【解決手段】冷媒回路の冷媒と蓄熱回路の蓄熱媒体とを蓄熱用熱交換器で熱交換して、蓄熱媒体を冷却し、蓄熱媒体を水和物生成温度未満の過冷却状態にする。その後、上記蓄熱用熱交換器にて冷媒で蓄熱媒体を加熱して水和物生成温度以上の所定温度に上昇させる。これにより、蓄熱タンク内では、高温の蓄熱媒体の流入により温度衝撃が起こり、低温度の蓄熱媒体と高温度の蓄熱媒体とが混ざり合い、急激に乱流が生じて、蓄熱タンク内が攪拌される。その結果、蓄熱タンク内に元々存在していた水和物スラリーが大きく成長する。この水和物スラリーが、その後に蓄熱タンクに流入してくる蓄熱媒体の過冷却状態の解消の核となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記蓄熱システムで利用する蓄熱材、例えば臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液などの蓄熱媒体では、その水和物生成温度未満の温度に安定的に冷却すると、包接水和物が生成されず、溶液状態を保持した過冷却溶液となる。この過冷却溶液、すなわち過冷却状態の蓄熱媒体は、蓄熱媒体としての氷に比べて、その過冷却状態を解消し難い、すなわち水和物スラリーになり難い特性を持つ。また、過冷却溶液中に水和物スラリーが少々存在している状態において、その水和物スラリーに過冷却溶液が接触しても、過冷却溶液はその過冷却状態を解消し難い特性を持っている。従って、このような蓄熱媒体を利用する蓄熱システムでは、従来のダイナミック氷蓄熱システムのように水の過冷却溶液を種氷生成装置で作った種氷と接触させてその過冷却状態を解消する方法を採用し難いし、また採用しても、大きな種氷を生成できる種氷生成装置のごとき装置が必要となり、コスト高になる欠点がある。
【0006】
更に、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液などの蓄熱媒体は、蓄熱タンクに水和物スラリーが全く存在しない初期状態からプルダウン運転を開始した場合には、過冷却度が大きい(例えば5°C以上の)状態となっても過冷却状態を解消し難い特性を持つ。その過冷却度を更に大きくすれば、小さな衝撃(例えば蓄熱媒体が流通する配管での圧力変動など)により過冷却状態が解消されて、蓄熱媒体は水和物スラリーになるが、過冷却度を更に大きくしようとすると、蓄熱用熱交換器での熱交換率が悪くなる欠点が生じる。
【0007】
更に、過冷却溶液が上記配管の途中でその過冷却状態を解消してしまった場合には、その解消部分で水和物スラリーが成長し凍結すると、配管の閉塞が生じる。この閉塞を解消しようと蓄熱用熱交換器で過冷却溶液を加熱しても、その蓄熱用熱交換器から配管の閉塞部分まで熱伝達して凍結が解消され始めるまで、更には水和物スラリーの包接水和物が配管内壁から剥がれて流れ出すまでに長時間を要する。その結果、蓄熱タンクの蓄熱量を所望の時間で確保できない欠点が生じる。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液などの蓄熱媒体を利用した蓄熱システムにおいて、蓄熱タンク内に過冷却状態を解消させる核となる大きな水和物スラリーを生じさせて、蓄熱媒体の過冷却状態を安価で且つ確実に解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明の蓄熱システムは、冷却することによって包接水和物が生成される蓄熱媒体を貯留する蓄熱タンク(52)を有し、上記蓄熱媒体を循環させる蓄熱回路(61)と、冷媒を循環させる冷媒回路(11)と、上記蓄熱回路(61)と冷媒回路(11)とに共通して配置され、上記冷媒回路(11)の冷媒と上記蓄熱回路(61)の蓄熱媒体との間で熱交換させる蓄熱用熱交換器(29)とを備えた蓄熱システムであって、上記蓄熱タンク(52)へ蓄熱する運転を制御する運転制御部(100)を備え、上記運転制御部(100)は、上記蓄熱回路(61)の上記蓄熱媒体を水和物生成温度未満の第1所定温度とするよう、上記蓄熱用熱交換器(29)で上記蓄熱媒体を冷却する顕熱蓄冷運転を行った後、上記蓄熱回路(61)の蓄熱媒体を上記水和物生成温度以上にするよう、上記蓄熱用熱交換器(29)で上記蓄熱媒体を加熱する加熱運転を行うことを特徴とする。
【0010】
この蓄熱システムでは、先ず、顕熱蓄冷運転が行われて、蓄熱媒体はその温度が水和物生成温度未満の第1所定温度の過冷却状態になる。この過冷却状態では、蓄熱タンク内では、水和物スラリーが少々存在した状態にある。
【0011】
その後は、加熱運転が行われて、蓄熱媒体の温度は水和物生成温度以上に上昇する。これにより、蓄熱用熱交換器で温度上昇した蓄熱媒体は蓄熱タンクに流入して、該蓄熱タンク内では水和物生成温度未満の蓄熱媒体と水和物生成温度以上の蓄熱媒体とが一気に混ざり合い、急激に乱流が生じて、蓄熱タンク内が攪拌される。このように、上記蓄熱媒体の加熱制御(温度衝撃)によって、蓄熱タンク内で温度の異なる蓄熱媒体同士の混合、乱流及び攪拌が生じることにより、元々存在していた水和物スラリーに多くの過冷却状態の蓄熱媒体が接触して、その元々存在していた水和物スラリーが確実に大きく成長する。そして、この成長した水和物スラリーが、その後に蓄熱タンク内に流入してくる蓄熱媒体の過冷却状態を解消させる核となる。
【0012】
第2の発明は、上記蓄熱システムにおいて、上記第1所定温度は、上記蓄熱用熱交換器(29)の出口の蓄熱媒体の温度であることを特徴とする。
