【課題】簡素な構成で回転機における界磁磁束を制御可能なコントローラ及びこれを用いた回転機制御システム、並びに上記コントローラの機能を実現するための制御プログラムを提供する。
【解決手段】コントローラ2によって制御される回転機1は、回転軸Sを中心に回転するロータ11と、ロータ11内に設けられる永久磁石12と、交流電流が供給されるステータ13と、を備える。永久磁石12の磁束の少なくとも一部は、交流電流がステータ13に供給されていない場合に、ロータ11内で短絡している。コントローラ2は、交流電流の位相及び大きさを制御可能に構成されている。コントローラ2は、交流電流がステータ13に供給されるときに、交流電流によって発生する磁束が永久磁石12の短絡路の一部を通過するよう交流電流の位相を決定する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、同一又は相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0016】
<回転機制御システムの構成>
図1に示すように、本実施形態に係る回転機制御システム10は、回転機1と、コントローラ2と、を備えている。
【0017】
[回転機]
図2は、コントローラ2によって制御される回転機1の模式図である。回転機1は、ロータ11と、永久磁石12と、ステータ13と、を備える。本実施形態では、回転機1が航空機や自動車等に用いられるスタータジェネレータ(電動発電機)であるものとして説明する。ただし、回転機制御システム10に用いられる回転機は、電動機としてのみ機能する回転機であってもよいし、発電機としてのみ機能する回転機であってもよい。
【0018】
ロータ11は、略円柱状に形成されており、回転軸S(
図1)を中心に回転する。ロータ11は、例えば、電磁鋼板、圧粉材、又はアモルファスなどの磁性材料で形成される。
図1に示すように、回転軸Sの一方端は、航空機や自動車等の動力源であるエンジン3に対し、直接的又は間接的に連結されている。回転機1は、エンジン3の始動に際して電動機として機能し、必要な動力をエンジン3に供給する。回転軸Sの他方端には、後述する主回路部22を介してバッテリ(図示略)が接続される。回転機1は、エンジン3の始動後に発電機として機能し、バッテリに必要な電力を供給する。
【0019】
図2に示すように、永久磁石12は、ロータ11内に設けられている。本実施形態では、説明の便宜上、ロータ11内に1つの永久磁石12が配置されているものとしたが、2以上の永久磁石をロータ11内に配置することもできる。永久磁石12は、ロータ11の径方向(
図2における上下方向)に沿って延びている。永久磁石12は、短手方向(
図2における左右方向)に着磁されている。
【0020】
図2において、ステータ13に交流電流が供給されていない場合の永久磁石12の磁束φ1
magを矢印で示す。以下、ステータ13に交流電流が供給されていない状態を無負荷状態と称し、ステータ13に交流電流が供給されている状態を負荷状態と称する。
【0021】
無負荷状態における永久磁石12の磁束φ1
magは、ロータ11内で短絡している。すなわち、磁束φ1
magは、永久磁石12のN極から出て、ロータ11の外部に出ることなくS極に戻る経路(短絡路)を通過している。
図2の例では、磁束φ1
mag全てがロータ11の外部に漏れることなくロータ11内で短絡している。しかしながら、無負荷状態における永久磁石12の磁束φ1
magは、その少なくとも一部がロータ11内で短絡していればよい。このように、無負荷状態における磁束φ1
magの少なくとも一部がロータ11内で短絡するよう構成することにより、例えば回転機1の緊急停止を要する場合に、誘起電圧を速やかに低下させ、回転機1をスムーズに停止させることができる。さらに、回転機1をスムーズに停止させることができるため、回転機1の焼損も防ぐことができる。
【0022】
ステータ13は、例えば、電磁鋼板、圧粉材、又はアモルファスなどの磁性材料で形成される。ステータ13は、ステータ本体131と、3つのステータティース132U,132V,132Wと、を含んでいる。本実施形態では、ステータ13は、3つのステータティース132U,132V,132Wを有しているがこれに限定されるものではなく、2又は4以上のステータティースを有することもできる。
【0023】
ステータ本体131は筒状に形成されている。ステータ本体131の内部には、ロータ11が配置されている。各ステータティース132U,132V,132Wは、ステータ本体131の内周面から径方向内側に突出している。各ステータティース132U,132V,132Wは、ロータ11に対向している。
【0024】
