【課題】無電解めっき金属の均一付着性と導電性に優れた、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法を提供する。すなわち、無電解金属めっき液に、有機繊維材料の表面濡れ性を向上させるカチオン性界面活性剤を含有することにより、めっき金属の均一付着性と導電性に優れた、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法を提供する。
【解決手段】有機繊維材料の巻き糸体に無電解金属めっき処理する方法において、カチオン性界面活性剤含有無電解金属めっき液を用いる。有機繊維材料はポリエステル系連続繊維であり、巻き糸体はチーズ巻きとし、巻き密度は0.20〜0.60g/cm
である。カチオン性界面活性剤は、アルキルアンモニウムクロライドやアルキルアミン酢酸塩等であり、無電解金属めっきにおけるめっき金属は銅、銀、ニッケルである。上記の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法により、無電解金属めっき繊維を得る。
有機繊維材料の巻き糸体に無電解金属めっき処理する方法において、前記有機繊維材料の沈降速度が10秒以下/10cmであるカチオン性界面活性剤含有無電解金属めっき液を用いることを特徴とする有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法。
前記カチオン性界面活性剤が、アルキルアンモニウムクロライド、又は、アルキルアミン酢酸塩であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法。
無電解金属めっきにおけるめっき金属が銅、銀、又は、ニッケルであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法。
【背景技術】
【0002】
従来、有機繊維材料に無電解金属めっき処理を行う場合、代表的な処理方法として、リール・トゥ・リールめっき方式(有機繊維材料に連続してめっきを施す方法)とチーズめっき方式(有機繊維材料をチーズ状に巻き取った状態でめっきを施す方法)が知られている。
【0003】
リール・トゥ・リールめっき方式は、有機繊維材料のマルチフィラメント糸条を一本一本無電解金属めっき液に浸漬し 金属めっき化し、巻き取る方法で一番確実な製造方法である。品質保証に必須であり金属の付着性の指標となる、電気抵抗値(Ω/m)はオンラインで測定することが可能である。
しかしながら、めっき速度が10m/分以下と遅く、また数十本以上の多糸条化が困難なため、製造コストが高いという欠点がある。そのため、リール・トゥ・リールめっき方式により製造された金属めっき繊維は、特定用途にのみ実用化されている。
【0004】
チーズめっき方式は、有機繊維材料のマルチフィラメント糸を巻き量300〜1000gの巻き糸体とし一度に金属めっき化処理することができるため、製造コストの低減化が可能である。そのため、チーズめっき方式は、金属めっき繊維を汎用品として用途展開・用途拡大を図るため、精力的に技術開発が進められている。
しかしながら、チーズめっき方式では、金属めっき繊維の電気抵抗値が繊維の長さ方向で変動しやすい。そのため、チーズめっき方式において、めっき金属の付着性が均一で電気抵抗値の安定した金属めっき繊維の製品化が切望されている。
なお、電気抵抗値(Ω/m)の測定は、金属めっき繊維製造後、オフラインでの測定となる。
【0005】
従来、チーズめっき方式による有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に関しては、特許文献1、特許文献2および特許文献3が開示されている。
【0006】
特許文献1は、「高い白色度と導電性を兼ね備える白色導電糸とこれを安価に製造する方法および装置を提供する。」ことを課題とし、その解決手段として、「メッキ槽に多数の通液孔を有する管状の固定軸を設け、この固定軸に連続糸を巻装した巻糸体を装着し、上記固定軸を通じてメッキ液を巻糸体に浸透させることにより、固定軸から巻糸体内部を経てメッキ槽に流れ出す液流を形成し、この液流下で原糸に銀または白金メッキを施すことにより、白色度(L値)50以上、体積抵抗率100Ω・cm以下の白色導電糸を得る。」として開示しており、特に、白色導電糸とその製造方法および装置について述べている。
【0007】