【0013】
この蓄熱システムでは、蓄熱用熱交換器(29)の出口の蓄熱媒体の温度は、水和物生成温度未満の第1所定温度の過冷却状態となるので、蓄熱タンクの内部では、蓄熱媒体の温度は確実に水和物生成温度未満の過冷却状態になっている。従って、蓄熱タンク内には、水和物スラリーが多少でも確実に存在することになる。よって、その後の蓄熱媒体の加熱制御(温度衝撃)に伴う蓄熱タンク内での蓄熱媒体の混合、乱流及び攪拌によって、過冷却状態の蓄熱媒体が上記既に存在する水和物スラリーに接触すると、その蓄熱媒体は過冷却状態を解消して水和物スラリーになる。
【0014】
また、上記水和物生成温度未満の第1所定温度を水和物生成温度から例えば3°C低い温度(過冷却度=3°C)の所定温度に設定すると、蓄熱用熱交換器の蓄熱媒体の出入口温度差を大きく確保できて、熱交換率の良い状態で蓄熱用熱交換器を運転することが可能である。
【0015】
第3の発明は、上記蓄熱システムにおいて、上記冷媒回路(11)は、上記蓄熱用熱交換器(29)への冷媒の供給通路(14a,14b)に配置される電動弁(30)を有し、上記運転制御部(100)は、上記顕熱蓄冷運転の完了後は、上記電動弁(30)の開度を大きい側に変更して、上記蓄熱用熱交換器(29)での冷媒温度を上げることを特徴とする。
【0016】
この蓄熱システムでは、加熱運転時には、冷媒回路の電動弁の開度を大きい側に変更して、蓄熱用熱交換器での冷媒温度を上げる。これにより、蓄熱媒体を適度に加熱できて、温度の異なる蓄熱媒体同士の混合、攪拌が適切に行われ、蓄熱媒体の過冷却状態を確実に解消できる。
【0017】
第4の発明は、上記蓄熱システムにおいて、上記運転制御部(100)は、上記加熱運転により上記蓄熱用熱交換器(29)の出口での蓄熱媒体温度が上記水和物生成温度以上の第2所定温度になった後、上記顕熱蓄冷運転と同態様の潜熱蓄冷運転を行うことを特徴とする。
【0018】
この蓄熱システムでは、加熱運転により蓄熱用熱交換器出口の蓄熱媒体温度が第2所定温度になった時点で、その加熱運転が停止して、潜熱蓄冷運転が行われる。従って、蓄熱媒体の加熱運転時間を短くできて、蓄熱タンクへの蓄熱を効率良く行うことが可能である。
【0019】
第5の発明の空調システムは、上記蓄熱システムと、上記蓄熱システムの冷媒回路(11)に配置される利用側熱交換器(25)を有し、上記蓄熱タンク(52)に蓄熱された冷熱を上記利用側熱交換器(25)に与えて対象空調空間を冷房することを特徴とする。
【0020】
この空調システムでは、蓄熱システムの蓄熱タンク(52)に蓄熱された冷熱が利用側熱交換器(25)に与えられて、対象空調空間が良好に冷房される。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、第1の発明によれば、蓄熱タンク内で過冷却状態にあった蓄熱媒体に温度衝撃を与えることによってその蓄熱媒体の過冷却状態を確実に解消して水和物スラリーを生成できるので、ダイナミック氷蓄熱システムの種氷生成装置のごとき装置を採用する必要がなく、低コスト化が可能である。しかも、蓄熱タンク内で過冷却状態を解消できるので、蓄熱媒体の流通配管の途中での配管の閉塞を防止できる。
【0022】
第2の発明によれば、蓄熱媒体の過冷却状態を解消するための大きな水和物スラリーを得るための核となる水和物スラリーを蓄熱タンク内に元々存在させたので、蓄熱タンク内での過冷却状態をより一層確実に解消できる。また、蓄熱用熱交換器での熱交換率を高く確保できる。
【0023】
第3の発明によれば、蓄熱媒体を適度に加熱して、蓄熱タンク内で適切な温度衝撃を与えることができ、蓄熱媒体の過冷却状態を確実に解消できる。
【0024】
第4の発明によれば、蓄熱媒体の加熱運転時間を短くできるので、蓄熱タンクへの蓄熱効率を高く確保して、ほぼ所望時間で既定蓄熱量を確保できる。
【0025】
第5の発明によれば、蓄熱システムで蓄熱した冷熱を利用して対象空調空間を良好に冷房できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0028】
≪実施形態≫
図1は、空調システム(10)の構成図である。
図1に示すように、空調システム(10)は、空気調和装置(20)、蓄熱装置(50)、及びコントローラ(100)(運転制御部に相当)を有する。
【0029】
蓄熱装置(50)は、蓄熱タンクユニット(51)、補助熱交換器(28)、蓄熱用熱交換器(29)、蓄熱用膨張弁(30)、循環ポンプ(58)、及びその他の各種弁(32,33,34)を有する。蓄熱装置(50)が有する機器によって蓄熱回路(61)が構成されている。
【0030】
空気調和装置(20)は、室外ユニット(20a)と室内ユニット(20b)とを有する。各ユニット(20a,20b)に含まれる機器と、蓄熱装置(50)が有する一部の機器(具体的には、補助熱交換器(28)、蓄熱用熱交換器(29)、蓄熱用膨張弁(30)及びその他の各種弁(32,33,34))によって冷媒回路(11)が構成されている。
【0031】
コントローラ(100)は、空調システム(10)の運転を制御するためのものであって、冷媒回路(11)の圧縮機(21)や蓄熱回路(61)の循環ポンプ(58)等の駆動制御を行う。
【0032】
上記空調システム(10)のうち、空気調和装置(20)の室外ユニット(20a)及び蓄熱装置(50)により、蓄熱タンクユニット(51)に冷熱を蓄熱する蓄熱システム(40)が構成される。
