23の内壁が切断治具7の刃部分を両側方から挟持し、刃部分の先端部が上記切断位置に位置する状態で保持するので、第1実施形態に係る骨切断補助部材1よりも確実に切断治具の先端部を切断面に位置させることができる。
【0032】
なお、上記第1及び第2実施形態に係る骨切断補助部材1,2は、後述する骨切断用部材作成用プログラムにより作成されて出力される立体三次元モデルデータに基づいて、アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing:積層造形)技術等により作成される。骨切断補助部材1,2は、例えば樹脂により形成される。
【0033】
次に、第1実施形態に係る骨保持部材3について説明する。
図7(A)は骨保持部材3を示す斜視図、(B)は(A)とは異なる角度から骨保持部材3を視認した状態を示す斜視図、(C)は骨保持部材3が処置対象となる骨に宛がわれた状態を示す斜視図である。
【0034】
骨保持部材3は、骨切断補助部材1,2と同様に、股関節を構成する骨を対象とする骨切り術に用いられる。但し、骨保持部材3は、骨切断補助部材1又は2により腸骨から切断されて回転された後の寛骨臼の姿勢を保持するための保持部材である。骨保持部材3は、例えば樹脂により形成される。
【0035】
骨保持部材3は、切断対象とされる寛骨臼が腸骨から突出する突出部の周辺部に沿った上記円弧状をなす形状とされている。骨保持部材3は、底面部31と、上面部32と、密着面33と、外側面部34と、把手35とを備える。
【0036】
底面部31は、例えば平板状とされ、骨切断補助部材1の嵌合面11と同様に、上述した寛骨臼の周辺部において腸骨の骨表面の形状に合致して填まり合い、密着する形状に形成されている。骨保持部材3は、その下部が底面部31として、腸骨の骨表面に宛がわれたときに当該骨表面に嵌合する。底面部31は、腸骨の骨表面の形状を示す三次元データに基づいて、当該腸骨の骨表面の形状に合致する形状に形成される。底面部31は、骨表面における予定した領域の形状に合致させて形状が形成されるため、当該領域でのみ、底面部31と骨表面とが合致する。
【0037】
密着面33は、底面部31が骨表面に嵌合した状態のときに、腸骨から突出部が突出する方向に底面部31から延び、寛骨臼側に対向する面である。密着面33は、骨切り術により腸骨から寛骨臼が切断されて、術者による手動で当該腸骨に対して回転されるとき、この回転動作に応じて腸骨の骨表面から外部に露出する寛骨臼の切断面に密着する形状とされる。
【0038】
寛骨臼の切断面は、密着面33に密着した状態でスライド移動が可能である。当該切断面は、骨切断補助部材1又は2を用いて切断治具の刃部分の先端を上記切断位置から腸骨内部に差し込んで切断されることにより、寛骨臼側に形成される本実施形態では球面状の面である。
【0039】
上述したように、切断治具の先端部を上記切断位置に位置させる骨切断補助部材1の案内部12又は骨切断補助部材2の貫通孔23は、切断治具7側の球面状の面に密着させるために内壁面が球面状とされ、これに密着してスライド移動する切断治具7の移動方向を確定して案内する。このため、この案内により腸骨の内部に入り込んだ切断治具7によって切断される寛骨臼側の切断面は球面状に形成される。密着面33は、当該球状の切断面に対応して密着する形状を有するため、切断された寛骨臼は、底面部31が骨表面に嵌合した状態のときに、密着面33により移動方向がガイドされて、腸骨及び骨保持部材3に対して回転動作による位置変更が可能である。密着面33の形状は、寛骨臼の切断面の形状を示す三次元データに基づいて算出される。
【0040】
そして、骨保持部材3の密着面33は、底面部31が骨表面に嵌合した状態のときに、骨表面からの高さが、当該骨切り術により矯正する寛骨臼の変更位置に対応する高さに形成されている。このため、術者は、上記のようにして切断された寛骨臼を回転させて腸骨に対する姿勢(位置)を変更するとき、寛骨臼の切断面を密着面33に密着させた状態でスライドさせて回転させ、寛骨臼の回転方向側の端部位置を、密着面33の上面部32と同様の高さに揃えるようにすれば、寛骨臼を、当該骨切り術による矯正で求められる上記変更位置まで回転させて簡単に姿勢変更させることができる。
