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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-20943(P2015-20943A)
(43)【公開日】2015年2月2日
(54)【発明の名称】ゴルフ場グリーンの芝草用肥料
(51)【国際特許分類】
   C05C 11/00 20060101AFI20150106BHJP
   A01N 57/16 20060101ALI20150106BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20150106BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20150106BHJP
   A01G 1/00 20060101ALI20150106BHJP
【FI】
   C05C11/00
   A01N57/16 104C
   A01P21/00
   A01G7/06 A
   A01G1/00 301C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-153220(P2013-153220)
(22)【出願日】2013年7月24日
(71)【出願人】
【識別番号】599040388
【氏名又は名称】株式会社 かつお技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100092680
【弁理士】
【氏名又は名称】入江 一郎
(72)【発明者】
【氏名】富松 徹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 ふみ
(72)【発明者】
【氏名】高山 正志
【テーマコード(参考)】
2B022
4H011
4H061
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AB01
2B022EA01
4H011AB03
4H011BA01
4H011BB17
4H011BC20
4H011BC23
4H061AA01
4H061AA02
4H061BB01
4H061BB45
4H061BB53
4H061DD11
4H061HH07
4H061JJ01
4H061KK05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】芝草の直立茎の分けつを促進し、かつ直立茎比率を増加させるゴルフ場グリーンの芝草用肥料を提供する。
【解決手段】窒素肥料にイノシン酸またはイノシン酸塩を含むことを特徴とするゴルフ場グリーンの芝草用肥料。好ましくは、イノシン酸またはイノシン酸塩の含有量が、窒素比(イノシン酸またはイノシン酸塩由来の窒素/全窒素)で6重量%から67重量%であることを特徴とするゴルフ場グリーンの芝草用肥料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素肥料にイノシン酸またはイノシン酸塩を含むことを特徴とするゴルフ場グリーンの芝草用肥料。
【請求項2】
イノシン酸またはイノシン酸塩の含有量が、窒素比(イノシン酸またはイノシン酸塩由来の窒素/全窒素)で6重量%から67重量%である
ことを特徴とする請求項1記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料。
【請求項3】
窒素肥料が、魚介類由来の窒素を含むことを特徴とする請求項1または2記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料。
【請求項4】
魚介類が、かつおであることを特徴とする請求項3記載のゴルフ場のグリーンの芝草用肥料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフ場グリーンの芝草用肥料に係り、特に、芝草の分けつを促進し、かつ直立茎比率を増加させるゴルフ場グリーンの芝草用肥料に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴルフ場のグリーンが高品質なパッティングクオリティを提供するためには、キメの細やかなリーフテクスチャー(ファイン)と、高い直立茎比率、及び低い刈込が可能な高い芝密度が重要である。
管理方法が確立していることで、日本で最も普及が進んでいるベントグラスはペンクロスであるが、ペンクロスは葉のキメが粗く、芝密度は低い。当該課題に対してニューベントグラスの開発が試みられてきているが、その普及,定着は進んでいない。
一方、成長促進剤や分けつ促進剤の開発も行われているが、ゴルフ場が抱える周辺環境への影響を考慮すると、化学肥料ではない、環境や人畜に影響を及ぼさない芝草の成長促進剤や分けつ促進剤が求められている。
【0003】
