【実施例】
【0053】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら制限されるものではない。なお、実施例中にて示す部および%は質量に基づくものである。
【0054】
<エチレン系重合体の準備>
以下に示すエチレン系重合体(a−1)及び(a−2)を準備した。
【0055】
[エチレン系重合体(a−1)]
住友化学(株)製、商品名「スミカセンEP GT140」
(エチレン−1−ブテン−1−ヘキセン共重合体)
流動性:0.9(g/10min)
密度:0.918(g/cm
3)
流動の活性化エネルギー:70(kJ/mol)
数平均換算粒子径:3700μm
【0056】
[エチレン系重合体(a−2)]
Braskem社製、商品名「SLH218」
流動性:2.3(g/10min)
密度:0.916(g/cm
3)
流動の活性化エネルギー:35(kJ/mol)
数平均換算粒子径:5000μm
【0057】
<グラフト共重合体(A)の製造>
[グラフト共重合体(A−1)]
100Lの耐圧容器に脱イオン水300部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニックF−68)0.12部、硫酸マグネシウム0.6部、エチレン系重合体(a−1)62部仕込み、攪拌しつつ槽内の窒素置換を行った。その後、スチレン23部、アクリロニトリル15部、tert−ブチルパーオキシピバレート(B(PV))1.1部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(カヤエステルO)0.1部、1,4−ベンゾキノン0.05部から構成される混合モノマーと脱イオン水50部を仕込み槽内の窒素置換を行った。槽内温度を85℃まで昇温後、85℃になってから1時間反応を継続させた。反応終了後、槽内温度を40℃まで冷却し、回収・洗浄・乾燥を行うことでグラフト共重合体(A−1)を得た。グラフト率の測定を下記に記載の方法で行ったところ、グラフト率は36%であった。
【0058】
[グラフト共重合体(A−2)]
100Lの耐圧容器に脱イオン水300部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニックF−68)0.12部、硫酸マグネシウム0.6部、エチレン系重合体(a−1)50部仕込み、攪拌しつつ槽内の窒素置換を行った。その後、スチレン32部、アクリロニトリル18部、tert−ブチルパーオキシピバレート(B(PV))1.1部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(カヤエステルO)0.1部、1,4−ベンゾキノン0.05部から構成される混合モノマーと脱イオン水50部を仕込み槽内の窒素置換を行った。槽内温度を85℃まで昇温後、85℃になってから1時間反応を継続させた。反応終了後、槽内温度を40℃まで冷却し、回収・洗浄・乾燥を行うことでグラフト共重合体(A−2)を得た。グラフト率の測定を下記に記載の方法で行ったところ、グラフト率は45%であった。
【0059】
[グラフト共重合体(A−3)]
100Lの耐圧容器に脱イオン水300部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(プルロニックF−68)0.12部、硫酸マグネシウム0.6部、エチレン系重合体(a−2)部62仕込み、攪拌しつつ槽内の窒素置換を行った。その後、スチレン23部、アクリロニトリル15部、tert−ブチルパーオキシピバレート(B(PV))1.1部、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(カヤエステルO)0.1部、1,4−ベンゾキノン0.05部から構成される混合モノマーと脱イオン水50部を仕込み槽内の窒素置換を行った。槽内温度を85℃まで昇温後、85℃になってから1時間反応を継続させた。反応終了後、槽内温度を40℃まで冷却し、回収・洗浄・乾燥を行うことでグラフト共重合体(A−3)を得た。グラフト率の測定を下記に記載の方法で行ったところ、グラフト率は30%であった。
【0060】
<グラフト共重合体のグラフト率の測定>
下記に示す方法によりグラフト共重合体のエチレン系重合体含有率(%)と、グラフト共重合体のジクロロメタン不溶部の質量比率(%)とを測定し、グラフト率を求めた。
【0061】
[グラフト共重合体のエチレン系重合体含有率の測定]
グラフト共重合体(A−1)を例として説明する。グラフト共重合体(A−1)は乾燥後に92部得られた。エチレン系重合体(a−1)は仕込み量の99%がグラフト共重合体中に含有すると仮定することで、グラフト共重合体(A−1)のエチレン系重合体含有量は下記式(1)より求めることができる。
エチレン系重合体含有率(%)=[{エチレン系重合体の仕込み量(部)×0.99}/グラフト共重合体の質量(部)]×100 …(1)
=[(62×0.99)/92]×100
=66.7(%)
【0062】
[グラフト率の測定]
グラフト共重合体(A−1)を例として説明する。グラフト共重合体(A−1)をジクロロメタンを用いて分別作業を行うことでジクロロメタン不溶部の質量比率を求めたところ90.7%であった。エチレン系重合体はジクロロメタン不溶部に存在するので、グラフト率は下記式(2)より求めることができる。
