特開2015-209306(P2015-209306A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2015-209306ガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-209306(P2015-209306A)
(43)【公開日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】ガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 49/06 20060101AFI20151027BHJP
   H01L 21/683 20060101ALI20151027BHJP
   H01L 21/673 20060101ALI20151027BHJP
   B65D 85/00 20060101ALI20151027BHJP
【FI】
   B65G49/06 Z
   H01L21/68 N
   H01L21/68 T
   B65D85/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-91752(P2014-91752)
(22)【出願日】2014年4月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】奥 隼人
(72)【発明者】
【氏名】大藤 正直
(72)【発明者】
【氏名】國友 一伸
【テーマコード(参考)】
3E068
5F131
【Fターム(参考)】
3E068AA29
3E068AB04
3E068AC05
3E068BB08
3E068BB12
3E068BB17
3E068CC28
3E068CD02
3E068DD06
3E068DE10
3E068EE01
3E068EE31
5F131AA03
5F131AA32
5F131BA18
5F131BA37
5F131CA07
5F131CA09
5F131CA32
5F131CA55
5F131DA02
5F131DA32
5F131DA33
5F131DA42
5F131DA52
5F131EA06
5F131EB62
5F131EB68
5F131EB75
5F131EC23
5F131GA03
5F131GA22
5F131GA27
5F131GA43
5F131GA52
5F131GA63
5F131GA94
(57)【要約】
【課題】ガラス板を安定して保持させることのできるガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法を提供する。
【解決手段】ガラス板保持具11は、ガラス板Gを処理する際に用いられる保持具本体21を備える。ガラス板保持具11は、保持具本体21に保持されるガラス板Gの移動を規制する規制部材61を備えている。保持具本体21は、ガラス板Gを挿入可能なスロットSを備えている。規制部材61は、スロットSに挿入されたガラス位置Gの移動を規制可能な規制位置と、ガラス板GをスロットSに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されている。ガラス板移動規制装置71は、第1規制部材62と第1規制部材62を駆動する第1駆動部81とを備える。ガラス物品の製造方法の保持工程は、規制部材61が用いられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス板を処理する際に用いられる保持具本体を備えるガラス板保持具であって、
前記保持具本体に保持される前記ガラス板の移動を規制する規制部材をさらに備え、
前記保持具本体は、前記ガラス板を挿入可能なスロットを備え、
前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されていることを特徴とするガラス板保持具。
【請求項2】
前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数の前記スロットを備え、
前記規制部材は、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とを備えることを特徴とする請求項1に記載のガラス板保持具。
【請求項3】
前記第1規制部材及び前記第2規制部材のいずれも、複数の前記ガラス板に対して規制可能に構成され、
前記規制部材は、前記第1規制部材及び前記第2規制部材のいずれに対しても独立して変位可能な第3規制部材を更に備え、前記第3規制部材は、前記スロットに挿入された全てのガラス板に対する規制位置へ変位可能であることを特徴とする請求項2に記載のガラス板保持具。
【請求項4】
前記保持具本体は、本体フレームと、前記本体フレームに固定され、ガラス板の下端部を支持する下端支持部と、前記本体フレームに固定され、前記ガラス板の両側端部を前記本体フレームに保持させる側端保持部と、を備え、
前記スロットが、前記側端保持部により構成され、
前記規制部材は、前記ガラス板の上端部が挿入される凹部を有するとともに前記凹部が内奥に向かうほど幅狭となる形状を有する規制部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のガラス板保持具。
【請求項5】
前記規制部材は、帯体がローラーに掛け回されたキャタピラ構造を有する規制部材を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のガラス板保持具。
【請求項6】
厚さ(t)に対する一辺の寸法(L)の比率(L/t)が500以上のガラス板に用いられることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のガラス板保持具。
【請求項7】
一辺の寸法が1000mm以上であり、厚さが1.5mm以下のガラス板に用いられることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のガラス板保持具。
【請求項8】
ガラス板を保持具本体に保持させる際にガラス板の移動を規制するガラス板移動規制装置であって、前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数のスロットを備え、ガラス板を処理する際に用いられるものであり、
前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制する規制部材を備え、
前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成され、
さらに、前記規制部材を前記両位置に変位させる駆動部を備えることを特徴とするガラス板移動規制装置。
【請求項9】
前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数の前記スロットを備えるものであり、
