【解決手段】脈管モデルA2,B1及び周辺組織モデルFを記憶する記憶部5と、記憶部5に記憶された脈管モデルA2,B1及び周辺組織モデルFを用いて、周辺組織付臓器モデルNを生成するモデル生成部3と、を備え、周辺組織モデルFは、弾性膜モデルであり、モデル生成部3は、周辺組織モデルFに引張応力を生じさせた状態で、脈管モデルA2,B1のまわりを囲むように周辺組織モデルFを配置させるための処理を行い、脈管モデルA2,B1のまわりに配置された周辺組織モデルFを収縮させる変形計算を行うことで、周辺組織付臓器モデルNを生成する周辺組織付臓器モデル生成装置1である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
胆管異常走行は、術前のCT(コンピュタ断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像法)による撮影で事前に検知されることが多いが、実際の術野映像で見ると迅速に手術を進めることは難しい。このため、こうした特殊症例に対する術前訓練を可能にするとが望まれる。
特に、医学生に対する初期教育で異型を含めた解剖知識と手術手技を目と手で学べる教材として、臓器異型のバリエーションに対応したシナリオ可変型手術シミュレータが有効な手段と考えられる。そこで、多種多様な異型の組み合わせを想定したシナリオでの訓練の実施が可能な、実戦的な手術シミュレータの実現が望まれる。
【0006】
しかしながら、脈管(胆嚢管や血管など)を含む異型臓器モデルの形状モデリングには困難が伴う。すなわち、稀な症例を含むCT・MRIデータはほとんど存在しないし、そもそも、CT・MRIでは、脈管や脈管の周辺のリンパ管、漿膜、脂肪等(
図3参照)の組織を捉えることはできない。造影剤の使用により管の内側であれば捉えることができるが、造影剤が管の内側全体に行き届かないことが多い。また、管の壁の部分や、リンパ、漿膜、脂肪等の情報が欠けているため、手術シミュレーションに必要な情報を満足に得ることができない。また、近年は副作用の問題から造影剤の使用を避ける傾向にある。
【0007】
このため、CT・MRIの断層画像から異型臓器のボリュームデータを構築するのではなく、医学書や論文等の症例報告の資料を参考に、手作業で、脈管を含む異型臓器モデルの形状モデリングを行うことが考えられる。しかし、胆嚢管、胆管、胆嚢動脈等の多種多様な走行パターンの組み合わせからなる異型シーンを最初から全て手作業で作成するのは非現実的である。また、脈管の走行パターンが異なるとその周辺組織の形状も異なることになるが、走行パターンの組み合わせ毎に脈管の周辺組織を手作業でモデル化するのは効率的でない。
【0008】
ここで、特許文献1には、臓器と臓器を覆う膜組織とからなるシミュレーション用モデルを自動的に生成する方法が開示されている。このモデル生成方法は、必要な臓器のボリュームデータを構築する工程と、ボリュームデータの臓器をメッシングする工程と、メッシングされた臓器を覆う複数層の模擬膜を形成する工程と、臓器の表面節点から臓器外方(法線方向)に仮想線を延ばし、仮想線と模擬膜との交点に膜面用節点を形成し、各仮想線について表面各節点と膜面用節点及び膜面用節点間を接続する仮想膜用バネを配置し、各模擬膜面について膜面用節点間をメッシュ形成するように面方向バネを配置する工程を含むものである。
【0009】
しかし、特許文献1記載の臓器モデル生成法は、臓器の表面から外方(法線方向)に仮想線を延ばすものであるため、模擬膜内部の臓器の形状が複雑であったり当該臓器が複数であったりすると、仮想線が模擬膜と交差する前に、臓器自体や他の臓器と交差してしまい、適切にモデル化できない場合がある。
例えば、特許文献1記載の臓器モデル生成方法を用いて、Calot三角の領域のように2本の脈管とこれらを囲む周辺組織とからなる手術対象部位のモデル化を行う場合を想定する。この場合、2本の脈管それぞれから法線方向に仮想線を延ばすと、一方の脈管から延びた仮想線が他方の脈管と交差する場合がある。