特許文献2は、「繊維、繊維束や糸などに無電解めっきを均等に施す。」ことを課題とし、その解決手段として、「めっき液の供給管に、繊維、繊維束又は糸などを筒形状に巻いた巻き筒体を差し込み、供給管の噴出口から噴出するめっき液を巻き筒体の内周面から外周面に貫流させながら、さらに巻き筒体の回転による遠心力でめっき液の貫流を加速する。」ことを開示しており、特に、筒形状に巻いた巻き筒体のめっき液の内周面から外周面への貫流方法と装置について述べている。
【0008】
特許文献3は、「繊維、繊維束や糸などに無電解めっきを均等に付着する。」ことを課題とし、その解決手段として、「繊維、繊維束や糸などの巻き筒にめっき液を供給し、そのめっき液の析出反応が活発である間、めっき液が巻き筒を内側から外側又は外側から内側への一方向に流れる順方向と、めっき液が逆方向に流れる逆流工程とを交互に繰り返し、巻き筒の繊維、繊維束や糸などに無電解めっきを施す。順流工程と逆流工程との間には、めっき液が流れず巻き筒がめっき液に浸漬している滞留工程がある。また、めっき液は繊維、繊維束や糸などに金属が低速度で析出する低反応性の無電解めっき液である。」として開示しており、特に、無電解めっき液の巻き筒への均等浸漬と無電解めっき金属の均等付着について述べている。また、無電解めっき金属の均等付着性を向上させるために低反応性の無電解めっき液を使用している。
【0009】
上記特許文献1の技術は、導電糸を安価に製造する方法および装置について言及している。具体的には、メッキ槽において、連続糸を巻装した巻糸体にメッキ液を浸透させ、このメッキ液流下で原糸の無電解メッキを施している。連続糸を巻装した巻糸体にメッキ液を浸透させるために、巻糸体はソフト巻きのチーズ巻とし、巻密度は0.130〜0.182g/cm
3と低く、また、チーズ内部への薬液の浸透性を向上させるために、メッキ槽は加圧型とし、薬液循環用ポンプ圧は10Kg/cm
2、薬液の循環量は10L/分としている。
しかしながら、チーズ巻の巻密度が低い場合、チーズの巻き形状保持ができなくなる場合があり、また薬液循環用ポンプ圧が高いのでチーズ巻き内部で薬液がショートパスする可能性があり、薬液の均一処理が不十分となる。メッキ槽を加圧型にすることは、耐食性の高いメッキ設備仕様となり設備設置費用が高額となる。
特許文献1の技術は、メッキ薬液の均一処理を物理的な条件、例えば、巻き密度(g/cm
3)、メッキ槽の圧力(Kg/cm
2)、メッキ薬液の循環量(L/分)などで考えており、原糸表面の濡れ性については全く記述していない。
【0010】
上記特許文献2の技術は、繊維、繊維束や糸などに無電解めっきを均等に施すことについて言及しており、特にめっき液の巻き筒体への均等浸漬について述べている。
しかしながら、特許文献2の技術は、めっき液を巻き筒体の内周面から外周面に貫流させながら、巻き筒体を回転による遠心力で加速させる通液方法としてめっき液の流れを物理的に変えることにより、めっき液の浸漬を均等に施すとしているが、繊維表面の濡れ性を向上させる技術については全く言及がない。
【0011】
また、上記特許文献3の技術は、繊維、繊維束や糸などに無電解めっきを均等に付着することについて言及しており、特にめっき液の巻き筒への均等浸漬とめっき金属の均等付着について述べている。そして、めっき金属の均等付着性を向上させるための低反応性のめっき液について言及している。
しかしながら、特許文献3の技術はめっき液の巻き筒への通液方法を順工程、滞留工程、逆工程とめっき液の流れを物理的に変えることにより、めっき液の浸漬を均等にし、めっき金属の均等付着を得ようとしているが、繊維表面の濡れ性を向上させる技術については全く言及がない。また、めっき金属の均等付着性を向上させるために、めっき液を低反応性、すなわち繊維表面にめっき金属を低速度で付着するようにしているが、繊維表面の濡れ性を向上させる技術については全く言及がない。
【0012】
以上、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に関する、特許文献1、特許文献2および特許文献3には、無電解金属めっき液に有機繊維材料表面の濡れ性を向上させるカチオン性界面活性剤を添加して、有機繊維材料表面における無電解金属めっき液の浸透性を向上させ、繊維表面全体に均一な金属めっきを有し、導電性に優れた有機繊維材料の無電解金属めっきする化学的な処理方法に関しては、全く言及していない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、前記課題、つまり無電解金属めっき液の有機繊維材料表面との濡れ性不足、そして、それに起因する有機繊維材料表面における無電解金属めっき液の浸透性不足の改善について鋭意検討し、無電解金属めっき液に特定のカチオン性界面活性剤を添加し、かつ巻装された連続繊維である巻き糸体の巻き密度(g/cm
