【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例によって制限されず、前記及び後記の趣旨に適合し得る範囲内で適切な改変を行なって実施することも可能であり、これらはいずれも本発明の技術的範囲内に含まれる。
<実施例1>本発明の実施例1の鋼材として、鋼線を下記の圧延加工により得た。
〔素材〕
表1に示す化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、JIS G4309 SUS304−W1(軟質1号)の線径6.0mmのコイル状鋼線を、本発明の高強度非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線の製造試験用の素材として用いた。
【0043】
【表1】
この素材の応力−ひずみ曲線を
図1に示す。これによれば、素材の0.2%耐力は300MPaで、引張強さは630MPaである。またビッカース硬さ(HV)は139であった。
【0044】
〔本発明鋼線の製造試験〕
本発明鋼線の製造試験例として、上記線径6.0mmの鋼線(素材)に対して、450−550℃の温度範囲において、合計6パスで構成される溝ロール圧延を行ない、仕上がり直径が3.1mmのコイル状鋼線を得た。加熱は高周波誘導加熱による連続加熱法を用いた。この溝ロール圧延工程は、第1工程でオーバル孔型に次ぐスクウェア孔型、第2工程でオーバル孔型に次ぐスクウェア孔型(参考文献として、鳥塚ら:日本金属学会誌、72(2008)、571−580、Fig.1参照)、そして第3工程でオーバル孔型に次ぐラウンド孔型を用い、各工程においてコイルからコイルへの溝ロール圧延を行ない、合計3工程で6パスの圧延で構成した。
図2に、第1工程から第3工程までの各工程における材料のC方向断面形状の変化状況を示す。この溝ロール圧延による素材から第3工程終了まで即ち本発明鋼線までの材料の加工率(溝ロール圧延の場合には、通称「C方向断面の面積減少率」に相当する)は、73.3%である。
【0045】
こうして得られた直径3.1mmの本発明鋼線は磁石につくことはなく、非磁性であることが確認された。次に、この本発明鋼線(第3工程終了後の鋼線)の室温における引張試験を行なった。なお、第1及び第2工程終了後の鋼線についてもサンプルを採取し、磁石による磁性試験を行ない、次いで室温における引張試験を行なった。また、硬さ試験も行なった。引張試験の結果を
図3及び表2に示す。表2にはビッカース硬さ試験結果も併記した。
【0046】
【表2】
【0047】
上記試験結果に示すように、本発明鋼線は、0.2%耐力が980MPa、引張強さが1060MPa、ビッカース硬さ(HV)は351である。そして絞りは79%と高い。
なお、素材から第1工程→第2工程→第3工程と圧延することによって、0.2%耐力は、300(素材)→760→900→980MPa、 引張強さは、630(素材)→840→940→1060MPa、 ビッカース硬さは、139(素材)→313→316→351、絞りは、83(素材)→78→78→79%と高延性が保持されつつ高強度化していることが分かる。また、いずれの工程終了後においても、引張試験前のサンプルは磁石につくことがなく、非磁性であった。
本3工程圧延材を、超伝導量子干渉計(SQUID)を用いて、B―Hカーブを測定し、透磁率を求めた。その結果、透磁率は1.010であった。なお、素材の透磁率は、1.004であった。
以上の通り、実施例1においては、オーステナイト系ステンレス鋼であって、室温における0.2%耐力が980MPaであって、透磁率が1.02未満である非磁性の線径が3.1mmの鋼線が得られた。
以上より、実施例1で得られた本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線の製造試験は、本願の請求項1及び請求項5の要件を満たしており、同時に請求項7及び8の高温度域における温間加工の製造方法の要件を満たしている。
<比較例1>比較のため、素材から3.0mmまで冷間(23℃)伸線を行った材料に対し、同様の測定を行ったところ、透磁率は、2.839であった。