前記規制部材は、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とを備え、
前記駆動部は、前記第1規制部材を駆動する第1駆動部と、前記第2規制部材を駆動する第2駆動部とを備えることを特徴とする請求項8に記載のガラス板移動規制装置。
【請求項10】
ガラス板を保持具本体に保持させる保持工程と、前記保持具本体に保持されたガラス板を処理する処理工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、
前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数のスロットを備え、
前記保持工程では、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制する規制部材が用いられ、
前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されていることを特徴とするガラス物品の製造方法。
【請求項11】
前記保持工程は、第1ガラス板を前記スロットに挿入する第1段階と、前記第1ガラス板が挿入されたスロットと隣り合うスロットに第2ガラス板を挿入する第2段階とを含み、
前記第2段階は、前記規制部材が前記第1ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われることを特徴とする請求項10に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項12】
前記規制部材として、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とが用いられ、
前記保持工程は、前記第2ガラス板が挿入されたスロットと隣り合うスロットに第3ガラス板を保持させる第3段階を含み、
前記第2段階は、前記第1規制部材が前記第1ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われ、
前記第3段階は、前記第2規制部材が前記第2ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われることを特徴とする請求項11に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項13】
前記保持工程では、前記スロットに挿入された全てのガラス板が前記規制部材で規制された規制状態とされ、前記処理工程は、前記規制状態のガラス板に対して行われることを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【請求項14】
前記処理工程は、前記保持具本体に保持されたガラス板を化学強化液に浸漬する工程、前記保持具本体に保持されたガラス板を熱処理する工程、前記保持具本体に保持されたガラス板を洗浄する工程、及び前記保持具本体に保持されたガラス板を乾燥する工程から選ばれる少なくとも一つの工程であることを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか一項に記載のガラス物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス板は、ガラス板が載置されるパレットやガラス板を保持させるガラス板保持具を用いて搬送される。特許文献1には、例えば、化学強化液等で処理されるガラス板を保持するガラス板保持具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−118090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されるガラス板保持具は、外形寸法の比較的小さいガラス板の保持に適するものであり、ガラス板の外形寸法が比較的大きくかつ薄いガラス板を保持させる場合には、ガラス板のたわみ変形が発生し易くなる。これにより、ガラス板保持具にガラス板を安定して保持させることが困難となる。例えば、ガラス板保持具にガラス板を保持させる作業中やガラス板保持具に保持されたガラス板の搬送中にガラス板同士が干渉して破損したり傷ついたりする問題があった。
【0005】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラス板を安定して保持させることのできるガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス板保持具は、ガラス板を処理する際に用いられる保持具本体を備えるガラス板保持具であって、前記保持具本体に保持される前記ガラス板の移動を規制する規制部材をさらに備え、前記保持具本体は、前記ガラス板を挿入可能なスロットを備え、前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されている。
【0007】
この構成によれば、上記規制位置に変位された規制部材によってガラス板の移動が規制されるため、スロットに挿入されたガラス板のたわみ変形が抑制される。ここで、ガラス板の移動の規制は、ガラス板のたわみ変形に基づき、ガラス板の一部が他の部分に対して相対的に移動する場合の移動を規制することをいう。
【0008】
上記ガラス板保持具において、前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数の前記スロットを備え、前記規制部材は、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とを備えることが好ましい。
【0009】
ここで、スロットに挿入された第1ガラス板の移動を規制部材で規制した状態で、第1ガラス板に隣り合うスロットに第2ガラス板を挿入することで、第1ガラス板に対する第2ガラス板の衝突が回避され易くなる。さらに、例えば、スロットに挿入された第2ガラス板の移動を規制部材で規制した状態で、第2ガラス板に隣り合うスロットに第3ガラス板を挿入することで、第2ガラス板に対する第3ガラス板の衝突が回避され易くなる。このようにガラス板の移動を規制部材で順次規制する際に、上記の第1規制部材と第2規制部材とが交互に用いられることで、上記第1規制部材と第2規制部材のいずれか一方については、次に規制しようとするガラス板の非規制位置に待機させることができる。これにより、ガラス板がスロットに挿入されてから規制部材で規制されるまでの時間を短縮することが可能である。
【0010】