【0033】
<冷媒回路の構成>
冷媒回路(11)には冷媒(熱媒体に相当)が充填されており、冷媒が循環することによって冷凍サイクルが行われる。
図1に示すように、冷媒回路(11)は、主として、圧縮機(21)、室外熱交換器(22)、室外膨張弁(23)、室内膨張弁(24)、室内熱交換器(25)、四方切換弁(26)、補助熱交換器(28),蓄熱用熱交換器(29)及び蓄熱用膨張弁(30)によって構成されている。圧縮機(21)、室外熱交換器(22)、室外膨張弁(23)及び四方切換弁(26)は、室外ユニット(20a)に設けられ、室内膨張弁(24)及び室内熱交換器(25)は、室内ユニット(20b)に設けられている。
【0034】
圧縮機(21)は冷媒を圧縮して吐出する。圧縮機(21)は、例えば容量可変式であって、図示しないインバータ回路によって回転数(運転周波数)が可変される。
【0035】
室外熱交換器(22)は、配管(12)を介して四方切換弁(26)と接続されている。室外熱交換器(22)は、例えばクロスフィンアンドチューブ式であって、室外ユニット(20a)に設けられた室外ファン(22a)によって室外空気が供給されると、当該室外空気と冷媒との熱交換を行う。
【0036】
室外膨張弁(23)は、配管(13)を介して室外熱交換器(22)と接続され、配管(14a,14b)を介して室内膨張弁(24)と接続されている。室外膨張弁(23)及び室内膨張弁(24)は、例えば電子膨張弁で構成されており、開度を可変することで冷媒の圧力を調整する。
【0037】
室内熱交換器(25)は、配管(15)を介して室内膨張弁(24)と接続され、配管(16)を介して四方切換弁(26)と接続されている。室内熱交換器(25)は、例えばクロスフィンアンドチューブ式であって、室内ユニット(20b)に設けられた室内ファン(25a)によって室内空気が供給されると、当該室内空気と冷媒との熱交換を行う。
【0038】
四方切換弁(26)は、4つポートを有する。具体的に、四方切換弁(26)の第1ポートは、圧縮機(21)の吐出側に接続され、四方切換弁(26)の第2ポートは、アキュムレータ(27)を介して圧縮機(21)の吸入側に接続されている。四方切換弁(26)の第3ポートは、配管(12)を介して室外熱交換器(22)に接続され、四方切換弁(26)の第4ポートは、配管(16)を介して室内熱交換器(25)に接続されている。四方切換弁(26)は、空調システム(10)の運転種類に応じて、各ポートの接続状態を第1状態(
図1の実線で示す状態)または第2状態(
図1の破線で示す状態)に切り換える。
【0039】
補助熱交換器(28)は、冷媒側通路(28a)と蓄熱側通路(28b)とを有する。冷媒側通路(28a)は、配管(14a)上、つまりは室外膨張弁(23)と蓄熱用膨張弁(30)との間に位置し、内部には冷媒が流れる。蓄熱側通路(28b)は、蓄熱回路(61)に直列に接続され、内部には蓄熱媒体(後述)が流れる。補助熱交換器(28)は、冷媒と蓄熱媒体と熱交換を行う。
【0040】
蓄熱用熱交換器(29)は、冷媒側通路(29a)と蓄熱側通路(29b)とを有する。冷媒側通路(29a)は、配管(14b)上において蓄熱用膨張弁(30)と室内膨張弁(24)との間に位置し、内部には冷媒が流れる。蓄熱側通路(29b)は、蓄熱回路(61)に直列に接続され、内部には蓄熱媒体が流れる。蓄熱用熱交換器(29)は、冷媒と蓄熱媒体との熱交換を行う。
【0041】
蓄熱用膨張弁(30)は、配管(14a)を介して補助熱交換器(28)に接続されると共に、配管(14b)を介して蓄熱用熱交換器(29)と接続されている。蓄熱用膨張弁(30)は、例えば電子膨張弁で構成されており、開度を可変することで冷媒の圧力を調整する。
【0042】
また、冷媒回路(11)には、3つの開閉弁(31,32,33)及び1つの逆止弁(34)が設けられている。第1開閉弁(31)は、第1バイパス配管(17)上に位置し、第2開閉弁(32)は、第2バイパス配管(18)上に位置している。ここで、第1バイパス配管(17)は、配管(12)と、配管(14a)における室外膨張弁(23)及び補助熱交換器(28)の間とを繋いでいる。第2バイパス配管(18)は、配管(16)と、配管(14b)における蓄熱用熱交換器(29)及び室内膨張弁(24)の間とを繋いでいる。第3開閉弁(33)は、配管(14b)のうち蓄熱用熱交換器(29)と室内膨張弁(24)との間であって、且つ第2バイパス配管(18)と配管(14b)との接続部分よりも室内膨張弁(24)側に位置している。逆止弁(34)は、第3開閉弁(33)に並列に接続されている。逆止弁(34)は、第3開閉弁(33)における室内膨張弁(24)側の冷媒圧力が所定値を超えた場合に、室内膨張弁(24)側から蓄熱用熱交換器(29)側に向けて冷媒が流れるように設けられている。
【0043】
<蓄熱回路の構成>
蓄熱回路(61)には蓄熱媒体が充填されており、蓄熱媒体を循環させて冷熱を蓄熱するサイクル等が行われる。蓄熱回路(61)は、主として、蓄熱タンクユニット(51)及び循環ポンプ(58)の他に、上述した補助熱交換器(28)及び蓄熱用熱交換器(29)によって構成されている。
【0044】