グラフト率(%)=[{ジクロロメタン不溶部の質量比率(%)−エチレン系重合体含有率(%)}/エチレン系重合体含有率(%)]×100 …(2)
=(90.7−66.7)/66.7×100
=36(%)
【0063】
[ゴム状重合体(b−1)の製造]
耐圧容器に、1,3−ブタジエン93部、スチレン7部、n−ドデシルメルカプタン0.5部、過硫酸カリウム0.24部、ロジン酸ナトリウム1.5部、水酸化ナトリウム0.1部及び脱イオン水150部を仕込み、70℃で15時間反応させた後、冷却して反応を終了させることで、ゴム状重合体(b−1)を得た。得られたゴム状重合体(b−1)を、四酸化オスミウム(OsO
4)で染色し、乾燥後に透過型電子顕微鏡で写真撮影をした。画像解析処理装置(装置名:旭化成(株)製 IP−1000PC)を用いて1000個のゴム粒子の面積を計測し、その円相当径(直径)を求め、ゴム状重合体(b−1)の重量平均粒子径を算出した。重量平均粒子径は0.10μmであった。
【0064】
[ゴム状重合体(b−2)の製造]
上記で得られたゴム状重合体(b−1)を用いて凝集肥大化処理を行った。撹拌槽にゴム状重合体(b−1)270部、10%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液0.055部を添加して10分間撹拌した後、5%リン酸水溶液0.8部を10分間に亘り添加した。その後、10%水酸化カリウム水溶液1部を添加することで、ゴム状重合体(b−2)を得た。得られたゴム状重合体(b−2)の重量平均粒子径を上述の方法で測定した結果、重量平均粒子径は0.35μmであった。
【0065】
[熱可塑性樹脂(B−1)の製造]
窒素置換した反応器にゴム状重合体(b−2)48部(固形分)、水140部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.1部、硫酸第1鉄0.001部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.3部を入れ、60℃に加熱後、スチレン39部、アクリロニトリル13部、t−ドデシルメルカプタン0.6部及びキュメンハイドロパーオキサイド0.2部からなる混合物とオレイン酸カリウム1.5部及び水15部からなる混合物を4時間に亘り連続的に添加した。添加終了後さらに60℃で2時間重合した。その後、塩析・脱水・乾燥することでアクリロニトリル・ブタジエン系ゴム・スチレン重合体である熱可塑性樹脂(B−1)を得た。
【0066】
得られた熱可塑性樹脂(B−1)のグラフト率、及びアセトン可溶分の還元粘度(0.4g/100cc、N,Nジメチルホルムアミド溶液として30℃で測定)は、それぞれ40%及び0.39dl/gであった。なお、グラフト率は、グラフト共重合体のアセトン可溶分量と不溶分量及びグラフト共重合体中の複合ゴムの質量から、上記と同様にして求めた。
【0067】
[熱可塑性樹脂(B−2)の製造]
窒素置換した反応器にスチレン66.2重量部、アクリロニトリル22.1重量部、エチルベンゼン11.7重量部、t−ドデシルメルカプタン0.35重量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、140℃で重合を行なった。反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出後、スチレン・アクリロニトリル共重合体である熱可塑性樹脂(B−2)を得た。上述の方法により、得られた熱可塑性樹脂(B−2)の還元粘度は0.62dl/gであった。
【0068】
[熱可塑性樹脂(B−3)の製造]
窒素置換した反応器にスチレン66.2重量部、アクリロニトリル22.1重量部、エチルベンゼン11.7重量部、t−ドデシルメルカプタン0.40重量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、140℃で重合を行なった。反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出後、スチレン・アクリロニトリル共重合体である熱可塑性樹脂(B−3)を得た。上述の方法により、得られた熱可塑性樹脂(B−3)の還元粘度は0.50dl/gであった。
【0069】
[熱可塑性樹脂(B−4)の製造]
窒素置換した反応器にスチレン66.2重量部、アクリロニトリル22.1重量部、エチルベンゼン11.7重量部、t−ドデシルメルカプタン0.55重量部からなる単量体混合物を連続的に供給して、140℃で重合を行なった。反応器より重合液を予熱器と真空槽より成る分離回収工程に導き、回収、押出後、スチレン・アクリロニトリル共重合体である熱可塑性樹脂(B−4)を得た。上述の方法により、得られた熱可塑性樹脂(B−4)の還元粘度は0.45dl/gであった。
【0070】
[熱可塑性樹脂(B−5)]
ポリカーボネート樹脂:住化スタイロンポリカーボネート(株)製 カリバー 200−15
【0071】
(実施例1〜9、比較例1〜7)
表1に示す組成でグラフト共重合体(A)、熱可塑性樹脂(B)を混合した後、40mm二軸押出機を用いて実施例1、2、5、6及び比較例1、3、5は200℃、実施例9及び比較例7は280℃、これら以外は250℃にて溶融混練してペレットを得た。得られたペレットより、実施例1、2、5、6及び比較例1、3、5は200℃、実施例9及び比較例7は280℃、これら以外は250℃に設定した射出成形機にて種々の射出成形品を成形し、物性評価を行った。評価結果を表1に示す。なお、それぞれの評価方法を以下に示す。