【0041】
次に、第2実施形態に係る骨保持部材5について説明する。
図8(A)は本発明の第2実施形態に係る骨保持部材5を示す斜視図、(B)は当該骨保持部材5に固定用のロッドを取り付けた状態を示す斜視図である。
【0042】
第2実施形態に係る骨保持部材5は、嵌合部材51と、案内部材52とを備える。
【0043】
嵌合部材51は、第1実施形態に係る骨保持部材3と同様に、図示していないが、その底面に、腸骨の骨表面に嵌合する形状とされた底面部が形成されている。この底面部は、骨保持部材5の骨表面への取り付け安定化のために、一部領域511が幅広に形成されている。また、嵌合部材51は、この底面部から、寛骨臼の突出方向に延びる平板状かつ円弧状の形状を有している。嵌合部材51は、その上端縁部の数カ所(本実施形態では2カ所)において、結合部512により案内部材52が結合されている。
【0044】
案内部材52は、結合部512により嵌合部材51に結合された状態で、腸骨の骨表面から寛骨臼が突出する方向に延びる。案内部材52は、上記底面部が骨表面に嵌合した状態とされているときに、第1実施形態に係る骨保持部材3の密着面33と同様に、その内側面521が、上記腸骨に対する回転により位置が変更されて露出する寛骨臼の上記切断面に密着する。
【0045】
内側面521は、第1実施形態における密着面33と同様に、当該球状の切断面に対応して密着する形状を有する。切断された寛骨臼は、密着面33により移動方向がガイドされて、腸骨及び骨保持部材3に対して回転動作による位置変更が可能である。内側面521の形状は、寛骨臼の切断面の形状を示す三次元データに基づいて算出される。
【0046】
内側面521は、底面部が骨表面に嵌合した状態のときに、骨表面からの高さが、当該骨切り術により矯正する寛骨臼の変更位置に対応する高さに形成されている。このため、術者は、第1実施形態と同様に、上記切断された寛骨臼を回転させて腸骨に対する姿勢を変更するとき、密着面33の上面部32と同様の高さに揃えるように回転させれば、寛骨臼を、当該骨切り術による矯正で求められる上記変更位置まで回転させて簡単に姿勢変更させることができる。
【0047】
第2実施形態に係る骨保持部材5によれば、嵌合部材51の骨表面への配置位置は、寛骨臼の切断位置よりも外側とでき、ここから更に寛骨臼に近い位置に案内部材52が配設できる。この位置で案内部材52は、寛骨臼の切断面と接触して、寛骨臼の回転方向を案内する。このため、骨保持部材5では、嵌合部材51の取付位置が、寛骨臼の切断面から離れた位置となるので、骨保持部材5の存在が手術の支障になることが少ない状態として、案内部材52により寛骨臼の回転動作を案内できる。
【0048】
なお、上述した第1及び第2に実施形態に係るいずれの骨切断補助部材1,2であっても、第1及び第2に実施形態に係るいずれの骨保持部材3,5にも適用可能である。本発明の実施形態に係る骨切断補助キットは、これら全ての骨切断補助部材及び骨保持部材の組み合わせに対応する各骨切断補助部材及び骨保持部材からなる。
【0049】
次に、骨切断補助部材1,2及び骨保持部材3,5の製造に用いる骨切断用部材作成用プログラムを説明する。骨切断補助部材1,2及び骨保持部材3,5は、骨切断用部材作成用プログラムにより作成されて出力される立体三次元モデルデータを用いて、上記アディティブ・マニュファクチャリング技術により作成される。骨切断用部材作成用プログラムは、情報処理装置にインストールされて用いられる。
【0050】
図9は、骨切断用部材作成用プログラムがインストールされた情報処理装置の構成を示すブロック図である。
【0051】
情報処理装置10は、制御ユニット100と、ROM110と、RAM111と、メモリ113と、表示部114と、通信インターフェイス115と、入力部116とを備える。これら各部は、互いにCPUバスによりデータ又は信号の送受信が可能とされている。