ステータティース132U,132V,132Wには、それぞれ、巻線5U,5V,5Wが形成されている。
図2の例では、巻線5U,5V,5Wは、集中巻形式でステータティース132U,132V,132Wに形成されている。ただし、複数のステータティースに対し、分布巻形式で巻線を形成することもできる。
【0025】
ステータ13には、交流電流が供給される。より詳細には、ステータ13の巻線5U,5V,5Wそれぞれに、U相交流電流Iu、V相交流電流Iv、及びW相交流電流Iwが供給される。つまり、本実施形態の回転機1は3相電動発電機である。
【0026】
[コントローラ]
コントローラ2は、回転機1を制御する。具体的には、コントローラ2は、ステータ13に供給する交流電流の位相及び大きさを制御する。
図1に示すように、コントローラ2は、制御部21と、主回路部22と、を備える。
【0027】
制御部21には、上位コントローラ(図示略)からトルク指令T及び速度指令ωが入力される。また、制御部21には、ロータ11に設けられる回転位置センサ(図示略)からロータ11の回転位置を示す回転位置信号θが入力される。制御部21には、さらに、回転機1と主回路部22との間に配置される電流センサ(図示略)から、ステータ13に流したU相交流電流Iu及びW相交流電流Iwを示すフィードバック信号Iu
f,Iw
fが入力される。
【0028】
制御部21は、トルク指令T、速度指令ω、回転位置信号θ、及びフィードバック信号Iu
f,Iw
fに基づいて、回転機1のステータ13に供給すべき交流電流の位相及び大きさを決定する。制御部21は、決定した位相及び大きさの交流電流を示す制御信号Cを生成し、主回路部22に出力する。
【0029】
主回路部22には、制御部21から制御信号Cが入力される。主回路部22は、制御信号Cに応じた3相交流電流Iu,Iv,Iwを生成し、ステータ13の巻線5U,5V,5Wに供給する。主回路部22には、バッテリ(図示略)が接続されている。主回路部22には、例えば交流電流を整流するためのコンバータ等、バッテリ以外の負荷が接続されていてもよい。
【0030】
<回転機制御システムの動作>
次に、上述のように構成された回転機制御システム10の動作について説明する。
【0031】
[始動モード]
まず、エンジン3を始動させる際(始動モード)の回転機制御システム10の動作について説明する。エンジン3を始動させる際、回転機1は、電動機として機能し、エンジン3に必要な動力を供給する。
【0032】
(コントローラによる処理)
図3は、始動モードにおいてコントローラ2が行う処理の概要を示すフローチャートである。
【0033】
まず、コントローラ2には、各種信号が入力される(ステップS11)。具体的には、コントローラ2の制御部21に、上位コントローラ(図示略)からトルク指令T及び速度指令ωが入力される。また、制御部21には、回転位置センサ(図示略)から回転位置信号θが入力される。ステータ13への通電が開始された後は、電流センサ(図示略)から制御部21にフィードバック信号Iu
f,Iw
fが入力される。
【0034】
制御部21は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相を決定する(ステップS12)。3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相は、巻線5U,5V,5Wに供給される3相交流電流Iu,Iv,Iwによって発生する磁束φ
EM1,φ
EM2(後述の
図4A)が、無負荷状態における永久磁石12の磁束φ1
mag(
図2)の短絡路の一部を通過するように決定される。以下、具体的に説明する。
【0035】
まず、制御部21は、回転機1においてトルクを発生させないようなU相交流電流Iuの位相をU相基準位相[単位:°]として決定する。ここでの「トルク」は、回転機1におけるマグネットトルク及びリラクタンストルクを合成したものである。制御部21は、U相基準位相−(45°±15°)の範囲に収まるように、U相交流電流Iuの位相を決定する。
【0036】
同様に、制御部21は、回転機1においてトルクを発生させないV相交流電流Iv及びW相交流電流Iwの位相を、それぞれV相基準位相及びW相基準位相[単位:°]とする。V相交流電流Ivの位相は、V相基準位相−(45°±15°)の範囲に収まるように決定される。W相交流電流Iwの位相は、W相基準位相−(45°±15°)の範囲に収まるように決定される。なお、3相交流電流Iu,Iv,Iwの各位相は、電気角で120°ずつずれている。
【0037】