【0048】
<実施例2>本発明の実施例2の鋼材として、実施例1よりも高強度の鋼線を下記の圧延加工により得た。
〔素材〕
表3に示す化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、JIS G4309 SUS304−W2(軟質2号)の線径6.0mmのコイル状鋼線を、本発明の高強度非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線の製造試験用の素材として用いた。この素材の0.2%耐力は740MPaで、引張強さは940MPa、ビッカース硬さ(HV)は315、絞りは73.3%である。
【0049】
【表3】
【0050】
〔本発明鋼線の製造試験〕
上記線径6.0mmの鋼線(素材)に対して、550〜600℃の温度範囲において、合計6パスで構成される溝ロール圧延を行ない、仕上がり直径が3.1mmのコイル状鋼線を得た。この溝ロール圧延工程は、実施例1と同じであり、合計3工程で6パスの圧延で構成され、素材から第3工程終了まで即ち本発明鋼線までの材料の溝ロール圧延による加工率は、73.3%である。
こうして得られた直径3.1mmの本発明鋼線は磁石につくことはなく、非磁性であることが確認された。次に、この本発明鋼線(第3工程終了後の鋼線)の室温における引張試験を行なった。なお、第1及び第2工程終了後の鋼線についてもサンプルを採取し、磁石による磁性試験を行ない、次いで室温における引張試験を行なった。また、硬さ試験も行なった。引張試験の結果を
図4及び表4に示す。表4にはビッカース硬さ試験結果も併記した。
【0051】
【表4】
【0052】
上記試験結果に示すように、本発明鋼線は、0.2%耐力が1280MPa、引張強さが1320MPa、ビッカース硬さ(HV)は391である。そして、絞りは72%であった。
以上の通り、実施例2においては、オーステナイト系ステンレス鋼であって、室温における0.2%耐力が1280MPaであって、透磁率が1.02未満とみなすことができる非磁性で線径が3.1mmの鋼線が得られた。
以上より、実施例2で得られた本発明の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線の製造試験は、本願の請求項1及び請求項5の要件を満たしており、同時に請求項7及び8の高温度域における温間加工の製造方法の要件を満たしている。
【0053】
なお、上記試験においては更に、素材から第1工程→第2工程→第3工程と圧延することによって、0.2%耐力は、740(素材)→1050→1150→1280MPa、 引張強さは、940(素材)→1150→1180→1320MPa、 ビッカース硬さは、315(素材)→365→373→391、絞りは、74(素材)→74→73→72%と高延性が保持されつつ高強度化していることが分かる。また、いずれの工程終了後においても、引張試験前のサンプルは非磁性であった。
【0054】
〔実施例2で得られた本発明鋼線の室温(23℃)から500℃までの各種温度における引張試験の結果〕
次に、実施例2で得られた本発明の非磁性鋼線からサンプリングし、23℃、100℃、200℃、300℃、400℃及び500℃の各温度で引張試験をした。そして、引張試験後の試験片の破断部につき、磁石につくか否かの試験を行なった。これらの試験結果を、
図5及び表5に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
上記試験結果に示すように、引張試験後の試験片破断部の磁性に関しては、室温(23℃)においては磁石につき、明確な磁性を有し、100℃の場合には破断部に僅かに磁性があったが、200℃以上においては磁性は全くなかった。この結果より、550〜600℃の温度範囲における温間圧延によって非磁性を確保しつつ高強度化されたオーステナイト系ステンレス鋼線においては、100℃超えの温度で、更に望ましくは200℃以上の温度で当該鋼線を圧造その他の方法で2次加工した場合に、磁性を生じさせることなく成形可能であることを示している。