【0052】
制御ユニット100は、CPU等からなる。ROM110は、情報処理装置10の基本動作についての動作プログラムを記憶する。RAM111は、制御ユニット100の動作領域等として使用される。
【0053】
メモリ113は、上記撮影装置から骨切断補助部材1及び骨保持部材3の作成用に送られてくる立体三次元モデルデータ等のデータを記憶するための記憶媒体である。
【0054】
HDD117は、上記骨切断補助部材作成用プログラムがインストールされる記憶領域である。
【0055】
制御ユニット100は、制御部101と、骨モデル作成部102と、切断面設定部103と、骨切断補助部材モデル作成部104と、骨切断補助部材作成用データ出力部105と、骨保持部材モデル作成部106と、骨保持部材作成用データ出力部107とを備える。
【0056】
なお、制御ユニット100は、上記HDD117にインストールされている骨切断補助部材作成用プログラムに従って動作することにより、制御部101と、骨モデル作成部102と、切断面設定部103と、骨切断補助部材モデル作成部104と、骨切断補助部材作成用データ出力部105と、骨保持部材モデル作成部106と、骨保持部材作成用データ出力部107として機能し、これら各部を備える。
【0057】
但し、制御部101、骨モデル作成部102、切断面設定部103、骨切断補助部材モデル作成部104、骨切断補助部材作成用データ出力部105、骨保持部材モデル作成部106、及び骨保持部材作成用データ出力部107は当該骨切断補助部材作成用プログラムに基づく動作によらず、それぞれハード回路により構成されるものとしてもよい。以下、特に触れない限り、各実施形態について同様である。
【0058】
制御部101は、情報処理装置10の全体的な動作制御を司る。例えば、制御部101は、表示部114の表示制御を行う。
【0059】
骨モデル作成部102は、処置対象とされる上記の股関節部における腸骨、寛骨臼骨、及び大腿骨を撮影するCT等の画像撮影装置から、通信インターフェイス115を介して、当該各骨の立体三次元データを取得する。骨モデル作成部102は、当該取得した三次元データに基づいて、当該股関節部の各骨を表す三次元の骨モデルBM(
図10参照)を作成する。当該骨モデルは、コンピューターグラフィックにより示される立体画像である。
【0060】
切断面設定部103は、骨モデル作成部102によって作成された上記骨モデルの腸骨における寛骨臼の突出部の周辺部における切断面を、当該取得した三次元データに基づいて作成する。例えば、制御部101は、
図11に示すように、骨モデル作成部102による作成された三次元の骨モデルBMを表示部114に表示させる。
図11では、制御部101は、表示部114に、右足側の腸骨モデルBM1と寛骨臼モデルBM2とを表示させる例を示している。
【0061】
ここで、操作者は、入力部116を操作して、表示されている寛骨臼モデルが示す突出部の周囲(周辺部)であって、処置により切断すべき外縁部を定め、当該外縁部における複数のポイント、例えば、
図11に示すP1〜P8の8カ所を指定する。切断面設定部103は、当該指定された複数箇所のポイントを円弧状につなぐ曲線を作成し、これにより切断面となるべき外縁部を特定する。この切断面となるべき外縁部は、上記の切断位置である。
【0062】
更に、操作者は、入力部116を操作して、上記のようにして設定された切断位置から骨内部に入り込んだ、上記設定された切断位置から腸骨を貫通して裏側に達するまでの面を切断面として指定する。切断面設定部103は、当該切断面の指定を受け付ける。但し、切断面から裏側に向かう切断カーブは、予め定められた上記球面状として作成される。すなわち、この球面状は、上述したように、当該骨切り術に用いる切断治具としてのノミの刃部分が有する曲面及び骨切断補助部材1の案内部12又は骨切断補助部材2の貫通孔23の内壁面の曲面に対応して合致した球面形状を有するものとして作成される。
【0063】