ここで、本実施形態1に係る蓄熱媒体について説明する。蓄熱媒体には、冷却することによって包接水和物が生成される蓄熱材、即ち流動性を有する蓄熱材が採用される。蓄熱媒体の具体例としては、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB:Tetra Butyl Ammonium Bromide)水溶液、トリメチロールエタン(TME:Trimethylolethane)水溶液、パラフィン系スラリーなどが挙げられる。例えば、臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液は、安定的に冷却されて当該水溶液の温度が水和物生成温度よりも低くなった過冷却状態でもその水溶液の状態を維持するが、この過冷却状態で衝撃が与えられると、過冷却溶液が包接水和物を含んだ溶液(水和物スラリー)へと遷移する。すなわち、臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液は、過冷却状態を解消して、臭化テトラnブチルアンモニウムと水分子とからなる包接水和物(水和物結晶)が生成されて粘性の比較的高い水和物スラリーとなる。逆に、臭化テトラnブチルアンモニウムの水和物スラリーは、加熱により水和物生成温度よりも高くなると、包接水和物が融解して流動性の比較的高い液状態となる。なお、臭化テトラnブチルアンモニウム水溶液の水和物生成温度は、0℃よりも高い温度、例えば12℃となっている。
【0045】
蓄熱タンクユニット(51)は、
図1に示すように、蓄熱タンク(52)、流入管(55)及び流出管(56)を備える。蓄熱タンク(52)は、軸方向が上下方向となるように配置された中空の円筒状容器であって、上端及び下端は閉塞されている。蓄熱タンク(52)の内部には蓄熱媒体が貯留される。また、蓄熱タンク(52)の側壁のうち該タンク(52)の下部には、第1開口(53)が形成され、蓄熱タンク(52)の側壁うち該タンク(52)の上部には、第2開口(54)が形成されている。
【0046】
図1に示すように、流入管(55)は、第1開口(53)を介して蓄熱タンク(52)に取り付けられており、蓄熱タンク(52)内部に蓄熱媒体を流入させる。流入管(55)の蓄熱媒体の入口端は、配管(62)を介して蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の一端に接続されている。流入管(55)の蓄熱媒体の出口端は、蓄熱タンク(52)内部と連通している。
【0047】
図1に示すように、流出管(56)は、第2開口(54)を介して蓄熱タンク(52)に取り付けられており、蓄熱タンク(52)内部の蓄熱媒体を該タンク(52)から流出させる。流出管(56)の蓄熱媒体の入口端は、蓄熱タンク(52)内部と連通している。流出管(56)の蓄熱媒体の出口端は、配管(63)を介して補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)の一端に接続されている。
【0048】
循環ポンプ(58)は、
図1の蓄熱回路(61)において、補助熱交換器(28)から蓄熱用熱交換器(29)に向かう方向に蓄熱媒体を循環させる。循環ポンプ(58)は、配管(64)を介して補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)の他端に接続され、配管(65)を介して蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の他端に接続されている。循環ポンプ(58)の運転のオン及びオフや蓄熱媒体の搬送量は、コントローラ(100)によって制御される。
【0049】
以上の構成により、蓄熱回路(61)は、閉回路となっている。
【0050】
<空調システムの運転動作>
空調システム(10)の運転種類は、冷媒回路(11)における冷媒の循環と並行して蓄熱回路(61)における蓄熱媒体の循環が行われる運転と、冷媒回路(11)における冷媒の循環のみが行われる運転とに大別される。以下では、前者の場合の運転動作について説明する。前者の場合としては、潜熱蓄冷運転及び利用冷房運転が挙げられる。
【0051】
―潜熱蓄冷運転―
図2に示される潜熱蓄冷運転では、室外熱交換器(22)及び補助熱交換器(28)にて凝縮及び冷却された冷媒が蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)にて蒸発することで、蓄熱側通路(29b)内の蓄熱媒体が冷却されて過冷却状態となった後、蓄熱タンク(52)に流入し水和物スラリーとなって蓄熱タンク(52)に貯留される。冷媒回路(11)は、室外熱交換器(22)が凝縮器となり蓄熱用熱交換器(29)が蒸発器となる冷凍サイクルを行う。蓄熱回路(61)は、蓄熱タンク(52)から流出した蓄熱媒体が補助熱交換器(28)及び蓄熱用熱交換器(29)を順に通過して蓄熱タンク(52)に再度流入するように蓄熱媒体を循環させる。
【0052】
具体的に、四方切換弁(26)は第1状態、第1開閉弁(31)及び第3開閉弁(33)は閉状態、第2開閉弁(32)は開状態にそれぞれ設定される。室外膨張弁(23)の開度は全開状態、室内膨張弁(24)の開度は全閉状態、蓄熱用膨張弁(30)の開度は所定の開度(蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)の出口における冷媒の過熱度が所定目標値となる開度)にそれぞれ設定される。圧縮機(21)および室外ファン(22a)は作動する。
【0053】