また、200〜500℃の範囲における最大応力は1150MPaであり、常温(23℃)における0.2%耐力よりも小さく、その92.0%以下に収まっている。従って、200〜500℃の温度範囲において2次加工を施せば、成形加工で使用する金型や工具の寿命延長上からも望ましいと言える。
【0057】
以上の通り、実施例2においては、オーステナイト系ステンレス鋼であって、室温における0.2%耐力が1250MPaであって、透磁率が1.02未満とみなすことができ、非磁性であって、200〜500℃における最大応力が室温における0.2%耐力の95%以下(1150/1250=0.920)である線径が3.1mmの高強度鋼線が得られた。これは本願の請求項3の要件をも満たしている。
【0058】
<実施例3と(参考例3−1)及び比較例2>
実施例3は、実施例1で用いた線径6.0mmのコイル状鋼線を素材として、圧延温度が200℃、300℃、400℃、500℃の各温度において、溝ロール圧延スケジュールを実施例1におけると同じく合計3工程6パスで構成される溝ロール圧延を行ない、仕上がり直径が3.1mmのコイル状鋼線を得た。その際、溝ロール圧延工程も実施例1と同じであり、第1工程から第3工程に至る素材のC方向断面形状は、圧延温度によらずに一定であって、
図2と同様であった。また、素材から第3工程終了まで即ち本発明鋼線までの材料の加工率も実施例1と同じで73.3%である。実施例1との差は圧延温度だけである。
更に、(参考例3−1)として、100℃において上記と同じ試験を行なった。100℃における試験を参考例とした理由は、後記表7に示すように、フェライト分率が14.7%と、非磁性確保の観点から若干高めであるからである。
なお、実施例3における試験符号は、圧延温度が200℃の場合を実施例3−2と称し、300℃の場合を実施例3−3と称し、以下順にこれに準じて、500℃を実施例3−5と称する。
【0059】
一方、比較例2は、本願発明の範囲外の試験例であり、実施例3の試験条件の内、圧延温度を室温とした他は、実施例3と同じ条件の溝ロール圧延スケジュールでの試験を行なった。勿論、加熱炉は使用しなかった。
【0060】
こうして得られた実施例3及び比較例2の線径3.1mmの鋼線についての引張試験から強度特性等を、
図6及び表6に示す。また、電子線後方散乱回折(EBSD)法で得られた方位差角5度以上の粒界マップの例を
図7に示し、当該粒界マップの粒界の測定部位におけるオーステナイト分率、フェライト分率、方位差角5度以上の粒界密度及び相当等軸粒径を、表7に表す。
【0061】
上記試験結果に示すように、室温で圧延された材料(比較例2)は、0.2%耐力で1400MPaをこえるものの、表7に示すように、加工誘起変態の生成量を表すフェライト分率が60%を超える。これに対して、実施例3−2〜実施例3−5からわかるように温間加工の効果は、劇的であり、圧延温度を200℃にすると、フェライト分率は3.0%%にまで低下した。加工温度を200℃以上にした場合、フェライト分率は3%以下となり、ノイズの混入も多少は含まれることを考えると、加工誘起変態は、実質的になくなったと言える。したがって、200℃以上の加工温度は、オーステナイトステンレスの非磁性を維持するものである。その中間の150℃も有効な加工温度である。なお、(参考例3−1)の100℃にすると、フェライト分率は14.7%にまで低下した。100℃の加工の場合、磁性がわずかであるが生じる。しかし、多くの点で有用と考える。5度以上の方位差角の粒界密度は、すべて、2μm/μm
2を超えていた。
なお、実施例3においては、圧延材料の加熱を炉加熱によるバッチ加熱法を用いたので、在炉時間を各工程20分としたため、実施例1における高周波誘導加熱法に比べ、在炉時間が長い。そのため、実施例3では強度が実施例1の本発明鋼線(表2を参照)に比べて低めになっている(表6の実施例3−4〜3−5参照)。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
<実施例4>本発明の実施例4の鋼材として、薄帯鋼を下記の圧延加工により得た。
〔素材〕
