外部電源5からバッテリ4に充電する充電回路6に接続されて二つの面7A,7Bの間で熱移動を行なう熱電素子ユニット7と、この熱電素子ユニット7の一つの面7Aに接続可能に構成された蓄熱器8と、この蓄熱器8に接続可能に構成された空調用熱交換器9と、車両2の使用開始時刻TSを設定するタイマ10と、前記外部電源5からの充電回路によるバッテリ4への充電と、蓄熱器8への蓄熱と、更に空調用熱交換器9を介して車内空間2Aに熱移動を行う熱電素子ユニット7への給電とを制御して、使用開始時刻TSにおいてバッテリを満充電状態とし、蓄熱器8及び車内空間2Aを適温蓄熱する制御部11とを備える。
減速時に車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して前記熱電素子ユニットに供給する回生回路を備え、前記制御部は回生された電気エネルギーを用いて熱電素子ユニットに熱移動を行なわせることにより蓄熱器の蓄熱量を回復させるものである請求項1に記載の近距離走行電気自動車の冷暖房システム。
前記回生回路は回生時の電気エネルギーを一時的に蓄積してから熱電素子ユニットに供給する蓄電回路を備える請求項2に記載の近距離走行電気自動車の冷暖房システム。
前記熱電素子ユニットの一つの面に接続された座席用熱交換器と、この座席用熱交換器に接続されて熱媒体を座席内に循環させる循環路と、この循環路に熱的に接触している循環路用蓄熱器と、この循環路に接続されて熱媒体を循環させるポンプと、
前記循環路および/または循環路用蓄熱器の外側に形成され前記車内空間と連通すると共に内部の空気の流れを作るファンを有する熱交換空気流路を備える請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の近距離走行電気自動車の冷暖房システム。
車両のエンジン、燃料タンクおよびエアコンシステムを取り除いたスペースに収納可能に調整され、既存の車両を近距離走行電気自動車に改造可能なユニットを構成する請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の近距離走行電気自動車の冷暖房システム。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両にモータおよびバッテリを設け、バッテリに充電した電力で走行可能とする電気自動車が発明され実用化されている。
【0003】
他方、一般的な車両において、車内空間の冷房はエンジンの動力を用いて駆動されるコンプレッサによって行われ、フロンガスなどの熱媒体の凝縮熱および気化熱を用いて外気との熱交換および車内における熱交換を行うヒートポンプにより車内空間の冷房が行われる。ところが、ヒートポンプによる冷房装置はフロンガスの配管、コンプレッサ、一対の熱交換器など複雑な構成要素を必要としているため、製造コストや重量の増加を招き、これが電費悪化の原因となる問題がある。
【0004】
また、車内空間の暖房はエンジンから発生する熱(廃熱)を冷却した冷却水を室内のヒーターコアで熱交換することにより行う。ところが、近年のハイブリッド車は、エンジンをモータによってアシストする構造であるため、エンジンの発熱量が少なく、エンジンからは車内空間の暖房をするほどの熱量を得ることができないという問題が発生する。さらに、電気自動車においては、エンジンのような燃焼による発熱部が存在しないので、車内空間の空調は電気によって行われる。つまり、バッテリに蓄積した電力の一部をPTCヒータなどを用いて熱に変換して車内空調の暖房を行う。
【0005】
このため、冷暖房の何れの場合にも、バッテリに蓄積した電力を空調のために使うと、それだけ電気自動車の走行距離が短くなり、実電費が10〜20%悪化するという問題がある。
【0006】
そこで、特許文献1には、外部電源によるバッテリの充電と同時に蓄熱器への蓄熱を行い、充電のための電気エネルギーと蓄熱のための電気エネルギーとを分配する分配率を調整して充電と蓄熱を最短で完了させることを可能とする、車両の充電蓄熱装置が記載されている。
