【実施例】
【0017】
(第1実施例)
第1実施例の断面構造を示す
図1において、参照番号は下記を示している。
2:基板、4:iーGaN層(p−GaN層でもよい)、6:n−GaN層(電子走行層となる)、8:絶縁膜、10:層間絶縁膜、12:ドレイン電極、14:ゲート絶縁膜、16:ゲート電極、18:リセス、20:ソース電極、22:負固定電荷導入領域(実施例では、Fを導入する。Fに代えて、Cl,C,Mg,ZnまたはFeを導入してもよい)。負固定電荷導入領域22は、n−GaN層6よりも深く形成されており、ソース電極20とドレイン電極12の間において、n−GaN層6を左右に分断している。
【0018】
図1のトランジスタのゲート電極16に正電圧を加えない状態では、負固定電荷導入領域22によって左右に分断されたn−GaN層6の間を電子が移動せず、ソース電極20とドレイン電極12の間の抵抗が高い。ゲート電極16に正の閾値電圧を加えると、ゲート絶縁膜14を介してゲート電極16に対向する範囲の負固定電荷導入領域22にチャネルが形成され、ソース電極20とドレイン電極12の間の抵抗が低下する。
【0019】
図1の構造では、負固定電荷導入領域22の形成範囲と、ゲート電極16の下面16aが広がっている範囲Aが一致している。リセスの底面は範囲Bに広がっており、範囲A<範囲Bである。ゲート絶縁膜14は、リセス18の側面を覆う部分(ゲート絶縁膜側面部14a)とリセス18の底面を覆う部分(ゲート絶縁膜底面部14b)を備えており、ゲート電極16は、ゲート絶縁膜側面部14aとゲート絶縁膜底面部14bに接している。ゲート電極16の下面16aが伸びている範囲は、ゲート絶縁膜底面部14bとゲート電極16が接する範囲ということができる。負固定電荷導入領域22の形成範囲は、リセス18の底面の一部であって、ゲート絶縁膜底面部14bとゲート電極16が接する範囲A内に留まっている。
【0020】
そのために、負固定電荷導入領域22内にあって、ゲート電極16に加える電圧によってチャネルを形成する必要がある範囲からゲート電極16までの最短距離は、位置によらないで、ゲート絶縁膜底面部14bの厚みに等しい。設計上の閾値電圧をゲート電極16に印加したときに、ゲート絶縁膜底面部14bの厚みだけ離れた位置にある負固定電荷導入領域22にチャネルが形成される関係に設計しておけば、設計したように動作する。閾値電圧やオン抵抗が意図せずに上昇することがない。また、閾値電圧が揃った電界効果型トランジスタを歩留まりよく量産することができる。
本実施例では、負固定電荷導入領域22の形成範囲=ゲート電極16の下面16aの形成範囲Aの関係にあるが、負固定電荷導入領域22の形成範囲<範囲Aの関係にあってもよい。
【0021】
(第2実施例)
以下ではその他の実施例を説明する。以下では、同一または類似の部分には同一参照番号を付し、重複説明を省略する。
図2に示す第2実施例のトランジスタでは、第1実施例が用いるn−GaN層6に代えて、AlGaN層6aを用いる。層6aを形成するAlGaNのバンドギャップは、層4を形成するGaNのバンドギャップよりも大きく、AlGaN層6aとGaN層4の間にヘテロ接合界面が形成され、GaN層4内のヘテロ接合界面に沿った範囲に二次元電子ガスが生成する。AlGaN層6aは電子供給層となり、GaN層4は電子走行層となる。
本実施例でも、ゲート絶縁膜底面部14bを介してゲート電極16に対向している範囲の窒化物半導体(本実施例ではAlGaN層6a)の一部に、負の固定電荷が導入されている。負固定電荷導入領域22aの範囲=ゲート絶縁膜底面部14bとゲート電極16が接する範囲=ゲート電極16の下面16aの形成範囲A<リセス18の底面の形成範囲Bの関係におかれている。リセスのコーナー部の近傍にまでチャネルを形成する必要がなく、閾値電圧とオン抵抗が設計上の値から意図せずに上昇することがなく、量産時に閾値電圧がばらつくことを抑制できる。
【0022】
本実施例でも、負固定電荷導入領域22aの範囲が、ゲート絶縁膜底面部14bとゲート電極16が接する範囲の一部に包含される関係としてもよい。本実施例では、負固定電荷導入領域22aがAlGaN層6a層よりも薄い関係となっているが、負固定電荷導入領域22aがAlGaN層6a層よりも厚く、GaN層4内に侵入していてよい。
【0023】
(第3実施例)
