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特開2015-212005黒鉛−銅複合電極材料及びその材料を用いた放電加工用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2015-212005(P2015-212005A)
(43)【公開日】2015年11月26日
(54)【発明の名称】黒鉛−銅複合電極材料及びその材料を用いた放電加工用電極
(51)【国際特許分類】
   B23H 1/06 20060101AFI20151030BHJP
   B23H 9/00 20060101ALI20151030BHJP
   C01B 31/02 20060101ALI20151030BHJP
   H01B 1/04 20060101ALI20151030BHJP
【FI】
   B23H1/06
   B23H9/00 Z
   C01B31/02 101A
   H01B1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-211060(P2014-211060)
(22)【出願日】2014年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-83661(P2014-83661)
(32)【優先日】2014年4月15日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126963
【弁理士】
【氏名又は名称】来代 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100131864
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 正憲
(72)【発明者】
【氏名】神田 正男
(72)【発明者】
【氏名】太田 直人
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 清
(72)【発明者】
【氏名】岡田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】大西 基喜
(72)【発明者】
【氏名】並木 威之
【テーマコード(参考)】
3C059
4G146
5G301
【Fターム(参考)】
3C059AA01
3C059AB01
3C059DC06
3C059DC07
3C059DC08
3C059HA01
4G146AA02
4G146AA16
4G146AB05
4G146AC04A
4G146AC04B
4G146AC20A
4G146AC20B
4G146AC22A
4G146AC22B
4G146AD11
4G146AD17
4G146AD22
4G146AD23
4G146CB20
4G146CB34
5G301BA02
5G301BA10
(57)【要約】
【課題】実用レベルまで電極消耗を低減させることができる黒鉛−銅複合電極材料及びその材料を用いた放電加工用電極の提供を目的としている。
【解決手段】黒鉛材料からなる基材の気孔中に、銅が含浸された黒鉛−銅複合電極材料であって、電気抵抗率が2.5μΩm以下、好ましくは1.5μΩm以下、特に好ましくは1.0μΩm以下である黒鉛−銅複合電極材料である。上記黒鉛材料からなる基材の異方比は1.2以下であることが望ましく、電極材料中の銅の含浸率φが13%以上であることが望ましく、上記黒鉛材料からなる基材のかさ密度が1.40Mg/m以上1.85Mg/m以下であることが望ましい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
黒鉛材料からなる基材の気孔中に、銅が含浸された黒鉛−銅複合電極材料であって、
電気抵抗率が2.5μΩm以下であることを特徴とする黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項2】
上記電気抵抗率が1.5μΩm以下である、請求項1に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項3】
上記電気抵抗率が1.0μΩm以下である、請求項1に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項4】
上記黒鉛材料からなる基材の異方比が1.2以下である、請求項1〜3の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項5】
下記(1)式から求められる電極材料中の銅の含浸率φが13%以上である、請求項1〜4の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
φ=[(d−dB,s)/ρCu]×100・・・(1)
(1)式において、dは電極のかさ密度、dB,sは黒鉛材料からなる基材のかさ密度、ρCuは銅の比重(ρCu=8.96Mg/m)である。
【請求項6】
下記(2)式から求められる変数xが7.5以下である、請求項1〜5の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
x=(d×φ×ρ/σ)×10・・・(2)