【0007】
これにより、バッテリの充電と同時に蓄熱器による蓄熱を効率的に行うことができるので、この蓄熱された熱を用いることにより車両の始動直後から冷暖房装置を稼動して車内空間の温度調整を行うことができるので快適である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、車内空間の温度は車両を放置している間に適温からずれて冬季には適温よりも低く夏季には適温より高くなるものであるから、車内空間の温度調整には利用開始時により多くの熱エネルギーを消費する。このため、特に真冬または真夏時には、車両の利用開始時に、蓄熱器に蓄熱した熱エネルギーの多くを一気に消費するという問題が発生する。
【0010】
加えて、車両の利用中(つまり走行状態)においても、窓から入射する赤外線による温度上昇や窓からの放射熱、外気などの接触に伴って生じる熱伝達による熱エネルギーの出入り、および、搭乗者の体温による温度変化により車内温度は変動するものであるから、車内空間の温度調整を適正に行うには多量の熱エネルギー(冷熱も含む)を必要としているが、この熱エネルギーの補充は外部電源からの電力を用いて行うことができないので、バッテリに蓄えられた電気エネルギーを消費して行わざるを得ないという問題がある。
【0011】
このため、バッテリには通常の車両の走行に加えて、夏季および冬季の空調に必要な電気エネルギーを供給できる程度の容量を必要としており、重量を大きく増加させることなくバッテリの容量を引き上げるためには、リチウムイオンバッテリのようなエネルギー密度の高い比較的高価なバッテリを用いる必要が発生していた。したがって、製造コストが大いに引き上げられるという問題がある。
【0012】
また、電気自動車の熱移動手段としては、構成が簡易な熱電素子を用いることにより、空調装置の簡素化と軽量化を図ることも考えられているが、熱電素子は熱媒体を用いたヒートポンプ構造の熱移動装置に比べて効率が悪く、大量の熱を一気に移動させることを苦手としているため、車内空間の急激な温度変化を速やかに抑えることは極めて困難であった。したがって、従来の電気自動車ではヒートポンプ式の空調システムに代えて熱電素子を用いた車内空間の空調を行うことは事実上不可能であった。
【0013】
本発明は上述の事柄を考慮に入れてなされたものであり、極めて簡単な構成で製造コストを抑えながら、使用開始時刻から快適な車内空間を保って利用することができる近距離走行電気自動車の冷暖房システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明は、車両にモータおよびバッテリを設け、バッテリに充電した電力で近距離走行を可能とする電気自動車において、外部電源からバッテリに充電する充電回路に接続されて二つの面の間で熱移動を行なう熱電素子ユニットと、この熱電素子ユニットの少なくとも一つの面に接続可能に構成された蓄熱器と、この蓄熱器に接続可能に構成された空調用熱交換器と、車両の使用開始時刻を設定するタイマと、前記外部電源からの充電回路によるバッテリへの充電と、蓄熱器への蓄熱と、更に空調用熱交換器を介して車内空間に熱移動を行う熱電素子ユニットへの給電とを制御して、使用開始時刻においてバッテリを満充電状態とし、蓄熱器及び車内空間を適温蓄熱する制御部とを備えることを特徴とする近距離走行電気自動車の冷暖房システム
を提供する。(請求項1)
【0015】
前記熱電素子ユニットは二つの面の間で熱移動を行なうものであるから極めて簡素な構成でありながら熱移動を行なうことができる。熱電素子は単体では移動できる熱量や得られる温度差に限界が生じるが、複数の熱電素子を重ねたり並べたりすることにより必要十分な熱移動を行なう熱電素子ユニットを形成することができる。なお、容量が十分であれば熱電素子ユニットを単一の熱電素子によって形成しても良い。熱電素子ユニットによって得られる熱エネルギー(冷熱も含む)は、蓄熱器に蓄熱される。つまり、熱電素子ユニットによって移動できる熱量に限界があっても必要十分な熱エネルギーを蓄熱器に蓄積させることによって対応することができる。
