【課題】液晶ディスプレイの高精細化や明るい所での使用に対して、バックライトが高輝度化している。そのため、光リーク電流抑制のため遮光層を導入すると、トランジスタの特性変動を引き起こし、表示に異常をきたすことがある。
【解決手段】フローティングの遮光層を有するデュアルゲート薄膜トランジスタにおいて、遮光層と能動層の最外の1箇所のドレイン領域との対向面積をSd、遮光層とゲート電極との対向面積をSgとしたときに、絶縁層の膜厚は200nm以上かつ500nm以下、Sg/Sdが4.7以上となるようにレイアウトする。
【発明を実施するための形態】
【0030】
上記課題を解決する本発明の薄膜トランジスタの基本構成は、ガラス基板上に高融点金属等からなる遮光層、酸化シリコン(SiO)及び窒化シリコン(SiN)からなる下地絶縁層、トランジスタの能動層となるポリシリコン(Poly−Si)層、酸化シリコン又は窒化シリコンからなるゲート絶縁膜、ゲート電極、これらが順に積層されている。更に、これらの上層には層間絶縁膜、ドレイン配線等が形成される。ポリシリコン層は島状にパターニングされており、ポリシリコン層の中央においてゲート電極と交差する部分がチャネル領域であり、ポリシリコン層の両端において高濃度に不純物を含む部分がソース・ドレイン領域であり、チャネル領域とソース・ドレイン領域との間の部分が低濃度に不純物を含むLDD領域である。ソース・ドレイン領域は、コンタクトホールを介して上層のドレイン配線とオーミック接続される。遮光層は、ポリシリコン層のアイランドパターンの下に位置し、少なくともチャネル領域及びLDD領域を覆い、かつそれらの外周への所定の張り出し量を持った形状に加工されている。また、遮光層は、他の導電層との導通をとらないフローティング状態である。
【0031】
また、液晶ディスプレイのような表示装置において画素の駆動に用いる場合には、このような構造の薄膜トランジスタを直列に複数個接続した、いわゆるマルチゲートトランジスタ(2個直列の場合はデュアルゲートトランジスタ)とすることが有用である。
【0032】
このような薄膜トランジスタに用いられる遮光層は、プロセス適合性から選択された高融点金属、それらの合金、又はそれらの金属間化合物からなる薄膜である。その薄膜の膜厚は、例えば、スパッタにより成膜されたクロム(Cr)膜であれば少なくとも70nm、好ましくは100nm以上であり、より好ましくは140nm以上であり、他の材料でもほぼ同程度となる。なお、この膜厚は、適用するデバイスの動作条件に合わせて選択すればよく、より高輝度で使用する場合には十分に大きな値を選択することが好ましい。
【0033】
遮光層は、能動層のチャネル領域及びLDD領域の外周線から少なくとも1.5μm、好ましくは2.0μm張り出した状態となるように寸法設定する。これにより、遮光層端から内側に回り込む光によるリーク電流の影響を抑制できる。
【0034】
下地絶縁層の合計膜厚は、少なくとも200nm以上かつ500nm以下、好ましくは300nm以上かつ400nm以下に設定する。下限は主にプロセス適合性によって決まり、安定したプロセスの遂行には300nm以上が好ましい。上限は主に実行面での制約と遮光特性とによって決まり、プロセス時間や設備負荷などの面で500nmまでが実行上の上限であり、良好な遮光性能のためには400nm以下が好ましい。これらの遮光層及び下地絶縁層によって、能動層の光キャリア発生領域であるチャネル領域及びLDD領域に対する、バックライトからの直射光を抑制できる。
【0035】
遮光層とゲート電極(配線部含む)との重なり面積は、遮光層とドレイン領域との重なり面積を含む関係式によって決定する。本発明では、トランジスタのしきい値電圧が、ドレイン電圧によって変化する割合をもって特性変動の指標とする。PMOS(P-channel Metal Oxide Semiconductor)トランジスタの場合、ドレイン電圧を−2Vから−18Vまでの16Vの範囲で変化させたときのしきい値電圧の変動幅dVthを、特性変動の指標とする。しきい値電圧は、チャネル長(L)が4μmかつチャネル幅(W)が4μmのトランジスタを基準とし、L:W=1:1に規格化した場合のドレイン電流Idが1×10
-7Aのときのゲート電圧Vgで表すことにする。
【0036】
デュアルゲートトランジスタの場合の関係式は次の[数式1]である。
[数式1]
dVth=α・ln(Sg/Sd)+β
α=−0.108/tul+0.00929
β=0.351/tul+0.277
dVth:Vd=−2V〜−18Vでのしきい値Vth変動幅(V)
Sg:遮光層とゲート層の対向面積(μm
2)
Sd:遮光層とドレイン領域の対向面積(μm
2)
tul:下地絶縁層厚さ(μm)
【0037】
シングルゲートトランジスタの場合の関係式は次の[数式2]である。
[数式2]
dVth=α・ln(Sg/Sd)+β
α=−0.153/tul+0.103
β=0.659/tul−0.107
dVth:Vd=−2V〜−18Vでのしきい値Vth変動幅(V)
Sg:遮光層とゲート層の対向面積(μm
2)
Sd:遮光層とドレイン領域の対向面積(μm
2)
tul:下地絶縁層厚さ(μm)
【0038】
上記において、Sgには、薄膜トランジスタのチャネル領域に重なるゲート層(ゲート線を含んだゲート電極)と遮光層とが対向する部分の面積は、含まれない。言い換えると、下地絶縁膜及びゲート絶縁膜のみを介してゲート層(ゲート線を含んだゲート電極)と遮光層とが対向する部分の面積である。
【0039】
デュアルゲートトランジスタを液晶ディスプレイの画素に用いる場合には、上記[数式1]に基づいて、下地絶縁層が400nmのときはSg/Sd比が4.7以上、下地絶縁層が300nmのときはSg/Sd比が7.3以上となるようにレイアウトを設定することが好ましい。このようなレイアウトを採ることにより、特性変動がdVth≦0.75Vとなり、製造時の変動及び長期使用時の特性変化などを考慮しても、トランジスタ特性が動作マージン内に収まるので、安定動作及び優れた表示品位を確保できる。
【0040】
シングルゲートトランジスタの場合は、上記[数式2]に基づいて、下地絶縁層が400nmのときはSg/Sd比が17以上、下地絶縁層が300nmのときはSg/Sdが比27以上となるようにレイアウトを設定することが好ましい。このようなレイアウトを採ることにより、特性変動がdVth≦0.75Vとなり、製造時の変動及び長期使用時の特性変化などを考慮しても、トランジスタ特性が動作マージン内に収まるので、安定動作を確保できる。
【0041】
遮光層は、画素トランジスタに用いる場合は隣接する画素間で分離しておき、また、それ以外のトランジスタに用いる場合は別の機能をもつ隣接したトランジスタとの間で分離しておく。これにより、隣接する画素の動作状態又は隣接するトランジスタの動作状態が、遮光層を介して自身のトランジスタ特性に影響しなくなる。
【0042】
マルチゲートトランジスタの場合、レイアウト上可能であれば、個々のトランジスタで遮光層を分割しておくことが好ましい。マルチゲートトランジスタでは、ソース・ドレイン間電圧が個々のトランジスタで分圧されているので、個々のトランジスタで遮光層を分割しておくことにより、ドレイン電圧に起因する遮光層の電位変動も、分圧された分の影響に限られ、特性変動がより抑制される。
【0043】
更に、画素トランジスタをマルチゲートトランジスタで構成し、遮光層を分割した場合には、最も画素に近い側のトランジスタのSg/Sd比が大きくなるようにレイアウトを設計する。これを静電容量の比で表すと、遮光層とドレイン領域との間の静電容量をCd、遮光層とゲート線との間の静電容量をCgとしたとき、最も画素に近い側のトランジスタのCg/Cdが大きくなるようなレイアウト、と言い換えることが可能である。これにより、画素に最も近い側のトランジスタの特性変動がより抑制され安定する。
【0044】
本発明の第1の効果は、高輝度バックライトを使用した表示装置においても、コントラスト低下、クロストーク、フリッカなどの軽減された、高品位の表示を実現できることである。
【0045】
その理由は、高輝度バックライトの直射による薄膜トランジスタの光リーク電流を効果的に防ぐことができるので、画素の保持期間における電圧変化が軽減されるからである。また、遮光層付きのトランジスタであっても、動作条件による特性変動が遮光層無しのトランジスタと実質的に同等に抑えられているため、書き込み動作やリーク電流が適正となるからである。また、隣接画素から遮光層を通して薄膜トランジスタが影響を受けることがないからである。
【0046】
本発明の第2の効果は、コスト上昇を最小限に抑えて表示品位の低下防止を実現できることである。
【0047】