(2)式において、dは電極のかさ密度(Mg/m)、φは銅の含浸率(%)、ρは電気抵抗率(μΩm)、σは曲げ強さ(MPa)である。
【請求項7】
上記(2)式から求められる変数xが6.5以下である、請求項6に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項8】
上記黒鉛材料からなる基材のかさ密度が1.40Mg/m以上1.85Mg/m以下である、請求項1〜7の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項9】
上記黒鉛材料からなる基材の開気孔率が、14vol%以上である、請求項1〜8の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項10】
上記黒鉛材料からなる基材の電気抵抗率が、8.9μΩm以上19.5μΩm以下である、請求項1〜9の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項11】
熱間等方加圧法(HIP法)を用いて上記銅の含浸を行う、請求項1〜10の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料。
【請求項12】
炭化タングステンを主成分とする超硬を放電加工により型彫り加工を施す際に用いられる放電加工用電極であって、
請求項1〜11の何れか1項に記載の黒鉛−銅複合電極材料からなることを特徴とする放電加工用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒鉛−銅複合電極材料及びその材料を用いた放電加工用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、放電加工用電極材料として銅、カ−ボン材料である黒鉛、タングステン−銅、タングステン−銀、黒鉛−銅などの材料等が用いられている。特に、超硬合金等の高融点の難削材料の放電加工には、これらの中でも、タングステン−銅、タングステン−銀、黒鉛−銅材料が使用されている。
【0003】
これらの材料はそれぞれ放電加工用材料としての特徴を有しているが、銅は融点が低く高融点の超硬合金材料の放電加工用材料としては適していない。タングステン−銅およびタングステン−銀材料はそれ自身の融点が高く、高融点で難削材料である超硬合金材料等の放電加工を低消耗で行うことができる。しかしながら、電極形状への機械加工性に乏しく、しかも、材料費や製造費用が黒鉛系材料に比べて極めて高価であるという課題を有していた。黒鉛単体および黒鉛−銅材料は、タングステン−銅やタングステン−銀材料に比べて安価であり、機械加工性にも優れる。しかしながら、電極消耗が多いという課題を有していた。
【0004】
ここで、タングステン−銅系電極の機械加工性を改善する目的で金属溶浸法によりタングステン粉末中に銅を溶浸し放電電極を製造する方法が開示されている(下記特許文献1)。しかしながら、該製造方法では、その製法上、銅とタングステンとの比率を変えることは難しいため、上述したタングステン−銅からなる材料の課題を解決できない。
また、焼結法によって、銅−タングステン合金を製造する方法がる開示されている(下記特許文献2)。しかしながら、該製造方法では、電極サイズが大きい場合には均一な組成の材料を得ることは難しく、しかも、成形性改善のための助剤の添加は却って放電特性を損なうことがあるといった課題を有する。
【0005】
一方、黒鉛−銅材料で電極消耗が多くなる要因としては、当該材料を電極として用いた場合には、熱がこもりやすく、アークが発生し易くなることに起因すると考えられる。そこで、これを改善する方法としてシリコンを含むアルミニウムを黒鉛材料に溶融含浸させる方法が開示されている(下記特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−9264号公報
【特許文献2】特開平8−199280号公報
【特許文献3】特開2004−209610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3に示す放電加工用電極材料であっても、実用レベルまで電極消耗を低減させることができないという課題を有していた。
【0008】
そこで本発明は、実用レベルまで電極消耗を低減させることができる黒鉛−銅複合電極材料及びその材料を用いた放電加工用電極の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、黒鉛材料からなる基材の気孔中に、銅が含浸された黒鉛−銅複合電極材料であって、電気抵抗率が2.5μΩm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実用レベルまで電極消耗を低減させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】材料A1〜A7における基材の開気孔率と銅含浸率との関係を示すグラフである。
図2】材料A1〜A7における銅含浸率と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図3】材料A1〜A7における電気抵抗率と電極消耗率との関係を示すグラフである。
図4】材料A1〜A7における変数xと加工速度及び電極消耗率との関係を示すグラフである。