【0016】
蓄熱器は種々の構成が考えられ、例えば、断熱材によって囲まれた空間内に、熱エネルギーを潜熱や顕熱によって蓄熱する蓄熱剤を充填してなるものであることが考えられる。また、断熱材によって囲まれた空間内に熱エネルギーを別の熱源(冷熱源)によって蓄熱した状態の熱湯や氷などを収容可能とすることも考えられる。蓄熱器は少なくとも熱電素子ユニットの一つの面に接続可能に取付けられるものであるが、冷熱と温熱の両方に蓄熱器を設けて、温熱と冷熱の両方を一度に蓄熱できるようにしてもよい。熱電素子ユニットと蓄熱器との断続は物理的な接触の断続、熱媒体の流動のオンオフなどによって行なってもよい。
【0017】
タイマは使用者によってセットされるものであり、車両の使用開始時刻とは車両の充電を終了し、移動を開始する時刻を示すものである。また、タイマは例えば行きと帰りの2つの時間をセットできるように構成することが好ましい。
【0018】
制御部は外部電源が接続されている充電時に充電回路によってバッテリを充電するだけでなく、熱電素子ユニットによる蓄熱器への熱移動を行なって蓄熱を行なわせる。次いで、前記タイマでセットされた使用開始時刻が近づくと前記空調用熱交換器を用いて車内空間を適温に温度調節させる。このとき、外部電源に接続された充電回路からほぼ無尽蔵に電気エネルギーの供給を受けることができるので、蓄熱器に蓄熱された熱エネルギーを減少させることなく車内空間を適温に温度調節することができる。なお、この場合使用者が適温の中心温度や許容範囲などを設定できるようにすることが好ましい。
【0019】
使用者が外部電源から車両を取り外す使用開始時刻にはバッテリの充電と、蓄熱器への蓄熱と、車内空間の温度調節が完了しているので、使用者が心地よく車両を使用開始できるだけでなく、車内空間の温度調節を急速に行なう必要がないので、蓄熱器に蓄熱させた熱エネルギーの消費を抑えることができる。それだけ、バッテリを消費しないで快適な車内空間を保つことができ、電気自動車の電費を向上させることができる。
【0020】
なお、本発明における近距離走行電気自動車は少なくとも十数キロメートルの近距離の移動では車内空間を快適な状態に保った状態で走行可能とする程度の容量を有するバッテリを備えるものであり、最適にはより安価にて製造可能な鉛バッテリを用いてモータを駆動するものである。しかしながら、数百キロメートルを走行可能な程度のバッテリを備える車両であっても適用可能であることはいうまでもない。
【0021】
減速時に車両の運動エネルギーを電気エネルギーに変換して前記熱電素子ユニットに供給する回生回路を備え、前記制御部は回生された電気エネルギーを用いて熱電素子ユニットに熱移動を行なわせることにより蓄熱器の蓄熱量を回復させるものである場合(請求項2)には、車両の運動エネルギーを回生して得られた電気エネルギーを用いて減少した蓄熱器の蓄熱量を回復させることが可能である。
【0022】
すなわち、通常は電気自動車において回生した電気エネルギーはバッテリに充電することが考えられるが、比較的安価な鉛バッテリへの充電には化学反応が関係するため、充電時間が短ければ殆ど充電できないままになることがある。これに対し、熱電素子は電圧の印加に対する熱移動の反応速度が速く、極めて短時間の瞬発的な回生エネルギーを効率よく用いて蓄熱器への蓄熱を行なうことを可能としており、回生エネルギーを効果的に用いて車内空間の空調をより長く継続して行なうことを可能とする。
【0023】
しかしながら、前記蓄熱器に蓄熱された熱エネルギーが大幅に減少した場合には、バッテリからの電力を熱電素子ユニットに供給して車内空間の空調に用いてもよいことは言うまでもない。逆に、蓄熱器に蓄熱した熱エネルギーを熱電素子ユニットによって電気エネルギーに変換してバッテリの回復を図ることも考えられる。
