【解決手段】補強用鋼板を、柱10の剛結側の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板20A,20Bと前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板20Cとに分離し、更に、第1の補強用鋼板20A,20Bを上下方向に複数段配置するとともに、2枚の第1の補強用鋼板20B,20B間に検知体用凹部25sを設け、この検知体用凹部25s内に、大きな応力が作用した場合に非可逆的に変色して柱10の損傷を検知する検知体40を取付ける構成とした。
柱状構造物の外周に前記柱状構造物を取り囲むように補強用鋼板を配置するとともに、前記補強用鋼板と前記柱状構造物との間の空隙に硬化性充填材を充填して前記補強用鋼板と前記柱状構造物とを一体化することで、前記柱状構造物を補強する柱状構造物の補強構造であって、
前記補強用鋼板が、前記柱状構造物の剛結側の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板と、前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板とに分離され、
前記第1の補強用鋼板の前記第2の補強用鋼板側の側片には凹部が設けられ、
前記凹部には、前記柱状構造物の損傷状態を検知する検知体が配置されていることを特徴とする柱状構造物の補強構造。
柱状構造物の外周に前記柱状構造物を取り囲むように補強用鋼板を配置するとともに、前記補強用鋼板と前記柱状構造物との間の空隙に硬化性充填材を充填して前記補強用鋼板と前記柱状構造物とを一体化することで、前記柱状構造物を補強する柱状構造物の補強構造であって、
前記補強用鋼板が、前記柱状構造物の剛結側の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板と、前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板とに分離され、
前記第1の補強用鋼板が上下方向に複数段配置され、
少なくとも1枚の第1の補強用鋼板の他方の第1の補強用鋼板側の側片には凹部が設けられ、
前記凹部には、前記柱状構造物の損傷状態を検知する検知体が配置されていることを特徴とする柱状構造物の補強構造。
前記検知体が、圧縮応力または引張応力により非可逆的に変色するシート状の部材であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の柱状構造物の補強構造。
前記検知体が、圧縮応力により塑性変形して前記凹部からはみ出す、前記第1の補強用鋼板よりも硬度の低い材料から構成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の柱状構造物の補強構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の方法では、光ファイバーをコンクリート構造物の表面に歪みの殆どない状態で接着する必要があるため、補強工事に手間がかかるだけでなく、震災後に損傷が確認された場合には、修復のたびごとに歪みセンサを交換する必要があった。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、震災後の損傷の確認を容易に行うことができるとともに、設置及び交換が容易なセンサを備えた柱状構造物の補強構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、柱状構造物の外周に前記柱状構造物を取り囲むように補強用鋼板を配置するとともに、前記補強用鋼板と前記柱状構造物との間の空隙に硬化性充填材を充填して前記補強用鋼板と前記柱状構造物とを一体化することで、前記柱状構造物を補強する柱状構造物の補強構造であって、前記補強用鋼板が、前記柱状構造物の剛結側の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板と、前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板とに分離され、前記第1の補強用鋼板の前記第2の補強用鋼板側の側片には凹部が設けられ、前記凹部には、前記柱状構造物の損傷状態を検知する検知体が配置されていることを特徴とする。
