【実施例1】
【0021】
[研削過程モデルを用いた研削量の算出]
(研削過程モデル)
図1に、研削加工を行う際に用いる研削加工装置として平面研削盤1を示す。なお、研削加工装置としては、平面研削盤1に限らず、円筒研削盤、万能研削盤、内面研削盤など、種々のものに適用することができる。
【0022】
平面研削盤1は、砥石3と駆動部5と制御部7とを備えている。
砥石3は、砥石台9の主軸11に取り付けられ、主軸11の回転により砥石車である砥石3が回転駆動可能となっている。この砥石3の回転駆動及び切込とテーブル13に固定された工作物Wの送りとにより研削加工が行われる。
【0023】
駆動部5は、平面研削盤1に内蔵された各種モーターで構成され、例えば、前記砥石3の回転駆動を、主軸11を駆動する主軸モーターで行い、工作物Wへの切込移動を、第1のサーボモーターにより砥石台9を移動させることで行い、砥石3及び工作物W間の送り、例えば、第2、第3のサーボモーターによりテーブル13を送り方向、送り直交方向に移動させることで、前記研削加工を行わせる。
【0024】
制御部7は、コンピューターで構成され、例えば、MPU、ROM、RAM等を備え、前記切込の切込量を設定して前記研削加工を行うように前記駆動部5を制御する。本実施例では、主軸モーター、第1、第2、第3のサーボモーターが制御される。
この研削加工装置1は、研削加工を行う時の法線抵抗を検出する
図25で後述する法線抵抗検出部を備え、制御部7は、設定された切込量で研削加工を行うときに前記法線抵抗検出部により検出された法線抵抗と前記設定された切込量とに基づき前記砥石3及び工作物W間の接触剛性を加味して研削痕深さを算出し前記設定された切込量となるまで前記送りを複数パス繰り返すように前記駆動部5を制御するとき、前記パスで検出された法線抵抗を用いてその時のパスによる研削痕深さ及び比研削抵抗を算出し、この比研削抵抗から次パスでの法線抵抗を算出し、この算出した法線抵抗から研削痕深さを算出する過程を経ることで目標の研削痕深さを算出して前記設定された切込量となるまでの前記パスの回数を求め、前記研削加工を行なわせる。
ここで、前記砥石及び工作物間の接触剛性は、砥石台9や砥石3の弾性変形に対応する概念であり、これを加味するとは、本実施例において砥石台9や砥石3の弾性変形量を加味することを意味する。
【0025】
制御部7は、前記研削痕深さの算出に前記砥石3及び工作物W間で前記研削加工時に予測される熱膨張量を後述のように加味することもできる。
【0026】
また、本願発明実施例の研削加工方法は、回転駆動された砥石3と工作物Wとの間の切込及び送りにより研削加工を行う研削加工方法であって、前記切込の切込量を設定して前記研削加工を行うときに検出された法線抵抗と前記設定された切込量とに基づき前記砥石3及び工作物W間の接触剛性を加味して研削痕深さを算出し前記設定された切込量となるまで前記送りを複数パス繰り返すとき、前記パスで検出された法線抵抗を用いてその時のパスによる研削痕深さ及び比研削抵抗を算出し、この比研削抵抗から次パスでの法線抵抗を算出し、この算出した法線抵抗から研削痕深さを算出する過程を経ることで目標の研削痕深さを算出して前記設定された切込量となるまでの前記パスの回数を求めることで実現できる。
【0027】
このような研削加工装置1及び加工方法は、いわゆるスパークアウト研削のみならず、切込量を複数段に設定し、各切込量にて前記装置1により研削加工を行い、前記方法によりパスの回数を求めることで、目的の切込量の研削加工を、経験値に依存したり、実際に研削した量を測定することなく、短時間で的確に行わせることができる。
【0028】
さらに詳細に説明すると、研削時には、砥石3をある設定切込量で工作物Wに切込みを与え、テーブル13に固定した工作物Wを左右前後(送り方向、送り直交方向)に移動させながら加工する。なお、砥石3と工作物Wとの間の相対的な送りは、円筒研削盤1等のように、砥石3側を送り方向に移動させる構成にすることも可能である。
ここで、この研削過程をモデル化した研削過程モデルを
図2に示す。(a)に示すように、研削時には直径d
eの砥石3を用いて設定切込量a
pで工作物Wの加工を開始する。すると、(b)に示したように、研削時に生じる研削抵抗により、研削盤1や砥石3の弾性変形、工作物Wや砥石3の熱膨張を生じるため、実際に研削する深さは設定切込量a
pとは異なってくる。このときのそれぞれの変形量は以下のように求めることができる。
まず、工作物Wが固定されているテーブル13は
図1に示したようにすべり案内で支持されており、案内面には潤滑を良くするために潤滑油が供給されている。そのため、テーブル13を左右に動かしたとき、この潤滑油の影響によりテーブル13は若干浮上する。そこで、
図2(b)に示した研削時では、まずこの潤滑油の油膜厚さによりテーブル13浮上量h
tを生じる。なお、本実施例では砥石3と工作物Wとの初期接触、すなわち研削時の切込み方向の基準は、テーブル13が静止した状態で行っている。
次に、研削時には研削抵抗が生じるが、
図1に示したように、砥石や工作物は支持剛性K
