【解決手段】鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を、乳原料を含む発酵原料に添加して、乳酸発酵させ、次いで低温熟成させる発酵乳の製造方法、もしくは、乳原料を含む発酵原料を乳酸発酵させ、この発酵物に鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を添加し、次いで低温熟成させる発酵乳の製造方法により、発酵乳の良好な風味を残しながら、発酵乳に薫臭を付加することができる。
鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を、乳原料を含む発酵原料に添加して、乳酸発酵させ、次いで低温熟成させることを特徴とする、薫臭を付加した発酵乳の製造方法。
乳原料を含む発酵原料を乳酸発酵させ、この発酵物に鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を添加し、次いで低温熟成させることを特徴とする、薫臭を付加した発酵乳の製造方法。
前記乳酸発酵を、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)から選ばれた乳酸菌の1種又は複数種を用いて行う、請求項1〜5のいずれか1つに記載の薫臭を付加した発酵乳の製造方法。
【背景技術】
【0002】
燻製は、食品の保蔵方法の1つであり、桜等の木のチップを用いて、肉類、乳製品等を燻すことを指す。燻製で付加される薫臭は嗜好性を高めることでも知られており、スモークサーモン、スモークチーズ等はその薫臭が好まれている傾向がある。薫臭を付加した食品としては、ベーコン、ハム、サーモン、チーズ、鰹節等が挙げられる。
【0003】
食品に薫臭を付加する方法として、食品を燻製する以外に、例えば、(1)焙乾した木材の煙から得られた木酢液を蒸留して得られる、燻液を添加して薫臭を付加する方法、(2)薫臭を含む香料又は食品を添加して薫臭を付加する方法が知られている。
【0004】
薫臭を付与する技術として、特許文献1には、燻煙製品あるいは燻煙製品抽出エキスに、含硫アミノ酸類、含硫ペプチド類及び含硫ビタミン類等から選ばれる含硫化合物を添加して、燻煙香が増強されている燻製食品が開示されている。
【0005】
一方、魚節様の香味を付与する技術として、特許文献2には、香味改善剤を飲食品に微量添加することで、旨味等の呈味を増強し、魚節、鰹節をイメージさせるウッディー感、節感を付加する方法が開示されている。
【0006】
また、鰹節抽出物を利用する技術として、特許文献3には、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を有効成分とする酸味抑制剤を、酸味の強い酸性飲食品に添加する方法が、開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薫臭を付加した食品として、ベーコン、ハム、サーモン、チーズ、鰹節等が知られているが、これまで発酵乳(ヨーグルト)に薫臭を付与した製品は知られていない。
【0009】
近年、我が国での洋食化が進む中、本発明者らは、嗜好性の高い、薫臭を付加した発酵乳があれば、パン・野菜・肉に和える新しいタイプのソースとして好まれ、発酵乳の更なる用途拡大となるのではないかと考えた。
【0010】
しかしながら、発酵乳に燻液を添加して薫臭を付与しようとすると、むしろ炭様の臭いが強く現れて、発酵乳の風味が損なわれてしまうという問題があった。
【0011】
一方、特許文献3には、鰹節抽出物を有効成分とする酸味抑制剤が開示され、酸味を軽減できる食品の一つとしてヨーグルトが例示されているが、出来上がったヨーグルトに鰹節抽出物を添加しても、薫臭を効果的に付与することはできなかった。
【0012】
したがって、本発明の目的は、発酵乳の良好な風味を残しながら、薫臭を付加した発酵乳の製造方法、及び該方法によって得られる発酵乳を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法の第1は、鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を、乳原料を含む発酵原料に添加して、乳酸発酵させ、次いで低温熟成させることを特徴とする。
【0014】
本発明の薫臭を付加した発酵乳の第1の製造方法においては、前記発酵原料中に、前記鰹節抽出物を、固形分換算で0.2〜5.0質量%添加することが好ましい。