これにより、補強用鋼板を取り除くことなく、前記柱状構造物の損傷状態を検知できるので、震災後の損傷の確認を容易に行うことができる。なお、検知体は地震時において損傷が集中する箇所に取付けられているので、柱状構造物の損傷状態を効果的に検知することができる。また、検知体を第1の補強用鋼板の側片に設けた凹部に取付ければよいので、検知体の設置及び交換が容易である。
また、前記第2の補強用鋼板の前記第1の補強用鋼板側の側片の前記凹部に対向する位置に、前記凹部の開口部と連通する開口部を有する第2の凹部を設けて、前記凹部と前記第2の凹部とにより構成される空間(第1の補強用鋼板と第2の補強用鋼板とに跨る切り抜き部)に前記検知体を配置しても、同様の効果を得ることができる。
【0007】
また、本願発明は、補強用鋼板が、前記柱状構造物の固定部の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板と、前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板とに分離され、前記第1の補強用鋼板が上下方向に複数段配置され、少なくとも1枚の第1の補強用鋼板の他方の第1の補強用鋼板側の側片には凹部が設けられ、前記凹部には、前記柱状構造物の損傷状態を検知する検知体が配置されていることを特徴とする。
このように、検知体を上下方向に隣接する第1の補強用鋼板同士の合わせ目に設けても、震災後の柱状構造物の損傷の確認を容易に行うことができるとともに、検知体を容易に設置もしくは交換できる。
また、上下方向に互いに隣接する第1の補強用鋼板の、他方の第1の補強用鋼板側の側片に、開口部同士が連通する凹部(上下に隣接する2枚の第1の補強用鋼板に跨る切り抜き部)をそれぞれ設けるとともに、前記連通する凹部により構成される空間に、前記検知体を配置しても、同様の効果を得ることができる。
【0008】
また前記検知体を、圧縮応力または引張応力により非可逆的に変色するシート状の部材としたので、柱状構造物に所定以上の応力が作用したことを容易に確認できる。
また、前記シート状の部材を2枚の透明板により両側から挟持すれば、シート状の部材の変色を更に容易に確認できる。
また、前記検知体を、圧縮応力により塑性変形して前記凹部からはみ出す、前記第1の補強用鋼板よりも硬度の低い材料から構成しても、柱状構造物に所定以上の圧縮応力が作用したことを容易に確認できる。
【0009】
また、前記第1の補強用鋼板の側辺うちの前記凹部が設けられている側の側面に、矩形状の段差部を少なくとも1個有する第1の凹凸部を設け、前記第1または第2の補強用鋼板の上下方向の側面のうち、前記凹部が設けられている側の側片に、前記第1の凹凸部に係合する第2の凹凸部が設ける構成として、上下の補強用鋼板同士を矩形状の段差部同士が係合させたので、地震による振動で補強用鋼板がせり上がって連結部が外れることを確実に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき説明する。
図1(a),(b)は、本発明の実施の形態に係る鋼板巻立て工法による構造物の補強構造を示す正面図と側面図であり、
図2(a),(b)は、
図1のA−A断面図とB−B断面図である。
各図において、10は耐震補強の対象物である断面形状が矩形の鉄筋コンクリート柱(以下、柱という)で、柱10は、
図1の上側と下側である上端側と下端側にて梁などの上部構造物及び下部構造物に剛結されている。また、20A,20Bは第1の補強用鋼板、20Cは第2の補強用鋼板、20Dは基部鋼板、20Eは頂部鋼板、30は補強用鋼板20A〜20Eと柱10との間の空隙に充填されるモルタル、40は柱10の損傷状態を検知する検知体である。以下、基部鋼板20Dが配置される側を下側、頂部鋼板20Eが配置される側を上側という。
折り曲げ前の第1の補強用鋼板20Aは、