図5】材料A1の光学顕微鏡による断面写真である。
図6】材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における基材の開気孔率と銅含浸率との関係を示すグラフである。
図7】材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における銅含浸率と電気抵抗率との関係を示すグラフである。
図8】材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における電気抵抗率と電極消耗率との関係を示すグラフである。
図9】材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における変数xと加工速度及び電極消耗率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、銅−タングステンや銅−銀材料に比べて安価な黒鉛−銅材料について上記従来技術の問題点を実用レベルで解決し、緻密かつ軽量で、電極消耗性が実用に耐えうるレベルで抑制された銅含浸黒鉛材料を得るべく鋭意検討の結果、均質で適度な気孔率を有する高温材料である黒鉛材料に銅を含浸した場合、電極の電気抵抗率が2.5μΩm以下(好ましくは1.5μΩm以下、より好ましくは1.0μΩm以下)となり、これによって、電極消耗を飛躍的に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は、黒鉛材料からなる基材の気孔中に、銅が含浸された黒鉛−銅複合電極材料であって、電気抵抗率が2.5μΩm以下であることを特徴とする。
電気抵抗率が2.5μΩm以下の黒鉛−銅複合電極材料を用いた場合には、超硬の放電加工において、黒鉛−銅複合電極の電極消耗率が低減する。また、タングステン−銅、又はタングステン−銀を電極として使用する場合に比べ、電極形状へ容易に加工できると共に、低コストで電極を作製することが可能となる。
【0014】
上記電気抵抗率が1.5μΩm以下であることが望ましく、特に、上記電気抵抗率が1.0μΩm以下であることが望ましい。
このような構成であれば、上記作用効果が一層発揮される。
【0015】
上記黒鉛材料からなる基材の異方比が1.2以下であることが望ましい。
異方比が1.2以下の等方性の高い黒鉛材料(以下、等方性黒鉛材料と称することがある)は、切り出し方向による特性差が小さいため設計が容易で使い易く、しかも、機械加工性に優れているので精密な加工が容易となる。このようなことを考慮すれば、異方比は1.1以下であることが一層好ましい。
尚、異方比が1.2以下であるとは、黒鉛材料における任意に直角をなす方向に測定した電気抵抗率の比の平均値が1.2以下であることを意味する。
【0016】
また、等方性黒鉛材料としては、通常はコ−クス等の骨材にピッチ等のバインダ−を加えて混練した後、冷間等方圧加圧成形を施し、焼成、黒鉛化に必要に応じてピッチ含浸、再焼成、樹脂含浸、高純度化等の工程を経た、炭素のみから実質的に成る材料乃至は炭素を主成分とする材料から成り、ピッチ含浸品、樹脂含浸品等の含浸品を包含するいわゆる黒鉛化品等の等方性黒鉛材料を包含する。
【0017】
下記(1)式から求められる電極材料中の銅の含浸率φが13%以上であることが望ましい。
φ=[(d−dB,s)/ρCu]×100・・・(1)
(1)式において、dは電極のかさ密度、dB,sは黒鉛材料からなる基材のかさ密度、ρCuは銅の比重(ρCu=8.96Mg/m)である。
銅の含浸率φが大きくなると電極抵抗値が低くなる。そして、電極抵抗値と電極消耗率との間には、電極抵抗値が低くなると電極消耗率も低くなるという関係がある。したがって、銅の含浸率φが13%以上とすれば、電極抵抗値が低くなるので、電極消耗率が飛躍的に低減する。このようなことを考慮すれば、電極材料中の銅の含浸率φが15%以上であることが一層望ましい。
【0018】
下記(2)式から求められる変数xが7.5以下、特に6.5以下であることが望ましい。
x=(d×φ×ρ/σ)×10・・・(2)
(2)式において、dは電極のかさ密度(Mg/m)、φは銅の含浸率(%)、ρは電気抵抗率(μΩm)、σは曲げ強さ(MPa)である。
放電加工電極では、低い電極消耗率で、且つ高い加工速度が要求される。各々の要求品質は相反する特性により発現される場合が多いが、特性値から求められる変数xを小さい値に留めることで、バランスのとれた性能を発揮させることが出来ることを本発明者らは見出した。このようなことを考慮すれば、変数xの値は、5.0以下であることが一層望ましい。
【0019】
上記黒鉛材料からなる基材のかさ密度は1.40Mg/m以上1.85Mg/m以下であることが望ましい。
黒鉛材料からなる基材のかさ密度が1.40Mg/m未満の場合には、基材強度が低下する場合がある一方、当該かさ密度が1.85Mg/mを超えると、基材の開気孔率が小さくなるため、銅の含浸率が低下するからである。このようなことを考慮すれば、黒鉛材料からなる基材のかさ密度が1.60Mg/m以上1.80Mg/m以下であることが一層望ましい。
【0020】
上記黒鉛材料からなる基材の開気孔率が、14vol%以上であることが望ましい。
基材の開気孔率が14vol%未満になると、銅が含浸され難くなるため、電気抵抗率の低下が不十分となったり、電極消耗率が高くなったりすることがある。