【0015】
一方、本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法の第2は、乳原料を含む発酵原料を乳酸発酵させ、この発酵物に鰹節から抽出して得られる鰹節抽出物を添加し、次いで低温熟成させることを特徴とする。
【0016】
本発明の薫臭を付加した発酵乳の第2の造方法においては、前記発酵物中に、前記鰹節抽出物を、固形分換算で0.2〜5.0質量%添加することが好ましい。
【0017】
また、本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法においては、前記低温熟成を、15℃以下の温度帯で1日以上行うことが好ましい。
【0018】
また、本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法においては、前記乳酸発酵を、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)から選ばれた乳酸菌の1種又は複数種を用いることができる。
【0019】
また、本発明の薫臭を付加した発酵乳の第1の製造方法においては、前記鰹節抽出物を、乳原料を含む発酵原料に添加して、容器に充填した後、発酵させることができる。
【0020】
また、本発明の薫臭を付加した発酵乳の第2の製造方法においては、前記発酵物に、前記鰹節抽出物を添加して混和後、容器に充填して、前記低温熟成を行うことができる。
【0021】
本発明の薫臭を付加した発酵乳は、上記のいずれか1つの製造方法にて得られたものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、発酵乳の良好な風味を残しながら、薫臭を付加した発酵乳を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明の薫臭を有する発酵乳の製造原料について説明する。
【0024】
本発明において、乳原料としては、牛乳、山羊乳などの哺乳動物の乳の他に、脱脂粉乳、全脂粉乳、練乳、生クリーム、乳蛋白なども用いることができる。特に、牛乳に脱脂粉乳を加えて成分調整した乳原料が好ましく用いられる。牛乳と脱脂粉乳を混合して乳原料とする場合、特に制約はないが、牛乳:脱脂粉乳の配合質量比(牛乳は液体質量、脱脂粉乳は粉の質量)は、100:0〜95:5が好ましく、100:0〜98:2が特に好ましい。牛乳には乳脂肪が多く含まれるため、牛乳のみから製造した発酵乳は濃厚な風味となるが、脱脂粉乳を増やしていくことで、発酵乳の風味を軽くすることができる。また、乳原料は、発酵乳製造工程における、脂肪分の分離や浮上を防ぐために、ホモジナイザーを用いて、脂肪球を細かく砕いておくことが好ましい。
【0025】
本発明においては、これら乳原料に、必要に応じて、甘味料、安定剤、乳化剤、酸味料、pH調整剤、着香料、着色料、風味調整剤、酸化防止剤などを添加することもできる。
【0026】
甘味料としては、例えば、砂糖、果糖、ブドウ糖、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖等)、トレハロース、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、還元パラチノース、キシリトール、ラクチトール等)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)を用いることができる。また、アスパルテーム等の高甘味度甘味料を用いることもできる。
【0027】
安定剤としては、特に限定されないが、例えば、アラビアガム、カラギナン、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、ローメトキシルペクチン(LMペクチン)、ハイメトキシルペクチン(HMペクチン)、グァーガム、タラガム、ローカストビーンガム、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、水溶性大豆多糖類、グルコマンナン、でん粉、化工でん粉、加工でん粉、デキストリン、ジェランガム、キサンタンガム、プルラン、カードラン、セルロース、カルボキシメチルセルロース塩、メチルセルロース、キチン、キトサン、ゼラチン等を用いることができる。
【0028】