圧縮機(21)から吐出された冷媒は、配管(12)を介して室外熱交換器(22)に流入し、室外熱交換器(22)にて室外空気に放熱して凝縮する。凝縮された冷媒は、室外膨張弁(23)を介して補助熱交換器(28)の冷媒側通路(28a)に流入するが、冷媒側通路(28a)を通過する間に蓄熱側通路(28b)を流れる蓄熱媒体によって更に冷却される。補助熱交換器(28)から流出した冷媒は、蓄熱用膨張弁(30)にて減圧された後、蓄熱用熱交換器(29)にて蓄熱媒体から吸熱して蒸発する。蒸発した冷媒は、第2バイパス配管(18)及び四方切換弁(26)を介してアキュムレータ(27)に一旦吸入され、その後圧縮機(21)に吸入されて圧縮される。
【0054】
蓄熱回路(61)では、循環ポンプ(58)が作動する。蓄熱タンク(52)内の蓄熱媒体は、第2開口(54)及び配管(56,63)を介して補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)に流入する。この蓄熱側通路(28b)を通過する間に、蓄熱媒体は、冷媒側通路(28a)を流れる冷媒によって加熱される。加熱された蓄熱媒体は、循環ポンプ(58)及び配管(64,65)を介して蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)に流入する。この蓄熱側通路(29b)を通過する間に、蓄熱媒体は、冷媒側通路(29a)を流れる冷媒によって水和物生成温度未満の温度に冷却されて過冷却状態となる。過冷却状態の蓄熱媒体は、配管(62,55)及び第1開口(53)を介して蓄熱タンク(52)内に流入する。蓄熱タンク(52)内では、既に多くの水和物スラリーが存在していると、この存在する水和物スラリーに上記過冷却状態の蓄熱媒体(すなわち過冷却溶液)が接触することによって、その過冷却状態を解消して、水和物スラリーになる。このようにして、蓄熱タンク(52)には多くの水和物スラリーが生成されて、冷熱が蓄えられる。
【0055】
―利用冷房運転―
図3及び
図4に示される利用冷房運転では、上記潜熱蓄冷運転にて蓄熱タンク(52)に貯留された水和物スラリーを冷熱源として用いて、室内熱交換器(25)により室内(空調対象空間に相当)の冷房が行われる。冷媒回路(11)は、蓄熱用熱交換器(29)にて蓄熱媒体から冷熱を得た冷媒が室内熱交換器(25)にて蒸発するように冷媒を循環させる。蓄熱回路(61)は、蓄熱タンク(52)から流出した蓄熱媒体が補助熱交換器(28)及び蓄熱用熱交換器(29)を順に通過して蓄熱タンク(52)に再度流入するように蓄熱媒体を循環させる。
【0056】
利用冷房運転には、
図3の第1利用冷房運転と
図4の第2利用冷房運転とがある。
【0057】
―第1利用冷房運転―
第1利用冷房運転では、蓄熱タンク(52)に蓄えられた冷熱と冷媒回路(11)の冷凍サイクルによって得られる冷熱とを用いて室内の冷房が行われる。冷媒回路(11)は、室外熱交換器(22)が凝縮器、補助熱交換器(28)及び蓄熱用熱交換器(29)が過冷却器(即ち放熱器)、室内熱交換器(25)が蒸発器となる冷凍サイクルを行う。
【0058】
具体的には、
図3に示すように、四方切換弁(26)は第1状態、第1開閉弁(31)及び第2開閉弁(32)は閉状態、第3開閉弁(33)は開状態にそれぞれ設定される。室外膨張弁(23)及び蓄熱用膨張弁(30)の開度は全開状態、室内膨張弁(24)の開度は所定の開度(室内熱交換器(25)の出口における冷媒の過熱度が所定目標値となる開度)にそれぞれ設定される。圧縮機(21)、室外ファン(22a)及び室内ファン(25a)は作動する。
【0059】
圧縮機(21)から吐出された冷媒は、配管(12)を介して室外熱交換器(22)に流入し、室外熱交換器(22)にて室外空気に放熱して凝縮する。凝縮された冷媒は、全開である室外膨張弁(23)を介して補助熱交換器(28)の冷媒側通路(28a)に流入し、補助熱交換器(28)の冷媒側通路(28a)を通過する間に蓄熱側通路(28b)を流れる蓄熱媒体によって更に冷却される。補助熱交換器(28)から流出した冷媒は、全開である蓄熱用膨張弁(30)を介して蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)に流入し、蓄熱側通路(29b)を流れる蓄熱媒体によって更に冷却される。この冷媒は、室内膨張弁(24)にて減圧された後、室内熱交換器(25)にて室内空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内空気が冷却される。蒸発した冷媒は、配管(16)及び四方切換弁(26)を介してアキュムレータ(27)に一旦吸入され、その後圧縮機(21)に吸入されて圧縮される。
【0060】
蓄熱回路(61)では、循環ポンプ(58)が作動する。蓄熱タンク(52)内の蓄熱媒体は、第2開口(54)及び配管(56,63)を介して補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)に流入する。この蓄熱側通路(28b)を通過する間に、蓄熱媒体は、冷媒側通路(28a)を流れる冷媒から吸熱する。吸熱した蓄熱媒体は、循環ポンプ(58)及び配管(64,65)を介して蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)に流入する。この蓄熱側通路(29b)を通過する間に、蓄熱媒体は、冷媒側通路(29a)を流れる冷媒から更に吸熱する。更に吸熱した蓄熱媒体は、配管(62,55)及び第1開口(53)を介して蓄熱タンク(52)内に流入する。このようにして、蓄熱媒体から冷媒へ冷熱が付与される。