sやK
wで支持されているため、この支持剛性の大小に依存して弾性変形を生じる。このときの研削盤の弾性変形量と砥石の弾性変形量が、
図2(b)のδ
mとδ
wとなる。また、砥石と工作物とが接触した際、主に砥石が弾性変形する。このときの剛性を砥石と工作物との接触剛性と呼んでいるが、この接触剛性に依存した弾性変形量がδ
conとなる。さらに、研削中の砥石は徐々に摩耗していく。そこでこの摩耗量がδ
sとなる。これらの弾性変形量δ
m、δ
w、δ
con、および摩耗量δ
sが切込み深さを小さくする要因となる。
【0029】
いっぽう、研削時には砥石が高速で回転しているため、工作物と接触した際には研削熱が生じる。この研削熱の影響により、工作物と砥石とが熱膨張する。このときの熱膨張量がh
th-wとh
th-gとなる。この熱膨張量と前述したテーブル浮上量h
tは切込み深さを大きくする要因となる。なお、工作物の熱膨張量h
th-wに関しては、研削中は熱膨張しているものの、研削後には冷却され収縮するため、
図2(b)のように研削中の真実切込量a
reに対して研削後の研削痕深さa
eは、h
th-wだけ深くなる。
【0030】
したがって、設定切込量に対して切込み深さを小さくする要因と大きくする要因を考慮すると、研削後の研削痕深さa
eは次式より求めることができる
【0031】
【数1】
【0032】
ここで、工作物の弾性変形量δ
wと砥石の摩耗量δ
sは他の要因に比べ微小であることから、本研究では無視すると、式(1)は次式となる。
【0033】
【数2】
【0034】
式(2)中の弾性変形量は、それぞれの部位に作用する研削抵抗と剛性から算出することができる。また、熱膨張量に関しては、研削熱が研削抵抗に比例すると考えられるため、こちらも研削抵抗から算出することができる。
【0035】
(研削量の算出方法)
テーブル浮上量h
tは、テーブルに作用する荷重すなわち研削抵抗により異なる。またテーブル送り速度によっても異なる。そこで、テーブル浮上量はテーブルに負荷する荷重を変え、実験的に関係式を求めた。
図3に測定したテーブル浮上量を示す。図より、テーブル送り速度3.3m/min、4.2m/min、6.0m/minにおける負荷荷重とテーブル浮上量との関係は次式で表すことができる。
【0036】
【数3】
【0037】
【数4】
【0038】
【数5】
【0039】
研削盤の弾性変形量δ
mは、研削盤の剛性K
mと研削抵抗F
nより、次式より算出できる。
【0040】
【数6】
【0041】
なお、研削盤1の剛性K
mを測定した結果、K
m=42.3N/μmであった。
砥石の弾性変形量δ
conは、砥石の接触剛性K
conを用いて算出できる。研削中の砥石の接触剛性は、工作物に接触している砥粒数と、砥粒一粒を支持している砥粒支持剛性に依存している。そのため、
図4に示すように、砥粒支持剛性k
gsと工作物に接触している砥粒数から、それらの積で算出することができる。
【0042】
図5に砥石と工作物との接触状態を示す。まず(a)に示すように、砥石直径d
e、設定切込量a
pで研削を開始すると、(b)に示すようにテーブル案内面の潤滑油によってテーブル浮上量h
tを生じる。また、研削抵抗により研削盤の弾性変形量δ
mを生じる。そのため、この研削初期時の真実切込量a'
reは次式で表すことができる。
【0043】
【数7】
【0044】
そこで、このときの接触弧長さl
gは幾何学的に次式より求めることができる。
【0045】
【数8】
【0046】
図5(b)の研削状態は、砥石3が弾性変形する前の状態を示しているが、このときの砥石3の接触剛性は、接触弧長さl
gと砥石3幅bからなる接触面積に存在する砥粒数と、砥粒支持剛性k
gsとの積で算出できる。
【0047】
ここで、接触面積に作用する砥粒数を求めるためには、単位面積当たりの砥粒数n
gが必要となる。この砥粒数は、レーザ変位計を用いて砥石3表面形状を測定し、単位面積に占める砥粒数を直接数えて求めた。
図6に単位面積あたりの砥粒数の測定結果を示す。砥石3最表面上からの深さに依存して砥粒数が増加していることがわかる。そのため、切込量により接触する砥粒数も異なることから、砥石3表面からの深さと砥粒数との関係図中に示すように定式化することで、切込量に応じた砥粒数n
gを求めることができる。
【0048】
また、砥粒支持剛性k
gsに関しても、砥粒の押込み試験より得ることができる。
図7に砥粒支持剛性の測定結果を示す。これは、砥粒先端に荷重を負荷し、その際の変位量を測定し求めた結果である。
図7はレジノイド砥石3を対象に測定した結果となっているが、ビトリファイド砥石3に関しては、
図8にあるレジノイド砥石3のヤング率との比を参考に求めることができる。
そこで、研削初期時の接触剛性K'
conは、砥石3と工作物Wとの接触面積と単位面積あたりの砥粒数、砥粒支持剛性の積として次式より求めることができる。
【0049】
【数9】
【0050】
ここまで求めてきた接触弧長さl
gは、砥石3が弾性変形しないことを前提してきた。しかし、研削を開始した砥石3は
