【解決手段】試薬は、少なくとも1つの水素化物分子と複合された、金属であれメタロイドであれ非金属であれ、少なくとも1つの0価原子を含む。生成方法は、元素(すなわち0価)材料と水素化物とを含む混合物をボールミル粉砕するステップを含む。場合によっては、元素材料は炭素などの非金属である。試薬は、0価金属、メタロイド、または非金属からなる元素ナノ粒子の合成のための試薬として有用であり得る。
前記ボールミル粉砕するステップは、1−3/4インチ、3−1/2インチおよび5−1/4インチの316ステンレス鋼玉軸受を用いて、ステンレス鋼の気密ボールミルジャーにおいて、約400rpmで、約4時間、プラネタリボールミルで行われる、請求項7に記載の方法。
【背景技術】
【0003】
背景
金属またはメタロイドが直接水素に結合されている化合物である水素化物は、化学およびエネルギ技術において多種多様な公知の用途および開発中の用途を有する比較的活動的な分子である。このような用途には、還元剤、水素化触媒、乾燥剤、強塩基、充電式バッテリ内の成分、および場合によっては燃料電池技術における固体水素貯蔵媒体としての用途が含まれる。
【0004】
金属ナノ粒子、すなわち、100nm未満の寸法を有する純粋な形または合金形の元素金属の粒子は、それらの対応するバルク金属と比較して、特有の物理的特性、化学的特性、電気的特性、磁気的特性、光学的特性、および他の特性を有する。そのため、これら粒子は、中でも、化学、医薬、エネルギおよび高性能電子機器などの分野において用いられているかまたは開発されている。
【0005】
金属ナノ粒子のための合成方法は、典型的には、「トップダウン(top-down)」または「ボトムアップ(bottom-up)」であることを特徴とし、さまざまな化学的アプローチ、物理的アプローチ、さらには生物学的アプローチを含む。トップダウン技術は、さまざまなエネルギ入力を用いて、マクロスケールの金属粒子をナノスケールの粒子に物理的に分解することを含む。ボトムアップ方法は、分離された原子、分子またはクラスタからナノ粒子を形成することを含む。
【0006】
トップダウン式金属ナノ粒子合成のための、物理的力による方法には、マクロスケール金属粒子の粉砕、マクロスケール金属のレーザアブレーションおよびマクロスケール金属の放電加工が含まれていた。ボトムアップ合成に対する化学的アプローチは、一般に、核生成種粒子または自己核生成を用いて金属塩を0価金属元素に還元すること、および金属ナノ粒子に成長させることを含む。
【0007】
これらの方法の各々はいくつかの状況においては有効になり得るが、不利点を有するかまたは状況に応じて適用不可能にもなる。直接粉砕方法では、入手可能な粒子のサイズが制限される可能性があり(20nmよりも小さい粒子の生成がしばしば困難であり)、合金の化学量論比が制御不能となる可能性がある。他の物理的方法は、コストが高くなるかまたは工業規模的に容認できない可能性がある。一方、化学還元技術は、たとえば、金属カチオンが化学的還元に耐性のある状況においては役に立たない可能性がある。Mn(II)はたとえば実質的にはその場での化学還元に影響されず、このため、このアプローチをMn
0を含有する調合物またはMn
0含有ナノ粒子に適用することができなくなる。
【0008】
非金属ナノ粒子は、金属ナノ粒子ほど十分に研究されていないが、それらを合成するための技術はある状況において開発されている。金属ナノ粒子と同様に、非金属ナノ粒子も、炭素ナノ粒子の蛍光など、バルク元素と実質的に異なる分光特性および他の特性を有する。
【0009】
金属であれメタロイドであれ非金属であれ任意の組成の高純度の元素ナノ粒子を生成することができる単一の合成方法があれば有用であろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1A】LiBH
4のホウ素X線光電子スペクトルを示す図である。
【
図1B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・LiBH
4複合体のホウ素X線光電子スペクトルを示す図である。
【
図1C】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・(LiBH
4)
2複合体のホウ素X線光電子スペクトルを示す図である。
【
図2A】Mn