例えば、巻線5Uの誘起電圧が0になるときのU相交流電流Iuの位相を0°とすると、通常、U相交流電流Iuの位相(電気角)が90°のときに回転機1におけるトルクが0となる。よって、巻線5Uの誘起電圧が0になるときのU相交流電流Iuの位相を0°とすれば、U相基準位相(電気角)は90°である。この場合、制御部21は、U相交流電流Iuの位相を{90°−(45°±15°)}の範囲、すなわち30°〜60°の範囲に設定する。
【0038】
V相交流電流Iv及びW相交流電流Iwの各位相も、U相交流電流Iuの位相と同様に決定することができる。すなわち、巻線5Vの誘起電圧が0になるときのV相交流電流Ivの位相を0°とすると、V相基準位相(電気角)は90°となる。巻線5Wの誘起電圧が0になるときのW相交流電流Iwの位相を0°とすると、W相基準位相(電気角)は90°となる。よって、V相交流電流Iv及びW相交流電流Iwの位相は、それぞれ、巻線5V,5Wの誘起電圧が0になるときのV相交流電流Iv及びW相交流電流Iwの位相を0°として、90°−(45°±15°)の範囲、すなわち30°〜60°の範囲に設定される。
【0039】
コントローラ2(主回路22)に接続されるバッテリ(図示略)の電圧は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相に応じて変化する。制御部21は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相に対応する電圧がバッテリの許容電圧を超えないように、必要に応じて3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相を調整する。
【0040】
交流電流の位相の決定方法は、上述の方法に限定されるものではない。例えば、制御部21は、回転機1で発生している磁束やトルク等の状態を検出しながら、3相交流電流Iu,Iv,Iwが発生させた磁束φ
EM1,φ
EM2(
図4A)が上述の短絡路の一部を通過するよう、3相交流電流Iu,Iv,Iwの各位相を調整することもできる。
【0041】
制御部21は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさ(振幅)を決定する(ステップS13)。始動モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさは、ステップS11で制御部21に入力された各種信号に応じて決定される。制御部21は、3相交流電流Iu,Iv,Iwに応じた電圧が主回路部22のバッテリ(図示略)の許容電圧を超えない範囲で、3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさを決定する。
【0042】
エンジン3の始動時においては、回転機1からエンジン3への出力が最大であることが好ましい。本実施形態の回転機1では、永久磁石12の短絡路の一部において磁気飽和が生じ、且つ、許容量を超えない範囲で最大の電流が流れたときに出力が最大となる。よって、エンジン3の始動時には、通常、3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EM1,φ
EM2(
図4A)によって永久磁石12の短絡路の一部で磁気飽和が生じ、且つ3相交流電流Iu,Iv,Iwが許容量を超えない範囲で最大となるよう、3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさが決定される。
【0043】
制御部21は、ステップS11で入力された各種信号、ステップS12で決定した3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相、及びステップS13で決定した3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさに基づき、制御信号Cを生成する(ステップS14)。制御部21は、制御信号Cを主回路部22に出力する。
【0044】
主回路部22は、制御部21から受け取った制御信号Cに基づき、3相交流電流Iu,Iv,Iwを回転機1におけるステータ13の各巻線5U,5V,5Wに供給する(ステップS15)。
【0045】
コントローラ2におけるステップS11〜ステップS15の処理は、CPU(Central Processing Unit)及び主記憶装置を備えるコンピュータにプログラムを実行させることにより実現することができる。この場合、ステップS11〜ステップS15の処理をコンピュータに実行させるための制御プログラムは、ハードディスク等の補助記憶装置に記憶させておけばよい。CPUは、エンジン3を始動するに際し、制御プログラムを補助記憶装置から主記憶装置にロードして実行することができる。