【0061】
―第2利用冷房運転―
第2利用冷房運転では、蓄熱タンク(52)に蓄えられた冷熱のみを用いて室内の冷房が行われる。冷媒回路(11)は、蓄熱用熱交換器(29)を通過した冷媒が室内熱交換器(25)において蒸発するように冷媒を循環させる。
【0062】
具体的には、
図4に示すように、四方切換弁(26)は第1状態、第2開閉弁(32)は閉状態、第1開閉弁(31)及び第3開閉弁(33)は開状態にそれぞれ設定される。室外膨張弁(23)の開度は全閉状態、蓄熱用膨張弁(30)の開度は全開状態、室内膨張弁(24)の開度は所定の開度(室内熱交換器(25)の出口における冷媒の過熱度が所定目標値となる開度)にそれぞれ設定される。圧縮機(21)及び室内ファン(25a)は作動する。
【0063】
圧縮機(21)から吐出された冷媒は、配管(12)、第1バイパス配管(17)及び配管(14)を介して補助熱交換器(28)の冷媒側通路(28a)に流入し、蓄熱側通路(28b)を流れる蓄熱媒体に放熱して凝縮する。凝縮された冷媒は、全開状態である蓄熱用膨張弁(30)を通過後、蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)に流入し、冷媒側通路(29a)を通過する間に蓄熱側通路(29b)を流れる蓄熱媒体によって更に冷却される。当該冷媒は、その後、第3開閉弁(33)を介して室内膨張弁(24)に流入し、減圧される。減圧された冷媒は、室内熱交換器(25)を通過する間に室内空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内空気が冷却される。蒸発した冷媒は、配管(16)及び四方切換弁(26)を介してアキュムレータ(27)に一旦吸入され、その後圧縮機(21)に吸入されて圧縮される。
【0064】
蓄熱回路(61)では、循環ポンプ(58)が作動する。蓄熱タンク(52)内の蓄熱媒体は、第2開口(54)、配管(56,63)、補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)、配管(64)、循環ポンプ(58)、配管(65)を、この順に流れた後、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)に流入する。各蓄熱側通路(28b,29b)を通過する間に、蓄熱媒体は、各冷媒側通路(28a,29a)を通過する冷媒から吸熱する。吸熱した蓄熱媒体は、配管(62,55)及び第1開口(53)を介して蓄熱タンク(52)内に流入する。このようにして、蓄熱媒体から冷媒へ冷熱が付与される。
【0065】
<プルダウン運転>
蓄熱媒体がその水和物生成温度(12°C)を大きく超える所定温度(例えば20°C)である初期状態から、蓄熱タンク(52)に水和物スラリーを生成して蓄熱するプルダウン運転について説明する。
【0066】
このプルダウン運転時での蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体の温度変化及び冷媒側通路(29a)の冷媒の温度変化を
図5に示す。
図5では、蓄熱媒体として臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)溶液を使用した場合を例示している。
【0067】
このプルダウン運転時には、コントローラ(100)は、当初、上記潜熱蓄冷運転と同態様の顕熱蓄冷運転を行う。この顕熱蓄冷運転の継続により、蓄熱用熱交換器(29)では蓄熱媒体は冷却されて、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度は、上記所定温度(20°C)から徐々に低下する。
【0068】
上記顕熱蓄冷運転により蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度がその水和物生成温度(12°C)に達し、更に温度低下して、所定温度(第1所定温度であり、例えば9°C)になると、この蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体は、過冷却度が3°Cの過冷却状態の過冷却溶液となる。この状態では、蓄熱用熱交換器(29)や蓄熱タンク(52)を含む蓄熱回路(61)の全体又は大半で蓄熱媒体の温度は水和物生成温度(12°C)未満の過冷却状態になっている。
【0069】
この時点になると、コントローラ(100)は、顕熱蓄冷運転を停止し、蓄熱媒体を加熱する加熱運転を実行する。この加熱運転により、後述の通り、蓄熱タンク(52)内の蓄熱媒体に温度衝撃を与えて、蓄熱タンク(52)内に水和物スラリーを確実に成長させて、蓄熱媒体の過冷却状態を解消する。
【0070】
ここで、過冷却度が3°Cになると顕熱蓄冷運転を停止する理由は次の通りである。即ち、
図5から判るように、顕熱蓄冷運転の開始時からその継続時間が短い期間では、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度の低下は顕著であり、蓄熱用熱交換器(29)の熱交換率は高い。一方、顕熱蓄冷運転を停止する前の期間では、上記温度低下は次第に小さくなり、蓄熱用熱交換器(29)の熱交換率は低くなる。従って、顕熱蓄冷運転を停止する時点の過冷却度を3°C未満に低く設定すると、蓄熱用熱交換器(29)の熱交換率が極めて低くなり、蓄熱タンク(52)への目標量の蓄熱を所望時間で確保できなくなるからである。