図3(a)に示すように、1枚の鋼板20を加工して成る鋼板本体21と平板状の添接板22とを備える。鋼板本体21は、鋼板20の短手方向の一方の側辺21aに形成された突出片23と、他方の側辺21bに形成されて突出片23に係合する凹部24と、長手方向の一方の側辺21cに形成され、矩形状の段差部25aと平面視波型の凹凸部25bとを有する凹凸部(上部凹凸部25M)と、他方の側辺21dに形成された凹凸部(下部凹凸部25N)とを備える。下部凹凸部25Nは、上記凹凸部25Mと、鋼板本体21の幅方向の中心線に対して線対称に形成されている。また、上部凹凸部25Mと下部凹凸部25Nの凹凸の形状は、同一パターンが2回繰り返された形状となっている。パターンの1ピッチ分の長さは、鋼板本体21の長さから突出片23の長さを減算した値の1/2である。
平板状の添接板22は鋼板本体21の他方の側辺21b側の端部の裏面(折り曲げた時に内側となる側の面)に取付けられる。
折り曲げ後の第1の補強用鋼板20Aの両端部となる突出片23と平板状の添接板22には、それぞれ、座グリ23kとネジ穴22kが形成されている。ネジ穴22kは、第1の補強用鋼板20Aを折り曲げたときの座グリ23kに対応する箇所に形成されている。第1の補強用鋼板20A同士を周周りに連結する際には、突出片23を凹部24に係合させた後、固定ボルトをネジ穴22kに螺入する。固定ボルトの頭部は座グリ23kに固定される。
【0012】
折り曲げ前の第1の補強用鋼板20Bは、
図3(b)に示すように、突出片23を鋼板本体21の短手方向の他方の側辺21bに形成し、凹部24を一方の側辺21aに形成したもので、他は、折り曲げ前の第1の補強用鋼板20Aと同じ構成である。すなわち、折り曲げ前の第1の補強用鋼板20Bは、折り曲げ前の第1の補強用鋼板20Aを、鋼板本体21の長手方向の中心線に対して180°回転させたものである。
第1の補強用鋼板20A同士、あるいは、第1の補強用鋼板20B同士を柱10の周方向に沿って連結する場合には、コの字状に折り曲げた2枚の第1の補強用鋼板20A(または、2枚の第1の補強用鋼板20B)を、柱10を囲むように向い合せた後、突出片23を凹部24に挿入し、突出片23と平板状の添接板22とを固定ボルトにて連結・固定すればよい。
また、第1の補強用鋼板20A同士、第1の補強用鋼板20B同士、もしくは、第1の補強用鋼板20Aと第1の補強用鋼板20Bとを、柱10の上下方向に積み上げる場合には、補強用鋼板同士を1ピッチずらし、上部凹凸部25Mと下部凹凸部25Nとを噛み合わせるようにして積み上げればよい。
本例では、地震が起こった場合に損傷が発生しやすい柱10の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板20Bの波型の凹凸部25bに、後述する検知体40を収納するための凹部(以下、検知体用凹部という)25sを形成している。検知体用凹部25sは、波型の凹凸部25bの斜辺に垂直な辺を有する平面視長方形状を成し、第1の補強用鋼板20B同士を上下に積み上げた場合には、検知体用凹部25sが設けられた側の第1の補強用鋼板20Bには、検知体40を収納するための空間(孔部)が形成される。
【0013】
第2の補強用鋼板20Cは、鋼板20を予めコの字型に成型したもので、
図2(b)に示すように、第2の2枚の鋼板20を、柱10の外周に、互いの端部同士を突き合わせて配置した後、端部同士を高さ方向に溶接により接合する。
図1(a)及び
図2(b)の符号20Kは溶接部である。
第2の補強用鋼板20Cの上側側辺には、上側の第1の補強用鋼板20Bに形成された下部凹凸部25Nに係合する上部凹凸部25mが設けられている。また、下側側辺には、第1の補強用鋼板20Bに形成された上部凹凸部25Mに係合する下部凹凸部25nが設けられている。
基部鋼板20Dも頂部鋼板20Eも、鋼板20を予めコの字型に成型したもので、柱10の外周に、互いの端部同士を突き合わせて配置した後、固定ボルトにて連結される。具体的には、基部鋼板20D(または、頂部鋼板20E)の両端部にそれぞれボルト挿入口を設けるとともに、付き合わせ部分の裏面側に平板状の添接板28を配置し、この添接板28と基部鋼板20D(または、頂部鋼板20E)とを固定ボルトにて連結・固定する。
基部鋼板20Dの上側側辺には、第1の補強用鋼板20Aの下部凹凸部25Nに係合する係止凹凸部25pが形成され、頂部鋼板20Eの下側側片には、第1の補強用鋼板20Aの上部凹凸部25Mに係合する係止凹凸部25qが形成されている。