3)を特定範囲とすることにより、前記課題を解決する有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法を提供することができた。
【0019】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法は、有機繊維材料の沈降速度が10秒以下/10cmであるカチオン性界面活性剤含有無電解金属めっき液を用いることを特徴とする。有機繊維材料の沈降速度は、好ましくは8秒以下/10cm、更に好ましくは5秒以下/10cm、最も好ましくは3秒以下/10cmである。有機繊維材料の沈降速度が10秒以下/10cmであると、無電解金属めっき液と有機繊維材料表面との濡れ性が向上し、その結果、巻装された連続繊維である巻き糸体であっても、有機繊維材料表面における無電解金属めっき液の浸透性が向上する。有機繊維材料表面全体に均一な金属めっきを有し、導電性に優れた、無電解金属めっき繊維を得ることができる。
【0020】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いる有機繊維材料は、特に限定されないが、ポリエステル系連続繊維が好ましい。
ポリエステル系連続繊維であれば、各種めっき液で処理する場合、水溶液中での形態変化が小さく、また、繊維表面は、アルカリ水溶液などを用いて繊維表面を容易にエッチングすることができる。
ポリエステル系連続繊維の代表例として、芳香族ポリエステル繊維であるポリエチレンテレフタレート繊維、カチオン可染繊維、ミクロクレータ繊維などが挙げられる。また、全芳香族ポリエステル繊維であるポリアリレート繊維であってもよい。
ポリエステル系連続繊維には、めっき液の通過性を向上させるため、撚りを施すことが好ましい。延伸糸の場合には、50〜100T/mの撚りが好ましく、本発明の巻き糸体の場合には、特に、仮撚加工した糸の使用が好ましい。
【0021】
本発明の処理方法は、ポリアミド系連続繊維にも適用が可能である。ポリアミド系連続繊維として、脂肪族ポリアミド繊維、例えばナイロン6系繊維など、また、芳香族ポリアミド繊維、例えばアラミド系繊維などにも有効である。
【0022】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いる巻き糸体は、チーズ巻きの形状であり、巻き密度が0.20〜0.60g/cm
3であるものが好ましい。
巻き密度が0.20g/cm
3未満であると、巻き糸体を各種めっき液で処理する場合、糸が崩れ、メッキ斑が発生しやすくなる。また、巻き密度が0.60g/cm
3を超えると、各種めっき処理液の通過性が極端に悪くなる。
したがって、巻き密度は0.20〜0.60g/cm
3であり、好ましい巻き密度は、0.25〜0.55g/cm
3である。そして、特に好ましい巻き密度は、0.30〜0.50g/cm
3である。
なお、巻き密度(g/cm
3)は、ワインディング速度(m/分)、テンションウエイト、ワインド数、プレッシャーローラー圧などを調整して行った。
巻き密度(g/cm
3)は、巻き上がり後の形状を計測して巻き糸体の体積を算出し、糸の重さ500gを巻き糸体の体積で除算した。
【0023】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いるカチオン性界面活性剤は、特に限定されないが、アルキルアンモニウムクロライドやアルキルアミン酢酸塩等が好ましい。上述のカチオン性界面活性剤は、各種金属めっき液に溶解し、めっき液が濁ったり沈殿することはない。
有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法も、従来から使用されている各種金属めっき液と同様に取り扱うことができる。
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いるカチオン性界面活性剤は、アルキルアンモニウムクロライドが好ましい。