【0071】
上記顕熱蓄冷運転完了後の加熱運転は、蓄熱回路(61)の蓄熱媒体を冷媒回路(11)の冷媒で加熱する運転である。この加熱運転の詳細は次の通りである。
【0072】
―加熱運転―
この加熱運転では、蓄熱用膨張弁(電動弁に相当)(30)の開度を上記顕熱蓄冷運転時の所定開度(蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)の出口における冷媒の過熱度が所定目標値となる開度)よりも大きな開度側(全開を含む)に変更する点を除き、
図2に係る顕熱蓄冷運転と同じ動作が行われる。
【0073】
即ち、圧縮機(21)から吐出された冷媒は、室外熱交換器(22)にて凝縮された後、室外膨張弁(23)、補助熱交換器(28)の冷媒側通路(28a)、蓄熱用膨張弁(30)、蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)及び第2バイパス配管(18)をこの順に流れる。特に、蓄熱用膨張弁(30)は上記所定開度よりも大きい開度であるため、補助熱交換器(28)を流出した冷媒は、減圧されることなく又は少しの減圧で配管(供給通路)(14a,14b)を経て蓄熱用熱交換器(29)に流入する。従って、この加熱運転時に蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)を流れる冷媒の温度は、
図5で破線で示したように、顕熱蓄冷運転にて流れる冷媒の温度から急上昇し、蓄熱媒体の水和物生成温度(12°C)よりも高くなる。蓄熱用熱交換器(29)を流れた冷媒は、その後、四方切換弁(26)及びアキュムレータ(27)を介して圧縮機(21)に吸入される。
【0074】
蓄熱回路(61)では、蓄熱タンク(52)から流出し補助熱交換器(28)の蓄熱側通路(28b)に流入した蓄熱媒体は、冷媒側通路(28a)を流れる冷媒から吸熱した後、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)に流入する。冷媒側通路(29a)を流れる冷媒の温度は既述の通り蓄熱媒体の水和物生成温度(12°C)よりも高いため、蓄熱側通路(29b)を流れる蓄熱媒体の温度は、
図6で実線で示したように、水和物生成温度(12°C)を越えて上昇する。
【0075】
図5に示したように、加熱運転時には、蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)の冷媒温度は急上昇する。同時に、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度は温度(9°C)から急上昇し、水和物生成温度(12°C)を超えて所定温度(第2所定温度であって、例えば18°C)に達する。この温度上昇した蓄熱媒体は蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)から配管(62,55)を経て蓄熱タンク(52)に流入する。
【0076】
ここで、臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液などの蓄熱媒体は、温度が高いほど粘度が低くなる特性を持つ。従って、蓄熱タンク(52)では、既に内部に存在していた過冷却状態(温度=9°C)の高粘度の蓄熱媒体と上記流入してきた高温度(18°C)で低粘度の蓄熱媒体とが、粘度を均一にするよう一気に混ざり合い、急激に乱流が生じて、蓄熱タンク(52)内が攪拌される。その結果、蓄熱タンク(52)内で既に存在している水和物スラリーに多くの蓄熱媒体が接触して、その水和物スラリーが大きく成長することになる。
【0077】
このように、蓄熱タンク(52)内に高温度の蓄熱媒体が流入して蓄熱タンク(52)内で温度衝撃が生じることにより、蓄熱媒体の上記混合、乱流、攪拌が生じるが、その際、温度の異なる蓄熱媒体同士の粘度差がその混合、乱流、攪拌の程度に影響すると考えられる。このため、本発明者等は、
図6に示すように、3種類(10%、20%、40%)の濃度の臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液を用意し、このTBAB水溶液の温度を10°Cと20°Cに調整した場合の各温度でのTBAB水溶液の粘度を測定した。同図から判るように、10%濃度では粘度差は0.6mPa・s、20%濃度では粘度差は1.0mPa・s、40%濃度では粘度差は3.9mPa・sである。以上のことから、TBAB水溶液を蓄熱媒体とする場合には、同一温度差の下では、高濃度の方が粘度差が大きいため、蓄熱タンク(52)内での上記混合、乱流、攪拌の程度が大きくて、蓄熱媒体はその過冷却状態を解消し易いと考えられる。
【0078】
上記加熱運転の開始から蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度が水和物生成温度(12°C)を超える所定温度(18°C)に達するまでの時間(すなわち、加熱運転の継続時間)は、短時間、例えば0.5〜1.0分である。
【0079】