その理由は、高輝度バックライト対応に必須の遮光層をフローティング構造とすることにより、遮光層を薄膜トランジスタに形成するだけでよく、遮光層の電位を制御するための接続構造を形成する工程が不要となるからである。また、遮光層の段差によるプロセス影響について考慮された条件を選択しているため、歩留り低下などにつながる欠陥の発生が抑制されているからである。
【0048】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下「実施形態」という。)について説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については同一の符号を用いる。図面に描かれた形状は、当業者が理解しやすいように描かれているため、実際の寸法及び比率とは必ずしも一致していない。
【0049】
<実施形態1>
本実施形態1では、フローティング遮光層が存在することに起因する薄膜トランジスタの特性変動、すなわち、ドレイン電圧に依存してしきい値電圧が変化する現象を抑制するために、遮光層の幾何学的なレイアウトを規定する。具体的には、遮光層と能動層との距離を決める下地絶縁層の膜厚を、200nm以上かつ500nm以下の範囲、好ましくは300nm以上かつ400nm以下の範囲とする。その上で、能動層のドレイン領域と遮光層との対向面積をSd、ゲート電極と遮光層との対向面積をSgとしたとき、これらの比Sg/SdをG/D比と称する指標とし、これを4.7以上とすることが好ましく、更に好ましくは7.3以上とするものである。以下、薄膜トランジスタの特性変動に触れたあと、本実施形態1の理解に必要な薄膜トランジスタの構造及び簡単な製造プロセスを説明しながら、これらの範囲が好ましい理由について説明する。
【0050】
はじめに、遮光層が存在する場合に、ドレイン電圧(Vd)に依存して、トランジスタ特性が変動する計測例を説明する。測定に用いたテストトランジスタは、
図1[A]に示すような平面形状であり、膜厚30nmのポリシリコンの能動層5の上に膜厚120nmの酸化シリコン(SiO)のゲート絶縁膜(
図6の符号24参照)を介してゲート電極4が設けられた、両側LDD構造のPMOS−TFTである。チャネル領域1は長さ(L)が4μmかつ幅(W)が4μmであり、LDD領域2は長さが1.0μmである。能動層5の両端はそれぞれソース・ドレイン領域3となっている。実際には、層間絶縁膜や配線層も存在するが、ここではトランジスタの主要部のほかの説明は省略する。
【0051】
図1[B]は、ドレイン電圧Vdを−2V〜−18Vに変化させた場合のドレイン電流Id−ゲート電圧Vg特性である。Id=1×10
-7Aのときのゲート電圧で定義したしきい値(Vth)は、Vd=−10Vのときに約−3.0Vであり、Vd変化に伴うVthの変動幅(dVthと定義し、後の説明に用いる)は、約0.3Vとごくわずかである。
【0052】
図1[A]に示すトランジスタと同じ構造及び寸法のトランジスタに対して、
図2[A]に示すように能動層5の下に、下地絶縁層(
図8符号22参照)として酸化シリコン(SiO)及び窒化シリコン(SiN)の積層膜400nmを介して、能動層5の全面と対向するような形状でフローティング状態の遮光層6を配置した。
図2[A]に示す薄膜トランジスタの測定結果を
図2[B]に示す。
【0053】
遮光層6付きの薄膜トランジスタは、遮光層6無しの薄膜トランジスタに比べて、Vd=−10Vのときのしきい値(Vth)が約−2Vすなわちプラス側に約1Vシフトしているのに加え、Vdを−2V〜−18Vに変化させたときのしきい値の変動幅(dVth)が約2.3Vすなわち約7倍に増加している。
【0054】
この結果は、特に何の工夫もなく、能動層5への光入射を防ぐように、遮光層6を配置した状態によるものである。そしてこの結果は、ドレイン電圧によっては、本来オフ領域である(
図1[B]参照)プラス側のVg=+2Vでも、大きなリーク電流(
図2[B]参照)が流れることを示している。このリーク電流は、光リーク電流ではなく、トランジスタの特性変動に起因する電流である。
【0055】
高輝度バックライト下においては、まずは直射による光リーク電流を遮光層によって抑制することが第一である。その上で、ドレイン電圧に影響された電位を遮光層が持つことによってトランジスタ特性が変化する現象を、抑えることが望まれる。すなわち、Vd依存の特性変動を抑えることができれば、オフ領域のリーク電流低減のみならず、動作状態を全般的に安定させ、液晶ディスプレイに応用した場合にも、画素トランジスタはもちろんのこと、回路を構成するトランジスタとしても利用できる可能性が生まれる。
【0056】
ここで本実施形態1の表示装置について説明する。
図3は、アクティブマトリクス型の液晶パネル67を使った表示装置60の構成を説明する断面図である。表示装置60は、さまざまな電子機器に組み込まれ、電子機器から受け取った画像信号に従って画像を表示する。装置全体を支えるフレームを兼ねたバックライトユニット63は、光源となるLED、導光板、拡散板(各部は図示なし)などが組み込まれ、液晶パネル67の表示領域(図示なし)に対して均一な光を発生させる。このバックライトユニット63の上に液晶パネル67が固定されている。
【0057】
液晶パネル67は、表示を制御するための配線、薄膜トランジスタ等が作り込まれたTFTアレイ基板61とカラー表示をするためのカラーフィルタ基板62との間に液晶(
図5の符号13参照)が封入されており、その両面には偏光板64が貼り付けられている。TFTアレイ基板61の表示領域には薄膜トランジスタにつながった画素電極が縦横に配置されており、薄膜トランジスタが制御する電圧により液晶分子が動いて表示を行う。画素を駆動する薄膜トランジスタに対しては、同じプロセスで作り込まれたゲートドライバ回路がオン/オフの信号を与える。
【0058】
表示される画像信号は、TFTアレイ基板61の外周部に実装されたドライバIC65から与えられる。また、表示装置60が組み込まれた電子機器からの画像信号は、TFTアレイ基板61に接続されたFPC(Flexible Printed Circuits:フレキシブルプリント基板)66を通して表示装置60に伝送される。ドライバIC65及びFPC66は、ともにACF(Anisotropic Conductive Film:異方性導電フィルム)により機械的に固定されるとともに、多数の端子がTFTアレイ基板61上の端子と電気的に接続されている。
【0059】
また、特に高輝度のバックライトを使用する例として、本実施形態1の別の表示装置について説明する。
図4は、アクティブマトリクス型の液晶パネル77を使ったヘッドアップディスプレイ70という表示装置を説明するための概念図である。液晶パネル77の表示画像は平面鏡75、凹面鏡76、コンバイナー74で反射されて、観察者72には虚像73がコンバイナー74の向こう側にあるように見える。コンバイナー74は透明であるため、観察者72は前方の情景と液晶パネル77の表示画像とを同時に見ることが可能になる。具体的な用途としては、航空機や車両の運転席から、前方の情景に重ねて運転に関係する情報の表示を見る、といったことがあげられる。コンバイナー74は航空機や車両のフロントガラスがその用途を兼ねる場合もある。
【0060】
用途が航空機や車両ということで、屋外でかつ日照下でも使われること、コンバイナー74は透明である(相対的に反射光が少ない)ことなど、良好な表示視認性を得るためにはバックライトユニット71は強力な光源でなければならない。更に、反射光学系に凹面鏡76があり、これは液晶パネル77の表示を拡大する作用がある。よって、視認されるサイズよりも小さな液晶パネル77に必要な光量を通過させる必要がある。
【0061】
図3に示す表示装置60のような直視型の場合のバックライトユニット63は、明るくてもせいぜい10000〜20000cd/m
2程度の輝度である。これに対し、
図4に示すヘッドアップディスプレイ70のバックライトユニット71は、最低でも100万cd/m
2程度の輝度を持っている。この光照射にさらされる液晶パネル77に用いる薄膜トランジスタには、後述のように遮光層が必須となる。
【0062】
次に、アクティブマトリクス型の液晶パネル67(
図3)の基本構造を説明する。
図5は、液晶パネル67の断面を拡大した概念図である。
図5におけるTFTアレイ基板11及びカラーフィルタ基板12は、
図3におけるTFTアレイ基板61及びカラーフィルタ基板62に相当する。
【0063】
液晶パネル67は、TFTアレイ基板11とカラーフィルタ基板12との間に液晶13を充填及び封止した構造である。TFTアレイ基板11には画素トランジスタ14及び画素電極15が縦横にマトリクス状に配置され、画素電極15に印加された電圧により発生する電界で液晶13の分子を駆動している。画素トランジスタ14のゲート電極25は前述のゲートドライバ回路の出力線に接続され、ドレイン配線27はドライバIC65(
