【実施例】
【0029】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、この実施例は本発明を制限することを意図しない。
【0030】
(実施例1:麦の葉由来の水不溶成分の調製)
不溶性食物繊維として56質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)5kgを用いて、以下のようにして水不溶成分(WIとする)と水可溶成分(WSとする)とにわけた。さらに、水可溶成分(WS)を、エタノール不溶成分(EIとする)とエタノール可溶成分(ESとする)とにわけた。
【0031】
まず、麦若葉末5kgに水50kgを加えて12時間攪拌した後、遠心分離により、沈澱物と上清(水可溶成分)とにわけた。この沈澱物にさらに50kgの水を加えて、上記と同様に沈澱物と上清とに分離する操作をさらに3回繰り返した。得られた沈澱物を熱風乾燥したところ、4.1kgの水不溶成分(WI)が得られた(このWIのうち、不溶性食物繊維は2.5kg)。
【0032】
他方、得られた上清を集めて、この上清に、容量で4倍量のエタノールを加えて、室温(25℃)にて一晩放置した。その後、遠心分離を行い、エタノールの沈澱物と上清とにわけた。エタノールの沈澱物および上清をそれぞれ減圧濃縮乾固して、0.31kgのエタノール不溶成分(EI)および0.67kgのエタノール可溶成分(ES)を得た。
【0033】
(実施例2:飼料の調製)
実施例1で得られたWI(水不溶成分からなり(すなわち100質量%)、不溶性食物繊維を61質量%含有する)および表1に記載の成分を表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料1とする)。なお、飼料1中には、不溶性食物繊維が1.7質量%含有されている。
【0034】
(実施例3:飼料の調製)
実施例1で得られたWIとEIとESとを質量比で0.1:0.22:0.47の割合で混合した混合物(水不溶成分を22質量%含有し、不溶性食物繊維を13質量%含有する)および表1に記載の成分を表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料2とする)。なお、飼料2中には、不溶性食物繊維が0.06質量%含有されている。
【0035】
(比較例1〜4)
WIの代わりに、実施例1で得られたEIまたはES若しくは小麦フスマ(水不溶成分を80質量%含有し、不溶性食物繊維を38質量%含有する)を用いたこと以外は、実施例2と同様に表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料3〜5)。またWIを用いなかったこと以外は、実施例2と同様に表1に記載の割合で混合して飼料を得た(飼料6)。なお、飼料5中には、不溶性食物繊維が2.0質量%含有されている。飼料3、4、および6中には、不溶性食物繊維は含有されていない。
【0036】
【表1】
【0037】
(実施例4:便通改善作用1)
実施例2〜3および比較例1〜4で得られた飼料1〜飼料6をラットに摂取させた場合の腸内通過時間、糞便量、および糞便中の水分量を以下のようにして測定した。まず、5週齢の雄性SDラット(日本チャールズリバー株式会社)25匹に標準飼料(MF飼料、オリエンタル酵母株式会社)を与えて1週間馴化させた後、各群の体重の平均値がほぼ均一となるように、1群5匹ずつ6群にわけた。
【0038】
次いで、1群のラットに実施例2の飼料1および水を、給餌開始日を0日目として、28日間自由摂取させた。なお、対照として飼料1(WI含有飼料)の代わりに飼料6(WI非含有飼料)を自由摂取させた群を設けた。
【0039】
給餌18日目にSDラットを9時間絶食させ、その後、澱粉粕含有飼料とカルミン(リビジョンクローマ社)とを質量比で99.5:0.5の割合で混合した着色飼料を1時間自由摂取させた。その後、1時間ごとに得られる糞便のカルミン量を測定し、カルミンが検出された最初の時間と最後の時間との平均時間を腸内通過時間として算出した。結果を表2に示す。
【0040】
また、給餌26、27、および28日目にそれぞれ糞便を回収して湿重量(糞便量)を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0041】
飼料1の代わりに飼料2〜5を残りの4群ラット群にそれぞれ摂取させたこと以外は、上記と同様にして、腸内通過時間および糞便量を測定した。結果を表2に併せて示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2の結果から、麦の葉由来の水不溶成分(WI)を含む飼料1および飼料2を摂取した群は、腸内通過時間が短く、かつ糞便量が多いことがわかる。これらのことは、麦の葉由来の水不溶成分が腸内通過時間短縮作用および腸内の蠕動運動活性化作用を有することを示し、これらの作用によって腸からの排泄を促進する優れた便通改善効果が得られることを示す。以上のことから、麦の葉由来の水不溶成分は、蠕動運動活性化剤または便通改善剤として期待される。これらの中でも特に、麦の葉由来の水不溶成分(水不溶成分のみからなり、不溶性食物繊維を61質量%含有する)を含む飼料1は、腸内通過時間短縮化作用および腸の蠕動運動を活性化して糞便量を増加させる作用に優れており、これらの作用は、麦の葉由来の水不溶成分を含有しない飼料6(対照)が有する作用に比べて有意であった。
