【解決手段】フュームドシリカを水酸化ナトリウム水溶液と反応させて水ガラスを得て、これを脱アルカリ処理してpHを9〜11となしてコロイダルシリカ水溶液を得、さらにH型陽イオン交換処理し、該水溶液のpHを2〜3とし、次いで得られるシリカ水溶液を限外ろ過膜で濃縮してゲル化させ、得られたゲル化物を乾燥、粉砕し、粉砕物を塩酸水溶液で処理して不純物を除去したのち、乾燥窒素ガス中で焼成して、高純度の合成シリカ粉末を得る。
水酸化アルカリ金属塩が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、あるいは水酸化リチウムであり、ケイ酸アルカリ金属塩が、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、あるいはケイ酸リチウムであり、フュームドシリカと水酸化アルカリ金属塩水溶液との反応温度が60〜100℃である、請求項1または2記載の高純度合成シリカ粉末の製造方法。
第3工程における陽イオン交換処理が、シリカ水溶液をH型陽イオン交換樹脂を詰めたカラムを通すことによる、請求項1〜4いずれかに記載の高純度合成シリカ粉末の製造方法。
ゲル化物の粉砕手段がロールミル、ボールミル、またはジェットミルであり、粉砕物の粒径が0.1〜0.4mmである、請求項1〜7いずれかに記載の高純度合成シリカ粉末の製造方法。
乾燥ガスが乾燥窒素ガス、乾燥ヘリウムガス、乾燥空気であり、焼成温度が1,100〜1,250℃である、請求項1〜9いずれかに記載の高純度合成シリカ粉末の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を工程別に説明する。
<第1工程>
この第1工程は、フュームドシリカを水酸化アルカリ金属塩水溶液と反応させて、ケイ酸アルカリ金属塩水溶液を生成させる工程である。この工程は、いわばフュームドシリカからなる高純度シリカを用いて、水ガラスを得る工程である。
【0011】
ここで、フュームドシリカは、火炎加水分解法により製造される非晶質シリカであり、煙霧シリカともよばれる。かかるフュームドシリカは、例えば、四塩化ケイ素を酸水素炎中で高温加水分解させることで、液相を経ることなく製造することができる。フュームドシリカは、透過型電子顕微鏡で測定した任意の100粒の平均1次粒径が5〜100nm程度である。
【0012】
なお、本発明のフュームドシリカに用いられる出発原料である四塩化ケイ素は、ポリシリコン製造工程から発生する副生成物でもよい。純度は問わない。これを蒸発させ火炎で加水分解するが、通常のフュームドシリカ製造工程では水素ガスと酸素ガスを使用して高温の火炎を作り出し、非常に微粉のフュームドシリカを生成する。本発明では、火力の弱い天然ガスやシェールガスを使用してもよい。すなわち、フュームドシリカの粒径にこだわる必要がない。
【0013】
次に、このフュームドドシリカを水酸化アルカリ金属塩水溶液、すなわち、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、あるいは水酸化リチウム水溶液で溶解させて、ケイ酸アルカリ金属塩水溶液、すなわち、水ガラスとする。対応するケイ酸アルカリ金属塩水溶液は、ケイ酸ナトリウム水溶液、ケイ酸カリウム水溶液、あるいはケイ酸リチウム水溶液である。水酸化アルカリ金属塩としては、コスト的には水酸化ナトリウムのほうが安いため、水酸化ナトリウムを使用したほうが良い。通常のアルカリ金属塩水溶液による溶解でケイ酸アルカリ金属塩水溶液(水ガラス)を作るときはオートクレーブ中で行うが、本発明に用いられるフュームドシリカは、常圧で反応温度として60〜100℃で溶解する。反応温度が60℃未満では、反応速度が遅く、実用的ではない。一方、常圧での反応であるため、100℃を超えることはないが、反応速度は十分早い。このときのSiO