【0046】
(回転機の動作)
次に、始動モードにおいて、3相交流電流Iu,Iv,Iwが供給された回転機1の動作について説明する。
【0047】
回転機1では、ステータ13の各巻線5U,5V,5Wに供給された3相交流電流Iu,Iv,Iwによって磁束が発生する。
図4Aの例では、回転機1において、ステータティース132Vからステータティース132Uに向かう磁束φ
EM1、及びステータティース132Vから132Wに向かう磁束φ
EM2が発生している。磁束φ
EM1,φ
EM2は、上述の短絡路の一部を通過し、通過した部分において磁気飽和を生じさせる。
図4Aでは、回転機1において磁気飽和を生じた部分(磁気飽和部)を符号MS
M1,MS
M2で示している。
【0048】
回転機1において、3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EM1,φ
EM2が短絡路の一部を通過すると、この部分における磁気抵抗が大きくなる。このため、永久磁石12の磁束のうち、短絡路を通過する磁束φ1
magの量が少なくなり、ロータ11とステータ12との間のエアギャップに向かう磁束φ2
magの量が多くなる。3相交流電流Iu,Iv,Iwが大きくなって磁気飽和が生じると、永久磁石12の磁束はロータ11内で短絡できなくなる。永久磁石12の磁束φ2
magは、3相交流電流Iu,Iv,Iwが発生させた磁束φ
EM1,φ
EM2とともに、界磁磁束としてロータ11の回転に寄与する。すなわち、3相交流電流Iu,Iv,Iwが発生させた磁束φ
EM1,φ
EM2及び永久磁石12の磁束φ2
magの双方により、回転機1においてトルクが発生する。
【0049】
図4Bに、始動モードにおけるフェーザ図の例を示す。
図4Bにおいて、符号I
0は、回転機1に流れる電流を示し、符号Θは、電流I
0と永久磁石12の磁束φ2
magとがなす角度を示す。なお、E
fは誘導起電力、Vは端子電圧、jXI
0は同期リアクタンスである。δは負荷角(誘導起電力−端子電圧間の角度)、つまり誘導起電力E
fと端子電圧Vとがなす角度であり、θは、端子電圧Vと電流I
0とがなす角度である。
【0050】
一般に、永久磁石同期型の回転機では、電流I
0と負荷状態における永久磁石12の磁束φ2
magとの角度Θが90°となるように調整される。しかしながら、
図4Bの例では、角度Θは90°になっていない。本実施形態において、始動モードの角度Θは、90°よりも所定角度小さくなるように設定されている。なお、「所定角度」は、45°±15°の範囲の任意の角度とすることができる。すなわち、電流(交流電流)I
0の位相は、{90°−(45°±15°)}の範囲とすることができる。
【0051】
[始動モードから発電モードへの切替時]
次に、電動機として機能している回転機1を発電機として機能させるよう切り替える際の回転機制御システム10の動作について説明する。
【0052】
エンジン3が目標とする回転数に達して始動した後、回転機制御システム10は、始動モードから発電モードへと移行する。始動モードから発電モードへと移行する際における交流電流の位相及び大きさの制御は、特に限定されるものではない。
【0053】
例えば、コントローラ2は、回転機1に供給されている3相交流電流Iu,Iv,Iwを一旦0にし、その後、発電に適した位相となるよう3相交流電流Iu,Iv,Iwを調整することができる。また、例えば、コントローラ2は、主回路部22に接続されるバッテリ(図示略)の電圧を監視し、3相交流電流Iu,Iv,Iwがバッテリの許容電圧の上限を超えないよう、且つ許容電圧の下限を下回らないようにしつつ、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相が発電に適したものになるように位相をずらすこともできる。3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさは、必要とする電力等に応じて適宜決定すればよい。
【0054】
始動モードから発電モードへの切り替えのために必要な処理も、コンピュータによって実行することができる。すなわち、コンピュータのCPUは、始動モードから発電モードへと切り替える際、交流電流の大きさ及び位相を発電に適したものに調整する制御プログラムを補助記憶装置から主記憶装置にロードし、実行することができる。
【0055】
[発電モード]
エンジン3が安定した後、回転機1は発電機として機能し(発電モード)、主回路部22のバッテリ(図示略)に必要な電力を供給する。以下、発電モードにおける回転機制御システム10の動作について説明する。
【0056】
(コントローラによる処理)