図3)の出力端子に接続されている。
【0064】
カラーフィルタ基板12には、画素電極15に対向する位置に、光の3原色(R,G,B)に対応するカラーフィルタ16が形成されている。液晶パネル67の両面には偏光板64(
図3)が張り付けられ、液晶13の分子を駆動することにより、画素ごとの透過率を制御できる。TFTアレイ基板11の下方に置いたバックライトユニット63(
図3)の光をそれぞれの画素が制御し、カラーフィルタ16が通過する波長を制限することでフルカラー画像を表示する。
【0065】
次に、本実施形態1を説明するために必要な画素トランジスタの基本構造を説明する。
【0066】
図6は、TFTアレイ基板の画素トランジスタ部分を更に拡大した断面を示す概念図である。積層構造を説明するために、ここではゲートが一つであるシングルゲート構造を図示する。ガラス基板20の上に下地絶縁層22が形成され、その上に画素トランジスタ14が設けられている。画素トランジスタ14は下層からポリシリコンの能動層23、ゲート絶縁膜24、ゲート電極25、第1層間膜26、ドレイン配線27、第2層間膜28、画素電極29が積層されている。能動層23は、ゲート電極25の下のチャネル領域23a、ドレイン配線27と接続するためのソース・ドレイン領域23c、チャネル領域23aとソース・ドレイン領域23cとの中間にあるLDD領域23bに分かれる。
【0067】
ドレイン配線27は、ゲート絶縁膜24及び第1層間膜26に開口した第1コンタクト31で、ソース・ドレイン領域23cと接続されている。画素電極29は、第2層間膜28に開口した第2コンタクト32でドレイン配線27と接続され、ドレイン配線27を介してソース・ドレイン領域23cまで接続されている。バックライトユニット63(
図3)が発する光は、第1層間膜26等の透明な絶縁膜と画素電極29とからなる透過領域35を通過して表示に寄与するだけでなく、画素トランジスタ14の裏面(ガラス基板20側)にも照射されることにより能動層23の裏面にも入射する。
【0068】
図7は、TFTアレイ基板の画素トランジスタ部分を拡大した平面図である。
図6の断面と同じ部分は同じ番号で表示する。ここでは、画素トランジスタは実際の画素に用いられることが多いデュアルゲート構造で図示する。
図7において、画素トランジスタ14の能動層23は、L字型に屈曲して配置され、二箇所のチャネル領域23a−1,23a−2が直列につながっている。
【0069】
ゲート電極25は、ゲート線の一部であり、チャネル領域23a−1,23a−2で能動層23と重なっている。能動層23の両端と中間部には導電層として振る舞うソース・ドレイン領域23cがあり、ソース・ドレイン領域23cとチャネル領域23a−1,23a−2との間にはそれぞれLDD領域23bが形成されている。ソース・ドレイン領域23cの一方は、第1コンタクト31−1でデータ線27−1(ドレイン配線27)と接続されている。ソース・ドレイン領域23cの他方は、第1コンタクト31−2でドレイン層27−2と接続され、ドレイン層27−2を介して第2コンタクト32で画素電極29と接続されている。
【0070】
画素トランジスタ14の基本的な動作について説明する。ゲート線(ゲート電極25)が選択されたとき、選択されたゲート線に画素トランジスタ14をオンする電圧が印加される。
図7のゲート電極25がオン電圧になると、二箇所のチャネル領域23a−1,23a−2が導通状態となり、データ線27−1の電圧(画像信号)が能動層23を通じて画素電極29に充電される。選択期間が終わるとゲート線には画素トランジスタ14をオフする電圧が印加され、次にこのゲート線が選択されるまでの1フレームの間、画素トランジスタ14は画素電極29の電位を保持しようとする。このとき、画素トランジスタ14は、オフ状態とはいえ、微小なリーク電流が流れる、ただし、1フレームの期間のリーク電流による電圧変化が、表示に対して無視できる範囲であれば、リーク電流の影響は実質的にないということになる。
【0071】
ところで、
図6の説明の際に、バックライトの光は能動層23の裏面にも入射することを述べた。半導体への光の照射は光キャリアの発生を引き起こし、そのキャリアがソース・ドレイン領域23cに流れ込むことで光起因のリーク電流が発生する。光リーク電流による画素電圧変化が表示に対して無視できる範囲内であれば、光リーク電流は問題とならない。しかし、ディスプレイの高精細化によって開口率が低下している場合にバックライト輝度を上げることで表示輝度を維持したり、ヘッドアップディスプレイのように明るい環境下でガラス面の反射を利用したりする用途では、従来用途に比べて格段に明るいバックライトが必要となり、もはや光リーク電流の影響が無視できなくなる。
【0072】
能動層23のうち光キャリアを発生する部分は、チャネル領域23a及びLDD領域23bである。光リーク電流を低減するために、これらの部分に入射する光を遮る遮光層が導入される。
図8に示すように、遮光層21は、ガラス基板20上に作られ、能動層23のチャネル領域23a及びLDD領域23bを覆うような位置及び形状に設けられる。
【0073】
本実施形態1は、遮光層の基本的な遮光性能はもちろん、プロセス適合性への配慮及びTFT特性変動の抑制という観点も含めた、総合的な設計が必要であるという提案である。引き続き、製造フローに沿って、遮光層に係る個所について詳細に説明する。
【0074】
基本プロセスは、低温ポリシリコンによるLDD構造をもつコプレナ型のPMOS薄膜トランジスタで説明するが、NMOSにも応用可能な技術である。各プロセスには洗浄がつきものであるが、成膜前やフォトレジスト塗布前などのごく一般的な洗浄については説明を省略する。
【0075】
まず、ガラス基板に遮光層となる金属膜をスパッタにより形成する。ガラス基板は無アルカリガラスを用いる。熱工程での収縮を気にする場合には、アニールガラスを選択することで、プロセス中のガラス基板の収縮量を軽減できる。遮光層の材料としては、プロセスの最高温度400〜500℃程度に耐えなければいけないので、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)等の高融点金属や、これらを主成分とする合金、これらを主成分とする金属間化合物などが適する。また、この後に用いるゲート電極の材料と統一することも、装置管理や工程運用上のメリットがある。
【0076】
遮光層の膜厚は、材料の透過率(遮光性)及びバックライトの仕様によって選択すればよい。例えば、スパッタにより成膜されたクロム(Cr)膜について実際に試作して確かめた結果では、少なくとも70nm、好ましくは100nm以上、より確実を期すなら140nmという膜厚が選択の目安となる。他の高融点材料についても、ほぼこれに近い膜厚とする。ここでは、膜厚100nmのクロム膜を用いる。この膜厚は、ポリシリコンを形成する下地の段差のもとになるので、この後に形成する下地絶縁層の膜厚とともに考える必要がある。
【0077】
図9[A]に示すように、ガラス基板20上にスパッタにより成膜されたクロム膜は、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、この後に形成される能動層のチャネル領域及びLDD領域の位置にパターニングされて遮光層21となる。この際、遮光層21は隣接するサブピクセル間で分離された孤立パターンとする。ここでのエッチングにはウェットエッチングを用いた。
【0078】
続いて、
図9[B]に示すように、プラズマCVDを用いて、膜厚調整用の最下層となる下地絶縁層22と、能動層を形成するためのアモルファスシリコン膜33と、を形成する。比較実験を容易にするため、及び、生産時の装置の負荷分散を図るため、下地絶縁層22は酸化シリコン膜、窒化シリコン膜、酸化シリコン膜の積層膜となっている。
【0079】
下地絶縁層22は、下層から酸化シリコン150nm\窒化シリコン50nm\酸化シリコン100nmの合計膜厚が300nmの積層膜とした。この窒化シリコン膜は、ガラス基板20から能動層への不純物拡散を防ぐ。アモルファスシリコン膜33直下の酸化シリコン膜は、窒化シリコン膜とアモルファスシリコン膜33との密着力を向上させる。アモルファスシリコン膜33の膜厚は、光リーク電流を軽減するため薄めにしている。光照射による光キャリアの発生量は、後にチャネル領域23a及びLDD領域23b(