【0010】
本発明は、従来技術とは異なるアプローチによる、臓器とこの臓器を囲む周辺組織とからなる手術対象部位モデルを生成するのに適した周辺組織付臓器モデル生成装置及び周辺組織付臓器モデル生成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一の観点からみた本発明は、手術シミュレーションのための周辺組織付臓器モデル生成装置であって、臓器モデル及び周辺組織モデルを記憶する記憶部と、前記臓器モデル及び周辺組織モデルを用いて、周辺組織付臓器モデルを生成するモデル生成部と、を備え、前記周辺組織モデルは、弾性膜モデルであり、前記モデル生成部は、前記周辺組織モデルに引張応力を生じさせた状態で、前記臓器モデルのまわりを囲むように前記周辺組織モデルを配置させるための処理を行い、前記臓器モデルのまわりに配置された前記周辺組織モデルを収縮させる変形計算を行うことで、周辺組織付臓器モデルを生成する周辺組織付臓器モデル生成装置である。
【0012】
他の観点からみた本発明は、手術シミュレーションのための周辺組織付臓器モデル生成方法であって、モデル生成部が、周辺組織モデルとしての弾性膜モデルに引張応力を生じさせた状態で、臓器モデルのまわりを囲むように前記周辺組織モデルを配置させるための処理を行う工程と、前記モデル生成部が、前記臓器モデルのまわりに配置された前記周辺組織モデルを収縮させる変形計算を行う工程と、を含む周辺組織付臓器モデル生成方法である。
【0013】
なお、前記臓器モデルには、脈管モデルが含まれるものとする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、臓器とこの臓器を囲む周辺組織とからなる手術対象部位モデルを、周辺組織内部の臓器の数や形状にかかわらず生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
この実施形態では、腹腔鏡下胆嚢摘出手術の術前シミュレーションに用いる周辺組織付の異型臓器モデルの生成について説明する。本実施形態の異型モデルは、肝臓・胆嚢、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆嚢管と胆嚢動脈を覆う漿膜、脂肪、リンパ管等の周辺組織を含むものである。
なお、この実施形態における胆嚢管及び胆嚢動脈のモデルを、「第1臓器モデル」ということもあり、また、この実施形態における肝臓・胆嚢、及び胆管のモデルを、「第2臓器モデル」ということもある。
【0017】
腹腔鏡下胆嚢摘出手術は以下の手順による。
1.炭酸ガスで腹腔内を膨らます。
2.周辺組織を剥ぎ取り、胆嚢管及び胆嚢動脈を露出させる。
3.胆嚢管及び胆嚢動脈をクリップして切除する。
4.胆嚢を肝床から剥離して、抜去する。
このように、実際の手術では胆嚢管及び胆嚢動脈から周辺組織を剥ぎ取る工程がある。このため、当該手術のシミュレーションにおいても周辺組織のモデルを備えた臓器モデルを用いる必要がある。
【0018】
[1.周辺組織付臓器モデル生成装置]
本実施形態の周辺組織付臓器モデル生成装置1は、腹腔鏡下胆嚢摘出手術のシミュレーションに用いられる手術シミュレータの一部として用いられ、手術シミュレータによる手術シミュレーションに用いられる周辺組織付臓器モデルを生成する。
この周辺組織付臓器モデル生成装置1は、周辺組織付臓器モデルとして、周辺組織付の脈管モデルを生成するシステムである。生成される周辺組織付脈管モデルにおける脈管には、胆嚢管、胆嚢動脈、胆管が含まれる。また、生成される周辺組織付脈管モデルにおける周辺組織には、漿膜、脂肪、リンパ管が含まれる。
図4は、周辺組織付臓器モデル生成装置1の機能ブロック図である。この周辺組織付臓器モデル生成装置1は、3次元手術対象部位モデル(周辺組織付臓器モデル)を生成する演算処理を行うコンピュータ2、操作者からの指令をコンピュータ2に与える入力部8、及びコンピュータ2の演算処理の結果を画像で出力する画像表示部9を備えている。
【0019】