図5は、発電モードにおいてコントローラ2が行う処理の概要を示すフローチャートである。
【0057】
コントローラ2には、各種信号が入力される(ステップS21)。具体的には、コントローラ2の制御部21に、上位コントローラ(図示略)からトルク指令T及び速度指令ωが入力される。発電モードにおけるトルク指令Tは、回転機1を発電機として機能させるための、いわゆるブレーキトルク指令である。制御部21には、回転位置センサ(図示略)から回転位置信号θが入力され、電流センサ(図示略)からフィードバック信号Iu
f,Iw
fが入力される。発電モードにおけるフィードバック信号Iu
f,Iw
fは、始動モードにおけるフィードバック信号Iu
f,Iw
fと逆向きの電流を示す信号である。
【0058】
制御部21は、ステータ13に供給するための3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相及び大きさを決定する(ステップS22及びステップS23)。制御部21は、発電モードに適した3相交流電流Iu,Iv,Iwがステータ13に供給されるよう、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相及び大きさを決定する。
【0059】
発電モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相は、3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EG1,φ
EG2(後述の
図6A)が永久磁石12の短絡路の一部を通過するように決定される(ステップS22)。発電モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相は、始動モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相とは異なる。以下、具体的に説明する。
【0060】
発電モードにおいて、制御部21は、U相基準位相+(45±15°)の範囲に収まるように、U相交流電流Iuの位相を決定する。また、制御部21は、V相基準位相+(45±15°)の範囲に収まるようにV相交流電流Ivの位相を決定し、W相基準位相+(45±15°)の範囲に収まるようにW相交流電流Iwの位相を決定する。U相基準位相、V相基準位相、及びW相基準位相は、始動モードにおけるU相基準位相、V相基準位相、及びW相基準位相と同一である。3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相は、始動モードと同様、電気角で120°ずつずれている。
【0061】
制御部21は、巻線5Uの誘起電圧が0になるときのU相交流電流Iuの位相を0°として、U相交流電流Iuの位相(電気角)を{90°+(45°±15°)}の範囲、すなわち120°〜150°の範囲に設定してもよい。このとき、制御部21は、巻線5Vの誘起電圧が0になるときのV相交流電流Ivの位相を0°として、V相交流電流Ivの位相(電気角)を120°〜150°の範囲に設定し、巻線5Wの誘起電圧が0になるときのW相交流電流Iwの位相を0°として、W相交流電流Iwの位相(電気角)を120°〜150°の範囲に設定する。
【0062】
制御部21は、始動モードと同様に、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相に対応する電圧がバッテリ(図示略)の許容電圧の上限を超えないように、必要に応じて3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相を調節する。
【0063】
なお、交流電流の位相の決定方法は、上述の方法に限定されるものではない。交流電流の位相は、例えば、回転機1における磁束やトルク等の状態を検出しながら適宜決定することもできる。
【0064】
制御部21は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさを決定する(ステップS23)。発電モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさは、ステップS11で制御部21に入力された各種信号に応じて決定される。3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさは、3相交流電流Iu,Iv,Iwに応じた電圧が主回路部22のバッテリ(図示略)の許容電圧の上限を超えない範囲で適宜決定すればよい。
【0065】