0粉末のマンガンX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図2B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・(LiBH
4)
2複合体のマンガンX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図2C】
図2AのMn
0粉末のX線光電子スペクトルと
図2BのMn・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルとの重ね合わせを示す図である。
【
図3A】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・LiBH
4複合体のX線粉末回折走査を示す図である。
【
図3B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・(LiBH
4)
2複合体のX線粉末回折走査を示す図である。
【
図4】
図1の方法によって合成されるMn・LiBH
4複合体と、試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるMn・(LiBH
4)
2複合体とのFT−IRスペクトルの重ね合わせを示す図である。
【
図5A】Sn
0粉末の錫X線光電子スペクトルを示す図である。
【
図5B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるSn・(LiBH
4)
2複合体の錫X線光電子スペクトルを示す図である。
【
図5C】
図5AのSn
0粉末のX線光電子スペクトルと
図5BのSn・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルとの重ね合わせを示す図である。
【
図6A】W
0粉末のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図6B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるW・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図6C】
図6AのW
0粉末のX線光電子スペクトルと
図6BのW・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルとの重ね合わせを示す図である。
【
図7A】La
0粉末のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図7B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるLa・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図7C】
図7AのLa
0粉末のX線光電子スペクトルと
図7BのLa・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルとの重ね合わせを示す図である。
【
図8A】Ge
0粉末のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図8B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるGe・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図8C】
図5AのGe
0粉末のX線光電子スペクトルと
図5BのGe・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルとの重ね合わせを示す図である。
【
図9A】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるSe・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルを示す図である。
【
図9B】試薬複合体を合成するための開示方法によって合成されるC・(LiBH
4)
2複合体のX線光電子スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