また、風味を付与するため、例えば、ベリー類(イチゴ、ブルーベリー、ラズベリー、クランベリー等)、柑橘類(ミカン、オレンジ、グレープフルーツ、スウィーティー、キーライム、レモン等)、核果類(桃、杏、プラム、マンゴー、梅、チェリー、ライチ等)、バナナ、ぶどう、イチジク、梨、りんご、パイナップル、メロン、キーウィ、アセロラ、パッションフルーツ、パパイヤ、アサイー、ヤーコン等のフルーツ類の果肉・果汁や野菜、ナッツ類、チョコレート、ゼリー、キャラメルなどを添加することもできる。
【0029】
本発明において、乳酸発酵のために添加する乳酸菌スターターとしては、特に限定されないが、例えば、ラクトバシラス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ラクトコッカス属(Lactococcus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、リューコノストック属(Leuconostoc)等から選ばれた乳酸菌の1種又は複数種を用いることができる。
【0030】
本発明において、鰹節抽出物としては、鰹だし、鰹節エキス、粉末だし、もしくは鰹節エキス粉末を使用することができる。
【0031】
鰹だしとは鰹節から水で抽出した液体調味料のことであり、粉末だしとは鰹だしを乾燥させた粉末のことをいう。鰹節エキスとは鰹節からアルコールで抽出した液体調味料のことであり、鰹節エキス粉末とは鰹節エキスを乾燥させた粉末のことをいう。
【0032】
鰹節抽出原料には、粉砕した鰹節を用いる。抽出効率を上げるためには、鰹節の粉砕大を、3メッシュ以上に揃えることが好ましく、8〜32メッシュに揃えることができる。抽出溶媒としては、通常の調理・加工において用いられている水及び/又はエタノールを用いることが好ましい。鰹節抽出物を得るための抽出方法としては、特に限定されないが、例えば、多段抽出法、グラジエント抽出法又はドリップ抽出法を用いることができる。多段抽出法とは、アルコール濃度の異なるアルコール溶液を用いた抽出法において、抽出溶媒のアルコール濃度が段階的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味し、グラジエント抽出法とは、抽出溶媒のアルコール濃度が連続的に変化するように抽出原料に接触させてエキスを得る方法を意味する。また、ドリップ抽出法は、下部にフィルターを備えた容器に粉砕した鰹節を充填し、該鰹充填層の表面に抽出溶媒(水又はアルコール)を滴下して、前記表面に前記抽出溶媒が液溜めされない状態で通液し、フィルターを透過した液を回収して、鰹節抽出物を得る方法を意味する。これらの抽出方法の詳細については、例えば、本出願人による特許第3842284号公報、特許第4233235号公報、特許第4845630号公報などに記載されている。上記の方法等で得られた鰹節抽出物は、そのまま、又は、適宜濃縮、乾燥して用いることができる。
【0033】
鰹節抽出物の添加量の表記に関して、乾燥粉末で添加する場合は、粉末質量によって添加量を表記することができるが、液体として添加する場合は、液量と共に、液濃度も表記しなければならないので、本発明においては、上述した表記上の煩わしさを避けるために、鰹節抽出物の正味の配合量を、鰹節抽出物の固形分の質量で表記することとする。
【0034】
次に、本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法について説明する。
【0035】
本発明の薫臭を付加した発酵乳の製造方法には、乳原料を容器に充填してから発酵させる後発酵製法でも、乳原料を発酵させてから容器に充填する前発酵製法でも適用できる。
【0036】
本発明を後発酵製法に適用する場合には、(1)鰹節から抽出した鰹節抽出物を乳原料に添加して発酵原料を調合する工程と、(2)前記発酵原料を加熱殺菌する工程と、(3)前記発酵原料を所定の温度まで冷却する工程と、(4)前記発酵原料にスターター(乳酸菌)を添加する工程と、(5)前記発酵原料を容器に充填する工程と、(6)前記発酵原料を容器内で発酵させて発酵乳を得る工程と、(7)前記発酵乳を熟成させる工程とで行うことができる。
【0037】
本発明を前発酵製法に適用する場合には、(1)乳原料を含む発酵原料を調合する工程と、(2)前記発酵原料を加熱殺菌する工程と、(3)前記発酵原料を所定の温度まで冷却する工程と、(4)前記発酵原料にスターター(乳酸菌)を添加する工程と、(5)前記発酵原料をタンクで発酵させて発酵乳を得る工程と、(6)前記発酵乳に鰹節から抽出した鰹節抽出物を添加して撹拌する工程と、(7)前記発酵乳を容器に充填する工程と、(8)前記発酵乳を熟成させる工程とで行うことができる。