上記ガラス板保持具において、前記第1規制部材及び前記第2規制部材のいずれも、複数の前記ガラス板に対して規制可能に構成され、前記規制部材は、前記第1規制部材及び前記第2規制部材のいずれに対しても独立して変位可能な第3規制部材を更に備え、前記第3規制部材は、前記スロットに挿入された全てのガラス板に対する規制位置へ変位可能であることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、スロットに挿入された全てのガラス板について第3規制部材を用いて規制することで、ガラス板が保持された保持具本体の搬送の際や、保持具本体に保持されたガラス板を処理する処理工程において全てのガラス板のたわみ変形が抑制される。
【0012】
上記ガラス板保持具において、前記保持具本体は、本体フレームと、前記本体フレームに固定され、ガラス板の下端部を支持する下端支持部と、前記本体フレームに固定され、前記ガラス板の両側端部を前記本体フレームに保持させる側端保持部と、を備え、前記スロットが、前記側端保持部により構成され、前記規制部材は、前記ガラス板の上端部が挿入される凹部を有するとともに前記凹部が内奥に向かうほど幅狭となる形状を有する規制部材を備えることが好ましい。
【0013】
この構成によれば、規制部材が上記規制位置に変位される際に、凹部の開口端にガラス板の上端部が衝突し難く、かつ規制位置の規制部材においては、ガラス板の移動を規制する精度を高めることが可能である。
【0014】
上記ガラス板保持具において、前記規制部材は、帯体がローラーに掛け回されたキャタピラ構造を有する規制部材を備えることが好ましい。
この構成によれば、スロットにガラス板が順次挿入される際に、キャタピラ構造を有する規制部材を進行させることで、ガラス板の移動を順次規制することが可能である。
【0015】
上記ガラス板保持具は、厚さ(t)に対する一辺の寸法(L)の比率(L/t)が500以上のガラス板に用いられることが好ましい。
上記ガラス板保持具は、一辺の寸法が1000mm以上であり、厚さが1.5mm以下のガラス板に用いられることが好ましい。
【0016】
上記のような一辺の寸法と厚さの関係を有するガラス板では、たわみ変形がより発生し易い。このため、こうしたガラス板について、上記ガラス板保持具が用いられることが特に有利である。
【0017】
上記課題を解決するガラス板移動規制装置は、ガラス板を保持具本体に保持させる際にガラス板の移動を規制するガラス板移動規制装置であって、前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数のスロットを備え、ガラス板を処理する際に用いられるものであり、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制する規制部材を備え、前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成され、さらに、前記規制部材を前記両位置に変位させる駆動部を備える。
【0018】
この構成によれば、上記規制位置に変位された規制部材によってガラス板の移動が規制されるため、スロットに挿入されたガラス板のたわみ変形が抑制される。また、規制部材を上記非規制位置から規制位置へ変位させる操作は、駆動部により自動化されるため、保持工程の省力化において有利である。
【0019】
上記ガラス板移動規制装置において、前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数の前記スロットを備えるものであり、前記規制部材は、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とを備え、前記駆動部は、前記第1規制部材を駆動する第1駆動部と、前記第2規制部材を駆動する第2駆動部とを備えることが好ましい。
【0020】
この構成によれば、ガラス板がスロットに挿入されてから規制部材で規制されるまでの時間を短縮することが可能である。
上記課題を解決するガラス物品の製造方法は、ガラス板を保持具本体に保持させる保持工程と、前記保持具本体に保持されたガラス板を処理する処理工程とを備えるガラス物品の製造方法であって、前記保持具本体は、複数の前記ガラス板を挿入可能な複数のスロットを備え、前記保持工程では、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制する規制部材が用いられ、前記規制部材は、前記スロットに挿入された前記ガラス板の移動を規制可能な規制位置と前記ガラス板を前記スロットに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されている。
【0021】
この方法によれば、上記規制位置に変位された規制部材によってガラス板の移動が規制されるため、スロットに挿入されたガラス板のたわみ変形が抑制される。
上記ガラス物品の製造方法において、前記保持工程は、第1ガラス板を前記スロットに挿入する第1段階と、前記第1ガラス板が挿入されたスロットと隣り合うスロットに第2ガラス板を挿入する第2段階とを含み、前記第2段階は、前記規制部材が前記第1ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われることが好ましい。
【0022】
この方法によれば、スロットに挿入された第1ガラス板の移動を規制部材で規制した状態で、第1ガラス板が挿入されたスロットと隣り合うスロットに第2ガラス板を挿入する際に、第1ガラス板に対する第2ガラス板の衝突が回避され易くなる。
【0023】
上記ガラス物品の製造方法において、前記規制部材として、第1規制部材と、前記第1規制部材とは独立して変位可能な第2規制部材とが用いられ、前記保持工程は、前記第2ガラス板が挿入されたスロットと隣り合うスロットに第3ガラス板を保持させる第3段階を含み、前記第2段階は、前記第1規制部材が前記第1ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われ、前記第3段階は、前記第2規制部材が前記第2ガラス板に対する規制位置に位置した状態で行われることが好ましい。
【0024】
この方法によれば、ガラス板を規制部材で順次規制する際に、上記の第1規制部材と第2規制部材とが交互に用いられることで、上記第1規制部材と第2規制部材のいずれか一方については、次に規制しようとするガラス板の非規制位置に待機させることができる。これにより、ガラス板がスロットに挿入されてから規制部材で規制されるまでの時間を短縮することが可能である。
【0025】
上記ガラス物品の製造方法において前記保持工程では、前記スロットに挿入された全てのガラス板が前記規制部材で規制された規制状態とされ、前記処理工程は、前記規制状態のガラス板に対して行われることが好ましい。
【0026】
この方法によれば、ガラス物品の製造方法における保持工程から処理工程への搬送や処理工程において、ガラス板のたわみ変形が抑制される。
上記ガラス物品の製造方法において、前記処理工程は、前記保持具本体に保持されたガラス板を化学強化液に浸漬する工程、前記保持具本体に保持されたガラス板を熱処理する工程、前記保持具本体に保持されたガラス板を洗浄する工程、及び前記保持具本体に保持されたガラス板を乾燥する工程から選ばれる少なくとも一つの工程であることが好ましい。