ここで提供される化学組成物は、高純度の元素ナノ粒子の「湿式化学」合成において実質的な有用性を有することができる。金属ナノ粒子、メタロイドナノ粒子または非金属ナノ粒子を合成するのに好適な試薬が開示される。化学組成物を調合するための開示方法は、簡単かつ再現可能である。さらに、本明細書に開示されるように、当該方法は広範囲の元素のうちのいずれかを組込む試薬を生成することができる。開示の化学組成物に組込まれる元素または「0価」元素は、金属であれメタロイドであれ非金属であれ、任意の固体元素を実質的に含む。
【0018】
本開示の化学組成物は、概して水素化物分子と複合された0価元素を含む。これらの組成物は、概して元素材料を水素化物とともにボールミル粉砕する動作を含む開示方法を利用することによって調合することができる。
【0019】
「0価」または「0価元素」は、ここで用いられる場合、酸化状態0にある状態を指す。当該用語は代替的に、イオン化されてもおらず、他の種と共有結合で関連付けられてもいない状態を表わすものとして定義され得る。より総称的には、ここで用いられる場合の「0価」という句は、元素形態にあると表わされるような材料の状態を指す。
【0020】
「元素」という語は、ここで用いられる場合、0価形態にある周期表の任意の元素を指す。特に、その0価形態において、使用条件下で固体である任意の元素を指す。さらにより特定的には、「元素」という語は、ここで用いられる場合、温度および圧力の標準条件下において固体である任意の元素を指す。
【0021】
「金属元素」という句は、金属、ランタニドまたはメタロイドを指す。「金属」は、アルカリ土類金属、アルカリ金属、遷移金属、またはポスト遷移金属を指し得る。「遷移金属」という語は、3族〜12族のうちいずれかのDブロック金属を指し得る。「ポスト遷移金属」という語は、13族〜16族の金属を指し得る。「メタロイド」という語は、ホウ素、シリコン、ゲルマニウム、ヒ素、アンチモン、テルル、またはポロニウムのうちのいずれかを指し得る。
【0022】
ここで用いられる場合、「非金属元素」および「非金属」という句は、任意の非金属元素、特に温度および圧力の標準条件下において概ね固体である任意の非金属元素を指す。特に、「非金属元素」および「非金属」という句は、炭素、亜リン酸、硫黄、およびセレンのうちのいずれかを指す。
【0023】
ここで用いられる場合、「水素化物」という用語は、水素陰イオンドナーとして機能することができる任意の分子種を概して指す。異なる例においては、ここで参照する水素化物は2元素金属水素化物(たとえばNaHもしくはMgH
2)、2元素メタロイド水素化物(たとえばBH
3)、複合金属水素化物(たとえばLiAlH
4)、または複合メタロイド水素化物(たとえばLiBH
4もしくはLi(CH
3CH
2)
3BH)であり得る。いくつかの例においては、水素化物はLiBH
4であるだろう。上述の水素化物という語は、いくつかの変形例においては、対応する重水素化物またはトリチウム化物を含み得る。 式Iに従った複合体を含む試薬複合体が開示される。
【0024】
Q
0・X
y I
ここで、Q
0は0価元素であり、Xは水素化物であり、yは0よりも大きな整数値または小数値である。いくつかの変形例においては、0価元素Q
0は非金属であり得、他の変形例においては金属元素であり得る。
【0025】
たとえば、いくつかの変形例においては、試薬複合体は式IIに従った複合体を含む。
D
0・X
y II
ここで、D
0は0価非金属元素であり、Xは水素化物であり、yは0よりも大きな整数値または小数値である。他の変形例においては、試薬複合体は、さらに式IIIに従った複合体を含む。
【0026】
E
0・X
y III
ここで、E
0は0価金属元素であり、Xは水素化物であり、yは0よりも大きな整数値または小数値である。したがって、式IIおよびIIIは式Iの種類であることが理解されるべきである。
【0027】
式IIIに従った複合体を含む試薬複合体のより特定的なある変形例においては、金属元素は金属であり得、試薬複合体は式IVによって表わすことができる。
【0028】
M
0・X
y IV
ここで、M
0は0価金属であり、Xは水素化物であり、yは0よりも大きな整数値または小数値である。したがって、式IVは式IIIの種類であることが理解されるべきである。
【0029】