【0024】
前記回生回路は回生時の電気エネルギーを一時的に蓄積してから熱電素子ユニットに供給する蓄電回路を備える場合(請求項3)には、蓄電回路に一旦蓄えた電気エネルギーを一旦蓄積した後に熱電素子ユニットに供給するので、熱電素子ユニットの2つの面の間の温度差に合わせて調圧して供給することが可能となり、それだけ効率よく熱移動を行なうことができる。なお、蓄電回路はキャパシタを含む電力制御回路を備えるものである。
【0025】
なお、この蓄電回路はバッテリの補助として用いてもよい。すなわち、鉛バッテリのように化学反応の遅れによって電圧降下が起こる場合などにはキャパシタによる速やかな給電を用いてもよい。
【0026】
前記熱電素子ユニットの一つの面に接続された座席用熱交換器と、この座席用熱交換器に接続されて熱媒体を座席内に循環させる循環路と、この循環路に熱的に接触している循環路用蓄熱器と、この循環路に接続されて熱媒体を循環させるポンプと、前記循環路および/または循環路用蓄熱器の外側に形成され前記車内空間と連通すると共に内部の空気の流れを作るファンを有する熱交換空気流路を備える場合(請求項4)には、放熱が少ない座席を集中的に温度調節できるので、蓄熱器の熱エネルギーを効果的に用いることができる。また、座席内の空間を利用して循環路用蓄熱器を配置するスペースとして兼用しているので、空間の有効利用を達成できる。さらに、前記熱交換空気流路によって循環路および/または循環路用蓄熱器と車内空間の間の熱交換を行なうことができるので、室内空間の温度調整を速やかに行なうことに貢献する。
【0027】
車両のエンジン、燃料タンクおよびエアコンシステムを取り除いたスペースに収納可能に調整され、既存の車両を近距離走行電気自動車に改造可能なユニットを構成する場合(請求項5)には、既存の車両を容易に電気自動車に改造することができる。既存のエアコンシステムに比べて熱電素子は構成が簡素であるから限られたスペースに配置するユニットを小型化するのに適しており、かつ、機械的に動作する部分がないので振動や騒音の全くない熱移動を可能としている。加えて、高精度で高速応答を実現できるので、選りすぐれた空調を可能としている。
【発明の効果】
【0028】
前述したように、本発明によれば、使用開始時刻において車内空間が快適な温度に温度調整されているので、使用者は電気自動車を快適に使用することができる。また、車両使用開始時刻から車内空間が快適であるから外部電源を取り外した後に多大な電力を必要としていないので、バッテリに充電された電力を車両の走行のために用いることができる。
【0029】
つまり、各部の電気的な特性に合わせて最も効率の良いエネルギーの分配を行なうことにより、より安価にて製造可能な電気自動車を快適なものとすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、
図1〜
図4を用いて、本発明の第1実施形態に係る近距離走行電気自動車の冷暖房システム1の構成を説明する。
図1、
図2は近距離走行電気自動車の冷暖房システム1の構成を概略的に示し、
図3は冷暖房システム1の一部構成を示し、
図4は近距離走行電気自動車の冷暖房システム1の動作を説明する図である。
【0032】
図1、
図2に示すように、本実勢形態の近距離走行電気自動車の冷暖房システム1は車両2にモータ3およびバッテリ4を設け、バッテリ4に充電した電力で近距離走行を可能とする電気自動車に設けるものであって、外部電源5からバッテリ4に充電する充電回路6と、この充電回路6に接続されて二つの面7A,7Bの間で熱移動を行なう熱電素子ユニット7と、この熱電素子ユニット7の一方の面7Aに接続可能に構成された蓄熱器8と、この蓄熱器8に接続可能に構成された空調用熱交換器9と、車両2の使用開始時刻を設定するタイマ10と、前記外部電源5からの充電時において充電回路6によるバッテリ4への充電、熱電素子ユニット7による蓄熱器8への熱移動および空調用熱交換器9による室内温度調節を制御することにより使用開始時刻においてバッテリ4を満充電状態とし、蓄熱器8への蓄熱を完了させ、車内空間2Aを適温に温度調節させる制御部11とを備える。