図6)となる部分の体積、すなわち、アモルファスシリコン膜33の体積で決まるので、光リーク電流の観点から言えば、その膜厚は薄い方が好ましい。しかし、結晶化、イオン打ち込みによる不純物濃度の制御、コンタクト構造の形成などのプロセスは、膜厚が極端に薄くなると、安定的に製造することが難しくなる。このような観点から、安定的に製造が可能な範囲で、かつ薄めの30nmの膜厚を選択した。
【0080】
続いて、アモルファスシリコン膜33を結晶化させる。結晶化にはエキシマレーザアニール(ELA)を用いる。エキシマレーザは、希ガスとハロゲンとの混合ガスにパルス放電を与え、発生する放射光により発振させる。そのレーザ光を照射されたアモルファスシリコン膜33は、瞬間的に溶融かつ凝固することで、多結晶シリコン膜に変わる。トランジスタの基本的なしきい値電圧を設定するには、ここでイオン注入を用いて多結晶シリコン(又は結晶化前のアモルファスシリコン膜33)中の不純物濃度を制御する。しきい値をプラス側に変化させるにはボロン(B)を、しきい値をマイナス側に変化させるにはリン(P)を、それぞれ膜全面に打ち込めばよい。
【0081】
ここで、ELAの際の注意点について説明する。遮光層21が無ければ平坦面上のアモルファスシリコン膜33に対する結晶化となるのに対し、本実施形態1のように遮光層21がある場合は凹凸面上のアモルファスシリコン膜33に対する結晶化となる。この凹凸面は遮光層21の膜厚分の段差によるものである。前述のようにELAによる結晶化では、シリコン膜は一瞬溶融して液相となる。このとき液面は表面張力によって縮まろうとする。遮光層21が無い平坦面上であれば、表面張力のバランスが維持されるので、溶融状態のシリコンに目立った変化は現れない。
【0082】
しかし、遮光層21がある場合の溶融状態のシリコンは、段差の角の凸部で表面張力によって膜厚が薄くなるように流動し、
図13に示すように、角が鋭利であればシリコン膜34が断裂部39を生じた状態で凝固してしまう。この断裂部39を含む領域が後工程のパターニングで除去されれば影響は少ないが、本実施形態1では、後述するように、能動層内にあるソース・ドレイン領域に遮光層による段差を配置したい。したがって、本実施形態1では断裂部39を生じないプロセス条件を使わなければならない。
【0083】
遮光層21の膜厚は、遮光性能を左右するが、結晶化工程においては段差のもとになる。遮光層21の直上にある下地絶縁層22は、プラズマCVDによって形成する。プラズマCVD膜は、下地の形状に対して比較的等方的な成長をし、遮光層21の端の角を丸めるような堆積をする。この効果は下地絶縁層22の膜厚を増やすほど顕著となるので、下地絶縁層22の膜厚を増やすほど遮光層21による段差部の角がよりなだらかになる。ただし、段差自体が解消されるわけではない。
【0084】
ELAによる結晶化での膜の状態を実験により確かめたところ、下地絶縁層22の膜厚は、遮光層21の膜厚範囲70nm〜140nmにおいて、少なくとも200nmが必要であり、より安定的にプロセスを遂行するには300nm以上が好ましい、という結果が得られた。しかし、下地絶縁層22の膜厚は、厚すぎるとプロセス時間を長くし設備の負荷を増やすので、概ね500nmが実行面での上限となる。
【0085】
続いて、
図9[C]に示すように、ポリシリコン膜をフォトリソグラフィ及びドライエッチングにより島状の能動層23に加工する。
【0086】
続いて、
図10に示すように、プラズマCVDでゲート絶縁膜24として酸化シリコン膜を120nm成膜する。更にスパッタにてクロムを200nm成膜し、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングでゲート電極25(ゲート線を含む)の形状に加工する。ここでのエッチングはドライエッチングを用いてもよい。
【0087】
続いて、能動層23に不純物としてボロン43を打ち込んで領域ごとの濃度を調整する。まず、ソース・ドレイン領域23cとなる領域だけが開口されたレジストパターン40をフォトリソグラフィで形成した後、イオン注入によりボロン43を打ち込む。そのとき、ボロン43の深さのピークが能動層23の位置になるように、加速電圧を調整する。ソース・ドレイン領域23cへのボロン43の打ち込み量はそれほど精密さが要求されないので、この打ち込みプロセスには質量分離を行わないイオンドーピングを用いてもよい。
【0088】
続いて、
図11に示すように、レジストパターン40を剥離した状態で全面にイオン注入によりボロン44を打ち込む。このとき、ゲート電極25がチャネル領域23aに対するマスクとなる。ソース・ドレイン領域23cには既に二桁高い濃度が注入されているので、ここで注入した不純物量はLDD領域23bの不純物濃度を決める。LDD領域23bとチャネル領域23aとの境界は、ゲート電極25によって自己整合的に決まる。こうして能動層23は、ゲート電極25と重なった部分がチャネル領域23aとなり、チャネル領域23aの両側がLDD領域23bとなり、両端がソース・ドレイン領域23cとなる。
【0089】
続いて、
図12に示すように、第1層間膜26となる酸化シリコンを、プラズマCVDで400nm成膜する。ところで、ポリシリコンの結晶化以降に打ち込んだ不純物(ボロン)は、能動層23のポリシリコン膜の中で結晶の格子に収まっておらず、結晶の中で不純物として機能していない。そこで、この状態で不活性雰囲気中で熱処理することにより、打ち込んだ不純物を拡散により結晶格子の中に収めて活性化してやる。ここでは、窒素雰囲気の炉を用いて熱処理を施す。これ以外にも、RTA(Rapid Thermal Annealing)を用いる方法もある。
【0090】
続いて、プラズマCVD装置の中で、加熱しながら水素放電にさらし、プラズマ処理を行う。これにより、水素が拡散してポリシリコンのダングリングボンドを終端するので、トランジスタ特性が安定化する。
【0091】
続いて、第1層間膜26及びゲート絶縁膜24をフォトリソグラフィ及びドライエッチングで開口して第1コンタクト31を形成し、Ti\Al\Tiからなる積層膜をスパッタで成膜して、フォトリソグラフィ及びドライエッチングでドレイン配線27をパターニングする。
【0092】
続いて、
図8に示すように、有機膜等を塗布及び焼成して第2層間膜28を形成し、これに第2コンタクト32を開口し、ITO膜をスパッタで成膜して、フォトリソグラフィ及びウェットエッチングで画素電極29にパターニングすることにより、TFTアレイ基板11が完成する。
【0093】
この後は、
図5に示すように、TFTアレイ基板11及びカラーフィルタ基板12にポリイミド配向膜を印刷及び焼成した後にラビングし、TFTアレイ基板11及びカラーフィルタ基板12を向い合せたギャップに液晶13を充填し、これらをシールすることにより液晶パネル67となる。
【0094】
ここで、遮光層21の機能は、
図8に示すように、ガラス基板20の下側から入射してきたバックライト光69を遮ることにより、能動層23のチャネル領域23a及びLDD領域23bをバックライト光69で照射しないようにすることである。これにより、画素トランジスタ14のオフリーク電流は、光を照射しないときのレベルを維持できる。
【0095】
ここまで、遮光及び光リーク電流にかかわるプロセス適合性について、TFTアレイ基板11の製造プロセスを追って、主に膜厚方向で制御すべきパラメータについて説明してきた。次に、光リーク電流にかかわる基板面内方向の制約について平面図を使って説明する。
【0096】
液晶パネルのTFTアレイ基板11は、平面図で見ると
図7のような構造である。ここから、能動層23とゲート電極25をサブピクセル1個分抜き出したのが
図14である。トランジスタは直列に2個つながったデュアルゲート構造になっている。
【0097】
能動層23は、ゲート電極25との交差部がチャネル領域23a、チャネル領域23aの両側がLDD領域23b、能動層23の両端がソース・ドレイン領域23c、2つのトランジスタの間にあってソース・ドレイン領域23cと同じ不純物濃度の中間領域23d、に分けられる。チャネル領域23a及びLDD領域23bの境界線とゲート電極25のエッジとは、LDDの不純物注入プロセスで自己整合的に形成されるため、ずれなく一致している。
【0098】
ここで、能動層23の両端はソース・ドレイン領域23cと称している。その理由は、両端の一方がソースかつ他方がドレインとなる場合と、これとは逆に両端の一方がドレインかつ他方がソースとなる場合とが、動作条件によって刻々と変化するためである。本実施形態1では、PMOSトランジスタを例にしているので、ゲート電圧がマイナス電位の場合にトランジスタがオンとなる。そのため、以下の説明では、能動層23の両端のソース・ドレイン領域23cのうち、基準電位側を単にソース領域、マイナス電位側を単にドレイン領域と呼ぶ場合がある。
【0099】