例えば、操作者は、入力部116を操作して、腸骨を示して表示部114に表示される腸骨モデル内の例えばxy方向又はxyz方向における複数の座標を指定することによって、当該切断面を指定する。例えば、切断面設定部103は、予め記憶している上記球面状のテンプレートを、指定された複数のポイントを最も多く通過することになる位置に配置し、当該球状面を切断面として設定する。
【0064】
骨モデル作成部102は、上記骨モデルに対して設定された球面状の切断面で当該骨モデルを切断した各骨片モデル、すなわち、
図12に示すような腸骨モデルBM1と、寛骨臼モデルBM2とを作成する。制御部101は、例えば
図13(A)(B)に示すように、操作者による入力部116の操作で入力される回転量に応じて、当該球面状の切断面で腸骨モデルBM1に対して寛骨臼モデルBM2が回転する状態を表示させる。これにより、操作者は、作成された骨片モデルを上記目標矯正位置まで移動可能となるかをシミュレートでき、上記回転量を最も好適な位置に設定することが可能とされている。操作者は、所望の位置に回転したある寛骨臼モデルBM2が、制御部101により表示部114に表示されているときに、入力部116の操作により位置指定指示を入力すると、骨モデル作成部102は、当該位置指定指示により特定された寛骨臼モデルBM2の回転位置を記憶する。
【0065】
骨切断補助部材モデル作成部104は、上記作成された骨モデルと、上記設定された切断面の位置とに基づいて、骨切断補助部材モデルを作成する。この骨切断補助部材モデルは、上記骨切断補助部材1又は2をグラフィック画像により示した三次元画像である。骨切断補助部材モデル作成部104は、骨切断補助部材モデルの案内部12に対応する外側壁面を、案内部12の上述した端縁部の示すラインが、上記設定された切断位置に位置するようにして嵌合面11及び案内部12を設定した骨切断補助部材モデルを作成する。なお、骨切断補助部材モデルが示す案内部12は、上記切断位置の長さ全域に及んでもよいし、その一部にのみ作成されてもよい。案内部12が上記切断位置の一部にのみ作成される場合、作成されていない部分に対応する骨部分は、骨切断補助部材1によらず術者による切断治具7のみの操作で切断される。骨切断補助部材モデルの嵌合面11に対応する部分は、当該切断位置に位置する上記端縁部に対応する部分から寛骨臼モデルBM2側の方向に予め定められた幅を有するように作成される。また、ロッド挿入孔15を示すロッド挿入孔モデルは、予め定められた数だけ予め定められた間隔で骨切断補助部材モデル上に設定される。また、骨切断補助部材モデルの高さ(骨表面から寛骨臼の突出方向への距離)は、予め定められた高さとされる。嵌合面11は、上記入力される骨の三次元データが示す骨表面の形状、すなわち、案内部12及び嵌合面11の上記端縁部が上記切断位置に位置する骨表面上の領域の形状に従って、形状が作成される。
【0066】
骨切断補助部材作成用データ出力部105は、骨切断補助部材モデル作成部104で作成された骨切断補助部材モデルを示す三次元データを、骨切断補助部材1の作成用三次元データとして、通信インターフェイス115を介して、USBメモリ、他の情報処理装置等に出力する。当該作成用三次元データを用いて、骨切断補助部材や当該骨切断補助部材作成用の金型等の作成が可能になる。
【0067】
骨保持部材モデル作成部106は、上記骨保持部材を示す骨保持部材モデルを作成する。骨保持部材モデル作成部106は、骨モデル作成部102により記憶されている上記指定された寛骨臼モデルBM2の回転位置に基づいて、底面部からの高さが設定される。また、底面部は、上記入力される骨の三次元データが示す骨表面の形状に従って、形状が作成される。骨保持部材モデルの厚みは予め定められた厚みとされる。骨保持部材モデルでは、上記骨表面における底面部の位置は、底面部が骨表面に密着して嵌合している状態のときに、密着面33が寛骨臼の上記切断面に一致するように設定される。
【0068】