2:M(ここで、MはNaなどのアルカリ金属をさす)の重量比率は20から40%程度、好ましくは25〜35%がよい。アルカリが20重量%未満では水ガラスになるための反応が十分ではなく、一方40重量%を超えると後工程でのイオン交換の負荷が大きくコスト的に不利となる。
【0014】
反応は、1〜3時間、例えば2時間ほどで終了するので、反応終了後、5から15重量%に純水で希釈する。好ましくは7から10重量%である。5重量%未満の場合、あとでゲル化するときに時間がかかり、一方15重量%を超える場合、ゲル化が早く起きるなどの現象があり好ましくない。好ましくは、次にこの溶液を例えば1μmのろ紙でろ過を行う。このとき、減圧でろ過したほうが短時間で行われることは言うまでもない。
【0015】
<第2工程>
第2工程は、第1工程で得られたケイ酸アルカリ金属塩水溶液(水ガラス)を脱アルカリ処理してpHを9〜11の範囲となしてコロイド状のシリカ水溶液(コロイダルシリカ)を得る工程である。
本発明では、シリカを得るために、フュームドシリカから水ガラスを合成し、この水ガラスを、例えば陽イオン交換樹脂に通して一気に脱アルカリすると、ゲル化してしまう。本発明では、これに先立ち、第1工程で得られたケイ酸アルカリ金属塩水溶液(水ガラス)を、得られるコロイド状のシリカ水溶液のpHが9〜11となるような条件で脱アルカリ処理するものである。この第2工程を経ることにより、第3工程での陽イオン交換樹脂による本格的な脱アルカリ処理の際に、コロイド状のシリカ水溶液がゲル化することがない。
【0016】
ここで用いられる脱アルカリ処理としては、特に限定されるものではなく、例えば陽イオン交換樹脂法、電気泳動法、電解透析法などを用いることができ、好ましくはバッチ式のH型陽イオン交換樹脂である。ここでの脱アルカリ処理により殆どのアルカリを除去し、シリカ水溶液となすが、この際の系のpHを9〜11となるような条件で脱アルカリ処理する。
すなわち、例えば上記のようにしてろ過したケイ酸アルカリ金属塩水溶液に、例えばH型陽イオン交換樹脂を加えていき、pHが11から9の範囲になるまで加える。pHが11を超える場合では多量のアルカリが残ってしまうし、9未満になるとゲル化をしてしまう。これをカラムにH型陽イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔に当該溶液を通すと、カラム中でゲル化を起こしてしまい、イオン交換樹脂の再生時に洗浄が必要となる。
かくて、この第2工程により、ケイ酸ソーダなどのケイ酸アルカリ金属塩水溶液は、脱アルカリ処理により、実質的にシリカ水溶液となる。
【0017】
<第3工程>
第3工程では、得られたシリカ水溶液を陽イオン交換処理し、さらに脱アルカリ処理して該水溶液のpHを2〜3にとする。
上記脱アルカリ処理は、陽イオン交換樹脂、好ましくはH型陽イオン交換樹脂を用いる。ここで使用されるH型陽イオン交換樹脂は、特に限定されるものではなく、市販の強酸性型のビーズ状、繊維状、クロス状などのH型陽イオン交換樹脂を使用することができる。
これらH型陽イオン交換樹脂に対する上記シリカ水溶液の通液方法もなんら限定されるものではなく、例えばカラムに上記H型陽イオン交換樹脂を充填して通液する方法や、該水溶液とH型陽イオン交換樹脂をバッチ方式で処理するなどの周知の方法を用いることができる。なお、使用済みのH型陽イオン交換樹脂は、通常の方法、すなわち塩酸、硫酸、硝酸などの酸を使用して再生することができる。好ましくは、第3工程で得られたシリカ水溶液を、H型陽イオン交換樹脂を充填したカラムに通液する方法である。
【0018】
ここで、シリカ水溶液のpHは、陽イオン交換樹脂の量により、pHが2〜3になるように調整する。pHが2未満になることはまずないが、陽イオン交換樹脂の量が多すぎても効果はない。一方、pHが3を超えると、金属などの不純物が完全に除去できない。本発明は、特許第4504491号明細書のように、H型陽イオン交換樹脂での処理後、酸と過酸化水素を入れて、再度イオン交換をする必要はない。本発明において、原料として用いられるフュームドシリカ自体、精製された原料であるので、当該フュームドシリカ中にはチタンやボロンなどの不純物は含まれていないからである。