表1に示した化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、JIS G4309 SUS304−W1(軟質1号)の線径1.9mmのコイル状鋼線を、本発明の高強度非磁性オーステナイト系ステンレス薄帯鋼の製造試験用の素材として用いた。この素材の0.2%耐力は300MPaで、引張強さは630MPaであり、またビッカース硬さ(HV)は139であり、実施例1で用いた素材の化学成分組成及び機械的性質と同じである。
【0065】
〔本発明薄帯鋼の製造試験〕
本発明薄帯鋼の製造試験例として、上記線径1.9mmのコイル状鋼線(素材)を、実施例4では150℃に加熱し、平ロール圧延を行なって板厚0.46mm、幅5.15mmの板形状の薄帯鋼とした。圧延は1パスで行なったが、このときロール表面をバーナーで加熱することにより圧延時における材料からの接触抜熱を防止した。
本明細書における鋼線から薄帯鋼への加工率は、「課題を解決するための手段」の項において前述した通り、材料のC方向断面形状を、丸形状(直径D)から平形状(厚さt)に圧延する時の計算式:{(D−t)/D}×100 (%)に基づき、この平ロール圧延による加工率を計算すると、75.9%である。こうして得られた薄帯鋼は、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であることを確認した。
【0066】
次に、この本発明薄帯鋼の室温における引張試験を行なった。実施例4の引張試験の結果を
図8に示す。但し、引張試験片の形状は、幅=2.5mm、標点距離=17.5mmである。
上記試験結果に示すように、本発明薄帯鋼は、0.2%耐力が950MPa、引張強さが1050MPaと上昇していた。
以上より、実施例4で得られた本発明の非磁性薄帯鋼の製造試験は、本願の請求項1及び請求項5の本発明鋼材の要件を満たし、同時に請求項9の本発明の低温度域における温間加工の製造方法の要件をも満たしている。
【0067】
<比較例3>本発明の範囲外である比較例1の鋼材として、薄帯鋼を下記の圧延加工により得た。
〔素材〕
実施例4で用いた素材と同一のコイル状鋼線の一部を、比較例3の素材として用いた。即ち、表1に示した化学成分組成を有するオーステナイト系ステンレス鋼であって、JIS G4309 SUS304−W1(軟質1号)の線径1.9mmのコイル状鋼線であり、この素材の0.2%耐力は300MPaで、引張強さは630MPaである。
〔本発明範囲外の薄帯鋼の製造試験〕
本発明範囲外の薄帯鋼の製造試験例として、上記線径1.9mmのコイル状鋼線(素材)を素材とし、室温において平ロール圧延を行なった。圧延は実施例4と同様、1パスで行なった。線径1.9mmの鋼線を板厚0.51mm、幅4.30mmの板形状の薄帯鋼とした。この平ロール圧延による加工率は73.3%である。
こうして得られた薄帯鋼を、室温における引張試験と硬さ試験を行なった。引張試験の結果を
図8に併記した。但し、引張試験片の形状は、幅=2.5mm、標点距離=17.5mmである。その結果、0.2%耐力は1210MPa、引張強さは1400MPa、ビッカース硬さは414と、高強度が得られた。しかし、引張試験前の試験片に磁石を近づけたところ、磁石につき、磁性を有していた。
【0068】
<実施例5>
〔本発明薄帯鋼の製造試験〕
表3に示した化学成分組成の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線を素材として溝ロールにより高温度域における温間加工を施し、得られた鋼線(この鋼線は下記の通り実施例2で得られた本発明鋼線と同じである)に対して更に、平ロールにより低温度域における温間加工を施すことにより、高強度非磁性オーステナイト系ステンレス薄帯鋼の製造試験を行なった。製造条件の詳細は次の通りである。
素材は実施例2で使用した素材と同じものであり、表3に示した化学成分組成のJIS G4309 SUS304−W2(軟質2号)(0.2%耐力は740MPaで、引張強さは940MPa)で、線径6.0mmのコイル状鋼線を450〜550℃の温度範囲において、前記