骨保持部材作成用データ出力部107は、骨保持部材モデル作成部106で作成された骨保持部材モデルを示す骨保持部材作成用三次元データを、通信インターフェイス115を介して、USBメモリ、他の情報処理装置等に出力する。当該骨保持部材モデルを示す作成用三次元データを用いて、アディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing:積層造形)技術等による骨保持部材や当該骨保持部材モデルの作成が可能になる。
【0069】
なお、制御ユニット100のこれら制御部101、骨モデル作成部102、切断面設定部103、骨切断補助部材モデル作成部104、骨切断補助部材作成用データ出力部105、骨保持部材モデル作成部106、及び骨保持部材作成用データ出力部107は、上記骨切断用部材作成用プログラムに基づく動作にはよらずに、それぞれハード回路により構成されてもよい。また、制御ユニット100は、以下に示す実施形態において必要となる限りで、制御部101、骨モデル作成部102、切断面設定部103、骨切断補助部材モデル作成部104、骨切断補助部材作成用データ出力部105、骨保持部材モデル作成部106、及び骨保持部材作成用データ出力部107を有していれば足りる。
【0070】
表示部114は、LCD(Liquid Crystal Display)等からなり、制御部101による表示制御により、上述した画像の表示や、各種データの内容、情報処理装置10を操作するユーザに対する操作案内等が表示される。
【0071】
通信インターフェイス115は、例えばUSBインターフェイス等を有し、情報処理装置10に接続される外部メモリ、他の情報処理装置等に、上記骨切断補助部材作成用データ及び骨保持部材作成用データを出力する。また、通信インターフェイス115は、CT等の撮影装置又はUSBメモリ等から、上記三次元データを取得するインターフェイスとして機能する。
【0072】
入力部116は、情報処理装置10に設けられたキーボードやマウスポインタ、表示部114の表示画面部分に設けられたタッチパネル機構等から構成され、操作者から各種の操作指示が入力される。
【0073】
次に、上記骨切断補助部材作成用プログラムがインストールされた情報処理装置10による、骨切断補助部材作成用データの作成方法を説明する。
図14は情報処理装置10による骨切断補助部材作成用データの作成処理を示すフローチャートである。
【0074】
最初に、矯正手術を受ける患者における処置対象とする股関節の腸骨、寛骨臼及び大腿骨部分をCT、MRI等の撮影装置により撮影する。例えば、CTによる断層撮影の場合、撮影装置は、当該撮影により得られる断層画像上の位置情報(X方向及びY方向の位置情報とする)と、患者の背丈方向(Z方向とする)における各撮影位置の組からなる三次元データが得られる。
【0075】
情報処理装置10においては、上記の骨切断補助部材作成用プログラムを起動し、制御ユニット100を上述した制御部101、骨モデル作成部102、切断面設定部103、骨切断補助部材モデル作成部104、骨切断補助部材作成用データ出力部105、骨保持部材モデル作成部106、及び骨保持部材作成用データ出力部107の各部として機能させる。操作者は、上記撮影装置で取得した上記処置対象とする関節の腸骨、寛骨臼及び大腿骨部分を撮影した三次元データと、正常な骨部分を撮影した三次元データとを、USBメモリを介して、又はUSB接続により、通信インターフェイス115から情報処理装置10に入力する。骨モデル作成部102は、通信インターフェイス115を介して、上記撮影装置から上記三次元データを取得する(S1)。
【0076】
骨モデル作成部102は、当該取得した処置対象とする関節の腸骨、寛骨臼及び大腿骨部分の三次元データを用いて、当該骨Bを示す骨モデルBMを作成し、制御部101は、当該作成された骨モデルBMを表示部114に表示させる(S2)。
【0077】