このようにして得られる、陽イオン交換樹脂で処理されたコロイダルシリカ水溶液は、pHが2〜3においては安定したゾルである。
【0019】
<第4工程>
第4工程は、このようにして得られるコロイド状のシリカ水溶液を濃縮し、ゲル化させる。この際、濃縮方法としては、加熱、深冷法、限外ろ過膜法などを用いる方法などが挙げられるが、好ましくは限外ろ過膜法である。限外ろ過膜(Ultrafiltration Membrane)における孔径は、約0.01〜0.001μmであり、逆浸透膜(RO膜、NF膜)より大きく、精密ろ過膜(MF膜)よりも小さい。限外ろ過膜は通常のフィルターと同様に液体を全量通過させてろ過を行うことも不可能ではないが、孔の大きさが小さいため阻止された微粒子や不純物により短時間で膜が閉塞する。このため、通常は膜の表面に沿って一定方向に原液を流し続け、微粒子や不純物が濃縮された水(濃縮水)を連続的に排出、または送液側に戻しながら使用することで微粒子や不純物の膜表面への付着を減らしている。この膜表面に沿った流れをクロスフロー、これを使ったろ過膜の使用法をクロスフロー方式と呼ぶ。
【0020】
限外ろ過膜の構造としては、中空糸膜〔直径0.5〜30mm程度の太さで中が空胴の糸状に成型し、通常は糸の外側から内側へろ過する(逆のタイプもある)〕、スパイラル膜[1枚のろ過膜を、強度を保つための網など(サポート)と重ね合わせ、2つ折りにして袋状に接着した後、縦一直線に切れ目を入れた集水管で袋の口を挟み、これを芯にして伊達巻き状に巻く。伊達巻きの断面方向から加圧し、反対側の断面から濃縮水を、集水管から透過水を得る〕、チューブラー膜[中空円筒状で中空糸膜より太いもの。直径は最大10センチ程度のものまである。濃縮水の流速を高くでき不純物の膜表面への付着を防ぎやすい反面、これが仇ともなってエネルギーコストが高くなる上、設置面積が大きくなる。]、平膜[平らな膜。クロスフロー方式で使用するためには水槽や容器に入れて内を高流速で流動させる必要がありエネルギーコストは高いが、膜の清掃がしやすい利点がある。]などが挙げられ、本発明では、いずれの構造のものも採用することができる。
【0021】
上記のようにして、陽イオン交換樹脂で処理したコロイダルシリカ水溶液は、pHが2〜3においては安定したゾルである。これを、例えば限外ろ過膜を通液させることにより、水分を除去して濃縮する。この通過後のシリカ濃度は10〜20重量%である。この濃度でシリカゾルはゲル化してゆく。この方法は、加熱して濃縮する方法や冷凍して解凍する方法に比べてエネルギー効率が非常に良い。
【0022】
<第5工程>
第5工程は、得られたゲル化物を乾燥させる工程である。
第5工程は、次の粉砕に先立ち、シリカ粒子を乾燥させるものである。乾燥方法は特に限定されないが、例えば40〜200℃の温度で乾燥させることができる。
すなわち、第4工程で得られるゲル溶液は自然に熟成してゆき、十分な強度を持つシリカモノリシスへと変化する。これを粉砕に先立ち、加熱乾燥させる。乾燥手段は特に限定されず、ゲル化物を、熱風乾燥炉、高周波加熱、赤外線ランプなどの加熱手段により、例えば40〜200℃、好ましくは80〜120℃で加熱・乾燥させればよい。加熱時間は、通常、1〜2時間程度である。加熱温度が40℃未満では、水分の蒸発速度が遅く、一方200℃を超えると、急激な水分の蒸発により気泡が生じる。
かくて、第4工程で得られたゲル化物は、加熱乾燥後、無定形のシリカとなり、その水分率は、通常、10〜50重量%、好ましくは15〜30重量%程度である。
【0023】
<第6工程>
第6工程では、乾燥したゲル化物を粉砕し、粉砕物を得る。