【0021】
上記黒鉛材料からなる基材の電気抵抗率が、8.9μΩm以上19.5μΩm以下であることが望ましい。
基材の電気抵抗率が8.9μΩm未満になると、黒鉛化の進行が高度になって、黒鉛基材自体の強度が低下するため、放電加工時の電極消耗率が高くなる恐れが生じる。一方、基材の電気抵抗率が19.5μΩmを超えると、黒鉛化の進行が低度であり、黒鉛基材自体の強度が高くなり過ぎて、切削等の機械加工による電極形成が難しくなる恐れがある。
基材の電気抵抗率は、より好ましくは10.0μΩm以上であり、更に好ましくは11.0μΩm以上 である。
【0022】
熱間等方加圧法(HIP法)を用いて上記銅の含浸を行うことが望ましい。
当該方法であれば、等方性黒鉛材料基材の各面に対して均等に圧力が加わるため、銅の含浸中に等方性黒鉛材料基材が変形するのを抑制することができるからである。
但し、銅の含浸は熱間等方加圧法に限定するものではなく、溶湯鍛造法等であっても良い。
【0023】
炭化タングステンを主成分とする超硬を放電加工により型彫り加工を施す際に用いられる放電加工用電極であって、上述した黒鉛−銅複合電極材料からなることを特徴とする。
【0024】
(その他の事項)
(1)HIP法による銅含浸に際しては、特性を損なわない範囲で、黒鉛と銅との界面の濡れ性を改善する含浸助剤を加えてもよい。これらの助剤としては、チタン、ジルコニウム、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ハフニウム及びそれらの化合物を例示できる。但し、含浸助剤の種類はこれらに限定するものではない。
この場合、含浸助剤の量は0.5〜10重量%にあることが好ましい。0.5重量%未満では濡れ性の改善が十分に得られないことがあり、10重量%を超えると含浸後の残存銅合金と銅含浸黒鉛材との分離が困難になることがあるためである。
【0025】
(2)銅含浸は、例えば耐圧容器を用い、銅合金を炭素製等のセラミック容器(るつぼ)に、等方性黒鉛材を炭素製等のセラミック容器(サガー)に別々に入れ、これらるつぼ、サガーを耐圧容器に装入し、次いで容器内を含浸銅合金の融点より高い温度に上げて加圧含浸する。加圧力は数MPa乃至150MPa程度、含浸時間は1〜60分程度、好ましくは30〜60分程度である。
なお、本発明において使用する銅合金の組成としては、放電加工特性に影響を及ぼさない範囲で、不可避的な不純物が含まれていてもよい。
【0026】
(3)放電加工用電極の銅含浸率が高いと、銅は導電性が高いため、放電加工用電極の電気抵抗率が低くなると共に、銅は高密度であるため、放電加工用電極のかさ密度が高くなる。このため、放電加工用電極における電気抵抗率を低くするには、銅含浸率をある程度高くしなければならない。このようなことを考慮すると、放電加工用電極のかさ密度の下限は、2.5Mg/m以上、特に3.0Mg/m以上であることが望ましい。また、放電加工用電極の銅含浸率が高い場合、放電加工用電極のかさ密度が高くなるが、かさ密度が高くなり過ぎると他の特性に悪影響を及ぼす恐れがある。更に、黒鉛材料の気孔への銅含浸には限度がある。このようなことを考慮すると、放電加工用電極のかさ密度の上限は、4.5Mg/m以下、特に4.0Mg/m以下であることが望ましい。
銅含浸率についても、上記と同様の理由から、下限は12.5%以上、特に15%以上であることが望ましく、上限は35%以下、特に30%以下であることが望ましい。
【0027】
一般的に、放電加工用電極の電気抵抗率は低い程好ましいが、余りゼロに近づき過ぎると他の特性に悪影響を及ぼすことがあるため、下限については0.01μΩm以上、特に0.1μΩm以上であることが望ましい。また、曲げ強さについては、高い程放電時の電極損耗が抑えられ好ましいので、40MPa以上、特に60MPa以上であることが望ましい。但し、曲げ強さが余り高いと、他の特性に影響することがあるので、220MPa以下、特に200MPa以下であることが望ましい。
【実施例】
【0028】
以下、本発明の実施例について詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
緻密質の等方性黒鉛材(東洋炭素株式会社製であって、かさ密度1.66Mg/m、開気孔率23.8%、電気抵抗率11.1μΩm、異方比1.02)を耐圧容器に収容し、1070℃で溶融した銅をNガスにて15MPaの圧力で1時間加圧含浸して、銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A1と称する。
尚、上記銅含浸黒鉛材料を放電加工用電極に加工したものを、以下、電極A1と称することがある。このことは下記実施例2〜実施例9、比較例1、比較例2でも同様である(例えば、実施例2の放電加工用電極であれば電極A2となる)。
【0029】
(実施例2)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.66Mg/m、開気孔率23.5%、電気抵抗率14.0μΩm、異方比1.03のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A2と称する。
【0030】