図3に示す第3実施例では、リセス18aが深く形成されており、電子供給層6aを貫通して電子走行層4に達している。本実施例でも、負固定電荷導入領域22の範囲=ゲート絶縁膜底面部14bとゲート電極16が接する範囲=ゲート電極16の下面16aの形成範囲A<リセス18の底面の形成範囲Bの関係におかれている。閾値電圧とオン抵抗が設計上の値から意図せずに上昇することがなく、量産時に閾値電圧がばらつくことを抑制できる。
リセスの底面は、
図2の参照番号18に示すように電子供給層6aの上面に一致していてもよいし、
図19の参照番号18cに示すように電子供給層6aの中間深さにあってもよいし、
図3の参照番号18aに示すように電子供給層6aを貫通して電子走行層4に達していてもよい。
【0024】
(第1製造方法)
図4〜10を参照して、第3実施例のトランジスタの製造方法を説明する。
図4:基板2の上面上に、GaN層4、AlGaN層6a、絶縁層8の順で積層する。
図5:絶縁層8の上面上にレジスト層24を形成する。リセス18aの形成位置に開口24aを設ける。後記する
図8の工程でリセスを広げるので、この段階では、リセス18aの幅よりも狭い開口24aを設ける。
図6:レジスト層24を保護膜とし、開口24aから異方性エッチングする。ここでは、絶縁層8とAlGaN層6aを貫通してGaN層4に達するまでエッチングを継続する。
図7:窒化物半導体に侵入して負の固定電荷となる元素を含むプラズマに暴露する。負の固定電荷となる元素には、F,Cl,C,Mg,Zn,Feが適している。
図7における24bは負の固定電荷が導入されたレジスト層24の範囲を示し、8bは負の固定電荷が導入された絶縁層8の範囲を示し、6bは負の固定電荷が導入されたAlGaN層6aの範囲を示し、4bは負の固定電荷が導入されたGaN層4の側面を示し、4cは負の固定電荷が導入されたGaN層4の上面を示している。プラズマに暴露するのに代えて、負固定電荷注入法を用いてもよい。
図8:洗浄してレジスト層24を除去する。次に、絶縁層8と窒化物半導体6a,4をアルカリ系溶液を用いてエッチングする。アルカリ系溶液には、NaOH,KOH,TMAH,NH
4OH等を用いることができる。アルカリ系溶液を用いて窒化物半導体6a,4をエッチングすると、図の水平方向へのエッチング速度が高速となり、図の下方へのエッチング速度が低速となる。この結果、前記した8b,6b,4bに示した領域がエッチングされ、リセスの幅が広げられる。
図8では、領域8b,6b,4bが除去された後もエッチングを継続してリセスの幅をさらに広げる。リセスの幅が
図3に示したリセス18aの幅にまで広げられた時点でも、負の固定電荷が導入されたGaN層4の上面(リセスの底面)の領域4cは残存する。
図6におけるリセスの幅をaとする。領域4bの厚みをbとする。
図8では、リセスの幅=a+2b+2cとなるまでエッチングを継続する。ここで厚みbは、エッチング後も領域4cが残存する厚みとなる値に設定する。前記cは、
図9で設けるゲート絶縁膜14の厚み以上とする。そうして設定したb、cの値に対して、a+2b+2c=リセス18aの幅となるaの値を求め、
図6の段階では幅aのリセスを形成する。
図8のエッチングをすると、領域4cより上部では、水平方向に高速エッチングされ、リセスの幅=a+2b+2c=リセス18aの幅となる。その段階でエッチングを終了する。エッチングの終了後も領域4cは残存する。エッチングを終了した段階では、幅がa+2b+2cに等しいリセス18aの底面の幅方向の中央位置に、幅がa+2bに等しい領域4cが残存する。これが
図3に示した負固定電荷導入領域22となる。負固定電荷導入領域22は、リセス18aの全幅(a+2b+2c)には広がっておらず、リセス18aのコーナー部から距離cだけ離れている。前記したように、距離cは、
図9で形成するゲート絶縁膜14の膜厚よりも大きい。この結果、負固定電荷導入領域22の範囲が、ゲート電極16の下面16aが広がっている範囲Aに含まれる関係を得ることができる。
図9:エッチングして幅を広げたリセス18aの底面と側面と、絶縁膜8の上面に、ゲート絶縁膜14を形成する。その後にゲート電極16を堆積し、ゲート電極16でリセス18aを充填する。その後に、リセス外に形成されたゲート電極の形状をパターニングしてゲート電極16を形成する。