式Iに従った値yは、試薬複合体中の0価元素原子に対する水素化物分子の化学量論比を規定し得る。yの値は、0よりも大きな如何なる整数値または小数値をも含み得る。場合によっては、yが1と等しい1:1の化学量論比が有用であり得る。場合によっては、たとえばyが2または4と等しい、0価元素に対して水素化物がモル過剰となることが好ましいことがある。0価元素に対して水素化物がモル過剰となることは、場合によっては、その後の用途について十分な水素化物が存在することを確実とすることができる。
【0030】
本開示の試薬複合体は任意の超分子構造を有してもよいし、超分子構造を有さなくてもよい。構造的な詳細は、式I〜IVのうちのいずれによっても示唆されていない。特定の構造に拘束されるものではなく限定するものでもないが、試薬複合体は、水素化物分子が散りばめられた多くの0価元素原子の超分子のクラスタとして存在してもよい。試薬複合体は、クラスタが水素化物分子で表面コーティングされた0価元素原子のクラスタとして存在してもよい。試薬複合体は、互いに分子集合をほとんどまたはまったく有さないが各々が式Iに従って水素化物分子と関連付けられる個々の0価元素原子として存在してもよい。これらの光学的組織のすべて、または式Iと一致するいずれかの他のものは、本開示の範囲内にあることが意図される。
【0031】
試薬を合成するための方法は、水素化物と0価元素を含有する調合物との両方を含む混合物をボールミル粉砕するステップを含む。結果として生じる試薬は、この明細書中においては代替的に試薬複合体と称されており、式Iに従った複合体を含む。
【0032】
Q
0・X
y I
ここで、Q
0は、酸化状態0では、0価元素を含有する調合物から得られる少なくとも1つの原子であり、Xは水素化物分子であり、yは0よりも大きい整数値または小数値である。
【0033】
当該方法の異なる変形例においては、0価元素は、非金属または金属元素であり得る。後者のいくつかの変形においては、0価元素は金属であり得る。したがって、ボールミル粉砕ステップに起因する試薬複合体は、より特定的には式II〜式IVのうちのいずれかに従った複合体を含むことができる。
【0034】
D
0・X
y II
E
0・X
y III
M
0・X
y IV
ここで、D
0は、酸化状態0では、0価非金属を含有する調合物から得られる少なくとも1つの非金属原子であり、E
0は、酸化状態0では、0価金属元素を含有する調合物から得られる金属元素の少なくとも1つの原子であり、M
0は、酸化状態0では、0価金属を含有する調合物から得られる少なくとも1つの金属原子であり、Xおよびyは上に定義した通りである。
【0035】
0価元素が非金属であれ金属元素であれ金属であれ、0価元素を含有する調合物は、実質的に0価元素からなる如何なる組成物であってもよい。多くの場合、0価元素を含有する調合物は、高い表面積対質量比を有する形状の0価元素を含むだろう。場合によっては、0価元素は、−325メッシュの粒径を有する粉末形状で存在するだろう。0価元素を含有する調合物は、高多孔性の0価元素、ハニカム構造を備えた0価元素、または高い表面積対質量比を有する他の何らかの調合物であり得ることが企図される。
【0036】
「高い表面積対質量比」という語句は、広範囲の表面積対質量比を包含し得るものであって、一般には、採用される0価元素を含有する調合物の表面積対質量比は、試薬を合成するための方法の時間的制約によって必要となるものであろうことが企図される。一般に、0価元素を含有する調合物の表面積対質量比が高ければ高いほど、試薬を合成するための方法がより早く終了することになるだろう。0価元素を含有する調合物が0価元素の粉末でできている場合、0価元素の粉末の粒径が小さければ小さいほど、試薬を合成するための方法がより早く終了することになるだろう。
【0037】
試薬を合成するための方法のいくつかの変形例においては、水素化物と0価元素を含有する調合物とは、ボールミル粉砕ステップ中、水素化物分子と0価元素を含有する調合物に含まれる金属原子との化学量論比が1:1で存在し得る。他の変形例においては、化学量論比は、2:1、3:1、4:1またはそれ以上であってもよい。いくつかの変形例においては、水素化物分子と0価元素を含有する調合物中の元素金属原子との化学量論比はまた、2.5:1などの分数量を含み得る。
【0038】
ここで
図1〜