第6工程は、次の第7工程の酸水溶液による処理に先立ち、シリカ粒子を粉砕して微粒子化させて洗浄効果を向上させるものである。粉砕方法は特に限定されず、通常、シリカ粒子の粉砕に用いられる方法を使用できる。
この工程では、乾燥したゲル化物を、既知の汚染がない方法で粉砕し、希望粒径に篩別する。例えば、石英ルツボを製造する場合は、0.3から0.1mm程度であり、酸水素や真空溶融に使われる場合は、0.05から0.2mm程度であり、EMCフィラー用であれば、できるだけ細かいほうが良い。一般的な用途としては、粒径は好ましくは0.1から0.4mmとする。粒子は後の焼成工程で収縮するため、この範囲にすることが好ましい。なお、焼成後の粒径は0.07から0.30mmである。ここで、粒径とは篩別する時の網の目開きとして定義される粒径である。
粉砕手段としては、ロールミル、ボールミル、ディスクミル、ジェットミルなどが挙げられるが、粉砕媒体はコンタミの問題から石英ガラス製とするのが良い。
粉砕時の粒径は用途に合わせて、篩網の目開きを変えたほうが良い。
【0024】
<第7工程>
第7工程では、粉砕物(合成シリカ粉末)を酸水溶液で処理する。
本発明の第7工程は、上述の第6工程で得られたシリカを洗浄することにより、シリカに付着している不純分を除去するものである。洗浄は、水洗などにおいて通常行われている方法を用いることができるが、シリカ粒子の粉砕時に鉄分が混入することがあるので、好ましくは酸の水溶液で洗浄するのがよい。なお、この場合、酸の水溶液による洗浄後、水(好ましくは超純水)ですすぎを行うことが好ましい。
【0025】
酸の水溶液としては特に限定されるものではないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などを使用すればよく、これらは単独でも複数を組み合わせて使用してもよい。
すなわち、この工程では、合成シリカ粉末を、濃度が2〜7重量%の塩酸水溶液などの酸水溶液で処理する。この際、もちろん過酸化水素酸を入れる必要はない。塩酸などの酸の濃度は好ましくは4〜6重量%である。7重量%より高濃度のばあい、不純物が溶解しにくくなり、一方2重量%より低いと不純物の溶解が不十分になることがある。この酸処理は、好ましくは60℃から90℃で、時間が好ましくは10分〜7時間かけて行われる。合成シリカ粒子はまだ微小な連続気泡が存在し、その中から不純物は溶解する。不純物としては、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カリウム、カルシウム、チタン、マグネシウムなどの金属成分であり、この酸処理により、これらの不純物をppbオーダーで除去することができる。
本工程における処理は、溶解というより抽出といったほうが良い。塩酸などの酸処理の後は純水で同じように塩酸などの酸分を抽出すればよい。
ここで、十分に塩酸などの酸成分がなくなっていることをpH計あるいは電導度計で測定し、脱水を行う。脱水は遠心脱水機でもよいが、真空脱水機のほうがより脱水効率が良い。脱水後のシリカ粉末の水分率は、10〜20重量%程度である。
【0026】
<第8工程>
第8工程では、第7工程の処理後の粉砕物(合成シリカ粉末)を乾燥ガス中で焼成する。
第8工程は、第7工程で得られたシリカを焼成することにより、OH基含有量の極めて少ない高純度の石英粉を得るものである。
ここで、焼成温度及び時間は、従来高純度の石英を得る場合に行われる焼成と同程度の温度及び時間で行えばよい。高純度の石英は極力OH基含有量の少ないことが好ましく、より高温でより長時間の焼成を行えばそれだけOH基含有量の少ない石英を得ることができるので、所望とするOH基含有量になるよう適宜条件を設定すればよい。
【0027】
乾燥ガスとしては、乾燥窒素ガス、乾燥ヘリウムガス、乾燥空気などの深冷法で製造したガスや冷却して水分を除いたガスなどが挙げられる。