【0033】
また、12は電気エネルギーを一時的に蓄積する蓄電回路であり、13はバッテリ4およびモータ3に接続されてバッテリ4から供給される電力を用いてモータ3を回転させるための電力を生成すると共にモータ3からの回生エネルギーを用いて電力を生成するコンバータ、14は熱電素子ユニット7の他方の面7Bに接続可能に構成された外気側熱交換器である。
【0034】
本実施形態の冷暖房システム1は既存の車両2のエンジン、燃料タンク、ヒートポンプ式エアコンシステムなどを取り除いて生じた空間に収納可能に調整され、既存の車両2を近距離走行電気自動車に改造可能とするユニットを構成するものである。
【0035】
前記車両2は例えばモータ3の定格出力8kW以下の超小型モビリティであり、車内空間2Aの容積は一般的な軽四輪自動車よりもさらに小さく形成されている。また、農機具や作物などを搭載して移動しやすいように後部には荷台2Bを形成している。さらに、車内空間2Aは外部との接触によって伝わる熱を最小限に抑えるための断熱層2Cを備え、また、窓には輻射熱を遮断する加工を施すことにより、可能な限り車内空間2Aを断熱している。
【0036】
前記モータ3は車両2の駆動を行うのに必要な4.7キロワット程度の出力を得ることができる電動機であり3Bはこのモータ3の出力トルクを測定するトルク計測部、3Cは回転数を計測する回転数計測部である。
【0037】
バッテリ4は安価にて形成できる鉛バッテリであり、車両2を少なくとも十数km以上の近距離走行を行なうには十分な容量を有するものであり、好ましくは数十〜二,三百km走行可能な容量を備えることが好ましい。
【0038】
充電回路6は外部電源5として一般家庭の商用電源に接続可能なプラグ6Aを備えるものであり、本実施形態では車両2側に設けられる。充電回路6はバッテリ4の状態を監視しながら電流供給を行なうことによりバッテリ4を充電すると共に、蓄電回路12への充電も行なう。なお、本発明は充電回路6が車両2に搭載されていることに限定されるものではなく、充電回路6を車両2に接続することにより充電を行なうものであってもよい。
【0039】
前記熱電素子ユニット7は複数の熱電素子として例えばペルチエ素子またはゼーベック素子などの熱移動と電流の変換用素子を並べて形成したものであり、少なくとも供給する電流によって二つの面7A,7Bの間で熱の移動を行なうペルチエ効果を得るものである。なお、熱電素子ユニット7は二つの面7A,7Bの間の温度差によって電流を発生させるゼーベック効果も得ることができるものであることが好ましい。
【0040】
前記蓄熱器8は熱電素子ユニット7の一つの面7Aに熱的に断続可能に接続可能である断熱材8Aによって囲まれた容器内に潜熱によって効率よく熱エネルギーを蓄積する例えばパラフィンなどの蓄熱材が収容されてなり、内部の温度を計測する温度センサ8Bを備える。また、蓄熱器8には外部から熱源となる熱湯や氷を投入可能に構成されている。本実施形態では蓄熱器8に室温よりも低い温度(冷熱)を蓄熱する例を説明するが、蓄熱器8には外気温度に合わせて高い温度(温熱)を蓄熱することも可能であることは言うまでもない。
【0041】
前記空調用熱交換器9は蓄熱器8と接続可能であり、かつ、ファン9Aによって矢印9Bに示すように車内空間の空気の流れを形成して、熱交換できるように構成された熱交換流路を備える。
【0042】
図3に示すように、本例の前記タイマー10は車両2の使用開始時刻を設定するものであり、使用開始時刻TS(
図4参照)の設定時間を表示する時間表示部10Aと、回動操作によって設定時間を変更可能とする時間設定つまみ10Bとを備えることにより極めて容易に使用開始時刻TSの設定ができるように構成している。また、本実施形態では設定温度の温度表示部10Cと、回動操作によって設定温度を変更可能とする温度設定つまみ10Dとを備え、使用者に合わせた適温の温度設定を容易に行えるように構成し、さらに、車内空間2Aの温度を計測する温度計測部10Eも備える。