【0027】
この方法によれば、得られるガラス物品の反りを抑制することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ガラス板を安定して保持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】実施形態におけるガラス板保持具及びガラス板移動規制装置を示す概略図である。
図2】(a)は第2段階を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図3】(a)は第2規制部材が第2ガラス板の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図4】(a)は第3段階を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図5】(a)は第1規制部材が第3ガラス板の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図6】(a)は第3規制部材がガラス板の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図7】(a)は処理工程に供されるガラス板の状態を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図8】(a)は変更例の規制部材を用いた第2段階を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
図9】(a)は変更例の規制部材が第2ガラス板の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、(b)は概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、ガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法の一実施形態について図1図7を参照して説明する。なお、本実施形態は、ガラス板が化学強化処理に供される一実施形態であるが、ガラス板保持具、ガラス板移動規制装置、及びガラス物品の製造方法は、ガラス板の他の処理に供される場合にも適用可能である。
【0031】
<ガラス板保持具の概要>
図1に示すように、ガラス板保持具11は、ガラス板Gを化学強化液で処理する際にガラス板Gを保持させる保持具本体21を備えている。保持具本体21は、本体フレーム31と、本体フレーム31に固定され、ガラス板Gの下端部を支持する下端支持部41と、本体フレーム31に固定され、ガラス板Gの両側端部を本体フレーム31に保持させる側端保持部51とを備えている。側端保持部51は、複数のガラス板Gが挿入可能な複数のスロットSを構成している。ガラス板保持具11は、ガラス板Gの上端部Gaの移動を規制する規制部材61を備えている。
【0032】
<保持具本体の本体フレーム>
保持具本体21の本体フレーム31は、四角形状の底部フレーム32と、底部フレーム32の四隅に立設される側部フレーム33と、側部フレーム33の上端部を連結する四角形状の上部フレーム34とを有する。本体フレーム31を構成する材料は、化学強化液に耐え得る材料であれば特に限定されず、本実施形態の本体フレーム31は、ステンレス鋼(SUS304)から構成されている。以下、ガラス板保持具11において、化学強化液に浸漬される部分は、本体フレーム31と同様に化学強化液に耐え得る材料から構成されるが、化学強化液に浸漬されない部分については、例えば、樹脂材料(ポリアミド等)から構成されてもよい。
【0033】
<保持具本体の下端支持部及び側端支持部>
保持具本体21の下端支持部41は、底部フレーム32間に架け渡されるように配置され、下端支持部41の両端部が底部フレーム32に固定されている。下端支持部41は、ガラス板Gの下端部を複数箇所で安定して支持するとともに、化学強化液の流通経路を確保するという観点から、本実施形態のように、間隔をおいて複数設けられることが好ましい。下端支持部41の形状は特に限定されず、その形状としては、例えば、板状、角柱状、及び円柱状が挙げられる。
【0034】
保持具本体21の側端保持部51は、側部フレーム33間に架け渡されるように配置され、側端保持部51の両端部は、側部フレーム33に固定されている。側端保持部51は、ガラス板Gの側端部が挿入される側端挿入凹部51aを有している。側端挿入凹部51aは、いずれも内奥に向かうほど幅狭となる形状を有しているが、側端挿入凹部51aの形状は特に限定されない。
【0035】
側端保持部51は、ガラス板Gの両側端部を保持させるように対向して配置されている。詳述すると、本体フレーム31には、ガラス板Gの一側端部を保持させる第1側端保持部52と、ガラス板Gの他側端部を保持させる第2側端保持部53とが設けられている。上述したスロットSは、第1側端保持部52の側端挿入凹部51aと、これに対向して配置される、第2側端保持部53の側端挿入凹部51aとにより構成されている。本実施形態の第1側端保持部52及び第2側端保持部53は、それぞれ上下に離間して配置される一対から構成されている。
【0036】
<ガラス板保持具の規制部材>
ガラス板保持具11の規制部材61は、本体フレーム31に固定されず、スロットSに挿入されたガラス板Gの移動を規制可能な規制位置とガラス板GをスロットSに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されている。
【0037】
規制部材61は、ガラス板Gの上端部Gaが挿入される上端挿入凹部61aを有している。上端挿入凹部61aは、いずれも内奥に向かうほど幅狭となる形状を有している。
規制部材61は、第1規制部材62、第2規制部材63、及び第3規制部材64を備えている。第1規制部材62、第2規制部材63及び第3規制部材64は、それぞれ独立して変位可能に構成されている。
【0038】
図1に示される第1規制部材62の位置は、第1ガラス板G1の移動を規制する規制位置である。この規制位置では、ガラス板Gの上端部Gaが規制部材61の上端挿入凹部61aに挿入されている。また、図1に示される第2規制部材63の位置及び第3規制部材64の位置は、第1ガラス板G1に対して非規制位置となっている。
【0039】
第1規制部材62及び第2規制部材63は、ガラス板Gが保持具本体21に順次保持される際に、ガラス板Gの上端部Gaの移動を規制するために用いられる。
第3規制部材64は、スロットSに挿入された全てのガラス板Gの上端部Gaの移動を規制するために用いられる。すなわち、第3規制部材64は、ガラス板Gの保持された保持具本体21が、化学強化液の処理に供される際に用いられる。第3規制部材64は、保持具本体21とともに、ガラス板Gを化学強化液で処理する工程に供される。このため、図示を省略するが、第3規制部材64は、保持具本体21(例えば、上部フレーム34)に着脱可能な着脱部を備えていることが好ましい。着脱部としては、例えば、上部フレーム34に係止される係止爪、上部フレーム34にボルト等の締結部材を用いて締結される締結部等が挙げられる。