これら、第1の補強用鋼板20A,20B、基部鋼板20D、及び、頂部鋼板20Eが本発明の第1の補強用鋼板に相当する部材である。
【0014】
図4(a)に示すように、検知体40は、検知体本体41と支持体42とを備える。検知体本体41としては、圧縮応力により発色するシート状の部材が用いられる。上記シート状の部材としては、例えば、マイクロカプセルに収納された発色剤と顕色剤とをPETなどのフィルムで挟持したものを用いることができる。検知体本体41に圧縮応力が作用すると、発色剤と顕色剤とが混合されて発色する。すなわち、検知体本体41は圧縮応力が作用すると、非可逆的に変色する。本例では、検知体本体41のシート面が検知体用凹部25sの斜面に垂直な方向になるように、検知体40を検知体用凹部25s内に収納する。
支持体42は、検知体本体41をシート面の両側から挟持するもので、例えば、強化プラスチックのような透明板が好適に用いられる。
図4(b)に示すように、検知体本体41を支持体42で挟持することにより、上下に隣接する第1の補強用鋼板20B,20Bからの圧縮応力を、検知体本体41へ効果的に伝達することができる。このとき、検知体用凹部25sの上記斜辺に平行な面25pと、検知体用凹部25sに対向する第1の補強用鋼板20Bの斜辺となる面25qとに反射材を取付けておくことが好ましい。これにより、検知体本体41が変色したことを外部から容易に視認することができる。
なお、柱10の損傷状態を効率よく検知するためには、検知体40の長さlを、検知体用凹部25sの斜面に沿った長さ(凹部25sの幅)よりも若干小さくし、幅wを鋼板20の厚さ以上とし、厚さhを検知体用凹部25sの斜面に垂直な方向の長さ(凹部25sの奥行)にほぼ等しくすることが好ましい。
なお、
図4(c)に示すように、検知体用凹部25sの幅を隣接する斜面部まで広げ、波型の凹凸部25bの斜辺と同じ長さの検知体40を配置してもよい。この場合、検知体用凹部25sは厳密には凹部ではないが、この場合も、第1の補強用鋼板20B同士を上下に積み上げた場合には、検知体40を収納するための空間(孔部)が形成されるので、幅が隣接する斜面部まで広げた場合も、本発明の請求項1,2に記載の凹部に含まれる。
【0015】
本例では、以下の順序で、柱10に補強用鋼板20A〜20Eを取付ける。
まず、
図1に示すように、基部(最下段)に、2枚の基部鋼板20Dを、鉄筋コンクリート柱10の外周を囲むように水平に設置し、基部鋼板20D側からボルトを螺入して基部鋼板20D同士を連結・固定することで、基部鋼板20Dを柱10に巻き立てる。
次に、基部鋼板20Dの上側に2枚の第1の補強用鋼板20Aを積み上げて第1の補強用鋼板20A同士を連結・固定し、更にその上に第1の補強用鋼板20B,20Bを順に積み上げ、補強用鋼板同士を連結・固定することで、第1の補強用鋼板20A,20Bを柱10に巻き立てる。
第2の補強用鋼板20Cは、第1の補強用鋼板20Bの上側に積み上げられ、溶接により連結固定される。
第2の補強用鋼板20Cの上側には、第1の補強用鋼板20B、第1の補強用鋼板20B、第1の補強用鋼板20A、及び、頂部鋼板20Eが順に積み上げられる。
積み上げにおいては、各補強用鋼板の上側の凹凸部(25M,25m,25p)と下側の凹凸部(25N,25n,25q)との噛み合わせに隙間がないように積み上げる。
補強用鋼板20A〜20Eの積み上げ後には、検知体40を、検知体用凹部25sに挿入し接着剤等により検知体用凹部25s内に固定する。
最後に、柱10と補強用鋼板20A〜20Eとの隙間に硬化性充填材であるモルタル30を充填して柱10と補強用鋼板20A〜20Eとを一体化し、柱10を補強する。
なお、積み上げ時には、スペーサボルトなどを張り出して、柱10と補強用鋼板20A〜20Eとの離隔距離を確保しておくことが好ましい。これにより、モルタル30を均一にかつ確実に柱10と補強用鋼板との間に注入できる。
【0016】
図1に示すように、柱10の下端から、下側に巻き立てる第1の補強用鋼板20A,20Bのうちの最上端の第1の補強用鋼板20Bの上端部位置までの長さをL
1、第2の補強用鋼板20Cの幅(上下方向の長さ)をL