制御部21は、ステップS21で入力された各種信号、ステップS22で決定した交流電流の位相、及びステップS23で決定した交流電流の大きさに基づき、制御信号Cを生成する(ステップS24)。制御部21は、制御信号Cを主回路部22に出力する。
【0066】
主回路部22は、制御部21から受け取った制御信号Cに基づき、3相交流電流Iu,Iv,Iwを回転機1の各巻線5U,5V,5Wに供給する(ステップS25)。発電モードでは、始動モードと逆向きの3相交流電流Iu,Iv,Iwが供給される。また、発電モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさは、通常、始動モードにおける3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさよりも小さい。
【0067】
コントローラ2におけるステップS21〜ステップS25の処理は、コンピュータにプログラムを実行させることにより実現してもよい。この場合、コンピュータのCPUは、ステップS21〜ステップS25の処理をコンピュータに実行させるための制御プログラムを補助記憶装置から主記憶装置にロードして実行することができる。
【0068】
(回転機の動作)
次に、発電モードにおいて、3相交流電流Iu,Iv,Iwが供給された回転機1の動作について説明する。
【0069】
回転機1では、ステータ13の各巻線5U,5V,5Wに供給された3相交流電流Iu,Iv,Iwによって磁束が発生する。
図6Aの例では、回転機1において、ステータティース132Uからステータティース132Vに向かう磁束φ
EG1、及びステータティース132Wから132Vに向かう磁束φ
EG2が発生している。すなわち、発電モードでは、始動モードにおける磁束φ
EM1,φ
EM2(
図4A)と逆向きの磁束φ
EG1,φ
EG2が発生する。磁束φ
EG1,φ
EG2は、永久磁石12の短絡路の一部を通過する。
【0070】
回転機1において、3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EG1,φ
EG2が永久磁石12の短絡路の一部を通過すると、この部分における磁気抵抗が大きくなる。このため、永久磁石12の磁束のうち、短絡路を通過する磁束φ1
magの量が少なくなり、エアギャップへと向かう磁束φ2
magの量が多くなる。永久磁石12の磁束φ2
magは、始動モードと同様、3相交流電流Iu,Iv,Iwが発生させた磁束φ
EG1,φ
EG2とともに、界磁磁束としてロータ11の回転に寄与する。すなわち、3相交流電流Iu,Iv,Iwが発生させた磁束φ
EG1,φ
EG2及び永久磁石12の磁束φ2
magの双方により、回転機1においてブレーキトルクが発生する。
【0071】
回転機1の出力を最大にする場合、ロータ11内で磁気飽和が生じる大きさであって、且つ、許容量を超えない範囲で最大の3相交流電流Iu,Iv,Iwを流せばよい。
図6Aでは、3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EG1,φ
EG2により磁気飽和が生じ得る部分(磁気飽和部)を、符号MS
G1,MS
G2で示している。3相交流電流Iu,Iv,Iwが大きくなってロータ11内で磁気飽和が生じ、且つ許容量を超えない範囲で最大の3相交流電流Iu,Iv,Iwが回転機1に流れたとき、エアギャップに向かう永久磁石12の磁束φ2
magの量が最大となる。これにより、回転機1の出力を最大にすることができる。
【0072】
図6Bに、発電モードにおけるフェーザ図の例を示す。
図6Bに破線で示すように、本来、発電モード時の電流−I
0は始動モード時の電流I
0(
図4B)と逆向きになる。しかしながら、
図6Bでは、説明の便宜上、電流−I
0を逆ベクトルI
0とし、始動モードの電流I
0(
図4B)と同一象限内に記載している。
【0073】
図6Bに示すように、発電モード時の電流の逆ベクトルI
0と永久磁石12の磁束φ2
magとがなす角度(Θ−180°)は、90°よりも所定角度小さくなっている。「所定角度」は、45°±15°の範囲の角度である。電流−I
0と永久磁石12の磁束φ2
magとがなす角度(交流電流の位相)は、(360°−Θ)であり、例えば120°〜150°の範囲に設定される。
【0074】
[実施形態の効果]
上記回転機制御システム10では、始動モード及び発電モードにおいて、スタータ13に供給される3相交流電流Iu,Iv,Iwが磁束φ
EM1,φ
EM2又は磁束φ
EG1,φ
EG2を発生させる。磁束φ
EM1,φ
EM2,φ
EG1,φ
EG2は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相に応じて永久磁石12の短絡路の一部を通過し、エアギャップへと向かう永久磁石12の磁束φ2