図5(c)に示したように、研削中の研削抵抗F
nにより弾性変形を生じる。そのため、先に求めた接触弧長さよりも砥石3の弾性変形を伴った場合の接触弧長さは長くなる。そこで、砥石3の弾性変形を伴う場合の接触弧長さは、以下のように求めることができる。
砥石3の弾性変形量δ'
conは先に求めた接触剛性と研削抵抗から次式で求められる。
【0051】
【数10】
【0052】
次に、Roweが提案した砥石3の弾性変形を考慮した接触弧長さl
cの算出方法の模式図を
図9に示す。砥石3と工作物Wの直径を考慮した等価砥石直径をd
eとし、砥石3が弾性変形を生じて工作物Wと接触した場合の接触弧の直径をd
cuとする。ここで、砥石直径と工作物W直径とを用いて研削時の等価砥石直径を算出する一般的な手法と同様に、砥石3の変形前の直径を有効砥石直径d
efと仮定すると、d
efはd
eとd
cuを用いて、次式のように表すことができる。
【0053】
【数11】
【0054】
また、等価砥石直径d
eの砥石3が切込量a'
reで工作物Wと接触し、このときの理論接触弧長さをl
gとすると、これらの関係は次式となる。
【0055】
【数12】
【0056】
同様に、砥石3が接触弧直径d
cuで工作物Wと接触弧長さl
cで接触しているとすると、これらの関係は次式となる。
【0057】
【数13】
【0058】
また、有効砥石直径d
efの砥石3が弾性変形量δ'
conを生じて接触弧長さl
cで接触しているとき、これらの関係は幾何学的に次式となる。
【0059】
【数14】
【0060】
そこで、砥石3が真実切込量a'
reで研削しながら、さらに弾性変形δ'
conを生じている場合、砥石3と工作物Wの接触弧長さl
cは、式(12)、(13)、(14)を式(11))に代入することにより次式より求めることができる。
【0061】
【数15】
【0062】
したがって、このときの砥石3の接触剛性K
conは、式(9)と同様に、次式を用いて算出することができる。
【0063】
【数16】
【0064】
しかし、この接触剛性に依存して、再度、砥石3の弾性変形量や接触弧長さがさらに異なってくる。そこで、式(10)、(15)、(16)を接触剛性が一定となるまで繰り返し計算することにより、理論接触剛性を求めることができる。
したがって、砥石3の弾性変形量δ
conは、砥石3の接触剛性K
conと研削抵抗F
nより、次式を用いて算出することができる。
【0065】
【数17】
【0066】
砥石3の熱膨張量h
th-gに関しては、研削点温度T
eqと比例関係にあると仮定して、等価熱膨張係数α'
g(=0.005)を用いて次式より算出することにした。
【0067】
【数18】
【0068】
ここで、研削点温度T
eqが必要になるが、これを測定することは難しく、さらに加工現場で測定することは実用的ではない。そこで本発明実施例では、湿式研削での研削点温度の他の研究(安井平司:湿式研削温度に及ぼす研削条件の影響(その2)、精密機械、51、9(1985)1718‐1724.)を参考に、正常な研削が行われている場合は、研削点温度は研削液の沸点よりも低い100℃程度と仮定した。さらに、このときの研削抵抗は約100N程度であることから、研削点温度係数α
g(=1)を用いて、次式より算出することにした。
【0069】
【数19】
【0070】
工作物Wの熱膨張量h
th-w は、奥山らが提案した次式を用いて算出することができる。
【0071】
【数20】
【0072】
ここで、αは工作物Wの熱膨張係数(=1.3×10
−6 ℃
−1)、νはポアソン比(=0.3)、K
td-mは工作物Wの温度伝導率(=11.4×10
−6 m
2/s)、v
wはテーブル13送り速度を示す。また、式中の砥石3と工作物Wとの接触弧長さl
cth は、砥石3の弾性変形量や熱膨張量をすべて加味した長さである。なお、このl
cthは、先の砥石3の接触剛性を求める際に、テーブル13浮上量と研削盤1の弾性変形量のみを考慮し求めた暫定的な接触弧長さl
gやl
cとは異なるものである。
そこで、この真実接触弧長さl
cthは次のように算出する。
図2(b)に示した研削過程モデルにおいて、最終的な真実切込量a
reは、設定切込量a
pから切増し要因の砥石3の熱膨張量h
th-gとテーブル13浮上量h
tを加え、さらに切残し要因の研削盤1と砥石3の弾性変形量δ
m、δ
wを引いたものであることから、次式で表すことができる。
【0073】
【数21】
【0074】
そこで、砥石3と工作物Wとの真実接触弧長さl
cthは、式(15)と同様に次式より求めることができる。
【0075】
【数22】
【0076】
このl
cthを式(20)に代入することにより、工作物Wの熱膨張量h
th-wを求めることができる。
【0077】
以上に示した研削盤1と砥石3の弾性変形量や、砥石3と工作物Wの熱膨張量を算出し、それらを式(2)に代入することにより、設定切込量a
pと研削抵抗F
nから1パス目の研削痕深さa
e を算出することができる。
【0078】