コンピュータ2は、モデル生成部3、画像生成部4、及び記憶部5を備えている。
モデル生成部3は、臓器選択部3a、臓器配置部3b、臓器接続部3c、弾性膜配置部3d、弾性膜収縮部3e、及び接続部3fを備えており、臓器モデルの生成のための各種の演算処理を行う。
すなわち、臓器選択部3aは、操作者の入力に基づき、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管の各脈管について、複数の異型パターンの中から肝臓及び胆嚢のモデル(ボリュームデータ)に接続するモデル(ボリュームデータ)を選択する処理を行う。
【0020】
臓器配置部3bは、操作者からの入力に基づき、選択した胆嚢管、及び胆嚢動脈の各モデルを肝臓、胆嚢、及び胆管の各モデルに対して配置する処理を行う。
臓器接続部3cは、配置した胆嚢管、及び胆嚢動脈の各モデル(第1臓器モデル)を肝臓、胆嚢、及び胆管のモデル(第2臓器モデル)に対して接続する変形計算(物理計算)を行う。
弾性膜配置部3dは、胆嚢管及び胆嚢動脈周辺の漿膜、脂肪、リンパ管等の組織を模擬した弾性膜モデルを胆嚢管や胆嚢動脈のモデルのまわりを囲むように配置する処理を行う。
弾性膜収縮部3eは、配置した弾性膜モデルを収縮させて胆嚢管及び胆嚢動脈のモデルに接触させる変形計算(物理計算)を行う。
接続部3fは、収縮した弾性膜モデルとこの弾性膜モデルの内部の脈管モデルとの間で連成解析などを行うための処理を行う。各部3a〜3fの詳細については後述する。
画像生成部4は、記憶部5に記憶されている各データ、及びモデル生成部3による各種の演算処理の結果を示す画像を生成し、画像表示部9に出力する。
【0021】
記憶部5は、肝臓・胆嚢モデルデータ記憶部5a、脈管モデルデータ記憶部5b、及び弾性膜モデルデータ憶部5cを備えている。肝臓・胆嚢モデルデータ記憶部5aは、肝臓及び胆嚢のモデルデータを記憶する。脈管モデルデータ記憶部5bは、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管(肝外胆管)という複数種類の脈管のモデルデータを脈管の種類毎に記憶する。弾性膜モデルデータ記憶部5cは、当該脈管周辺の漿膜・リンパ管・脂肪等を表現した弾性膜のテンプレートモデルの情報を記憶する。
記憶部5の脈管モデルデータ記憶部5bには、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管それぞれについて、複数の異型パターンが記憶される。
【0022】
また、記憶部5は、後述する脈管の肝臓・胆嚢への接続のための紐シミュレーションや弾性膜モデルの収縮させるシミュレーションを実行するためのコンピュータプログラムも格納されている。これらのコンピュータプログラムがコンピュータ2において実行されることで、コンピュータ2は異型臓器モデルの生成に必要な機能を発揮する。
【0023】
[2.モデリングの前処理]
異型臓器のモデリングを行う前提として、肝臓・胆嚢の3次元モデルデータ及び胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管の3次元モデルデータを構築して各記憶部5a,5bに記憶させる必要がある。
肝臓・胆嚢のモデルデータは、CTやMRIで撮影された断層画像から構築することができる。したがって、例えば、肝臓・胆嚢モデルデータは、実際に胆嚢摘出手術を予定している患者のCT・MRIの断層画像から得られたデータとすることができる。一方、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管の各モデルデータをCTやMRIで撮影された断層画像から構築することは困難であることから、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管の各モデルデータは、医学書や論文等の症例報告の資料を参考に手作業で作成される。