magを発生させる。永久磁石12の磁束φ2
magは、磁束φ
EM1,φ
EM2,φ
EG1,φ
EG2はともに、回転機1において界磁磁束として機能する。3相交流電流Iu,Iv,Iwに基づく磁束φ
EM1,φ
EM2,φ
EG1,φ
EG2の量及び永久磁石12の磁束φ2
magの量は、3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさを制御することで調整される。このように、上記回転機制御システム10では、コントローラ2によって3相交流電流Iu,Iv,Iwの位相及び大きさを制御するだけで、トルクの発生に寄与する成分とともに永久磁石12の磁束をエアギャップに向かわせる成分を発生させ、且つ調整することができる。よって、回転機1における界磁磁束を容易に調整することができる。
【0075】
上記実施形態において、始動モードでは、3相交流電流Iu,Iv,Iwは、各相基準位相−(45°±15°)の範囲に収まるように設定される。一方、発電モードでは、3相交流電流Iu,Iv,Iwは、各相基準位相+(45°±15°)の範囲に収まるように設定される。このようにすることで、始動モードにおいて大きな動力をエンジン3に供給することができるとともに、発電モードにおいて大きな電力をバッテリ(図示省略)に供給することができる。
【0076】
上記実施形態において、コントローラ2は、始動モード時又は発電モード時に、永久磁石12の短絡路の一部で磁気飽和を生じさせるように3相交流電流Iu,Iv,Iwの大きさを制御することができる。これにより、エアギャップに向かう永久磁石12の磁束φ2
magの量を大きくすることができるため、回転機1からの出力を高めることができる。
【0077】
<変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態では、コントローラ2は1極3スロットの回転機1を制御していたが、本発明に係るコントローラが制御する回転機の極数及びスロット数は特に限定されるものではない。
【0079】
また、上記実施形態では、回転機1は3相交流電流Iu,Iv,Iwが供給されるよう構成されていたが、回転機に供給される交流電流の相数は特に限定されない。本発明に係るコントローラは、単相又は4相以上の交流電流が回転機に供給される場合であっても、上記実施形態と同様の方法で、交流電流の位相及び大きさを制御することができる。
【0080】
また、上記実施形態では、インナーロータ型の回転機1が用いられていたが、アウターロータ型の回転機であっても本発明のコントローラによって制御することができる。
【実施例】
【0081】
以下、各実施例によって本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明は下記の各実施例に限定されるものではない。
【0082】
[実施例1]
実施例1では、
図7Aに示す回転機1aにおいて、3相交流電流をステータ13aの巻線5aに供給した。巻線5aに供給する交流電流の大きさを一定に保って位相を変化させ、トルクの変化を確認した。ステータ13aのステータティース132aの数は60であり、これらのステータティース132aには分布巻形式で巻線5aが形成されている。回転機1aのロータ11a内には、複数の永久磁石12aが配置されている。無負荷状態において、各永久磁石12aの磁束のうち、一部の磁束φ1a
magがロータ11a内で短絡している。
【0083】
なお、実施例1に係る回転機1aでは、ステータティースの数を変更することもできる。例えば、回転機1aのステータティースの数は、分布巻形式で巻線5aが形成される場合、12の倍数とすることができる。また、集中巻形式で巻線5aが形成される場合、例えば、回転機1aのステータティースの数は6の倍数とすることができる。
【0084】
巻線5aに交流電流が供給されると、
図7Bに示すように、回転機1aにおいて磁束φaが発生する。磁束φaは、交流電流に基づく磁束φa
Eと永久磁石12aからエアギャップに向かう磁束φ2a
magとの合成磁束である。磁束φa
Eは、永久磁石12aの短絡路の一部を通過している。巻線5aに供給する交流電流が大きくなると、ロータ11a内において磁気飽和を生じる部分MSaが発生する。
【0085】
図7Cは、巻線5aに供給される交流電流のうちの任意の相(以下、A相と称する)について、交流電流の大きさを一定に保ちながら位相を変化させたときのトルクの変化を示すグラフである。ここでのトルクは、リラクタンストルク及びマグネットトルクを合わせたものである。