次に、そのままスパークアウト研削を行う場合、つまり2パス目以降の研削痕深さは以下のように算出する。
【0079】
まず、設定切込量を変えずにそのまま研削を続けるものとすると、1パス目の切残し量が2パス目における切込量となる。先の研削痕深さの算出においては、設定切込量a
pを用いていたが、切残し量を算出するには無負荷時のテーブル13浮上量を考慮しなければならない。スパークアウト研削時には法線抵抗の減少に伴いテーブル13浮上量が増加し、スパークアウト研削後には法線抵抗がゼロになることから浮上量は最大となる。そのため、全切込量a'
pは、
図2に示すように設定切込量a
pと無負荷時のテーブル13浮上量h
t0の和となり、次式より求められる。
【0080】
【数23】
【0081】
なお、このときのh
t0は、テーブル13浮上量の測定結果である式(3)〜(5)において、法線抵抗F
n をゼロとすることで求めることができる。
【0082】
そこで、1パス目の切残し量δ
res1は、この切込量a'
pから1パス目の研削痕深さa
e1を引いて求めることができる。そのため、2パス目での切込量a'
p2はこのδ
res1となることから、全切込量a'
pと研削痕深さa
e1との差として次式で表せる。
【0083】
【数24】
【0084】
このように切込量に無負荷時のテーブル13浮上量を考慮したことから、式(7)の研削初期時の真実切込量a'
reは、テーブル13浮上量に対してテーブル13降下量h'
tを考慮しなければならない。ここで、テーブル13降下量は無負荷時のテーブル13浮上量からの差として次式のように求められる。
【0085】
【数25】
【0086】
【数26】
【0087】
【数27】
【0088】
そこで式(7)の研削初期時の真実切込量a'
reは、全切込量a'
pとテーブル13降下量h'
tを考慮し下記のように表すことができる。
【0089】
【数28】
【0090】
この研削初期時の真実切込量a'
reを用いて式(8)以降の計算を行うことにより、2パス目の研削痕深さを算出することができる。なお、式(2)の研削痕深さの算出式を上記のa'
pとh'
tで表すのであれば次式のようになる。
【0091】
【数29】
【0092】
また、2パス目での全研削痕深さa
Eは、1パス目と2パス目の研削痕深さの和として求めることができる。
【0093】
3パス目以降に関しては、上記の2パス目の計算方法を繰り返すことにより、研削痕深さを得ることができる。
【0094】
(実験方法および実験装置)
提案した研削過程モデルを用いた研削痕深さの算出が妥当であるかを確認するために、平面研削時でのスパークアウト研削を行い、算出した研削痕深さと、実際の研削痕深さを比較することにした。
【0095】
図10に実験装置の概略図を示す。平面研削盤1上のテーブル13に工作物Wを、力センサSを介して取り付けた。これにより、スパークアウト研削時の研削抵抗を測定できる。
図11に工作物W上の研削部を示す。まず工作物W上面部をすべて研削仕上げし、基準面を作製する。この工作物Wに対してある設定切込量で1パス研削を行い、その後引き続きスパークアウト研削を行い、その際の研削痕深さを測定し、算出結果と比較した。
【0096】
(a)設定切込量
設定切込量a
pの測定方法について説明する。
図12に示すようにマグネットスタンド15を用いて電気マイクロメータ17を研削盤1の裏側の主軸頭に固定する。そして、Cクランプ19を用いてL字型の金属板21を固定し、そこに電気マイクロメータ17の端子を接触させる。そのままの状態で電気マイクロメータ17により一度測定を行う。次に、砥石3に切込みを与え、再び測定を行う。
電気マイクロメータ17により得られた測定結果を
図13に示す。
図13は目測による設定切込み量10μmとしたときの測定結果である。
図13に示すように、切込み前後での測定データのそれぞれの平均の差が設定切込量となる。以上のようにして設定切込量a
pを測定した。
【0097】
(b)研削痕深さ
形状測定器を用いて研削により工作物Wに生成された研削溝の深さを測定することにより、実際の研削痕深さを測定した。
図14に測定例を示す。研削を行った溝部の深さを、基準面である両端部との差として測定した。
【0098】
(c)研削液(クーラント)の影響
平面研削盤1では研削をする際に、研削焼けが起こらないよう研削部に研削液を供給する。その影響により、力センサで測定する法線抵抗が増加することがわかっている。今回の実験条件では研削焼けを起こさず研削にも影響しない研削液の適量は、13l/min程度であり、そのときの法線抵抗への影響を測定したところレジノイド砥石3で5N程度、ビトリファイド砥石3で1N程度となった。そこで、本実験では測定した法線抵抗と研削液の影響(レジノイド砥石3なら5N、ビトリファイド砥石3なら1N)の差を実際の法線抵抗として、後述の研削痕深さの算出の計算に用いることにする。
【0099】
(d)実験手順
表1に研削条件を示す。砥石3にはビトリファイドとレジノイド砥石3を用い、砥石3周速度は1800m/minとした。工作物Wには大同特殊鋼株式会社製のプラスチック金型用鋼NAK55を用いた。