【0040】
<ガラス板移動規制装置>
図1に示すように、ガラス板Gを保持具本体21に保持させるガラス板移動規制装置71は、ガラス板保持具11の規制部材61のうち、第1規制部材62及び第2規制部材63を駆動する装置である。ガラス板移動規制装置71は、第1規制部材62を駆動する第1駆動部81と、第2規制部材63を駆動する第2駆動部91とを備えている。第1駆動部81及び第2駆動部91は、ガラス板移動規制装置71の備える制御部Cにより駆動制御される。
【0041】
第1駆動部81は、第1規制部材62をガラス板Gの規制位置と非規制位置との両位置に変位させる。第2駆動部91は、第2規制部材63をガラス板Gの規制位置と非規制位置との両位置に変位させる。
【0042】
第1駆動部81は、第1規制部材62をガラス板Gの主面に沿った上下方向D1に駆動する第1上下駆動部82と、第1規制部材62をガラス板Gの厚さ方向に沿った水平方向D2に駆動する第1水平駆動部83とを備えている。第2駆動部91についても、第2規制部材63を上下方向D1に駆動する第2上下駆動部92と、第2規制部材63を水平方向D2に駆動する第2水平駆動部93とを備えている。
【0043】
ガラス板移動規制装置71の制御部Cは、第1規制部材62及び第2規制部材63の位置と、保持具本体21に保持されるガラス板Gの位置とを関連づけて記憶する記憶部を備え、その記憶部の情報に基づき、第1駆動部81及び第2駆動部91を駆動制御する。なお、制御部Cは、ガラス板Gの位置を検出するセンサからの入力情報に基づき、第1駆動部81及び第2駆動部91を駆動制御するように構成されてもよい。ガラス板移動規制装置71の第1駆動部81及び第2駆動部91は、例えば、モーターや流体圧等を利用して駆動される。
【0044】
<ガラス板>
ガラス板保持具11及びガラス板移動規制装置71は、たわみ変形の変形量がより大きいガラス板Gを保持させる用途において特に有利である。たわみ変形の変形量がより大きいガラス板Gとしては、一辺の寸法が1000mm以上のガラス板G、一辺の寸法が1200mm以上のガラス板G、又は一辺の寸法が1600mm以上のガラス板Gが挙げられる。なお、ガラス板Gにおける一辺の寸法の上限は、特に限定されないが、例えば、2500mm以下である。
【0045】
また、たわみ変形の変形量がより大きいガラス板Gとしては、例えば、厚さが1.5mm以下のガラス板G、又は厚さが1.1mm以下のガラス板Gが挙げられる。なお、ガラス板Gの厚さの下限は、例えば、0.2mm以上であり、比較的需要の高いガラス板Gの厚さは、0.4mm以上である。
【0046】
また、たわみ変形の変形量がより大きいガラス板Gとしては、厚さ(t)に対する一辺の寸法(L)の比率(L/t)が500以上のガラス板G、比率(L/t)が600以上のガラス板G、比率(L/t)が700以上のガラス板G、又は比率(L/t)が800以上のガラス板Gが挙げられる。なお、ガラス板Gにおける比率(L/t)の上限は、特に限定されないが、例えば、13000以下である。
【0047】
なお、図1等では、ガラス板Gを視認し易くするため、ガラス板Gの厚みを誇張して表している。
<ガラス物品の製造方法>
次に、ガラス物品の製造方法について、ガラス板保持具11の使用方法(作用)及びガラス板移動規制装置71の動作(作用)とともに説明する。
【0048】
ガラス物品の製造方法は、ガラス板Gを保持具本体21に保持させる保持工程と、ガラス板Gを化学強化液で処理する処理工程とを備えている。
本実施形態の保持工程は、ガラス板保持具11及びガラス板移動規制装置71を用いて行われる。保持工程は、第1ガラス板G1をスロットSに挿入する第1段階と、第1ガラス板G1が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第2ガラス板を挿入する第2段階とを含む。
【0049】
保持工程の第1段階では、図示を省略したガラス板供給装置によって第1ガラス板G1が保持具本体21のスロットSに挿入される。ガラス板供給装置は、ガラス板Gの供給元からガラス板Gを把持し、そのガラス板GをスロットSに挿入できるように構成されている。
【0050】
ガラス板移動規制装置71(ガラス板保持具11)の第1規制部材62は、第1段階の後に第1ガラス板G1の非規制位置から第1ガラス板G1の規制位置へ駆動(変位)される。このとき、ガラス板保持具11の第1規制部材62における上端挿入凹部61aは、内奥に向かうほど幅狭となる形状を有している。このため、第1規制部材62が第1ガラス板G1の規制位置へ駆動(変位)される際に、上端挿入凹部61aの開口端に第1ガラス板G1の上端部Gaが衝突し難い。また、規制位置の第1規制部材62において、第1ガラス板G1の上端部Gaの移動を規制する精度を高めることが可能である。
【0051】
図2(a)は第2段階を示す概略側面図であり、図2(b)はその概略平面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、保持工程の第2段階は、第1規制部材62が第1ガラス板G1に対する規制位置に位置した状態で行われる。ここで、スロットSに挿入された第1ガラス板G1がたわみ変形することで、第1ガラス板G1の上端部Gaが他の部分に対して相対的に移動する。第1ガラス板G1の上端部Gaの移動が進行すると、第1ガラス板G1の次にスロットSに挿入する第2ガラス板G2と衝突するおそれがある。この点、第1ガラス板G1のたわみ変形による上端部Gaの過剰な移動は、第1規制部材62により規制される。
【0052】
第2段階では、図示を省略したガラス板供給装置によって第1ガラス板G1が挿入されているスロットSと隣り合うスロットSに第2ガラス板G2が挿入される。
このとき、スロットSに挿入された第1ガラス板G1の上端部Gaの移動を第1規制部材62で規制した状態で、第1ガラス板G1が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第2ガラス板G2を挿入することができる。これにより、第1ガラス板G1に対する第2ガラス板G2の下端部の衝突が回避され易くなる。
【0053】
図3(a)は第2規制部材63が第2ガラス板G2の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、図3(b)はその概略平面図である。図3(a)及び図3(b)に示すように、第2段階の後に、第2規制部材63は、第2ガラス板G2の非規制位置から、第2ガラス板G2の規制位置へ駆動(変位)される。なお、このとき、第2規制部材63は、第1ガラス板G1に対しても規制位置に位置している。
【0054】