焼成温度は、1,100〜1,300℃、好ましくは1,200〜1,250℃であり、焼成時間は、通常、10〜30時間、好ましくは15〜20時間である。焼成温度が1,100℃未満では水分が抜けるのが遅く、効率的ではないし、一方1,300℃を超える温度で焼成すると粒子同士の焼結が起こり、焼成後に粉砕が必要となる。また、焼成時間が10時間未満では、水分の離脱が不十分であり、一方30時間を超えてもそれ以上、OH基含有量は比例的に減少するものでもない。
焼成の具体例としては、第7工程で脱水された合成シリカ粉末を、焼成炉に入れ、乾燥窒素ガスを流して焼成する。この焼成温度は1,200〜1,250℃で、20時間以上行い、水分を十分に抜く
【0028】
かくて、高純度の合成シリカ粉末を安価に得ることができる。得られる高純度合成シリカ粉末は、ICP発光分光分析装置による測定において、不純物である他の金属元素がppbオーダーで少なく、しかもFT−IR分析装置による測定では、OH基含有量が50ppm以下と、シリカ成分が極めて高純度である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の高純度合成シリカ粉末の製造方法に関し、実施例を挙げて説明するが、この実施例は本発明の一部を示したにすぎない。
【0030】
実施例1
ポリシリコン製造において副生成物である四塩化ケイ素を蒸発させ、バーナーの火炎中を通過させた。このときの火炎は天然ガスと酸素である。四塩化ケイ素は窒素ガスをキャリアーとして用いた。窒素ガスの流量は0.4m
3/H、窒素ガスと四塩化ケイ素の合計量を0.7m
3/Hとした。また、天然ガス流量を6m
3/H、酸素ガスの流量を3m
3/Hとした。これにより微細なフュームドシリカを作り、石英ガラス製のサイクロンで捕集した。700g/Hの収量であった。
【0031】
次いで、加熱装置付きのSUS304の内面にPP(ポリプロピレン)コーティングを施した反応器に、上記で得られたフュームドシリカ500gと純水10リットルと水酸化ナトリウム200gを入れ、80℃に加熱し、撹拌した。2時間後に加熱と撹拌を停止し、室温まで冷却し、目開きが1μmのポリテトラフルオロエチレン(デュポン社 テフロン)製ろ紙を使って減圧ろ過した。
【0032】
この溶液に撹拌しながらH+型陽イオン交換樹脂(オルガノ社製のIR120B)をゆっくり加えた。pHが11を切った時点でH+型陽イオン交換樹脂を加えるのをやめた。その後、30分ゆっくり撹拌して遠心脱水機に入れてH+型陽イオン交換樹脂を回収し、濾液はPP製のタンクに移動した。pHは10.8であった。
【0033】
この溶液をH+型陽イオン交換樹脂(オルガノ社製のIR120B)150リットルを詰めたカラム中を通過させた。最後は減圧で溶液を回収した。この溶液の重量は10.2kgであった。pHは2.3であった。
【0034】
この溶液を限外ろ過膜(東レ社製のトレフィル)を通し、水分を除き濃縮した。このときの溶液中のシリカ濃度は10.3重量%であった。この溶液のpHは2.4と変わらなかった。これを100℃に4時間加温し、ゲル化させるとともに、加熱乾燥させた(水分率50重量%)。
【0035】
硬くなったゲルを石英ガラス製ロールミルで粉砕し、PP製の網で篩別し、石英ゲルの粒径が0.1〜0.4mmのシリカ粉末を得た。歩留まりは75%であった。なお、0.1mm未満の粒子はEMCフィラー(透明封止樹脂)用の原料とすることができる。
【0036】
次いで、シリカゲルに重量比5%の塩酸溶液を加え、撹拌しない状態で80℃に加熱した。2時間後、これをPP製網でろ過をした。ここで塩酸を使った理由は、H+型陽イオン交換樹脂の再生に繰り返し使用できるからである。もちろん硫酸を用いてもよい。2時間後、ろ過を行い純水を加えて再度80℃で2時間加熱した。これを二回繰り返した。