実験は以下の順で行った。
(1)平面研削盤1で工作物Wを研削して、実際に形状測定器で研削痕深さを測定する。また、実験中に測定した切込量と法線抵抗から上記理論式を用いて理論研削痕深さを求める。
(2)研削回数を1回、2回、3回と増やしていき、スパークアウト研削が終了するまで研削をする。これを、レジノイド砥石3とビトリファイド砥石3で行う。
(3)各研削回数ごとに、実際の研削痕深さと理論研削痕深さを比較する。また、砥石3の違いによる接触剛性の違いが、スパークアウト研削が終了するまでに与える研削時間について評価する。
【0100】
(研削量の測定結果および算出結果)
レジノイド砥石3での研削痕深さの測定結果と計算結果を
図16、
図17に、それぞれの研削痕深さの比較を
図18に示す。同様に、ビトリファイド砥石3での結果を
図19~
図22と
図23とに示す。
【0101】
それぞれの研削時での設定切込量と法線抵抗の測定結果から式(16)を用いて砥石3の接触剛性を算出した。そして、法線抵抗からそれぞれの弾性変形量や熱膨張量を算出し、式(2)を用いて研削後の研削痕深さを算出した。
【0102】
どちらの砥石3を見ても実験値と計算値が同程度の値を示しているため、理論式を用いることにより研削痕深さを算出できるものと考えられる。レジノイド砥石3では6パス目、ビトリファイド砥石3では5パス目の研削でスパークアウト研削が終了しているように見受けられる。なお、ビトリファイド砥石3の結果では、3パス目の結果でスパークアウト研削が終了したと考えられるものもあるが、数回の実験のうち1回のみであるため5パス目をスパークアウト研削の終了とみなしている。
【0103】
次に、ビトリファイド砥石3とレジノイド砥石3のスパークアウト研削終了までの実験値を比較してみると、レジノイド砥石3とビトリファイド砥石3の1パス目の研削痕深さに大きな違いがあることが見られる。また、1パス目からスパークアウト研削終了までの研削痕深さの増加にも違いが見られる。ビトリファイド砥石3は1パス目の研削量が多く、2パス目以降は緩やかにスパークアウトへ向かっていく。これに対してレジノイド砥石3では、1パス目の研削量は少ないものの、2パス目以降はビトリファイド砥石3に比べ研削深さの増加量は大きい。このような違いが生じた要因として、研削時の接触剛性の違いが大きく影響していると考えられる。
【0104】
まず、1パス目においては、この研削過程での最大の切込量と法線抵抗が生じることとなる。 1パス目の切込量は、砥石3の違いには依存しないためほぼ同一ある。また、1パス目の法線抵抗は、実験より砥石3の違いによる大きな差は生じていない。一方上記の2点に対して、接触剛性は結合剤の違いにより大きく異なっている。このことから、接触剛性の違いが砥石3の弾性変形量に大きく影響を与えるため、1パス目に大きな差が生じたと考えられる。しかし、スパークアウト研削回数はレジノイド砥石3が6パス、ビトリファイド砥石3が5パスであるため、大きく違ってはいない。また、2パス目以降の研削痕深さの増加量は線形に近い形で増加しスパークアウトに達している。このことから、スパークアウト研削回数には砥石3の接触剛性の違いによる1パス目の研削量と切残し量の違いが大きく影響を与えていると考えられる。
【0105】
[1パス目の研削抵抗を用いた研削時間の予測]
(研削抵抗の算出方法)
[研削過程モデルを用いた研削量の算出]においては、平面研削でのスパークアウト研削過程における研削痕深さを、法線抵抗を元に算出できることを明らかにした。しかし、力センサを用いて法線抵抗を測定しているため、実用的とは言えない。また、それぞれの研削パスにおける力を測定するのであれば、この力を用いて研削過程が終了しているかどうかを判別すれば良いことになってしまう。
【0106】
そこで、研削過程における研削痕深さを、研削抵抗を測定することなく求めることができれば、研削を行う前に、事前に研削過程に要する時間を予測することが可能となり、スパークアウト研削過程に無駄な時間を要することもなくすことが期待できる。研削過程に要する時間は、送り速度が一定である時、パスの回数に比例し、パスの回数をも意味する。
【0107】
ここで、研削抵抗を算出する方法として、比研削抵抗を用いたものが挙げられる。比研削抵抗がわかれば、砥石3と工作物Wとの接触面積を乗ずることにより、計算にて研削抵抗を求めることができる。
【0108】
しかしここで問題となるのが、比研削抵抗である。この比研削抵抗は理論的に求めることは難しく、実際に研削を行い求めなければないのが現状である。さらに、砥石3と工作物Wとの組み合わせにより異なり、さらに研削条件によっても異なってしまう。そのため、比研削抵抗を求めるためには、その場その場で使用する砥石3と工作物Wや研削条件を用いて実際に研削抵抗を測定し、比研削抵抗を算出するしかない。
【0109】