このように第1ガラス板G1及び第2ガラス板G2を規制部材61で順次規制する際に、第1規制部材62と第2規制部材63とが交互に用いられることで、第1規制部材62と第2規制部材63のいずれか一方については、次に規制しようとするガラス板Gの非規制位置に待機させることができる。これにより、ガラス板GがスロットSに挿入されてから規制部材61で規制されるまでの時間を短縮することが可能である。
【0055】
保持工程は、第2ガラス板G2が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第3ガラス板を保持させる第3段階を含む。
図4(a)は第3段階を示す概略側断面図であり、図4(b)はその概略平面図である。図4(a)及び図4(b)に示すように、保持工程の第3段階は、第2規制部材63が第2ガラス板G2に対する規制位置に位置した状態で行われる。第3段階では、第2段階と同様にガラス板供給装置によって第3ガラス板G3がスロットSに挿入される。第3段階において、第1規制部材62は、第3ガラス板G3に対する非規制位置に位置した状態である。
【0056】
このように、スロットSに挿入された第2ガラス板G2の上端部Gaの移動を第2規制部材63で規制した状態で、第2ガラス板G2が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第3ガラス板G3を挿入することができる。これにより、第2ガラス板G2に対する第3ガラス板G3の下端部の衝突が回避され易くなる。
【0057】
図5(a)は第1規制部材62が第3ガラス板G3の規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、図5(b)はその概略平面図である。図5(a)及び図5(b)に示すように、第3段階の後に、第1規制部材62は、第3ガラス板G3の非規制位置から、第3ガラス板G3の規制位置へ駆動(変位)され、以降の段階について図示を省略するが、第4ガラス板をスロットSに挿入する第4段階等が行われる。このように保持工程では、保持具本体21に保持させるガラス板Gの数(N)に応じて、ガラス板Gを保持させる段階が繰り返される。
【0058】
図6(a)は第3規制部材64がガラス板Gの規制位置に変位した状態を示す概略側断面図であり、図6(b)はその概略平面図である。図6(a)及び図6(b)に示すように、最後のガラス板GNがスロットSに挿入されると、スロットSに挿入された全てのガラス板Gの上端部Gaの移動は、ガラス板保持具11の第3規制部材64によって規制される。こうして保持工程が完了される。なお、ガラス板移動規制装置71の第1規制部材62及び第2規制部材63は、保持具本体21を搬出可能な位置まで駆動される。
【0059】
図7(a)は処理工程に供されるガラス板Gの状態を示す概略側断面図であり、図7(b)はその概略平面図である。図7(a)及び図7(b)に示すように、ガラス板Gの上端部Gaの移動が第3規制部材64によって規制された状態の保持具本体21は、この状態で処理工程に供される。処理工程では、保持具本体21が化学強化液に浸漬される。このとき、化学強化液は、保持具本体21の内部へ流入するとともにガラス板Gに接触し、ガラス板Gが化学強化される。
【0060】
ガラス板Gが化学強化液で処理されることで、ガラス板Gに含まれるイオンと、化学強化液に含まれるイオンとが交換されるイオン交換が起こり、ガラス板Gにはイオン半径の大きいイオンが導入される。これにより、得られたガラス物品としての化学強化ガラス板には、圧縮応力層が形成されている。
【0061】
化学強化液は特に限定されないが、例えば、硝酸カリウム液、硝酸ナトリウム液、及び炭酸カリウム液が挙げられる。化学強化液の温度は、例えば、硝酸カリウム液の場合、350〜550℃の範囲が好ましい。化学強化液中におけるガラス板Gの浸漬時間は、例えば、1〜8時間の範囲である。
【0062】
ここで、保持工程から処理工程への搬送や処理工程において、保持具本体21に保持されたガラス板Gの上端部Gaの移動が規制されていない場合、ガラス板Gのたわみ変形により、反りを有する化学強化ガラス板が得られるおそれがある。この点、本実施形態では、保持具本体21に保持された全てのガラス板Gは、第3規制部材64を用いた規制状態とされる。これにより、ガラス板Gが保持された保持具本体21の搬送の際や、保持具本体21に保持されたガラス板Gを化学強化液で処理する処理工程において全てのガラス板Gのたわみ変形が抑制される。
【0063】
化学強化液で処理する処理工程を完了した化学強化ガラス板は、洗浄工程により洗浄される。このとき、保持具本体21に保持した状態で化学強化ガラス板を洗浄することも可能である。また、洗浄工程を完了した化学強化ガラス板は、乾燥処理されてもよい。このとき、保持具本体21に保持した状態で化学強化ガラス板を乾燥することも可能である。
【0064】
以上詳述した実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
(1)ガラス板保持具11の規制部材61は、スロットSに挿入されたガラス板Gの移動を規制可能な規制位置とガラス板GをスロットSに挿脱可能な非規制位置との両位置に変位可能に構成されている。この構成によれば、規制位置に変位された規制部材61(第1規制部材62、第2規制部材63、又は第3規制部材64)によってガラス板Gの移動が規制されるため、スロットSに挿入されたガラス板Gのたわみ変形が抑制される。これにより、保持具本体21にガラス板Gを安定して保持させることができる。
【0065】
(2)ガラス板保持具11の保持具本体21は、複数のガラス板Gを挿入可能な複数のスロットSを備えている。ガラス板保持具11の規制部材61は、第1規制部材62及び第2規制部材63を備えている。この場合、ガラス板Gの移動を規制部材61で順次規制する際に、第1規制部材62と第2規制部材63とが交互に用いられることで、第1規制部材62と第2規制部材63のいずれか一方については、次に規制しようとするガラス板Gに対する非規制位置に待機させることができる。これにより、ガラス板GがスロットSに挿入されてから規制部材61で規制されるまでの時間を短縮することが可能である。したがって、ガラス板Gを保持具本体21に保持させる保持工程の効率を高めることが可能である。
【0066】
(3)ガラス板保持具11の規制部材61は、第3規制部材64を更に備えている。この第3規制部材64は、スロットSに挿入された全てのガラス板Gに対する規制位置へ変位可能である。この場合、ガラス板Gが保持された保持具本体21の搬送の際や、保持具本体21に保持されたガラス板Gを化学強化液で処理する処理工程において全てのガラス板Gのたわみ変形が抑制される。これにより、得られるガラス物品としての化学強化ガラス板の反りが抑制されるため、化学強化ガラス板における歩留まりの向上や品質の向上の観点で有利である。
【0067】
