特開2015-210263(P2015-210263A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特開2015210263-カルボニル化度の評価方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-210263(P2015-210263A)
(43)【公開日】2015年11月24日
(54)【発明の名称】カルボニル化度の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20151027BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20151027BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20151027BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20151027BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20151027BHJP
【FI】
   G01N21/64 F
   G01N33/68
   G01N33/50 H
   G01N33/483 C
   G01N21/78 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-187240(P2014-187240)
(22)【出願日】2014年9月16日
(62)【分割の表示】特願2014-92208(P2014-92208)の分割
【原出願日】2014年4月28日
(71)【出願人】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 紘介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
【テーマコード(参考)】
2G043
2G045
2G054
【Fターム(参考)】
2G043BA16
2G043CA03
2G043EA01
2G043KA02
2G043LA02
2G045BA13
2G045BB02
2G045CB16
2G045DA36
2G045FA11
2G045FB12
2G045GC15
2G054AA02
2G054BB02
2G054BB10
2G054CA21
2G054CE02
2G054EA03
2G054EB01
2G054FA12
2G054GA03
2G054GA04
2G054GB02
(57)【要約】
【課題】毛髪などにおけるケラチンタンパク質がカルボニル化した程度を確認するのに適した評価方法の提供。
【解決手段】ケラチンタンパク質の溶液(I)を調製する溶液調製工程と、カルボニル基を蛍光標識可能な蛍光物質を溶液(I)に加えて、その蛍光物質をケラチンタンパク質に接触させる標識工程と、蛍光物質で標識されたケラチンタンパク質を不溶化させ、この不溶化させたものを前記溶液(I)から回収する回収工程と、回収したケラチンタンパク質の溶液(II)を調製し、当該溶液(II)におけるケラチンタンパク質を標識した蛍光物質の蛍光を測定する測定工程と、を備えるカルボニル化度の評価方法
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチンタンパク質の溶液(I)を調製する溶液調製工程と、
カルボニル基を蛍光標識可能な蛍光物質を前記溶液(I)に加えて、その蛍光物質を前記ケラチンタンパク質に接触させる標識工程と、
前記蛍光物質で標識された前記ケラチンタンパク質を不溶化させ、この不溶化させたものを前記溶液(I)から回収する回収工程と、
前記回収したケラチンタンパク質の溶液(II)を調製し、当該溶液(II)におけるケラチンタンパク質を標識した蛍光物質の蛍光を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする
カルボニル化度の評価方法。
【請求項2】
前記溶液調製工程におけるケラチンタンパク質が、毛髪由来のものである請求項1に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項3】
前記溶液調製工程が、アルカリ性の還元剤溶液においてケラチンタンパク質を溶解させる請求項1又は2に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項4】
前記標識工程における蛍光物質が、フルオレセイン−5−チオセルカルバジドである請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項5】