そこで、研削初期時、たとえば1パス目の研削抵抗を測定し、続けて研削を行っている間に、この研削抵抗を用いて比研削抵抗をNCで算出すれば、研削終了までの研削痕深さを予測できると考えた。すなわち、1パス目の研削抵抗から比研削抵抗を算出し、この比研削抵抗から次パス目以降の研削抵抗を予測し、さらにこの研削抵抗から研削痕深さを求める。そして、次パス目以降の研削を行っている間に、所望の研削痕深さに至るまでのパス数を瞬時に計算し、そのパス数に至った時点で研削を終了させれば、最適な研削時間で適正な加工精度での工作物Wを得ることが可能となる。
【0110】
また、現在は研削抵抗を工作物Wとテーブル13の間に力センサSを取り付け、測定を行っている。これは精度の高い測定が可能であるものの、現場ではそれぞれの工作物Wに合わせて力センサSを取り付けるとは困難であり実用的ではない。
【0111】
そこで、研削時の研削抵抗をモーターの消費電力から容易に測定可能な電力計を用いたものに変更する。これにより、現場でも比較的容易に研削抵抗を測定することができる。そして、この研削抵抗より研削時間を予測できれば、もっとも実用的である。
【0112】
ここで、1パス目の研削抵抗から比研削抵抗を求め、研削時間を予測する方法を以下に述べる。
【0113】
まず、1パス目の研削抵抗を測定し比研削抵抗Kを算出する。比研削抵抗Kは、1パス目の法線抵抗F
n1と研削面積A
g1より算出する。研削面積A
g1は
図24に示すように、1パス目の真実切込量a
re1と研削幅bの積として求めることができる。
1パス目の真実切込量a
re1は、式(21)より求めることができる。次に、研削時の研削面積A
g1は真実切込量a
re1と砥石3幅bの積から次式より算出できる。
【0114】
【数30】
【0115】
そこで、比研削抵抗Kは、1パス目の法線抵抗F
n1を研削初期時の研削面積A
g1で除することにより次式より求めることができる。
【0116】
【数31】
【0117】
続いて、式(31)で求めた比研削抵抗Kから、2パス目の法線抵抗F
n2を算出する。2パス目の切込量a'
p2は式(24)より求めることができる。
【0118】
この切込量a'
p2と砥石3幅bから式(30)と同様に次式より暫定的な研削面積A'
g2を算出する。
【0119】
【数32】
【0120】
そして、算出した研削面積A'
g2と比研削抵抗Kより、暫定的な2パス目の法線抵抗f
n2を次式より算出する。
【0121】
【数33】
【0122】
この暫定的な法線抵抗は、テーブル13降下量や研削盤1の弾性変形量を求めるためのものであり、後述するように最終的には、テーブル13降下量や研削盤1の弾性変形量を加味した切込み量を求めた後に、最終的な法線抵抗を算出する。
【0123】
この法線抵抗f
n2によって、テーブル13降下量h''
t2と研削盤1の弾性変形量δ''
mが生じるため、これらを加味した2パス目の切込量a''
p2は次式より算出できる。
【0124】
【数34】
【0125】
そこで、この切込量a''
p2での研削面積A
g2は、
【0126】
【数35】
【0127】
と表すことができる。
【0128】
そして、この研削面積A
g2を用いて、 最終的な2パス目の法線抵抗F
n2を次式より算出する。
【0129】
【数36】
【0130】
したがって、この算出した2パス目の法線抵抗F
n2より、[研削過程モデルを用いた研削量の算出]で述べた研削過程モデルを用いて2パス目の研削痕深さa
e2を算出することが可能となる。
【0131】
3パス目以降は同様の計算を行い、法線抵抗ならびに研削痕深さを算出できる。 そして、所望の研削回数まで計算を繰り返し、スパークアウト研削終了時のパス数の算出を行う。
【0132】
(電力計を用いた研削抵抗の測定)
現状では、工作物Wの下に設置した力センサを用いて研削抵抗を測定している。これでは現場において実用的でないため、モーターの出力電流から消費電力を測定できるロードセンサーを用いて研削抵抗を測定できるようにする。
図25に示すように、研削抵抗に応じて主軸モーター11aの負荷電流が変化する。そこで、モーター負荷電流を測定するために、ロードセンサー23を取り付けた。
図26に、用いたロードセンサー23の仕様を示す。株式会社エルファイ社製で、出力は電流値となっていることから、抵抗を介して電圧値に変換することによりAD変換ボードを用いて負荷電流を測定することができる。
【0133】
ロードセンサー23の出力は消費電力となっていることから、この消費電力を研削抵抗に校正しなければならない。そこで、現在用いている力センサを用いて研削を行い、消費電力を研削抵抗に校正することにした。
【0134】
なお、ロードセンサー23で得られる研削抵抗は、接線抵抗である。本発明実施例では、法線抵抗を用いて研削盤1や砥石3の弾性変形量、工作物Wや砥石3の熱膨張量を算出している。そのため、接線抵抗に研削二分力比を乗じて法線抵抗を算出しなければならない。しかし、研削二分力比は研削条件により異なるため、ある値に同定するのは難しい。そこで、ロードセンサー23から得られる消費電流を法線抵抗で校正することにより、消費電力から直接法線抵抗を求めることにした。
【0135】