図14の左右両端にある一点鎖線は境界線50である。これらの一点鎖線の間隔を、サブピクセル1個分の横幅(ピッチ)としている。
図14では、トランジスタ1個のチャネル長(L)が4μm、チャネル幅(W)が4μm、LDD領域の長さが1.0μmであり、サブピクセルのピッチが29μmである。ここで、図の左右方向に境界線50を超えて遮光層を置くことは、隣接するサブピクセルと干渉することになり、上下方向へ遮光層を不用意に広げることは、画素の開口率の低下をもたらす。次に、遮光層をどこまでの範囲に置くべきかを詳細に説明する。
【0100】
遮光層で隠すべき要遮光領域は、光キャリアを発生するチャネル領域23a及びLDD領域23bである。ただし、遮光層端で回折により回り込む光があるので、遮光すべき領域よりも大きな遮光層とすることが好ましい。実際にさまざまな形状の遮光層をもつトランジスタを作り、光を当てた場合と当てない場合とのオフ電流の差、すなわち、光リーク電流を比較してみた。その結果、要遮光領域と同じ外形から遮光層をはみ出させ、遮光層の張り出しを大きく形成していくに従って光リーク電流は減少し、ある張り出し量以上で光リーク電流がほぼ一定になることが分かった。この結果から、能動層23の要遮光領域からの遮光層の張り出し量は,少なくとも1.5μmが必要であり、好ましくは2.0μm以上とすべきことが分かった。また、これらの張り出し量の値よりも小さい領域での光リーク電流の変化を減らすという点において、下地絶縁層22(
図8)の膜厚は400nm以下とすることがより好ましいことも分かった。
【0101】
図15は、要遮光領域からの張り出し量を2.0μmとした遮光層21を示した平面図である。破線が遮光層21を配置すべき範囲を表示している。なお、フォトマスクの設計では、適用プロセスに合わせて露光及びエッチングでの寸法変化分が考慮される。
図15に示す遮光層21のレイアウトが、遮光性能に基づいた最低限度の範囲である。中間領域23dに接するLDD領域23bについては、中間領域23d全体を遮光するという方針を採った。以上により、遮光層21の張り出し量2.0μm以上という条件は満たすことになる。このような形状の遮光層21によって、バックライトの直射による光リーク電流を効果的に抑制できる。
【0102】
さて、本実施形態1の冒頭で、遮光層無しのトランジスタに比べて遮光層有りのトランジスタの方が、Vd依存のしきい値変動dVthが大きくなることを示した。このVd依存性を抑制できれば、遮光層により光リーク電流を抑制しつつ、遮光層が無い場合と同じ安定性のトランジスタが得られる。このための方策を探るため、デュアルゲートトランジスタで様々な形状の遮光層を設けたサンプルについて、dVthを測定した。
【0103】
本発明者は、これらの結果からVd依存性抑制のための指標を見つけ出すために、いろいろとデータを吟味した。その結果、ドレイン電圧Vdへの依存性という観点からドレイン領域と遮光層との対向面積(Sd)を求め、ゲート電圧Vgに対する応答が本来の特性であるという観点からゲート電極と遮光層との対向面積(Sg)を求め、さまざまな形状へ対応するために、それらの比Sg/SdをG/D比として遮光層の特徴を記述する指標とし、これに対して、ドレイン電圧依存性の指標であるdVthが一定の規則性を持っていることを見出した。
【0104】
図16は、デュアルゲートトランジスタ(L=4μm、W=4μm、LDD領域の長さ1.0μm、PMOS、遮光層:クロム70nm、下地絶縁層膜厚:400nm)で能動層の形状及び遮光層の形状を変えたときのVthのVd依存性(Vd=−2〜−18Vに変化させた時のしきい値の変化量:dVth)を、指数表示のG/D比に対してプロットした結果である。
【0105】
同様に、下地絶縁層膜厚を300,600,800nmとした場合の測定結果も含めて回帰分析した結果、以下の式で記述できることを確認した。回帰式によるプロットを
図17に示す。
【0106】
[数式1]
dVth=α・ln(Sg/Sd)+β
α=−0.108/tul+0.00929
β=0.351/tul+0.277
dVth:Vd=−2V〜−18Vでのしきい値Vth変動幅(V)
Sg:遮光層とゲート層の対向面積(μm
2)
Sd:遮光層とドレイン領域の対向面積(μm
2)
tul:下地絶縁層厚さ(μm)
【0107】
この単一の式で下地絶縁層の膜厚(下地膜厚)及び遮光層の配置からトランジスタ特性への影響が記述できるので、
図18に示すように、目標とするdVthを定めたときの下地膜厚とG/D比との関係も求めることが可能である。例えば、特性変動dVth=0.75Vを下地絶縁層400nmで実現する場合、
図18においてdVth=0.75Vのラインが下地膜厚400nmと交差する位置を読めば、G/D比約5以上でレイアウトすればよいことが分かる。
【0108】
次に、
図15の形状をもとにどう遮光層をレイアウトすれば、dVthをどの程度抑制できるのかを見積もってみる。
【0109】
図15のレイアウトで遮光層21とソース・ドレイン領域23cとの片側分の重なり面積は、Sd=8μm
2である。また、遮光層21とゲート電極25との重なり面積は、Sg=32μm
2である。このとき、Sg/Sd比で求めた指数G/Dは4.0となる。
【0110】
図17から明らかなように、G/D=4.0のとき、下地絶縁層膜厚を400nmとするとdVthは約0.8Vとなり、下地絶縁層膜厚を300nmとするとdVthは約1.0Vとなる。一方、遮光層無しのデュアルゲートトランジスタにおけるdVthは0.28Vである(
図1[B])。したがって、
図15に示す遮光層有りのデュアルゲートトランジスタのdVthは、遮光無しのデュアルゲートトランジスタのdVthの、約3倍前後の変動があるということになる。
【0111】
次に、特性変動を抑制する方法を考えてみる。
図19に示すように、最低限の遮光域は崩さないようにしながら、開口率に影響しないように遮光層21aとゲート電極25との重なりを増やした。遮光層21aとゲート電極25との重なり部分は、遮光の配慮が不要であるので、0.5μm張り出すように設定した。一方、遮光層21aとデータ線側及び画素側のソース・ドレイン領域23cとの重なり部分は変化させていない。この状態で、Sg=68μm
2まで増やすと、G/D比は8.5となる。これで下地絶縁層膜厚を400nmとすると、
図17から明らかなように、dVthは0.6V程度まで小さくできる。下地絶縁層膜厚を300nmとすると、
図17から明らかなように、dVthは約0.7Vとなる。
【0112】
更に、Sgを極限まで大きくしてみる。
図19において更に遮光層21aをゲート電極25(ゲート線を含む)と重ねられるのは、左右の端にある境界線50(1点鎖線)で示したサブピクセルの境界までの部分、及び、画素側トランジスタのゲート電極25の突き出し先端部分である。
【0113】
ただし、任意の画像信号や反転駆動なども考慮すると、隣接するサブピクセルは注目している画素とは別の動作状態である。全く別の動作状態の遮光層同士を連結するということは、隣接する画素の状態の影響を受けるということである。すなわち、表示のうえではクロストークの原因となりうるわけである。したがって、遮光層はサブピクセル単位で分離されていることが好ましく、少なくとも製造プロセスで切り離せる最小の分離幅が必要となる。
【0114】
図20に示す遮光層21bでは、最小の露光分解能を3μm、サイドエッチを0.5μmとした、合計3.5μmの分離幅を設けている。ここでは、分離領域をゲート線の左端に設けているが、分離領域をどこに設けてもdVthに対する影響は同じになる。
図20のレイアウトでは、Sgが110μm
2まで増加するので、G/D比は13.8となる。このとき、下地絶縁層膜厚を400nmとすると、
図17から明らかなように、dVthは0.5Vを下回る。下地絶縁層膜厚を300nmとすると、
図17から明らかなように、dVthは約0.5Vとなる。
【0115】
以上述べたように、現実的な画素レイアウトにおいて、下地絶縁層の膜厚が300nm又は400nmであっても、遮光層無しの場合におけるdVth=0.28Vと比較して、2倍以内まではVd依存の特性変動を抑制できることが分かる。
【0116】
ところで、液晶ディスプレイなどのデバイスを設計するにあたっては、当然ながらこのVd依存の特性変動への配慮が必要である。薄膜トランジスタの特性変動を、そのしきい値Vthを指標として、ほかの変動要因とあわせて総合的に考える。
【0117】
画像信号に対応した電位を、画素へ確実に書き込み、保持するためには、画素トランジスタの駆動電圧に、さまざまなしきい値変動を考慮してマージンを持たせる必要がある。しかし、しきい値の変動要因の主なものには、製造工程でのばらつきや、動作に伴う素子劣化のほか、さまざまな要素がある。駆動電圧マージンはこれらすべての変動を見込んで設定する必要がある。一方で、駆動電圧マージンを大きくとりすぎると、消費電力が増大する。そこで、液晶ディスプレイが使用される用途ごとに、マージンを適切に設定することが求められる。