図7Cにおいて、横軸は、A相交流電流の位相(電気角)であり、A相の巻線5aの誘起電圧が0となる位相を0°としている。縦軸は、A相交流電流が供給された際に回転機1aで発生するトルクである。
【0086】
図7Cに示すように、A相交流電流に応じて発生するトルクは、A相交流電流の位相が90°のときに0となる。よって、実施例1において、本発明の「基準位相」に該当する位相は90°である。
【0087】
回転機1aを電動機として機能させる際のトルクのピーク値は、{90°−(45°±15°)}の範囲に存在する。よって、回転機1aを電動機として機能させる際、A相交流電流の位相を{90°−(45°±15°)}の範囲に設定すれば、高いトルクを発生させることができることがわかる。
【0088】
一方、回転機1aを発電機として機能させる際のトルク(ブレーキトルク)のピーク値は、{90°+(45°±15°)}の範囲に存在する。よって、回転機1aを発電機として機能させる際、A相交流電流の位相を{90°+(45°±15°)}の範囲に設定すれば、高いブレーキトルクを発生させることができることがわかる。
【0089】
図8は、各相交流電流の位相と電圧との関係の例を示している。
図8に示すように、各相交流電流の位相の変化に応じて、主回路部22(
図2)のバッテリに印加される電圧は変化する。各相交流電流の位相は、この位相に対応する電圧が
図8における許容電圧ラインLを超えないように設定される。回転機1aの回転数が小さければ、許容電圧ラインLは上昇する。すなわち、バッテリにおける許容電圧の上限値は、回転機1aの回転数が小さいほど高くなる。
【0090】
[実施例2]
実施例2では、
図9Aに示す回転機1bにおいて、3相交流電流をステータ13bの巻線5bに供給した。巻線5bに供給する交流電流の大きさを一定に保って位相を変化させ、トルクの変化を確認した。ステータ13bのステータティース132bの数は6であり、これらのステータティース132bには集中巻形式で巻線5bが形成されている。回転機1bのロータ11b内には、複数の永久磁石12bが配置されている。無負荷状態において、各永久磁石12bの磁束φ2a
magは、ロータ11b内で短絡している。
【0091】
巻線5bに交流電流が供給されると、
図9Bに示すように、回転機1bにおいて磁束φbが発生する。磁束φbは、交流電流に基づく磁束φb
Eと永久磁石12bからエアギャップに向かう磁束φ2b
magとの合成磁束である。磁束φb
Eは、永久磁石12bの短絡路の一部を通過している。巻線5bに供給する交流電流が大きくなると、ロータ11b内において磁気飽和を生じる部分MSbが発生する。
【0092】
図9Cは、巻線5bに供給される交流電流のうちの任意の相(以下、A相と称する)について、交流電流の大きさを一定に保ちながら位相を変化させたときのトルクの変化を示すグラフである。ここでのトルクは、リラクタンストルク及びマグネットトルクを合わせたものである。
図9Cにおいて、横軸は、A相交流電流の位相(電気角)であり、A相の巻線5bの誘起電圧が0となる位相を0°としている。縦軸は、A相交流電流が供給された際に回転機1bで発生するトルクである。
【0093】
図9Cに示すように、A相交流電流に応じて発生するトルクは、A相交流電流の位相が90°のときに0となる。よって、実施例2においても、実施例1と同様、本発明の「基準位相」に該当する位相は90°である。
【0094】
回転機1bを電動機として機能させる際のトルクのピーク値は、{90°−(45°±15°)}の範囲に存在する。よって、回転機1bを電動機として機能させる際、各相交流電流の位相を{90°−(45°±15°)}の範囲に設定すれば、高いトルクを発生させることができる。
【0095】
一方、回転機1bを発電機として機能させる際のブレーキトルクのピーク値は、{90°+(45°±15°)}の範囲に存在する。よって、回転機1bを発電機として機能させる際、各相交流電流の位相を{90°+(45°±15°)}の範囲に設定すれば、高いブレーキトルクを発生させることができることがわかる。
【0096】
なお、実施例2についても、実施例1と同様に、各相交流電流の位相は、その位相の交流電流を流したときにバッテリに印加される電圧が許容電圧の上限値を超えないように設定される。
【0097】
上記実施例1及び2より、回転機の構成が変化した場合であっても、交流電流の位相を基準位相−45°±15°の範囲とすれば、高いトルクを得られることがわかる。また、上記実施例1及び2からは、回転機の構成が変化した場合であっても、交流電流の位相を基準位相+45°±15°の範囲とすれば、高いブレーキトルクを得られることもわかる。なお、上記実施例1及び2では、巻線の誘起電圧が0のときの交流電流の位相を0°として、基準位相が90°に設定されている。