そして、入力部116に入力される操作者からの指示に従って、切断面設定部103は、切断面の箇所指定を受け付ける(S3)。制御部101は、表示部114において、当該受け付けた全てのポイントを骨モデル画像上に表示させる(S4)。続いて、制御部101は、当該ポイントをつなぐ円弧状の曲線を表示部114に表示させる(S5)。操作者による入力部116の操作で、当該表示されている円弧状の曲線を切断位置として指定する旨の指示が入力されると(S6)、切断面設定部103は、骨表面の円弧状の曲線を切断位置として設定する(S7)。更に、骨内部への切断面を作成するための複数のポイントが入力部116から操作者により入力されると(S8)、切断面設定部103は、当該複数のポイントに基づいて上述したようにして球面状の切断面を作成し、制御部101は当該切断面を表示部114に表示させる(S9)。操作者による入力部116の操作で、当該作成された切断面を指定する旨の指示が入力されると(S10)、切断面設定部103は当該表示されている切断面を正式な切断面として設定する(S11)。
【0078】
続いて、制御部101は、操作者による入力部116の操作で入力される回転量に応じて、当該球面状の切断面が腸骨モデルBM1側の切断面に対してスライド移動して、寛骨臼モデルBM2が腸骨モデルBM1に対して回転する状態を表示させる(S12)。このとき、操作者が入力部116を操作して、寛骨臼モデルBM2の回転位置を指定する指示を入力すると(S13)、骨モデル作成部102は、当該指定された寛骨臼モデルBM2の位置を示す座標位置情報を取得して記憶する(S14)。
【0079】
そして、骨切断補助部材モデル作成部104は、骨切断補助部材モデルを作成する(S15)。まず、骨切断補助部材モデル作成部104は、端縁部が上記設定された切断位置となるようにした案内部12と、内側壁部及び上面部とを作成する(S151)。続いて、骨切断補助部材モデル作成部104は、ロッド挿入孔を作成する(S152)。更に、骨切断補助部材モデル作成部104は、当該切断面の位置に縁部を有すると共に、案内部12に繋がって骨モデルBMの表面形状に沿う形状を有する嵌合面11を、骨モデルBMの三次元データを用いて作成する(S153)。これにより、骨切断補助部材モデル作成部104は、
図3(A)〜(D)に示したような、嵌合面11と、案内部12と、上面部13と、内側壁部14と、ロッド挿入孔15とを備える骨切断補助部材1を示す骨切断補助部材モデルを作成する。
【0080】
続いて、骨保持部材モデル作成部106が、骨保持部材モデルを作成する(S16)。まず、骨保持部材モデル作成部106は、骨モデル作成部102により記憶されている上記指定された寛骨臼モデルMB2の位置に基づいて、骨表面からの高さを有する外側面部34、上面部32及び把手35を、予め記憶しているテンプレートデータを用いて、予め定められた厚みを有した状態として作成する(S161)。続いて、骨保持部材モデル作成部106は、S10で受け付けられた切断面の球面に対応して密着可能な形状とされる密着面33を作成する(S162)。さらに、骨保持部材モデル作成部106は、底面部を作成する(S162)。
【0081】
これにより、骨保持部材モデル作成部106は、
図7(A)〜(C)に示したような、底面部31と、上面部32と、密着面33と、外側面部34と、把手35とを備える骨保持部材3を示す骨保持部材モデルを作成する。
【0082】
続いて、操作者からの指示に基づいて、骨切断補助部材作成用データ出力部107は、S15が示す一連の処理で骨切断補助部材モデル作成部104により作成された骨切断補助部材モデルを示す作成用三次元データを、通信インターフェイス115を介して、USBメモリ、他の情報処理装置等に出力する(S17)。同様に、骨保持部材作成用データ出力部107は、S16により骨保持部材モデル作成部106で作成された骨保持部材モデルを示す作成用三次元データを出力する(S18)。
【0083】
この後、操作者は、上記出力された骨切断補助部材モデル及び骨保持部材モデルを示す各作成用三次元データを用いて、骨切断補助部材1と骨保持部材3とを、上記アディティブ・マニュファクチャリング技術等で形成する。或いは、上記各三次元データに従って作成した金型を用いた樹脂成形等により、骨切断補助部材1と骨保持部材3とを形成してもよい。