【0072】
[耐熱性試験]
ISO 294に準拠して試験片を成形し、耐熱性の測定をした。耐熱性はISO75に準拠し、荷重1.8MPaの荷重たわみ温度を測定した。
単位:℃
【0073】
[デラミネーション試験]
得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)のゲート部にカッターで切り込みを入れ、剥離するかどうかを判定した。
○:剥離なし
×:剥離あり
【0074】
[摺動特性の評価(摩擦試験)]
以下の下面試験片及び上面試験片を用意した。
下面試験片:得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)。
上面試験片:超耐熱ABS樹脂(KU−630R−3(日本エイアンドエル(株)製))を射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)を(縦×横×厚み=4cm×4cm×3mm)に切り出したもの。
【0075】
各試験片を23℃、湿度50%の恒温室に24時間静置させた後に、
図1に示すように上面試験片と下面試験片(図中の試験材)の2枚を重ね合わせ、上面試験片の上に1.389kgの荷重を乗せ、毎分50mmの一定速度で引っ張る時に生じる試験力をロードセルで計測し、下記式式(3)より減少率を求め、3段階で評価した。
減少率(%)=[(a−b)/a]×100 …(3)
a:グラフト共重合体(A)無添加での試験力
b:グラフト共重合体(A)添加での試験力
(評価)
○:減少率10%以上
△:減少率5%以上10%未満
×:減少率5%未満
【0076】
[きしみ音特性の評価]
以下の下面試験片及びコップ型成形品を用意した。
下面試験片:得られたペレットを射出成形して得られた平板試験片(縦×横×厚み=15cm×9cm×3mm、光沢面)。
コップ型成形品:超耐熱ABS樹脂(KU−630R−3(日本エイアンドエル(株)製))を射出成形して得られたコップ型成形品(直径×高さ×厚み×重さ=6.2cm×8.1cm×2mm×50g)。
【0077】
各試験片を23℃、湿度50%の恒温室に24時間静置させた後に、下面試験片を水平に対して30°の傾きに固定し、その上にコップ型成形品を静かに乗せ100回滑らせた時に、きしみ音が発生する回数を数え、式(4)で改善率を求め、2段階で評価した。
改善率(%)=[(a−b)/a]×100 …(4)
a:グラフト共重合体(A)無添加でのきしみ音発生回数(回)
b:グラフト共重合体(A)添加でのきしみ音発生回数(回)
(評価)
○:改善率30%以上
×:改善率30%未満
【0078】
(実施例10〜17、比較例8〜9)
表2に示す組成でグラフト共重合体(A)及び熱可塑性樹脂(B)を混合した後、40mm二軸押出機を用いて実施例10、11、14、15及び比較例8は200℃、これら以外は250℃にて溶融混練してペレットを得た。得られたペレットより、実施例10、11、14、15及び比較例8は200℃、これら以外は250℃に設定した射出成形機にて種々の射出成形品を成形し、耐摩耗性評価を行った。評価結果を表2に示す。なお、評価方法を下記に示す。
【0079】
[耐摩耗性の評価]
得られたペレットを射出成形した平板試験片(縦×横×厚み=15cm×15cm×3mm)を、縦×横×厚み=9cm×9cm×3mmに切り出し、平板試験片中心部に6mmの孔をあけたものを試験片として用意した。各試験片を23℃、湿度50%の恒温室に48時間静置させた後に、テーバー式摩耗試験機を用いて下記に示した条件下で摩耗試験を行い、式(5)にて摩耗量を、式(6)にて減少率を求め、3段階で評価した。
(条件)
摩耗輪:CS−17(テーバー社製)
荷重:750g、試験機アームの重量含め1000gに調整。
テーブル回転数:1000回
回転速度:70rpm
【0080】
摩耗量(mg)=試験前質量(mg)−試験後質量(mg) …(5)
【0081】
減少率(%)=[(a−b)/a]×100 …(6)
a:グラフト共重合体(A)無添加での摩耗量(mg)
b:グラフト共重合体(A)添加での摩耗量(mg)
(評価)
◎:減少率40%超過
○:減少率10%以上40%未満
×:減少率10%未満
【0082】
【表1】
【0083】
【表2】
【0084】
表1に示すように、実施例1〜9は本発明のグラフト共重合体(A)を配合した熱可塑性樹脂組成物の例であり、耐熱性を維持したまま、デラミネーションの発生がなく、摺動特性、軋み音の改善率が良好なものであった。
【0085】
表1に示すように、比較例1〜2は本発明の規定を満たさないエチレン系重合体を用いたグラフト共重合体(A)を配合した例であり、摺動特性、軋み音の改善に劣るものであった。比較例3〜4、7はグラフト共重合体(A)を配合していない例であり、摺動特性、軋み音の改善率が劣るものであった。比較例5〜6は、グラフト重合されていないエチレン系重合体そのものを配合した例であり、デラミネーションが発生するものであった。
【0086】
表2に示すように実施例10〜17は本発明のグラフト共重合体(A)を配合した熱可塑性樹脂組成物の例であり、耐摩耗性の改善率が良好なものであった。
【0087】
表2に示すように、比較例8〜9は本発明のグラフト共重合体(A)を配合していない例であり、耐摩耗性の改善率が劣るものであった。