(実施例3)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.79Mg/m、開気孔率16.7%、電気抵抗率12.6μΩm、異方比1.05のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A3と称する。
【0031】
(実施例4)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.77Mg/m、開気孔率16.7%、電気抵抗率18.9μΩm、異方比1.06のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A4と称する。
【0032】
(実施例5)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.78Mg/m、開気孔率15.2%、電気抵抗率19.1μΩm、異方比1.03のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A5と称する。
【0033】
(実施例6)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.81Mg/m、開気孔率14.2%、電気抵抗率8.9μΩm、異方比1.03のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A6と称する。
【0034】
(実施例7)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.80Mg/m、開気孔率14.8%、電気抵抗率15.2μΩm、異方比1.06のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A7と称する。
【0035】
(実施例8)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.78Mg/m、開気孔率15.0%、電気抵抗率15.9μΩm、異方比1.05のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A8と称する。
【0036】
(実施例9)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.78Mg/m、開気孔率16.1%、電気抵抗率14.4μΩm、異方比1.04のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料A9と称する。
【0037】
(比較例1)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.88Mg/m、開気孔率10.7%、電気抵抗率8.7μΩm、異方比1.03のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料Z1と称する。
【0038】
(比較例2)
等方性黒鉛材として、かさ密度1.92Mg/m、開気孔率13.4%、電気抵抗率20.0μΩm、異方比1.06のものを用いた他は、上記実施例1と同様にして銅含浸黒鉛材料を作製した。
このようにして作製した銅含浸黒鉛材料を、以下、材料Z2と称する。
【0039】
(実験1)
上記材料(電極)A1〜A7における電気抵抗率と、銅含浸率と、電極消耗率(長さ電極消耗率)とを下記に示す方法で調べたので、その結果を表1に示す。また、材料A1〜A7における基材の開気孔率と銅含浸率との関係を図1に、材料A1〜A7における銅含浸率と電気抵抗率との関係を図2に、及び、材料A1〜A7における電気抵抗率と電極消耗率との関係を図3に示す。
【0040】
〔電気抵抗率の測定〕
各材料の電気抵抗率を、直流四端子法で測定した。
【0041】
〔銅含浸率の算出〕
電極のかさ密度(銅含浸後のかさ密度)dと、黒鉛材料からなる基材のかさ密度dB,sとを調べ、これらの値を(1)式に代入することにより、銅含浸率を算出した。尚、ρCuは銅の比重(ρCu=8.96Mg/m)である。
φ=[(d−dB,s)/ρCu]×100・・・(1)
【0042】
〔電極消耗率の算出〕
各材料から成る電極を用いて、超硬合金材料(冨士ダイス株式会社製フジロイD40)を下記の条件で放電加工して、電極消耗長さを測定し、これらの値を下記(3)式に代入して電極消耗率を算出した。
【0043】
・加工面積10×4mm
・電極の支持治具の、加工深さ方向への進行距離2mm
・使用機種:(株)ソディック社製AQ35L
・極性:正極性
・電流ピーク値:28(A)
・ONタイム:5(μsec)
・OFFタイム:10(μsec)
【0044】
電極消耗率=(電極消耗長さ〔mm〕/加工深さ〔mm〕)×100・・・(3)
【0045】
【表1】
【0046】
表1及び図1から明らかなように、基材の開気孔率が高いほど銅含浸率が高くなっていることが認められる。また、表1及び図2から明らかなように、銅含浸率が高いほど電気抵抗率が低くなっていることが認められる。更に、表1及び図3から明らかなように、電気抵抗率が低いほど電極消耗率が低くなっていることが認められる。
【0047】
(実験2)
次に、上記実験1における〔電極消耗率の算出〕で示した条件と同一の条件で、材料(電極)A1〜A7を用いて、上述した超硬合金材料の加工を行い、各材料の加工速度を測定した。尚、上記加工速度とは、超硬合金材料を1分間加工したときの加工深さである。