前記回収工程における不溶化を、前記ケラチンタンパク質の貧溶媒を前記溶液(I)に添加して行う請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項6】
前記貧溶媒が、前記蛍光物質を溶解するものである請求項5に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項7】
毛髪年齢の指標として用いる請求項1〜6のいずれか1項に記載のカルボニル化度の評価方法。
【請求項8】
毛髪ダメージの指標として用いる請求項1〜7のいずれか1項に記載のカルボニル化度の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケラチンタンパク質のカルボニル化の程度を評価するための方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚表面及びその付近では、皮脂の過酸化物が分解して生じたアクロレイン等のアルデヒドの付加や、直接的な酸化ストレス作用により、皮膚を構成するケラチンタンパク質のカルボニル化が起こる。このカルボニル化は、ケラチンタンパク質が酸化されることを意味し、毛髪などのケラチンタンパク質においても同様に生じる。
【0003】
毛髪のケラチンタンパク質がダメージを受けている程度を確認する方法として、特許文献1には、毛髪における酸化したケラチンタンパク質のカルボニル基を蛍光標識してから、蛍光を検出することが開示されている。そして、同文献では、その蛍光の検出が毛髪の実際のダメージを的確に反映した結果を示すから、毛髪ダメージの評価方法に適するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/057211号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法によりダメージ差が小さい根元などの毛髪を比較する場合、検出した蛍光輝度の差が小さくなって、ダメージ評価が困難となることがあった。毛髪ダメージの評価を端的にいえば、カルボニル化度の評価であるから、その困難性を解消するためには、毛髪のカルボニル化度の評価精度を高める必要がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、毛髪などにおけるケラチンタンパク質がカルボニル化した程度を確認するのに適した評価方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るカルボニル化度の評価方法は、ケラチンタンパク質の溶液(I)を調製する溶液調製工程と、カルボニル基を蛍光標識可能な蛍光物質を前記溶液(I)に加えて、その蛍光物質を前記ケラチンタンパク質に接触させる標識工程と、前記蛍光物質で標識された前記ケラチンタンパク質を不溶化させ、この不溶化させたものを前記溶液(I)から回収する回収工程と、前記回収したケラチンタンパク質の溶液(II)を調製し、当該溶液(II)におけるケラチンタンパク質を標識した蛍光物質の蛍光を測定する測定工程と、を備えることを特徴とする。前記溶液調製工程におけるケラチンタンパク質は、例えば毛髪由来のものである。
【0008】
前記溶液調製工程は、アルカリ性の還元剤溶液においてケラチンタンパク質を溶解させるものが良い。このケラチンタンパク質の溶解方法であれば、溶液(I)に溶解させるケラチンタンパク質の分子量を比較的高くでき、後に続く回収工程において、蛍光物質で標識されたケラチンタンパク質の回収を行い易くなる。
【0009】
前記標識工程における蛍光物質は、例えばフルオレセイン−5−チオセルカルバジドである。
【0010】
前記回収工程における不溶化は、前記ケラチンタンパク質の貧溶媒を前記溶液(I)に添加して行うものであると良い。その貧溶媒は、前記蛍光物質を溶解するものが好適である。上記の不溶化により、ケラチンタンパク質を標識しなかった過剰な蛍光物質を除去し易くなり、添加する貧溶媒が蛍光物質を溶解するものであれば、その除去効率が向上する。
【0011】
本発明に係るカルボニル化度の評価方法は、毛髪年齢の指標、毛髪のダメージ指標などとして用いられるものである。当該評価方法における測定工程での測定データが、各指標の基礎となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るカルボニル化度の評価方法によれば、溶液(I)内でケラチンタンパク質を蛍光物質で標識し、その溶液(I)でケラチンタンパク質を標識しなかった過剰な蛍光物質が回収工程で除去されるから、回収後の標識されたケラチンタンパク質を溶解させた溶液(II)を蛍光測定の対象とすることで、ケラチンタンパク質のカルボニル化度を精度良く評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例において測定した蛍光強度と各年代層との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