【0043】
さらに、
図3に示すように、車両2のインパネ表示部2Dには、スピードメータに加えて、バッテリ4の充電状態を示すバッテリ状況表示部4Aを備える。また、8C〜8Eは前記蓄熱器8の状態を示す表示部であり、蓄熱部8に冷熱を蓄熱している場合の冷熱表示部8C、温熱を蓄熱している場合の温熱表示部8D、および、温度センサ8Bによって測定された温度8Eを表示するように構成している。
【0044】
再び
図1,2に戻って、前記制御部11はバッテリ4、蓄電回路12、タイマー10、室内温度、蓄熱温度、出力トルク、回転数、アクセル操作量などの情報を入力して充電回路6、コンバータ13、熱電素子ユニット8、空調用熱交換器9、外気用熱交換器14などを制御することにより、エネルギーの効率的な流れを制御するものである。
【0045】
前記蓄電回路12は主に大容量コンデンサを用いて形成され、バッテリ4の化学反応では反応が遅れるときに一時的な電力の出し入れを行うものである。とりわけ、コンバータ13がモータ3を発電機として用いて車両2の運動エネルギーを電気エネルギーに回生するときに、この回生した電気エネルギーを一時的に蓄積する。従って、コンバータ13は車両2の運動エネルギーを運動エネルギーに変換して熱電素子ユニット7に供給する回生回路を構成するものであり、回生時の電気エネルギーは蓄電回路12に一旦蓄積してから熱電素子ユニット7に供給するように構成している。
【0046】
前記外気用熱交換器14は熱電素子ユニット7の他方の面7Bに接続可能に構成されており、ファン14Aによって矢印14Bに示すように外気の流れを形成して、熱交換ができるように構成されている。
【0047】
なお、上述の例のように蓄熱器8に冷熱を蓄熱している場合には、外気用熱交換器14は矢印14Bに示すように、外気をまず外気用熱交換器9に通すことにより、熱交換の効率を高く保つことができる。しかしながら、蓄熱器8に温熱を蓄積している場合には、外気用熱交換器14の気流を逆向きにすることにより、コンバータ13やモータ3が電力を消費するときに発生する熱も用いてより効果的に蓄熱を行なわせることが可能である。このとき、モータ3およびコンバータ13と空調用熱交換器9の位置が離れている場合にはダクトを用いてモータ3およびコンバータ13と空調用熱交換器9の間を配管してその廃熱を利用するようにすることが好ましい。
【0048】
上記構成の近距離走行電気自動車の冷暖房システム1は、バッテリ4に充電させた電力を用いてモータ3を回転させることにより車両2を走行させて移動可能としている。このとき、コンバータ13がバッテリ4の直流電力を、モータ3を駆動するのに適する交流に変換することにより、効率的なモータ駆動を行なうことができる。
【0049】
前記制御部11は、蓄熱器8内の温度を温度センサ8Bによって確認し、前記温度設定つまみ10Dを用いて使用者によって設定された温度(本例の場合は摂氏25度)と温度計測部10Eによって測定された温度との差を監視し、空調用熱交換器9を用いて車内空間2Aの温度調整を行なう。
【0050】
車両2が減速するときには、制御部11が回生した電気エネルギーの極性を調整して、蓄熱器8の熱エネルギーを増やす(冷熱を蓄積する場合は温度を下げる)ように電力を供給する。このとき、回生した電気エネルギーを一旦蓄電回路12に蓄積してから、熱電素子ユニット7に供給することにより、瞬発的に得られた電力を十分に用いて最も効率的な熱移動を行なわせるように制御することができる。
【0051】
図4は前記制御部11により制御されるバッテリ4の充電量、蓄熱器8の蓄熱量、車内温度の関係を説明するための図である。
【0052】