【0044】
これに対して、麦の葉由来の水不溶成分を含まず、水可溶成分(エタノール不溶成分:EI)のみを含む飼料3を摂取した群は、飼料が腸内を通過するのに時間がかかり、糞便量も少なかった。麦の葉由来の水不溶成分を含まず、水可溶成分(エタノール可溶成分:ES)のみを含む飼料4を摂取した群は、糞便量が少なかった。そして小麦フスマの水不溶成分(不溶性食物繊維)を大量に含む飼料(飼料5)を摂取した群は、飼料が腸内を通過するのに時間がかかった。
【0045】
(実施例5〜7:便通改善剤の調製)
実施例1で用いた麦若葉末とマルトデキストリン(松谷化学工業株式会社製)とを表3に記載の配合量で混合して便通改善剤(食品)を調製した(便通改善剤1〜3とする)。
【0046】
(実施例8:便通改善作用2)
実施例5〜7で得られた便通改善剤1〜3について、便通改善作用を以下のようにして評価した。まず、1週間あたりの排便回数が6回以下の被験者37名を10名ずつの3群および7名1群の合計4群に分けた。次いで、10名3群の被験者に、1週間(観察期間)における排便回数をカウントしてもらった。この観察期間における排便回数をAとする。観察期間終了後、3群の被験者に1包3gの便通改善剤1〜3をそれぞれ1日あたり3包の割合で3週間摂取させ、3週目の1週間(試験期間)における排便回数をカウントしてもらった。この試験期間のおける排便回数をBとする。得られた試験期間と前観察期間との排便回数の差(B−A)を求めた。結果を表3に示す。なお、残りの1群7名の被験者には、便通改善剤1〜3の代わりに、1包3gのマルトデキストリン(対照食)を摂取させたこと以外は、上記と同様にして、排便回数をカウントしてもらい、試験期間と前観察期間との排便回数の差(B−A)を求めた。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】
表3の結果から、便通改善剤1〜3を摂取した群はいずれも対照食を摂取した群に比べて、排便回数の増加が見られ、便通改善作用が得られることがわかる。特に、便通改善剤2(1日あたり麦若葉末を4.5g摂取、WIとして3.7g摂取)または便通改善剤3(1日あたり麦若葉末を6g摂取、WIとして4.9g摂取)を摂取した群は、便通改善作用に優れていた。
【0049】
(実施例9:便通改善剤の調製)
麦の葉由来の水不溶成分を50質量%含有し、不溶性食物繊維を36質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)2質量部とマルトデキストリン(松谷化学工業株式会社製)1質量部とを混合して造粒し、1包当たり3gの顆粒(麦若葉末2g含有、すなわち水不溶成分を33質量%含有し、不溶性食物繊維を24質量%含有する)を調製した(顆粒1とする)。
【0050】
(実施例10:腸内細菌叢改善作用)
実施例9で得られた顆粒1を被験者に摂取させた場合の糞便量および糞便中の腸内細菌を以下のようにして測定した。まず、8名の被験者に、1包3gのマルトデキストリンのみで調製された顆粒2(対照品;麦若葉末非含有)を1日あたり5包の割合で1週間摂取させ、摂取期間中の排便量の湿重量(1週間の合計量)を測定した。
【0051】
さらに、摂取期間最終日の糞便を回収し、この糞便中に、腸内細菌であるビフィドバクテリウムおよびLecthinase(+)Clostridiumが検出されるかどうかを株式会社三菱化学ビーシーエルを用いて測定し、被験者8名中の検出された人数の割合を検出率(%)として算出した。
【0052】
次いで、対照品(顆粒2)摂取終了から1週間後に、被験者に、顆粒2の代わりに顆粒1を摂取させたこと以外は上記と同様にして、糞便量および腸内細菌の検出率(%)を測定した。対照品を摂取した場合および顆粒1を摂取した場合の結果を併せて表4に示す。なお、表4中の有意差の有無については、Wilcoxon符号順位検定により確認した。
【0053】
【表4】
【0054】