なお、CTやMRIの断層画像から構築された肝臓・胆嚢のモデルデータにおいて、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管との接続部分は通常判別可能である。
【0024】
周辺組織付臓器モデル生成装置1を利用する医療関係者等は、異型臓器のモデリングに先立って、肝臓及び胆嚢をCTやMRIで撮影して、撮像された断層画像からそのモデルデータを構築して、肝臓・胆嚢データ記憶部5aに記憶させておく。
また、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管のモデルデータについては、当該脈管毎に、様々な異型パターンのもの作成して、脈管モデルデータ記憶部5bに予め記憶させておく。
【0025】
[3.異型臓器のモデリング]
図5は、異型臓器のモデリングの処理手順を示している。以下、この処理手順に従って異型臓器のモデル生成方法を説明する。
[3.1 脈管の配置・接続]
先ず初めに、胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管という複数種類の脈管それぞれについて、複数の異型パターンの中から術前シミュレーションに用いる脈管モデルを選択して、肝臓・胆嚢モデルに対して配置する(ステップS10)。
【0026】
ステップS10において、臓器選択部3aは、操作者の入力に基づき、シミュレーションに用いる肝臓・胆嚢モデル、及び各脈管の複数種類の異型パターンのモデルを記憶部5から読み出す。画像表示部9は、これらをモデル毎に表示する。
図6は、記憶部5から読み出されたデータの表示例を示している。
図6では、脈管モデルデータ記憶部5bから読み出された胆嚢管の複数の異型パターンA1〜A3と、胆嚢動脈の複数の異型パターンB1〜B2と、胆管の複数の異型パターンC1〜C3が画像表示部9に表示された状態を示している。
次に、臓器選択部3aは、操作者に、複数種類の異型パターンの中から術前シミュレーションに用いる胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管のモデルを選択させる処理を行う。
図6では、例えば、胆嚢管の異型パターンA2、胆嚢動脈の異型パターンB1、胆管の異型パターンC1が、操作者の入力によって選択されている。
【0027】
臓器配置部3bは、操作者からの入力に基づき、選択された胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管のモデルA2,B1,C1を、肝臓・胆嚢モデルデータ記憶部5aから読み出された肝臓・胆嚢モデルD、Eに対して配置させるための処理を行う。操作者は、実際の肝臓・胆嚢に対する各脈管の位置姿勢に即した適切な位置姿勢となるように選択された脈管それぞれのモデルを配置する操作を入力部8に対して行う。臓器配置部3bは、操作者の配置操作に応じて、肝臓・胆嚢モデルD,Eに対して、選択された胆嚢管、胆嚢動脈、及び胆管のモデルA2,B2,C1の位置を設定する。この配置結果は、画像表示部9に表示され、記憶部5に記憶される。
図6は、各脈管モデルA2,B1,C1を脈管毎に選択して、肝臓・胆嚢モデルD,Eに対して配置した状態を示している。
【0028】
肝臓・胆嚢モデルはCT・MRIの断層画像を基に作成されている一方、各脈管のモデルは医学書等に基づいて作成されているため、全てのモデルが一人の患者の臓器に基づいて構築されているわけではない。このため、これらのモデルは、解剖学的に適切な位置姿勢に配置するだけでは滑らかに接続されない。すなわち、
図6に示すように、胆嚢と胆嚢管の接続部分、肝臓と胆官(肝外胆管)の接続部分、肝臓・胆嚢と胆嚢動脈の接続部分、及び胆嚢管と胆管との接続部分は、互いに離れていたりずれていたりする。
【0029】
そこで、次に、これらの接続部分を紐シミュレーションにより滑らかに接続する処理を行う(ステップS20,S30)。複数の物体を紐シミュレーションにより滑らかに接続する処理は、公知の手法により行える。