図9を参照して、以下の分光データは、本開示の試薬複合体のいくつかの特性を例示する。場合によっては、分光データは試薬複合体を合成するための方法において用いることができる例示的な材料の特性も例示する。すべての場合において、試薬複合体を合成するための開示方法によって試薬複合体を調合した。
【0039】
図1Aは、試薬複合体に組込まれていない水素化物(LiBH
4)のホウ素領域におけるX線光電子分光(XPS:x−ray photoelectron spectroscopy)走査を示す。
図1Bおよび
図1Cは、それぞれMn・LiBH
4およびMn・(LiBH
4)
2の類似したホウ素XPS走査を示す。太い実線は未加工のXPSデータを示し、細い実線は調整されたデータを示す。破線および/または点線はデコンボリューションされた個々のピークを示す。
図1Aにおける未複合のLiBH
4は、191.60eVおよび187.25eVを中心とする2つの大きなピークと、190.21eVおよび185.92eVを中心とする2つのより小さなピークを示す。
【0040】
ここで
図1Bを
図1Aと比較すると、LiBH
4を0価マンガンを含有する等モル量の調合物とともにボールミル粉砕することにより、実質的に、ホウ素ピークのうち3つのピークがなくなり、186.59eVを中心とするピークだけが残る。LiBH
4のホウ素XPSスペクトルにおける変化は、0価元素の調合物とともにボールミル粉砕することによって起こるものであり、式Iに従った複合体が形成されたことを示していると理解することができる。
図1Cとの比較から分かるように、等モル量ではなく、2倍のモル過剰の0価マンガンとともにLiBH
4をボールミル粉砕することにより、189.92eVを中心とするホウ素ピークが再び現われることとなる。これは、LiBH
4の一部が複合されていないことを示す可能性がある。
【0041】
図2Aは、マンガン粉末のXPS走査を示す。
図2Bは、Mn・(LiBH
4)
2のマンガン領域のXPS走査を示す。太い実線は未加工のXPSデータを示し、細い実線は調整されたデータを示す。破線および/または点線はデコンボリューションされた個々のピークを示す。
図2Aに見られるように、マンガン粉末のスペクトルは2つの広いピークを含み、その各々は、デコンボリューション後に観察可能な3つの成分ピークからなっている。ここで
図2Aを参照し、〜639eVから642eVのスペクトル領域に注目すると、マンガン粉末についての3つの成分ピークは、公開されている参考文献に基づくと、酸化マンガン種(640.52eVおよび641.90eV)ならびに0価マンガン(639.05eV)に割当てることができる。
図2Bにおいて表わされるボールミル粉砕された試薬複合体は、641.90eVで酸化物ピークがなくなったが、酸化物ピークを維持する(
図2Bの640.77eVのピークは、わずかな変化後に
図2Aの640.52eVピークと同じものとみなされる)。ボールミル粉砕された試薬複合体はまた、(わずかな変化の後)639.05eVで0価マンガンピークを維持する。
【0042】
図2Bのスペクトルにおいて重要な点は、ボールミル粉砕された試薬複合体が637.75eVおよび636.06eVの成分ピークでは新しい位相を示すことである。これら後者の2つは、水素化物と複合されたマンガンに割当てることができる。マンガン粉末と、ボールミル粉砕されたMn・(LiBH
4)
2試薬複合体とについて得られたマンガンXPSデータの重ね合わせが
図2Cに示される。この比較は、少なくとも1つの酸化マンガン種がなくなることと新しい位相の出現とを例示し、全体的により低い電子結合エネルギへの変化がもたらされる。
【0043】
図3Aおよび
図3Bは、
図1Bおよび
図1CのMn・LiBH
4およびMn・(LiBH
4)
2試薬複合体のXRDスペクトルを示す。両方の回折解析では、全体的なピークの欠如によって示されるように、サンプルが主としてアモルファスであることが示唆されている。20nmのマンガン金属と一致する小さなピークが観察されるが、LiBH
4または酸化マンガンと一致するピークは現れていない。
【0044】
試薬複合体Mn・LiBH
4およびMn・(LiBH
4)
2についてのFT−IR走査の重ね合わせが
図4に示される。両方のスペクトルは、BH
4−のIRアクティブモードに対応する2299cm
−1、1230cm
−1および1092cm
−1で顕著な特徴を有する。この結果は、BH