【0038】
以下には、後発酵製法について、更に具体的に説明する。
【0039】
本発明の後発酵製法において、前記乳原料に、前記鰹節抽出物、及び必要に応じてその他の原料を加え、撹拌混合して発酵原料とする。前記鰹節抽出物は、発酵原料中に固形分換算で0.2〜5.0質量%添加することが好ましく、1.0〜2.5質量%添加することがより好ましい。鰹節抽出物の添加量が0.2質量%よりも少ないと薫臭が薄くなる傾向があり、5.0質量%よりも多いと、鰹節の雑味が加わり、発酵乳の風味が損なわれる傾向がある。
【0040】
次に、前記発酵原料を殺菌する。殺菌方法としては、超高温瞬間殺菌(120〜150℃、1〜3秒)、高温短時間殺菌(72℃、15秒以上)、高温保持殺菌(75℃以上、15分間)、連続式低温殺菌(65〜68℃、30分)、低温保持殺菌(63〜65℃、30分)、又はフィルターろ過による無菌処理から、適宜選択できるが、薫臭や風味を損なわない殺菌方法として、超高温瞬間殺菌又は高温短時間殺菌が好ましく、低温保持殺菌が特に好ましい。
【0041】
次に、前記発酵原料に前記乳酸菌を含むスターターを混合し、出荷用の容器に充填、封止して、容器内で発酵させる。
【0042】
後発酵製法では発酵乳がゲル状に固まるため、発酵してから出荷用の容器に詰め替えると、ゲルが崩れて固液が分離し、好ましくない。前記容器は、腐食しないもの、衛生的に優れているもの、雑菌が入らないように密閉できるものが好ましく、ガラス容器、プラスチック容器、防水加工された紙パックなどが適する。
【0043】
本発明の後発酵製法において、発酵温度は30〜45℃が好ましく、37〜43℃が特に好ましい。発酵温度が、30℃よりも低いと発酵が進みにくく、45℃よりも高いと発酵が進み過ぎて酸味が強くなる傾向がある。発酵時間は、発酵温度に応じて適宜設定されるが、通常は12〜24時間であることが好ましい。発酵が終了したら、発酵乳を、好ましくは15℃以下の温度で1日以上、より好ましくは4〜10℃の温度で1〜2日間、低温熟成させることが好ましい。この低温熟成によって、薫臭が増強され、鰹節抽出物に由来する雑味が抑制される。そして、発酵乳の良好な風味を残しながら、薫臭を付加した発酵乳が完成する。
【0044】
以下には、前発酵製法について、更に具体的に説明する。
【0045】
本発明の前発酵製法においては、前記乳原料を含む発酵原料を、後発酵製法で説明した方法で殺菌した後、前記乳酸菌を含むスターターを混合し、タンクに充填して発酵させ、液状の発酵乳を得る。発酵温度は30〜45℃が好ましく、37〜43℃が特に好ましい。発酵温度が、35℃よりも低いと発酵が進みにくく、45℃よりも高いと発酵が進み過ぎて酸味が強くなる傾向がある。発酵時間は、発酵温度を考慮して適宜設定されるが、通常は12〜24時間であることが好ましい。
【0046】
発酵が終了したら、前記発酵乳に鰹節抽出物を添加、混合する。この場合、鰹節抽出物は、発酵乳中に固形分換算で0.2〜5.0質量%添加することが好ましく、1.0〜2.5質量%添加することがより好ましい。鰹節抽出物の添加量が0.2質量%よりも少ないと薫臭が薄くなる傾向があり、5.0質量%よりも多いと、鰹節の雑味が加わり、発酵乳の風味が損なわれる傾向がある。
【0047】
前記発酵乳に鰹節抽出物を添加した後、出荷用の容器に充填し、好ましくは15℃以下の温度で1日以上、より好ましくは4〜10℃の温度で1〜2日間、低温熟成させることが好ましい。この低温熟成によって、薫臭が増強され、鰹節抽出物に由来する雑味が抑制される。そして、発酵乳の良好な風味を残しながら、薫臭を付加した発酵乳が完成する。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。
【0049】
[実施例1]
前述した後発酵製法にしたがって、発酵乳を調製した。牛乳と、脱脂粉乳と、鰹節抽出物を所定の比率(表1〜3参照)で混合し、発酵原料を調合した。牛乳は、乳脂肪3.5質量部と無脂乳固形分8.3質量部を含む、雪印メグミルク社製の牛乳を使用した。脱脂粉乳は、雪印メグミルク社製の脱脂粉乳を使用した。鰹節抽出物は、鰹だし(焼津水産化学工業社製、商品名「風味氷結K−1」)を水で薄めて、固形割合を10質量%又は5質量%とした液体だし、もしくは固形割合が26質量%の液体の鰹節エキス(焼津水産化学工業社製、商品名「香り三昧 鰹S」)を使用した。発酵原料は、高温短時間殺菌法で殺菌し、乳酸菌(Streptcoccus thermophilus、Lactobacillus delbrueckii subsp. Bulgaricus)を含むスターターを2mg添加した後、容積100cm