また、材料(電極)A1〜A7における銅含浸後の特性として、上記実験1で示した電気抵抗率、銅含浸率の他に、電極(銅含浸後)のかさ密度と曲げ強さとを調べた。そして、電極のかさ密度、銅含浸率、電気抵抗率、及び曲げ強さから、下記(2)式を用いて、材料(電極)A1〜A7における変数xを求めた。
【0048】
x=(d×φ×ρ/σ)×10・・・(2)
(2)式において、dは電極のかさ密度(Mg/m)、φは銅の含浸率(%)、ρは電気抵抗率(μΩm)、σは曲げ強さ(MPa)である。
上記曲げ強さは、室温にてインストロン型材料試験機を用い3点曲げ試験方法にて測定した。
尚、各特性値を表2に示し、また、材料A1〜A7における、変数xと加工速度及び電極消耗率との関係を図4に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2及び図4から明らかなように、材料(電極)A1〜A7は変数xが7.5以下なので、電極消耗率及び加工速度の双方で優れた性能を発揮することがわかる。
【0051】
また、材料A1について、光学顕微鏡による断面写真を撮影したので図5に示す。図5中、白色部が銅、灰色部がグラファイト、黒色部が空隙である。図5に示されるように、グラファイト中に銅が均一に含浸されて存在していることが判る。
【0052】
(実験3)
上記材料(電極)A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における電気抵抗率と、銅含浸率と、電極消耗率(長さ電極消耗率)とを実験1と同じ方法で調べたので、その結果を表3に示す。但し、放電加工の条件のみ下記に示すように変更している(尚、実験1と異なるのは、電流ピーク値、ONタイム、及び、OFFタイムである)。また、材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における基材の開気孔率と銅含浸率との関係を図6に、材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における銅含浸率と電気抵抗率との関係を図7に、並びに、材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における電気抵抗率と電極消耗率との関係を図8に示す。
【0053】
・加工面積10×4mm
・電極の支持治具の、加工深さ方向への進行距離2mm
・使用機種:(株)ソディック社製AQ35L
・極性:正極性
・電流ピーク値:60(A)
・ONタイム:30(μsec)
・OFFタイム:100(μsec)
【0054】
【表3】
【0055】
表3及び図6から明らかなように、基材の開気孔率が高いほど銅含浸率が高くなっており、材料Z1、Z2よりも基材の開気孔率が高い材料A1〜A5、A8、A9では、材料Z1、Z2よりも銅含浸率が高くなっていることが認められる。また、表3及び図7から明らかなように、銅含浸率が高いほど電気抵抗率が低くなっており、材料Z1、Z2よりも銅含浸率が高い材料A1〜A5、A8、A9では、材料Z1、Z2よりも電気抵抗率が低くなっていることが認められる。更に、表3及び図8から明らかなように、電気抵抗率が低いほど電極消耗率が低くなっており、材料Z1、Z2よりも電気抵抗率が低い材料A1〜A5、A8、A9では、材料Z1、Z2よりも電極消耗率が低くなっていることが認められる。
【0056】
(実験4)
次に、上記実験3における〔電極消耗率の算出〕で示した条件と同一の条件で、材料(電極)A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2を用いて、上述した超硬合金材料の加工を行い、各材料の加工速度を測定した。尚、上記加工速度とは、超硬合金材料を1分間加工したときの加工深さである。
また、材料(電極)A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における銅含浸後の特性として、上記実験3で示した電気抵抗率、銅含浸率の他に、電極(銅含浸後)のかさ密度と曲げ強さとを調べた。そして、電極のかさ密度、銅含浸率、電気抵抗率、及び曲げ強さから、下記(2)式を用いて、材料(電極)A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における変数xを求めた。
【0057】
x=(d×φ×ρ/σ)×10・・・(2)
(2)式において、dは電極のかさ密度(Mg/m)、φは銅の含浸率(%)、ρは電気抵抗率(μΩm)、σは曲げ強さ(MPa)である。
上記曲げ強さは、室温にてインストロン型材料試験機を用い3点曲げ試験方法にて測定した。
尚、各特性値を表4に示し、また、材料A1〜A5、A8、A9、Z1及びZ2における、変数xと加工速度及び電極消耗率との関係を図9に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4及び図9から明らかなように、材料(電極)A1〜A5、A8、A9は変数xが6.5以下なので、電極消耗率及び加工速度の双方で特に優れた性能を発揮することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は放電加工により型彫り加工を施す際の電極として用いることができる。
図1
図2
図3
図4
図6
図7
図8
図9
図5