【0118】
例えば、10年以上の長期使用が想定される産業用途の場合、駆動電圧のマージンを素子劣化によるしきい値変化に大きく振り分ける必要がある。そのため、製造工程でのばらつきを除くと、残りのマージンは0.5V程度となる。よって、遮光層の電位によるしきい値変動は、このマージンに収めないといけない。一方、携帯機器のように、長期間の使用が想定されない用途については、残りのマージンは2V程度とすることもでき、遮光層の電位によるしきい値変動の許容範囲は広がる。その中間的な使用期間が想定される用途に関しては、製造工程のばらつき及び動作に伴う素子劣化を除く、残りのマージンは1V程度とするのが妥当である。遮光層の電位によるしきい値電圧変動はこのマージンに収める必要がある。
【0119】
遮光層を必要としない液晶ディスプレイでは、ドレイン電圧の変動による特性変化dVthは0.28Vであるから、この1Vのマージン内で十分に吸収できる。高輝度バックライトに対応するために遮光層を設けたデバイスにおいては、1Vのマージンに収まるように、Vd依存の特性変動dVthを0.75Vとして設計することが好ましい。
【0120】
その根拠は、dVthが1Vを越えるようではマージンで吸収しきれないからである。また、dVthが1Vを越えずともそれに近い場合には、設計上の安心が確保できない。よって、dVthが1Vを明らかに越えないところで設計すべきである。また、前述のように、液晶ディスプレイの画素を考えると、dVthを0.5Vよりも小さくすることは現実的には難しい。このような事実を考慮して、その中間点にあり、切りのよい数値を設計の指針とすることには合理性がある。
【0121】
前述の数式1により、dVth=0.75VとなるG/D比は、下地絶縁層膜厚が400nmのとき4.7、下地絶縁層膜厚が300nmのとき7.3となる。因みに、下地絶縁層膜厚が300nmでG/D比が4.7の場合はdVth=0.9Vとなり、わずかに1Vを下回る。
【0122】
ここで、上記で求めた対向面積の比であるG/D比を容量の比で表してみる。ドレイン領域と遮光層との重なり部分の静電容量をCd、ゲート電極と遮光層との重なり部分の静電容量をCgとし、容量比Cg/Cdを求める。これらの静電容量の計算は、デバイスを構成する材料及び膜厚は本実施形態1で説明したとおりとし、比誘電率は酸化シリコン膜:3.9、窒化シリコン膜:7.5として、単純な平行平板のモデルを用いた。
【0123】
前述の条件において、dVth=0.75Vとなるときの容量比Cg/Cdは、下地絶縁層膜厚が400nmのとき3.6となり、下地絶縁層膜厚が300nmのとき5.1となる。因みに、dVth=0.9Vとなるときの容量比Cg/Cdは、下地絶縁層膜厚が300nmのとき3.3となる。
【0124】
このように同じdVthを設定しても、下地絶縁層膜厚によって容量比Cg/Cdの値が異なる。その理由は、特許文献3、4、5の技術では、遮光層の電位が一定値に決まる条件を求めているだけであるのに対し、本実施形態1のモデルでは、更に遮光層の電位が能動層に作用してトランジスタの特性に影響を与えることを含んでいるからである。
【0125】
ここまで、液晶ディスプレイの画素に使われるデュアルゲートの薄膜トランジスタを例にとり、高輝度バックライトの光照射を遮る遮光層を置いたときの特性変動を抑制する設計の考え方について説明してきた。これらを総合すると、幾何学的なレイアウトの指針が明らかになる。
【0126】
遮光層の膜厚は、遮光性の観点から、少なくとも70nmは必要であり、好ましくは100nm以上、より確実を期すなら140nmである。下地絶縁層の膜厚は、プロセス適合性の観点から、合計で少なくとも200nm〜500nmの範囲が好ましく、更にプロセスの安定性と遮光性とを考慮すると、合計で300nm以上かつ400nm以下の範囲が好ましい。能動層の要遮光領域からの遮光層の張り出し量は、遮光性の観点から、少なくとも1.5μmが必要であり、好ましくは2.0μm以上である。更に、Sg/Sd比(G/D比)は、4.7以上とすることが好ましく、更に好ましくは7.3以上とする。
【0127】
これによって、光リーク電流を抑制しつつ、ドレイン電圧変化にともなう薄膜トランジスタの特性変動を抑制できる。また、この薄膜トランジスタを用いて液晶ディスプレイ等の表示装置を構成することで、高コントラスト、低クロストーク、低フリッカなどの表示品位に優れ、信頼性にも優れた、安定した動作が期待できる。
【0128】
以上に述べたTFTアレイ基板の製造プロセスは、一例であって、特段の断りのない部分については、本実施形態1に制限を加えるものではなく、これら以外の方法、条件、材料であっても本実施形態1の効果は生まれる。また、TFTアレイ基板製造より後のプロセスは、大幅に簡略化して説明したが、一般的に用いられているプロセスであれば本実施形態1に適用することができる。
【0129】
<実施形態2>
実施形態1では、デュアルゲートの薄膜トランジスタについて、特性変動を抑制するための遮光層の配置の方法について説明した。同様の考え方をシングルゲートの薄膜トランジスタについて適用した結果を、本実施形態2として説明する。
【0130】
シングルゲートトランジスタでも、遮光層とゲート層との重なり面積Sg、及び、遮光層とドレイン層との重なり面積Sdを用い、これらの比G/D=Sg/Sdによって、トランジスタのしきい値Vthの変化幅dVthが決まる。
図1[A]に示すような基本レイアウトのトランジスタを用い、遮光層の形状を変化させて特性変動を測定し、そのデータを回帰分析した結果を、
図21に示す。回帰式は以下のように記述できる。
【0131】
[数式2]
dVth=α・ln(Sg/Sd)+β
α=−0.153/tul+0.103
β=0.659/tul−0.107
dVth:Vd=−2V〜−18Vでのしきい値Vth変動幅(V)
Sg:遮光層とゲート層の対向面積(μm
2)
Sd:遮光層とドレイン領域の対向面積(μm
2)
tul:下地絶縁層厚さ(μm)
【0132】
[数式2]の式の形はデュアルゲートと同じであるが、係数がデュアルゲートと異なっている。
図22は、グラフの軸の取り方を変え、dVthを定めたときの下地絶縁層膜厚とG/D比との関係である。これにより、シングルゲートトランジスタにフローティング遮光層を配置したときの、特性変動を見積もることが可能になる。
【0133】
アモルファスシリコンで能動層を形成した場合には、薄膜トランジスタは主に画素トランジスタや保護素子として用いられるが、ポリシリコンで能動層を形成した場合には、ゲートドライバやICチップのデータドライバ出力を分岐するマルチプレクサなど、回路の一部を構成することが可能となる。画素トランジスタに限らず、このような周辺回路を構成するトランジスタをバックライトにさらす場合も、遮光層の配置を前述の関係に基づいて調整することで、特性影響を必要な範囲まで抑制することが可能である。
【0134】
図22において、例えば下地絶縁層の膜厚が400nmの場合に、特性変動幅dVth≦0.75Vを実現するには、G/D比が20弱を越えるようなレイアウトにすればよいことが分かる。シングルゲートでは、遮光層無しのトランジスタでdVthは0.3Vである。
【0135】
図23は、L/W=4/4μm、両側LDD=1.0μmのトランジスタにおいて、能動層の要遮光域に対しては遮光層21cの張り出し量を2.0μm、ゲート電極25に対しては遮光層21cの張り出し量を0.5μmでレイアウトした例である。能動層23の両端のソース・ドレイン領域23cは、ドレイン電極層とコンタクトホールで接続するために線幅を太くしてある。また、遮光層21cは隣接するサブピクセル間で分離された孤立パターンとしている。
【0136】
破線の範囲まで遮光層21cを配置したときの対向面積は、ドレイン領域に対して8μm
2、ゲート層に対して136μm
2となり、G/D=17.0である。
図21から明らかなように、下地絶縁層の膜厚を400nmとすると、トランジスタの特性変動はdVth≒0.75Vと見積もることができる。
【0137】
図23に示すように、ゲート層を使った配線引き回し部をうまく利用することで、ゲート層との重なりを確保することが可能となるので、トランジスタをバックライトから遮光でき光リーク電流を抑制できるとともに、特性変動も抑制することが可能となる。
【0138】
同様に、