2、柱10の上端から、下側に巻き立てる第1の補強用鋼板20A,20Bのうちの最下端の第1の補強用鋼板20Bの下端部までの長さをL
3とすると、本例では、L
1及びL
3を、柱断面高さをDとしたとき、1D以上、2D以内としている。
すなわち、柱10の剛結側の1D〜2D区間には、係合または締結、もしくは、係合と締結とにより周周りに取り外し可能に連結される第1の補強用鋼板20A,20B、基部鋼板20D、及び、頂部鋼板20Eが配置され、上記区間以外の箇所には、溶接により周周りに一体化されている第2の補強用鋼板20Cが配置される。
【0017】
一般に、補強用鋼板が巻き立てられた柱の両端に地震などによる外力(水平荷重)が作用すると、
図5(a)に示すように、柱の両端部に大きな曲げモーメントが作用し、柱は曲げ変形する。曲げモーメントが更に大きくなると、
図5(b)に示すように、柱の両端から一定の長さの区間L
p(塑性ヒンジ長)は、一定の曲率で塑性変形する。区間L
pの中心位置は塑性ヒンジと呼ばれる。塑性ヒンジは、一般に、柱10の上側と下側の1D〜2D区間に形成される。
積み上げにおいては、上記のように、上側の補強用鋼板と下側の補強鋼板との噛み合わせに隙間がないように積み上げるが、実際には、補強用鋼板同士は密着しているわけではなく、補強用鋼板は、間には、1mm以下の小さな隙間がある。そのため、地震が起こった場合には、上下方向に積み上げられた補強用鋼板間の隙間が広がったり狭まったりする。その結果、
図4(b),(c)に示すように、検知体用凹部25s内に収納された検知体40の検知体本体41には、圧縮応力と引張応力とが交互に作用する。これらの応力の大きさは、柱10の1D〜2D区間において特に大きい。
本例では、柱10の1D〜2D区間に、柱10の損傷状態を検知するための検知体40を設けている。検知体40は、地震により、柱10に、クラックなどの損傷が生じるような大きな応力が作用すると変色するので、地震後に検知体40が変色しているか否かを調べることで、柱10が損傷しているか否かを容易に判定することができる。
また、本例では、基部鋼板20D、頂部鋼板20E、第1の補強用鋼板20A、及び、第1の補強用鋼板20Bは、周周りに取り外し可能に取り付けてあるので、検知体40が変色している場合には、取り外し可能に連結された補強用鋼板のうちの何れか1枚もしくは複数枚を取り外して、柱10の1D〜2D区間の損傷状態を調べればよい。
これにより、補強用鋼板を全て取り外すことなく、柱10全体の損傷の状態を推定することができる。
【0018】
このように、本実施の形態では、補強用鋼板を、柱10の剛結側の1D〜2D区間に配置される第1の補強用鋼板20A,20Bと前記区間以外の箇所に配置される第2の補強用鋼板20Cとに分離し、更に、第1の補強用鋼板20A,20を上下方向に複数段配置するとともに、一方の第1の補強用鋼板20Bの、他方の第1の補強用鋼板側の側面に検知体用凹部25sを設け、この検知体用凹部25s内に、大きな応力が作用した場合に非可逆的に変色する検知体本体41を備えた検知体40を取付けて、柱10の損傷を検知するようにしたので、補強用鋼板を取り除くことなく、柱10の損傷状態を検知することができる。また、検知体40は、検知体用凹部25sに取付けるだけでよいので、簡単な構成で、柱10の損傷状態を検知できる。また、柱10内にセンサを配置する場合に比較して、検知体40の設置及び交換が容易である。
【0019】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【0020】
例えば、前記実施形態においては、柱状構造物を、上側と下側とが上部構造物及び下部構造物に剛結されている柱10としたが、本発明はこれに限るものではなく、単柱式コンクリート橋脚のように、柱状構造物と上部構造物とが免振支承などの支承により連結されている場合には、橋脚に作用する曲げモーメントは橋桁で最も小さく、剛結側である橋脚の下側で最も大きくなる。したがって、補強用鋼板を橋脚の下側の1D〜2D区間に配置される補強用鋼板とその他の区間に配置される補強用鋼板とから構成し、下側の1D〜2D区間に配置される補強用鋼板の上側の側面に検知体40を取付ける構成とすればよい。