ペンクロスは1950年代に発売され、日本でも過去50年にわたってゴルフ場のグリーンに使用されてきたクリーピングベントグラスであり、管理方法が確立されている。 よって現在、日本で最も普及したゴルフ場グリーン用のクリーピングベントグラスとなっている。
【0004】
しかし、グリーン上に播種されたペンクロスは、葉が這うように生育(匍匐性:クリーピング)し、芝目を減らすために頻繁なブラッシングやバーチカッティングが必要であり、低く刈り込まれたペンクロスのグリーンは芝密度が低くなることから、スズメノカタビラ(イネ科)の侵入に抵抗できないという欠点があった。
また、ペンクロスの葉はキメが粗く、良質なパッティングクオリティを十分には提供できないという欠点があった(非特許文献1)。
【0005】
上記課題を解決するためには芝の芽数を増やしかつ直立茎の比率を高めることが求められるが、これまではアメリカを中心として、芝密度が高くかつ直立茎比率が高いニューベントグラスを開発することで解決を図ってきたが、気候の違いや管理の難しさもあって、日本において普及・定着が進んでいない。
【0006】
芝草の品質向上を、矮化促進、茎部充実、葉数増加、緑色度向上の面から試みた例(特許文献1)があるが、5−アミノレブリン酸、その誘導体又はその塩類とともに、植物ホルモンであるジベレリンの生合成阻害剤を用いており、自然環境に好ましくない影響を与える可能性がある。
【0007】
イノシンを植物の成長促進や芝草の分けつ促進に用いられた例が、いくつか知られている。
【0008】
例えば、イノシンを植物根の成長促進剤として用いた例(特許文献2)があるが、対象植物が葉菜、果菜、根菜、花および果実に限定されておりかつその効果は植物根の成長促進に限定されていて、芝草やイネ科植物の分けつ促進効果や芝草の直立茎比率の向上を提供するものではない。
【0009】
また、プロリンとイノシンを併用することで芝草の分けつを促進する例(特許文献3)があるが、純度90%以上のプロリンを用いることが条件となっており、かつプロリンが分けつに有効なアミノ酸で、イノシンは根の成長を促進することによりアミノ酸の分けつ効果を補助するものとされていて、イノシン自体の分けつ促進効果やまたイノシンの直立茎の分けつ促進効果を提供するものではない。
【0010】
更に、化学肥料や植物ホルモンを用いたものや、植物ホルモン阻害剤の持つ矮化効果を用いた芝草やイネ科植物の分けつ促進や発芽促進の方法が試みられている。
【0011】
例えば、イネ科植物の分けつ促進に、含フッ化インドール酪酸誘導体例えば4,4,4−トリフルオロー3−(インドールー3−)酪酸アルキルエステルを含有する分けつ促進剤を用いた例(特許文献4)があるが、この促進剤は化学肥料であり、環境への影響の問題がある。
【0012】
また、ジベレリンやサイトカイニンによる芝草の成長促進及び芽数の増加効果の例(特許文献5)があるが、ジベレリンやサイトカイニンは植物の成長ホルモンであり、周辺環境に好ましくない影響を与える可能性がある。
【0013】
更に、植物アクチベーターおよび植物成長調節物質を用いて細菌病害を抑制し、植物の発芽及び成長を操作する例(特許文献6)があるが、同様に植物成長ホルモンの阻害剤を用いており、周辺環境に好ましくない影響を与える可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】国際公開番号WO2009/139106
【特許文献2】特許第2927269号
【特許文献3】特許第4502098号
【特許文献4】特開平7−267803
【特許文献5】特開平7−82113
【特許文献6】特表2009−524593
【非特許文献1】平成14年 発行 出版社名 ソフトサイエンス社 柳久編集「ニューベントグラス」の第9〜13頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、ゴルフ場のグリーンが高品質なパッティングクオリティを有するために必要な、低い刈込みが可能となる高い芝密度とリーフテクスチャーを改善させうる高い直立茎比率を提供でき、かつゴルフ場が抱える周辺環境への影響を考慮し、化学肥料ではない、環境や人畜に影響を及ぼさない芝草の品質向上肥料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、上記特許文献及び非特許文献には触れられておらず、かつこれらの文献とは研究を異にする、窒素肥料と共にイノシン酸またはイノシン酸塩を施肥することで、芝草の直立茎の分けつを促進しかつ直立茎比率を高め、芝密度と芝草のリーフテクスチャーとを改善することを見出し、本発明を完成した。
【0017】
請求項1記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料は、窒素肥料にイノシン酸またはイノシン酸塩を含むものである。
【0018】
また、請求項2記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料は、請求項1記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料において、イノシン酸またはイノシン酸塩の含有量が、窒素比(イノシン酸またはイノシン酸塩由来の窒素/全窒素)で6重量%から67重量%である。