図2に示した3工程の合計6パスで溝ロールにより加工率が74.2%の圧延を行ない、線径3.1mmのコイル状鋼線とした。鋼線の0.2%耐力は1280MPa、引張強さは1320MPa、ビッカース硬さは391であった。
【0069】
次に、この線径3.1mmの鋼線を研削により線径を1.3mmまで減径した後に、150℃に加熱し、平ロールにより加工率が67.7%の1パス圧延を施して、板厚が0.42mmで幅3.40mmの板形状の薄帯鋼とした。なお、圧延中はロール表面をバーナーで加熱して圧延時における材料からの接触抜熱を防止して材料の加熱温度を確保した。
【0070】
こうして得られた薄帯鋼は、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であった。なお、途中での研削後の鋼線も、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であった。
次に、室温における引張試験を行なった。その結果を、
図9に示す。但し、引張試験片の形状は、幅=2.5mm、標点距離=17.5mmである。その結果、0.2%耐力は1300MPa、引張強さは1540MPa、ビッカース硬さは490という高強度が得られた。 以上より、実施例5で得られた本発明の非磁性薄帯鋼の製造試験は、本願の請求項1及び請求項5の要件を満たし、同時に請求項11及び請求項12の高温度域における温間加工を行ない、更に低温度域における温間加工を行なう製造方法の要件を満たしている。
【0071】
<比較例4>
〔本発明の範囲外の薄帯鋼の製造試験〕
表3に示した化学成分組成の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線を素材として溝ロールにより高温度域における温間加工を施し、得られた鋼線(この鋼線は下記の通り、実施例2で得られた本発明鋼線と同じである)に対して、更に今度は平ロールにより冷間圧延を施して薄帯鋼の製造試験を行なった。製造条件の詳細は次の通りである。
素材は実施例2で使用した素材と同じであり、表3に示した化学成分組成のJIS G4309 SUS304−W2(軟質2号)(0.2%耐力は740MPaで、引張強さは940MPa)で、線径6.0mmのコイル状鋼線を450〜550℃の温度範囲において、前記
図2に示した3工程の合計6パスで溝ロールにより加工率(RC)が74.2%の圧延を行ない、線径3.1mmのコイル状鋼線とした。鋼線の0.2%耐力は1280MPa、引張強さは1320MPa、ビッカース硬さは391であった。
次に、この線径3.1mmの鋼線を研削により線径を1.3mmまで減径した後に、冷間で、平ロールにより加工率が66.4%の1パス圧延を施して、板厚が0.44mmで幅3.01mmの板形状の薄帯鋼とした。
こうして得られた薄帯鋼は、磁石を近づけたところ、磁石につき、磁性を有していた。なお、途中での研削後の鋼線は、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であった。
更に、室温における引張試験を行なった。但し、引張試験片の形状は、幅=2.5mm、標点距離=17.5mmである。その結果を、
図9に併記した。その結果、0.2%耐力は1500MPa、引張強さは1708MPa、ビッカース硬さは512と、高強度は得られていたが、磁性を有していたので、本発明の範囲外である。
表8に、強度特性及び磁性について、前記実施例4と前記比較例3との比較、及び実施例5と比較例4との比較をまとめた。
【0072】
【表8】
【0073】
<実施例6>
〔本発明鋼線の製造試験〕
表1に示した化学成分組成の非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線を素材として溝ロールにより高温度域における温間加工を施し、得られた鋼線(この鋼線は下記の通り実施例1で得られた本発明鋼線と同じである)に対して更に、伸線機により低温度域における温間伸線加工を施すことにより、高強度非磁性オーステナイト系ステンレス細線の製造試験を行なった。製造条件の詳細は次の通りである。