また、前記実施形態では、柱10の1D〜2D区間に配置した周周りに取り外し可能に連結された補強用鋼板(第1の補強用鋼板20A,20B、基部鋼板20D、及び、頂部鋼板20E)を上,下4枚ずつとし、2枚の第1の補強用鋼板20B,20B間に検知体40を取付けたが、基部鋼板20Dと第1の補強用鋼板20Bとの間、頂部鋼板20Eと第1の補強用鋼板20Bとの間、あるいは、第1の補強用鋼板20Bと第2の補強鋼板20Cとの間に検知体40を取付けてもよい。また、周周りに取り外し可能に連結される補強用鋼板を上,下2枚ずつあるいは1枚ずつとしてもよい。あるいは、上,下にそれぞれ4枚以上配置してもよい。また、検知体40を周周りに複数設けてもよいし、上下方向に複数設けてもよい。
また、全ての補強鋼板を第2の補強用鋼板20Cとしてもよい。要は、柱10の剛結側の1D〜2D区間において、補強用鋼板を上下方向に分離し、この分離した箇所に検知体40を取付ける構成であればよい。
【0021】
また、前記実施形態では、周周りに取り外し可能に連結される補強用鋼板として、第1の補強用鋼板20A,20B、基部鋼板20D、及び、頂部鋼板20Eを用いたが、これに限るものではなく、
図6(a),(b)に示すような、継ぎ手51を備えた補強用鋼板50を用いてもよい。具体的には、柱10の1D〜2D区間に配置された補強用鋼板を50A、それ以外の区間に配置された補強用鋼板を50Bとしたとき、柱10の1D〜2D区間に配置された補強用鋼板50Aのいずれかに、検知体用凹部50sを設け、この検知体用凹部50sに検知体40を配置すればよい。
また、本発明は、補強用鋼板が全て溶接で連結され、取り外し可能でない場合も含むが、柱10の損傷状態を容易に調べるためには、柱10の1D〜2D区間に配置される補強用鋼板を取り外し可能とすることが好ましい。
また、各補強用鋼板の上下方向の側片に設けた凹凸部25M,25Nは必須の構成要素ではない。すなわち、
図6(a)に示すように、補強用鋼板の上下方向の側辺が直線上であっても、側辺に検知体用凹部50sを形成して検知体40を収納する構成とすれば、地震時には検知体40に圧縮応力が作用するので、柱10の損傷状態を検知できる。
【0022】
また、前記実施形態では、補強鋼板の一方の側片に検知用凹部25sを設けたが、
図7(a)に示すように、上下方向に互いに隣接する第1の補強用鋼板20B,20Bの両方に検知用凹部25s1,25s2を設け、検知用凹部25s1,25s2で囲まれる空間に検知体40を配置する構成としてもよい。なお、検知用凹部25s1と検知用凹部25s2とは、互いに対向し、かつ、開口部同士が連通する(一致すればなお良い)ように形成することはいうまでもない。
また、
図7(b)に示すように、柱10の1D〜2D区間に配置された補強用鋼板を50Aの補強用鋼板を50B側と、補強用鋼板50Bの補強用鋼板を50A側とにそれぞれ、開口部同士が連通する検知用凹部50s1,50s2を設け、これら検知用凹部50s1,50sで囲まれる空間に検知体40を配置する構成としてもよい。
【0023】
また、前記実施形態では、検知体本体41として、圧縮応力により発色するシート状の検知体本体41を支持体42で挟持した形態のものを用いたが、地震の際には、検知体40には、圧縮応力と引張応力とが交互に作用するので、検知体本体41として、引張応力により色が変化するシート状の部材を用いてもよい。
また、検知体40として、大きな荷重が加わると、塑性変形して検知体用凹部25sからはみ出すような材料を検知体用凹部25s内に埋設したものでもよい。このような材料としては、鉛のような、補強用鋼板よりも硬度の低い(柔らかい)材料が好適に用いられる。これにより、地震後に検知体用凹部25sを観察すれば、検知体40に大きな圧縮応力が作用したか否かを検知できる。
【0024】
10 鉄筋コンクリート柱、20 鋼板、20A,20B 第1の補強用鋼板、
20C 第2の補強用鋼板、20D 基部鋼板、20E 頂部鋼板、20K 溶接部、
21 鋼板本体、22,28 添接板、22k ネジ穴、23 突出片、
23k 座グリ、24 凹部、25M 上部凹凸部、25N 下部凹凸部、
25a 矩形状の段差部、25b 波型の凹凸部、25s 検知体用凹部、
30 モルタル、40 検知体、41 検知体本体、42 支持体。