図7は、紐シミュレーションを用いて各脈管モデルA2,B1,C1及び肝臓・胆嚢モデルD,Eを互いに滑らかに接続した状態の図である。
ステップS20,S30において、臓器接続部3cは、各脈管のモデルA2,B1,C1の中心線を抽出して、曲げ剛性及び捩じり剛性をもつ紐モデル、例えば伸縮バネ及び曲げバネを用いた質点バネダンパモデルに変換する(ステップS20)。また、臓器接続部3cは、肝臓・胆嚢モデルD,Eにおける各脈管モデルA2,B1,C1との接続部分a,b,cとなる位置の入力を受け付ける。そして、臓器接続部3cは、この紐モデルの変形計算(物理計算)を行い、各紐モデルを肝臓・胆嚢モデルD,Eにおける各脈管モデルA2,B1,C1との接続部分a,b,cに滑らかに接続する処理を行う(ステップS30)。この計算結果は、画像表示部9に表示され、記憶部5に記憶される。なお、各脈管モデルA2,B1,C1を紐モデルに変換する代わりに、有限要素モデルに変換して変形計算を行ってもよい。
【0030】
このように、本実施形態では、予め各脈管について複数の異型パターンを用意しておき、操作者に脈管毎に異型パターンを適宜選択させて、肝臓・胆嚢と脈管、及び脈管間を滑らかに接続させるための処理を行う。このため、肝臓・胆嚢及び脈管からなる異型臓器モデルの形状モデリングを異型パターン毎に医学書等の資料に基づき一から行う場合に比べて、効率的にモデルを生成することができる。
【0031】
[3.2 弾性膜の配置・収縮]
次に、弾性膜配置部3dは、胆嚢管モデルA2及び胆嚢動脈モデルB1の周りに、漿膜、リンパ管等を表現した円筒状の周辺組織モデル(弾性膜モデル)Fを配置する処理を行う(ステップS40)。
図8は、
図7のB−B線断面に相当する断面図であり、胆嚢管モデルA2及び胆嚢動脈モデルB1の周りに周辺組織としての弾性膜モデルFを配置した状態を示している。ただし、異型臓器モデルMに
図2(c)(d)に示すような副(迷入)胆管が含まれる場合は、胆嚢管、胆嚢動脈、及び副(迷入)胆管のモデルの周りに弾性膜モデルFが配置される。なお、この弾性膜モデルFの外周側の一部には、
図8に示すように、脂肪のみを表現した脂肪モデルGが付加される。また、
図8に示される弾性膜モデルFは、胆嚢管モデルA2及び胆嚢動脈モデルB1のみを覆う簡易なモデルであるが、弾性膜モデルは、
図7に示される胆嚢管モデルA2、胆嚢動脈モデルB1、及び胆管モデルC1を全体的に覆うものであってもよい。
【0032】
弾性膜モデルFには、周方向に沿って等間隔に節点f1が複数配設されていると共に径方向に沿って等間隔に節点f1が複数配設されている。そして、弾性膜モデルFの周方向及び径方向に隣り合う各節点f1,f1間には、それぞれ周方向バネf2及び径方向バネf3が配設されている。弾性膜モデルFは、複数の層L1〜L3を有している。弾性膜配置部3dは、操作者の入力に基づき、弾性膜モデルFの厚さを設定する処理を行う。また、弾性膜配置部3dは、操作者の入力に基づいて、脂肪モデルGの大きさを設定する処理を行ってもよい。
また、弾性膜モデルF及び脂肪モデルGそれぞれについて、大きさ(弾性膜モデルFの膜厚や脂肪モデルGの大きさ)が異なる複数のバリエーションを予め設定しておき、弾性膜配置部3dが、操作者の入力に基づいて、弾性膜モデルF及び脂肪モデルGのバリエーションを選択する処理を行ってもよい。
【0033】
また、弾性膜配置部3dは、操作者の入力に基づき、周方向バネf2にバネ定数が異なるバネが含まれるように設定する処理を行うことができる。弾性膜配置部3dは、同様に、径方向バネf3にバネ定数が異なるバネが含まれるように設定する処理を行うことができる。周方向バネf2及び径方向バネf3は、所定の張力又は伸びにより切断する物理定数を備えるものであってもよい。
【0034】
弾性膜配置部3dは、周方向バネf2が自然長から延びて周方向バネf2に引張り応力が生じている拡径状態の弾性膜モデルFを、胆嚢管及び胆嚢動脈のモデルA2,B1との間に適宜の隙間が生じるように配置する。
【0035】