まず、時点T1まで車両2を使って移動を行う例を示しており、バッテリの充電量は車両2の走行に伴って徐々に減少し、蓄熱器8の蓄熱量も徐々に減少する(本例の場合は冷熱を蓄熱しているので温度が上昇する)。しかしながら、時点T0において車両を減速させる動作を行なったときには、回生回路13と蓄電回路12を用いて回生した電気エネルギーを熱電素子ユニット7に供給することにより蓄熱器8の蓄熱量は少し回復する。なお、車内温度は制御部11と空調用熱交換器8によって制御されているので、ほぼ設定温度の摂氏25度を保つことができる。
【0053】
次いで、時点T1において停車し、プラグ6Aを外部電源5としての家庭用商用電源に接続すると、充電回路6を用いたバッテリ4の充電が行なわれると同時に、充電回路を介して生成された電力が蓄電回路12を介して熱電素子ユニット7にも供給されて蓄熱器8の蓄熱量を増加させる(本例の場合は冷熱であるから温度を下げる)ことができる。一方、車内温度は外気からの輻射熱や接触による熱伝達によって一気に上昇し、車内空間2Aの温度は不快なほど高温になる。
【0054】
そして、前記使用開始時刻が近づいた時点T2において、空調用熱交換器9を用いた車内空間2Aの温度調節が開始される。なお、この時点T2は使用開始時刻点TSに対して、設定温度と現在温度との差分が大きければ大きいほど十分前もって車内温度を調整するための時間を確保するために長く設定されることにより、車両2の使用開始時刻点TSには車内空間2Aがほぼ設定温度となるようにする。
【0055】
上記のように制御部11は車両2が外部電源5に接続されている間に充電・蓄熱・車内温度調節の制御を適正に行なうことにより、時点TSにおいて車両2を使用開始するときには、バッテリ4を満充電とし、蓄熱器8に可能な限り蓄熱し、車内空間2Aをほぼ快適な温度に温度調節することができる。なお、冬期においては、蓄熱器8に温熱が蓄熱されるので、空調用熱交換器9はヒーターとして機能する。したがって、使用者は真夏であっても真冬であっても車両2の使用開始時刻TSから快適な温度に調節された環境で車両2を利用することができる。
【0056】
また、車両2の使用開始時刻TSには既に車内空間2Aがほぼ適温であるから、車両2を外部電源5から切り離した後に空調用熱交換器9がフル稼働することがなく、それだけ、蓄熱器8に蓄熱した蓄熱量の急激な減少を防止できる。なお、使用者が予定しタイマ10に設定した使用開始時刻TSよりも早く車両2の使用を開始する場合には、使用開始時刻TSにおいて蓄熱器8への蓄熱や車内温度の調節が十分完了していないことも起こりえるが、その場合には蓄熱器8に氷を投入したり、熱湯を注入することにより蓄熱量を一瞬にして引き上げられるようにしてもよい。
【0057】
加えて、本実施形態において、蓄熱器8は熱電素子ユニット7の一つの面7Aのみに熱的に接続可能に設けているが、両方の面7A,7Bに温熱用の蓄熱器と冷熱用の蓄熱器を熱的に接続可能に設けてもよい。この場合、蓄熱器8は温熱用と冷熱用に分かれるので、熱交換器9は冷熱用および温熱用の蓄熱器8と車内空間2Aとの間で熱交換を行なうことができるように構成し、制御部11は車内空間2Aの温度と設定された適温の関係によって選択された蓄熱器8との間で熱交換を行なわせるように制御する。
【0058】
図5は本発明の第2実施形態の一部構成を説明する図であり、
図1〜
図4と同じ符号を付した部分は同一または同等の部材である。
【0059】
図5に示す近距離走行電気自動車の冷暖房システム20において、2Eはシートであり、7’は熱電素子ユニット、14’は外気用熱交換器、21は座席用熱交換器、22は座席用熱交換器に接続されて熱媒体を循環させる循環路、23は循環路に接続されて熱媒体を循環させるポンプ、24は循環路22の周囲に配置した循環路用蓄熱器である。前記シート2Eはその上下に通気口を有しこれらの通気口の間を連通すると共に、前記循環路22と座席用蓄熱器23の外側に接するように設けた熱交換空気流路25を備える。ゆえに、矢印2Fに示すように車内空間2Aの空気を熱交換空気流路25内に循環させることにより、前記座席用熱交換器21と共に熱交換空気流路25およびファン32を熱交換器として機能させるように構成している。