図21から明らかなように、下地絶縁層の膜厚を300nmとすると、G/D比27のときdVth=0.75Vとなる。これらのG/D比がレイアウト上どうしても確保できない場合は、動作マージンぎりぎりのdVth=0.9Vまで譲歩すれば、下地絶縁層の膜厚が400nm又は300nmのときのG/D比はそれぞれ10又は18.5となる。なお、下地絶縁層の好ましい膜厚範囲については、実施形態1と同様である。
【0139】
ここで、上記で求めた対向面積の比であるG/D比を容量の比で表してみる。計算方法は実施形態1と同様である。前述の条件、dVth=0.75Vとなるときの容量比Cg/Cdは、下地絶縁層膜厚が400nmのとき12.9、下地絶縁層膜厚が300nmのとき18.8となる。また、dVth=0.9Vとなるときの容量比Cg/Cdは、下地絶縁層膜厚が400nmのとき7.6、下地絶縁層膜厚が300nmのとき12.9となる。
【0140】
本実施形態2におけるその他の構成、作用及び効果は、実施形態1におけるそれらと同様である。
【0141】
<実施形態3>
フローティング遮光による特性変動として、Vdに依存したしきい値Vthの変化があることを述べてきた。ここで改めて、デュアルゲートトランジスタでソース電圧Vsを基準としてドレイン電圧Vdを印加した場合のモデルを考える。
図24[A]は、デュアルゲートトランジスタで共通の遮光層を設けた場合の等価回路である。Vg、Vd、Vs、Vmが図に示した点での電位を表している。
【0142】
Vdがドレイン領域と遮光層の対向面Cdを通して遮光層の電位に与える影響と、ゲート電圧Vgがゲート線と遮光層の対向面Cgを通して遮光層の電位に与える影響との、バランスで遮光層の電位が定まり、能動層(チャネル領域とLDD領域)に作用するというモデルにもとづき、対向面積の比を調整して、Vdの影響を所望の範囲まで抑制しようというのが実施形態1、2のモデルであった。本実施形態3では、デュアルゲートを含むマルチゲートの薄膜トランジスタにおいて、Vdの影響自体を小さくする方法を採る。
【0143】
デュアルゲートトランジスタでは、全体に印加されたドレイン電圧Vd−Vsは二つのトランジスタTR1,TR2でほぼ半分ずつに分圧される。すなわち、次式が成り立つ。
Vm−Vs≒Vd−Vm≒1/2・(Vd−Vs)
【0144】
図24[A]のように二つのトランジスタに共通の遮光層を設けた場合には、デュアルゲートトランジスタ全体に印加されたドレイン電圧Vd−Vsが遮光層を介してTR1,TR2に影響することになる。
【0145】
一方、
図24[B]は、デュアルゲートトランジスタで各トランジスタに個別の遮光層を設けた場合の等価回路である。
図24[B]のように遮光層をTR1、TR2で分割した場合には、遮光層に影響を及ぼすドレイン電圧はTR1、TR2それぞれで、Vm−Vs、Vd−Vmとなり、電圧値はほぼ半減する。例えばTR1のみに注目した場合、TR1自身のドレイン電圧Vm−Vsの影響を受ける
図24[B]の構造と、TR1自身のドレイン電圧を超えるVd−Vmまでの電位差の影響を受ける
図24[A]の構造とでは、電位差は後者の方が前者のほぼ2倍となり、影響の大きさが異なることは明らかである。
【0146】
図25[A]乃至
図25[C]は、能動層23をU字型に折り曲げたデュアルゲートトランジスタの平面形状の例である。
図25[A]に示すデュアルゲートトランジスタは、等価回路が
図24[A]に相当するレイアウトであり、G/D=0.58である。遮光層21dはドレイン領域23cにも大きめの重なりをとっている。
【0147】
比較対象として
図25[B]に示すデュアルゲートトランジスタは、デュアルゲートの中間部で遮光層21e,21fに分割し、個々のトランジスタにそれぞれ遮光層21e,21fを設けた例であり、等価回路が
図24[B]に相当するレイアウトであり、G/D=0.29である。遮光層21e,21fとドレイン領域23cとの重なり面積及び遮光層21e,21fとゲート電極25(ゲート線を含む)との重なり面積は、
図25[A]の場合と同じである。ただし、遮光層21e,21fを分割しているので、計算上、遮光層21e,21fとゲート電極25との重なりを片側分としている。これらの特性比較を
図26に示す。
【0148】
図26は、
図17の回帰線の上に、
図25[A]乃至
図25[C]の例におけるG/D比の値とdVthとの関係を示したものである。
図25[A]のレイアウトが
図26の[I]の位置にあたり、
図25[B]のレイアウトが
図26の[II]の位置にあたる。
図26の[II]に示すように、デュアルゲート構造では、個別のトランジスタで遮光層を分割することにより、Vd依存の特性変化を大幅に抑制できる。
図26の[III]は、
図25[C]のように遮光層21gとドレイン領域23cとの重なりを減らし、遮光層21gとゲート電極25との重なりを増やして、G/D=7.6とした場合のデータである。
図26において[II]と[III]とは、ほぼ同等のVd依存性を示していることがわかる。
【0149】
このように、デュアルゲートのようなマルチゲートTFTの場合には、個々のトランジスタに対する遮光層を分割して配置することで、ドレイン電圧に依存するトランジスタの特性変動を大幅に抑制できる。これは、デュアルゲートに限らず、3つ、4つのトランジスタが直列につながったトリプルゲート、クオドルプルゲートなどマルチゲートトランジスタ全般にも適用できる考え方である。4つ以上の場合には、必ずしもひとつのトランジスタごとに遮光層を分割しなくても、例えば4つ直列の場合に、2つずつに分割しても効果が生じる。
【0150】
更に、複数のトランジスタの平面的な配置については、
図25[B]では能動層23を180°折り返したU字型配置であったが、このレイアウトに限らず、
図15のような能動層23を90°折り曲げたL字型配置や、能動層を直線上に並べたI字型配置であっても、同様の効果が生じることは明らかである。
【0151】
ただし、本実施形態3のように遮光層を分割するには、分割するための加工にプロセスの最小加工寸法の制約があるために、トランジスタの全体に占める面積が大きくなってしまう場合もある。画素のスイッチにトランジスタを用いる場合には、トランジスタの専有面積の増加は開口率の低下につながる可能性があるので、総合的な配慮に基づいて、能動層の形状とともに遮光層の分割を適用すべきかどうかを判断すればよい。
【0152】
本実施形態3におけるその他の構成、作用及び効果は、実施形態1、2におけるそれらと同様である。
【0153】
<実施形態4>
図27は、デュアルゲートトランジスタを用いたアクティブマトリクス型の液晶ディスプレイの画素1個分の等価回路である。その動作を簡単に説明すると、ゲート線55に印加された走査信号で2つのトランジスタTR1,TR2をオンして、データ線57の画像信号に対応した電位を画素54及び補助容量53へ充電したのち、ゲート線55の走査信号をオフレベルにし、TR1,TR2をオフにして、画素54及び補助容量53に充電した電荷を保持する、ということが繰り返される。なお、
図27では遮光層の図示を省略しているが、本実施形態4における遮光層は後に説明する
図28乃至
図30で図示している。
【0154】
実施形態3では、遮光層をもつ薄膜トランジスタの遮光層をマルチゲートの個々のトランジスタで分割する例を説明した。これに対し、本実施形態4においては、遮光層を分割した上で、片方のトランジスタに重点をおいて特性変動を抑制する方法を採る。
【0155】
保持状態でのトランジスタの各電極の電位を考えると、画素側は画素54及び補助容量53に充電された電位であり、データ線57側は他のゲート線で駆動される画素への画像信号が供給されるので、刻々変化している。したがってマルチゲートトランジスタの両端の電位差は刻々変化していることになる。中間領域56は画素54側とデータ線57側とのほぼ中間的な電位となるので、TR1、TR2を個々に見た場合のソース・ドレイン間電圧には大きな差は現れない。
【0156】
TR1とTR2とにおいて遮光層とソース・ドレイン領域との重なりを同じにして、遮光層を分割しているとき、TR1、TR2それぞれの特性変動に及ぶドレイン電圧の影響はほぼ同じとなる。その特性変動の度合いは、前述したようなG/D比に基づくモデルによると、それぞれの遮光層とゲート電極との重なり面積に依存する。つまり、遮光層とゲート電極との重なりを大きくとったトランジスタの方が、ドレイン電圧による特性変動を小さく抑えられる。
【0157】
画素において書き込んだ電荷を保持するには、まず、TR2での電荷の流出を阻止又は抑制することが必須である。
図28は、液晶ディスプレイの画素トランジスタの遮光層21h,21i、能動層23、ゲート電極25の位置関係を抽出した図である。遮光層21h,21iは分割されており、G/D比はそれぞれデータ線側TR1で2、画素側TR2で12.7であり、画素側のG/D比を大きく設定してある。TR2のG/D比を大きく設定することで、ソース・ドレイン間電圧の変動に対してもTR2側のトランジスタ特性の変動をより小さく抑えることができる。