次に、弾性膜収縮部3eは、エネルギー最小化アルゴリズムによって、弾性膜モデルFの弾性エネルギーが最小となるように変形計算(物理計算)を行い、弾性膜モデルFを収縮させて、胆嚢管及び胆嚢動脈のモデルA2,B1に接触させる(ステップS50)。
図9は、弾性膜モデルFを収縮させて脈管モデルA2,B1に接触させて得られた弾性膜付脈管モデルN示している。
【0036】
この収縮計算により、様々な異型を含む胆嚢管や胆嚢動脈のモデルA2,B1の組み合わせに対して、その脈管の形状にフィットした漿膜、リンパ管、及び脂肪等の周辺組織のモデルFを自動的に生成させることができる。これにより、多種多様な異型の組み合わせを想定したシナリオでの訓練の実施が可能な、実戦的な手術シミュレータを実現できる。また、膜の厚さや脂肪の付き具合には個人差があり、これらの個人差は手術の難易度にも影響するが、弾性膜モデルFの厚さや脂肪モデルGの大きさが可変なので、厚さの異なる周辺組織を表現でき、多様なシナリオでのより実践的な手術訓練が可能となる。
【0037】
[3.3 モデル間の接続]
脈管モデルA2を剛体と考え、弾性膜を収縮する計算を行っても良いが、よりリアリティが高いモデルを生成するために、弾性膜モデルFの変形計算と弾性膜モデルFに囲まれている脈管モデルA2,B1とを連成させて変形計算しても良い.このためには、弾性膜付脈管モデルNにおける弾性膜モデルFと脈管モデルA2、B1とを接続する処理を行う(ステップS60)。弾性膜モデルFと脈管モデルA2,B1とを接続する方法には、例えば、下記の方法1〜3がある。なお、これらの手法は、手術シミュレーションの際の臓器モデルの変形計算手法としても利用可能である。
【0038】
[3.3.1 バネによる接続]
方法1は、
図10(b)に示すように、脈管モデルA2,B1と収縮した弾性膜モデルFとを接続バネf4で接続する方法である(ステップS61)。
この方法では、接続部3fは、
図10(a)に示すように、収縮した弾性膜モデルFの最内周L3の各節点f1から内方へ向かって仮想線Hを延ばし、胆嚢管及び胆嚢動脈のモデルA2,B1の表面とこの仮想線Hとの交点に脈管モデルA2,B1の境界節点f11を設定する。接続部3fは、仮想線Hを、弾性膜モデルFの最内周L3の節点f1とこの節点f1の膜の厚さ方向外方にある節点f1とを結ぶ径方向バネf3に沿う方向(膜の厚さ方向)に延びるよう設定する処理を行う。なお、接続部3fは、仮想線Hを弾性膜モデルFの最内周L3から法線方向に延びるよう設定してもよい。そして、
図10(b)に示すように、接続部3fは、弾性膜モデルFの最内周L3の節点f1と、この節点f1から延びる仮想線H上にある脈管モデルA2,B1の境界節点f11との間に接続バネf4を配設する処理を行う。接続部3fは、弾性膜モデルFの最内周L3の全ての節点f1について上記の処理を行う。以上の処理によって、弾性膜モデルFと脈管モデルA2,B1とが接続される。この計算結果は、画像表示部9に表示され、記憶部5に記憶される。
【0039】
方法1の場合、胆嚢管や胆嚢動脈などの脈管モデルA2,B1は、四面体にメッシングされて前記境界節点f11を節点として含む有限要素モデルとされる。
また、手術シミュレーションでは、前記各境界節点f11を介して、弾性膜モデルFと、脈管A2,B1の有限要素モデルとを接続・連立させ、各々の変形を求める連成計算が繰り返し行われる。
この方法によれば、弾性膜モデルFのバネf2,f3が所定の張力又は伸びにより切断される設定とすることで、胆嚢管及び胆嚢動脈の周辺組織を切除する手術シーンを簡単に表現できる。
【0040】
以下の方法2及び3では弾性膜付脈管モデルNの一部又は全部の埋め込み変形モデルを生成するが、埋め込み変形モデルの詳細については非特許文献2及び3を参照されたい。
[3.3.2 埋め込み変形モデル(1)]
方法2は、