表4の結果から、麦若葉由来の水不溶成分を含有する顆粒1は、優れた糞便量の増加作用を有し、この作用は対照品(顆粒2)に比べて有意であることがわかる。腸内細菌については、いわゆる善玉菌といわれるビフィドバクテリウムの検出率は、顆粒1および顆粒2ともに100%であった。これに対して、いわゆる悪玉菌といわれるLecthinase(+)Clostridiumの検出率は、顆粒1を摂取した群では38%(8人中5名が検出限界以下)であり、対照品(顆粒2)を摂取した群(100%)に比べて低い値を示した。このことは、麦若葉由来の水不溶成分を含有する顆粒1が、腸内細菌叢を改善する作用を有することを示す。以上のことから、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤は、優れた便通改善作用を有するだけでなく、腸内細菌叢改善作用をも有することから、整腸剤として利用し得ることがわかる。
【0055】
(実施例11:膨潤作用)
実施例9で用いた麦若葉末5gをメジウムビン(200mL)にいれ、次いで純水を50mL加えて撹拌した。さらに、アスピレーターを用いて気泡がなくなるまで脱気して、麦若葉末に水を浸透させた。脱気後、さらに室温にて24時間放置した。膨潤した麦若葉末の体積を測定し、麦若葉末1gあたりの体積を算出した。麦若葉末の代わりに、比較例3で用いた小麦フスマを用いたこと以外は、上記と同様にして、小麦フスマの体積を測定した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5の結果から、麦の葉由来の水不溶成分を含有する麦若葉末は、麦の葉以外の部位に由来する水不溶成分を含有する小麦フスマに比べて、体積が大きく、膨潤作用に優れることがわかる。このことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤が、便の嵩増し剤として作用し得ることを示す。
【0058】
(実施例12:保水作用)
実施例9で用いた麦若葉末1gをポリ容器にいれ、次いで純水を50mL加えて撹拌した。さらに、アスピレーターを用いて気泡がなくなるまで脱気して、麦若葉末に水を浸透させた。このポリ容器の口を、予め純水を浸透させておいた5B濾紙で蓋をした後、これらの質量を測定した(この質量をAとする)。次に、ポリ容器の口を下に向けて、自然落下による濾過を行った。水滴が見られなくなった時点で再度ポリ容器の質量を測定した(この質量をBとする)。得られた質量Aと質量Bとの差を算出し、麦若葉末1gあたりの水分の保水量とした。麦若葉末の代わりに、比較例3で用いた小麦フスマを用いたこと以外は、上記と同様にして、小麦フスマの保水量を算出した。結果を表6に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
表6の結果から、麦の葉由来の水不溶成分を含有する麦若葉末は、麦の葉以外の部位に由来する水不溶成分を含有する小麦フスマに比べて、優れた保水力を有することがわかる。このことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を有効成分とする便通改善剤が、便の水分含量を高める保水剤として作用し得ることを示す。
【0061】
(実施例13:便通改善剤(散剤)の調製)
不溶性食物繊維を32質量%含有する麦若葉末(株式会社東洋新薬製)および表7に記載の各成分を、表7に記載の割合で混合して、1包あたり5gの散剤(麦若葉末含有散剤という)を調製した。
【0062】
(比較例5)
表7に記載の各成分を、表7に記載の割合で混合して、1包あたり5gの散剤(麦若葉末非含有散剤という)を調製した。
【0063】
【表7】
【0064】
(実施例14:便通改善作用3)
実施例13で得られた麦若葉末含有散剤、および比較例5で得られた麦若葉末非含有散剤を用いて、便通改善作用を以下のようにして評価した。まず、1週間あたりの排便回数が6回以下の被験者60名について、散剤を摂取しない期間を2週間設け(観察期間I)、この期間における一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。なお、排便量については、Mサイズの鶏卵の大きさを目安に個数換算した。次いで、実施例13の麦若葉末含有散剤を、食後に1包(すなわち一日あたり合計3包)の割合で2週間摂取させ(麦若葉末含有散剤摂取期間、摂取期間I)、上記と同様に、一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。さらに、2週間の観察期間(観察期間II)、比較例5の麦若葉末非含有散剤を上記麦若葉末含有散剤の場合と同様に摂取する2週間の摂取期間(摂取期間II)、および1週間の観察期間(観察期間III)を順次設け、各期間における一回あたりの排便量、一日あたりの排便回数、および一週間あたりの排便日数を記録した。結果を表8に示す。なお、表8中の有意差の有無については、Wilcoxon符号順位検定により確認した。
【0065】
【表8】
【0066】
表8の結果から、麦若葉末含有散剤を摂取することによって、有意に排便量、排便回数、および排便日数が増加することがわかる。これらの増加は、麦若葉末非含有散剤を摂取した場合に比べても有意であった。これらのことは、本発明の麦の葉由来の水不溶成分を含有する便通改善剤が、優れた便通改善効果を有することを示す。