【0019】
また、請求項3記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料は、請求項1または2記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料において、窒素肥料が、イノシン酸またはイノシン酸塩と共に、魚介類由来の窒素を含んでいる。また、請求項4記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料は、請求項3記載のゴルフ場グリーンの芝草用肥料において、魚介類が、かつおである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ゴルフ場グリーンの芝草の分けつを促進し、かつ直立茎比率を増加させることが可能となる。
その結果、低い刈込が可能になり、高いパッティングクオリティが提供できる。
なお、施肥の方法は、例えば、スプレーヤーによる噴霧施肥であり、煩雑な操作は必要ない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施例1における、尿素のみ、自己消化液のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料の各施肥試験区の、収穫、洗浄後の写真である。
図2】実施例1における、尿素のみ、自己消化液のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料の各施肥試験区の、収穫前の写真である。
図3】実施例1における、尿素のみ、自己消化液のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料の各施肥試験区の、乾燥茎葉重量を比較したグラフである。
図4】実施例1における、尿素のみ、自己消化液のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料の各施肥試験区の、乾燥根重量を比較したグラフである。
図5】実施例1における、尿素のみ、自己消化液のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料の各施肥試験区の、茎数を比較したグラフである。
図6】実施例1における、ポットテスト中の平均気温(百葉箱内)、平均温室内温度、平均地温を比較したグラフである。
図7】実施例2における、自己消化液のみ、イノシン酸塩(IMP)のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料を施肥した芝のポット栽培34日目の写真である。
図8】実施例2における、自己消化液のみ、イノシン酸塩(IMP)のみ及び自己消化液の一部をイノシン酸塩(IMP)に置換えた肥料を施肥したポット栽培34日目の芝の収穫・洗浄後の写真である。
図9】実施例2における、ポット栽培34日目において、液肥の全窒素に占めるイノシン酸塩(IMP)由来の窒素構成比と乾燥根重量・乾燥茎葉重量及び茎数の関係を示したグラフである。
図10】実施例2における、ポットテスト中の平均温室内温度、平均地温を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のゴルフ場グリーンの芝草用(品質向上)肥料の対象植物はゴルフ場のグリーンの芝であり、匍匐性を有するベントグラス、とりわけペンクロスに対する効果が高い。
【0023】
イノシン酸またはイノシン酸塩の濃度は、窒素比(イノシン酸またはイノシン酸塩由来の窒素/全窒素)で6重量%〜67重量%、好ましくは20重量%〜52重量%とする。
本発明の芝草用肥料は、イノシン酸またはイノシン酸塩以外の窒素源は、かつお由来が好ましい。
【0024】
上記肥料は、スプレーヤーによる噴霧に適当な濃度に水で希釈し、窒素施肥量で0.05g-窒素/m2〜2.0g-窒素/m2、好ましくは0.1g-窒素/m2〜1.0g-窒素/m2で施用する。
【0025】
施用には、例えば、スプレーヤーを用い、葉面及び土面の両面に噴霧し、煩雑な操作は必要ない。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。

[実施例1] 初期生育期のペンクロスへの施用(1)
【0026】
[播種]
播種日 : 2012年6月1日
使用種 : クリーピングベントグラス(ペンクロス:(株)サカタのタネ)
使用土 : メトロミックス350
(培養土:Sun Gro Hoorticulture Distribution Inc)と砂を1:1で混合
ポット : 6号ポット
播種量 : 0.5g/ポット
生育場所 : 温室(温度コントロールなし)
【0027】
[定植]
定植日 : 2012年7月20日
使用土 : 砂
ポット : 4.5号ポット