【0024】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いるカチオン性界面活性剤の添加率は、0.01〜5重量%である。好ましくは0.05〜3重量%、特に好ましくは0.05〜2重量%である。カチオン性界面活性剤の添加率が0.01重量%未満であると、無電解金属めっき液と有機繊維材料表面との濡れ性が向上しない。また、カチオン性界面活性剤の添加率を5重量%を超えても大きな効果が得られない。むしろ、泡が多量に発生し無電解金属めっき処理時に障害となる。
【0025】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いるめっき金属は、特に限定されないが、銅、銀、又はニッケルが好ましい。
めっき金属が銅、銀、又はニッケルであると、主たる成分である金属塩を含むめっき液の建浴方法、金属めっきする場合の還元剤の選定と添加方法など、無電解金属めっき処理方法が確立されている。
具体的な代表例として、
めっき金属が銅(Cu)の場合、主たるめっき成分は硫酸銅、ロッシェル塩であり、還元剤成分はホルマリン、水酸化ナトリウムを選定する。
めっき金属が銀(Ag)の場合、主たるめっき成分は硝酸銀、トリメチレンジアミンであり、還元剤はグルコース、メタンスルホン酸を選定する。
めっき金属がニッケル(Ni)の場合、主たる成分は硫酸ニッケル、クエン酸ナトリウムであり、還元剤は次亜リン酸ナトリウム、アンモニア水を選定する。
【0026】
本発明の無電解金属めっき繊維は、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法により製造されることを特徴とする。
本発明の、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法で製造することにより、繊維表面全体に均一に金属めっきを施すことができ、導電性に優れた、金属めっき繊維とすることができる。
【0027】
本発明の、有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法により製造された無電解金属めっき繊維は、有機繊維材料の全面にほぼ均一に金属皮膜を形成できるため、導電性に優れるとともに曲げや変形に柔軟に追随でき、従来の高分子有機繊維材料と同様に加工できる。特に、ポリエステル系繊維に対してめっき処理する場合には、繊維同士に均一な金属被膜を形成できるため、金属被膜が形成された繊維同士が互いに接触し、電気的に導通した状態を実現することができる。
【0028】
導電性及び加工性に優れた導電性繊維を用いることで、糸加工により信号線として用いることができ、また織物や編み物に加工して様々な形状の電磁波シールド材、スマートテキスタイルとして使用することができ、家電製品、情報通信機器、自動車等の幅広い分野において利用することが可能となる。
また、繊維自体が高強度である特長を有する有機繊維材料を使用する場合は、耐屈曲性が要求されるロボット用の信号線、航空宇宙関連分野の配線用導体として好適である。
【0029】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法は、以下の処理装置で行う。
【0030】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法に用いる処理装置は、
図1に示すように、めっき液処理槽1の中心部に管状軸2を設け、管状軸2は上端を閉じ、管状軸2の円周面には多数の液通過孔を設けている。
【0031】
巻き糸体Wは、巻き芯Bに有機繊維材料をチーズ巻きにしている。巻き芯Bは、円筒の円周面に多数の液通過孔を有している。
【0032】
巻き芯Bは、巻き糸体Wと一体となり管状軸2に装着され、めっき液処理槽1内に取り付けられる。管状軸2の上端は、外周をネジ状にしてあり、このネジをナット3で締め付ける。巻き芯Bと巻き糸体Wは、管状軸2から着脱可能とする。
【0033】
めっき液処理槽1の下にはめっき液貯蔵槽6を設ける。めっき液貯蔵槽6は、供給管9で管状軸2の下に接続してあり、めっき液処理槽1は巻き糸体Wより高い位置に設けた流出管11でめっき液貯蔵槽6に接続している。ポンプ10は、めっき液貯蔵槽6のめっき液をめっき液処理槽1の管状軸2内部に流し込む。逆止弁16は、管状軸2内部からポンプ10にめっき液が逆流しないようにしてある。めっき処理液は、めっき液貯蔵槽6、ポンプ10、供給管9、逆止弁16、そして管状軸2の内部からめっき液処理槽1に満たされた後、流出管11でめっき液貯蔵槽6に戻り、めっき液が巻き糸体Wの内側から外側に流れる順流通路を構成している。