4−の四面体構造が、LiBH
4を試薬複合体に組込むことによって本質的に変化しないままであることを示唆している。
【0045】
図5Aは、錫粉末のXPS走査を示す。
図5Bは、そこから合成された試薬複合体Sn・(LiBH
4)
2の対応するXPS走査を示す。錫粉末データにおける495.14eVおよび486.72eVでの2つの大きなピークならびに493.18eVおよび485.03eVでの2つの小さなピーク(
図5A)は、試薬複合体(
図5B)において実質的に変化および/または消滅する。これらの位置においては、試薬複合体Sn・(LiBH
4)
2は、492.30eVおよび483.80eVで大きなピークを有し、495.53eV、494.00eV、487.25eVおよび485.69eVで小さなピークを有する(
図5B)。
【0046】
錫粉末と対応するSn・(LiBH
4)
2試薬複合体とについての調整されたXPSデータの重ね合わせが
図5Cに示される。この比較によっても、錫の試薬複合体への組込みが、錫領域XPSにおいて、より低い電子結合エネルギへのスペクトルシフトに付随して起こることを示している。
【0047】
ここで
図6Aおよび
図6Bを参照して、タングステン粉末およびLiBH
4と複合されたタングステンについてのXPSスペクトルがそれぞれ示される。得られたスペクトルは実線で表され、適合される成分ピークがさまざまな破線および点線で示される。
図6Cは、WとW・(LiBH
4)
2スペクトルとの重ね合わせを示す。
図6Cの結果によって明らかとなっているように、W
0のLiBH
4との複合体生成は、Mn
0およびSn
0についての上記の場合のように、金属元素の価電子のより低い結合エネルギーへの変化に関連付けられる。
【0048】
ここで
図7Aおよび
図7Bを参照して、ランタン粉末と、試薬複合体La・(LiBH
4)
2とについてのXPSスペクトルがそれぞれ示される。
図7Cは、
図7Aおよび
図7Bの得られたスペクトルの重ね合わせを示す。
【0049】
ゲルマニウム粉末と、Ge・(LiBH
4)
2試薬複合体とについてのXPSスペクトルがそれぞれ
図8Aおよび
図8Bに示される。得られたスペクトルの重ね合わせが
図8Cに示される。なお、先のデータは様々な金属についてのものであったが、
図8A〜
図8Bのデータは、0価元素がメタロイドである場合の複合体形成を示す。複合体形成後のより低い電子結合エネルギーへの変化は、先に観察されたものと同様である。
【0050】
図9Aおよび
図9Bは、0価元素が非金属である2つの代表的な試薬複合体についての比較可能なXPSスペクトルを示す。Se・(LiBH
4)
2複合体は、約56.58eV、55.54eV、54、31eV、および53.34eVを中心とするピークを有し、C・(LiBH
4)
2スペクトルは、約286.79eV、285.39eV、284.73eV、および283.64eVを中心とするピークを有する。これらの結果は、当該方法の、非金属元素に対する適用可能性を支持する。
【0051】
また、式Iに従った複合体を含む試薬複合体も開示される。
Q
0・X
y I
ここで、Q
0は0価元素であり、Xは水素化物であり、yは0よりも大きな整数値または小数値である。試薬複合体は、水素化物と0価元素を含有する調合物との両方を含む混合物をボールミル粉砕するステップを含む、試薬複合体を合成するための方法によって調合される。
【0052】
当該方法によって調合される試薬複合体の異なる変形例においては、当該方法の異なる変形例においては、0価元素は非金属または金属元素であり得る。後者のいくつかの変形では、0価元素は金属であり得る。したがって、当該方法によって調合される試薬複合体は、より特定的には式II〜式IVのうちのいずれかに従った複合体を含んでもよい。
【0053】
D
0・X
y II
E
0・X
y III
M
0・X
y IV
ここで、D
0は、酸化状態0では、0価非金属を含有する調合物から得られる少なくとも1つの非金属原子であり、E
0は、酸化状態0では、0価金属元素を含有する調合物から得られる金属元素の少なくとも1つの原子であり、M
0は、酸化状態0では、0価金属を含有する調合物から得られる少なくとも1つの金属原子であり、Xおよびyは上に定義した通りである。
【0054】