上記の通り、蓄熱媒体温度が上記高温度(18°C)に達すると、コントローラ(100)は、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口での蓄熱媒体温度を急激に下げるよう、蓄熱用膨張弁(電動弁に相当)(30)の開度を上記所定開度(蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)の出口における冷媒の過熱度が所定目標値となる開度)よりも大幅に小さい開度に設定する。これにより、蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)出口の冷媒温度及び蓄熱側通路(29b)出口の蓄熱媒体温度は、上記顕熱蓄冷運転時の温度近傍にまで急激に低下する。この温度低下の期間は、
図5に示したように、加熱運転後に冷媒や蓄熱媒体の温度が安定するまでの安定待ち期間である。
【0080】
上記安定待ち期間の後は、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体温度(9°C)を維持するように、上記潜熱蓄冷運転が行われる。従って、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)から流出する蓄熱媒体は温度(9°C)の過冷却状態になった後、この過冷却状態の蓄熱媒体が蓄熱タンク(52)内に流入すると、この過冷却状態の蓄熱媒体が上記成長した水和物スラリーと接触することによって、その過冷却状態を確実に解消して、水和物スラリーとなることが繰り返される。
―実施形態の効果―
本実施形態では、プルダウン運転時に、蓄熱媒体を温度(9°C)の過冷却状態(過冷却度=3°C)とした後、加熱運転を行って、蓄熱タンク(52)内で蓄熱媒体に温度衝撃を与えることにより、蓄熱タンク(52)内に水和物スラリーを生成させたので、その後は、蓄熱タンク(52)内に流入する過冷却状態の蓄熱媒体が上記生成した水和物スラリーと接触すると、その過冷却状態を確実に解消して水和物スラリーとなることが繰り返される。従って、プルダウン運転時に1回の加熱運転を行うだけで、蓄熱タンク(52)内に確実に冷熱を蓄えることができる。
【0081】
しかも、上記加熱運転は、蓄熱用膨張弁(30)の開度を大開度側に変更するだけで可能であるので、従来のダイナミック氷蓄熱システムの種氷生成装置のごとき装置が不要であり、低コスト化が可能である。
【0082】
また、本実施形態では、プルダウン運転当初の顕熱蓄冷運転は、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体温度が水和物生成温度(12°C)未満の所定温度(9°C)になるまで継続される。従って、蓄熱タンク(52)内の蓄熱媒体のほぼ全てを水和物生成温度(12°C)未満の過冷却状態にできるので、蓄熱タンク(52)内には水和物スラリーが小さくても確実に存在する。よって、その後の加熱運転による温度衝撃時には、蓄熱タンク(52)内では、その存在した水和物スラリーを核として水和物スラリーを大きく成長させることができるので、その後に蓄熱タンク(52)に流入する蓄熱媒体の過冷却状態を確実に解消できる。
【0083】
更に、本実施形態では、加熱運転時には、蓄熱用膨張弁(30)の開度を大開度側に変更するだけで、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体温度を水和物生成温度(12°C)未満の温度(9°C)から水和物生成温度を超える温度(18°C)にまで急上昇させることができるので、この加熱運転時に蓄熱媒体に加える加熱量を適切にできる。
【0084】
加えて、蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)の出口の蓄熱媒体温度が高温度(18°C)にまで急上昇した時点で、蓄熱用膨張弁(30)の開度を大開度値から絞って、その蓄熱媒体温度を過冷却状態の温度(9°C)付近に戻したので、蓄熱用膨張弁(30)の開度を顕熱蓄冷運転時の所定開度を大きく超える開度に設定している加熱運転の継続時間を、既述の通り0.5〜1.0分の短時間に制限できる。従って、加熱運転が蓄熱タンク(52)への蓄熱効率に与える影響を小さくでき、蓄熱タンク(52)には目標量の冷熱をほぼ所望時間で蓄えることが可能である。
【0085】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、加熱運転時に、蓄熱用膨張弁(30)の開度を大開度側に変更して、蓄熱用熱交換器(29)の冷媒側通路(29a)の冷媒温度を上げて蓄熱媒体を加熱し、冷媒回路(11)の冷媒サイクルを顕熱蓄冷運転時と同一(正サイクル)としたが、その冷媒サイクルを逆サイクルとして、室内熱交換器(25)で吸熱した熱量を蓄熱用熱交換器(29)の蓄熱側通路(29b)で蓄熱媒体に与えて、蓄熱媒体を加熱しても良い。この加熱運転時に冷媒回路(11)を正又は逆サイクルの何れにするかは、蓄熱タンク(52)の容量や、蓄熱タンク(52)内での上記温度衝撃時での混合や乱流、攪拌の様子などを考慮して、適切な方を選択すれば良い。
【0086】
また、上記実施形態では、蓄熱媒体として臭化テトラnブチルアンモニウム(TBAB)水溶液を使用したが、その他の蓄熱媒体を使用しても良いのは勿論である。
【0087】
更に、蓄熱回路(61)は
図1に示したように補助熱交換器(28)を備えた回路を例示したが、蓄熱回路は種々の回路を採用しても良い。