【0158】
図29には、能動層23をU字型に配置した例を示す。やはり、画素側のTR2でG/D比が大きくなるようなレイアウトを採っている。このように限られた範囲内で、遮光層21j,21kとゲート電極25の重なり面積を画素側のTR2で大きくとることにより、書き込んだ電荷の保持についてより優れた特性を発揮し、表示品位の向上が期待できる。
【0159】
図30には、能動層23を一直線にしてI字型に配置した例を示す。画素側のTR2でG/D比が大きくなるようなレイアウトを採っている。このように、遮光層21l,21mとゲート電極25の重なり面積を画素側のTR2で大きくとることにより、画素側TR2の特性変動を優先的に安定化させている。
【0160】
数式で表現すると、データ線側TR1の遮光層とドレイン領域との対向面積をSd1、遮光層とゲート電極との対向面積をSg1とする。画素側TR2では添え字1を2に変えて、それぞれSd2、Sg2としたとき、
(Sg1/Sd1)<(Sg2/Sd2)
となる。
【0161】
ここで、TR1,TR2のG/D比の大小関係を、実施形態1、2で用いた容量比Cg/Cdの関係で表すことを考えてみる。対向面積と同様の命名法で、データ線側TR1の遮光層とドレイン領域との静電容量をCd1、遮光層とゲート電極との静電容量をCg1とする。画素側TR2では添え字1を2に変えて、それぞれCd2、Cg2としたときの、Cg1/Cd1とCg2/Cd2との関係を考える。TR1とTR2とは、構成する膜の材料、膜厚、ドレイン領域の位置、ゲート線の位置が同じである。よって、静電容量の違いを決めるのは対向面積のみである。よって、
Sg1/Sd1=Sg2/Sd2
のときは
Cg1/Cd1=Cg2/Cd2
となることは理解に難しくない。
【0162】
今、静電容量の違いを決めるのは対向面積のみである。対向面積と静電容量とは比例関係にあり、比例係数は正である。したがって、この状態から対向面積を
Sg1/Sd1<Sg2/Sd2
に変化させたとき、容量比の関係は
Cg1/Cd1<Cg2/Cd2
となる。したがって、本実施形態4のレイアウト条件は容量比を用いて、
Cg1/Cd1<Cg2/Cd2
と表すことができる。
【0163】
ここではデュアルゲートトランジスタを例にとり、遮光層を分割したときに画素側のG/D比を大きくする方法を説明したが、マルチゲートトランジスタ全般においても、画素にもっとも近い外側のトランジスタのG/D比を大きくすることで同様の効果が生まれる。
【0164】
本実施形態4におけるその他の構成、作用及び効果は、実施形態1〜3におけるそれらと同様である。
【0165】
<実施形態の補足>
デュアルゲートを含むマルチゲート構造の薄膜トランジスタにおいて、そのマルチゲートを構成する個々のトランジスタを仮に「個トランジスタ」と呼ぶとする。すなわち、ゲート電極と能動層との交差部であるチャネル領域及びその両側にあるLDD領域のセットが「個トランジスタ」であり、マルチゲート構造では、この「個トランジスタ」が複数直列に配置されていると表現できる。
【0166】
そして、実施形態3では、この「個トランジスタ」の遮光層がそれぞれ分割されており、そのうち少なくとも1つの「個トランジスタ」と遮光層とが重なっていると表現できる。また、実施形態4では、能動層の中に直列に複数の「個トランジスタ」が並んでいて、その並びの両端の「個トランジスタ」に付いている遮光層について、前述の面積比と容量比との関係が成立していると言い換えることができる。
【0167】
なお、以上の実施形態では、コプレナ型の薄膜トランジスタについて説明したが、順スタガ型の薄膜トランジスタにも、逆スタガ型の薄膜トランジスタにも同様に本発明を適用可能である。
【0168】
以上、本発明を上記各実施形態に即して説明したが、本発明は、上記各実施形態の構成や動作にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で当業者であればなし得ることが可能な各種変形及び修正を含むことはもちろんである。また、本発明には、上記各実施形態の構成の一部又は全部を相互に適宜組み合わせたものも含まれる。
【0169】
上記の実施形態の一部又は全部は以下の付記のようにも記載され得るが、本発明は以下の構成に限定されるものではない。
【0170】
[付記1]ポリシリコン能動層からなるチャネル領域、LDD領域及びドレイン領域と、
少なくとも前記チャネル領域にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
絶縁層を介して少なくとも前記チャネル領域及びLDD領域に重なり、電気的にフローティングである遮光層と、
を有する薄膜トランジスタにおいて、
前記薄膜トランジスタはデュアルゲート構造であり、
前記絶縁層の膜厚が200nm以上かつ500nm以下であり、
前記遮光層が前記ドレイン領域と重なる面積をSd、前記遮光層が前記ゲート電極と重なる面積をSgとしたときに、Sg/Sdが4.7以上である、
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0171】
[付記2]ポリシリコン能動層からなるチャネル領域、LDD領域及びドレイン領域と、
少なくとも前記チャネル領域にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
絶縁層を介して少なくとも前記チャネル領域及びLDD領域に重なり、電気的にフローティングである遮光層と、
を有する薄膜トランジスタにおいて、
前記薄膜トランジスタはシングルゲート構造であり、
前記絶縁層の膜厚が200nm以上かつ500nm以下であり、
前記遮光層が前記ドレイン領域と重なる面積をSd、前記遮光層が前記ゲート電極と重なる面積をSgとしたときに、Sg/Sdが17以上である、
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0172】
[付記3] ポリシリコン能動層からなるチャネル領域、LDD領域及びドレイン領域と、
少なくとも前記チャネル領域にゲート絶縁膜を介して設けられたゲート電極と、
絶縁層を介して少なくとも前記チャネル領域及びLDD領域に重なり、電気的にフローティングである遮光層と、
を有する薄膜トランジスタにおいて、
前記薄膜トランジスタはマルチゲート構造であり、
前記遮光層は、互いに電気的にフローティングである複数の遮光層に分割された、
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0173】
[付記4]付記3記載の薄膜トランジスタにおいて、
前記複数の遮光層のうち前記ポリシリコン能動層の最も外側に対応する一方及び他方の前記遮光層について、
前記遮光層が前記ドレイン領域と重なる面積をSd、前記遮光層が前記ゲート電極と重なる面積をSgとしたときに、
前記一方の遮光層のSg/Sdが前記他方の遮光層のSg/Sdよりも大きい、
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0174】
[付記5]付記3記載の薄膜トランジスタにおいて、
前記複数の遮光層のうち前記ポリシリコン能動層の最も外側に対応する一方及び他方の前記遮光層について、
前記遮光層が前記ドレイン領域と重なる部分の静電容量をCd、前記遮光層が前記ゲート電極と重なる部分の静電容量をCgとしたときに、
前記一方の遮光層のCg/Cdが前記他方の遮光層のCg/Cdよりも大きい、
ことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0175】
[付記6]付記1記載の薄膜トランジスタを画素トランジスタとする表示装置。
【0176】
[付記7]付記2記載の薄膜トランジスタを画素トランジスタ又は画素トランジスタ及び周辺回路のトランジスタとする表示装置。
【0177】
[付記8]付記3記載の薄膜トランジスタを画素トランジスタとする表示装置。
【0178】
[付記9]付記4記載の薄膜トランジスタを画素トランジスタとする表示装置。
【0179】
[付記10]付記5記載の薄膜トランジスタを画素トランジスタとする表示装置。
【0180】
[付記11]前記遮光層が隣接する画素同士で分離されている、
付記6乃至10のいずれか一つに記載の表示装置。
【0181】
[付記12]前記一方の遮光層は、前記ポリシリコン能動層の最も画素側に位置する、
付記9記載の表示装置。
【0182】
[付記13]前記一方の遮光層は、前記ポリシリコン能動層の最も画素側に位置する、
付記10に記載の表示装置。