【0034】
管状軸2の下には逆流管12を取り付け、めっき液処理槽1の下側からめっき液処理槽1の上部に接続されている。逆流管12には、ポンプ14、逆止弁17が取り付けられている。ポンプ14は、管状軸2の内部よりめっき液を吸い出し、逆流管12から電磁開閉弁13、ポンプ14、逆止弁17を通過して、めっき液処理槽1の上部に送液され、めっき液が巻き糸体Wの外側から内側に流れる逆流通路を構成している。
さらに、めっき液処理漕1の底板には、排出口を設け、この排出口を排出通路15でめっき液貯蔵漕6に接続している。排出通路15には、手動開閉弁18を介在している。
【0035】
順流通路と逆流通路は、順流制御装置と逆流制御装置で運転方法を制御する。順流制御装置は、予め設定した順流時間の間、ポンプ10を運転して、順流通路にめっき液を流す。逆流制御装置は、予め設定した逆流時間の間、電磁開閉弁13を開き、ポンプ14を運転して、逆流通路にめっき液を流す。順流制御装置と逆流制御装置は、めっき時間制御装置に接続されている。順流通路と逆流通路の切り替えを行うときには、滞留時間制御装置で、めっき液をめっき液処理槽1の巻き糸体Wに滞留させることもできる。
【0036】
本発明の有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法は、以下の方法で実施する。
【0037】
本発明の方法で有機繊維材料の無電解金属めっき処理を行う場合、管状軸2に巻き密度(g/cm
3)を調整した有機繊維材料の巻き糸体Wを取り付ける。めっき液貯蔵槽6に予め建浴した量の無電解金属めっき液を投入する。めっき液には、有機繊維材料の沈降速度が10秒以下/10cmとなるようにカチオン性界面活性剤を添加することができる。
【0038】
順流通路時は、予め設定した順流時間の間、電磁開閉弁13を閉じ、ポンプ10を運転して、順流通路にめっき液を流す。めっき液貯蔵槽6のめっき液は、ポンプ10から供給管9を経由して管状軸2に流れ込み、巻き糸体Wの内側から外側に通過し、めっき液処理槽1に流れこむ。めっき液処理槽1に流入しためっき液は、液面が上昇し、巻き糸体Wがめっき液で満たされる。めっき液がめっき液処理槽1の流出口を超えると、流出管11を経由して、めっき液貯蔵槽6に戻る。めっき液は、めっき液貯蔵槽6、ポンプ10から供給管9、管状軸2、めっき液処理槽1、流出管11へと液流を形成し、順流通路を循環する。
【0039】
逆流通路時では、予め設定した逆流時間の間、電磁開閉弁13を開き、ポンプ14を運転して、逆流通路にめっき液を流す。管状軸2内のめっき液は、ポンプ14から逆流管12を経由してめっき液処理槽1の上部に流れ込み、巻き糸体Wを外側から内側に通過し、管状軸2内部に流れ込む。めっき液は、管状軸2、ポンプ14から逆流管12、めっき液処理槽1へと液流を形成し、逆流通路を循環する。
【0040】
滞留時では、予め設定した滞留時間の間、ポンプ10もポンプ14も運転せず、巻き糸体Wは、めっき液処理装置1のめっき液中に浸漬され、滞留状態となる。
【0041】
以下に、本文および実例中に記述した物性の定義および測定方法は以下の通りである。
【0042】
[巻き密度]
ポリエステルマルチフィラメント繊維(84dtex/36f)500gをワインディングしてチーズ巻きの巻糸体とし、チーズ巻きの巻き糸体Wの外径(cm)と内径(cm)と高さ(cm)を測定し、次式により巻き密度(g/cm
3)を求めた。
【0043】
巻き密度(g/cm
3)=500g/〔外径(cm)×内径(cm)×高さ(cm)〕
【0044】
[沈降速度]
ポリエステルマルチフィラメント繊維(84dtex/36f)を無電解金属めっきの前処理でパラジウム触媒を付着させ、105℃の熱風乾燥機で60分乾燥する。触媒処理後の繊維を5cmサンプリングし、1000mlのビーカーに入った金属めっき液面上に浮かせ、ビーカーの底に沈むまでの時間(秒)を沈降速度(秒/10cm)として算出する。
沈降速度(秒/10cm)は、次のように評価した。
5秒以下で沈む(◎)
10秒以下で沈む(○)
10秒を超えて沈む(×)
無電解金属めっきの前処理とは、後述の<有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法>における(1)精練〜(5)アクセレーターまでの処理である。
【0045】