図27にロードセンサーの消費電流の電圧値を法線抵抗で校正した結果を示す。ばらつきはあるものの線形に校正できることがわかる。なお、法線抵抗が小さい場合には、本ロードセルでは小さな消費電力を測定することができなかった。そのため、校正直線は原点を通っていない。しかし、本測定法では、研削開始時の1パス目の大きな法線抵抗を測定できれば良く、小さい研削抵抗を測定できなくても問題はない。そこで、この校正直線を用いて法線抵抗を測定しても差し支えない。
【0136】
図28に法線抵抗の測定結果の一例を示す。横軸はサンプリング件数となっているが、研削時間に対応している。研削開始とともに法線抵抗が上昇し、研削時にはほぼ一定な法線抵抗となっていることがわかる。このように、ロードセンサー23を用いることにより、力センサを工作物Wに設置しなくても法線抵抗を測定できることがわかった。
【0137】
(実験方法および実験装置)
実験は、ロードセンサーを用いずに、[研削過程モデルを用いた研削量の算出]で述べた力センサを用いた1パス目の測定結果を用いて比研削抵抗を算出し、法線抵抗を求め、研削痕深さを算出できるかを検討した。ロードセンサーを用いずに行った理由としては、先に述べたように法線抵抗が小さい領域においてはロードセンサーでは測定が難しく、比研削抵抗を用いて法線抵抗を算出しても、その算出結果が妥当であるかどうかを確認できないためである。本実験方法は、力センサを用いたものとなるが、この結果が妥当であれば、切込量の大きい1パス目の法線抵抗をロードセンサーで測定すれば、同様な結果を得られると考えられる。
【0138】
そのため、本実験方法と実験装置は[研削過程モデルを用いた研削量の算出]で述べた内容と同一である。
【0139】
(研削抵抗の算出結果および研削時間の予測)
図29に、力センサを用いて測定した10パス研削時の法線抵抗と、その際に生じた研削痕深さを形状測定器で測定した結果を示す。このときの1パス目の法線抵抗から比研削抵抗を求め、各パスにおける法線抵抗を比研削抵抗を用いて算出し、測定結果と比較した。また、算出した法線抵抗から研削痕深さを算出し、測定結果と比較した。
【0140】
図30、
図31に、比研削抵抗を用いた法線抵抗の算出結果と、この法線抵抗を用いて算出した研削痕深さを示す。まず比研削抵抗は、研削回数1パス目の法線抵抗である37.5Nを研削面積で除して算出した。このときの研削面積は、1パス目の真実切込量a
re=10.2μmと研削幅b=25mmの積で求まる。そのため比研削抵抗は、式(31)より147.1N/mm
2となる。
【0141】
1パス目の研削痕深さは、力センサで測定した法線抵抗を用いて、10.7μmと算出できる。そこで、2パス目の切込量は、1パス目での切込量12.7μm(=設定切込量10.3μm+テーブル13浮上量2.4μm)から1パス目の研削痕深さを引いた2.0μmとなる。この研削痕深さと研削幅、そして算出した比研削痕深さを用いて、2パス目の暫定的な法線抵抗F'
n2を求めると、7.24Nとなる。そこでこの法線抵抗を用いて暫定的な研削盤1の弾性変形量とテーブル13降下量を求めると、δ''
m=0.17 μm、h''
t=0.23 μmとなる。そのため、暫定的な切込量は1.57μmとなり、求める法線抵抗は式(35)より5.76Nとなる。この法線抵抗を用いて順次弾性変形量や熱膨張量を算出し、これらを用いて研削痕深さを求めると11.3μmとなる。以上をパス毎に算出した結果が
図30、
図31の図表となっている。
【0142】
そこで、
図32に比研削抵抗を用いて算出した各パスにおける法線抵抗を示す。点線が力センサを用いて測定した結果で、実線が2パス目以降の法線抵抗を算出した結果となっている。図より定性的には一致していることから、比研削抵抗を用いることにより、ある程度の法線抵抗は算出できることがわかった。
【0143】
なお、研削条件であるアップカットとダウンカットとを考慮し、切込量に応じた比研削抵抗の違いを考慮することにより、より精度よく法線抵抗を算出できる。
【0144】
次に、算出した法線抵抗を用いて各パスにおける研削痕深さを求めた結果を
図33に示す。図より、2パス目以降の研削痕深さに変化はなく、ほぼ一定な値となっていることがわかる。これは、
図32に示した法線抵抗にあまり変化がなかったことから、この研削痕深さの算出結果も変化が見られなかったものと考えられる。
なお、法線抵抗の算出においてアップカットとダウンカットの影響や、寸法効果による比研削抵抗の算出方法を考慮することにより、この研削痕深さの算出結果も測定結果とより一致させることができる。
【0145】
また、研削時間の予測については、次のように求めることができる。
【0146】
研削終了時点というのは、研削痕深さが切込量に至ったときと定義できる。そのため、スパークアウト研削時の各パスにおける研削痕深さの算出結果が、切込量に至った時点を研削終了とみなし、その時点までの時間を研削時間として予測することができる。
しかし、研削においては必ずしも研削痕深さが切込量に至るとは限らない。たとえば、
図33に示した実験結果での切込量は、設定切込量10.3μmにテーブル13無負荷時の浮上量2.4μmを足した12.7μmであることから、この切込量に至った時点が研削終了となる。しかし、研削痕深さは実際にはその切込量には至っておらず、