このシリカ粉末を、水分を除去して乾燥させるため120℃で2時間加熱して、さらに完全に水分を除去するためと塩酸を蒸発させるため350℃で2時間加熱した。
【0037】
次いで、これを電気炉に入れ700℃まで1時間で昇温した後、2時間保持し、その後、1,250℃まで乾燥窒素中で2時間で昇温し、そのまま10時間保持した。このシリカ粉末を室温まで降温し、PP製の50目および150目で篩別した。得られた合成シリカ粉末の平均粒径(レーザー式粒度分布計で測定)は、0.19mmであった。
このシリカ粉末の純度をICP発光分光分析装置(島津社製のICPS−7510)で測定した結果を表1に示した。
また、OH基含有量については、FT−IR分析装置(日本分光社製の4100)で測定した結果、38ppmであった。
【0038】
【表1】
【0039】
比較例1
富士化学社製の3号水ガラスを純水でSiO
2濃度6.5重量%に希釈して1リットル調製した。これを650ccのH+型陽イオン交換樹脂(オルガノ社製のIR120B)が入ったカラムに通してpHが2.75のコロイダルシリカゾルを得た。このとき、カラムではゲル化が起こり、イオン交換樹脂の再生にかなりの作業を要した。次に、60%硝酸2.3gと30%の過酸化水素水を2.5gを入れ撹拌した。これをもう一度100ccのH+型陽イオン交換樹脂(同上)のカラムに通した。pHは1.75であった。これにアンモニア水溶液を加えpHを4.5としてゲル化させた。
【0040】
これをオーブンに入れ50℃で2時間保持したのち、−30℃の冷凍庫に5時間保持し、ろ過してシリカ粉末を得た。この時の収量は30gであった。これに5%塩酸200gと30%過酸化水素水を1%になるように加え、80℃で3時間加熱した。これを2回繰り返した。その後、純水で70℃、3時間を二回行った。これを1,200℃で20時間保持し、PP製の網で篩別した。得られたシリカ粉末の平均粒径は、0.23mmであった。このシリカ粉末の純度を実施例1と同様にして測定した結果を表2に示す。
また、OH基含有量についても、実施例1と同様にして測定した結果、60ppmであった。
【0041】
【表2】
【0042】
以上から明らかなように、本発明の製造方法では、例えば四塩化ケイ素を火炎加水分解してできるフュームドシリカを水酸化ナトリウム水溶液あるいは水酸化カリウム水溶液と60から100℃で反応させケイ酸ナトリウムあるいはケイ酸カリウムを生成させ、これをバッチ式陽イオン交換樹脂と混合し、pHが9〜11の範囲にする工程、次に陽イオン交換樹脂を詰めたカラムを通し、pHが2〜3の範囲とする工程、これを限外ろ過膜を通して濃縮し、ゲル化させる工程、80〜120℃で乾燥する工程、これを粉砕し、0.1から0.4mmの粒径とする工程、これを2〜7wt%の塩酸水溶液に浸し60〜90℃で不純物を抽出する工程、これを1,200〜1,250℃で乾燥窒素ガス中において焼成する。
【0043】
これにより、水ガラスからのイオン交換法では製造上の効率低下のゲル化問題が解決される。また、もともとシリカとして純度の高いフュームドシリカを原料として用いているため、過酸化水素水を用いたチタンなどの除去精製が不要となる。このことは製造したシリカ粉末の純度が安定して高純度となることを示している。
【0044】
本発明の製造方法は、アルカリ水溶液と塩酸などの酸のみで行われるため、中和反応で生成した塩を隔膜を利用することにより、再生して使用することが可能である。例えば、フュームドシリカと水酸化ナトリウムを反応させて、これをイオン交換カラムを通すとイオン交換樹脂にはナトリウムが付着する。これを再生するときに酸処理で使用した塩酸水溶液を利用すると塩化ナトリウムが出てくる。この水溶液を隔膜法で電圧をかけると、また水酸化ナトリウムと塩酸が分離するのである。すなわち、本発明のプロセスは密閉プロセスとなるのであり、環境負荷も非常に低い。
また、本発明の製造方法によって得られるシリカ粉末は高純度で安価なものである。