素材は実施例1で使用した素材と同じものであり、表1に示した化学成分組成のJIS G4309 SUS304−W1(軟質1号)0.2%耐力は300MPaで、引張強さは630MPa、RA83%で、線径6.0mmのコイル状鋼線を450〜550℃の温度範囲において、前記
図2に示した3工程の合計6パスで溝ロールにより加工率が74.2%の圧延を行ない、線径3.1mmのコイル状鋼線とした。鋼線の0.2%耐力は980MPa、引張強さは1015MPa、RA79%ビッカース硬さは351であった。
【0074】
次に、この線径3.1mmの鋼線を研削により線径を2.0mmまで減径した後に、170℃に加熱し、伸線機ダイスにより加工率(通常は「減面率」と称される)が18.0%の1パス伸線を施して、線径が1.80mmの細鋼線とした。なお、伸線中はダイスをヒーターで加熱して伸線加工温度を制御した。
こうして得られた細鋼線は、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であった。なお、途中での研削後の鋼線も、磁石を近づけてもつくことはなく、非磁性であった。
また、室温における引張試験を行なった。その結果、0.2%耐力は1000MPa、引張強さは1135MPa、ビッカース硬さは356という高強度が得られ、しかも絞りは75%と高い値が得られた。結果を、
図10に示す。WTが実施例6の応力−ひずみ曲線である。
【0075】
以上より、実施例6で得られた本発明の非磁性ステンレス鋼線の製造試験は、本願の請求項1及び請求項5の要件を満たし、同時に請求項11、及び請求項12の高温度域における温間加工を行ない、更に低温度域における温間加工を行なう製造方法において低温度域での加工方法が伸線加工である場合の製造方法の要件を満たしている。
【0076】
<比較例5>
比較例5の試験は上記実施例6の試験においては高温度域での温間溝ロール圧延の後、研削により2.0mmまで減径し、これを低温度域での温間伸線加工を行なったが、この低温度域での温間伸線加工の代わりに、室温での冷間伸線加工を行なった点において、上記実施例5とは異なる試験である。
比較例5における冷間伸線加工の条件は、上記2.0mmφのコイル状鋼線を、室温(18℃)において、伸線機ダイスにより加工率が18.0%の 1パス伸線を施して、線径が1.80mmの細鋼線とした。
【0077】
上記冷間伸線により得られた鋼細線は、磁石を近づけたところ、磁石につき、磁性を有していた。また、室温における引張試験を行なった。その結果、0.2%耐力は1050MPa、引張強さは1205MPa、ビッカース硬さは360という高強度が得られ、絞りは73%と高い値が得られた。しかしながら磁性を有していたので、これは本発明の範囲外である。結果を、
図10に併記した。RTが比較例5の応力−ひずみ曲線である。
【0078】
<実施例7>
〔本発明薄帯鋼の製造試験〕
表1に示したSUS304系の化学成分組成を有する非磁性オーステナイト系ステンレス鋼線を素材として、高温度域において溝ロール圧延と平ロール圧延とにより薄帯鋼を製造する試験を行なった。製造条件は次の通りである。
【0079】
素材は実施例1で使用した素材と同じJIS規格の線径6.0mmのSUS304系非磁性鋼線であり、0.2%耐力は300MPa、引張強さは630MPaである。これを440〜505℃の温度において、孔型形状が順にオーバル、スクエア、オーバル、スクエア、オーバルの溝ロールによる多方向圧延により、C方向断面形状が、短辺2.45mm、長辺4.80mmのオーバル形状とし(ここまでの加工率は67.3%である)、次いで短辺2.45mmを平ロールの1パスで1.1mmに圧延し(加工率は(2.45−1.1)/2.45=55%)、厚さ1.1mm×幅7.5mmの薄帯鋼を調製した。
【0080】
上記で得られたオーステナイトステンレス薄帯鋼の機械的性質は、0.2%耐力が970MPa、引張強さが1050MPaであり、この薄帯鋼は磁石には付かず非磁性であった。以上より実施例7は、本願の請求項1及び請求項5の高強度非磁性オーステナイト系ステンレス薄帯板の要件を満たしており、同時に請求項7及び請求項8の高温度域における温間加工の製造方法の要件を満たしている。