図29の図表に示した力センサを用いた測定結果において、10パス目の法線抵抗は1N以下であるにもかかわらず依然として切残し量を生じており、これ以降研削を続けたとしても、研削痕深さが切込量に至るとは考え難い。
【0147】
そこで、加工時の幾何公差に着目し、たとえば、ある寸法に対してある公差内に形状が収まるように研削がなされていれば良いと考えると、研削時の誤差を加味した研削終了までの研削時間を算出できるものと考えられる。
【0148】
そこで
図33において、力センサを用いた研削痕深さの算出結果の推移を見てみると、たとえば切込量12.7μmに対して±1μmの公差内に収まった場合に研削が終了したとすると、9パス目において研削痕深さが11.9mmとなっており、この時点が研削終了となる。このように、研削終了時点を形状に対してある公差内に収まれば良いと考えると、研削誤差を生じた場合にも研削終了までの時間(パスの回数)を予測することが可能となる。
【0149】
上記のように、研削時の研削痕深さを定量的に算出することを目的に、研削過程モデルを提案し、スパークアウト研削過程に適用できるかを検討した。
【0150】
研削過程モデルでは、研削時に生じる研削盤1と砥石3の弾性変形量と砥石3と工作物Wの熱膨張量、そしてテーブル13浮上量を加味し、これらを法線抵抗を基に算出する方法を提案した。特に、砥石3の接触剛性に関してはこれまで理論的に算出することができなかったが、これを可能にした。
【0151】
提案した研削過程モデルが妥当であるかどうかを、研削時に測定した法線抵抗を用いてそれぞれの変形量を算出し、それらを用いて研削痕深さを算出し、実際の研削痕深さと比較した。その結果、スパークアウト研削時の法線抵抗を用いて、各パスにおける研削痕深さを求めることが可能であり、各パスにおける研削痕深さの累積であるスパークアウト研削終了時での研削痕深さも定量的に求めることができることを明らかにした。
【0152】
そこで、予め法線抵抗を算出できれば、研削前に研削痕深さを算出できるのではないかとの視点から、比研削抵抗を用いた法線抵抗の算出を試みた。実際の研削においては、比研削抵抗は砥石3と工作物Wの組み合わせや研削条件により異なってくることから、研削初期時である1パス目の法線抵抗から比研削抵抗を算出し、この比研削抵抗を用いて各パスにおける法線抵抗を算出することにした。その結果、定性的には一致することを明らかにした。
ただし、平面研削時には研削する方向がアップカットとダウンカットを繰り返すため、この違いによって比研削抵抗が異なる。また、切込量の違いにより、工作物Wを除去する形態が、カッティング、プローイング、ラビングと異なるため、比研削抵抗も異なってくる。
そのため、算出した法線抵抗は測定した結果とは異なっているが、今後上記を考慮し法線抵抗の算出ができれば、スパークアウト研削時の法線抵抗や研削痕深さをより定量的に求められる可能性を示した。
【0153】
また、研削時間の予測については、一般的には研削痕深さが切込量に至った時点を研削終了とみなす。しかし、実際の研削においては研削誤差により切込量に至らない場合もあるため、必ずしも研削痕深さが切込量に至るとは限らない。そこで、幾何公差に着目し、ある交差内に研削痕深さが収まれば、研削終了とみなすことを提案した。そこで、1パス目に測定した法線抵抗を用いて比研削抵抗を求め、さらに研削中に比研削抵抗から法線抵抗を算出し、そして各パスにおける研削痕深さを算出し幾何公差内に収まっているかどうかを比較すれば、研削時間を研削中に予測できる。
【0154】
このように、実際に研削した量を測定することは難しいため、本発明実施例では、これを測定するのではなく、理論的に算出して研削加工を行う研削加工装置及び方法を提案した。実際に研削した量は、設定した切込量から研削盤1や砥石3、工作物Wの弾性変形量との差から求められる。そこで、研削盤1や砥石3の剛性を予め測定しておき、研削時の研削抵抗のみを測定することで、この剛性と抵抗から、それぞれの弾性変形量を求めることが可能となる。
【0155】
また、研削を続けていくと徐々に研削した量は増えていくが、この過程における研削量を算出できれば、設定した切込量に研削量が至るまでの研削時間を求めることができる。そこで、研削初期の研削抵抗から比研削抵抗を算出し、これを利用し、次工程での切込量から研削抵抗を算出すれば、それぞれの工程における研削盤1や砥石3の弾性変形量ならびに研削量を求めることが可能となる。そして、これを各工程で続けることにより、最終的に研削量が切込量に至るまでの工程を求めることができ、これが研削時間となる。
本発明実施例では、研削時の研削抵抗のみを測定すれば良いため、研削量を測定するなどの他の測定装置を備える必要がなくなる。
また、研削時の研削抵抗だけを測定する長所として、実際に使用する砥石3と工作物Wとの組み合わせがどのようなものであっても、経験値によらず実際に研削した量や研削時間を算出することができ、経験値に依存しなくても良い。