さまざまな局面においては、当該方法によって調合され、試薬複合体に組込まれるような水素化物は、2元素金属水素化物、2元素メタロイド水素化物、複合金属水素化物、または複合メタロイド水素化物を含む如何なる水素化物であってもよい。いくつかの変形例においては、水素化物は複合メタロイド水素化物であってもよい。場合によっては、水素化物はホウ化水素であってもよい。場合によっては、水素化物は水素化ホウ素リチウムであってもよい。
【0055】
式Iに従った値yは、試薬複合体中の0価元素原子に対する水素化物分子の化学量論比を規定し得る。yの値は、0よりも大きい如何なる整数値または小数値を含み得る。場合によっては、yは4以下の整数値または小数値であってもよい。場合によっては、yは2以下の整数値または小数値であってもよい。場合によっては、yは1以下の整数値または小数値であってもよい。
【0056】
0価元素を含有する調合物は、実質的に0価元素からなる如何なる組成物であってもよい。多くの場合、0価元素を含有する調合物は、高い表面積対質量比を有する形状の0価元素を含むだろう。場合によっては、0価元素は、−325メッシュの粒径を有する粉末形状で存在するだろう。0価元素を含有する調合物は、高多孔性の0価元素、ハニカム構造を備えた0価元素、または高い表面積対質量比を有する他の何らかの調合物であり得ることが企図される。
【0057】
以下の例に関して本発明をさらに例示する。これらの例が、本発明の具体的な実施形態を示すために提供されるものであって、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではないことが理解されるはずである。
【0058】
例1
−325メッシュ粒径の1部のマンガン金属粉末を、マンガン金属および水素化ホウ素リチウム粉末の質量が合計で10グラム未満となる1部または2部のLiBH
4と混ぜ合わせ、1−3/4インチ、3−1/2インチおよび5−1/4インチの316ステンレス鋼玉軸受を用いて、250mLのステンレス鋼の気密ボールミルジャーにおいて、(Fritsch pulervisette 7のプラネタリボールミルを用いて)400rpmで4時間、プラネタリボールミルでボールミル粉砕する。
【0059】
例2
−325メッシュ粒径の1部の錫金属粉末を、錫金属および水素化ホウ素リチウム粉末の質量が合計で10グラム未満となる1部または2部のLiBH
4と混ぜ合わせ、1−3/4インチ、3−1/2インチおよび5−1/4インチの316ステンレス鋼玉軸受を用いて、250mLのステンレス鋼の気密ボールミルジャーにおいて、(Fritsch pulervisette 7のプラネタリボールミルを用いて)400rpmで4時間、プラネタリボールミルでボールミル粉砕する。
【0060】
例3
タングステン粉末および水素化ホウ素リチウム粉末を1:2の化学量論比で、鋼ボールを用いて、アルゴン下においてステンレス鋼ボールミルに加える。この混合物を次いで、(金属の硬度に依存して)150〜400rpmで4時間、プラネタリボールミルで粉砕する。
【0061】
例4
ランタン粉末および水素化ホウ素リチウム粉末を1:2の化学量論比で、鋼ボールを用いて、アルゴン下においてステンレス鋼ボールミルに加える。この混合物を次いで、(金属の硬度に依存して)150〜400rpmで4時間、プラネタリボールミルで粉砕する。
【0062】
例5
ゲルマニウム粉末および水素化ホウ素リチウム粉末を1:2の化学量論比で、鋼ボールを用いて、アルゴン下においてステンレス鋼ボールミルに加える。この混合物を次いで、(金属の硬度に依存して)150〜400rpmで4時間、プラネタリボールミルで粉砕する。
【0063】
例6〜7
水素化ホウ素リチウム粉末をセレンまたは炭素粉末とともに2:1の化学量論比で、鋼ボールを用いて、アルゴン下においてステンレス鋼ボールミルに加える。この混合物を次いで、(金属の硬度に依存して)150〜400rpmで4時間、プラネタリボールミルで粉砕する。
【0064】
上述の説明は、現在、最も実用的な実施形態とみなされるものに関する。しかしながら、その開示がこれらの実施形態に限定されるべきではなく、むしろ、添付の特許請求の精神および範囲内に含まれるさまざまな変更例および同等の構成を包含するように意図されたものであって、この範囲が、法の下で可能となるような変更および同等の構成をすべて包含するように最も広く解釈されるべきものと理解されるべきである。