定植 : 1ポットに、6株×4か所定植
生育場所 : ビニールハウス(温度コントロールなし)
【0028】
[スターター施肥]
施肥日 : 2012年7月27日
肥料 : アイソテクノ987((株)篠崎商店)
施肥量 : 0.5g-窒素/m2
【0029】
[施肥条件]
施肥量 : 0.40g-窒素/m2
施肥面積 : 0.25m2(0.5m×0.5m)
散布水量 : 250ml/0.25m2
散布方法 : 電動式スプレー(パナソニック BH593P)による散布
施肥頻度 : 1回/週
栽培期間 : 2012年8月2日〜2012年8月29日
試験区 : 表1において、尿素(三井化学株式会社製の製品名「尿素」)のみをコントロール1、自己消化液のみをコントロール2とし、この自己消化液の一部を表1に示すようにイノシン酸ナトリウム(IMP)に置換えた試験区1、2、3、4を設定した。T−N,リン,カリウムの施肥量は略同じになるように調整した。
なお、上記「自己消化液」とは、例えば、「かつお自己消化液」のことで、「かつお自己消化液」は、以下の製法により得られる。
原料として、鮮度のよい生切り処理したカツオの内臓、ハラモ、尾を用い、これらをニーダー(混練機)に投入後、pHを7.0〜8.0に調整し、55〜60℃で4時間自己消化する。
液化した自己消化物は、振動篩分機にて骨等の残渣を取り除き、pHを酸性(pH4.1±0.1)にし、珪藻土を用いてフィルタープレスによる濾過を行い、「かつお自己消化液」とする。
なお、図7のカツオ100%は、含まれる窒素がかつお自己消化液由来100%ということを意味する。
【0030】
【表1】
【0031】
[収穫]
収穫日 : 2012年8月29日
処理 : 根を十分に水洗し、根と葉(茎)を切り離して通風乾燥する。
評価項目 : 1乾燥根重量 2乾燥葉(茎)重量 3茎数(匍匐茎と直立茎を分けて計 数) 4葉茎の目視でのリーフテクスチャー観察
【0032】
尿素のみ(コントロール1),自己消化液のみ(コントロール2)及び自己消化液由来の窒素の一部をIMPに置換えた(IMP由来窒素比率6.0重量%,11.3重量%,20.8重量%,35.8重量%)液体肥料をポットに定植したペンクロスに施肥し、その茎葉及び根の成長を評価し、匍匐茎,直立茎別に茎数を測定し比較した。
窒素,リン,カリウムの施肥量は同じであるにもかかわらず、自己消化液の一部をイノシン酸ナトリウム(IMP)に置換えることで、自己消化液のみに比べて葉の成長が促進されていた(図1)。これはイノシン酸ナトリウム(IMP)がその添加量が少なくても、茎葉の成長を促進することを証明している。
【0033】
IMP由来窒素比率が35.8重量%の試験区では、葉の徒長が抑えられ、茎数が増える傾向があった(図1)。これはIMPがその添加量や施肥量により、芝草の成長に与える影響が変わる可能性を示唆していた。
【0034】
また、IMP由来窒素比率20.8重量%までの試験区は、茎葉が成長しているものの、やや葉が広くかつ茎が寝る傾向にあるが、IMP由来窒素比率35.8重量%の試験区の芝は葉が細く、立っていた(図2)。
これもまた、IMPの添加量を増加することで、茎葉の伸長を抑え、葉茎を細くし、リーフテクスチャーを改善しうることが明らかとなった。
【0035】
各試験区の茎葉及び根を乾燥し、その乾燥重量を測定した。自己消化液のみの試験区に比べIMPを添加した試験区は、乾燥茎葉重量が増える傾向があった(図3)。これはIMPが茎葉の成長を促進しているものと考えられた。
【0036】
根の乾燥重量に関しては、自己消化液のみの試験区と比較して、やや増加している傾向はあるものの、大きな差は見られなかった(図4)。
【0037】
各試験区の茎数について、IMPの添加により乾燥茎葉重量が増加しているにもかかわらず、IMP由来窒素比率20.8重量%までの添加区は茎数が横ばいか若干減少する傾向にあった(図5)。
これは少量のIMPの添加により茎葉が徒長する可能性が示唆された。一方、IMP由来窒素比率35.8重量%の試験区は、自己消化液のみの試験区に比べ茎数は大きく増加しており、特に直立茎数を増加させることが明らかとなった(図5)。
【0038】
施肥開始から収穫までの温度データ(百葉箱内温度,温室内温度,ポット内の地温)を示す(図6)。栽培後半では、地温が28℃を上回ったにも関わらず芽数が増加していることから、IMP由来窒素比率35.8重量%の試験区は、芝の呼吸量増加(平均地温28℃以上で発生)に伴うサマーストレスに対抗しうる施肥効果もあると推定された。
[実施例2] 初期生育期のペンクロスへの施用(2)
【0039】
[播種]
播種日 : 2013年3月29日
使用種 : クリーピングベントグラス(ペンクロス:(株)サカタのタネ)
使用土 : メトロミックス350
(培養土:Sun Gro Hoorticulture Distribution Inc)と砂を1:1で混合
ポット : 6号ポット
播種量 : 0.5g/ポット
生育場所 : 温室(温度コントロールなし)
【0040】
[定植]