[金属めっき繊維の外観]
金属めっき繊維を真上から見た時に、外観の状態を目視により評価した。
光沢感のある金属めっき色(○)
やや光沢感ある金属めっき色(△)
光沢感のない金属めっき色(×)
【0046】
[めっき量(重量%)]
金属めっき繊維のめっき量(重量%)は、めっき後の金属重量増加分(g)をめっき前の繊維重量(g)で除して百分率を計算する。
【0047】
めっき量(重量%)
=めっき後の金属重量増加分(g)/めっき前の繊維重量(g)×100
【0048】
[電気抵抗値]
金属めっき繊維の電気抵抗値は、
図2のような治具に取り付けた4つのフリーローラーに金属めっき繊維を通し、HIOKI製の電気抵抗測定器を用い4端子法で測定した。特定長さに特定電流を流し、発生する電圧からオームの法則より電気抵抗値を計算する。電気抵抗値の測定長さは25cmとした。
【0049】
電気抵抗値(Ω/m)=測定した電気抵抗値(Ω)×(100/25)
【0050】
[金属めっきの均一性]
無電解金属めっきした巻き糸体Wの金属めっき繊維を10分の1ずつ紙管に巻き戻し、10サンプルについて電気抵抗値の平均値(Ω/m)を測定した。N=10の電気抵抗値の標準偏差(Ω/m)から変動係数(%)を算出し、次の内容で評価した。
非常に良好(◎): 変動係数 5%以下
良好(○) : 変動係数 5%超10%以下
やや良好(△) : 変動係数 10%超20%以下
良くない(×) : 変動係数 20%超
【0051】
変動係数(%)=電気抵抗値の標準偏差/電気抵抗値の平均値×100
【0052】
[金属めっきの導電性]
無電解金属めっきした巻き糸体Wの金属めっき繊維を10分の1ずつ紙管に巻き戻し、10サンプルについて電気抵抗値(Ω/m)を測定した。N=10の平均値を算出し、次の内容で評価した。
非常に良好(◎): 電気抵抗値 5〜 50Ω/m以下
良好(○) : 電気抵抗値 50Ω/m超100Ω/m以下
やや良好(△) : 電気抵抗値 100Ω/m超200Ω/m以下
良くない(×) : 電気抵抗値 200Ω/m超
【0053】
[総合評価]
上記、[沈降速度]、 [金属めっき繊維の外観]、 [金属めっきの均一性]、 [金属めっきの導電性]を次の内容で総合的に評価した。
非常に良好(◎) 良好(○) やや良好(△) 良くない(×)
【実施例】
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
【0055】
<有機繊維材料の無電解金属めっき処理方法>
図1に示すめっき装置を用い、ポリエステルマルチフィラメント繊維(84dtex/36f)の仮撚加工糸500gをワインディングして各種巻き密度(g/cm
3)のチーズ巻きの巻き糸体Wとした。巻き芯Bは、合成樹脂製または金属製で円筒の円周面に多数の液通過孔を有しており、外周面の巻き面積に対する液通過孔の総面積の割合である開口率は60%〜70%である。
これをめっき装置の固定軸2に設置し、以下の(1)精練、(2)エッチング処理、(3)表面調整処理、4)Sn−Pd触媒浸漬、(5)アクセレーターで前処理を行った後、(6)本発明の処理である無電解金属めっきを行った。
【0056】
〔前処理〕
(1)精練:
精練液を60℃でめっき槽に5分間循環させ、その後、イオン交換水を通して十分に洗浄した。
(2)エッチング処理:
次に、水酸化ナトリウム10wt%の溶液を70℃でめっき槽に10分間循環させ、その後、イオン交換水を通して5分間洗浄した。
(3)表面調整処理:
そして、ロームアンドハース電子材料社製の表面調整処理剤である1175Aの10%溶液をめっき槽に45℃で5分間循環させた後、イオン交換水を通して5分間洗浄した。
(4)Sn−Pd触媒浸漬:
さらに、奥野製薬工業社製のSn−Pd触媒浸漬処理剤であるOPC−80キャタリストの5%溶液をめっき槽に室温で5分間循環させた後、イオン交換水を通して十分に洗浄した。
(5)アクセレーター:
次いで、ロームアンドハース電子材料社製のアクセレーターである19Eの15%溶液をめっき槽に45℃の温度3分間循環させて活性化した。その後、イオン交換水を通して5分間洗浄した。
〔金属めっき〕
(6)無電解金属めっき処理(本発明):
以上の前処理によって、繊維表面に触媒を付着させた後に、金属めっき液(液温30℃)をめっき槽に循環させで金属めっきを行った。
金属めっき液に、カチオン性界面活性剤を添加した場合を実施例(本発明)、カチオン性界面活性剤を添加しない場合を比較例(従来の方法)とする。