溶液調製工程、標識工程、回収工程、及び測定工程を備える本実施形態のカルボニル化度の評価方法に基づき、本発明を以下に説明する。
【0015】
(溶液調製工程)
溶液調製工程では、溶液(I)として、ケラチンタンパク質を溶解させたものを調製する。
【0016】
上記ケラチンタンパク質は、皮膚由来のものだけではなく、毛髪や羊毛などに由来するものでも良い。本実施形態の評価方法によれば、毛髪や羊毛由来のケラチンタンパク質も精度良く評価できる。
【0017】
溶液(I)の調製のためにケラチンタンパク質を溶解させるには、「『月刊ファインケミカル12』、株式会社シーエムシー出版、2007年11月15日発行」などに開示されている公知の方法を採用すると良い。例えば、ケラチンタンパク質の由来元となる毛髪や羊毛などを還元剤溶液に浸漬し、ケラチンタンパク質を溶解させる。この溶解を行う場合、溶解効率を向上させるために、ケラチンタンパク質の由来元となるものを細断すると良い。
【0018】
還元剤溶液における還元剤は、ケラチンタンパク質の架橋構造であるジスルフィド結合(−S−S−)をメルカプト基(−SH+HS−)に還元切断するものである。本実施形態の還元剤は、公知の還元剤から選ばれた一種又は二種以上であると良く、例えば2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、チオグリコール酸塩(例えば、チオグリコール酸ナトリウム)である。
【0019】
還元剤溶液がウレアなどのタンパク質変性剤を配合したものであれば、ケラチンタンパク質を溶解する際のランチオニンの生成を抑えるために、還元剤溶液の温度及びpHの条件をより低く設定できる。
【0020】
上記還元剤溶液は、ケラチンタンパク質のジスルフィド結合を効率良く還元切断するために、pHがアルカリ性のものが良く、pHが8.0以上のものが好ましい。また、このpHは、11.0以下が良く、10.0以下が好ましく、9.0以下がより好ましい。ケラチンタンパク質の低分子化は回収工程での不溶化に不利となるが、pHを11.0以下にすれば、その低分子化が抑えられる。
【0021】
上記還元剤溶液の温度は、例えば20℃以上40℃以下である。温度を高く設定すれば、ケラチンタンパク質の溶解時間を短縮できるが、40℃以下であれば、ケラチンタンパク質の加水分解に伴う低分子化を抑制できる。
【0022】
(標識工程)
標識工程では、上記溶液(I)に蛍光物質を加えて、当該蛍光物質をケラチンタンパク質に接触させる。
【0023】
本標識工程で使用する蛍光物質は、カルボニル化したケラチンタンパク質が有するカルボニル基を蛍光標識可能なものである。この蛍光物質として、カルボニル基と結合するヒドラジノ基(―NHNH)を備えるフルオレセイン−5−チオセミカルバジドなどの公知のものを使用すると良い。
【0024】
(回収工程)
回収工程では、上記標識工程において蛍光物質で標識されたケラチンタンパク質を、溶液(I)から回収する。
【0025】
ケラチンタンパク質の回収は、例えば、溶液(I)への溶媒の添加により上記標識されたケラチンタンパク質を不溶化させ、この不溶化したものを回収すると良い。この回収により、ケラチンタンパク質を標識していない蛍光物質を除去できる。
【0026】
溶液(I)に添加する溶媒として、ケラチンタンパク質を溶解しない貧溶媒又はケラチンタンパク質の溶解度が低い貧溶媒が使用される。貧溶媒として好適なものは、蛍光物質を溶解するものである(当該溶媒としては、蛍光物質がフルオレセイン−5−チオセルカルバジドであるときには、例えばアセトンが挙げられる。)。ケラチンタンパク質の貧溶媒であって、蛍光物質を溶解するものを使用すれば、ケラチンタンパク質を標識していない蛍光物質の除去効率が高まる。
【0027】
回収工程では、回収した上記のケラチンタンパク質を貧溶媒で洗浄しても良い。この洗浄により、ケラチンタンパク質を標識していない蛍光物質が更に除去される。また、貧溶媒が蛍光物質を溶解するものであれば、蛍光物質の十分な除去が可能となる。
【0028】
(測定工程)
測定工程では、上記回収工程で回収した蛍光物質で標識されたケラチンタンパク質を溶解した溶液(II)を調製し、この溶液(II)におけるケラチンタンパク質を標識した蛍光物質の蛍光を測定する。