図11に示すように、弾性膜付脈管モデルNの内側部分Kの埋め込み変形モデルIを生成し、弾性膜モデルFの最内周L3の節点f1を境界節点f11として弾性膜モデルFと埋め込み変形モデルIとを互いに接続する方法である(ステップS62)。この方法では、接続部3fは、粗い四面体要素(有限要素)i1を、弾性膜モデルFの内方部分、すなわち、弾性膜モデルFの最内周面L3で囲まれる部分Kを包含するように配置する処理を行う。また、この粗い四面体要素i1に弾性膜モデルFによって囲まれる胆嚢管、胆嚢動脈、及びこれらの近傍のリンパ管や脂肪の幾何学的特性及び材料特性を埋め込んで、四面体要素i1の変形と四面体要素i1の内部の脈管等の変形との関係式を与えておく。
【0041】
この方法の場合、手術シミュレーションでは、前記弾性膜モデルFの最内周L3の節点f1を介して、弾性膜モデルFと、埋め込み変形モデルIとを接続・連立させ、各々の変形を求める連成計算が繰り返し行われる。ここで、弾性膜付脈管モデルNの内側部分Kの脈管A2,B1等の変形は、埋め込み変形モデルIの粗い四面体要素i1の変形に基づき内挿法により求められる。
【0042】
方法2によれば、方法1と同様、弾性膜モデルFのバネf2,f3が所定の張力又は伸びにより切断する設定とすることで、胆嚢管及び胆嚢動脈の周辺組織を切除する手術シーンを簡単に表現できる。
また、脈管等の精密な幾何学的特性を維持したまま、手術シミュレーションを効率良く行うことができる。
また、方法1のように、脈管について、境界節点を節点として含む有限要素モデルをメッシングする必要がないので、異型臓器のモデリング作業を簡略化できる。
【0043】
[3.3.3 埋め込み変形モデル(2)]
方法3は、
図12に示すように、弾性膜付脈管モデルN全体を埋め込み変形モデルJとする方法である(ステップS63)。
この方法では、接続部3fは、粗い四面体要素(有限要素)j1を弾性膜モデルF及び弾性膜モデルFの内方全部を包含するように配置する処理を行う。また、この粗い四面体要素j1に、胆嚢管や胆嚢動脈などの脈管、弾性膜モデルKによって表現されていた脂肪、リンパ管、漿膜等、及び弾性膜モデルKの内方部分の脂肪やリンパ管等の幾何学的特性及び材料特性を埋め込んで、四面体要素の変形と四面体要素の内部の脈管等の変形との関係式を与えておく。上記関係式は、
図9に示される弾性膜付脈管モデルNから得られる境界情報、すなわち、周辺組織とその外方の空き領域との境界j2、胆嚢管と周辺組織との境界j3、及び胆嚢動脈と周辺組織との境界j4の情報を用いて与えられる。
【0044】
方法3の場合、埋め込み変形モデルJの粗い四面体要素j1に外力を与え、この粗い四面体要素j1の変形計算を行う。粗い四面体要素j1の変形に基づき、内挿法によりその内部の脈管等の変形を求める。
方法3によれば、シミュレーションしたい全ての領域(脈管及びその周辺組織)の変形計算を連成させることなく一度に行うことができる。
【0045】
以上に詳述した周辺組織付臓器モデル生成装置及び周辺組織付臓器モデル生成方法よれば、Calot三角の領域の異型臓器モデルのような2本以上の脈管及びこれらを囲む周辺組織からなる手術シミュレーションのためのモデルを自動的に生成することができる。また、多種多様な異型の組み合わせを想定したシナリオでの訓練の実施が可能な、実戦的な手術シミュレータを実現できる。
【0046】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
また、本発明の周辺組織付臓器モデル生成装置は、以下の構成を有するものとして捉えることができる。つまり、周辺組織付臓器モデル生成装置は、モデル生成部が、収縮した弾性膜モデルの最内周の節点から内方へ向けて仮想線を延ばし、前記仮想線と臓器モデルの表面との交点に節点を設け、弾性膜モデルの最内周の節点と臓器モデルの表面節点との間にバネを配置する処理を行う接続部を備えているものとして捉えることができる。
【0047】
また、周辺組織付臓器モデル生成装置は、モデル生成部が、収縮した弾性膜モデルで囲まれる部分の埋め込み変形モデルを生成し、弾性膜モデルの最内周の節点を弾性膜モデルと埋め込み変形モデルとの境界節点に設定する処理を行う接続部を備えているものとして捉えることができる。