【0057】
具体的な無電解金属めっき処理方法について述べる。
【0058】
無電解銅めっき液 <実施例1>と<比較例1>
チーズ巻きの巻き糸体Wは、巻き密度が0.40g/cm
3となるようにワインダーの張力などの巻き条件を選定した。巻き密度は0.41g/cm
3であった。
無電解銅めっき液の組成は、硫酸銅(10g/L)、ロッシェル塩(100g/L)、ホルマリン(10ml/L)、水酸化ナトリウム(10g/L)とし、カチオン性界面活性剤はデリオン(登録商標)A−264(竹本油脂社製):アルキルアンモニウムクロライドを金属めっき液に2wt%添加した。
【0059】
<実施例1>界面活性剤を添加した場合
(1)沈降速度 3秒/10cm ◎
(2)金属めっき繊維の外観 光沢のある銅色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 11.5Ω/m
標準偏差 0.51Ω/m
変動係数 4.42%
(3)金属めっきの均一性 ◎
(4)金属めっきの導電性 ◎
<比較例1>カチオン性界面活性剤を添加しない場合
(1)沈降速度 沈まない ×
(2)金属めっき繊維の外観 光沢のある銅色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 10.3Ω/m
標準偏差 1.41Ω/m
変動係数 13.75%
(3)金属めっきの均一性 △
(4)金属めっきの導電性 ◎
【0060】
無電解銀めっき液 <実施例2>と<比較例2>
チーズ巻きの巻き糸体Wは、巻き密度が0.35g/cm
3となるようにワインダーの張力などの巻き条件を選定した。巻き密度は0.32g/cm
3であった。
無電解銀めっき液の組成は、硝酸銀(8g/L)、トリメチレンジアミン(6ml/L)、グルコース(2g/L)、メタンスルホン酸(1ml/L)とし、カチオン性界面活性剤はデリオン(登録商標)A−264(竹本油脂社製)を金属めっき液に2wt%添加した。
【0061】
<実施例2>カチオン性界面活性剤を添加した場合
(1)沈降速度 3秒/10cm ◎
(2)金属めっき繊維の外観 銀白色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 7.8Ω/m
標準偏差 0.37Ω/m
変動係数 4.79%
(3)金属めっきの均一性 ◎
(4)金属めっきの導電性 ◎
<比較例2>カチオン性界面活性剤を添加しない場合
(1)沈降速度 沈まない ×
(2)金属めっき繊維の外観 銀白色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 6.8Ω/m
標準偏差 0.99Ω/m
変動係数 14.59%
(3)金属めっきの均一性 △
(4)金属めっきの導電性 ◎
【0062】
無電解ニッケルめっき液 <実施例3>と<比較例3>
チーズ巻きの巻き糸体Wは、巻き密度が0.50g/cm
3となるようにワインダーの張力などの巻き条件を選定した。巻き密度は0.52g/cm
3であった。
無電解ニッケルめっき液の組成は、硫酸ニッケル(30g/L)、クエン酸ナトリウム(40g/L)、次亜リン酸ナトリウム(30g/L)、アンモニア水(40ml/L)とし、カチオン性界面活性剤はデリオン(登録商標)A−264(竹本油脂社製)を金属めっき液に2wt%添加した。
【0063】
<実施例3>カチオン性界面活性剤を添加した場合
(1)沈降速度 5秒/10cm ◎
(2)金属めっき繊維の外観 ニッケル色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 86.0Ω/m
標準偏差 3.27Ω/m
変動係数 3.80%
(3)金属めっきの均一性 ◎
(4)金属めっきの導電性 ○
<比較例3>カチオン性界面活性剤を添加しない場合
(1)沈降速度 沈まない ×
(2)金属めっき繊維の外観 ニッケル色 ○
電気抵抗測定値(最外層〜中間層〜最内層 N=10)
平均値 88.6Ω/m
標準偏差 10.25Ω/m
変動係数 11.57%
(3)金属めっきの均一性 △
(4)金属めっきの導電性 ○
【0064】
本発明の<実施例>と<比較例>を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は、上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。