(4)ガラス板保持具11の保持具本体21は、本体フレーム31、下端支持部41、及び側端保持部51を備え、スロットSは、側端保持部51により構成されている。ガラス板保持具11の第1規制部材62、第2規制部材63及び第3規制部材64は、ガラス板Gの上端部Gaが挿入される上端挿入凹部61aを有するとともに、上端挿入凹部61aは内奥に向かうほど幅狭となる形状を有している。
【0068】
この構成によれば、規制部材61が規制位置に変位される際に、上端挿入凹部61aの開口端にガラス板Gの上端部Gaが衝突し難く、かつ規制位置の規制部材61において、ガラス板Gの上端部Gaの移動を規制する精度を高めることが可能である。こうした作用効果は、第2規制部材63及び第3規制部材64についても同様に発揮される。
【0069】
(5)本実施形態のガラス板保持具11は、厚さ(t)に対する一辺の寸法(L)の比率(L/t)が500以上のガラス板Gのたわみ変形を抑制する点で特に有利である。また、本実施形態のガラス板保持具11は、一辺の寸法が1000mm以上であり、厚さが1.5mm以下のガラス板のたわみ変形を抑制する点で特に有利である。このように大型化や薄板化されたガラス板Gから得られる化学強化ガラス板における歩留まりの向上や品質の向上の観点で有利である。
【0070】
(6)ガラス板移動規制装置71は、例えば、第1規制部材62及び第1駆動部81を備えている。この構成によれば、上記(1)欄で述べた作用効果を得ることができる。また、第1規制部材62を非規制位置から規制位置へ変位させる操作は、第1駆動部81により自動化されるため、保持工程の省力化において有利である。
【0071】
(7)ガラス板移動規制装置71は、第1規制部材62及び第1駆動部81、並びに第2規制部材63及び第2駆動部91を備えている。この場合、上記(2)欄で述べた作用効果が発揮される。
【0072】
(8)ガラス物品の製造方法では、規制部材61が用いられる。この方法によれば、上記(1)欄で述べた作用効果が発揮される。このため、化学強化ガラス板の歩留まりの向上や品質の向上の観点で有利である。
【0073】
(9)ガラス物品の製造方法の保持工程は、第1ガラス板G1をスロットSに挿入する第1段階と、第1ガラス板G1が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第2ガラス板G2を挿入する第2段階とを含んでいる。この第2段階は、ガラス板移動規制装置71(ガラス板保持具11)の第1規制部材62が第1ガラス板G1に対する規制位置に位置した状態で行われる。
【0074】
この方法によれば、スロットSに挿入された第1ガラス板G1の上端部Gaの移動を第1規制部材62で規制した状態で、第1ガラス板G1が挿入されたスロットSと隣り合うスロットとに第2ガラス板G2を挿入することができる。これにより、第1ガラス板G1に対する第2ガラス板G2の下端部の衝突が回避され易くなる。したがって、保持具本体21にガラス板Gを安定して保持させることができる。
【0075】
(10)ガラス物品の製造方法では、規制部材61として、第1規制部材62及び第2規制部材63が用いられる。ガラス物品の製造方法の保持工程は、第2ガラス板G2が挿入されたスロットSと隣り合うスロットSに第3ガラス板G3を挿入する第3段階を含んでいる。この第3段階は、第2規制部材63が第2ガラス板G2に対する規制位置に位置した状態で行われる。この場合、上記(2)欄で述べた作用効果が発揮される。
【0076】
(11)ガラス物品の製造方法の保持工程では、スロットSに挿入された全てのガラス板Gの上端部Gaの移動が第3規制部材64で規制された規制状態とされる。この規制状態のガラス板Gに対してガラス物品の製造方法の処理工程が行われる。この場合、上記(3)欄で述べた作用効果が発揮される。
【0077】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更して構成してもよい。
・ガラス板保持具11の第3規制部材64は、省略されてもよい。この場合、例えば、第1規制部材62又は第2規制部材63を用いて、スロットSに挿入された全てのガラス板Gの上端部Gaの移動を規制することもできる。具体的には、例えば、ガラス板移動規制装置71の第1駆動部81に第1規制部材62を着脱可能な着脱機構が備えられる。そして、第1規制部材62は、スロットSに挿入された全てのガラス板Gに対する規制位置に位置された後に、その第1規制部材62を第1駆動部81から脱離させる。但し、この場合、第1規制部材62が保持具本体21とともに搬送されることになり、また、第1規制部材62を駆動させる場合は、第1駆動部81への着脱に手間を要することになる。このように第1規制部材62又は第2規制部材63の取り扱いが煩雑になることから、ガラス板保持具11は、第3規制部材64を備えることが好ましい。
【0078】
・ガラス板保持具11の規制部材61は、第1規制部材62のみから構成されてもよい。この場合、第1規制部材62を変位させることで、保持具本体21に保持されたガラス板Gを順に規制することができる。
【0079】
・ガラス板保持具11の規制部材61は、第3規制部材64のみから構成されてもよい。この場合であっても、スロットSに挿入されたガラス板Gのたわみ変形が抑制されるため、保持具本体21にガラス板Gを安定して保持させることができる。
【0080】
・前記ガラス板保持具11の第1規制部材62及び第2規制部材63は、スロットSに挿入された全てのガラス板Gを規制可能に構成されている。こうした第1規制部材62及び第2規制部材63の少なくとも一方は、全てのガラス板Gを規制可能な構成に限定されず、1枚以上のガラス板Gが規制可能な構成に変更されてもよい。この場合、スロットSにガラス板Gが順次挿入される段階において、ガラス板Gを挿入しようとするスロットSと隣り合うスロットSに既に挿入されているガラス板Gの移動を規制することができる。これにより、ガラス板Gの挿入及び保持を円滑に行うことができる。
【0081】
但し、第1規制部材62及び第2規制部材63は、より安定して保持具本体21にガラス板Gを保持させるという観点から、スロットSに最初に挿入されるガラス板Gを1番目、最後に挿入されるガラス板GをN番目とした場合、次のように構成されることが好ましい。すなわち、第1規制部材62及び第2規制部材63の一方は、1番目からN−1番目までのガラス板Gが規制されるように構成され、他方は、1番目からN−2番目までのガラス板Gが規制されるように構成されていることが好ましい。また、第1規制部材62及び第2規制部材63の一方は、1番目からN番目までのガラス板Gが規制されるように構成され、他方は、1番目からN−1番目までのガラス板Gが規制されるように構成されていることがより好ましい。
【0082】