【0084】
例えば、操作者は、各作成用三次元データに基づいて、粉末焼結法による積層造形などの任意の成形方法により素材(例えば、金属、プラスチック、セラミックなど)を成形することによって、骨切断補助部材1又は2と、骨保持部材3又は5とを製造することができる。粉末焼結積層造形とは、粉末状の材料に高出力のレーザー光線をあて焼結させる造形方式であり、材料としては、ナイロン等の樹脂系材料や、銅・青銅・チタン・ニッケルの金属系材料が用いられる。粉末焼結積層造形は、例えば、上記粉末状の材料を槽の中に敷き詰めて、モデル形状の部分にレーザーを当てて熱で焼結させた層を重ねることで目的物を成形する。
【0085】
なお、上記には、骨切断補助部材1及び骨保持部材3を作成する場合を例にして説明したが、骨切断補助部材2及び骨保持部材5も上記と同様にして、上記三次元データ及び予め定められた骨切断補助部材2及び骨保持部材5作成用のデータを用いて、骨切断用部材プログラムにより作成される。
【0086】
また、上記骨切断用部材作成用プログラムを、骨切断補助部材1及び骨保持部材3の両方を作成するプログラムとして説明したが、骨切断補助部材1骨保持部材3、骨切断補助部材2、又は骨保持部材5のいずれか一つを作成するプログラムも当該骨切断用部材作成用プログラムの一例となり得る。
【0087】
上記に示した骨切断補助部材1又は2と、骨保持部材3又は5とを作成することにより、患者及びその骨に応じたカスタムメイドの骨切断補助部材及び骨保持部材を簡単に作成することができ、各患者に応じた最適な骨矯正を行うことが可能になる。
【0088】
次に、上記のようにして形成した骨切断補助部材及び骨保持部材等を用いた処置対象骨の施術を説明する。以下には、骨切断補助部材1及び骨保持部材3を用いる例を説明する。
【0089】
(1)まず、患者の患部を切開し、処置対象とする骨の切断対象部分を露出させる。
【0090】
(2)続いて、
図15に示すように、骨切断補助部材1を、その嵌合面11が、処置対象とする股関節における腸骨の寛骨臼の外縁部となる骨表面において嵌合可能となる部分に嵌め合わせて密着させる。これにより、処置対象とする骨表面において、骨切断補助部材1をその案内部12の縁部が上記切断位置に位置合わせされた狙いの位置に取り付けられることになる。
【0091】
(3)そして、
図16に示すように、上記取り付けられた骨切断補助部材1の各ロッド挿入孔15にロッド16を挿入し、骨切断補助部材1を処置対象とされる骨の表面に固定する。このとき、術者は、例えば、前もって、電気ドリルの先端部等をロッド挿入孔15に挿し入れて、ロッド挿入孔15によって案内される角度及び位置で骨切断補助部材1に、ロッド16突き刺し用の孔を形成しておく。ここで、ロッド16は、先端が尖状の棒状の部材である。
【0092】
(4)次に、術者は、当該骨切り術に用いる切断治具7である、上記のように予め定められた形状の刃を有するノミを、その刃部分を骨切断補助部材1の案内部12が有する曲面に合わせて接触させ、骨表面に対する刃部分の姿勢を決定する。これにより、刃部分の先端部を上記設定した切断位置に沿わせる。術者は、ノミの刃先端を案内部12の長さ方向端部にあてがい(
図5参照)、この位置から案内部12の端縁部に沿って刃先端を骨表面上で端縁部の延びる方向にスライド移動させつつ、骨の内部に挿し入れていく。このとき、当該刃部分は、案内部12の球面状の曲面との当接により互いのカーブが一致する。案内部12の表面上の曲面カーブにより、これに摺擦しつつ骨の内部に進入する方向に移動する当該刃部分は、その進入方向が規定される。ここで、案内部12の表面上の曲面カーブは、上述した骨内部に設定した切断面と一体的に繋がるように形成されている(上記骨切断補助部材モデル作成部104によるモデル作成時に、このように作成される)。このため、案内部12の表面上のカーブにより定められる刃部分の進入方向は、上記球面状の切断面を形成することになる。これにより、上記想定した球面状の切断面で腸骨から寛骨臼を切断することができる。なお、骨切断補助部材1によりサポートされていない部分は、術者により骨切断補助部材1によらない切断治具7のみの操作で切断される。当該切断は、腸骨を裏面側まで貫通させて切断する。この切断後、ロッド16を骨切断補助部材1及び処置対象の骨から取り外す。