ゲート電極16の下面16aの幅は、a+2b+2c−2dとなる。ここでdはゲート絶縁膜14の膜厚であり、cよりも薄い。したがって、ゲート電極16の下面16aの幅(=a+2b+2c−2d)>負固定電荷導入領域22の幅(=a+2b)の関係が得られる。上記の製造方法によって、ゲート電極16の下面16aの形成範囲A内に留まっている負固定電荷導入領域22を形成することができる。
図10:層間絶縁膜10を形成する。層間絶縁膜10のソース電極形成部位には開口10bを形成し、ドレイン電極形成部位には開口10aを形成する。開口10bにソース電極20を形成し、開口10aにドレンイン電極12を形成すると、
図3の構造が完成する。
【0025】
(第2製造方法)
図11から
図16を参照して第2の製造方法を説明する。
図11:
図4に等しい。
図12:
図5にほぼ等しい。この段階では、リセス18の幅に等しい開口24cを形成する。
図13:開口24cからGaN層4に達する深いリセス18aを形成する。
図14:レジスト層24を除去し、新たなレジスト層25を形成する。レジスト層25には開口25aを設ける。開口25aの底部に深いリセス18aの底面の一部が露出する。深いリセス18aの側面は、側面に沿って延びるレジスト膜25bで覆われる。深いリセス18aの側面を覆うレジスト膜25bの膜厚は、後記の工程で形成するゲート絶縁膜14の膜厚よりも厚くする。
図15:窒化物半導体に侵入して負の固定電荷となる元素を含むプラズマに暴露する。負の固定電荷となる元素には、F,Cl,C,Mg,Zn,Feが適している。プラズマに暴露するのに代えて、負固定電荷注入法を用いてもよい。リセス18aの側面はレジスト25b層で覆われている。レジスト層25の開口25aにおいて露出しているリセスの底面の一部に、負の固定電荷が導入される。
図16:洗浄してレジスト層25を除去する。この状態は
図8に等しい。この方法では、レジスト膜25bの膜厚>ゲート絶縁膜14の膜厚とするので、
図16の段階で、ゲート電極16の下面16aの幅A>負固定電荷導入領域22の幅の関係を得ることができる。この方法によっても、負固定電荷導入領域22の範囲<ゲート電極16がゲート絶縁膜底面部14bに接する範囲(ゲート電極16の下面16aの形成範囲)の関係を得ることができる。
図16の状態が得られれば、それ以降は
図9、
図10に示す工程を実施することで、第3実施例のトランジスタが得られる。
【0026】
図17の(A)は
図3に示した第3実施例のトランジスタであり、(B)は比較例である。比較例では、負固定電荷導入領域22がゲート電極16の下面16aの範囲を超え、リセス18aの底面の全域に広がっている。
図18は、ゲート電極16に同じ電圧を加えたときのオン抵抗を示している。第3実施例によると、オン抵抗が低く抑えられることがわかる。
【0027】
上記の実施例では、ゲート絶縁膜を介してゲート電極に対向する窒化物半導体に負の固定電荷を導入して閾値電圧をプラス側に引き上げる。それに代わってゲート絶縁膜に負の固定電荷を導入することで、閾値電圧をプラス側に引き上げることができる。この場合も負の固定電荷を導入する範囲をゲート電極の下面に対向する範囲内に留めることによって、意図した以上に閾値電圧が上昇することを防止できる。
【0028】
図19の構造をとり、リセスのコーナー部に対向する位置の電子走行層にチャネルが形成される現象を指標にして閾値電圧を調整することができる。そうして閾値電圧を設計した場合、範囲Aの電子走行層にチャネルが形成されるときのゲート電圧はそれよりも低下する。そのためにリセスのコーナー部に対向する位置の電子走行層にチャネルが形成される電圧をゲート電極に加えると、範囲Aの電子走行層が低抵抗となってしまうことがある。リセスのコーナー部での現象を指標にして閾値電圧を調整すると、コーナー部に対向する微小範囲の電子走行層が高抵抗であることを利用してオフ状態を実現することになり、範囲Aでは低抵抗となっていることがある。
図19の構造をとり、コーナー部での現象を指標にして閾値電圧を設定すると、オフ状態であるにもかかわらずに範囲Aでは低抵抗となってリーク電流が流れるといった問題が生じる。
それに対して、上記した実施例では、例えば
図1の範囲Aの電子走行層を高抵抗にすることでオフ状態とする。範囲Aの長さは調整可能である。オフ状態を実現する高抵抗範囲の長さを自由に必要な距離に調整することができる。
【0029】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。