【0060】
本実施形態の熱電素子ユニット7’および外気用熱交換器14’は
図1,
図2に示す熱電素子ユニット7および外気用熱交換器14を共通して用いても良いがシート2Eの近くにおいて別途設けて循環路22をできるだけ短く形成することが好ましい。また、前記循環路22はシート2E内において波形に屈曲させてより広い面積のシートを温度調節できるように構成していることが好ましい。
【0061】
上記構成の近距離走行電気自動車の冷暖房システム20によればシート2Eをピンポイントで温度調節することにより、熱電素子ユニット7’にかける負荷を最小限に抑えながら、快適な温度管理を行なうことができる。この座席用熱交換器21は前記空調用熱交換器9と同時に用いることが好ましい。しかしながら、座席用熱交換器21のみを設けるように構成することも容易に考えられる。
【0062】
図6に示す近距離走行電気自動車の冷暖房システム30は前記近距離走行電気自動車の冷暖房システム20の変形例を示す図であり、熱電素子ユニット7’の他方の面に接続された外気用熱交換器31と、車内空間2Aの空気を前記熱交換空気流路25内に前記積極的に循環できるようにするためのファン32を備える。加えて、本実施形態に示す循環路用蓄熱器24は一部拡大して示すように、循環路22を構成するフィンチューブの外周にコーティングしてなる潜熱蓄熱材である。なお、その他の構成は
図5に示す第2実施形態と同じであるから、その詳細な説明を省略する。
【0063】
前記外気用熱交換器31は熱媒体の循環路を備えて熱電素子ユニット7’に物理的に接触することにより熱媒体となる不凍液との間で熱交換を可能とする第1熱交換器31Aと、この第1熱交換器31Aと循環路の配管を介して接続されることにより循環路内の熱媒体と外気との間で熱交換を可能とする第2熱交換器31Bと、循環路内の熱媒体を循環させるポンプ31Cと、第2熱交換器31Bに強制的に外気を送り込むファン31Dとを備える。
【0064】
本実施形態のように構成された近距離走行電気自動車の冷暖房システム30においては、熱電素子ユニット7’に通電することによりその2つの面の間に温度差を形成できるので、例えば座席用熱交換器21内の熱媒体の温度を例えば摂氏15度にて冷却することができる。一方、外気用熱交換器31がと当接する面においては熱電素子ユニット7’によって摂氏45度程度まで加熱される。
【0065】
従って、循環路22内の熱媒体の温度はを摂氏18度程度まで冷却するされた状態で座席2E内を循環して循環路用蓄熱器24を冷却し、車内空間2A内の空気が例えば摂氏28度程度まで上場していたとしても、この空気がファン32によって循環路22および循環路用蓄熱器24に接触する熱交換空気流路25内を通されるときに、摂氏25度程度まで冷恭子とができる。
【0066】
他方、座席用熱交換器31の第1熱交換器31Aで暖められた熱媒体がポンプ31Cによって第2熱交換器31Bに送り込まれる。ここで、外気が例えば摂氏35度であったとしても、ファン31Dによって第2熱交換器31Bに送り込まれた外気によって熱媒体を冷却して例えば摂氏40度まで冷却できこれを再び第1熱交換器31Aに流すことにより、第1熱交換器31Aを冷却することができる。
【0067】
本実施形態のように強制的な空気の流れを作るファン31D,32を設けることにより、熱交換をより効率的に行なうことができるので、速やかな温度調節が可能となる。なお、ファン32は車内温度が適温に近いときには敢えて駆動する必要はなく、ファン31Dは第2熱交換器31Bと外気温との温度差が十分ある場合には敢えて駆動させなくてもよい。前記制御部11は熱電素子ユニット7’への給電のみならず、ファン31D,32およびポンプ23,31Cの駆動を制御することにより、電力消費を抑えながら車内空間2Aが適温になるように調節することができる。