【0093】
なお、骨切断補助部材2を用いて上記切断を行う場合は、嵌合面21による骨表面への配置は同様であるが、切断治具7であるノミは、貫通孔23に挿し入れて、上記切断操作が行われる。
【0094】
(5)次に、術者は、上記のようにして切断した寛骨臼の周辺部となる骨表面に骨保持部材3を宛がう。このとき、底面部の形状が骨表面の形状に合致して嵌合する骨表面位置に、骨保持部材3を配置する。続いて、
図17に示すようにして、術者は、腸骨から切断した寛骨臼を回転させ、腸骨に対する姿勢を変化させる。このとき、術者は、寛骨臼の切断面を骨保持部材3の密着面33にスライドさせて回転させる。術者は、寛骨臼をその端部が骨保持部材3の上端部に一致するまで回転させ(
図7(C)参照)、一致した時点で、当該姿勢にある寛骨臼を腸骨に対してボルト締め等により固定する。
【0095】
なお、骨保持部材5を用いて上記切断を行う場合は、骨表面への配置は、嵌合部材51の底面部が骨表面に嵌合して密着する位置に配置され、術者は、切断された寛骨臼を、案内部材52の内側面521に対してスライドさせ、寛骨臼の端部が案内部材52の上端部に一致するまで回転させる。
【0096】
このように骨切断補助部材1及び骨保持部材3を用いて骨切り術を行えば、この種の骨切術において、予めコンピュータシミュレートにより算出された適切な切断面に沿って骨を正確に切断でき、さらに切断後の寛骨臼をコンピュータシミュレートにより設定した適切な目的矯正位置に移動させることが容易にできる、といった効果が得られる。従って、従来のように医師の経験、熟練性や高度な技術に頼ることなく、確実かつ容易に骨切り術が可能となる。
【0097】
また、本発明は上記実施の形態の構成に限られず種々の変形が可能である。
【0098】
なお、
図1乃至
図17を用いて上記各実施形態に示した構成及び処理は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明の構成及び処理はこれに限定されるものではない。
【0099】
なお、骨切断補助部材作成用プログラムは、任意の形態でユーザに提供され得る。例えば、そのプログラムを記録した記録媒体を配布する形態でそのプログラムをユーザに提供してもよいし、ネットワークを介してサーバから端末装置にそのプログラムをダウンロードする形態でそのプログラムをユーザに提供してもよい。骨切断補助部材作成用プログラムの提供は、有償であるか無償であるかを問わない。そのプログラムを記録する記録媒体としては、フレキシブルディスク、MOディスク、DVDなどの任意の記録媒体が使用され得る。ネットワークとしては、インターネットなどの任意のネットワークが使用され得る。
【0100】
本明細書において「三次元表示」は、通常直交系表示を用いて行われるが、三次元を表示することができる系であれば任意の系を用いることができる。
【0101】
本明細書において、骨に関する三次元方向のパラメータは、使用する三次元表示において、各次元を表示する要素であり、例えば、正規直交系で空間を表現したときに、x、y及びz軸に関する各々の要素(例えば、ベクトルなど)をいう。x、y及びz軸で表現される空間は、代替的に、回転軸、回転角度及び距離で表すことができる。
【0102】
本明細書において、骨の「切断」とは、骨を2以上の部分に分けるような処置を行うことをいう。代表的には、骨の切断は、骨切デバイス(例えば、ボーンソーなど)を用いて行われる。本明細書において、骨の切断が行われる部分は、「骨切り部」とも称される。
【0103】
本明細書において、骨(骨片)の「固定」とは、ある骨の処置を行った後に、その処置の状態を実質的に保持させる行為をいう。骨の固定は、一般的に対象となる骨のみで行われ得る。