・ガラス板保持具11の規制部材61の数は、適宜変更されてもよい。例えば、ガラス板保持具11は、第1規制部材62、第2規制部材63及び第3規制部材64のいずれに対しても独立して変位可能な第4規制部材を備えた構成に変更されてもよい。第4規制部材は、例えば、第1規制部材62及び第2規制部材63と同様に、ガラス板GがスロットSに順次挿入される際に、ガラス板Gの上端部Gaの移動を規制するために用いることができる。また、第4規制部材は、第3規制部材と同様に、スロットSに挿入された全てのガラス板Gの上端部Gaの移動を規制するために用いられてもよい。ガラス板移動規制装置71においても、規制部材61の数は、適宜変更されてもよい。
【0083】
・ガラス板移動規制装置71において、第1駆動部81及び第2駆動部91のいずれか一方は省略されてもよい。また、ガラス板移動規制装置71は、第3規制部材64を駆動する第3駆動部を更に備えた構成に変更されてもよい。第3規制部材64は、第3駆動部に着脱可能に設けられる。
【0084】
図8(a)及び図8(b)に示すように、ガラス板保持具11の規制部材61は、キャタピラ構造を有するキャタピラ型規制部材65に変更されてもよい。このキャタピラ型規制部材65は、帯体65aと帯体65aが掛け回されたローラー65bとを備えている。帯体65aは、ガラス板Gの上端部Gaが挿入される上端挿入凹部61aを有している。図8(a)及び図8(b)に示されるキャタピラ型規制部材65は、第1ガラス板G1に対する規制位置であり、この状態で第2ガラス板G2がスロットSに挿入される。そして、図9(a)及び図9(b)に示すように、スロットSに第2ガラス板G2が挿入された後に、キャタピラ型規制部材65を進行させることで、キャタピラ型規制部材65は第2ガラス板G2に対する規制位置に変位される。このようにキャタピラ型規制部材65では、スロットSに挿入されたガラス板Gの上端部Gaの移動を順次規制することが容易である。なお、キャタピラ型規制部材65は、手動で操作されるものであってもよいし、駆動部により駆動されもてよい。
【0085】
・前記ガラス板保持具11における規制部材61の有する上端挿入凹部61aの形状は、内奥に向かうほど幅狭となる形状であるが、これに限定されず、例えば、内奥に向かうほど幅広となる形状に変更されてもよい。
【0086】
・前記ガラス板保持具11の規制部材61は、上端挿入凹部61aを有しているが、上端挿入凹部61aを省略した規制部材に変更されてもよい。例えば、ガラス板Gの上端部Gaを押圧する平坦面を有する規制部材に変更したとしても、その押圧によってガラス板Gの上端部Gaの移動が規制される。但し、上端挿入凹部61aを有する規制部材では、ガラス板Gの上端部Gaに過剰な負荷がかかることを抑制してその上端部Gaの移動を規制できる点で有利であり、その上端挿入凹部61aは内奥に向かうほど幅狭となる形状を有することがさらに有利である。
【0087】
・前記ガラス板保持具11等の規制部材61について、その形状、寸法等は、適宜変更されもよい。例えば、第1規制部材62は、一枚のガラス板Gの上端部Gaにおいて、複数の部分を同時に規制するように変更されてもよい。
【0088】
・ガラス板保持具11等において、例えば、第1規制部材62と、キャタピラ型規制部材65とを組み合わせる等、異なる機構又は形状の規制部材を組み合わせて実施されてもよい。
【0089】
・前記ガラス板保持具11の第1規制部材62及び第2規制部材63は、それぞれ第1駆動部81及び第2駆動部91によって駆動されるように構成されているが、すべて手動で行うように構成されてもよい。ガラス物品の製造方法の保持工程についても、すべて手動で行うことができる。
【0090】
・ガラス板移動規制装置71の第1駆動部81は、第1上下駆動部82及び第1水平駆動部83に限定されず、所定の位置まで第1規制部材62を駆動できる他の機構に変更されてもよい。ガラス板移動規制装置71の第2駆動部91についても、他の機構に変更されてもよい。
【0091】
・前記保持具本体21は、ガラス板Gが鉛直方向に沿って挿入されるように配置されているが、ガラス板Gが鉛直方向に対して傾斜する方向に沿って挿入されるように保持具本体21が水平面に対して傾斜して配置されてもよい。
【0092】
・前記保持具本体21は、略水平方向に沿ってガラス板GがスロットSに挿入されるように横型に変更されてもよい。この場合、下端支持部41は省略されてもよい。横型の保持具本体では、例えば、既にスロットSに挿入されているガラス板Gが下方に向けて凸となるたわみ変形が生じる。こうしたたわみ変形の進行について、ガラス板Gの端部の移動を規制部材61で規制することで、保持具本体21にガラス板Gを安定して保持させることができる。このようにガラス板Gにおいて、規制部材61を用いて移動が規制される部分は、上端部Gaに限定されない。
【0093】
・前記保持具本体21において、下端支持部41又は側端保持部51の形状、数、本体フレーム31に対する固定位置は、適宜変更されてもよい。
・前記保持具本体21は、ガラス板Gを化学強化液で処理する際にガラス板Gを保持させる用途に用いられるが、例えば、ガラス板Gを化学強化液以外で処理する際に用いられてもよい。化学強化液以外によるガラス板Gの処理としては、例えば、保持具本体21に保持されたガラス板Gを加熱する熱処理、保持具本体21に保持されたガラス板Gを洗浄する洗浄処理、保持具本体21に保持されたガラス板Gを乾燥する乾燥処理が挙げられる。また、保持具本体21は、保持具本体21に保持されたガラス板Gを液体で改質する改質処理に用いてもよい。保持具本体21は、単独の処理に用いられてもよいし、複数の処理に用いられてもよい。
【0094】
・前記ガラス板Gの組成及び用途は、特に限定されない。ガラス板Gは、例えば、無アルカリガラスであってもよい。ガラス板Gの用途としては、例えば、ディスプレイ用途、タッチパネル用途、光電変換パネル用途、電子デバイス用と、窓ガラス用途、建材用途、及び車両用途が挙げられる。
【0095】
上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について以下に記載する。
(イ)前記ガラス板保持具において、前記規制部材は、前記ガラス板の端部が挿入される凹部、又は前記ガラス板の端部を押圧する平面を有する、ガラス板保持具。
【0096】
(ロ)前記保持具本体にガラス板を供給するガラス板供給装置と、前記ガラス板移動規制装置とを備える、ガラス板保持装置。
【符号の説明】
【0097】
G…ガラス板、Ga…上端部、G1…第1ガラス板、G2…第2ガラス板、G3…第3ガラス板、S…スロット、11…ガラス板保持具、21…保持具本体、31…本体フレーム、41…下端支持部、51…側端保持部、61…規制部材、61a…上端挿入凹部(凹部)、62…第1規制部材、63…第2規制部材、64…第3規制部材、65…キャタピラ型規制部材、65a…帯体、65b…ローラー、71…ガラス板移動規制装置、81…第1駆動部、91…第2駆動部。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7
図8
図9