定植日 : 2013年4月26日
使用土 : 砂
ポット : 4.5号ポット
定植 : 1ポットに、6株×4か所定植
生育場所 : ビニールハウス(温度コントロールなし)
【0041】
[スターター施肥]
施肥日 : 2013年5月2日
肥料 : 19-26-5 Starter Fertilizer((株)ハイポネックスジャパン)
0.5g―窒素/m2
農薬 : (1)バシパッチ水和剤(殺虫:(株)理研グリーン):
2g/Lを1L、全体に散布
(2)オルコン粒剤5(殺菌:大塚化学(株)):1g/potを施用
施肥量 : 0.5g-窒素/m2
【0042】
[施肥条件]
施肥量 : 0.40g-窒素/m2
施肥面積 : 0.25m2(0.5m×0.5m)
散布水量 : 250ml/0.25m2
散布方法 : 電動式スプレー(パナソニック BH593P)による散布
施肥頻度 : 2回/週
栽培期間 : 2013年5月7日〜2013年6月7日
試験区 : 表2において、かつお自己消化液のみをコントロール(No.1)、イノシン酸ナトリウム(IMP)のみをコントロール(No.2)とし、かつお自己消化液とイノシン酸ナトリウム(IMP)の混合物を表2のように調整して、試験区No.3〜10とした。T−N,リン,カリウムの施肥量は略同じになるように調整した。
なお、IMPのみのコントロール(No.2)と、自己消化液+IMPの(No.3)は、IMP由来の窒素量を高めたことで、IMPが持つリン酸基由来のリンが増加した。結果として、リンの含有量が高くなった。
【0043】
【表2】
【0044】
[収穫]
収穫日 : 2013年6月6日
処理 : 根を十分に水洗し、根と葉(茎)を切り離して通風乾燥する。
評価項目 : 1乾燥根重量 2乾燥葉(茎)重量 3茎数(匍匐茎と直立茎を分けて計数) 4葉茎の目視でのリーフテクスチャー観察
【0045】
窒素源は自己消化液のみ及びIMPのみをコントロールとして、自己消化液+IMP(IMP由来窒素比率6.0重量%,20.8重量%,35.5重量%,41.5重量%,51.5重量%,66.8重量%)液体肥料を、ポットに定植したペンクロスに施肥し、その茎葉及び根の成長を評価し、匍匐茎,直立茎別に茎数を測定し比較した。
No.1及びNo.4〜No.8から明らかなように、窒素,リン,カリウムの施肥量は同じであるにもかかわらず、自己消化液の一部をIMPに置換えることで、ペンクロスの茎葉の成長は異なる反応を示した(図8)。
【0046】
IMP由来の窒素構成比が増加するに従い、茎葉の成長が促進されるが、IMP由来の窒素構成比が66.8重量%を超えると、茎葉の成長が低下する傾向にあり、即ち成長のピークがIMP由来の窒素構成比35.5重量%〜51.5重量%にあることが認められた(図7)。
【0047】
収穫後の茎葉の写真を比較した場合でも、成長のピークがIMP由来窒素構成比35.5重量%〜51.5重量%にあることが確認できると共に、芝の茎丈が伸びているのではなく、芝の株が大きくなっていることから、芝の茎数が増加していることが分かる(図8)。これは、IMPの添加が芝の分けつを促進することを示している。
【0048】
根及び茎葉を乾燥し重量を測定し、また乾燥茎葉の茎数を、直立茎(節が1個以下の茎)と匍匐茎(節が2つ以上ある茎)に分けて、茎数を計数した。その結果、根の成長、茎葉の成長及び茎数の増加のピークは、いずれも液肥の全窒素におけるIMP由来窒素構成比が35.5重量%にあることが明らかとなった。
IMPの添加は、根及び茎葉を成長させると共に、芝の分けつを促進すること、またその全窒素におけるIMP由来窒素の構成比には至適な条件があることが明らかとなった(図9)。
【0049】
施肥開始から収穫までの温度データ(温室内温度,ポット内の地温)を示す(図10)。今回のポットテストでは平均地温が28℃を下回っており、本実施例では、本発明の芝に対する、サマーストレス耐性を向上させる機能を確認するにいたらなかった。
【0050】
既知の知見として、サイトカイニンやアデニンが成長ホルモンとして作用することが知られている。核酸施肥の、植物の成長促進に与える効果を検討するとき、サイトカイニンやアデニンの前駆体としての可能性が考えられるが、成長ホルモン前駆体としての作用であれば、微量で成長促進効果があらわれるものと推定される。
【0051】
本発明では、IMP施肥効果のピークが、肥料の全窒素に占めるIMP由来窒素の構成比35.5重量%〜51.5重量%にあることから、成長ホルモン前駆体としてではなく、植物体における核酸合成の原料として利用されているものと推定できる。
【0052】
このことから、ゴルフ場周りの環境への影響も少なく、かつ安全な肥料として利用できるものであることがわかる。
【0053】
上述したゴルフ場グリーンの芝草用肥料によれば、ゴルフ場グリーンのリーフテクスチャーを改善し、直立茎(茎中に節が1個以下であり匍匐しない茎)の比率を高め、かつ分けつを促進することで芝密度を高める芝草が得られた。
図3
図4
図5
図6
図9
図10
図1
図2
図7
図8