【0029】
本測定工程では、過剰な蛍光物質が回収工程で除去されたものを測定対象とするから、測定値の精度が高まる。また、毛髪自体などの固体表面を主として蛍光測定するものではなく、ケラチンタンパク質の溶液(II)を測定するから、この点からも測定値の精度が高まる。
【0030】
本実施形態のカルボニル化度の評価方法は、以上の通りである。当該方法を、毛髪年齢の指標として用いても良い。この指標は、例えば次の(1)〜(3)の手順で行うものであり、(1)様々な年齢の個人の毛髪について、測定工程までの実行による測定結果を得る、(2)その結果に基づき、年齢、年代毎又は年齢層毎とカルボニル化度との関係から毛髪年齢の基準を設ける、(3)その基準を指標として、個人の毛髪年齢を定めるものである。なお、対象となる毛髪は、無作為であっても良いが、酸化染毛処理などの毛髪処理や紫外線などの外的要因の影響が少ない根元又はその近傍であれば、毛髪年齢の指標を定めやすい。
【0031】
また、本実施形態の評価方法を、毛髪ダメージの指標、又は、毛髪ダメージ及び毛髪年齢の複合指標として用いても良い。毛髪ダメージの指標は、例えば次の(1)〜(3)の手順で行うものであり、(1)複数人の個人の毛髪について、測定工程までの実行による測定結果を得る、(2)その結果に基づいたカルボニル化度の分布から、毛髪ダメージの基準を設ける、(3)その基準を指標として、個人の毛髪ダメージを定めるものである。毛髪ダメージの指標を、年齢、年代毎、年齢層毎に定めれば、毛髪ダメージ及び毛髪年齢の複合指標となる。
【0032】
また、本実施形態の評価方法を、毛髪のカルボニル化の抑制のために有効となる成分のスクリーニングに使用することが考えられる。このスクリーニングは、例えば次の(1)〜(3)の手順で行うものであり、(1)測定工程までの実行による測定結果を得る、(2)有効成分となるかの確認を行う被験物質を含むもの(単一成分の溶液、複数成分を含む組成物やエキスなど)を、上記(1)で使用した毛髪の採取位置付近(例えば、根元付近)に一回又は複数回塗布し、一定期間経過後に再び測定工程までの実行による測定結果を得る、(3)上記(1)の結果と上記(2)の結果を比較し、上記(2)の結果の方が、カルボニル化度の程度が小さいと判断されるときには、被験物質を有効成分と判断するものである。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0034】
(カルボニル化度の評価)
パーマ処理履歴の有無、酸化染毛処理履歴の有無などとは無関係に、17名の10代女性、14名の20代女性、15名の30代女性、11名の40代女性、10名の50代女性から毛髪を採取した。そして、以下の溶液調製工程、標識工程、回収工程、及び測定工程により、毛髪由来のケラチンタンパク質のカルボニル化度の評価を行った。
【0035】
溶液調製工程
細断した毛髪0.2gを、2−メルカプトエタノールが50mM、ウレアが8M、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩が50mMであるpH8.5の水溶液10mlに、50℃、2日間の条件で浸漬した。その上澄み液を取り出し、市販の総タンパク質定量キットを使用して、ケラチンタンパク質が10μg/500μlの溶液(I)を調製した。
【0036】
標識工程
200μMのフルオレセイン−5−チオセミカルバジドを、溶液(I)に対して等容量加えた。この後、溶液(I)を暗所内にて室温で1時間振盪させた。
【0037】
回収工程
標識工程を経た溶液(I)に9倍容量のアセトンを加えた後に、激しく撹拌してから暗所内で1時間放置した。次に、遠心を行って不溶化したケラチンタンパク質を沈殿させてから、液相部を除去した。そして、ケラチンタンパク質を含む固体部にアセトンを加え、上記同様、撹拌、遠心、液相部の除去を行ってから、ケラチンタンパク質を回収した。
【0038】
測定工程
回収工程で回収したケラチンタンパク質に、300μlの50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩(pH8.5)を加えて溶液(II)を調製した。この溶液(II)の蛍光測定を、コロナ電気社製「マイクロプレートリーダSH−9000」を使用して行った。このときの測定条件は、励起波長:485〜492nm、測定蛍光波長:518nm、ホトマル電圧:High設定、半値幅:12nm、測定感度:X1とした。
【0039】
測定工程での測定した蛍光強度を、下記表1に示す。また、図1は、表1に基づいたグラフである。
【表1】
図1