3のポリプロピレン製容器に充填、封止し、発酵温度35℃で、15時間、発酵させた。発酵を終えた発酵乳は、4℃まで冷却し、その温度で、24時間保存して、低温熟成させた。完成した発酵乳を、次の官能評価方法にしたがって評価した。
【0050】
(官能評価方法)
10名のパネラーにより、薫臭及び発酵乳の風味について、各々を5段階で評価(10名×2項目×5段階)し、満点100点の合計スコアで、85点以上を◎、84〜75点を○、74〜60点を△、59点未満を×と判定した。
【0051】
薫臭(5段階評価の基準)
5:非常に強い薫臭がある。
4:強い薫臭がある。
3:薫臭が少し感じられる
2:薫臭がほとんどない。
1:薫臭が全くない。
【0052】
発酵乳の風味(5段階評価の基準)
5:発酵乳独特の非常に良い風味がある。
4:発酵乳独特の良い風味がある。
3:鰹節抽出物の雑味が少し感じられる。
2:鰹節抽出物の雑味が感じられる。
1:鰹節抽出物の強い雑味が感じられる。
【0053】
前記実施例1の結果を表1〜3に示す。表1は、後発酵製法において、固形割合10質量%の鰹だしの添加量を変えた場合の、評価結果を示す。表2は、同じく後発酵製法において、固形割合5質量%の鰹だしの添加量を変えた場合の、評価結果を示す。表3は、後発酵製法において、固形割合26質量%の鰹エキスの添加量を変えた場合の、評価結果を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表1〜3の結果から、だし由来の固形分が0.05質量%、0.1質量%、0.16質量%の場合は、発酵乳の風味は良いが、薫臭がやや弱い傾向であった。だし由来の固形分が0.2〜5.0質量%では、薫臭も良好に付与され、発酵乳風味も良好に維持される。しかし、だし由来の固形分が5.5質量%になると、発酵乳の風味が低下する傾向であった。
【0058】
[実施例2]
前述した前発酵製法にしたがって、発酵乳を調製した。牛乳と脱脂粉乳は、実施例1と同じ種類のものを使用し、所定の比率(表4参照)で混合し、発酵原料を調製した。発酵原料は、高温短時間殺菌法で殺菌し、乳酸菌(Streptcoccus thermophilus、Lactobacillus delbrueckii subsp. Bulgaricus)を含むスターターを2mg添加した後、容積100cm
3のポリプロピレン製容器に充填、封止し、発酵温度35℃で、15時間、発酵させた。次に、発酵を終えた発酵乳に、固形割合が10%の液体の鰹だし(焼津水産化学工業社製、商品名「風味氷結K−1」)を所定量添加(表4参照)し、撹拌混合した後、容積100cm
3の(材質)製容器に充填、封止して、4℃まで冷却し、その温度で、24時間保存して、低温熟成させた。完成した発酵乳について、実施例1と同様の官能評価方法にしたがって評価した。その結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示されるように、だし由来の固形成分が0.10質量%の場合は、発酵乳の風味は良いが、薫臭スコアがやや弱い傾向であった。だし由来の固形分が0.2〜5.0質量%では、薫臭も良好に付与され、発酵乳風味も良好に維持されることがわかる。しかし、だし由来の固形分が5.5質量%になると、発酵乳の風味が低下する傾向であった。
【0061】
[比較例]
実施例2と同様にして得られた発酵乳に、市販の鰹節フレーバー(高砂香料工業社製、商品名「カツオブシフレーバー F」)、シーズニングオイル(焼津水産化学工業社製、商品名「鰹節オイル」)を添加して、実施例1,2と同様な容器に充填、封止した。完成した発酵乳について、実施例1と同様の官能評価方法にしたがって評価した。その結果を表5に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
表5に示されるように、鰹節フレーバーや、シーズニングオイルを添加した場合は、薫臭の付与効果が弱く、発酵乳の風味も弱くなることがわかる。鰹節フレーバーについては、鰹節全体の臭いが付与されているものの、薫臭に特化した付与効果では無かった。そのため、発酵乳の風味は、薫臭の付いたものではなく、発酵乳に鰹節を混ぜた味に感じるため、発酵乳自体の風味を損ね、スコアが下がることになった。シーズニングオイルについては、発酵および熟成の段階を経る事で鰹節臭が変化し、それに伴い、薫臭付与効果が低下した。また、分離したオイル分の影響で味にまとまりがなくなり、発酵乳の風味を損なう結果となった。
【0064】
なお、鰹節フレーバーは、水、アルコール等の溶媒を用いて鰹節を抽出し、蒸留、減圧下で揮発性成分を回収して得られるものである。シーズニングオイルは、抽出溶媒としてオイルを用いて鰹節を抽出し、最終的に油溶性成分を含むオイルを回収して得られるものである。
【0065】
鰹節フレーバーは、鰹節の風味が全体的に強いことが特徴で、薫臭以外の風味も強めるため、発酵乳の味を損ねる結果となったと考えられる。一方、シーズニングオイルは、発酵、熟成時に風味が弱くなり、またオイル分が発酵乳に馴染まず、発酵乳の風味を損ねる結果となったと考えられる。
【0066】
[実施例3]
本発明の製造工程において、熟成温度の違いから生じる、薫臭成分の違いについて評価した。熟成温度として4℃、15℃、20℃の3水準を試し、発酵乳の臭気成分に含まれるフェノール含有量を後述するガス分析法によって比較した。
【0067】
後発酵製法によるサンプルは、牛乳96.5質量%、脱脂粉乳2質量%、固形割合26質量%の鰹エキスを1.5質量%含む発酵原料を用い、実施例1に記載した後発酵製法の手順で、薫臭を有する発酵乳を得た。
【0068】
一方、前発酵製法によるサンプルは、牛乳96.5質量%、脱脂粉乳2質量%を含む、乳原料から、実施例2に記載した前発酵製法の手順で発酵乳を得た後、発酵乳に対して、固形割合26質量%の鰹エキスを1.5質量%になるように添加し、薫臭を有する発酵乳を得た。
【0069】
(ガス分析法)
Agilent社製のガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)によって、発酵乳に含まれるフェノール含有量を評価した。
【0070】
発酵乳5gを水5gに分散させたもの10gをバイアル中に移し、標準物質のシクロヘキサノールを一定量添加後、50℃で2時間撹拌し、密閉したバイアル中の揮発性成分をツイスターに吸着させた。続いて、ツイスターは速やかにGC/MS分析器に適し、クロマトグラフィーを行い、薫臭に関わるフェノール関連物質の信号ピークを積分して、発酵乳に含まれるフェノール含有量を求めた。また、サンプル間の比較は、標準物質のシクロヘキサノール量で補正することで行った。
【0071】
後発酵製法では、低温熟成前(発酵終了直後)にフェノール含有量を測定して初期値とし、低温熟成(24時間)後にフェノール含有量を再測定して最終値とし、初期値を1とした時の最終値の比率を薫臭の指標とした。
【0072】
前発酵製法では、低温熟成前(鰹エキス添加直後)にフェノール含有量を測定して初期値とし、低温熟成(24時間)後にフェノール含有量を再測定して最終値とし、初期値を1とした時の最終値の比率を薫臭の指標とした。
【0073】
低温熟成によってフェノール含有量が増加すれば、上記の薫臭指標は1.0以上となり、判定は○とする。フェノール含有量が減少するものの、上記の薫臭指標が0.5以上のものは判定を△とし、上記の薫臭指標が0.5未満となったものは、判定は×とする。
【0074】
得られた発酵乳について、実施例1と同様にして官能評価を行った。これらの結果を表6に示す。
【0075】
【表6】
【0076】
表6には、低温熟成前のフェノール含有量を1とし、低温熟成後のフェノール含有量が低温熟成前に対して比率で示されている。
【0077】
後発酵製法において、熟成温度20℃では指標が0.9と、フェノールが減少し、官能評価は△になっている。熟成温度15℃では指標が1.19と、フェノールが増加し、官能評価は○になる。熟成温度4℃では指標が1.34と、フェノールが更に増加し、やはり官能評価は○になる。
【0078】
一方、前発酵製法において、熟成温度20℃では指標が0.88と、フェノールが減少し、官能評価は△になっている。熟成温度15℃では指標が1.09と、フェノールが増加し、官能評価は○になる。熟成温度4℃では指標が1.37と、フェノールが更に増加し、やはり官能評価は○になる。
【0079】
以上に示したように、後発酵製法についても、前発酵製法についても、15℃以下で低温熟成することにより、よりフェノールが増えて薫臭が増し、風味においても満足できる発酵乳が得られた。